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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1250644
審判番号 不服2010-22280  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-04 
確定日 2012-01-19 
事件の表示 特願2009-232357「冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 83095〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年10月6日の出願であって、平成22年7月13日付けで拒絶査定がなされ、同年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成23年6月16日付けで当審の拒絶理由が通知され、同年8月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月4日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「筐体と、
前記筐体の底面側に設けられ絶縁体を有するステータと、
前記ステータの外周に設けられファンブレードを設けたロータと、
前記ステータの外周であって前記ロータの内周に設けられ、前記筐体の底面に平行な方向において磁界を発生させる異方性のマグネットと、
前記絶縁体の外周であって前記筐体側に設けられ、前記マグネットを引き付ける環状のリングとを備え、
前記リングは、前記筐体の底面側から前記ロータ側に向かって伸びる環状の立ち上がり部を備え、
前記リングと前記マグネットが接触しないように、前記立ち上がり部の外径は前記ステータの最外径以下であることを特徴とする冷却装置。」

3.引用例
(3-1)引用例1
当審の拒絶理由に引用した特開2003-47222号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
・「【0002】
【従来の技術】例えば、OA機器における電子部品等の冷却に使用されるファンモータは、固定部材である樹脂製のモータハウジングに一体成型により形成された円筒状の支持部の内側に、滑り軸受を介して回転自在にシャフトが支持され、ステータコア及びこれに巻回されたステータ巻線を有するステータが支持部に外嵌固定され、ロータがシャフトに固着され、このロータの外周には複数のブレードが一体的に形成されると共に、内周には円筒状の駆動用のロータマグネットが内嵌固定され、ロータマグネットがステータコアの外周に対向して配置されて構成されている。」

・「【0033】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)この発明にかかるモータを、ファンモータに適用した場合の第1実施形態について図1ないし図6を参照して説明する。但し、図1は切断正面図、図2は一部の底面図、図3及び図4はステータの底面図及び斜視図、図5及び図6はスラストワッシャの平面図及び切断正面図である。尚、図4はステータ及びその周辺部の一部のみを示している。
【0034】図1ないし図6に示すように、固定部材である樹脂製のモータハウジング1の矩形の筒状体略中央部に、複数のアームによって支持される円筒状の支持部2が一体成型により形成され、この支持部2の内側に滑り軸受3を介してシャフト4が回転自在に支持され、支持部2の外側には、ステータ6が外嵌固定されている。支持部2の外周面下部には、複数のアームを連結するフランジ部が広がっている。滑り軸受3は、例えば含油性の多孔質金属から成る。
【0035】このステータ6は、特に図4に示すように、ステータコア6aと、このステータコア6aに巻回されたステータ巻線6bと、ステータコア6aとステータ巻線6bとの間に介在して両者を電気的に絶縁する上下2分割された合成樹脂から成る上、下インシュレータ6c,6dを備えている。ここで、ステータコア6aは、珪素鋼板を積層して成り、環状部とこの環状部の外周面から放射状に伸びる複数の歯部(図4では4個のうち2個のみを示す)とから成る。また、上、下インシュレータ6c,6dは、歯部の外周面及び環状部の内周面以外を覆うものである。
【0036】この上インシュレータ6cの内周側には、後述するロータハウジングの一部に係合してシャフト4の抜けを防止するための断面鉤状のストッパ部7と、支持部2の上端部とを挟持する断面コ字状を有する挟持部7aが樹脂の一体成型によって形成されている。
【0037】また、下インシュレータ6dの内周には下方に延びた円筒部8が形成され、特に図4に示されるように、各歯部に対応する下インシュレータ6dの外周には下方に延びた4個の延出片9がそれぞれ形成され、これら円筒部8及び各延出片9は樹脂の一体成型によって形成されている。ここで、各延出片9は、ステータ6の4個の歯部に対応する位置に形成され、中心角90゜ごとの間隔で形成されている。更に、隣接する各歯部間に対応する上、下インシュレータ6c,6dには、突出部(ここでは、4個)が形成され、この突出部を貫通する端子ピン13(ここでは、4個の突出部のうち、3個の突出部にそれぞれ端子ピンがある)が設けられている。
【0038】そして、ステータ巻線6bに通電するための回路部品が実装された円板状の回路基板10は、これに形成された円形孔11に円筒部8が嵌入して固定されるようになっている。このとき、回路基板10は、ステータ6とモータハウジング1との間に配置され、回路基板10に各延出片9が当接することでステータ6と回路基板10との所定の間隔が保たれている。
【0039】端子ピン13は上、下インシュレータ6c,6dの突出部の上側及び下側から突出され、各端子ピン13の上端部にステータ巻線6bがからげられ、各端子ピン13の下端部が回路基板10に透設された端子ピン用の透孔14にそれぞれ遊通され、回路基板10の裏面に形成された配線パターンに各端子ピン13が半田付けされ、各端子ピン13を介してステータ巻線6bと回路基板10との電気的導通が確保されている。各端子ピン13と回路基板10とが半田付けされることで、回路基板10はステータ6にいっそう安定して保持される。更に、ロータマグネット21と回路基板10との間には、後述するスラストワッシャが配設される。
【0040】ところで、シャフト4の下方位置には、シャフト4を摺動自在に受けるスラストチップ16が設けられており、このスラストチップ16は、例えば合成樹脂から成り、モータハウジング1の支持部2の底部に形成された凹窪部に嵌入されている。
【0041】また、シャフト4の上端部には、樹脂製のロータ18が射出成形により取り付けられている。このとき、ロータ18の円板状を成す基部18aの下面中央部に円筒状嵌入部19が形成され、ロータ18の基部18aの周縁部に下方に垂下して一体的に形成された垂下部18bの外周には、ファンを構成する複数個のブレード22が一体的に形成されている。更に、この垂下部18bの内側に磁性材から成るロータヨーク20が内嵌され、このロータヨーク20の内側に円筒状のロータマグネット21が嵌入されて固定される。このようなシャフト4を滑り軸受3に挿入すると、ロータマグネット21がステータ6の外周に互いの磁気センタを一致させた状態で対向配置される。ここで、磁気センタを一致させるとは、ロータマグネット21及びステータ6の各々の磁界の軸方向の中心を一致させることをいう。
【0042】また、ロータマグネット21に軸方向に対向する回路基板10には、磁気吸引力発生部材である磁性材から成るスラストワッシャ24が配設されている。このスラストワッシャ24は、プレス加工により成形されたもので、特に図5及び図6に示されるように、リング状のワッシャ基部24aと、このワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲されて形成された屈曲部24bとにより構成されている。
【0043】そして、このワッシャ基部24aの内周には中心角90゜ごとの間隔で一対ずつの突部26が形成され、特に図2及び図4(図4では、スラストワッシャ24は一部のみ1点鎖線で示す)に示されるように、一対ずつの突部26間に下インシュレータ6dの各延出片9それぞれが挟持されてスラストワッシャ24が下インシュレータ6dに係止されている。図5中の27は回路基板10に配設されたホール素子を回避するための切欠部である。ここで、各延出片9が本発明における被係止部に相当し、各突部26が本発明における係止部に相当する。
【0044】しかも、一対の突部26がステータコア6aの歯部の下面を覆う下インシュレータ6dの下面部に当接し、屈曲部24bが回路基板10に当接している。スラストワッシャ24の高さ寸法は、回路基板10と下インシュレータ6dの下面部との距離と同一か、または幾分大きく設定されているため、スラストワッシャ24は、ステータ6と回路基板10とによって軸方向への押圧力を受けている。スラストワッシャ24は屈曲部24bによりワッシャ基部24aが回路基板10から上方に位置する形状であるので、その押圧力によりワッシャ基部24aが下方に幾分撓むようになり、支持状態が安定する。
【0045】上記したように各突部26間に延出片9を挟持することによるスラストワッシャ24の下インシュレータ6dとの係止と、スラストワッシャ24に対するステータ6と回路基板10より作用する押圧力とによる支持状態により、接着剤等を使用することなくスラストワッシャ24がシャフト4の回転方向及び軸方向へ移動することなく固定されている。このスラストワッシャ24により、ロータマグネット21に対してシャフト4の軸方向への磁気吸引力であるスラスト力が、シャフト4に作用する。それ故に、ロータマグネット21とステータ6との磁気センタを一致させたまま作用され、シャフト4が振れ回ることなく円滑に回転可能に支持されるのである。
【0046】ここで、スラストワッシャ24における屈曲部24bは、スラストワッシャ24の支持状態を良好にする効果があるが、これ以外にも屈曲部24bの屈曲量を変更してワッシャ基部24aとロータマグネット21との距離を調節して磁気吸引力の調整を図ることができる。それ故に、シャフト4の安定回転に必要な所定のスラスト力に応じて、ロータマグネット21とスラストワッシャ24の最適な距離が決定されるので、屈曲部24bの屈曲量は適宜変更するとよい。」

・「【0058】また、第1実施形態の変形例として図11及び図12に示すように、各延出片9の外周面に円周方向の凹溝34を形成し、スラストワッシャ24のワッシャ基部24aの内周縁をこの凹溝34に嵌挿しつつ両突部26間に延出片9を挟持してもよい。この場合、延出片9の凹溝34の端面とワッシャ基部24aとが当接し、同様の押圧力が作用する。更に、第2実施形態における延出片30にもこの凹溝34を形成し、両突部26による延出片30の挟持と凹溝34へのワッシャ基部24aの嵌挿を併用してスラストワッシャ24を下インシュレータ6dに強固に係止するようにしてもよい。
【0059】更に、第1、2実施形態の異なる変形例として、図13に示すように、上記した凹溝34に代えて、延出片9,30の外周面にスラストワッシャ24のワッシャ基部24aの内周縁を上下から挟持する一対の突起36を形成してもよい。この場合にも、両突部26間に延出片9,30を挟持すると共に、両突起36間にワッシャ基部24aを挟持するだけで、シャフト4の回転方向及び軸方向へのスラストワッシャ24の移動を簡単かつ確実に防止することができ、スラストワッシャ24をワッシャ基部24aのみから成る簡単な構成にすることが可能になる。ここで、突起36は少なくとも1個あればよく、スラストワッシャ24のワッシャ基部24aの上面が突起36に当接することにより、スラストワッシャ24のシャフト4の軸方向への移動を阻止できればよい。
【0060】また、第1、第2実施形態の更に異なる変形例として、図14に示すように、ワッシャ基部24aに貫通孔38を形成し、この貫通孔38に延出片9,30を挿通するようにしてもよい。」

・図1には、モータハウジング1の底面側に設けられ上、下インシュレータ6c,6dを有するステータ6、ステータ6の外周に設けたロータ18及びロータマグネット21、スラストワッシャ24の屈曲部24bのリング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された部分の外径がステータ6の最外径以上である点が示されている。

・図2及び図4には、下インシュレータ6dの外周であってモータハウジング1側に設けられたスラストワッシャ24が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、上記引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「モータハウジング1と、
前記モータハウジング1の底面側に設けられ、上、下インシュレータ6c,6dを有するステータ6と、
前記ステータ6の外周に設けられ、垂下部18bの外周には、ファンを構成する複数個のブレード22が一体的に形成されたロータ18と、
前記ステータ6の外周に設けられ、前記ロータ18の垂下部18bの内側に内嵌されたロータヨーク20の内側に嵌入されて固定されたロータマグネット21であって、ロータマグネット21及びステータ6の各々の磁界の軸方向の中心を一致させたロータマグネット21と、
前記下インシュレータ6dの外周であって前記モータハウジング1側に設けられ、ロータマグネット21に対してシャフト4の軸方向への磁気吸引力であるスラスト力をシャフト4に作用させる、リング状のワッシャ基部24aを有するスラストワッシャ24とを備え、
前記スラストワッシャ24は、屈曲部24bのリング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された部分とを備え、
前記スラストワッシャ24の屈曲部24bのリング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された部分の外径がステータ6の最外径以上であるOA機器における電子部品等の冷却に使用されるファンモータ。」

(3-2)引用例2
同じく当審の拒絶理由に引用した米国特許第6483209号明細書には、(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。

・「Referring to FIGS. 1 and 2 , a motor 1 in accordance with the present invention generally comprises a base plate 10 with an axle seat 11 formed thereon, a stator bobbin 12 mounted to the axle seat 11 , and a rotor 14 having a shaft 15 . Electric elements (not shown) for driving the motor are mounted on the base plate 10 . The stator bobbin 12 includes an axle hole 13 for rotatably receiving the shaft 15 of the rotor 14 .The rotor 14 further includes a skirt 14 a , and a permanent ring magnet 16 is securely attached to an inner periphery of the skirt 14 a. In this embodiment, the permanent ring magnet 16 extends beyond a lower edge of the skirt 14 a of the rotor 14 , best shown in FIG. 2 .
The balance ring 2 is made of a material allowing mutual attraction between the balance plate 2 and the permanent ring magnet 16 .」(明細書第2欄13行?28行)

[図1と図2を参照すると、本発明によるモータ1は、概して、軸座11をその上に形成したベース板10、軸座11に取り付けられたステータボビン12と軸15を有するロータ14を含む。モータを駆動するための電気素子(図示されない)がベース板10に取り付けられる。ステータボビン12はロータ14の軸15を回転可能に受け入れるための軸穴13を含む。ロータ14はさらにスカート14aを含み、そして、永久リング磁石16はスカート14aの内周面にしっかりと取り付けられている。この実施の形態においては、永久リング磁石16は、図2に最もよく示されるように、ロータ14のスカート14aの下端を越えている。
バランスリング2は、バランスプレート2と永久リング磁石16を互いに引きつける材料からなる。](和訳は当審による。)

・「FIG. 3 illustrates a second embodiment of the present invention, wherein the balance ring 3 comprises a plurality of engaging pieces 31 respectively engaged in the positioning holes 18 of the base plate 10 . The balance ring 3 includes an upright annular wall 32 located inside the permanent ring magnet 16 and an annular bottom wall 33 extending radially outward from a lower annular edge of the upright annular wall 32 . Preferably, the upright annular wall 32 is orthogonal to the annular bottom wall 33 .
When the rotor 14 rotates, since the upright annular wall 32 is located inside the permanent ring magnet 16 and since the upright annular wall 32 and the permanent ring magnet 16 attract each other while the annular bottom wall 33 and the permanent ring magnet 16 attract each other, a relatively larger magnetic attraction area is provided between the balance ring 3 and the permanent ring magnet 16 . Meanwhile, since the permanent ring magnet 16 is attracted in two directions by the upright annular wall 32 and the annular bottom wall 33 , respectively, the rotor 14 rotates about a fixed axis and is pulled downward in a balanced manner, thereby providing the rotor with the best balanced stable rotation.」(明細書第2欄59行?第3欄13行)

[図3は、本発明の第2の実施の形態を説明するもので、ここで、バランスリング3は各々ベース板10の位置決め穴18に係合する複数の係合片31を含む。バランスリング3は、永久リング磁石16の内側に位置した直立状態の環状壁32と直立状態の環状壁32の下側の環状端から径方向外側に延びる環状の底壁33を含む。好ましくは、直立状態の環状壁32は環状の底壁33に対して直角である。
ロータ14が回転したとき、直立状態の環状壁32が永久リング磁石16の内側に位置し、環状の底壁33と永久リング磁石16が互いに引きあうとともに直立状態の環状壁32と永久リング磁石16が互いに引きあうので、比較的より大きな磁気引力領域がバランスリング3と永久リング磁石16との間に与えられる。一方、永久リング磁石16は直立状態の環状壁32と環状の底壁33のそれぞれにより2方向に引かれるので、ロータ14は固定軸の周りを回転し、バランスよく下側に引かれ、その結果、ロータに最もバランスのとれた安定した回転を与える。]

・「FIG. 5 illustrates a fourth embodiment of the present invention, wherein the balance ring 6 comprises a plurality of engaging pieces 61 respectively engaged in the positioning holes 18 of the base plate 10 . The balance ring 6 includes an upright annular wall 62 located inside the permanent ring magnet 16 . When the rotor 14 rotates, since the upright annular wall 62 is located inside the permanent ring magnet 16 , the upright annular wall 62 and the permanent ring magnet 16 attract each other. Thus, when the rotor 14 rotates, it is balanced and rotates about a fixed axis without wobbling, thereby providing the rotor with the best balanced stable rotation.」(明細書第3欄26行?37行)

[図5は、本発明の第4の実施の形態を説明するもので、ここで、バランスリング6は各々ベース板10の位置決め穴18に係合する複数の係合片61を含む。バランスリング6は、永久リング磁石16の内側に位置した直立状態の環状壁62を含む。ロータ14が回転したとき、直立状態の環状壁62が永久リング磁石16の内側に位置しているので、直立状態の環状壁62と永久リング磁石16が互いに引きあう。したがって、ロータ14が回転したとき、バランスがとれ、ロータ14は固定軸の周りをぶれなく回転し、その結果、ロータに最もバランスのとれた安定した回転を与える。]

・図3には、ステータボビン12の外周であってロータ14の内周に永久リング磁石16を設ける点、直立状態の環状壁32の外径が、永久磁石リング16の内径より小さい点が示されている。

・図5には、ステータボビン12の外周であってロータ14の内周に永久リング磁石16を設ける点、直立状態の環状壁62の外径が、永久リング磁石16の内径より小さい点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、上記引用例2には、ステータボビン12の外周であってロータ14の内周に永久リング磁石16を設けたものにおいて、ロータ14を最もバランスのとれた安定した回転をさせるために、バランスリング3,6が備える直立状態の環状壁32,62と永久リング磁石16を引き合わせ、その際、直立状態の環状壁32,62の外径を永久リング磁石16の内径より小さくする点が示されているものと認められる。

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その機能・作用からみて、後者の「モータハウジング1」が前者の「筐体」に相当する。

次に、後者の「上、下インシュレータ6c,6d」が前者の「絶縁体」に相当し、以下同様に「ステータ6」が「ステータ」に相当するので、後者の「モータハウジング1の底面側に設けられ上、下インシュレータ6c,6dを有するステータ6」が前者の「筐体の底面側に設けられ絶縁体を有するステータ」に相当する。

また、後者の「ファンを構成する複数個のブレード22が一体的に形成された」態様が前者の「ファンブレードを設けた」態様に相当し、以下同様に「ロータ18」が「ロータ」に相当するので、後者の「ステータ6の外周に設けられ、垂下部18bの外周には、ファンを構成する複数個のブレード22が一体的に形成されたロータ18」が前者の「ステータの外周に設けられファンブレードを設けたロータ」に相当する。

そして、後者の「ロータ18の垂下部18bの内側に内嵌されたロータヨーク20の内側に嵌入されて固定され」る態様が前者の「ロータの内周に設けられ」る態様に相当し、以下同様に「ロータマグネット21」が「マグネット」に相当し、後者のロータマグネット21もロータ18を回転させるために、ステータ6との関係からモータハウジング1の底面に少なくとも略平行な方向において磁界を発生させているものと認められるので、後者の「ステータ6の外周に設けられ、ロータ18の垂下部18bの内側に内嵌されたロータヨーク20の内側に嵌入されて固定されたロータマグネット21であって、ロータマグネット21及びステータ6の各々の磁界の軸方向の中心を一致させたロータマグネット21」と前者の「ステータの外周であってロータの内周に設けられ、筐体の底面に平行な方向において磁界を発生させる異方性のマグネット」とは、「ステータの外周であってロータの内周に設けられ、筐体の底面に少なくとも略平行な方向において磁界を発生させるマグネット」との概念で共通する。

さらに、上記のように後者の「下インシュレータ6d」は前者の「絶縁体」に相当し、後者の「ロータマグネット21に対してシャフト4の軸方向への磁気吸引力であるスラスト力をシャフト4に作用させる」態様が前者の「マグネットを引き付ける」態様に相当し、以下同様に「リング状」が「環状」に、「リング状のワッシャ基部24aを有するスラストワッシャ24」が「環状のリング」にそれぞれ相当するので、後者の「下インシュレータ6dの外周であってモータハウジング1側に設けられ、ロータマグネット21に対してシャフト4の軸方向への磁気吸引力であるスラスト力をシャフト4に作用させる、リング状のワッシャ基部24aを有するスラストワッシャ24とを備え」る態様が前者の「絶縁体の外周であって筐体側に設けられ、マグネットを引き付ける環状のリングとを備え」る態様に相当する。

また、後者の「リング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された」態様が前者の「筐体の底面側からロータ側に向かって伸びる」態様に相当するので、後者の「屈曲部24bのリング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された部分」が前者の「筐体の底面側からロータ側に向かって伸びる環状の立ち上がり部」に相当する。

そして、後者の「スラストワッシャ24の屈曲部24bのリング状のワッシャ基部24aの外周部が下方に屈曲された部分の外径がステータ6の最外径以上である」態様と前者の「リングとマグネットが接触しないように、立ち上がり部の外径はステータの最外径以下である」態様は、「立ち上がり部の外径とステータの最外径は所定の関係を有している」との概念で共通する。

最後に、後者の「OA機器における電子部品等の冷却に使用されるファンモータ」が前者の「冷却装置」に相当する。

したがって、両者は、
「筐体と、
前記筐体の底面側に設けられ絶縁体を有するステータと、
前記ステータの外周に設けられファンブレードを設けたロータと、
前記ステータの外周であって前記ロータの内周に設けられ、前記筐体の底面に少なくとも略平行な方向において磁界を発生させるマグネットと、
前記絶縁体の外周であって前記筐体側に設けられ、前記マグネットを引き付ける環状のリングとを備え、
前記リングは、前記筐体の底面側から前記ロータ側に向かって伸びる環状の立ち上がり部を備え、
前記立ち上がり部の外径と前記ステータの最外径は所定の関係を有している冷却装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
筐体の底面に少なくとも略平行な方向において磁界を発生させるマグネットに関し、本願発明においては、筐体の底面に「平行」な方向に磁界を発生させる「異方性」のマグネットであるのに対し、引用発明のマグネットは、筐体の底面に「少なくとも略平行」な方向に磁界を発生させるマグネットであるものの、「平行」な方向であるか否かが不明であり、さらに、「異方性」のマグネットか否かが不明な点。
[相違点2]
立ち上がり部の外径とステータの最外径が有している所定の関係に関し、本願発明においては「リングとマグネットが接触しないように、立ち上がり部の外径はステータの最外径以下である」のに対し、引用発明においてはそのような構成を有していない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。
・相違点1について
本願発明において、筐体の底面に「平行」な方向において磁界を発生させる「異方性」のマグネットを用いることの技術的意義は、明細書の段落【0035】に「ロータマグネット7は、異方性のマグネットを使用しており、ロータ6を回転させるために、筐体1の底面に平行な方向に対して磁界が強く、その向きに垂直な方向(スラスト方向)に対しては、磁界が弱くなっている。」と記載されていることから、ロータを回転させるためであるものと解釈できる。

ここで、筐体の底面に「平行」な方向において磁界を発生させる「異方性」のマグネットを用いることは、ステータの外周であってロータの内周にマグネットを設けたものにおける常套手段(必要であれば、特開2001-56021号公報の段落【0028】の「ラジアル異方性の円筒状磁石」、特開2006-304475号公報の段落【0020】及び図5(c)、特開2005-45890号公報の段落【0010】、【0011】、【0015】、【0018】(「エンドブラケット7」はその固定方向によって「筐体の底面」になるものである)及び図3等参照)である。

そうすると、引用発明においてもロータを回転させる必要があることは自明なことであるから、引用発明のマグネットに上記常套手段を採用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2について
まず、本願発明において、「立ち上がり部の外径はステータの最外径以下」とすることの技術的意義は、本願発明で特定されているように「リングとマグネットが接触しないよう」にするためであり、このことをかんがみると、リングとマグネットが接触しない限度において、立ち上がり部の外径とステータの最外径の大きさの関係をどのように設定するかは当業者が適宜選択する設計事項といえる。

また、本願発明においては、明細書の段落【0034】?【0037】に「【0034】ここで、リング5をロータマグネット7とインシュレータ8と間に配置した理由について説明する。【0035】ロータマグネット7は、異方性のマグネットを使用しており、ロータ6を回転させるために、筐体1の底面に平行な方向に対して磁界が強く、その向きに垂直な方向(スラスト方向)に対しては、磁界が弱くなっている。【0036】そのため、上記リング5のような金属体を筐体1の底面に平行な方向に配置しても、スラスト方向に働く力が弱く、スラストリプルに対して有効に作用しない恐れがある。【0037】そのため、本発明では、効率よくスラスト方向に働く力を発生させるためにロータマグネット7の磁界の強い方向(筐体1の底面に平行な方向)に対して金属体が交わる方向(磁界の強い方向に対して非平行となる方向)になるように、スラスト方向にリング5を設けている。」と記載されていることから、本願発明では主に「環状のリング」に備わっている「環状の立ち上がり部」で「マグネット」と引き合わせているものと解釈することができる。

これに関し、例えば、上記引用例2にも開示されているように、ロータ(「ロータ14」が相当)を最もバランスのとれた安定した回転をさせるために、環状のリング(「バランスリング3,6」が相当)が備える環状の立ち上がり部 (「直立状態の環状壁32,62」が相当)とマグネット(「永久リング磁石16」が相当)を引き合わせ、その際、環状の立ち上がり部の外径をマグネットの内径より小さくすることは、ステータ(「ステータボビン12」が相当)の外周であってロータの内周にマグネットを設けたもの(いわゆるアウタロータ型のモータ)における周知技術であり、その結果、リングとマグネットが接触しないようになることは自明なことである。

ここで、引用発明もスラストワッシャ24とロータマグネット21を用いてロータを安定して回転させるものである(引用例1の段落【0011】の「磁気吸引力発生部材とは、ロータマグネットの固定部材との対向面側に配置することにより、ロータマグネットに対してシャフトの軸方向への磁気吸引力であるスラスト力を作用させ、ロータマグネットと共に回転するシャフトを安定支持し、振れ回りを抑制するための部材である。」、段落【0042】の「また、ロータマグネット21に軸方向に対向する回路基板10には、磁気吸引力発生部材である磁性材から成るスラストワッシャ24が配設されている。」なる記載を参照。)。

そうすると、引用発明において、上記周知技術を採用する際に、「立ち上がり部の外径はステータの最外径以下」となるように適宜設計変更して採用し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、上記相違点1、2を併せ備えた本願発明の作用効果について検討してみても、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとは言えない。

したがって、本願発明は、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、「(リングの)立ち上がり部の外径はステータの最外径以下」とすることの技術的意義について、請求人は平成23年8月4日付けの意見書において、「また、立ち上がり部の外径はステータの最外径以下ですので、立ち上がり部は回路基板とロータの間に配置されません。これらの結果、冷却装置を小型化させることができます。」との旨も主張しているが、本願発明では、回路基板については、回路基板を備えることを含め何ら特定されておらず、また、本願の図2を参照すると、リング5の立ち上がり部は、回路基板3とロータ6の間に配置されていることが示されているため、出願人の上記主張は採用することができない。
ここで、仮に、出願人の上記主張における「立ち上がり部が回路基板とロータの間に配置されない」ことを、本願の図2に示されているように「立ち上がり部が回路基板とロータ(の内周に設けられたマグネット)の間に配置されない」であるものと解した場合でも、上記「4.判断」で検討したように引用発明に引用例2で開示されている周知技術を採用した際には、上記の「立ち上がり部が回路基板とロータ(の内周に設けられたマグネット)の間に配置されない」構成となることは明らかである。
さらに、仮に、当該主張が、「立ち上がり部は回路基板とロータの間に配置されません」という部分を除いた「立ち上がり部の外径がステータの最外径以下なので、冷却装置を小型化することができる」ものとして解釈しても、「立ち上がり部の外径がステータの最外径以下」にすることは、必要とされる小型化の程度や、立ち上がり部の外径をステータの最外径以下にすること(幅(半径)方向の小型が可能となるものと認められる)により生じる可能性のある高さ方向の大型化等の影響を考慮して当業者が適宜行う設計事項に過ぎない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2011-11-16 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-05 
出願番号 特願2009-232357(P2009-232357)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 藤井 昇
神山 茂樹
発明の名称 冷却装置  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  

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