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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1250711
審判番号 不服2010-6972  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-02 
確定日 2012-01-18 
事件の表示 特願2007-117615「ファンシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開,特開2007-300788〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成19年4月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年5月2日,台湾)の出願であって,平成21年12月1日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年4月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付け手続補正書が提出され,さらに平成23年2月23日付けで当審拒絶理由が通知され,これに対して同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。



2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年5月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「第1スイッチと,
第2スイッチと,
コイルと,
第3スイッチ及び第4スイッチを内部に設置した駆動装置と,
前記駆動装置に電気的接続され,前記駆動装置との間に第1レジスタが設置されるセンサと,
前記駆動装置に電気的接続され,充電時間になると前記駆動装置が起動して前記第1?第4スイッチに出力し始めるソフトスタートユニットと,
前記駆動装置と前記ソフトスタートユニットに電気的接続され,アラーム信号を受けて,前記ソフトスタートユニットを放電させ,前記駆動装置を起動させないようにする保護ユニットと,を含み,
前記第3スイッチと前記第4スイッチは,前記コイルと,前記駆動装置の外部に設置した前記第1スイッチ及び前記第2スイッチとブリッジ接続を形成するファンシステム。」



3.引用例

(3-1)引用例1

当審の拒絶の理由に引用した特開2002-209396号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,複数相のステータ巻線に接続されたスイッチング素子のオン/オフを切り換えてこれらステータ巻線を流れる駆動電流の方向を切り換えることでロータの回転制御を行うブラシレスモータの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば車両用空調装置における送風ファンを駆動するためのモータとして,整流機構を磁極センサとスイッチング素子とで置き換えたブラシレスモータが知られている。この種のブラシレスモータは,ロータの回転を制御するための制御装置を備えており,電源回路から駆動電源が供給されるとともに,制御装置によりスイッチング素子の切り換えタイミングが制御されることで,ロータに接続された送風ファンを所定の回転数で安定的に回転させるようになっている。」

・「【0006】そこで,本発明は,外乱ノイズの混入等によって誤作動が生じた場合に,駆動電流の方向を切り換えるスイッチング素子に過剰な負担がかかることを有効に防止し,スイッチング素子の破損等を未然に回避することができるブラシレスモータの制御装置を提供することを目的としている。」

・「【0019】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】本発明は,例えば図1に示すように構成されたブラシレスモータに適用される。
【0021】この図1に示すブラシレスモータは,いわゆる3相全波整流方式のブラシレスモータであり,図示しない永久磁石を有するロータと,ブリッジ形態で相互に接続された3相のステータ巻線1a,1b,1cを有するステータとの間における磁界の作用によって,ロータが回転駆動されるようになっている。
【0022】ブリッジ形態で接続された3相のステータ巻線1a,1b,1cは,6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6を介してバッテリ電源に接続されており,バッテリ電源からの駆動電流がこれらステータ巻線1a,1b,1cに供給されることで,ステータに磁界を発生させてロータを回転駆動させる。
【0023】6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6は,例えばMOS型の電界効果トランジスタ(MOSFET)よりなり,Hiサイドの3つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3とLoサイドの3つのスイッチング素子Q4,Q5,Q6とが,ステータ巻線1a,1b,1cの巻線端子にそれぞれ接続されている。
【0024】これらスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6は,それぞれのオン/オフの切り替えタイミングがモータ制御装置10によって制御されるようになっている。モータ制御装置10には,ロータの回転数を指示する回転指示信号と,磁極センサからのセンサ信号が供給されるようになっており,モータ制御装置10は,これら回転指示信号とセンサ信号とに基づいて,6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のオン/オフの切り替えタイミングを制御するための制御信号を出力する。そして,6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のオン/オフの切り替えタイミングがこの制御信号に応じて制御されることで,3相のステータ巻線1a,1b,1cに流れる駆動電流の方向が切り替えられ,ステータから発生する磁界が制御されて,ロータの回転が制御されることになる。
【0025】磁極センサは,センサマグネット2と,このセンサマグネット2からの磁界の方向を検出するための3つのホールIC3a,3b,3cと,これら3つのホールIC3a,3b,3cからの出力をもとにセンサ信号を生成するセンサ信号検出回路4とから構成される。
【0026】センサマグネット2は,ロータの回転位置を示すためのものであり,ロータの回転中心に対し,N極とS極の対が2対均等角度に配置され,ロータと一体に回転するシャフトに取り付けられている。そして,このセンサマグネット2から所定間隔を存して離間した位置に,このセンサマグネット2の周囲に亘って,3つのホールIC3a,3b,3cが120度間隔で均等配置されている。
【0027】3つのホールIC3a,3b,3cからの出力は,センサ信号検出回路4に供給される。センサ信号検出回路4は,センサマグネット2の磁界方向の変化による検出信号が各ホールIC3a,3b,3cから入力されると,これら各ホールIC3a,3b,3cからの検出信号をもとに反転信号を生成し,これら反転信号を非反転信号とともに,6本のセンサ信号としてモータ制御装置10に供給する。
【0028】モータ制御装置10は,目標値算出部11と,回転数算出部12と,制御信号算出部13と,回路保護部14とを備えている。
【0029】目標値算出部11は,図示しない外部回路に接続されており,この外部回路からロータの回転数を指示する回転指示信号が供給されるようになっている。回転指示信号は,そのデューティ(Duty)比によって,所定の回転数を特定している。すなわち,回転指示信号は,Hレベルの信号時間とLレベルの信号時間との比率(デューティ比)がロータの回転数に一対一で対応しており,このデューティ比を変化させることで,ロータの回転数を指示するようになっている。具体的には,回転指示信号は,例えば,ロータを高回転数で駆動させるときには高いデューティ比の信号となり,ロータを低回転数で駆動させるときには低いデューティ比の信号となる。目標値算出部11は,外部回路からこのような回転指示信号が供給されると,そのデューティ比を検出して,ロータの回転数の目標値を示す目標回転数信号を算出する。
【0030】回転数算出部12は,センサ信号検出回路4に接続されており,このセンサ信号検出回路4から6本のセンサ信号が供給されるようになっている。回転数算出部12は,センサ信号検出回路4からセンサ信号が供給されると,このセンサ信号をもとにしてロータの現在の回転数を検出し,ロータの現在の回転数を示す回転数信号を算出する。
【0031】制御信号算出部13は,目標値算出部11と回転数算出部12とに接続されており,目標値算出部11により算出された目標回転数信号と,回転数算出部12により算出された回転数信号とが供給されるようになっている。制御信号算出部13は,目標値算出部11からの目標回転数信号と,回転数算出部12からの回転数信号とが供給されると,これら目標回転数信号と回転数信号とに基づいて,ロータの回転数が回転指示信号により指示された回転数となるように,6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のオン/オフの切り替えタイミングを制御するための制御信号を算出する。」

・「【0039】ファン速目標値算出回路25は,図4に示すように,デューティ比Ddutyを送風ファンの回転数(ロータの回転数)に変換するためのテーブルを有しており,デューティ比Ddutyが供給されると,この変換テーブルを参照して送風ファンの回転数(ロータの回転数)を示すファン速目標値Dfanを算出する。このファン速目標値算出回路25により算出されたファン速目標値Dfanは,8ビットのデータとされ,ソフトスタート目標値算出回路28及び急スタート切替回路29,後述する出力OFF→ONタイマー回路39にそれぞれ供給される。
【0040】ソフトスタート目標値算出回路28は,ファン速目標値Dfanまでに達するときのビット数と時間との関係を示したテーブルを有している。このソフトスタート目標値算出回路28は,テーブルを参照して時間に対するソフトスタート目標値Dsfanを算出して,ソフトスタート目標値Dsfanを急スタート切替回路29に供給する。このソフトスタート目標値算出回路28は,オフ(0%)から立ち上がったときに,ファン速目標値Dfanまでファン速を上昇させるように勾配遅延を設定してソフトスタート制御をするためのものである。」

・図1には,スイッチング素子Q1,Q2,Q4及びQ5がモータ制御装置10の外部に設置されていること,及び,ホールIC3a,3b,3cがモータ制御装置10に電気的接続されていることが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下,「引用発明」という)が記載されているものと認められる。

「スイッチング素子Q1と,
スイッチング素子Q2と,
ステータ巻線1bと,
スイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q5を外部に設置したモータ制御装置10と,
前記モータ制御装置10に電気的接続されるホールIC3a,3b,3cと,
前記モータ制御装置10内部に設置されるソフトスタート目標値算出回路28を有する回路と,を含み,
前記スイッチング素子Q4及び前記スイッチング素子Q5は,前記ステータ巻線1bと,前記モータ制御装置10の外部に設置した前記スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2とブリッジ形態で接続する送風ファンを駆動するためのモータの制御装置。」


(3-2)引用例2

同じく当審の拒絶の理由に引用した特表2005-519578号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
本発明は,直流モータ制御回路に関し,特に,直流モータのような制御可能な駆動負荷用の新規のHブリッジドライバに関するものである。」

・「【0012】
図1を参照すると,この図は,本発明によるHブリッジ回路を示す。図1は,また,直流モータ30を駆動するように配置されている本発明のブリッジ回路も示す。しかし,この新規のブリッジは,例えば,線形ソレノイドおよび他の負荷の駆動のような他の用途にも使用することができる。
【0013】
図1のブリッジは,Nチャネル垂直導通MOSFETとして示す第1および第2の高圧側MOSゲート制御デバイス31および32からなる。本発明は,IGBTのような他のMOSゲート制御デバイスと一緒に実行することができ,Pチャネル・デバイスにより実行することができることに留意されたい。両方のMOSFET31および32は,導電性の市松模様のフレーム・パッドまたはPCBボード上の導電性トレースのような共通のヒートシンク上にそのドレーン電極と一緒に搭載することができ,点線のボックスとして示すように,1つのパッケージ33に内蔵させることができる。図4,図5および図6にパッケージ33をより詳細に示すが,これらの図面については後で説明する。
【0014】
次に,図1のブリッジは,2つの低圧側MOSゲート制御デバイス40および41を含む。図面では,各MOSゲート制御デバイス40および41はNチャネルMOSFETであり,それぞれ個別パッケージ42および43内に別々にパッケージされている(図2,図3および図6)。」

・「【0027】
図7は,パッケージ33に内蔵される制御回路を含む回路のブロック図である。それ故,MOSFET31および32は,それぞれシュート・スルー保護回路61および62を備えていて,またそれぞれ過電流停止回路63および64を備える。論理制御および状態フィードバック回路65は,過電流保護回路およびシュート・スルー保護回路を制御するためのものである。最後に,発振器70,ピンVRCからの基準REFに対して切替えを行うコンパレータ71,およびソフトスタート・リセット・スイッチ72からなるソフトスタート制御回路が設置されていて,回路65の制御下で動作する。これらの種々の構成要素は,パッケージ33内の1つまたはそれ以上のICチップに内蔵することができる。」

・「【0035】
図8は,また回路33上のRCピンおよびSS(ソフトスタート)ピンに接続している抵抗90およびコンデンサ91を示す。これらの構成要素は,以下に説明するソフトスタート・シーケンスを制御し,プログラムする。」

・「【0040】
図10は,パッケージ33内のICに内蔵されている新規のソフトスタート回路を示す。
【0041】
より詳細に説明すると,図10は,図8の抵抗90およびコンデンサ91,および図7の発振器70およびコンパレータ71を示す。抵抗90およびコンデンサ91は,回路基板上の外部のアクセスできる位置に搭載されているので,上記抵抗90およびコンデンサ91は,必要に応じて上記のRC時定数を変更するために,別の値のデバイスと交換することができる。図10は,パッケージ33のVRCピン,SSピンおよびGNDピンも示す。
【0042】
図10の回路は,回路をスタートさせるためのパルス幅変調(PWM)信号を発生する。発振器70は,約1ボルトから約4ボルトの間で発振する約20kHzの鋸歯出力を生成する。この鋸歯出力は,SSピンのところの電圧と比較され,その結果,SSピンは,0%(SSが1Vより低い場合)から100%(SSが4ボルトより高い場合)にデューティサイクルを駆動する。
【0043】
図に示すように,マイクロコントローラまたはプログラムで制御しなくても,コンパレータ71のパルス持続出力は次第に増大する。SSピンは,通常,RCピンにより電力の供給を受けるRCネットワーク90,91の中点に位置する。最後に,Hブリッジをオフにした状態で,SSピンを低レベルにリセットしこのレベルに保持するために,放電回路101が実施される。
【0044】
動作中,IN1ピンが高レベルに設定されると,低圧側MOSFET40がオフになり,その後で,すでに説明したように,高圧側MOSFET31がオンになり,放電回路101が解放される。SSピンのところの電圧はゆっくりと増大し,その結果,低圧側MOSFETの作動していない脚のゲートのところのデューティサイクルの変動(PWM信号)が平滑になる。それ故,直流モータ30から見た切替え波形のデューティサイクルは,0%から100%に増大し,モータ・シャフト上の負荷への応力を含まないランプアップができる。
【0045】
ソフトスタート・シーケンスの全切替え期間は,RC回路90,91の時定数の1?4倍である。Hブリッジの導通がストップすると,コンデンサ91は抵抗105(50Ω)を通して放電する。コンデンサ91は,任意の新しい始動の前に,完全に放電しなければならない。さらに,モータ30のシャフト上の負荷は,新しい始動シーケンスを要求する前に,完全に停止しなければならない。ソフトスタートの期間は,種々の用途の場合,直流モータの特性,負荷,摩擦などにより変化する。その場合,突入電圧制限とソフトスタート期間との間で折り合いがつけられる。RCの値は,(全トルク始動の場合の)ソフトスタート期間が時定数Tauの10倍である非常にスムーズなスタートから,低慣性,低トルク始動用の時定数Tauの2倍のスタートに変えることができる。」

・「【0050】
最後に,Hブリッジがオフである場合に,制動がかかっていてもいなくても,ゲート128のところに,充電/放電リセット信号(リセットRC)が発生する。DGピンの解放コレクタ出力は,内部の高圧側スイッチ状態により能動状態になる。」

・「【0052】
図12は,その保護回路を含むMOSFET31およびMOSFET32を示す。それ故,任意の所望のタイプの温度感知デバイス130は,コンパレータ130aに出力を供給する。温度がしきい値の値θthを超えると,出力がゲート131および132に供給される。MOSFET31用の電流ミラー回路133,134,およびMOSFET32用の電流ミラー回路135および136を含む,電流監視回路は,それぞれコンパレータ138および139に入力を供給し,これらコンパレータは測定した電流をしきい値の値と比較し,電流が基準値を超えた場合には,それぞれ信号をORゲート131および132に供給する。
【0053】
ゲート138または139からの出力は,それぞれRSフリップフロップ140および141に接続され,これらフリップフロップを動作させる。これにより,出力st1またはst2が発生し,これら出力は図11のDGピンに結合される。
【0054】
図12は,さらに,それぞれMOSFET31および32用のドライバおよび充電ポンプ回路150および151を示す。これらのドライバおよび充電ポンプ回路も,フリップフロップ140および141の動作による測定電流故障または熱故障により動作不能になり,ブリッジの電流停止または熱停止を起こす。しかし,低圧側MOSFET40および41は,リセット条件が満たされるまでオンのままであることに留意されたい。」

・「【0065】
図13は,すでに説明したソフトスタート・シーケンスを示すタイミング図である。図13の3本の線は,共通の時間ベースt上のIN1(またはIN2)ピン,SSピン,および[M1-M2](M1+M2)ピンのところの電圧である。M1ピンのところのデューティサイクル変調は,SSピンのところの電圧の増大に追随し,Tssの変調周期は約1?4RC(時定数)に設定してある。」


(3-3)引用例3

同じく当審の拒絶の理由に引用した特開昭58-198182号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「第1図は本発明の一実施例を表わす電気回路である。第1図において,(1)は直流電源,(2)は界磁用のマグネット,(3)(4)(5)はマグネット(2)の磁束と鎖交する8相のコイル,(6)はモータ可動部(ロータ)の位置に応じてコイル(3)(4)(5)への電流路を切換える分配器,(7)はモータ可動部の速度を検出する速度検出器,(8)は直流電源(1)より可変出力の直流電圧V_(M)を得るスイツチング方式の電圧変換器である。
分配器(6)をたとえばブラシコミユテータにて構成すれば,モータ可動部はコイル(3)(4)(5)となり,速度検出器(7)はコイルの回転速度を検出する。また,分配器(6)をたとえばホール素子とトランジスタ群によつて構成すれば,マグネット(2)がモータ可動部となり,速度検出器(7)はマグネット(2)の回転速度を検出する。
速度検出器(7)は,たとえば周波数発電機と周期電圧変換器にて構成され,モータ可動部の速度が遅い時には,その検出電圧V_(d)は大きく,速度が所定速度に応動して変化し,速度が速くなると小さくなる。
速度検出器(7)の出力電圧V_(d)は電圧変換器(8)入力され,三角波発生器(11)の所定周波数(50KHz程度)の三角波信号とコンパレータ(12)にて比較され,速度検出信号V_(d)に対応したデユテイにてトランジスタ(13)をオン・オフ動作させる。トランジスタ(13)がオンの時にはトランジスタ(17)はオフとなり,スイツチングトランジスタ(20)はオフとなる。トランジスタ(13)がオフの時には,定電流源(15)の電流i_(1)および速度検出電圧V_(d)に対応した電流i_(2)がダイオード(16),トランジスタ(17),抵抗(18)(19)からなるカレントミラーに供給され,i_(1)+i_(2)に対応(比例)した電流をトランジスタ(17)のコレクタ側より吸引する。トランジスタ(17)のコレクタ電流はスイツチングトランジスタ(20)のベース電流となり,スイツチングトランジスタ(20)をオンにする。すなわちスイツチングトランジスタ(20)は速度検出信号V_(d)に対応したオン時間比率(デユテイ)にてオン・オフ動作し,オン時のベース電流は速度検出器(7)の信号V_(d)に応動して変化する。
スイツチングトランジスタ(20)がオンになると直流電源(1)の電圧Vs(20V)が出力され(V_(i)?V_(s)),インダクタンス素子(22)を介してコンデンサ(23)および分配器(6)に供給される。スイツチングトランジスタ(20)がオフになるとフライホイールダイオード(21)が導通し,インダクタンス素子(22),コンデンサ(23)にて平滑され,電圧変換器(8)の出力電圧V_(M)はスイツチングトランジスタ(20)のオン時間比率に対応した値(速度検出信号V_(d)に対応した値)となる。
電圧変換器(8)の出力電圧V_(M)は分配器(6)を介してコイル(3)(4)(5)によって速度制御ループが構成され,モータ可動部は所定の速度にて回転制御される。」(2頁右上欄20行?3頁左上欄18行)

・第1図には,電圧変換器(8)のトランジスタ(17),スイツチングトランジスタ(20)等からなる回路部分に電気的接続され,前記電圧変換器(8)のトランジスタ(17),スイツチングトランジスタ(20)等からなる回路部分との間に抵抗(14)が設置される速度検出器(7)が示されている。



4.対比・判断

本願発明と引用発明とを比較すると,その機能・作用からみて,後者における「スイッチング素子Q1」は前者の「第1スイッチ」に相当し,以下同様に,「スイッチング素子Q2」は「第2スイッチ」に,「ステータ巻線1b」は「コイル」に,「スイッチング素子Q4」は「第3スイッチ」に,「スイッチング素子Q5」は「第4スイッチ」に,「ブリッジ形態で接続する」態様は「ブリッジ接続を形成する」態様に,「送風ファンを駆動するためのモータの制御装置」は「ファンシステム」に,それぞれ相当する。
さらに,後者における「モータ制御装置10」と前者の「駆動装置」とは,「駆動する装置」という概念で共通し,以下同様に「スイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q5を外部に設置したモータ制御装置10」と「第3スイッチ及び第4スイッチを内部に設置した駆動装置」とは,「第3スイッチ及び第4スイッチを設置した駆動する装置」という概念で,「モータ制御装置10に電気的接続されるホールIC3a,3b,3c」と「駆動装置に電気的接続され,前記駆動装置との間に第1レジスタが設置されるセンサ」とは,「駆動する装置に電気的接続される検出手段」という概念で,「モータ制御装置10内部に設置されるソフトスタート目標値算出回路28を有する回路」と「駆動装置に電気的接続され,充電時間になると前記駆動装置が起動して前記第1?第4スイッチに出力し始めるソフトスタートユニット」とは,「駆動する装置に電気的接続されるソフトスタート手段」という概念で,それぞれ共通する

したがって,本願発明と引用発明とは,

「第1スイッチと,
第2スイッチと,
コイルと,
第3スイッチ及び第4スイッチを設置した駆動する装置と,
前記駆動する装置に電気的接続される検出手段と,
前記駆動する装置に電気的接続されるソフトスタート手段と,を含み,
前記第3スイッチと前記第4スイッチは,前記コイルと,前記駆動する装置の外部に設置した前記第1スイッチ及び前記第2スイッチとブリッジ接続を形成するファンシステム。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
駆動する装置に関し,本願発明は,第3スイッチ及び第4スイッチを内部に設置しているのに対し,引用発明は,スイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q5を外部に設置している点。

[相違点2]
検出手段に関し,本願発明は,駆動装置との間に第1レジスタが設置されるのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

[相違点3]
ソフトスタート手段に関し,本願発明は,充電時間になると駆動装置が起動して第1?第4スイッチに出力し始めるものであるのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

[相違点4]
本願発明は,駆動装置とソフトスタートユニットに電気的接続され,アラーム信号を受けて,前記ソフトスタートユニットを放電させ,前記駆動装置を起動させないようにする保護ユニットを含んでいるのに対し,引用発明は,そのような保護ユニットを含んでいない点。


上記相違点について,以下に検討する。

・相違点1について

引用例2の,特に【0001】,【0012】ないし【0014】,【0027】,図1,図7及び図8には,低圧側MOSゲート制御デバイス40(本願発明の「第1スイッチ」に相当。)と,低圧側MOSゲート制御デバイス41(本願発明の「第2スイッチ」に相当。)と,直流モータ30(本願発明の「コイル」に相当。)と,高圧側MOSゲート制御デバイス31(本願発明の「第3スイッチ」に相当。)及び高圧側MOSゲート制御デバイス32(本願発明の「第4スイッチ」に相当。)を内蔵した(本願発明の「内部に設置した」態様に相当。)パッケージ33(本願発明の「駆動装置」に相当。)とを含み,前記高圧側MOSゲート制御デバイス31と前記高圧側MOSゲート制御デバイス32は,前記直流モータと,前記パッケージ33とは別々にパッケージした(本願発明の「外部に設置した」態様に相当。)前記低圧側MOSゲート制御デバイス40及び前記低圧側MOSゲート制御デバイス41とHブリッジ回路をなす(本願発明の「ブリッジ接続を形成する」態様に相当。)直流モータ制御回路が記載されている。

そして,本願発明が解決しようとする課題は,本願明細書に,
「【背景技術】
【0002】
・・・
【0007】
図1のファンシステム1は、スイッチS1?S4を駆動装置10の外部に設置しているが、この実施方式は、回路が複雑であり、部品が多いなどの欠点が存在し、テスト、または製造プロセス時の労働力、時間、コストの負担をかける。よって、図2のファンシステム3がこれに取って代わり開発されたが、駆動装置30内に設置されるスイッチS1?S4は、熱エネルギーを生じ易い素子であり、高温により駆動装置30を故障させ、ひいては破損させる。また、この配置方式は、逆に出力効率を低下させ、適用性と経済性とが図1のファンシステム1より劣る。
【0008】
上述の両ファンシステム1及び3は、このようにいくつかの欠点を有し、よって、改善する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の課題に鑑みて、本発明の目的は、ファンシステムを提供する。」
と記載されているように,回路の複雑化や熱エネルギー発生による故障を改善することと認められる。

しかしながら,回路内に素子を設置する際に,回路の簡易化や熱発生の低減を図ることは,一般的な課題であり,引用例2に記載された技術が,引用発明よりも回路の簡易化に資することは明らかであり,また,4つのMOSゲート制御デバイス全てをパッケージ33に内蔵させるよりも熱発生が低減することも明らかである。
よって,引用発明において,スイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q5の設置に際して,引用例2に記載された技術を鑑みて,モータ制御装置10の内部に設置することは,当業者が適宜選択し得る事項であり,また,それにより格別な効果を奏するものでもない。

したがって,引用発明において,上記引用例2に記載された技術を適用して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得ることである。

・相違点2について

引用例3には,電圧変換器(8)のトランジスタ(17),スイツチングトランジスタ(20)等からなる回路部分に電気的接続され,前記電圧変換器(8)のトランジスタ(17),スイツチングトランジスタ(20)等からなる回路部分との間に抵抗(14)(本願発明の「第1レジスタ」に相当。)が設置された速度検出器(7)(本願発明の「センサ」に相当。)が記載されている。

そして,本願発明におけるセンサと駆動装置との間に第1レジスタを設ける技術的意義は,本願明細書の【0012】に記載されたように,「駆動装置とセンサとの間に電流を制限するレジスタを設置し、ファンシステムの運転の雑音を効果的に低下させることができる」ことであると認められる。
しかしながら,レジスタを設けて電流を低減し,それによりノイズを低減することは,常套手段であり,引用発明において,引用例3に記載された技術を適用して,モータ制御装置10とホールIC3a,3b,3cとの間にレジスタを設置し,モータ制御装置10とホールIC3a,3b,3cとの間の電流を低減して,その結果ホールIC3a,3b,3cの出力によるノイズの低減を図ることは,当業者が適宜なし得ることである。

よって,引用発明において,上記引用例3に記載された技術を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

・相違点3及び相違点4について

本願発明の「充電時間になると駆動装置が起動して第1?第4スイッチに出力し始める」という技術的事項は,本願の発明の詳細な説明において,本願明細書の【0020】に「コンデンサCが基準値に充電された時,駆動装置40は,最大電流をスイッチに出力し始め,モーターを駆動し,全速力で運転する。充電時間は,ソフトスタートの時間である。」と記載されているのみであり,「駆動装置が起動」する具体的な態様は説明されていない。
よって,当該「充電時間になると駆動装置が起動して第1?第4スイッチに出力し始める」という技術的事項は,単に,充電時間になると駆動装置から第1?第4スイッチに出力し始めることを意味するに過ぎない。
また,本願発明の「ソフトスタートユニットを放電させ,駆動装置を起動させないようにする」とは,本願明細書の【0021】に「ファンシステム4がブロックされた状態の時(例えば,ファンが物体によってブロックされた時),第5スイッチS5の第2端子は,アラーム信号Vを受け,第5スイッチS5をオンの状態にし,コンデンサCは,第5スイッチS5を経由して接地端子に迅速に放電する。よって,ファンシステム4がブロック状態から解除された時,コンデンサC内に電圧が残らないことを確保でき,よって,駆動装置40が再起動した時,ソフトスタートの機能エラーが発生しない。」と記載され,さらに,平成23年5月26日付け意見書の「(5)本願発明と引用文献との比較」にも「本願発明では,駆動装置にソフトスタート機能を持たせるために,ソフトスタートユニットが駆動装置と電気的に接続されているだけでなく,例えばファンがブロック状態に陥った場合などに発生するアラーム信号を受けて,ソフトスタートユニットを強制的に放電させ,その後でブロック状態が解除されたときに,確実に決められた充電時間で駆動装置を再起動できるように,保護ユニットが駆動装置およびソフトスタートユニットと電気的に接続されており」と記載されているように,ソフトスタートユニットを放電させることにより,駆動装置を停止することを意味するものではなく,単に,ソフトスタートユニットを放電させることにより,再起動時のソフトスタートエラーを防止し,速やかな再起動をさせないようにしているに過ぎない。

他方で,引用例2の,特に【0001】,【0040】ないし【0045】,【0050】,【0052】ないし【0054】,【0065】,図8,図9,図12及び図13には,パッケージ33(本願発明の「駆動装置」に相当。)に電気的接続され,充電時間になるとパッケージ33から(本願発明の「駆動装置が起動して」という態様に相当。)低圧側MOSゲート制御デバイス40,低圧側MOSゲート制御デバイス41,高圧側MOSゲート制御デバイス31,高圧側MOSゲート制御デバイス32(本願発明の「第1?第4スイッチ」に相当)に出力し始めるソフトスタート回路,抵抗90及びコンデンサ91からなるユニット(本願発明の「ソフトスタートユニット」に相当。)と,前記パッケージ33と前記ソフトスタート回路,抵抗90及びコンデンサ91からなるユニットに電気的接続され,温度がしきい値の値θthを超えると出力される信号又は電流が基準値を超えた場合に出力される信号(本願発明の「アラーム信号」に相当。)を受けて,Hブリッジを停止し,当該ブリッジの停止に伴って前記ユニットのコンデンサ91を放電させ,前記パッケージの再起動の際に速やかに上記MOSゲート制御デバイスに出力しないようにする(本願発明の「駆動装置を起動させないようにする」態様に相当。)保護回路(本願発明の「保護ユニット」に相当。)と,を含む直流モータ制御回路が記載されている。

そして,引用発明の課題は,誤作動の抑制であるので,引用発明のソフトスタート目標値算出回路28を有する回路を確実に作動させるために,引用例2に記載された技術を適用して相違点3及び4に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。


そして,本願発明の全体構成によって奏される効果も,引用発明,上記引用例2に記載された技術,及び,上記引用例3に記載された技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。


したがって,本願発明は,引用発明,上記引用例2に記載された技術,及び,上記引用例3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。



5.むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記引用例2に記載された技術,及び,上記引用例3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-17 
結審通知日 2011-08-22 
審決日 2011-09-02 
出願番号 特願2007-117615(P2007-117615)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 倉橋 紀夫
仁木 浩
発明の名称 ファンシステム  
代理人 牛木 護  

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