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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1249325
審判番号 不服2008-29779  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-21 
確定日 2011-12-27 
事件の表示 特願2002-520811「経皮治療系」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月28日国際公開、WO02/15890、平成16年 3月 4日国内公表、特表2004-506682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年 8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年 8月24日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成20年 8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月21日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.平成20年12月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前(平成20年 7月28日付け手続補正書参照)の
「連続ドパミン作用性治療下の日周期リズムを回復し維持するための経皮治療系(TTS)のセットであって、多数のTTSエレメントを含み、前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されており、前記経皮治療系(TTS)は、有効成分を有している少なくとも1つのマトリックス及び/または有効成分リザーバを含有する医薬層と、有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアーと、式I
:
【化1】

〔式中、点線と実線とから成る二重線は単結合または二重結合を表し、R1はH原子またはハロゲン原子を表し、R2はC1-C4アルキルを表す〕のエルゴリン誘導体または酸とのその生理的適合性塩を含む前記セット。」
から、
補正後の
「連続ドパミン作用性治療下のパーキンソン病患者の日周期リズムを回復し維持するための2つの経皮治療系(TTS)のセットであって、前記TTSの各々は、有効成分を有している少なくとも1つのマトリックス及び/または有効成分リザーバを含有する医薬層と、有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアーと、式I:
【化1】

〔式中、点線と実線とから成る二重線は単結合または二重結合を表し、R1はH原子またはハロゲン原子を表し、R2はC1-C4アルキルを表す〕のエルゴリン誘導体または酸とのその生理的適合性塩を含み、かつ、
前記2つのTTSは、
第一のパッチを患者へ貼付するステップ;および
除去と再貼付とを同時に行う交換、重複させた交換、または間隔をあけた交換によって、第二のパッチを患者へ貼付するステップ
を含む方法によって投与される前記セット。」
へ補正された。

そこで、本件補正前後の発明特定事項を対比すると、
本件補正は、実質的に、本件補正前の請求項1において、
1)「連続ドパミン作用性治療下の日周期リズム」を「連続ドパミン作用性治療下のパーキンソン病患者の日周期リズム」に補正し、
2)「経皮治療系(TTS)のセットであって、多数のTTSエレメントを含み」を「2つの経皮治療系(TTS)のセット」に補正し、
3)「前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されており」を削除し、
4)「前記2つのTTSは、第一のパッチを患者へ貼付するステップ;および除去と再貼付とを同時に行う交換、重複させた交換、または間隔をあけた交換によって、第二のパッチを患者へ貼付するステップを含む方法によって投与される」を追加する、
ものであるということができる。

(2)本件補正の適否
本件補正は、特許法第121条第1項の拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にされたもので、特許法第17条の2第1項第4号にいう補正に該当し、そのような補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」ともいう。)第17条の2第4項各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものに限られている。
そこで検討するに、まず、1)及び2)の補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「連続ドパミン作用性治療下の日周期リズム」及び「経皮治療系(TTS)のセットであって、多数のTTSエレメントを含み」を、それぞれ、「連続ドパミン作用性治療下のパーキンソン病患者の日周期リズム」及び「2つの経皮治療系(TTS)のセット」に限定するものということができるものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、1)及び2)の補正の点では、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
一方、3)の補正は、「前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されており」という事項を削除するものであるから、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項のいずれをも限定する補正であるということができず、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるとすることができない。また、3)の補正は、誤記の訂正を目的とするものともいえないし、拒絶理由通知に係る拒絶の理由として指摘された明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるともいえない。かえって、3)の補正は、本件補正後の請求項1に記載した発明が、同じ薬量を放出するTTSのセットをも包含するものとなったので、この点において、特許請求の範囲を拡張するものといえる。
さらに、4)の補正は、TTSの投与態様を追加するものであるところ、本件補正前の請求項1に記載した発明にはTTSの投与態様に関する発明特定事項は存在していなかったから、4)の補正は、補正前の請求項1に記載した発明の発明特定事項を限定するものに該当しない。
してみると、本件補正は、3)及び4)の補正の点で、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものであるとすることができない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、平成20年 7月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「1.連続ドパミン作用性治療下の日周期リズムを回復し維持するための経皮治療系(TTS)のセットであって、多数のTTSエレメントを含み、前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されており、前記経皮治療系(TTS)は、有効成分を有している少なくとも1つのマトリックス及び/または有効成分リザーバを含有する医薬層と、有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアーと、式I
:
【化1】

〔式中、点線と実線とから成る二重線は単結合または二重結合を表し、R1はH原子またはハロゲン原子を表し、R2はC1-C4アルキルを表す〕のエルゴリン誘導体または酸とのその生理的適合性塩を含む前記セット。」


4.引用例
(4-1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平4-506958号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「1.皮膚の所望される場所を通して経皮的に個体にリスリドを投与するための積層組成物であって、
a)リスリドを実質的に透過しない支持層、
b)ポリマーキャリア中に溶解したリスリドを含む貯蔵層、
および
c)該貯蔵層または付加的な層の中に含まれる透過促進剤であって、リスリドに対する皮膚の透過性を高め、該組成物中のリスリドおよび促進剤の量が、治療学的に効果的な量のリスリドが1時間に皮膚1cm^(2)当り1μgを超える割合で該所望される皮膚の場所を通して持続する時間に渡って個体に投与され得るために十分である、透過促進剤
を含む、組成物。」(第1ページの請求の範囲)

(イ)「リスリドは・・・ドーパミンアゴニストであるとも報告されている。・・・米国特許第3681497号には、・・・リスリドを経口投与することが記載されている。米国特許第3954988号には、・・・リスリドを経口で、注射によって、または筋肉に貯蔵させて投与することが記載されている。米国特許第4592452号は、・・・経口または注射によって投与され得ると示している。」(第2ページ左上欄9?21行目)

(ウ)「リスリドはまた、パーキンソン病の患者のオン・オフモーター反応波動を小さくするために、注入ポンプを使用して皮下的に投与されている。・・・これらのパーキンソン病の患者については、毎時60μgを12時間一定に皮下注入し、平均の定常状態のプラズマレベルは・・・の範囲であった。」(第2ページ右上欄9?16行目)

(エ)「本発明は、リスリドの非侵入性持続性投与を、制御された割合で行うことを目指すもので、このことは貼付された積層組成物片から患者の皮膚へ経皮的にリスリドを運ぶことによって達成される。」(第2ページ右上欄22行目?同ページ左下欄1行目)

(オ)「図面はリスリド遊離基底(base)を経皮的に投与するための皮膚用の片の実施態様である。」(第2ページ左下欄16?17行目)

(カ)「図面は、パーキンソン患者のオン・オフモーター反応波動を小さくするためにリスリド遊離基底を経皮的にヒトに投与するための好ましい積層組成物を示す。この組成物は一般的に10で示され、支持層11、貯蔵層12、および剥離ライナー層13を含む。」(第3ページ右上欄1?5行目)

(キ)「

」(第5ページ左下欄)

(ク)「ここで使用される「リスリド療法」という用語は、リスリドを与えるまたは将来与える医学的状態を意味し、限定されるわけではないが、抗うつ剤として、およびパーキンソン病、片頭痛、アレルギー反応、じん麻疹、高血圧、子宮内膜炎、およびセロトニン過剰に伴うその他の状態を処置することを含む。」(第2ページ右下欄2?7行目)

(ケ)「積層組成物のプロトタイプの2つの型を、以下の方法により調製した。リスリド遊離基底の2パーセントを媒体(・・・)とともに混合し、そして10分間超音波処理した。次にシリコン接着剤(・・・)の適切な量を、混合物に加えた。得られた薬剤/媒体/シリコン混合物を、一晩回転させた。75ミクロン厚の薬剤貯蔵体層を、この混合物をポリエステル剥離ライナー(・・・)の上に8ミルのナイフで積層して形成した。ポリマーマトリックスを70℃のオーブンで20分間加熱してポリマー中の溶剤を除去し、プロトタイプの第一の型を生産した。プロトタイプ組成物の第二の型は、この薬剤ポリマーマトリックスを75ミクロン厚の中間ポリイソブチレン層で積層し、次にポリマーエラストマー(・・・)でポリイソブチレンをさらに積層して作成した。プロトタイプからのリスリド流量を、先に述べたように測定した。プロトタイプシステムを、ポリエステル剥離ライナーから剥し、角膜層に薬剤接着層を接するようにして表皮の上部に置いた。貯蔵層のボンド表面と角膜層との間の全面的接触を確実にするためにゆるやかな圧力をかけた。このプロトタイプを備える皮膚膜を、ドナーとレシーバー部分との間に注意深く乗せた。以下の表3にこれらの試験の結果をまとめた。

・・・これらのデータに基づくと、ヒトの死体の皮膚を通るリスリドの一定した搬送率が得られたことは明らかである。」(第4ページ右下欄7行目?第5ページ右上欄14行目)

(4-2)引用発明
引用例1の記載事項(エ)?(ク)からみて、引用例1の記載事項(ア)の積層組成物は、ドーパミンアゴニストであるリスリドを、パーキンソン病などの疾患に対し、持続的に投与するためのものである、とされているものということができる。
そうすると、引用例1の記載事項(ア)及び(エ)?(ク)からみて、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「皮膚の所望される場所を通して経皮的に個体に、ドーパミンアゴニストであるリスリドを、パーキンソン病などの治療のために、持続的に投与するための積層組成物であって、
a)リスリドを実質的に透過しない支持層、
b)ポリマーキャリア中に溶解したリスリドを含む貯蔵層、
および
c)該貯蔵層または付加的な層の中に含まれる透過促進剤であって、リスリドに対する皮膚の透過性を高め、該組成物中のリスリドおよび促進剤の量が、治療学的に効果的な量のリスリドが1時間に皮膚1cm^(2)当り1μgを超える割合で該所望される皮膚の場所を通して持続する時間に渡って個体に投与され得るために十分である、透過促進剤、を含む、組成物。」


5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明にいう、「ドーパミンアゴニストであるリスリドを、パーキンソン病などの治療のために、持続的に投与するための積層組成物」は、本願発明にいう、「連続ドパミン作用性治療・・・の・・・ための・・・経皮治療系(TTS)」に相当する事項であるといえる。また、引用発明にいう、「ポリマーキャリア中に溶解したリスリドを含む貯蔵層」は、本願発明にいう、「有効成分を有している少なくとも1つのマトリックス及び/または有効成分リザーバを含有する医薬層」に相当する事項であるといえる。さらに、本願発明にいう、「有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアー」は、本願明細書段落【0015】の「マトリックス及び/または拡散バリアーはそれらの主マトリックス成分として、“ポリアクリレート、ポリウレタン、セルロースエーテル、シリコーン、ポリビニル化合物、シリケート及びこれらの物質の混合物並びにこれらの重合化合物のコポリマー”から成るグループから選択された物質、好ましくは塩基性置換基を有している親水性ポリアクリレートを含み得る。」なる記載や、TTSの具体的な製造例である実施例2?4のいずれにおいても、ポリアクリレート接着剤などを使用して拡散バリアーと医薬層を単一の層として製造していること、からみて、必ずしも、医薬層と別異の層として形成されるものではなく、医薬層と一体の層であって、医薬層の皮膚側に位置し、有効成分を透過して皮膚に拡散させる部分を意味する場合をも含むものと解される。そうすると、引用発明にいう、「貯蔵層または付加的な層」は、本願発明にいう、「有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアー」に相当する事項であるといえる。そして、本願明細書段落【0013】に、「エルゴリン誘導体がリスリド・・・であるのが好ましい。」と記載されていることからみて、引用発明にいう、「リスリド」は、本願発明にいう、「式Iのエルゴリン誘導体」に相当するものであることは明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「連続ドパミン作用性治療のための経皮治療系(TTS)であって、前記TTSは、有効成分を有している少なくとも1つのマトリックス及び/または有効成分リザーバを含有する医薬層と、有効成分透過性で有効成分リザーバの皮膚側に設けられた拡散バリアーと、式Iのエルゴリン誘導体または酸とのその生理的適合性塩を含むもの。」
である点で一致し、ただ、以下の点(以下「相違点1」という。)で相違する。

・本願発明は、連続ドパミン作用性治療下の「日周期リズムを回復し維持する」という用途のためのものとされ、その用途のために、TTSが「多数のTTSエレメントを含み、前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されて」いるものであるのに対し、引用発明では、上記用途を備えたり、異なる薬量を放出する多数のTTSのセットであると、されていない点。


6.当審の判断
上記相違点1について検討する。
一般に、医薬による治療において、必要に応じて医薬の投与量を増減することは、当業者ならずとも古くから行ってきたことである。また、投与量を増減するにあたっての便宜を図るために、有効成分が同じでもその配合量が異なる複数の製剤を用意することも、当業者が古くから行ってきたことである。そして、必要に応じて投与量を増減することが所望されるという事情は、連続ドパミン作用性治療のための医薬についても例外ではないことは、明らかである。例えば、引用例1の記載事項(イ)及び(ウ)によれば、リスリドは、多くの場合、経口投与や注射などが行われる医薬であるが、パーキンソン病の患者のオン・オフモーター反応波動を小さくするために、12時間にわたり注入ポンプを使用して投与されるという技術も提案されているものであるし、同記載事項(エ)?(カ)によれば、引用発明のリスリドのTTSも、リスリドの非侵入性持続性投与を制御された割合で行うことを目指すもので、パーキンソン患者のオン・オフモーター反応波動を小さくするために好ましいものとされている。
そして、本願明細書の以下の記載
「上記のような設計のTTSは、パーキンソン病を含む種々の適応症に使用される。パーキンソン病を治療するときは可能な最大用量が望ましい。患者が高齢であり複数の病気を抱えている傾向があるパーキンソン病の併用療法にはコンプライアンスが極めて重要であるが、経皮治療系はコンプライアンスも改善する。(例えば、精神障害を予防するため及び睡眠の質を改善するために)コントロールを改善し(例えば夜間または中断期間にできるだけ一定の低刺激によって)日周期プロフィルを得ることは特に重要であるが、これに成功したことはない。・・・ 本発明の技術的な課題は、ドパミン作用性疾患治療のとき、特にパーキンソン病の患者を治療するときに、ドパミン治療下で生じる日周期障害を防止するために、個人毎に用量用法を調節しその実効期間をコントロールすることによって日周期リズムを回復し維持する薬剤を提供することである。」(段落【0005】?【0008】)
及び
「これらの特性の組合せによって医師は、2つの貼付薬の貼付スキーム(除去と再貼付とを同時に行う交換、時間的に重複させた交換、時間的に間隔をあけた交換)を選択することができるので、患者個人の状態及び必要に合わせて貼付を処方することができる。もっとよい場合には以下のように、TTS製剤の初期流速を変更することによってドパミン治療の日周期リズムをほぼ任意に得ることができる:
A.貼付薬の初期流速を貼付薬除去後の最終半減期に整合させるときに得られる連続的な刺激(tmax?t/2、比較的高い初期流速の新しいTTSを場合によっては短い時間間隔でまたは同時に貼付する)
B.最初の貼付薬がまだ皮膚に貼付されている間に第二の貼付薬を貼付するかまたは高い初期流速(tmax<<t/2)の貼付薬を使用するかまたは極めて低い初期除去速度を使用する(例えば、貼付面積が小さく有効成分の拡散が濃度勾配の下降に伴って増加するとき)ことによって得られる強化された刺激を有する相(例えば、治療を調整するときまたは患者の“オフ”相を埋めるため)
C.貼付薬の除去と新しい貼付薬の貼付との間に時間間隔を設けることによって、もっと簡単には、除去と同時に極めて低い初期流速(tmax>>t/2)の新しい貼付薬を使用することによって日中時間特異的副作用を減少させるようなドパミン刺激が低下した相。」
によれば、本願発明において、「日周期リズムを回復し維持する」こととは、連続ドパミン作用性治療のための医薬について、必要に応じて投与量を増減すること、例えば、治療を調整するときまたは患者のオフ相を埋めるために投与量を増やしたり、日中の副作用を減少させるよう投与量を減らすこと、にほかならないことであると認められるから、当業者においては、引用発明に基づいて、当然に考慮することであるといえる。
また、本願発明は、引用発明のTTSを使用して、必要に応じて投与量を増減するにあたり、TTSが「多数のTTSエレメントを含み、前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されて」いるセットとされているものであるが、上述のように、投与量を増減するにあたっての便宜を図るために、有効成分が同じでもその配合量が異なる複数の製剤を用意することは当業者が古くから行ってきたことであるし、引用例1の記載事項(ケ)によれば、引用発明のTTSについても、異なる薬量を放出するように構成されている複数のTTSが提供されているから、引用発明のTTSを「多数のTTSエレメントを含み、前記エレメントは異なる薬量を放出するように構成されて」いるセットとすることは、日周期リズムを回復し維持する、すなわち、投与量を増減するための手段として、引用発明から容易に想到し得たことである。
してみると、引用発明から本願発明に想到することに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。

また、本願明細書の記載を検討しても、本願発明が引用例1の記載から予測し得ない優れた効果を奏し得たものと認めるに足る根拠を見いだすことができない。そもそも、本願明細書には、本願発明のTTSのセットを用いた薬理試験とその結果が何ら記載されていないので、本願発明が所期の効果を実際に奏し得たということもできない。
ただ、効果の点に関し、審判請求人は、平成21年2月4日付け手続補正書により補正された審判請求書において、2つのTTSを貼付した場合と1つのTTSを貼付した場合とを比較する試験データを参考資料2として提示し、参考資料2の表7及び表8は、1つのリスリド含有TTSによる治療よりも、2つのリスリド含有TTSによる治療の方が、UPDRS(パーキンソン病統一スケール:パーキンソン病の重症度を表したもの)を顕著に減少させ得ることを示している旨主張する。
しかしながら、参考資料2の第1ページには、試験方法を説明したものと思われる以下の記載がある(参考資料2は英語で記載されているので、訳文で示す。)。
「新たに診断されたPD(パーキンソン病)患者が2週間のリスリドTTS治療を受けた。治療は、20cm^(2)サイズの1パッチを夜(約8時)に腹部に貼ることにより始まり、パッチを貼る部位は、1日おきに変えた。最初の治療中、様々な血液サンプルが採取され、プラズマが調製された。1パッチによる4-7回の治療(8-14日間)の後、投与量が2パッチに増やされ、再び1日おきに取り替えた。トータルの治療期間は、個人によって変わり、52から246日にわたった(テキストテーブル2)。2パッチによる、最小限の7回の治療(14日間)の後、2回目のPK分析が個々の患者の利用性に応じて実施された。再び、いくつかの血液サンプルが取られ、プラズマが調製され、凍結された。」
上記記載によれば、参考資料2の試験は、つまるところ、1パッチによる治療後、投与量を2倍にしたものとしか解し得ないものであり、そうであれば、1つのリスリド含有TTSによる治療よりも、2つのリスリド含有TTSによる治療の方が、UPDRS(パーキンソン病統一スケール:パーキンソン病の重症度を表したもの)を顕著に減少させたとしても当然のことである。そうすると、参考資料2の表7及び表8によっては、本願発明が引用例1の記載から予測し得ない優れた効果を奏し得たものとすることはできない。
さらに、審判請求人は、続けて、「これに加えて、経皮投与によって副作用が減じ得ることを示すべく、参考資料3を添付した。」とも述べているが、参考資料3は、プラセボに比較してリスリドがUPDRSを改善したデータなどを記載するにとどまり、本願発明が引用例1の記載から予測し得ない優れた効果を奏し得たものとする根拠を見いだすことはできないものである。
してみると、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-20 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-08 
出願番号 特願2002-520811(P2002-520811)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 内藤 伸一
平井 裕彰
発明の名称 経皮治療系  
復代理人 横井 大一郎  
代理人 金山 賢教  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 坪倉 道明  

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