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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800029 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効200580021 審決 特許
無効2008800146 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G01N
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1249633
審判番号 無効2011-800113  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-30 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第4397656号発明「放出試験方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4397656号の請求項1,4?10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4397656号の請求項1?10に係る発明の出願は,平成15年9月1日に特許出願され,平成21年10月30日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされたものである。
そして,請求人により特許請求の範囲の請求項1,4?10に記載された発明についての特許を無効にすることを求める本件無効審判が,平成23年6月30日に請求され,同年8月2日付けで被請求人に対し審判請求書副本を送達し(送達日:平成23年8月5日),答弁書および訂正請求書の提出の機会を与えたが,被請求人は何らの応答をしなかったものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1,4?10に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1,4?10に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
(1)片面に放出試験の対象となる経皮剤を保持する凹部を有するディスクに経皮剤を保持させる工程;
(2)親水処理化されたポリオレフィン系ポリマー、親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはポリエーテルスルホン系ポリマーからなり、0.1μmから5μmの孔を有し、かつ厚さが10μmから220μmである多孔質膜で該経皮剤を覆う工程;
(3)該ディスクを該多孔質膜が上面になるように試験液に浸す工程;
(4)パドルを回転させる工程;および
(5)試験液を分析する工程;
を有することを特徴とする経皮剤の放出試験方法。
【請求項4】
多孔質膜が親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマーである請求項1に記載の放出試験方法。
【請求項5】
フルオロカーボン系ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリビニリデンフロライドである請求項4に記載の放出試験方法。
【請求項6】
試験の対象となる経皮剤が、クリーム剤、ゲル剤または軟膏剤である請求項1に記載の放出試験方法。
【請求項7】
試験の対象となる経皮剤が水溶性基剤からなる経皮剤である請求項1に記載の放出試験方法。
【請求項8】
試験の対象となる経皮剤が消炎鎮痛剤を有効成分として含有する経皮剤である請求項1に記載の放出試験方法。
【請求項9】
試験の対象となる経皮剤の有効成分である消炎鎮痛剤が、インドメタシンまたはケトプロフェンである請求項8に記載の放出試験方法。
【請求項10】
試験の対象となる経皮剤がインドメタシンを含有する親水性クリームである請求項1?5のいずれかに記載の放出試験方法。」(以下「本件発明1」,「本件発明4」?「本件発明10」という)

第3 請求人の主張及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1
本件特許の請求項1,4?7に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件特許の請求項1,4?10に係る発明は,甲第1?7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:久米博子他「ブクラデシン軟膏の改良に関する研究(第一報)-易使用化に関する検討-」Progress in Medicine,Vol.19,No.2,第127?132頁,平成11年(1999年)2月発行
(2)甲第2号証:「MILLIPORE CATALOGUE Purification Technology」日本ミリポア株式会社(平成8年(1996年)2月発行)の写し
(3)甲第3号証:山口幸也他「半固形外用剤の品質評価手段としての放出試験法」薬剤学,Vol.54,No.4,第253?260頁(平成6年(1994年)発行)
(4)甲第4号証:「第十四改正日本薬局方解説書」株式会社廣川書店(平成13年6月27日初版発行)の写し
(5)甲第5号証:特開2000-296180号公報
(6)甲第6号証:特開平9-56827号公報
(7)甲第7号証:インテバンR(丸付き)クリームの添付文書 2003年4月(第3版)改訂 住友製薬株式会社

第4 甲各号証刊行物の記載事項
1 甲第1号証
甲第1号証は,本件出願前に頒布された刊行物であって,図,表と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)
「目 的
近年褥瘡・皮膚潰瘍の治療法はめざましい進歩を遂げ,最近では病期別治療法が数多く提唱されている^(1-3))。一方,サイクリックAMP(以下cAMPと略す)の誘導チャイであるジブチルサイクリック AMP(ブクラデシンナトリウム,以下DBcAMPと略す)は,褥瘡・皮膚潰瘍の治癒障害因子の1つである局所血流障害を改善し,潰瘍治癒機転である繊維芽細胞増殖および血管新世を直接賦活して肉芽形成および表皮形成を促進する作用が示されている^(4))。DBcAMPはセカンドメッセンジャーとして知られているサイクリックAMPの誘導体であり,cAMPに比べ細胞膜透過性に優れ,細胞内でcAMPに変化し作用する^(5))。ブクラデシン軟膏(商品名:)アクトシンR(丸付き)軟膏)は有効成分としてDBcAMPを3%含有したマクロゴール(以下Mと略す)400および4000を基剤とする軟膏剤である。しかしながら本剤はマクロゴール基剤中で,DBcAMPの安定性が悪いことから10℃以下での保存が必要であり,多くの医療現場でにおいては冷蔵庫(約0?10℃)中に保管されている。したがって軟膏基剤の1つであるM400が低温で凝固し,冷蔵庫から取り出した直後,硬くて使用し難いなどの使用性に問題があった。そこで本研究では,低温保存時における使用性の改善を目的として,M400よりも凝固点の低いM300を用いM400との配合比を変化させた軟膏剤を種々調製し,易使用化に関する実験を行った。」(127頁左欄2行?同頁右欄1行)

(1-イ)
「2.ブクラデシン軟膏の調製
M300を配合する処方ではあらかじめM300とM400を混合撹拌し,これにM4000を加え加温溶融し安定化剤,DBcAMPを添加後十分混合または溶解させてた後,冷却して均一の軟膏製剤とした。それぞれの軟膏においてM4000の配合量は一定とし,M300とM400との配合比(重量比)が0/10,1/9,2/8,3/7,4/6,5/5,6/4,となるように調製した。処方を表1に示す。」(127頁右欄10?17行)

(1-ウ)
「in vitro放出試験
装置は溶出試験器(TDS-30P富山産業製)を用いて行った。これに内山ら^(6))が用いたDisk Assemblyと類似した軟膏ディスク(軟膏充填部;直径42mm,深さ1mm:Hanson Research社製)に各軟膏製剤をそれぞれ充填し,放出面を合成樹脂膜で覆ったものをシンカーとして用い,日局溶出試験法第2法(パドル法)に従って各軟膏製剤からのDBcAMPの放出性について検討した。試験液としてはpH7.4のリン酸塩緩衝液合成膜としてはメンブランフィルター(親水性デュラポアフィルター,HVLPポアサイズ0.45μm:ミリポア)を用いた。放出試験液中のDBcAMP濃度はHPLCにより測定した。」(128頁右欄16?28行)

(1-エ)
「考 察
マクロゴール軟膏は日局にも掲載されている一般的な軟膏基剤であり,油脂様外観と感触を有する水溶性の軟膏基剤である。これをブクラデシン軟膏に用いた理由は主薬であるDBcAMPとの溶解性(混和性)がよく,また水洗が容易で経日変化が少なく安定であり,化学的にも不活性で敗油性がない。さらに褥瘡・皮膚潰瘍治療に用いるとき,余分な浸出液を吸収し基剤が不揮発性なため病巣面に適度な湿潤性を与え,表皮形成を促進することなどによる。」(131頁左欄18?27行)

(1-オ)
「6)山口幸也,佐藤宏,杉林堅次,森本雍憲,内山 充ほか:半固形外用剤の品質評価手段としての放出試験法,薬剤学 54(4):253-260,1994」(132頁右欄7?9行)

そして,これらの記載事項および図面を勘案すると,甲第1号証には,次の発明が記載されていると認められる。
「内山らの文献『半固形外用剤の品質評価手段としての放出試験法,薬剤学 54(4):253-260,1994』が用いたDisk Assemblyと類似した軟膏ディスク(軟膏充填部;直径42mm,深さ1mm:Hanson Research社製)に,ジブチルサイクリック AMP(ブクラデシンナトリウム,以下DBcAMPと略す)を有効成分としマクロゴールを軟膏基剤とするブクラデシン軟膏を充填し,放出面を合成樹脂膜で覆ったものをシンカーとした溶出試験器を用いて,日局溶出試験法第2法(パドル法)に従ってブクラデシン軟膏からのDBcAMPの放出する試験方法であって,試験液としてpH7.4のリン酸塩緩衝液を,前記合成樹脂成膜としてはメンブランフィルター(親水性デュラポアフィルター,HVLPポアサイズ0.45μm:ミリポア)を用い,放出試験液中のDBcAMP濃度をHPLCにより測定することを含むブクラデシン軟膏の放出試験方法。」(以下「甲1発明」という)

2 甲第2号証
甲第2号証は,本件出願前に頒布された刊行物であって,日本ミリポア株式会社が発行した商品カタログである。

(2-ア)
28頁には,ポリビニリデンジフロライド製メンブレンフィルター「デュラポア」の親水性/疎水性の製品の拡大写真,化学構造,製品概要が記載されているとともに,「仕様」として「HVLP」というフィルタータイプがあり,その孔径が0.45μmであり,厚さが125μmであることが示されている。

(2-イ)
29頁の「製品のご案内」には,「親水性」のもので「孔径0.45μm」の製品に直径等の異なる6種類の型番の頭に「HVLP」が付けられた製品があることが記載されている。

(2-ウ)
32頁には,親水性ポリテトラルフルオロエチレン製メンブレンフィルター「オムニポア」の製品の拡大写真,化学構造,製品概要,仕様等が記載されている。

3 甲第3号証
甲第3号証は,本件出願前に頒布された刊行物であって,図面と共に次の事項が記載されている。

(3-ア)
「現在,軟膏剤,クリーム剤などの塗り薬やパップ剤,プラスター剤などの貼布薬が皮膚局所での薬効を期待した外用剤として用いられている。また最近では,これら局所作用を目的としたものに加え,全身作用を期待したTransdermal Delivery SystemsがDDSの一つとして注目され,本邦でも数品目が市場に供されるに至っている。今後さらにさまざまな外用剤が市販されてくるものと予想されるが,本邦では外用剤の品質や機能を評価する方法についてはいまだ確立されていない。
アメリカではようやく1990年,USPXXII改正のDrug Releaseの項にTransdermal Delivery Systemsの評価として三つの試験方法が記載された^(1))。しかし,日本薬局方(日局)第12改正においては製剤試験法が数種記載されているものの^(2)),外用剤からの薬物放出試験方法は掲載されておらず,製剤開発や品質評価においてはそれぞれの企業独自の方法を用いているのが現状である。最近,ShahらはUSPの溶出試験器を用いた時計皿法(WG法)で外用剤の溶出試験を行いロット間のバラツキなどを評価している^(3,4))。また,同じく溶出試験器を用いた回転透析セル法(RDC法)により座剤や経口製剤の品質が評価されている^(5-7))。
そこでわれわれはBottariらが用いたdiffusion cell8)を改良したディスクアッセンブリー法(DA法)を開発し,これら3種の方法(WG法,RDC法,DA法)が外用剤の品質性を評価するための試験法として有効であるかを試験・考察した。なお,モデル外用剤としてインドメタシン(IDM)を含有したゲル軟膏,親水軟膏,単軟膏,およびワセリン軟膏を調製して用いた。」(253頁下から6行?254頁9行)

(3-イ)
「1.試料
IDM原末は日本化薬(株)(東京)から供与されたものを用いた。ヒドロキシプロピルセルロース150-400cp(HPC),・・・・・和光純薬工業(株)(大阪)より,ミリスチン酸イソプロピル(IPM)は東京化成工業(株)(東京)より購入した。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は・・・・・用いた。合成膜としては定性濾紙(Advantec(東京)製,No.2)を用いた。
2. 試料の調製
ゲル軟膏の調製は薬物懸濁液にHPCが5%になるようにした。親水軟膏および単軟膏は日局にしたがって調製したが,親水軟膏に関しては用時調製のため保存剤は削除した。また,ワセリン軟膏には白色ワセリンを用い,溶融法により調製した。それぞれの軟膏中にはIDMが0.7,1.0,1.3%になるように調整した。」(254頁11?21行)

(3-ウ)
「3)DA 法-1
各軟膏300mgをアクリル製のdisk assembly(軟膏充填部;直径:2.0cm,深さ:0.1cm)に放出面が平らになるように充填し,おもりとしてネジを取り付け放出面を上向きにして沈めWG法と同様に実験を行った(Fig.3)
4)DA 法-2
IDM含有量0.7,1.0,および1.3%の各軟膏をそれぞれ300mg充填して実験を行った。ゲル軟膏についてはパドル回転数50rpmで行い,その他の軟膏は100rpm出行った。また単軟膏およびワセリン軟膏に対してはNo.2の定性濾紙を直径2.5cmの円形に切り,Shahらの方法9)に従ってIPMを含浸させたものを放出面に適用した。その上にシリコンパッキンおよびアクリル板を重ねネジで固定し実験を行った。」(255頁8行?256頁6行)

(3-エ)
255頁のディスクアッセンブリー法の概略図を示すFig.3には,No.2の濾紙を放出面に適用したものとそうでない2種類のディスクアッセンブリーとともに,試験液を収容し,パドルが備えられた容器の底部にディスクアッセンブリーが放出面を上向きにして沈められた図が記載されている。

(3-オ)
「これらのことを総合すると,DA法は日局溶出試験器という汎用性のある装置を用いて高い再現性と簡便性を有し,さらに基剤の特性に合わせて合成膜などの適用も可能なことから外用剤の品質の評価法として有用性の高い試験方法であると思われる。」(260頁20?22行)

4 甲第4号証
甲第4号証は,本件出願前に頒布された刊行物であって,次の事項が記載されている。

(4-ア)
「(2)第2法(パドル法)
装置は,図66-1に示す半円球の底を持つ容器,図66-3に示すパドル,電動機及び恒温水槽からなる。パドルの撹拌翼は半径41.5mm,厚さ4.0±1.0mmの円盤を,下弦42.0mm,高さ19.0±0.5mmとなるように平行な弦で切ったもので,翼の左右上端の丸みは半径1.2mmとする注6(長円付き)]。回転軸は幅9.4?10.1mmとする。翼は下弦が回転軸の下端と同一面で水平になるように回転軸の中心を貫通して,回転軸と垂直になるように固定する。パドルの回転軸上端は電動機によって回転運動させるように受軸に取り付ける。試料が浮くような場合,図66-4に示す内径12.0±0.2mm,長さ25?26mmのシンカーを用いることができる。シンカー筒部は,線径1mmの耐酸性針金を内径12.0±0.2mm,3.0?3.5mmのピッチでらせん状に巻いたもので,外周は針金10本を支柱に用い,ほぼ等間隔で平行に固定されている。シンカー側面の一端は耐酸性針金2本ずつで十字に固定されているが,他の一端は試料が挿入できるように止め金で開閉できる構造となっている。注7(長円付き)」(B-680頁12?24行)

(4-イ)
「 操作法
(1)第1法及び第2法
医薬品各条に規定する一定量の試験液を容器にとり,液の温度を37±0.5℃に保つ。回転軸を受軸に取付け,規定する回転数の±4%の範囲で回転を行うよう調節する。
操作中,バスケットの下端又はパドルの下端と容器内底との距離は25±2mmに,また,回転軸の中心は容器の垂直方向の中心軸から2mm以上隔たらないように回転軸を固定する注10(長円付き)。操作中は,温度計を除き,容器にふたをして試験液の蒸発を防ぐ。また,パドル及びバスケットを滑らかに回転させ,揺動及び振動を生じないように注意する。
第1法で試験するときは,別に規定するもののほか,試料1個を乾燥したバスケットに入れ,連結盤に装着した後,規定された位置までバスケットを下げ,直ちに回転させる。第2法で試験するときは,別に規定するもののほか,試料1個を容器内底の中心部に沈めた後,直ちに規定の位置でパドルを回転させる。医薬品各条でシンカーを使用するよう規定されている場合は,試料をシンカーに入れて容器内の中央底部に沈める。」(B-681頁7?22行)

5 甲第7号証
甲第7号証は,本件出願前に頒布された刊行物であって,次の事項が記載されている。

(7-ア)
「禁忌(次の患者には投与しないこと)
(1)本剤又は他のインドメタシン製剤に対して過敏症の既往歴のある患者
(2)アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者〔重症喘息発作を誘発するおそれがある。〕」
(1頁左欄1?6行)

(7-イ)


」(1頁左欄)

第5 対比・判断
1 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(1)甲1発明の「ブクラデシン軟膏」は,前記記載事項(1-ア)からみて明らかに「経皮剤」であるし,同じく「内山らの文献『半固形外用剤の品質評価手段としての放出試験法、薬剤学 54(4):253-260,1994』が用いたDisk Assemblyと類似した軟膏ディスク(軟膏充填部;直径42mm,深さ1mm:Hanson Research社製)」は,当該内山らの文献である甲第3号証の前記記載事項(3-イ)を参照するまでもなく,「軟膏充填部;直径42mm,深さ1mm」という軟膏ディスクについての記載から,「片面に放出試験の対象となる経皮剤を保持する凹部を有するディスク」といえるものであるから,甲1発明には「片面に放出試験の対象となる経皮剤を保持する凹部を有するディスクに経皮剤を保持させる工程」が存在するといえる。

(2)甲1発明で放出面を覆う合成樹脂膜として使用されている「メンブランフィルター(親水性デュラポアフィルター,HVLPポアサイズ0.45μm:ミリポア)」は,甲第2号証の記載から,「親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマーであるポリビニリデンフロライドからなり,0.45μmの孔を有し,かつ厚さが125μmである多孔質膜」であるといえるから,甲1発明には,「親水処理化された親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマーからなり、0.1μmから5μmの孔を有し、かつ厚さが10μmから220μmである多孔質膜で該経皮剤を覆う工程」が存在するといえる。

(3)甲1発明の「日局溶出試験法第2法(パドル法)」は,前記記載事項(4-ア)および(4-イ)にあるように,試験液を収容した容器とその中の規定の位置で回転するパドルを用いる方法であって,「シンカー」を用いる場合は,該容器内の中央底部にシンカーは沈められ,試験液に漬されるといえうる。
そして,甲1発明における「シンカー」は、経皮剤(ブクラデシン軟膏)を片面の凹部に保持し放出面を合成樹脂膜で覆ったディスクであるから,放出面を下向きにして容器内の中央底部に沈めると,試験液と放出面の自由な接触が阻害されることは明らかである。
そうすると,甲第1号証には明記されていないものの,技術常識からして,当然,該ディスクは該多孔質膜が上面になるように沈められるといえるので,甲1発明には,「該ディスクを該多孔質膜が上面になるように試験液に浸す工程」が存在するといえる。
ちなみに、甲第3号証に記載の放出試験法においても,経皮剤を保持したディスクアッセンブリは,放出面を覆う合成膜の有無にかかわらず,放出面が上面になるように試験液に浸されている(前記記載事項(3-ウ),Fig.3参照)。

(4)甲1発明の「日局溶出試験法第2法(パドル法)」は,甲第4号証の前記記載事項(4-ア)および(4-イ)にあるように,試験液を収容した容器と規定の位置で回転するパドルを用いる方法であるから,甲1発明には「パドルを回転させる工程」が存在するといえる。

(5)甲1発明では,放出試験液中のDBcAMP濃度をHPLC,すなわち高速液体クロマトグラフィーにより測定しているので,甲1発明には「試験液を分析する工程」が存在するといえる。

(6)そうすると,本件発明1と甲1発明とは表現上の差異のみであって,何ら相違点がなく,実質的に同一であるといわざるを得ない。

(7)以上のことから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるというべきである。

2 本件発明4および5について
本件発明4は,本件発明1において「多孔質膜が親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマーである」と限定したものであり,本件発明5は,本件発明4において「フルオロカーボン系ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリビニリデンフロライドである」とさらに限定したものである。
しかしながら,上記「1 本件発明1について(2)」において述べたように,甲1発明の「メンブランフィルター(親水性デュラポアフィルター,HVLPポアサイズ0.45μm:ミリポア)」は,「親水処理化されたフルオロカーボン系ポリマーであるポリビニリデンフロライドからなり,0.45μmの孔を有し,かつ厚さが125μmである多孔質膜」であるといえ,「ポリテトラフルオロエチレン」が「フルオロカーボン系ポリマー」の一種であることは明らかであるから,本件発明4および5は,甲1発明と同一である言わざるを得ない。
してみると,本件発明4および5は,本件発明1と同様,甲第1号証に記載された発明であるというべきである。

3 本件発明6について
本件発明6は,本件発明1において「試験の対象となる経皮剤が、クリーム剤、ゲル剤または軟膏剤である」と限定したものである。
しかしながら,甲1発明は「ブクラデシン軟膏からのDBcAMPの放出する試験方法」であるから,上記「1 本件発明1について(1)」において述べたように,その試験対象は「経皮剤」であり,「軟膏製剤」であることは明らかである。
してみると,本件発明6は,本件発明1と同様,甲第1号証に記載された発明であるというべきである。

4 本件発明7について
本件発明7は,本件発明1において「試験の対象となる経皮剤が水溶性基剤からなる経皮剤である」と限定したものである。
しかしながら,甲1発明において,その試験の対象は「マクロゴールを軟膏基剤とするブクラデシン軟膏」であり,該「マクロゴール」が水溶性であることは技術常識であるといえる。
してみると,本件発明7は,本件発明1と同様,甲第1号証に記載された発明であるというべきである。

5 本件発明8および9について
本件発明8は,本件発明1において「試験の対象となる経皮剤が消炎鎮痛剤を有効成分として含有する経皮剤である」と限定したものであり,本件発明9は,本件発明8において「試験の対象となる経皮剤の有効成分である消炎鎮痛剤が、インドメタシンまたはケトプロフェンである」とさらに限定したものである。
そうすると,本件発明8および9と甲1発明とを対比すると,次の点で相違するものの,その余の点で一致する。

(相違点)
試験の対象が,本件発明8では「消炎鎮痛剤」であり,本件発明9では「インドメタシン」であるのに対し,甲1発明では,「ジブチルサイクリック AMP」であって,消炎鎮痛剤ではない点。

この相違点について検討すると,上記記載事項(3-ア)からみて,甲第3号証には「インドメタシンという消炎鎮痛剤を有効成分とする経皮剤を,パドルを備えた日局溶出試験器でディスクアッセンブリーの凹部に保持させて放出試験する方法」が記載されているといえる。
そして,引用発明の「ジブチルサイクリック AMP」と本件発明8および9の「消炎鎮痛剤」および「インドメタシン」とは「経皮剤」の成分として共通していることからみて,甲1発明における試験の対象を「ジブチルサイクリック AMP」を含む「経皮剤」から,「消炎鎮痛剤を有効成分とする経皮剤」あるいは「インドメタシンを有効成分とする経皮剤」へ変更することは,当業者とって何ら困難性がなく,甲第3号証の上記記載事項から十分に動機付けがあり,当業者であれば容易に想到し得る範囲内のことであるといえる。
してみると,本件発明8および9は,甲1発明および甲第3号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

(6)本件発明10について
本件発明10は,本件発明1?5において「試験の対象となる経皮剤がインドメタシンを含有する親水性クリームである」と限定したものである。
しかしながら,上記記載事項(7-ア)および(7-イ)からみて,甲第7号証には「有効成分としてインドメタシンを含有し,アルコールの一種である濃グリセリン等を添加物として含むクリーム」が記載され,該「アルコールの一種である濃グリセリン等」を含むことにより親水性となることは明らかである。
そうすると,甲1発明における試験の対象を「ジブチルサイクリック AMP」を含む「経皮剤」から,「試験の対象となる経皮剤がインドメタシンを含有する親水性クリーム」へ変更することは,当業者にとって何ら困難性がなく,甲第3号証の上記記載事項から十分に動機付けがあり,当業者であれば容易に想到し得る範囲内のことであるといえる。
してみると,本件発明10は,甲1発明および甲第3号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第6 むすび
以上のとおりであるから,本件発明1,4?7は,本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,また,本件発明8および9は,本件特許の出願前に頒布された甲第1および3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,さらに,本件発明10は,甲第1,3および7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許はいずれも同法第123条第1項第2号に該当し,その特許を無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-08 
結審通知日 2011-11-11 
審決日 2011-11-22 
出願番号 特願2003-308229(P2003-308229)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (G01N)
P 1 123・ 113- Z (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 淺野 美奈  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 小野寺 麻美子
信田 昌男
登録日 2009-10-30 
登録番号 特許第4397656号(P4397656)
発明の名称 放出試験方法  
代理人 竹林 則幸  
代理人 森田 ひとみ  
代理人 五十部 穣  
代理人 犬山 広樹  

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