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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62J
管理番号 1249595
審判番号 不服2011-424  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-07 
確定日 2012-01-05 
事件の表示 特願2008- 58194号「スクータ型車両のラジエター配設構造およびスクータ型車両」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日出願公開、特開2008-189308号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成10年4月27日に特許出願した特願平10-132690号(以下,「原出願」という。)の一部を平成20年3月7日に新たな特許出願としたものであって,平成22年10月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年1月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.原査定
原査定における拒絶の理由の一つは,以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開平09-011957号公報」

第3.平成23年1月7日付け手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月7日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
本件補正は,平成22年5月11日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので,請求項1については,補正前に
「車体フレームに水冷式のエンジンが配設され,該エンジンにラジエターが接続されたスクータ型車両のラジエター配設構造において,
前記車体フレームは,ヘッドパイプと,このヘッドパイプから斜め下方へ延びる左右パイプとを備え,
前輪の後方かつ前記左右パイプの前方に配置されるカバーにルーバ部が形成され,
前記ラジエターは,少なくとも一部が側面視で前記左右パイプの前方で,前記ルーバ部の後方に配置され,
前記ラジエターの後方には,上端部が当該ラジエターよりも上方に位置するラジエターガードが配置されたことを特徴とするスクータ型車両のラジエター配設構造。」
とあるのを

「車体フレームに水冷式のエンジンが配設され,該エンジンにラジエターが接続されたスクータ型車両のラジエター配設構造において,
前記車体フレームは,ヘッドパイプと,このヘッドパイプから斜め下方へ延びる左右パイプとを備え,
前輪の後方かつ前記左右パイプの前方に配置されるカバーにルーバ部が形成され,
前記ラジエターは,少なくとも一部が側面視で前記左右パイプの前方で,前記ルーバ部の後方に配置され,
前記ラジエターの後方には,上端部が当該ラジエターの上端部よりも上方に位置するラジエターガードが配置されたことを特徴とするスクータ型車両のラジエター配設構造。」
と補正するものである。

請求項1の補正は,ラジエターガードの上端部が「ラジエターの上方に位置する」のを「ラジエターの上端部よりも上方に位置する」との限定を付したものである。そして,請求項1の補正が,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでないことは明らかである。
したがって,少なくとも請求項1の補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平09-011957号公報(以下「引用例1」という。)には,スクータ型自動二輪車のラジエータ配置構造に関し,図面とともに次の事項が記載されている。
a)「【0016】図において,1は本実施例のスクータ型自動二輪車であり,これは車体フレーム2の略中央下部にスイング式動力ユニット3を枢支するとともに,上部にシート4を搭載し,車体の周囲を車体カバー1aで囲んだ概略構造のものである。」
b)「【0018】上記車体フレーム2は,以下の構造となっている。上記ヘッドパイプ5の中央部には車体後方に斜め下方に延びる1本のメインフレーム11が接続されている。該メインフレーム11の下端には左, 右一対のサイドフレーム12,12の前端が接続されており,該各サイドフレーム12は車体後方に斜め下方に延びた後,後方に略水平に直線状に延びている。
【0019】また上記へッドパイプ5のメインフレーム11より下部には左, 右一対のダウンチューブ13,13の前端が接続されている。この各ダウンチューブ13は車体後方に下方に延びる傾斜部(前側部)13aと,該傾斜部13aの下端から後方に略水平に直線状に延びる直線部(下側部)13bと,該直線部13bの後端から斜め上方に延びる屈曲部13cとから構成されている。」
c)「【0029】上記スイング式動力ユニット3はエンジン本体50にVベルトドライブ式無段変速装置51を一体的に接続したもので,該動力ユニット3の後端部に後輪52が軸支されている。」
d)「【0030】上記エンジン本体50はこれの気筒軸を前方に傾斜させた水冷式4サイクル単気筒エンジンであり,これはクランクケース55にシリンダブロック56,シリンダヘッド57を積層してボルトで締結し,上記シリンダブロック56のシリンダボア内にピストン58を摺動自在に挿入するとともに,該ピストン58をコンロッド59でクランク軸60のクランクピン61に連結した構造のものである。」
e)「【0041】上記車体フレーム2の前部にはラジエータ116が配設されている。このラジエータ116はコア部116aの左右側部にタンク部116bを配置するとともに後面に電動ファン117を配置した構造のものである。上記ラジエータ116は,上記左, 右のダウンチューブ13の傾斜部(縦辺部)13aの後側で,かつ後述するフートボード8のセンタトンネル8aの前部内に配置されており,またラジエータ116の各タンク部116bが車体正面視で上記傾斜部13aとラップするように配置されている。」
f)「【0044】上記エンジンユニット50の冷却水経路は以下の構造となっている。冷却水ポンプ80によりラジエータ116から吸引した冷却水は,シリンダブロック56の下面から該ブロック周壁に形成されたウオータジャケット(図示せず)に供給され,ここからシリンダヘッド57に形成されたウオータジャケットに供給される。このウオータジャケットを通った冷却水はシリンダヘッド57の冷却水排出口からサーモスタット80aを経てリターンホース121からラジエータ116のタンク部116bに戻され,コア部116aで冷却された後,再び冷却水ポンプ80で吸引される。」
g)「【0047】上記インナフェンダ126は,左右側壁126aと天壁126bとからなるトンネル状のもので,上記天壁126bの前縁は上記延長部125aの上側に位置し,後部はラジエータ116に向けて下方に湾曲形成されている。該天壁126bの下端にはアンダカバー9の上方延長部9dが続いており,該上方延長部9dには導入口9eが形成されている。これにより上記インナフェンダ126及び上方延長部9dは上記導入開口125から導入された走行風をラジエータ116のコア部116aに向けて案内する導風機能と,雨水,泥等がフロントカバー6内に侵入するのを防止する泥除け機能を果すようになっている。
【0048】また上記フロントカバー6の下方には前輪34の上方を覆う可動フェンダ34aが位置しており,上記走行風導入口9eは前輪34の後方に隠れている。」
h)「【0050】また,図20に示すように,上記アンダカバー9の底面9dのラジエータ116の後側部分には冷却風排出口9bが形成されている。また上排気口9bの後縁から導風壁9cが上記ラジエータ116の上部に向かって斜め上方に傾斜しつつ延びており,該導風壁9cは上記ラジエータ116からの冷却風を上記排出口9bに案内するように機能する。これによりラジエータ116に供給された走行風はアンダカバー9の底面9dと路面との間に生じる負圧によって吸引され,上記排出口9bから外方に放出される。」
i)図19を参照すると,アンダーカバー9の上方延長部9dが前輪34の後方かつ左,右のダウンチューブの前方に位置すること,ラジエータ116の下端部が,側面視で左,右のダウンチューブ13の前方で,走行風導入口9eの斜め後方に配置されていることが看取できる。
j)図20を参照すると,導風壁9cの上端部がラジエータ116の下端部よりも上方に位置していることが看取できる。

上記記載事項a?j及び図面の記載によれば,引用例1には以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「車体フレーム2に水冷式のエンジン本体50が配設され,該エンジン本体50にラジエータ116が接続されたスクータ型自動二輪車のラジエータ配置構造において,前記車体フレーム2は,ヘッドパイプ5と,このヘッドパイプから斜め下方へ延びる左,右のダウンチューブ13とを備え,前輪の後方かつ前記左,右のダウンチューブ13の前方に配置されるアンダーカバー9の上方延長部9dに走行風導入口9eが形成され,前記ラジエータ116は,下端部が側面視で前記左,右のダウンチューブ13の前方で,前記走行風導入口9eの後方に配置され,前記ラジエータ116の後方には,上端部が当該ラジエータ116の下端部よりも上方に位置する,導風壁9cが配置されたスクータ型自動二輪車のラジエータ配置構造。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「車体フレーム2」,「エンジン本体50」,「ラジエータ116」,「ヘッドパイプ5」,「左,右のダウンチューブ13」,「アンダーカバー9の上方延長部9d」,「走行風導入口9e」,「スクータ型自動二輪車のラジエータ配置構造」は,それぞれ本願補正発明の「車体フレーム」,「エンジン」,「ラジエター」,「ヘッドパイプ」,「左右パイプ」,「カバー」,「ルーバ部」,「スクータ型車両のラジエター配設構造」に相当する。
本願明細書の段落【0095】の「これにより,ルーバ部58bから導入された冷却風は,そのラジエター56を通過して熱交換された後,この温風がラジエターガード59に案内されて,下部カバー58の冷却風排出口58aから下方に排出されることとなる。」との記載によれば,ラジエターガードは冷却風を導風する機能を有するものである。
したがって,引用発明の「導風壁9c」は,本願補正発明の「ラジエターガード」と機能が共通するものであるので,引用発明の「導風壁9c」は,本願補正発明の「ラジエターガード」に相当する。

以上のことから,本願補正発明と引用発明は,本願補正発明の表記にしたがえば,
「車体フレームに水冷式のエンジンが配設され,該エンジンにラジエターが接続されたスクータ型車両のラジエター配設構造において,
前記車体フレームは,ヘッドパイプと,このヘッドパイプから斜め下方へ延びる左右パイプとを備え,
前輪の後方かつ前記左右パイプの前方に配置されるカバーにルーバ部が形成され,
前記ラジエターは,少なくとも一部が側面視で前記左右パイプの前方で,前記ルーバ部の後方に配置され,
前記ラジエターの後方には,ラジエターガードが配置されたスクータ型車両のラジエター配設構造。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明では,ラジエターガードの上端部がラジエターの上端部よりも上方に位置するのに対して,引用発明では,ラジエターガードの上端部は,ラジエターの下端部よりも上方に位置しているが,ラジエターの上端部より上方には位置していない。

上記相違点について検討する。
物体を冷却する場合に冷却性能を高めようとすることは自明の課題であり,冷却風を用いて物体を冷却するときに,排風を効率よく案内・排出することで冷却性能が高まることは技術常識である。
そして,引用発明において,ラジエターガードを上方に延長すればラジエターの排風をより効率よく案内・排出できることは明らかであるので,引用発明において,ラジエターの冷却性能を高めるために,ラジエターガードを上方に延長し,ラジエターガードの上端部がラジエターの上端部よりも上方に位置するように構成することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお,引用発明として認定はしていないが,引用例1によれば,具体的実施の形態において,引用例1の図14,15に示されているように,リターンホース121が,ラジエターの後方近傍において右側から左側に曲げられた後,シリンダヘッド57に向かって後方に延びていることから,ラジエターガードの上端部を上方に延長しようとすると,リターンホース121が邪魔になり,ラジエターガードを延長することが容易ではないとも考えられる。しかし,リターンホース121が邪魔になりラジエターガードを延長することが難しいのであれば,リターンホース121の形状や配置を変更したり,リターンホース121とラジエターとの間にラジエターガードを配置する等,適宜工夫してリターンホース121が邪魔にならないように構成することは当業者にとって当然なし得る設計事項である。また,引用例1によれば,具体的実施の形態において,ラジエターガードはアンダーカバー9の一部によって形成されていることから,車体の外面を構成する部品であるアンダーカバー9を車体の内部に配置される部品であるラジエターよりも上方まで延ばすことは,車両部品の取付性・組立性を悪化させることになるとも考えられる。しかし,ラジエターガードをアンダーカバー9の一部によって形成することにより車両部品の取付性・組立性が悪化するのであれば,ラジエターガードをアンダーカバーとは別部品として形成するなど,適宜工夫して車両部品の取付性・組立性が悪化しないように構成することは当業者にとって当然なし得る設計事項である。以上のことから,引用発明のラジエターガードをラジエターの上端部まで延長することにつき格別の阻害要因は存在しないといえる。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年5月11日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。「第3」の「1.本件補正の概要」参照。)。

第5.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,前記「第3」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。

第6.対比・判断
本願発明は,本願補正発明から,前記「第3」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。
してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第3」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-31 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-24 
出願番号 特願2008-58194(P2008-58194)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B62J)
P 1 8・ 121- Z (B62J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三宅 龍平  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 杉浦 貴之
川向 和実
発明の名称 スクータ型車両のラジエター配設構造およびスクータ型車両  
代理人 後藤 高志  

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