• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1249662
審判番号 不服2008-17953  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-14 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2001-544640「フルオロシランでコーティングした微粒子をもつマニキュア組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月21日国際公開、WO01/43699、平成15年 5月20日国内公表、特表2003-516948〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年10月18日(パリ条約による優先権主張 1999年12月17日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成19年5月21日付けで拒絶理由通知書が出され,同年10月26日付けで手続補正がなされたが,平成20年4月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明の認定
本願の請求項1?17に係る発明は,平成19年10月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,下記の事項により特定される発明である。
「【請求項1】多数の微粒子の少なくとも一部がトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランでコーティングされた該多数の微粒子を含むマニキュア組成物。」

2 引用刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1:特開平10-1420号公報(拒絶理由の引用文献1),及び原査定で周知技術として引用された刊行物2:特開平11-181413号公報(拒絶査定で引用された先行技術文献2)には,以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1に記載された事項
[1a]「【請求項1】パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体を含有することを特徴とする美爪料。
【請求項2】パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体と樹脂とを混練して配合することを特徴とする請求項1記載の美爪料。
【請求項3】混練に用いられるパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体が雲母チタンを除く無機及び/または有機粉体であることを特徴とする請求項2記載の美爪料。
【請求項4】混練して用いられるパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体の配合量が0.01?15重量%であることを特徴とする請求項2又は3記載の美爪料。」(【特許請求の範囲】)

[1b]「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,安定性に優れ,使用性,化粧持ちの良好な美爪料に関する。」

[1c]「【0004】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意研究した結果,パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体を用いることにより,安定性に優れ,使用性,化粧持ちも良好な美爪料が得られることを見出し,本発明を完成するに至った。すなわち,本発明はパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体を含有することを特徴とする美爪料に関するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明に使用されるパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤としては,有機溶媒に可溶で経時的に溶出しないもの又は水性媒体中でエマルションになるものであれば特に制限されず,通常化粧料に用いられるものであればいずれのものも使用することができる。例えば,次式(1),(2)
CF_(3)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)・・・(1)
CF_(3)(CF_(2))_(7)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)・・・(2)
で表わされるパーフルオロアルキル基含有シランカップリング剤が挙げられ,具体的には信越化学工業(株)製のKBM-7103,KBM-7803等の市販品が挙げられる。これらの他にも,パーフルオロアルキル基を有する直鎖状オルガノシロキサンや環状オルガノシロキサンについても好適に使用できる。これらのパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤は必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。」

[1d]「【0006】本発明に用いられる粉体としては,通常化粧料に用いられるものであれば特に制限されず例えば,タルク,カオリン,マイカ,雲母チタン,酸化チタン,酸化鉄,酸化マグネシウム,酸化亜鉛,重質もしくは軽質炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,水酸化アルミニウム,硫酸バリウム,シリカ,アルミナ,シリカゲル,カーボンブラック,酸化アンチモン,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの無機粉体,蛋白質粉末,魚鱗箔,金属石鹸,ポリ塩化ビニル,ナイロン粉末,タール色素,レーキなどの有機粉体が挙げられる。」

[1e]「【0007】これらの粉体をパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で処理するには,例えば,粉体の1種又は2種以上の混合物に溶媒を加えてスラリー状態とし,これにパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤を加え,必要に応じこれを加熱混合し,溶媒を揮散することにより,粉体表面をパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の連続層で被覆させ,必要に応じこれを洗浄,濾過,乾燥すればよい。処理時の粉体の濃度は特に制限されないが,例えば5?20重量%(以下,単に%で示す)の比較的高濃度でも十分な攪拌混合が可能であり,小型装置で大量処理が可能である。また,パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の量は,粉体に対して0.1?10%であり,特に0.5?5%が好ましい。」

[1f]「【0013】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。尚,これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0014】製造実施例1
(処理粉体の製造方法)
処理(a):界面活性剤処理粉体:イソプロピルアルコールにニッコールDDP-6(日光ケミカルズ社製)を溶解し,この中に粉体を添加攪拌後,イソプロピルアルコールを揮散させて,5%界面活性剤処理粉体を得た。
処理(b):シリコン処理粉体:イソプロピルアルコールにシリコーンKF99P(信越化学工業(株)製)を溶解し,この中に粉体を添加攪拌後,イソプロピルアルコールを揮散させることにより,5%シリコン処理粉体を得た。
処理(c):パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤処理粉体:イソプロピルアルコールにKBM-7103(信越シリコーン(株)製)を加え,この中に粉体を添加混合後,イソプロピルアルコールを揮散させることにより,5%シランカップリング剤処理粉体を得た。
【0015】実施例1?2,及び比較例1?6
下記表1に示す組成の美爪料を調製し,下記の方法により,(1)分散性,(2)沈降性,(3)化粧持ちについての評価を行った。評価結果を表2に示す。実施例,比較例中の%は重量%を示す。
【0016】
【表1】


【0017】(製法)成分(1)?(10)を混合する。これに成分(11)?(18)を添加し,均一混合して製品とする。
【0018】(評価方法)
(1)分散性:製造直後の製品について,以下の基準により評価した。
◎:良好
○:やや凝集
△:凝集
×:非常に凝集
【0019】
(2)沈降性:製品を50℃の恒温槽に1ヶ月放置した後,以下の基準により評価した。
◎:沈降なし
○:やや沈降
△:沈降
×:非常に沈降
【0020】(3)化粧持ち:10名の官能パネルにより,各製品を(a)絶対評価基準を用いて7段階に評価し,各製品ごとの評価点の平均値を(b)4段階評価基準を用いて評価した。
(a)絶対評価基準
(評点):(評価)
6:非常に良い
5:良い
4:やや良い
3:普通
2:やや悪い
1:悪い
0:非常に悪い
【0021】
(b)4段階評価基準
5点以上:非常に良い
3点以上5点未満:良好
1点以上3点未満:やや不良
1点未満:不良
【0022】
【表2】

【0023】表2の結果から明らかなように,本発明品である実施例1?2の美爪料は分散性が良好で,1ヶ月放置後も凝集せず,しかも化粧持ちも良好なものであった。これに対し,比較例1?6の美爪料においては分散性,沈降性,及び化粧持ちのすべてに優れるものは得られなかった。また,本発明の美爪料は膜厚感もなく,官能,及び使用性においても優れたものであった。
【0024】
【発明の効果】以上のように,パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体を用いることにより,安定性に優れ,使用性,化粧持ちも良好な美爪料が得られる。」

(2)刊行物2に記載された事項
[2a]「【請求項1】有機粉体を撥水撥油剤および反応助剤で処理して得られる撥水撥油性粉体。
【請求項2】撥水撥油剤が,パーフルオロアルキルシラン,パーフルオロアルキルシラザン,パーフルオロ基含有オルガノシロキサンから少なくとも1種以上選択されることを特徴とする請求項1記載の撥水撥油性粉体。
【請求項3】反応助剤が金属アルコキシドから少なくとも1種以上選択されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の撥水撥油性粉体。
【請求項4】請求項1?3記載の撥水撥油性粉体を含有する化粧料。」(【特許請求の範囲】)

[2b]「【0013】本発明のパーフルオロアルキルシランとは,直鎖もしくは分岐鎖の炭素数4以上のパーフルオロアルキル基または当該パーフルオロアルキル基のフッ素原子のうち1個を水素原子で置換した基を有するシラン化合物を指す。具体的には,パーフルオロアルキルシランとしては例えば次の化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】



3 対比・判断
(1)刊行物1記載の発明
特に上記[1a]の記載によれば,刊行物1には,以下の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面を処理した粉体を含有することを特徴とする美爪料。」

(2)本願発明と刊行物1発明との対比
ア 刊行物1発明の「パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤」は,本願発明の「トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン」と,「パーフルオロアルキルシラン化合物」である点で共通する。

イ 刊行物1発明の「美爪料」は,本願発明の「マニキュア組成物」に相当する。

ウ 刊行物1発明では,「粉体」を,パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で「表面を処理」したものであるのに対し,本願発明では,「多数の微粒子の少なくとも一部」を,トリデカフルオロオクチルトリエトキシシランによって「コーティング」したものである。
ここにおいて,刊行物1発明における「粉体」は,「多数」であることは技術常識から明らかであるから,[1d]の記載及び本願明細書段落【0027】?【0029】の微粒子についての記載を鑑みると,本願発明の「多数の微粒子」に相当する。
また,刊行物1発明における粉体の表面処理は,「粉体表面をパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の連続層で被覆させ」る処理であるから([1e]参照),該「被覆」は「コーティング」に相当する。
そして,刊行物1発明の「パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤」と,本願発明の「トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン」は,共に微粒子をコーティングするものであるから「処理剤」ということができる。

以上のことを総合すると,両発明は,「多数の微粒子の少なくとも一部が,処理剤であるところのパーフルオロアルキルシラン化合物によってコーティング処理された該多数の微粒子を含むマニキュア組成物」という点で一致し,次の相違点を有する。
(相違点)
処理剤であるところのパーフルオロアルキルシラン化合物が,本願発明では「トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン」と特定されているのに対し,刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。

(3)相違点についての検討
上記「パーフルオロアルキルシラン化合物」について,刊行物1の[1c]には「本発明に使用されるパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤としては,有機溶媒に可溶で経時的に溶出しないもの又は水性媒体中でエマルションになるものであれば特に制限されず,通常化粧料に用いられるものであればいずれのものも使用することができる。」と記載され,具体例としてCF_(3)(CF_(2))_(7)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)が例示されている。
一方,刊行物2には,化粧料用粉体を撥水撥油処理するための「パーフルオロアルキルシラン」として,「本発明のパーフルオロアルキルシランとは,直鎖もしくは分岐鎖の炭素数4以上のパーフルオロアルキル基または当該パーフルオロアルキル基のフッ素原子のうち1個を水素原子で置換した基を有するシラン化合物を指す。」との定義,並びにC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)SiX_(3)と共にC_(6)F_(13)CH_(2)CH_(2)SiX_(3)(X:アルコキシ基,ハロゲンまたはイソシアネート基)が列記されている。さらに,本願明細書【0026】に記載されているように,「トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン」は市販物として周知である。
してみると,刊行物1発明におけるパーフルオロアルキルシラン化合物として,化粧料粉体に撥水撥油性を付与するための表面処理剤として公知のC_(6)F_(13)CH_(2)CH_(2)SiX_(3)(Xがエトキシ基)であるところのトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランを選択することは,当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明の効果についても検討するに,本願発明の効果は本願明細書【0001】【0036】?【0038】に記載されているとおり,(a)マニキュアの着色剤の沈降,移動及び浮遊の減少,(b)爪のよごれの減少,(c)マニキュアの光沢改良,(d)マニキュアの水抵抗性又は撥水性の改良又は増加,(e)マニキュアの安定性の改良又は増加,及び(f)マニキュアのレオロジー改良であると認められる。
一方,刊行物1の摘記事項[1f]によると,パーフルオロアルキルシラン化合物を顔料の表面処理剤として用いた美爪料は,顔料の分散性が良好で,経時的な凝集も起こらず,使用性(化粧持ち,膜厚感)も優れたものである。また,刊行物2にはパーフルオロアルキルシラン化合物が撥水性を有することが記載されている。
してみると,本願発明の効果のうち,(a)マニキュアの着色剤の沈降,移動及び浮遊の減少,(c)マニキュアの光沢改良,(d)マニキュアの水抵抗性又は撥水性の改良又は増加,(e)マニキュアの安定性の改良又は増加,及び(f)マニキュアのレオロジー改良については,刊行物の記載から予測し得るものといえる。
さらに,本願発明の効果のうち,(b)爪のよごれの減少については,本願明細書において実験等によって確認されておらず,技術常識を考慮しても当該効果が奏されるか不明であって,刊行物1及び2から予測される効果以上の顕著な効果が奏されるとはいえない。

4 むすび
したがって,本願請求項1に記載された発明は,刊行物1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
そして,その余の請求項に記載された発明についても同様である。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-04 
結審通知日 2011-08-09 
審決日 2011-08-25 
出願番号 特願2001-544640(P2001-544640)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
郡山 順
発明の名称 フルオロシランでコーティングした微粒子をもつマニキュア組成物  
代理人 畑 泰之  
代理人 斉藤 武彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ