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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1249632
審判番号 不服2010-8624  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-22 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 平成10年特許願第518101号「印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月23日国際公開、WO98/16384、平成13年 2月20日国内公表、特表2001-502258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、1997年10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年10月12日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成10年6月11日付けで明細書及び請求の範囲の日本語による翻訳文が提出され、平成20年4月8日付けで手続補正がなされ、平成21年12月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年4月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成22年4月22日付け手続補正が平成22年12月6日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成23年6月7日に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は平成23年6月7日に意見書を提出している。

2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成23年6月7日の手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の多色オフセット印刷装置用駆動手段であって、
前記各処理ユニットまたは前記複数の処理ユニット中の1の処理ユニット内の1つまたは2つ以上の回転素子の個々に対する電動ロータリモータと、
予めプログラムされたマスタ基準に関して正確な色整合を与えるように各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動する制御手段と、を含み、
該制御手段は、
1つまたは2つ以上の電動ロータリモータの位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数で変化させることで、前記1つまたは2つ以上の電動ロータリモータのうちの他の電動ロータリモータの位相角度に対して変化させ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な色整合を維持する速度補正手段を更に含み、
装置の作動速度に基づく正しくない色整合を表すアルゴリズムが引き出され、該アルゴリズムは、装置全体の作動速度に相対する自動的補正のために前記制御手段にプログラムされる、
駆動手段。」(以下「本願発明」という。)

3 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、次の拒絶の理由を含むものである。
(1)本願発明は、当業者が引用例1ないし5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
------ 引用例一覧 ------
1.特開平4-6007号公報
2.特開平4-99627号公報
3.特開平5-64882号公報
4.特開平5-229103号公報
5.特開平8-238757号公報

(2)本願発明の各係数や各アルゴリズムが如何なるものであるのか当業者に理解できる程度に記載されておらず、本願発明の構成の技術上の意義を当業者が理解できる程度に記載されていないから、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
また、どのようにすれば本願発明のアルゴリズムを提供できるのか、どのようにすれば本願発明の各係数を提供できるのか、なぜ本願発明によれば「シャフトレス駆動によるすべての利点を提供するシャフトレス駆動を有し、作動速度全体において実質的な変化に亘って正確な同期性及び整合性を維持することができる」との目的を達成できるのか等について具体的に記載されていないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4 上記3(1)の拒絶の理由についての当審の判断
(1)刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-6007号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
ア 「(1)帯状フィルムを引き出して筒状フィルムを形成する手段と、被包装物を搬送するとともに該筒状フィルム内に順次供給する搬送手段と、該筒状フィルムの所定位置を横方向にシールカットあるいはカットする手段とを有する包装機において、該搬送手段を駆動する第1の駆動モータと該シールカットあるいはカットする手段を駆動する第2の駆動モータと、該帯状フィルムを引き出す第3の駆動モータとがそれぞれ独立して駆動され、かつ、第3の駆動モータの理想状態の駆動信号を安定的に発生する理想駆動信号発生手段を設定し、該第1?3の駆動モータが該理想駆動信号発生手段と同期するように制御駆動するようにしたことを特徴とする包装機における駆動制御方法。」(1頁左下欄5?18行)

イ 「(産業上の利用分野)
この発明は、包装機における駆動制御方法に関するもので、より具体的には包装機の各駆動系にそれぞれ独立に配設された駆動モータの駆動制御方法の改良に関する。」(1頁左下欄20行?同頁右下欄4行)

ウ 「(従来の技術)
従来、横ピロー包装機、その他により包装体を製造するには、ロール状に巻き取られた原反フィルムを連続した帯状フィルムとして引き出し、その途中で筒状フィルムに形成し、一方、その筒状フィルム内に被包装物を順次供給し、筒状フィルムの被包装物間毎を横方向にシールカットあるいはカットして包装体を製造している。そして、上記した帯状フィルムには所定間隔毎に意匠、模様などの印刷が施されている物がある。
このように構成された包装機にて包装作業を行うには、包装体の正規の位置に印刷部が配置されるようにするため等の要請から、被包装物の供給位置と、被包装物間毎を横方向にシールカットする位置及び、帯状フィルムを供給するタイミングのすべてが合致していることが要求される。
そして、従来は一つの駆動モータからの運動をカム、ギヤー等の伝達手段を用いてすべての駆動手段に伝達していたが、上記した種々の位置合わせを包装機の運転に先駆けて行うためには、その都度、各伝達手段を解除して仮設定した後伝達手段をつないで試運転し、設定位置で各駆動系の状態が合致するか否かを調べ、仮にその設定では位置が合致しない場合には、ふたたび伝達手段を解除して再設定するなどその取り扱いが煩雑であるため、最近では、各駆動系にそれぞれ独立の駆動用の駆動モータを配設したものが用いられている。すなわち、それぞれ独立しているため、他の駆動系の状態にかかわらず、単独で駆動、すなわち状態を変えることができるので、初期設定が容易になる。しかし、一度設定した後正常の包装作業を確実かつ円滑に行うためには、各駆動モータに何等かの制御を行い、各モータ同士を同期させながら運転させる必要がある。
そこで、本出願人は先に特開昭63-281911号に示す制御方法を提案した。すなわち、この先提案にかかる方法は、帯状フィルムを引き出すモータを基準として他の2つの駆動系を制御し、その基準となる帯状フィルムを一定速度で引き出させておいて、帯状フィルムのカットマークの間隔を検出して所定間隔(カットマークピッチ)と異なる場合に、搬送装置の速度(被包装物の搬送速度)とエンドシーラーの回転速度並びに噛合タイミングを増減速してすべてのモータが同期するようにしていた。」(1頁右下欄5行?2頁右上欄9行)

エ 「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、上記した従来の駆動制御方法では、以下に示す種々の問題を有する。
すなわち、たとえカットマークなどが初期入力値通り動いていたとしても同期の基準となるフィルム引き出しモータの回転が、例えばモータへの指令値に対する実際の動作のずれその他の要因によって不安定となることがあり、かかる場合には追従する各モータも不安定化されてしまう。すなわち、一つのモータの不安定な駆動が他のモータにも悪影響を与え、ひいては制御系全体がスムーズに駆動しなくなるおそれがある。
また、印刷ずれや引き出し時の引っ張り力の変化などにより実際のカットマーク間隔は、初期入力時のそれと異なり、しかも、逐次変化してばらつく。すると、各モータの同期の基準となるフィルム引き出しモータの速度も常に変化することになり、その結果、そのフィルム引き出しモータに追従する各モータの速度も同期補正のために常に速度変更命令が出されることになり、やはり不安定なシステムとなる。
さらには、近年では包装作業の完全自動化を図るために、一の被包装物に対する自動包装を行うのみならず、被包装物の製造や、製造された包装体に対する集積処理や2次包装処理などの一連の作業を一のシステムで自動処理を行いたいという要請が強くあるが、上記したごとく基準となるフィルム引き出しモータの回転速度が常に変化して不安定となると、その不安定さが下流側にいくにしたがって増大されてしまい、その増大された不安定さは制御不可能なほどにもなる。その結果、従来ではかかる一連の包装装置全体を一のシステムで制御できる駆動制御方法は提案されなかった。
この発明は、上記した背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、システムの不安定化を最小限に抑えることができ、さらに制御対象の多い一連の複数の包装装置に対しても制御可能な包装機における駆動制御方法を提供するにある。」(2頁右上欄10行?同頁右下欄8行)

オ 「(課題を解決するための手段)
上記した目的を達成するために、本発明に係る包装機における駆動制御方法では、帯状フィルムを引き出して筒状フィルムを形成する手段と、被包装物を搬送するとともに該筒状フィルム内に順次供給する搬送手段と、該筒状フィルムの所定位置を横方向にシールカットあるいはカットする手段とを有する包装機において、該搬送手段を駆動する第1の駆動モータと該シールカットあるいはカットする手段を駆動する第2の駆動モータと、該帯状フィルムを引き出す第3の駆動モータとがそれぞれ独立して駆動され、かつ、第3の駆動モ-タの理想状態の駆動信号を安定的に発生する理想駆動信号発生手段を設定し、該第1?3の駆動モータが該理想駆動信号発生手段と同期するように制御駆動するようにした。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄4行)

カ 「(作 用)
この理想駆動信号発生手段は、常に同一タイミングで駆動(信号発生)している。そして第1?3の駆動モータがこの理想駆動信号発生手段と同期するように制御される。すなわち、各駆動モータが不安定駆動したり、或いは外因が変化した場合にその外因の変化に応じて各駆動モータは制御されるが、同期制御は各駆動モータと理想駆動信号発生手段との間で行われ、各駆動モータ間では行われない。すなわち、制御基準が不変(不安定化しない)であるため、システム全体が安定化する。」(3頁左上欄5?16行)

キ 「第1図、第2図は本発明を実施するに適した自動包装装置を示している。同図に示すように、被包装物1を所定間隔毎に搬送する搬送手段2の進行方向前方にシール手段たるエンドシール装置5が配設されている。そして、搬送手段2の上方には帯状フィルム7を捲回した原反フィルム8が配設され、その帯状フィルム7は引き出しローラ9並びに複数のテンションローラ10を介して搬送手段2上に導かれ、搬送手段2の中央部に配置された製袋器11にて筒状に形成されて筒状フィルム7′となり、この筒状フィルム7′内に被包装物1が順次供給されるようになっている。そして、帯状フィルム7の側端縁部にはカット位置を示すカットマーク(図示せず)が所定間隔毎に印刷されている。
また、搬送手段2は、被包装物1のみを搬送する第1の搬送装置15と、その第1の搬送装置15の搬出側に近設配置され、筒状フィルム7′とともに被包装物1を搬送する第2の搬送装置16とから構成されている。そして、第1の搬送装置15は、一対のスプロケット17,17′に架設されたエンドレスチェーン18と、このエンドレスチェーン18の所定間隔毎に配設されたフィンガー19とから構成されている。さらに、一方のスプロケット17には他のスプロケットやチェーン等の動力伝達機構を介して第1の駆動モータ20が連繋されており、この第1の駆動モータ20によりエンドレスチェーン18すなわちフィンガー19が移動できるようになっている。また、第2の搬送装置16は、その搬入側近傍の下方に一対の回転ローラ25,25が当接しあう状態で配置されており、この回転ローラ25,25にて筒状フィルム7′の重合端部7′aをその両側から挟持しながら回転することにより筒状フィルム7′を前進移送できるようになっている。さらに、回転ローラ25,25のすなわち筒状フィルム7′の進行方向前方には筒状フィルム7′の重合端部7′aをシールするためのセンターシーラー28,28が配設されている。
また、エンドシール装置5は、上下一対のエンドシーラー30,30を備え、このエンドシーラー30,30はその回転軸31,31の端部に固着されたギヤー32,32が噛合するようになっており、これにより同期して回転できるようになっている。さらに、下方のエンドシーラー30の回転軸31には、動力伝達手段を介して第2の駆動モータ35が連繋されており、回転駆動できるようになっている。
さらに、帯状フィルム7を移動するための引き出しローラ9には動力伝達手段を介して第3の駆動モータ38が連繋されている。そして、この第3の駆動モータ38には、上記した回転ローラ25並びにセンターシーラー28が連繋されており、引き出しローラ9と同期して回転できるようになっている。
さらに本実施例では、エンドシーラー30,30の搬出側にはエンドシーラー30,30にて最終的に製造された包装体40を搬出する搬出コンベア45が配設されている。
ここで本発明では、上記した第1?第3の駆動モータ20,35,38が制御装置48に連繋されており、この制御装置48は、理想駆動信号発生手段たる理想駆動モータ50に連繋されている。そしてこの理想駆動モータ50は、初期入力されたカットマーク間隔などのデータに基づいて駆動すべき理想状態で回転し停止する(信号を発生する)仮想モータで、具体的には水晶発振器を用いている。そして、その発振周波数は、第3の駆動モータ38が理想状態で回転駆動している際にその第3の駆動モータ38に装備されたエンコーダから発せられるパルスの発振周波数(審決注:「発信周波数」は「発振周波数」の明らかな誤記であるので訂正して摘記した。)に一致させている。すなわち、実際のカットマーク間隔などが、初期入力されたそれと同一の場合は、水晶発振器から発せられるパルスと第3の駆動モータ38が装備するエンコーダ(後述)から発せられるパルスとが同一タイミングとなるように設定される。そして、この理想駆動モータ50から発せられる信号(パルス)が制御装置48を介して各駆動モータ20,35,38へ伝えられ、フィードフォワード制御によってその理想駆動モータ50に同期するように各駆動モータ20,35,38が制御駆動され、具体的には、第3の駆動モータ38は、理想駆動モータ50からの信号と同一タイミングで、また、第1,第2の駆動モータ20,35は、第3の駆動モータ38が理想駆動モータ50通りに回転駆動していると想定して理想駆動モータ50の信号に応じて速度制御される。
そして、上記理想駆動モータ50は、一度包装作業が開始すると、その包装機を停止するまでの間は、たとえ実際のカットマーク間隔などが設定値と異なっていたとしても発生されるパルス信号は変化すること無く理想状態のまま発生されるようになっている。
一方、第1の搬送装置15の第1の駆動モータ20には、第1のエンコーダ51が同軸上に取りつけられている。そして、その第1のエンコーダ51に近接して第1の位置検出装置52が配設され、これにより第1の駆動モータ20の回転数並びに回転角度を検出できるようになっている。また、この第1の搬送装置15の搬出端近傍には、最前端に位置するフィンガー19が所定位置(基準位置)に来たのを検出できるフィンガー検出装置53が配設されている。このフィンガー検出装置53は、具体的には、スプロケット17の同軸状に取り付けられ、外周縁の一箇所に突片を有する回転板53aと、その回転板35aの突片を検出可能なセンサー53bとからなり、フィンガ19が1ピツチ移動すると、回転板53aが一回転するように調整されており、最前端のフィンガー19が所定位置にきたときにセンサー53bにて前記突片を検出できるようになっている。そして、その突片を検出した後、上記第1のエンコーダ51並びに第1の位置検出装置52を介して第1の駆動モータ20が何回回転し、また、現在の回転角度を検出することにより、フィンガー19の位置が検出される。
また、同様に第2の駆動モータ35にも第2のエンコーダ54並びに第2の位置検出装置55が配設されており、第2の駆動モータ35の回転角度を検出できるようになっている。また下側のエンドシーラー30の回転軸31には、回転板56aが装着されると共に、その回転板56aに近接して回転板56aに形成した突片を検出可能なセンサー56bが設けられ、原点位置発生手段56を構成している。そして、この原点位置発生手段56は、両エンドシーラー30,30が180度開いた状態の時にセンサー56aが突片を検出するようになっている。したがって、このセンサー56bが突片を検出した後、上記第2のエンコーダー54ならびに第2の位置検出装置55を介して第2の駆動モータ35が何回回転し現在の回転角度を検出することにより、エンドシーラー30の回転角度位置を検出するようになっている。
さらに、同様に第3の駆動モータ38には、第3のエンコーダ57並びに第3の位置検出装置58が配設されており、さらにまた、引き出しローラ9の側周面の片側端部に近接して帯状フィルム7の側端縁部に施されたカットマークを検出するためのマーク検出装置60が配設されている。そして、上記第3のエンコーダ57並びに第3の位置検出装置58にて、マーク検出装置60にてカットマークを検出したとき(基準位置)からの引出しローラ9の回転角度等が検出できるようになっている。
そして、上記した第1?第3の位置検出装置52,55,58,並びに両検出装置53,60さらには原点位置信号発生手段56からの情報が制御装置48(理想駆動モータ50)に入力され、その入力されたデータに基づいてそれぞれの駆動モータ20,35,38が制御されるのである。ここで特筆すべきは、本発明では、各駆動系から得られた情報はその駆動系の駆動モータの制御にのみ用いられる点である。すなわち、たとえばフィンガー検出装置53から得られた情報(実際のフィンガーピッチが設定値と異なるなど)からは、第1の駆動モータ20の速度を増減させるにとどまり、他のモータの速度制御には同等影響を与えない。また、マーク検出装置60から得られたカットマーク間隔がばらついたことによる速度制御は第3の駆動モータ38の制御のみになっている。
このようにすることにより、たとえ各駆動モータの回転が不安定となっても、そのモータが自分で安定回転するように制御されるだけで、係る不安定が他のモーターに悪影響を与えることを防げる。」(3頁左上欄20行?5頁右上欄5行)

ク 「次に上記した装置に基づいて本発明に係る制御方法について説明すると、まず、装置の電源をいれ、フィンガーピッチ、エンドシーラーのシール幅並びに半径等の固定データ並びに被包装物1の寸法、高さ、フィルムのカット寸法等の可変データを入力する。そして、データの入力が終わると次に第3図に示すフローにしたがって初期設定を行う。
すなわち先ず、第2,第3の駆動モータ35,38を駆動させ帯状フィルム7などを引き出してカットマークがあるか否かを判断し、マークがある場合には実際のカットマーク間隔(作動後最初のもの)を計測する。そして、計測されたカットマーク間隔を初期入力されたデータと比較し、許容範囲内かどうかを判断する。そして、範囲外の場合には、初期設定の入力ミスや装着したフィルムの種類が間違っているおそれがあるため、異常としてモータを停止する。
一方、範囲内の場合は実際の計測値をカットマーク間隔として書替え記憶し、その書替えられたデータに基づいて各装置の初期位置を計算すると共に、第1の駆動モータ20もスタートさせて上記計算結果に基づいて各装置の初期位置合わせを行う。
この初期位置合わせは、基本的には第1の搬送装置15のフィンガー19,エンドシーラー30並びに帯状フィルム7に施されたカットマークの位置を基準位置に移動させる作業と、基準位置に移動させた後入力したデータに基づいてフィンガー19、エンドシーラー30並びに帯状フィルム7を相互に合致する最適な位置に移動させる作業からなり、具体的には、以下の動作からなっている。まず、フィンガー19がフィンガー検出装置53に検出されるまで、すなわち、製袋器11の入力端部と略同一位置に移動するまで前進した後停止する。一方エンドシール装置5では、上方のエンドシーラー30は上方を、下方のエンドシーラー30は下方をそれぞれ向くような位置、すなわち、筒状フィルム7′をシールカットする時に対向しあう位置を基準としてそれぞれ180度回転した位置に来るまで回転する。このエンドシーラー30,30の状態は原点位置発生手段56により検出制御される。次に、帯状フィルム7のカットマークが引き出しローラ9に近接配置されたマーク検出装置60の位置になるように帯状フィルム7がセットされる。すなわち、マーク検出装置60がカットマークを検出するまで第3の駆動モータ38が作動して引き出しローラ9を回転させ、検出後停止させるのである。これにより基準位置に移動させる作業が終了する。
次に、検出装置60の位置からエンドシーラー30,30までの距離は一定であるので、可変データとして入力されたカット寸法に基づいてエンドシーラー30が初期状態にあるときにエンドシーラー30とマーク検出装置60との間にカットマークがいくつあって、最後のカットマークからマーク検出装置60までの距離がいくらあるかを算出する。そして、その算出結果にあうように第3の位置検出装置58で引き出しローラ9の回転数並びに回転角度を制御しつつ第3の駆動モータ38を運転して帯状フィルム7を算出結果の位置まで前進移送する。また、同様に第1の搬送装置15のフィンガー19の位置も基準位置から前後にどれだけ移動すればいいかを算出し、その結果に従って第1の位置検出装置52等により制御しつつ第1の駆動モータ20を運転してフィンガー19を適正な位置に移動する。これにより初期設定が終了する。
この初期設定が終了すると、次に正式な包装作業を行うべく各駆動モータ20,35,38が、理想駆動モータ50と同期を取るべく回転駆動する。そして本実施例の基本動作は、基本的には帯状フィルム7を一定速度で引き出し、その引き出し速度に応じて(実際には一定速度で駆動する理想駆動モータ50の信号に応じて)第1の搬送装置15やエンドシール装置5を駆動しており、具体的には第1の搬送装置15の回転速度は、帯状フィルム7が1のカットマーク間隔分だけ移動する間にフィンガー19も1ピッチ分移動するようになっている。また、エンドシール装置5は、少なくとも、エンドシーラー30,30同士が噛合する際はフィルムの移動速度と略同一になるようにしている。
すなわち、カットマーク間隔などが設定値通りの場合には、カットマークを検出するごとの1サイクル中、帯状フィルム7と第1の搬送装置15(フィンガー19)とはそれぞれ所望の速度て略一定に移動され、エンドシール装置5(エンドシーラー30)は、所定のタイミングで変速するようになっている。
次に、実際の包装作業時の作用に付いて説明する。まず、カットマーク間隔やフィンガーピッチなどが初期設定通りだとすると、理想駆動モータ50と第3の駆動モータ38とは1:1対応であるため、理想駆動モータ50から発せられるパルスと、第3の駆動モータ38に装着された第3のエンコーダ57と第3の位置検出装置58とから検出されるのパルスとが一致するようにフィードフォワード制御によって駆動制御される。そして、本例では、より制御を精密に行うと共に、一回に行う補正量を小さくするため、両パルスの比較をカットマークを検出する1サイクルごとではなく、一定のタイミング(2.5ms)で細かく行っている。すなわち、第4図に示すタイミングチャートのように、t0からtlまでの間(2.5ms)に理想駆動モータ50から発生されたパルス数n1(5個)を検出し、制御装置48を介して第3の駆動モータ38に対して次ぎのt2までの間にそのパルス数nと同一数(5個)のパルスが発生するように制御命令を発する。そして、t2のときには、第3のエンコーダ57と第3の位置検出装置58とから検出される第3の駆動モータ38のパルス数m1(5個)を上記パルス数n1と比較する(実際には両者の差を取る)とともに、上記と同様に理想駆動モータ50から発せられたパルス数n2(5個)を検出し、このパルス数n2に上記の差(n1-m1)を加えたパルス数を第3の駆動モータ38がt3までに発生するように制御する。このようにすることにより、例えば図示するように第3の駆動モータ38の実際の速度が理想駆動モータ50に比して遅れた場合には(t2?t3)、次ぎに比較するまでの間(t3?t4)の速度を増速して一致させるようになっている。
また、図示省略するが、上記と同様の作用により、理想駆動モータ50に同期するように第1,第2の駆動モータ20,35の速度が制御される。ただし、上述したごとく、理想駆動モータ50の速度は第3の駆動モータ38と1:1対応にしているため、他のモータの速度とは必ずしも1:1に対応しているとは限らず、かかる場合には、理想駆動モータ50から発せられるパルス数に所定の係数を掛けた値に一致するように制御される。さらに上述したごとく、第1,第2の駆動モータ20,35は、変速駆動するため、フィンガー19並びにエンドシーラー30の位置に応じて、上記係数も異なる。」(5頁右上欄6行?7頁左上欄2行)

ケ 「また、帯状フィルム7にカットマークがない場合、すなわち、所定間隔毎に意匠などの印刷がない場合には、上記した初期設定を行い、フィンガー19等を所定の位置に移動させた後、予め入力された筒状フィルムのカット寸法などのデータに基づいて各駆動モータを駆動制御させる。」(9頁左下欄17行?同頁右上欄2行)

コ 「さらに本実施例では理想駆動モータ50を基準にフィードフォワード制御を行っているため、例えば運転始動直後の立ち上がり時から各モータを正確に制御することが可能となる。すなわち、立ち上がり時はモータの回転数は徐々に上昇し、その後所望の回転数で安定して駆動するが、その上昇の具合は各モータでばらばらであるので立ち上がり時に各モータ間の同期をとることはできない。
しかし、理想駆動モータ50の発するパルス数を徐々に上昇させていけば(例えば第4図では1→3→5)、第3の駆動モータ(他も同じ)もその上昇に応じて安定して上昇していくことになる。従って、正常運転中はもちろん、始動時においても安定的に駆動できる。」(9頁右下欄8行?10頁左上欄1行)

サ 「なお、図中符号70は、被包装物の製造装置などの包装機の上流側に配設される装置であり、また符号72は、集積装置などの包装機の下流側に配設される装置である。そして、両装置70,72は、共に理想駆動モータ50に連繋されており、この理想駆動モータ50に同期するように制御される。この様に、各駆動系やそれに連設される各種装置の制御の基準を同一タイミングで安定駆動する理想駆動モータにしているため、各駆動系におけるばらつき・不安定駆動はその駆動系のみにとどまり他の駆動系へ影響を与えないため一連の包装装置全体を一のシステムで安定確実に制御することができる。」(10頁左上欄2?14行)

シ 「また、上記した実施例では、第1の搬送装置15は、基本的には所望の略一定速度で駆動するようにしたが、例えば被包装物が壊れやすいものや、接触抵抗が大きいものなどの場合には、実施例のようにフィルムの搬送速度とフィンガーの移動速度との間に差があると、被包装物を筒状フィルム内に供給する際に被包装物が破損したり、スムーズに供給ができないなどの問題を生じるおそれかあるため、係る場合には、エンドシール装置と同様に、少なくとも、被包装物を筒状フィルム内に供給する際にはフィルムの移動速度と略同一になるように増減速駆動するようにしても良い。
さらに、上記実施例では、いわゆる横ピロー包装機について説明したが、同様の駆動手段にて構成されている包装機などにも用いることができるのはいうまでもない。」(10頁右上欄1?16行)

ス 「(発明の効果)
以上のように本発明に係る方法によれば、それぞれ独立した駆動モータを確実かつ容易に制御でき、しかも、各種の位置合わせが容易に行えるとともに包装体の製造も綺麗に行うことができる。
さらに、各駆動モータの制御基準を安定駆動する理想駆動信号発生手段としたため、制御システムが安定化される。そして、一つの駆動モータの速度が変化しても、それが他の駆動モータへ悪影響を与えない。
また、かかる理想駆動信号発生手段を基準に包装機に連設される各装置を制御すれば、理想駆動信号発生手段は不変で安定しているため、制御対象も安定的に制御でき、これにより複数の装置を連設しそれらを一のシステムで安定制御することが可能となる。」(10頁右下欄8行?11頁左上欄3行)

セ 上記アないしスから、引用例1には、
「被包装物を所定間隔毎に搬送する搬送手段と、該搬送手段を駆動する第1の駆動モータと、シール手段たるエンドシール装置と、該エンドシール装置を駆動する第2の駆動モータと、前記搬送手段の上方に配設された、帯状フィルムを捲回した原反フィルムと、引き出しローラと、前記帯状フィルムを引き出す第3の駆動モータと、製袋器と、制御装置と、水晶発振器を用いた理想駆動信号発生手段たる理想駆動モータとを有し、製造された包装体を搬出する搬出コンベアが配設され、前記引き出しローラにより前記帯状フィルムを前記搬送手段上に導き、前記製袋器にて筒状に形成して筒状フィルムにし、この筒状フィルム内に前記被包装物を順次供給して包装体を製造し、製造された包装体を前記搬出コンベアにより搬出するようになっている自動包装装置において、
一般に、モータは、立ち上がり時は回転数が徐々に上昇し、その後所望の回転数で安定して駆動するが、その上昇の具合は各モータでばらばらであるので、従来のものは、立ち上がり時に各モータ間の同期をとることはできなかったが、
前記理想駆動モータを基準にフィードフォワード制御を行うことにより、例えば運転始動直後の立ち上がり時は前記理想駆動モータの発するパルス数を徐々に上昇させていき、第1の駆動モータ、第2の駆動モータ及び第3の駆動モータの回転数がその上昇に応じて安定して上昇し、立ち上がり時から各駆動モータを正確に制御することを可能とし、正常運転中はもちろん始動時においても安定的に駆動できるようにした自動包装装置及びその駆動制御方法であって、
前記搬送手段は、第1の搬送装置と第2の搬送装置とから構成され、該第1の搬送装置を、一対のスプロケットに架設したエンドレスチェーンと、該エンドレスチェーンに所定間隔毎に配設したフィンガーとから構成し、前記搬送手段の一方のスプロケットには、他のスプロケットやチェーン等の動力伝達機構を介して、前記エンドレスチェーンすなわち前記フィンガーを移動させる第1の駆動モータが連繋されており、
前記エンドシール装置は上下一対のエンドシーラーを備え、該エンドシール装置の下方のエンドシーラーの回転軸には動力伝達手段を介して第2の駆動モータが連繋されており、
前記引き出しローラには第3の駆動モータが連繋されており、
第1ないし第3の駆動モータは前記制御装置に連繋されており、該制御装置は前記理想駆動モータに連繋されており、該理想駆動モータの発振周波数は第3の駆動モータが理想状態で回転駆動している際にその第3の駆動モータに装備された第3のエンコーダが発するパルスの発振周波数と一致しており、かつ、該理想駆動モータから発せられるパルスと第3のエンコーダから発せられるパルスとが同一タイミングとなるように設定されており、該理想駆動モータが発する信号パルスが前記制御装置を介して第1ないし第3の駆動モータへ伝えられ、フィードフォワード制御によって前記理想駆動モータに同期するように第1ないし第3の駆動モータが制御駆動されるように、具体的には、第3の駆動モータは、前記理想駆動モータからの信号と同一タイミングで、また、第1,第2の駆動モータは、第3の駆動モータが前記理想駆動モータ通りに回転駆動していると想定して前記理想駆動モータの信号パルスに応じて速度制御されるようになっており、
第1の駆動モータには第1のエンコーダ及び第1の位置検出装置が配設され、これにより第1の駆動モータの回転数並びに回転角度を検出できるようになっており、第1の搬送装置の搬出端近傍に最前端に位置する前記フィンガーが基準位置に来たのを検出できるフィンガー検出装置が配設され、第1のエンコーダ及び第1の位置検出装置を介して第1の駆動モータが何回回転したか及び第1の駆動モータの現在の回転角度を検出することにより前記フィンガーの位置を検出するようになっており、
第2の駆動モータには第2のエンコーダ及び第2の位置検出装置が配設されており、第2のエンコーダー及び第2の位置検出装置を介して第2の駆動モータが何回回転したか及び第2の駆動モータの現在の回転角度を検出することにより前記エンドシーラーの回転角度位置を検出するようになっており、
第3の駆動モータには上述の第3のエンコーダに加え第3の位置検出装置が配設され、また、前記引き出しローラの側周面の片側端部に近接して前記帯状フィルムの側端縁部に施されたカットマークを検出するためのマーク検出装置が配設されており、第3のエンコーダ及び第3の位置検出装置にて、前記マーク検出装置にてカットマークを検出したときの基準位置からの前記引出しローラの回転角度等が検出できるようになし、
第1ないし第3の位置検出装置、前記フィンガー検出装置、前記マーク検出装置等からの情報を前記制御装置に入力し、その入力されたデータに基づいて前記制御装置が第1ないし第3の駆動モータを独立して駆動制御し、第1ないし第3の駆動モータのそれぞれが駆動する各駆動系から得られた情報はその駆動系の駆動モータの速度を増減させる等の制御にのみ用いられるのにとどまり、他の駆動モータの速度制御には同等影響を与えないようにすることにより、たとえ各駆動モータの回転が不安定となっても、その駆動モータが自分で安定回転するように制御されるだけで、係る不安定が他の駆動モーターに悪影響を与えることを防げるようにした駆動手段にて前記自動包装装置を構成し、
前記駆動制御方法を、
前記自動包装装置の電源を入れ、固定データ並びに可変データを入力するデータの入力が終わると、次に、第2の駆動モータ及び第3の駆動モータを駆動して帯状フィルム等を引き出してカットマークがあるか否かを判断し、
カットマークがある場合には作動後最初の実際のカットマーク間隔を計測し、計測されたカットマーク間隔を初期入力されたデータと比較し、許容範囲内かどうかを判断し、範囲内の場合は実際の計測値をカットマーク間隔として書替え記憶し、その書替えられたデータに基づいて各装置の初期位置を計算すると共に、第1の駆動モータもスタートさせて上記計算結果に基づいて、前記フィンガーの位置、前記エンドシーラーの位置及び前記カットマークの位置をそれぞれ基準位置に移動させる作業と、該作業後、入力したデータに基づいて前記フィンガー、前記エンドシーラー並びに帯状フィルムを相互に合致する最適な位置に移動させる作業とからなる初期位置合わせを行い、
次に、最後のカットマークから前記マーク検出装置までの距離がいくらあるかを算出し、その算出結果に合うように第3の位置検出装置で前記引き出しローラの回転数及び回転角度を制御しつつ、第3の駆動モータを運転して帯状フィルムを算出結果の位置まで前進移送し、また、同様に前記フィンガーの位置も基準位置から前後にどれだけ移動すればいいかを算出し、その結果に従って第1の位置検出装置等により制御しつつ、第1の駆動モータを運転して前記フィンガーを適正な位置に移動し、これにより初期設定が終了し、
次に正式な包装作業を行うべく第1ないし第3駆動モータが、前記理想駆動モータと同期を取るべく回転駆動し、帯状フィルムを一定速度で引き出し、その引き出し速度に応じて、すなわち一定速度で駆動する前記理想駆動モータの信号に応じて、第1の搬送装置や前記エンドシール装置を駆動し、帯状フィルムと第1の搬送装置とが略同一の移動速度になるように増減速駆動し、
前記理想駆動モータと第3の駆動モータとは1:1対応であるため、該理想駆動モータが発するパルスと第3のエンコーダ及び第3の位置検出装置から検出されるのパルスとが一致するように、フィードフォワード制御によって、実際の速度が前記理想駆動モータに比して遅れた場合には速度を増速するように駆動制御し、
前記理想駆動モータの速度は第1の駆動モータの速度や第2の駆動モータの速度と必ずしも1:1に対応しているとは限らないので、かかる場合には、変速駆動する第1の駆動モータによる前記フィンガーの位置に応じて異なる係数を掛けた値、変速駆動する第2の駆動モータによる前記エンドシーラーの位置に応じて異なる係数を掛けた値が、それぞれ、前記理想駆動モータが発するパルス数に一致するように制御して、前記理想駆動モータに第1の駆動モータ及び第2の駆動モータが同期するように駆動制御し、
また、帯状フィルムにカットマークがない場合、すなわち、所定間隔毎に意匠などの印刷がない場合には、上記した初期設定を行い、前記フィンガー等を基準位置に移動させた後、予め入力された筒状フィルムのカット寸法などのデータに基づいて駆動制御するようにした、
自動包装装置及びその駆動制御方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「『搬送手段及び第1の駆動モータ』、『エンドシール装置及び第2の駆動モータ』、『引き出しローラ及び第3の駆動モータ』などの『駆動系』毎の装置」、「帯状フィルム」、「『引き出す』、『導く』、『筒状に形成して筒状フィルムにする』、『筒状フィルム内に被包装物を順次供給する』、『包装体を製造する』、『包装体を搬出する』などの動作を行うこと」、「『搬送手段』、『エンドシール装置』、『引き出しローラ』などの装置」、「駆動手段」、「『引き出しローラ』、『スプロケット』、『下方のエンドシーラーの回転軸』など」、「モータ」、「『第3の駆動モータが理想状態で回転駆動している際にその第3の駆動モータに装備された第3のエンコーダが発するパルスの発振周波数と一致』している『発振周波数』であり、かつ、『発せられるパルス』と『第3のエンコーダから発せられるパルス』とが『同一タイミングとなるように設定』されている『水晶発振器を用いた理想駆動信号発生手段たる理想駆動モータ』」、「『駆動モータ』の『速度』及び『回転数』」、「駆動モータの回転角度」、「制御装置に入力された『第1ないし第3の位置検出装置、フィンガー検出装置、マーク検出装置等からの情報』すなわち『入力されたデータ』に基づいて『第1ないし第3の駆動モータ』を『独立して駆動制御』すること」、「制御装置」、「『駆動モータの回転角度』、『エンドシーラーの回転角度位置』及び『引出しローラの回転角度』」、「『理想駆動モータの信号パルスに応じ』て『理想駆動モータ通りに回転駆動』している『第3の駆動モータ』の『速度』」及び「係数」は、それぞれ、本願発明の「処理ユニット」、「『ウェブまたはシート材』、『前記材』」、「作動」、「装置」、「駆動手段」、「回転素子」、「電動ロータリモータ」、「プログラムされたマスタ基準」、「電動ロータリモータの作動速度」、「電動ロータリモータの角度位相」、「『個々に規制』する」、「制御手段」、「1つまたは2つ以上の電動ロータリモータの位相角度」、「装置全体の作動速度」及び「係数」に相当するとともに、引用発明の「原反フィルムに捲回した帯状フィルム(ウェブまたはシート材)を引き出しローラ(処理ユニット)により搬送手段(処理ユニット)上に導き、製袋器(処理ユニット)にて筒状に形成して筒状フィルムにするまでの帯状フィルム(ウェブまたはシート材)の経路」は本願発明の「少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路」に相当する。

イ 引用発明の「処理ユニット」は、「搬送手段及び第1の駆動モータ」、「エンドシール装置及び第2の駆動モータ」、「引き出しローラ及び第3の駆動モータ」などであるから、本願発明の「処理ユニット」と、「複数の」ものである点で一致し、この「複数の処理ユニット」は、引用発明の自動包装装置が有しており、引用発明の自動包装装置において、「ウェブまたはシート材(帯状フィルム)」は、引き出しローラにより搬送手段上に導かれ、製袋器にて筒状に形成されて筒状フィルムにされ、この筒状フィルム内に被包装物が順次供給されて包装体が製造され、製造された包装体は搬出コンベアにより搬出されるから、「少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路」に沿って供給され、各「処理ユニット」により夫々繰り返し作動を行われるものであるといえる。
したがって、引用発明の「自動包装装置」と本願発明の「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の多色オフセット印刷装置」とは、「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置」である点で一致する。
そうすると、引用発明の「自動包装装置を構成する駆動手段」と本願発明の「駆動手段」とは、「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置用」のものである点で一致する。

ウ 引用発明において、「駆動手段」は第1ないし第3の駆動モータ(電動ロータリモータ)を備えており、第1の駆動モータ(電動ロータリモータ)は搬送手段(処理ユニット)のスプロケット(回転素子)に連繋され、第2の駆動モータ(電動ロータリモータ)はエンドシール装置(処理ユニット)の下方のエンドシーラーの回転軸(回転素子)に連繋され、第3の駆動モータ(電動ロータリモータ)は引き出しローラ(処理ユニット、回転素子)に連繋されているから、引用発明の「駆動手段」と本願発明の「駆動手段」とは「前記各処理ユニットまたは前記複数の処理ユニット中の1の処理ユニット内の1つまたは2つ以上の回転素子の個々に対する電動ロータリモータ」を「含」んでいる点で一致する。

エ(ア)一般に、モータは、立ち上がり時は回転数が徐々に上昇し、その後所望の回転数で安定して駆動するが、その上昇の具合は各モータでばらばらであるので、従来のものは、立ち上がり時に各モータ間の同期をとることはできなかったが、引用発明の「駆動手段」は、前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」を基準にフィードフォワード制御を行うことにより、例えば運転始動直後の立ち上がり時は前記理想駆動モータの発するパルス数を徐々に上昇させていき、第1の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」、第2の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」及び第3の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」の回転数がその上昇に応じて安定して上昇し、立ち上がり時から各「電動ロータリモータ(駆動モータ)」を正確に制御することを可能とし、正常運転中はもちろん始動時においても安定的に駆動できるようにしたものであるから、前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」は「予め」プログラムされていることが明らかである。

(イ)また、引用発明の「駆動手段」は、「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置」用のものであり(上記イ参照。)、かつ、引用発明の「駆動手段」は、第1ないし第3の位置検出装置、前記フィンガー検出装置、前記マーク検出装置等からの、第1の駆動モータの回転数並びに回転角度、第2の駆動モータが何回回転したか、第2の駆動モータの現在の回転角度、引き出しローラの回転数及び回転角度、基準位置からの引出しローラの回転角度等の情報を「制御手段(制御装置)」に入力し、該「制御手段(制御装置)」は、入力されたデータに基づいて「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」の信号パルスに応じて、各「電動ロータリモータ(第1ないし第3の駆動モータ)」を「個々に規制(独立して駆動制御)」して、「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」が発するパルスと第3のエンコーダ及び第3の位置検出装置から検出されるパルスとが一致するように、フィードフォワード制御によって、実際の速度が前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」に比して遅れた場合には速度を増速するように駆動制御し、前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」の速度は第1の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」の速度や第2の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」の速度と必ずしも1:1に対応しているとは限らないので、かかる場合には、変速駆動する第1の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」による前記フィンガーの位置に応じて異なる「係数」を掛けた値、変速駆動する第2の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」による前記エンドシーラーの位置に応じて異なる「係数」を掛けた値が、それぞれ、前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」が発するパルス数に一致するように制御して、前記「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」に第1の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」及び第2の「電動ロータリモータ(駆動モータ)」が同期するように駆動制御するものであるから、各「係数」は、「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」の速度に比例するように「予め選択」されたものであることが明らかである。

(ウ)引用発明の「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」は、水晶発振器を用いた理想駆動信号発生手段であり、これを基準にフィードフォワード制御を行うものであり、これに同期するように第1ないし第3の駆動モータが制御駆動されるものであるから、上記(イ)の「プログラムされたマスタ基準(理想駆動モータ)」の速度に比例するように「予め選択」された「係数」は、「装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数」であるといえる。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、引用発明の「制御手段(制御装置)」と本願発明の「予めプログラムされたマスタ基準に関して正確な色整合を与えるように各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動し、1つまたは2つ以上の電動ロータリモータの位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数で変化させることで、前記1つまたは2つ以上の電動ロータリモータのうちの他の電動ロータリモータの位相角度に対して変化させ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な色整合を維持する速度補正手段を更に含み、装置の作動速度に基づく正しくない色整合を表すアルゴリズムが引き出され、該アルゴリズムは、装置全体の作動速度に相対する自動的補正のためにプログラムされる、制御手段」とは、「予めプログラムされたマスタ基準に関して正確な整合を与えるように各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動し、2つ以上の電動ロータリモータの位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数で変化させることで、前記2つ以上の電動ロータリモータのうちの他の電動ロータリモータの位相角度に対して変化させ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な整合を維持する速度補正手段を更に含む」点で一致するといえるとともに、引用発明の「駆動手段」と本願発明の「駆動手段」とは「プログラムされたマスタ基準に関して各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動し、プログラムされたマスタ基準に関して正確な整合を与えるように各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動し、2つ以上の電動ロータリモータの位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数で変化させることで、前記2つ以上の電動ロータリモータのうちの他の電動ロータリモータの位相角度に対して変化させ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な整合を維持する速度補正手段を更に含む制御手段」を「含」む点で一致する。ここで、引用発明の「正常運転中はもちろん始動時においても」が本願発明の「作動速度の実質的範囲全体に亘って」に相当し、引用発明の「前記マスタ基準の速度は第1の電動ロータリモータの速度や第2の電動ロータリモータの速度と必ずしも1:1に対応しているとは限らないので、前記マスタ基準に第1の電動ロータリモータ及び第2の電動ロータリモータが同期するように駆動制御するために、前記マスタ基準が発するパルス数に一致するように、変速駆動する第1の電動ロータリモータによる前記フィンガーの位置に応じて異なる係数を掛け、変速駆動する第2の電動ロータリモータによる前記エンドシーラーの位置に応じて異なる係数を掛け」る手段が、本願発明の「速度補正手段」に相当する。

オ 上記アないしエから、本願発明と引用発明とは、
「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置用駆動手段であって、
前記各処理ユニットまたは前記複数の処理ユニット中の1の処理ユニット内の1つまたは2つ以上の回転素子の個々に対する電動ロータリモータと、
プログラムされたマスタ基準に関して正確な整合を与えるように各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動する制御手段と、を含み、
該制御手段は、
2つ以上の電動ロータリモータの位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択された係数で変化させることで、前記2つ以上の電動ロータリモータのうちの他の電動ロータリモータの位相角度に対して変化させ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な整合を維持する速度補正手段を更に含む、
駆動手段。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の前記「装置」が「多色オフセット印刷装置」であって、各電動ロータリモータの作動速度及び角度位相を個々に規制すべく作動する前記制御手段が与えるプログラムされたマスタ基準に関しての正確な前記整合が「色」の整合であるのに対して、
引用発明では、前記「装置」が「自動包装装置」であって、前記整合が「色」の整合ではない点。

相違点2:
本願発明では、装置の作動速度に基づく正しくない色整合を表すアルゴリズムが引き出され、該アルゴリズムは、装置全体の作動速度に相対する自動的補正のために前記制御手段にプログラムされるのに対して、
引用発明では、前記制御手段にそのようなアルゴリズムがプログラムされているかどうか不明である点。

(3)判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1について
(ア)「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の印刷装置」は本願の優先日前に周知であり(以下「周知技術」という。例.いずれも当審拒絶理由で引用した特開平4-99627号公報、特開平5-64882号公報、特開平5-229103号公報、特開平8-238757号公報)、上記特開平5-229103号公報の【0002】に「印刷技術では、合理化の方向の要求と品質向上の方向の要求がある。1回の印刷機による処理で両面印刷され、場合によりさらにラッカー塗りされた高品質の多色印刷物の製造に対して、特に枚葉紙オフセット印刷では多数の印刷機構を直列配置する必要がある。これら印刷機構はその作用に関して高い水準で相互に同調していなければならない。」と記載されているように、そのような印刷装置の一つとして多色オフセット印刷装置があることは当業者に自明である。

(イ)引用発明の「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置」は、自動包装装置であるところ、引用発明は、同様の駆動手段にて構成されている包装機などにも用いることができるのはいうまでもないものである(上記(1)シ参照。)から、引用発明の「駆動手段」を、同様の駆動手段にて構成されている「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の印刷装置」の一つとして当業者に自明である多色オフセット印刷装置に用いることも同様にいうまでもないことである。

(ウ)したがって、引用発明において、「複数の処理ユニットを備え、少くとも一部がこれらの処理ユニットで形成された供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に各処理ユニットが夫々繰り返し作動を行なう種類の装置」を「多色オフセット印刷装置」となし、前記「制御手段」及びその「速度補正手段」による正確な整合を与え、維持する技術を、多色オフセット印刷における「色整合」に用いること、すなわち、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

イ 相違点2について
引用発明の「自動包装装置」は、帯状フィルムにカットマークがない場合、すなわち、所定間隔毎に意匠などの印刷がない場合には、上記した初期設定を行い、前記フィンガー等を基準位置に移動させた後、予め入力された筒状フィルムのカット寸法などのデータに基づいて駆動制御するものであり、その初期設定は、帯状フィルムにカットマークがないので、前記自動包装装置の電源を入れ、固定データ並びに可変データを入力するデータの入力が終わると、次に、第2の駆動モータ及び第3の駆動モータを駆動して帯状フィルム等を引き出してカットマークがないことを判断し、入力したデータに基づいて前記フィンガー及び前記エンドシーラーを相互に合致する最適な位置に移動させる作業からなる初期位置合わせを行い、次に、第3の位置検出装置で前記引き出しローラの回転数及び回転角度を制御しつつ、第3の駆動モータを運転して帯状フィルムを前進移送し、また、同様に前記フィンガーを適正な位置に移動し、これにより終了するものであり、かつ、引用発明の「自動包装装置」は、運転始動直後の立ち上がり時は前記理想駆動モータの発するパルス数を徐々に上昇させていき、第1の駆動モータ、第2の駆動モータ及び第3の駆動モータの回転数がその上昇に応じて安定して上昇し、立ち上がり時から各駆動モータを正確に制御することを可能とし、正常運転中はもちろん始動時においても安定的に駆動できるものであって、さらに、前記理想駆動モータの速度と第1の駆動モータの速度や第2の駆動モータの速度とが1:1に対応していない場合には、前記理想駆動モータが発するパルス数に一致するように制御して、前記理想駆動モータに第1の駆動モータ及び第2の駆動モータが同期するように、第1の駆動モータの速度や第2の駆動モータの速度を示す各値に、異なる係数をそれぞれ掛けるようにしたものであるところ、帯状フィルムにカットマークがない場合は、実際の計測値をカットマーク間隔として書替えることもないので、固定データ並びに可変データを入力するデータの入力作業により予め入力される筒状フィルムのカット寸法などのデータ毎に、上記各係数を求めておき、入力データに対応させて記憶させておくようなことが必要であることが当業者に自明である。
また、有限回の実験操作を行って誤差などを無くす手順を導出することは常套手段であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の各係数や各アルゴリズムが如何なるものであるのか具体的に記載されておらず、本願発明の「装置の作動速度に基づく正しくない色整合を表すアルゴリズムが引き出され、該アルゴリズムは、装置全体の作動速度に相対する自動的補正のために前記制御手段にプログラムされる」点についても具体的に記載されていないので、この点は単にアイデアどまりであって、上記常套手段を越えるような技術上の意義の開示を伴うものでないから、引用発明において、「装置の作動速度に基づく正しくない色整合を表すアルゴリズムが引き出され、該アルゴリズムは、装置全体の作動速度に相対する自動的補正のために前記制御手段にプログラムされる」ものとし、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が上記常套手段に基づいて適宜想到することができたアイデア程度のことである。

ウ 本願発明の奏する効果は、本願明細書の
「シャフトレス駆動は印刷装置がその作動平均速度で作動している時は正確且つ一定の結果を得る上では上首尾であるが、装置全体としての作動速度の変化の時に、主として速度変化によるウェブの伸長或はその他のゆがみによるウェブの線形速度の変化と言う今まで解決されていない問題が生じる。これは異なるユニットで行われる作動が整合しなくなる結果をもたらし、例えば多色印刷における異なる色の整合を失ない、生産時間の実質的な浪費と損失を生じる。
装置を始動の時に速度を上げまた停止のために速度を下げるのは各印刷作動の始めと終りで浪費を生じる。
本発明の目的は、シャフトレス駆動によるすべての利点を提供するシャフトレス駆動を有し、作動速度全体において実質的な変化に亘って正確な同期性及び整合性を維持することができる印刷装置を提供することである。」(後記5(1)参照。)との記載からみて、「作動速度全体において実質的な変化に亘って正確な同期性及び整合性を維持することができる」ことであるが、引用発明の「正常運転中はもちろん始動時においても」が本願発明の「作動速度の実質的範囲全体に亘って」に相当する(上記(2)エ(エ)参照。)から、引用発明も「作動速度の実質的範囲全体に亘って、前記複数の処理ユニットで行われる種々の作動の前記材に対する正確な整合を維持する」ものであり、この効果は引用発明も奏する効果である。
また、本願明細書には、「実験が示したことは、驚くべきことに、印刷作動の始動または停止の時の全体の作動速度の変化は定数を有し、従って整合に対する予測し得る作用を有する。テスト作動の繰り返し及び例えば全体の印刷速度の変化に相対する正しくない色の整合度の正確な測定によって、装置全体の作動速度に相対する自動的補正用のデータで制御ユニット42をプログラムするためのアルゴリズムを引き出すことができ、モータ25?40の駆動出力の相対位相角度を予め選択した係数で個々に自動的に変化させる。」(後記5(1)参照。)とも記載されているが、本願明細書には、その実験が再現可能に記載されておらず、その係数も、そのアルゴリズムも具体的なものが記載されていないから、驚くべき効果を奏することを確認することができない。
したがって、引用発明が奏する効果に比較して驚くような効果を本願発明が奏するとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果及び常套手段の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成23年6月7日付け意見書において次の(ア)ないし(エ)の主張をしているが、それぞれの主張については以下のとおり判断するので、上記対比・判断を覆すものではない。
(ア)(請求人の主張)
引用例1には、個々のモータの位相角度を変化させることは開示されておりません。より詳細には、引用例1には、理想駆動モータからの信号を用いて駆動モータを制御することで自動包装装置を安定させる発明が開示されているのであり、作動速度の実質的範囲に亘ってモータ間の正確な整合を維持するためにモータ間の相対位相角度を制御することは開示も示唆もされておりません。
(当審の判断)
引用例1には、「該搬送手段を駆動する第1の駆動モータと該シールカットあるいはカットする手段を駆動する第2の駆動モータと、該帯状フィルムを引き出す第3の駆動モータとがそれぞれ独立して駆動され」(上記(1)ア参照。)、「第1,第2の駆動モータ20,35の速度が…略…理想駆動モータ50から発せられるパルス数に所定の係数を掛けた値に一致するように制御される。さらに上述したごとく、第1,第2の駆動モータ20,35は、変速駆動するため、フィンガー19並びにエンドシーラー30の位置に応じて、上記係数も異なる。」(上記(1)ク参照。)、「帯状フィルム7にカットマークがない場合、すなわち、所定間隔毎に意匠などの印刷がない場合には、上記した初期設定を行い、フィンガー19等を所定の位置に移動させた後、予め入力された筒状フィルムのカット寸法などのデータに基づいて各駆動モータを駆動制御させ」(上記(1)ケ参照。)と記載されており、個々のモータを独立して駆動させること、第1,第2の駆動モータ20,35は、フィンガー19並びにエンドシーラー30の位置に応じて、係数を異ならせて変速駆動、すなわち位相角度を変化させて駆動することが記載されているといえる。
したがって、引用例1には、個々のモータの位相角度を変化させることが開示されているといえる。

(イ)(請求人の主張)
引用例1の装置は、機械のデータ(カットマーク間隔等)に基づいて他のモータを制御するために、理想駆動モータ50を用いるものであります。ここで、理想駆動モータ50は、パルス信号をモータ20、35、38に送信し、カットマーク間隔は、理想駆動モータ50の発するパルスと比較されます。結果として、モータ20、35、38の夫々は、通常作動時、理想駆動モータ50に「同期」されます(引用例1の要約を参照)。夫々のモータ20、35、38が理想駆動モータ50に同期されることから、モータ20、35、38は、何れも、他のモータに対して変化した位相角度を有することが出来ません。即ち、引用例1は、本願発明のような、モータ間で相対位相角度が異なるという特徴を有する本願発明を遠ざける教示を与える(当業者が本願発明へ想到することを阻害する)ものであります。
(当審の判断)
上記(ア)で述べたとおり、引用例1には、第1,第2の駆動モータ20,35は、フィンガー19並びにエンドシーラー30の位置に応じて、係数を異ならせて変速駆動、すなわち位相角度を変化させて駆動することが記載されているといえる。また、引用例1には、帯状フィルム7にカットマークがない場合にも、初期設定を行い、各駆動モータを駆動制御させることが記載されている(上記(1)ケ参照。)。

(ウ)(請求人の主張)
引用例1は、装置の始動時にモータ20、35、38間の「同期をとることはできない」旨、明示しております(引用例1の第9頁右欄第8行から第10頁左欄第1行を参照)。引用例1は、モータ20、35、38の速度がパルス速度の上昇に伴って「徐々に上昇」することを教示しており、モータ20、35、38の位相角度を始動時に変化させることは教示されておりません。実際、上記したように、引用例1は装置の始動時にモータ20、35、38を同期させることが「不可能である」ことを教示するものであります。結果として、引用例1は、本願発明のように、正確な色整合を維持するために1または2以上のモータの位相角度を変化させることを開示も示唆もしておりません。
(当審の判断)
引用例1の上記(1)コの記載によれば、「立ち上がり時に同期をとることはできない」のは「第1ないし第3の駆動モータ間」であり、理想駆動モータ50の発するパルス数を徐々に上昇させることにより、第1ないし第3の駆動モータをその上昇に応じて安定して上昇させ、正常運転中はもちろん、始動時においても安定的に駆動できるのである。このことは、本願発明のマスタ基準と電動ロータリモータとの関係と共通することである。

(エ)(請求人の主張)
引用例1は、閉じループフィードバックシステム(カットマーク間隔を理想駆動モータによって生成されたパルスと比較している)を用いております。本願発明に係る印刷装置の駆動手段および作動方法は、印刷装置に、作動速度の実質的範囲に亘る正確な色整合を維持することを可能とし、時間および(ウェブまたはシート材を含む)材料の浪費を低減させるものであります。
(当審の判断)
引用例1には「帯状フィルム7にカットマークがない場合、すなわち、所定間隔毎に意匠などの印刷がない場合には、上記した初期設定を行い、フィンガー19等を所定の位置に移動させた後、予め入力された筒状フィルムのカット寸法などのデータに基づいて各駆動モータを駆動制御させ」(上記(1)ケ参照。)と記載されており、カットマークがない場合も各駆動モータは駆動制御されるものであり、引用例1に「さらに本実施例では理想駆動モータ50を基準にフィードフォワード制御を行っているため、例えば運転始動直後の立ち上がり時から各モータを正確に制御することが可能となる。」(上記(1)コ参照。)と記載されているように、理想駆動モータ50を基準にフィードフォワード制御がなされるのである。

オ まとめ
よって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明、周知技術及び常套手段に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 上記3(2)の拒絶の理由についての当審の判断
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載は次のとおりである。
「本発明は印刷装置に関し、特に新聞及び定期刊行物の出版におけるオフセット製版のような高速輪転多色ウェブ印刷に関するが、本発明はその他のタイプの単色または多色ウェブまたはシート供給式印刷工程及び装置に適用できるであろう。
処理ユニットを軸、歯車等で一緒に連結して共通のモータで同期駆動する代わりに、各処理ユニットがそれ自体の電気モータで独立して機械的駆動される個々の処理ユニットを備えた印刷装置を提供することは知られている。個々のモータは運転速度及び駆動出力の角度位置に関して電気的に極めて正確に制御できるタイプであり、種々のユニットに同期性を与え且つ夫々の作動を処理中のウェブまたは材料に正確に整合させる。この種の駆動構成は一般に「シャフトレス駆動」と呼ばれ、例えば我々のGB2149149Aにあるように本技術において多数の例が周知である。
シャフトレス駆動は印刷装置がその作動平均速度で作動している時は正確且つ一定の結果を得る上では上首尾であるが、装置全体としての作動速度の変化の時に、主として速度変化によるウェブの伸長或はその他のゆがみによるウェブの線形速度の変化と言う今まで解決されていない問題が生じる。これは異なるユニットで行われる作動が整合しなくなる結果をもたらし、例えば多色印刷における異なる色の整合を失ない、生産時間の実質的な浪費と損失を生じる。
装置を始動の時に速度を上げまた停止のために速度を下げるのは各印刷作動の始めと終りで浪費を生じる。
本発明の目的は、シャフトレス駆動によるすべての利点を提供するシャフトレス駆動を有し、作動速度全体において実質的な変化に亘って正確な同期性及び整合性を維持することができる印刷装置を提供することである。
本発明の第1の態様では、各ユニットが少くとも一部を形成している供給路に沿って供給されるウェブまたはシート材に夫々に繰り返し作動する複数の処理ユニットからなる種類の印刷装置用の駆動手段であって、該駆動手段が前記各ユニットまたはユニット内の1つまたは2つ以上の回転素子の個々に対する電動ロータリモータと、プログラムされた所定のマスタ基準に対して各モータの作動速度と角度位相を個々に規制するべく作動する制御手段と、を含み、前記制御手段が更に、1つまたは2つ以上のモータ駆動出力の相対位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択した係数で変化させる速度補正手段を含んで、作動速度の実質的範囲全体に亘って前記ユニットで行われる種々の作動が材料と相対して正確な整合を維持することを特徴とする駆動手段である。
本発明は更に、作動速度全体の変化で生じた整合誤差の範囲を、個々の駆動モータの相対速度調節或は駆動出力の相対角度位相の変化の調節なしで測定して整合誤差を表わすアルゴリズムを前記作動速度の関数として得る工程と、そのアルゴリズムを自動的に印加して1つまたは2つ以上のモータ駆動出力の相対位相角度を装置全体の作動速度に比例する予め選択した係数で変化させて、実質的な作動速度範囲に亘って整合を正しく維持する工程と、を含むシャフトレス駆動を組込んだ印刷装置の作動方法にある。
本発明の実施例を、連続ウェブ多色オフセット印刷装置を示す線図の添付図面を参照してより詳細に説明する。
この装置は、ウェブ供給された4色印刷ライン10とその下流の折り機12からなり、従って図示の装置は基本的に5つの処理ユニット、即ち、連続色彩ユニット14、16、18、20及び折りユニット12からなる。
連続ウェブ22は従来の方法でリールまたはその他の源24から印刷ライン10に沿って折りユニット12へ通過する。
色彩ユニット14?20は、本技術で周知のプレート及びブランケットシリンダ並びに給湿及びインクロール列を組み込んだ従来の構成であり、従ってそれらの詳細は図示されていない。
しかし、各ユニットは、作動速度及び駆動出力の角度位置を電気的に非常に正確に制御することができる公知のタイプの電気モータで夫々独立して駆動され、このシャフトレス駆動構成は個々のユニットの機械的結合の必要性を省く。
折りユニット12は個々に前記モータ25で駆動される。
本実施例では、各色彩ユニット14?20は前記駆動モータを2つ含んでいる。ユニット14を取り上げてみると、これは第1ロール即ちシリンダ連結14aに動力を与える駆動モータ26及び連結14bに動力を与える他の駆動モータ28を有する。
同様に、ユニット16は、連結16aと16bを夫々駆動するモータ30と32を有し、ユニット18は連結18aと18bを夫々駆動するモータ34と36を有し、ユニット20は、連結20aと20bを夫々に駆動するモータ38と40を有している。
9つの駆動モータ25?40の各々は制御回路44によって電子制御ユニット42と連結している。ユニット42は、装置が全体として通常の作動速度で作動している時、ウェブ22に正確な色整合及び折り作動の正しい位置決めを与えるべく種々のユニットの作動が同期するように、モータの作動速度及び相対角度位相を規制する作動を行なう。
制御ユニット42は、すべてのモータを規制し且つそれらを同期するようマスタ基準で予めプログラムされており、この構成は、種々のモータ駆動入力をすべて一緒に機械的に結合する、即ち、すべてのモータがマスタ制御ユニット42のスレーブとして制御されることと同等のヴァーチャル電気ラインシャフトとみなしてもよい。これは、実施において見られるように、閉じループ或は所与の点におけるシャフトの速度及び/もしくはウェブの速度のような作動パラメータの走査からのフィードバックによるサーボ規制に依存することを避ける、何故ならそのようなサーボ制御システムに依存することは高速生産での高品質結果を得るのに充分に早い反応を与えない。
実験が示したことは、驚くべきことに、印刷作動の始動または停止の時の全体の作動速度の変化は定数を有し、従って整合に対する予測し得る作用を有する。テスト作動の繰り返し及び例えば全体の印刷速度の変化に相対する正しくない色の整合度の正確な測定によって、装置全体の作動速度に相対する自動的補正用のデータで制御ユニット42をプログラムするためのアルゴリズムを引き出すことができ、モータ25?40の駆動出力の相対位相角度を予め選択した係数で個々に自動的に変化させる。
この補正は種々のユニットとロール連結またはユニット内の他の個々の被駆動回転素子との作動関係に従って変化し、従って、個々のユニット、例えば14、の一対の駆動モータ、例えば26と28は通常は相互の同期性を維持するが、これらのモータ間及び他のユニット16?20並びにユニット12との間の相対位相角度は全体速度の関数として変化し且つ相互に対しても変化する。
思いがけなく、アルゴリズム及び必要な係数がひとたび確立されると整合の正確性がたとえ連続印刷作動においても更なる設定をほとんど必要とせずに維持され、例えば印刷準備をする時も時間とトラブルに関する実質的な経済性をもたらすと共に、始動時または停止時における速度変化の時に印刷されるものも大部分は認められている基準のものなので浪費の大きな減少となる。
本発明は種々のシャフトレス駆動構造に適用できることが理解されよう。或る適用においてはモータは単一ロールまたはシリンダを、直接或は歯車装置、歯付きベルト或はその他の伝動手段を介して間接的に駆動するであろうし、また他の場合には単一モータが、上記したような連結を駆動する代りに、ロールまたはシリンダ列、或は色彩ユニット全体、または他のウェブまたはシート処理ユニットさえも駆動するであろう。」

(2)平成23年6月7日付け意見書における請求人の反論
請求人は、平成23年6月7日付け意見書において次のとおり主張する。
ア 本願の発明の詳細な説明には、シャフトレス印刷装置における正しくない色整合と印刷装置の作動速度との間の、予期されていなかった関連性が明確に示されております。本願発明の発明者らは、印刷装置の作動速度における変化が、「定数を有し、従って整合に対する予測し得る作用を有する」ことを発見したのであります(本願の公表特許公報である特表2001-502258の第6頁第23-24行を参照)。この効果は、明細書にも記載のある通り、思いがけない(予期されていなかった)ものであり、従来知られていなかったものであります。

イ この効果の発見を受けて、発明者らは、「テスト作動の繰り返し」によって得られた整合誤差データによって引き出す(導き出す)ことが可能な、装置の作動速度の実質的な部分に亘る整合誤差を表すアルゴリズムを決定致しました。

ウ テストデータに基づいてアルゴリズムを引き出すことは、当該分野において通常の知識を有する者が十分に可能な範囲であります。

エ 本願の発明の詳細な説明には、種々のユニットとロール連結またはユニット内の他の個々の被駆動回転素子との作動関係が、印刷装置ごとに異なることから、これらのアルゴリズムが、個々の印刷装置で異なることが教示されております(特表2001-502258の第7頁第2-6行を参照)。

オ 個々の印刷装置のために一旦アルゴリズムが引き出される(導き出される)と、制御ユニット42はこのアルゴリズムをもってプログラム可能であります。

カ 制御ユニット42は、アルゴリズムおよび印刷装置の作動速度に基づいて、作動速度の実質的範囲に亘って係数を計算することが出来ます。

キ 係数が一旦算出されると、制御ユニット42はこの係数を個々の(独立した)電動モータの夫々に適用し、適切な整合を維持するために他のモータに対応して位相角度を変化させることが可能です。

ク 多色印刷においては、どのような整合誤差も、印刷されるイメージの品質に直接影響を与えるため、適切な整合の維持は非常に重要です。

ケ 本願において説明されているように、従来のシャフトレス印刷装置は、作動速度が変化する間の整合を維持するために、サーボ規制または閉じループフィードバックに依存していました(特表2001-502258の第6頁第14-22行を参照)。しかし、サーボ規制および閉じループフィードバックシステムは、作動速度の実質的な変化の間の正確な整合を維持するのに充分に速いものではありませんでした(特表2001-502258の第6頁第14-22行を参照)。即ち、従来技術に係る印刷装置では、作動速度の実質的な変化の間、特に装置の始動の際および停止の際に、材料の浪費が大量に発生していました(特表2001-502258の第4頁第21および22行を参照)。

コ 本願発明に係る印刷装置の駆動手段および作動方法は、正確な整合を維持するために、作動速度の実質的範囲全体に亘って、個々のモータ間で相対位相角度の事前的な調節が行われる点において、従来技術に対する優位性を提供します。従来技術に係る印刷装置は、サーボ規制および閉じループフィードバックシステムが用いられていたため、正確な整合を維持するには速度が遅すぎ、作動速度の実質的範囲全体に亘って、正確な整合を維持することは出来ないものでした。

サ 当業者が本願発明を実施する場合に、データのセットから数学的アルゴリズムを引き出し(導き出し)、係数を算出するために必要となるのは通常の知識のみであり、また、アルゴリズムや係数は印刷装置によって固有であることから、全てのアルゴリズムや係数について教示することは不可能であります。

シ 以上より、本願明細書の記載は、特許請求の範囲に記載された発明を明確かつ十分に記載したものであります。

ス 以上より、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものであり、本願は、審判官殿より通知された特許法第36条第4項に係る拒絶の理由を有さないものであります。

(3) 当審における応対
当審では、上記(2)の請求人の主張について審理するために、平成23年6月28日に、「全てのアルゴリズムや係数について教示することは不可能であ」る(上記(2)サ参照。)ことは理解できるので、1つの印刷装置を例にして、1例でよいので、テスト動作を繰り返し、整合誤差データを得て、整合誤差を表すアルゴリズムを決定し(上記(2)イ及びウ参照。)、このアルゴリズムをもって制御ユニットをプログラムし(上記(2)オ)、係数を計算し(上記(2)カ参照。)、この係数を個々の電動モータに適用(上記(2)キ参照。)した例について、具体的なデータや説明資料を提出できないかと電話応対により請求人に確認した。

(4) 請求人の応対
請求人は、平成23年7月26日の電話応対において、上記(3)の電話応対で要望されたデータや説明資料を提出することはできないと回答した。

(5)判断
上記(2)の請求人の主張のうち、「全てのアルゴリズムや係数について教示することは不可能である」(上記(2)サ参照。)との主張は理解できるものの、1つの印刷装置を例にした1例さえも提示されていない状況(上記(4)参照。)では、本願発明の各係数や各アルゴリズムが如何なるものであるのか、また、どのようにすれば本願発明のアルゴリズムを提供できるのか、どのようにすれば本願発明の各係数を提供できるのか、なぜ本願発明によれば「シャフトレス駆動によるすべての利点を提供するシャフトレス駆動を有し、作動速度全体において実質的な変化に亘って正確な同期性及び整合性を維持することができる」との目的を達成できるのか等について、具体的に記載されていない発明の詳細な説明の記載(上記(1)参照。)に基づき、上記(2)の「テスト動作を繰り返し、整合誤差データを得て、整合誤差を表すアルゴリズムを決定し、このアルゴリズムをもって制御ユニットをプログラムし、係数を計算し、この係数を個々の電動モータに適用すること」を当業者が容易に実施できるかどうかを確認することはできない。
したがって、請求人の上記主張を検討しても上記3(2)の記載不備は解消しない。

6 むすび
本願発明は、上記4のとおり、当業者が引用例1に記載された発明、周知技術及び常套手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
上記5のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-05 
結審通知日 2011-08-09 
審決日 2011-08-22 
出願番号 特願平10-518101
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41F)
P 1 8・ 536- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 長島 和子
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 印刷装置  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  

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