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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1250833
審判番号 不服2011-12549  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-13 
確定日 2012-01-16 
事件の表示 特願2006- 55135「基板処理装置および基板取り扱い方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-234882〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年3月1日の特許出願であって、同22年8月20日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同22年10月26日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出されたが、同23年3月15日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同23年6月13日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について再度手続補正書が提出され、同23年9月21日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年6月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前
基板を収容するキャリヤを保持するためのキャリヤ保持部と、
基板に所定の処理を施す際に基板を保持する基板保持手段と、
この基板保持手段を回転させる回転駆動機構と、
前記キャリヤ保持部に保持されたキャリヤと前記基板保持手段との間で基板を搬送する基板搬送機構とを含み、
前記基板保持手段は、基板を保持する際に当該基板と接触する第1基板接触部材を有し、この第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、かつ、この導電性部は、前記回転駆動機構によって前記基板保持手段が回転されているときも接地されており、
前記基板搬送機構は、基板を搬送する際に当該基板と接触する第2基板接触部材を有し、この第2基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、
前記基板保持手段と前記基板搬送機構との間で基板が受け渡されるときに、前記基板が接地状態に保持されるようになっている、基板処理装置。

(2)補正後
基板を収容するキャリヤを保持するためのキャリヤ保持部と、
樹脂材料からなる処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給して当該基板に所定の処理を施す際に当該基板を保持する基板保持手段と、
この基板保持手段を回転させる回転駆動機構と、
前記キャリヤ保持部に保持されたキャリヤと前記基板保持手段との間で基板を搬送する基板搬送機構とを含み、
前記基板保持手段は、基板を保持する際に当該基板と接触する第1基板接触部材を有し、この第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、かつ、この導電性部は、前記回転駆動機構によって前記基板保持手段が回転されているときも接地されており、
前記基板搬送機構は、基板を搬送する際に当該基板と接触する第2基板接触部材を有し、この第2基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、
前記基板保持手段と前記基板搬送機構との間で基板が受け渡されるときに、前記基板が接地状態に保持されるようになっている、基板処理装置。

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、「基板に所定の処理を施す際に基板を保持する基板保持手段」について、実質上、「樹脂材料からなる処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給」するという限定を付加するものであり、請求人が審判請求理由の「3.(2)補正の適法性」で主張するとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
よって、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「基板処理装置」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-186355号公報(以下「引用刊行物」という。)の記載内容は以下のとおりである。

ア 引用刊行物記載の事項
引用刊行物には以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体ウエハ等の保持対象物を真空吸着により保持する吸着保持部材及び吸着保持装置に関する。」

「【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る吸着保持部材の構成を斜視図により示したものであり、図2は、この吸着保持部材の分解斜視図を示したものである。これらの図に示すように、本実施形態に係る吸着保持部材10は略Y字形に形成された3枚の板材(板状部材)が上下に接合されて構成されており、中間板材30と、この中間板材30の上面側に接合された上面側板材20と、中間板材30の下面側に接合された下面側板材40とからなっている。・・・(略)・・・。
【0020】
・・・(略)・・・。
【0021】
・・・(略)・・・。なお、これら3つの板材20,30,40が接合される前には予め、中間板材30の上下両面及び溝部32の内表面、上面側板材20の上下面と開口22の内表面及び上面から上方に突出して形成された接触部24(図示しない半導体ウエハと直接接触する部分)、下面側板材40の上下面及び孔42の内表面とには静電気拡散性を有する薄厚層(静電気拡散性被膜、電気抵抗値がおよそ105Ω?1011Ωの被膜)がコートされており、3つの板材20,30,40が接合された状態では、吸着保持部材10の内部には、内表面に静電気拡散性被膜が形成された上記真空管路12が形成されるようになっている。・・・(略)・・・。
【0022】
ここで、上記静電気拡散性を有する部材には、例えば制電ポリエーテル・エーテル・ケトンに代表される、樹脂にカーボンを混入して静電気拡散性を持たせた制電樹脂材料等が用いられることが好ましいが、これに限定されることはない。・・・(略)・・・。」

「【0026】
次に、本発明に係る吸着保持装置の実施形態について説明する。図4は本発明の一実施形態に係る吸着保持装置が備えられたウエハ検査用顕微鏡装置の構成を斜視図により示したものである。このウエハ検査用顕微鏡装置80は、検査テーブル82上に設置された吸着保持装置110と、ウエハカセット84と、顕微鏡観察装置90とを備えて構成されている。図4に示す実施形態では、吸着保持部材10、及び後述のウエハ保持テーブル94を構成する円盤状部材95,96の外表面、真空管路が静電気拡散性被膜で構成されている例について説明する。
【0027】
吸着保持装置110はウエハ搬送ロボット120を有して構成されており、このウエハ搬送ロボット120は、検査テーブル82上に固定されたベース部122と、このベース部122の上部に取り付けられた屈伸アーム124と、屈伸アーム124の先端部に取り付けられた前述の吸着保持部材10と、検査テーブル82の外側に設置された真空源(図示せず)と、この真空源とベース部122との間を繋ぐ真空配管チューブ126,127とを備えている。ここで、屈伸アーム124は一端がベース部122に連結されており、他端は吸着保持部材10の基端側に連結されている。そして、ベース部122の内部及び屈伸アーム124自身に内蔵された図示しない電動モータ等の駆動により屈伸作動を含む動作を行って吸着保持部材10を水平姿勢のまま自在に移動させることができるようになっている。・・・(略)・・・。
【0028】
吸着保持部材10の内部に形成された真空配管12は、金属等で構成された静電気導電性部材からなる吸着保持部材用アース線130により、所定のグランドポイントGNDに接続されて電気的接地がなされている。これは、吸着保持部材10の内部に形成された真空配管12の内表面にコートされた静電気拡散性被膜(或いは静電気導電性被膜)に電荷が溜まって半導体ウエハW(後述)と接触したときに静電気放電等が発生するのを防止するためである。・・・(略)・・・。
【0029】
真空配管チューブ126,127及び前述のベース部122内、屈伸アーム124内に設けられた不図示の真空チューブは静電気導電性を有する部材から構成されており、その内部に形成された管路により、真空源と吸着保持部材10に設けられた真空管路12との間を接続している。・・・(略)・・・。
【0030】
上記接続口85は金属等で構成された導電性部材からなっており、金属等で構成された静電気導電性部材からなる真空配管用アース線128により上述のグランドポイントGNDに繋げられている。このため真空配管チューブ126、真空配管チューブ127及び前述のベース部122内、屈伸アーム124内に設けられた不図示の真空チューブは、接続口85及び真空配管用アース線128により電気的接地がなされた状態となっている。
【0031】
ウエハカセット84は側面の一方側に開口した箱であり、検査テーブル82上に設けられた上記ウエハ搬送ロボット120の近傍位置に設置されている。内部には水平に設けられた複数段のスロットを有しており、各スロット内には半導体ウエハ(以下、ウエハと称する)Wが一枚ずつ収納されている。
【0032】
顕微鏡観察装置90は、検査テーブル82上に設置されたウエハ移動ステージ92と、このウエハ移動ステージ92に隣接して設けられた観察装置100とから構成されている。ウエハ移動ステージ92は、検査テーブル82の面内の一方向(X方向)に移動自在なXステージ93a及びこのXステージ93aの移動方向に対して検査テーブル82の面内で直交する方向(Y方向)に移動自在なYステージ93bからなるXYステージ93と、Yステージ93bの上面側に取り付けられた円盤状のウエハ保持テーブル94とを有して構成されている。
【0033】
図5はウエハ保持テーブル94の一構成例を示しており、図5(A)はその平面図、図5(B)は下面図、図5(C)は図5(A)における矢視C-Cより見た断面図である。ここに示すウエハ保持テーブル94は上下2枚の円盤状部材95,96からなっており、これら両円盤状部材95,96の厚さ方向に延びて設けられた複数(ここでは6本)のねじ97により上下方向に接合(締結)された構成となっている。・・・(略)・・・。
【0034】
上下の円盤状部材95,96はアルミナ系セラミックスや金属材料などの安価で加工が容易な材料の外表面、内表面に静電気拡散性被膜が形成されて構成される。・・・(略)・・・。」

「【0037】
ここで、上側円盤状部材95の上下面及び真空吸着溝95a、真空吸着穴95b、連通溝95c、大気開放穴95d、連通溝95eの各内表面、及び下側円盤状部材96の上面及び真空管路接続穴96aの内表面には上下両円盤状部材95,96の接合前に静電気拡散性被膜が形成されるようになっており、両円盤状部材95,96とが接合されることにより、ウエハ保持テーブル94の内部に形成された全ての真空管路(真空管路接続穴96a、真空管路94a、真空吸着穴95b、真空吸着溝95a)及び大気開放管路(大気開放管路94b及び大気開放穴95d)の内表面に静電気拡散性被膜が形成された状態となるようになっている。
【0038】
ウエハ保持テーブル94に形成された上記真空管路接続穴96aには、吸着保持部材10に接続された前述の真空配管チューブ126,127と同様に静電気導電性を有する部材から構成された真空配管チューブ98の一端側が接続されており、この真空配管チューブ98の他端側は検査テーブル82に設置された接続口86を介して真空源と繋がる前述の真空配管チューブ126と接続している。この接続口86は金属等で構成された導電性部材からなるとともに、金属等で構成された静電気導電性部材からなる真空配管用アース線87によりグランドポイントGNDに繋げられている。このため、この真空配管チューブ98は、吸着保持装置110における真空配管チューブ126,127と同様に、接続口86及び真空配管用アース線87により電気的接地がなされた状態となっている。
【0039】
また、上記ウエハ移動ステージ92は、金属等で構成された静電気導電性部材からなるウエハ保持テーブル用アース線99によりグランドポイントGNDに接続されている。これは、上述した吸着保持部材10の場合と同様、外表面及び内表面に形成された真空管路、大気開放管路に静電気拡散性被膜が形成されたウエハ保持テーブル94に電荷が溜まってウエハWが載置されたときに静電気放電等や静電沈着等が起きないようにするためである。なお、このウエハ保持テーブル用アース線99の中間部は、検査テーブル82上等の所要の箇所に設けられた金属等で構成された導電性部材からなるウエハ保持テーブル用アース線中継部材99aにより中継接続されている。」

「【0041】
次に、本ウエハ検査用顕微鏡装置80に備えられたウエハ搬送ロボット120の動作について説明する。・・・(略)・・・。このようにウエハWの真空吸着が開始されたら、ウエハ搬送ロボット120は屈伸アーム124を作動させて吸着保持部材10を上昇させ、吸着保持部材10の上面側板材20に形成された接触部24を保持対象物であるウエハWの下面に接触させる。これによりウエハWは吸着保持部材10の上面側に設けられた真空管路12の開口部(孔22及び接触部24からなる部分)において吸着保持される。
【0042】
上記のようにウエハWが吸着保持部材10により吸着保持されたら、ウエハ搬送ロボット120は屈伸アーム124を作動させて吸着保持部材10をウエハカセット84より引き抜き、ウエハWをウエハカセット84の外部に搬出する。そして、ウエハWを吸着保持部材10において真空吸着保持したままこれを搬送し、ウエハ保持テーブル94上に位置させたうえで、真空源による外気吸引力を調節してウエハWの真空吸着保持を解除する。この真空吸着保持の解除の途中で吸着保持部材10をウエハ保持テーブル94の下の位置まで降下させると、ウエハWはウエハ保持テーブル94上に載置される。
【0043】
ウエハ保持テーブル94上にウエハWが載置されたら、今度はウエハ保持テーブル94に繋がる真空配管チューブ98及びウエハ保持テーブル94内に形成された真空管路(真空管路接続穴96a、真空管路94a、真空吸着穴95b、真空吸着溝95aからなる管路)より外気を吸引して、ウエハWをウエハ保持テーブル94上に真空吸着保持する。ウエハ保持テーブル94上にウエハWが保持されたらXYステージ93を移動させ、ウエハWの所望の部分を顕微鏡観察装置90の対物レンズ103の直下に移動させる。これにより接眼レンズ部102からのウエハW表面の顕微鏡観察が可能となる。そして、この顕微鏡観察が終了すると、ウエハ搬送ロボット120は上述の経路とは逆の経路でウエハWを移動させ、これをウエハカセット84内に収納する。これによりウエハ搬送ロボット120の一連の動作は終了する。」

「【0048】
また、上述したように、吸着保持部材10の内部に形成された真空管路12は吸着保持部材接地手段である吸着保持部材用アース線130及びこれを中継する吸着保持部材用アース線中継部材130aにより接地されているので、吸着保持部材10やウエハWに電荷が帯電することがなくなり、吸着保持部材10がウエハWを吸着保持する際に静電気放電(スパーク)や静電沈着を発生させてウエハWに悪影響を及ぼす事態を未然に防止することができる。」

「【0057】
・・・(略)・・・。また、上述の実施形態においては、本発明に係る吸着保持装置がウエハ検査用顕微鏡装置に適用されていたが、これは一例であり、他の装置(例えばIC製造装置)等に適用することも勿論可能である。」

半導体ウエハWを収容するウエハカセット84は、検査テーブル82上の所定箇所に設置されていること。(【図4】参照。)

段落0019、0021の記載から、吸着保持部材10の上面側板材20の上面、接触部24、真空管路12の内表面に静電気拡散性被膜が形成されていることが、段落0028、0048の記載から、吸着保持部材10はアース線を介して接地されることが理解される。
段落0033?0034、0037の記載から、ウエハ保持テーブル94は、円盤状部材95の上表面、真空管路に静電気拡散性被膜が形成されていることが、段落0038?0039の記載から、ウエハ保持テーブル94はアース線を介して接地されることが理解される。

イ 引用刊行物記載の発明
引用刊行物記載の事項を、図面を参照しつつ、補正発明に照らして整理すると、引用刊行物には以下の発明が記載されている。

半導体ウエハWを収容するウエハカセット84を設置するための検査テーブル82上の所定箇所と、
半導体ウエハWを顕微鏡観察する際に当該半導体ウエハWを保持するウエハ保持テーブル94と、
このウエハ保持テーブル94をX・Y方向に移動自在とするXYステージ93と、
前記検査テーブル82上の所定箇所に設置されたウエハカセット84と前記ウエハ保持テーブル94との間で半導体ウエハWを搬送するウエハ搬送ロボット120とを含み、
前記ウエハ保持テーブル94は、半導体ウエハWを保持する際に当該半導体ウエハWと接触する上側円盤状部材95と当該上側円盤状部材95に接合する下側円盤状部材96とを有し、上側円盤状部材95の上下面及び真空吸着溝95a、真空吸着穴95b、連通溝95c、大気開放穴95d、連通溝95eの各内表面、及び下側円盤状部材96の上面及び真空管路接続穴96aの内表面には樹脂にカーボンを混入して静電気拡散性を持たせた制電樹脂材料等からなる静電気拡散性被膜が形成されており、この静電気拡散性被膜が形成されたウエハ保持テーブル94はアース線を介して接地してあり、
前記ウエハ搬送ロボット120は、半導体ウエハWを搬送する際に当該半導体ウエハWを吸着保持する吸着保持部材10を有し、半導体ウエハWとの接触部24を含む吸着保持部材10の表面には前記静電気拡散性被膜が形成されており、この静電気拡散性被膜が形成された吸着保持部材10はアース線を介して接地してあり、
前記ウエハ保持テーブル94と前記ウエハ搬送ロボット120との間で半導体ウエハWが受け渡されるときに、前記半導体ウエハWが接地状態に保持されるようになっているウエハ検査用顕微鏡装置。

(3)対比
ア 補正発明と引用刊行物記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
引用刊行物記載の発明の「半導体ウエハW」及び「ウエハカセット84」は、それぞれ補正発明の「基板」及び「キャリヤ」に相当することが明らかである。
そして、引用刊行物記載の発明の「半導体ウエハWを収容するウエハカセット84を設置するための検査テーブル82上の所定箇所」は、補正発明の「キャリヤ保持部」に相当するということができる。
また、引用刊行物記載の発明の「半導体ウエハWを顕微鏡観察する際に当該半導体ウエハWを保持するウエハ保持テーブル94」は、基板を取り扱う際に当該「基板を保持する基板保持手段」ということができるものであり、上記ウエハ保持テーブル94の「半導体ウエハWと接触する上側円盤状部材95」は、「基板を保持する際に当該基板と接触する第1基板接触部材」ということができ、さらに、ウエハ保持テーブル94の上側円盤状部材95の上下面及び真空吸着溝95a、真空吸着穴95b、連通溝95c、大気開放穴95d、連通溝95eの各内表面、及び下側円盤状部材96の上面及び真空管路接続穴96aの内表面に形成された樹脂にカーボンを混入して静電気拡散性を持たせた制電樹脂材料等からなる「静電気拡散性被膜」は、「第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に含まれている導電性部」ということができるものである。そして、引用刊行物記載の発明において「静電気拡散性被膜が形成されたウエハ保持テーブル94はアース線を介して接地して」あることは、「導電性部が接地して」あることにほかならない。
そうしてみると、引用刊行物記載の発明の「ウエハ保持テーブル94」は、基板を取り扱う際に当該基板を保持する基板保持手段であり、基板を保持する際に当該基板と接触する第1基板接触部材を有し、この第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあるという限りで、補正発明の「基板保持手段」と共通している。
また、引用刊行物記載の発明における検査テーブル82上の所定箇所に設置されたウエハカセット84とウエハ保持テーブル94との間で半導体ウエハWを搬送する「ウエハ搬送ロボット120」は、キャリヤ保持部に保持されたキャリヤと基板保持手段との間で基板を搬送する「基板搬送機構」ということができるものであり、上記ウエハ搬送ロボット120の有する「半導体ウエハWを搬送する際に当該半導体ウエハWを吸着保持する吸着保持部材10」は、「基板を搬送する際に当該基板と接触する第2基板接触部材」ということができ、半導体ウエハWとの接触部24を含む吸着保持部材10の表面に形成された「静電気拡散性被膜」は、 第2基板接触部材の少なくとも基板接触部に含まれる「導電性部」ということができるものである。そして、引用刊行物記載の発明において「静電気拡散性被膜が形成された吸着保持部材10はアース線を介して接地して」あることは、「導電性部が接地して」あることにほかならない。
そうしてみると、引用刊行物記載の発明の「ウエハ搬送ロボット120」は、補正発明の「基板搬送機構」に相当するということができる。
さらに、補正発明は「基板処理装置」であるのに対して、引用刊行物記載の発明は「ウエハ検査用顕微鏡装置」であるが、両者は「基板を取り扱う装置」である点で共通している。

イ したがって、補正発明と引用刊行物記載の発明とは、以下の一致点と相違点とを有しているということができる。

[一致点]
基板を収容するキャリヤを保持するためのキャリヤ保持部と、
基板を取り扱う際に当該基板を保持する基板保持手段と、
前記キャリヤ保持部に保持されたキャリヤと前記基板保持手段との間で基板を搬送する基板搬送機構とを含み、
前記基板保持手段は、基板を保持する際に当該基板と接触する第1基板接触部材を有し、この第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、
前記基板搬送機構は、基板を搬送する際に当該基板と接触する第2基板接触部材を有し、この第2基板接触部材の少なくとも基板接触部に導電性部が含まれていて、この導電性部が接地してあり、
前記基板保持手段と前記基板搬送機構との間で基板が受け渡されるときに、前記基板が接地状態に保持されるようになっている基板を取り扱う装置である点。

[相違点]
補正発明は、基板を取り扱う装置が「基板処理装置」であり、基板保持手段が、「樹脂材料からなる処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給して当該基板に所定の処理を施す際に」当該基板を保持するものであって、「この基板保持手段を回転させる回転駆動機構」を含んでおり、前記基板保持手段が有する第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に含まれている「導電性部は、前記回転駆動機構によって前記基板保持手段が回転されているときも接地されて」いるのに対して、引用刊行物記載の発明は、基板を取り扱う装置が「基板検査用顕微鏡装置」であり、基板保持手段が、「基板を顕微鏡観察する際に」当該基板を保持するものであって、その具体的構成は補正発明のようなものではない点。

(4)相違点の検討
上記(2)のアに摘記したように引用刊行物の段落【0057】には引用刊行物記載の吸着保持装置をウエハ検査用顕微鏡装置だけでなく「IC製造装置」に適用できること、すなわち動機が記載されている。
そして、「IC製造装置」において、基板保持手段が、処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給して当該基板に所定の処理を施す際に当該基板を保持するものであって、この基板保持手段を回転させる回転駆動機構を含んでおり、前記基板保持手段が有する基板接触部材の少なくとも基板接触部に含まれている導電性部は、前記回転駆動機構によって前記基板保持手段が回転されているときも接地されている基板処理装置を備えることは、例えば、原査定の際に、「基板保持手段において、基板を載置した時点及び回転されているときに接地されることについては周知の技術にすぎない」として例示された特開平7-211678号公報の段落0008、0025、及び特開平6-37082号公報の段落0019に示されているように従来周知である。
そうしてみると、引用刊行物記載の発明を「IC製造装置」とする際、上記従来周知の事項を適用して、基板を取り扱う装置を基板処理装置とし、基板保持手段が、処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給して当該基板に所定の処理を施す際に当該基板を保持するものであって、この基板保持手段を回転させる回転駆動機構を含んでおり、前記基板保持手段が有する第1基板接触部材の少なくとも基板接触部に含まれている導電性部は、前記回転駆動機構によって前記基板保持手段が回転されているときも接地されているようにすることに格別の困難性は見当たらない。
補正発明と上記適用によって構成される発明とを比較すると、補正発明では、基板保持手段を内方に備える処理カップが、樹脂材料からなる点でなお相違しているが、上記処理カップをどのような材料で構成するかは必要に応じて適宜選択すればよい事項にすぎず、また、上記処理カップを樹脂材料で構成することは、例えば、特開平10-323633号公報の段落【0017】、特開平11-274124号公報の段落【0040】、特開2000-12504公報の段落【0047】に記載されているように従来周知でもあり、上記処理カップを樹脂材料製とすることは、上記適用に当たって適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。

なお、請求人は、審判請求書ないし当審の審尋に対する回答書で、樹脂材料からなる処理カップの近傍を基板が通るときの誘導帯電防止の観点についての開示がないと補正発明の構成に想到し得ない旨主張する。
しかし、基板の帯電防止は、原査定の際に例示された上記公報にも示されているように、誘導帯電の発生部位にかかわらず、基板品質の観点から一般的に必要とされる課題であることからみて、請求人の主張は採用しない。
また、補正発明によってもたらされる効果も、引用刊行物記載の発明及び上記従来周知の各事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
したがって、補正発明は、引用刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成22年10月26日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「基板処理装置」である。

2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、「基板に所定の処理を施す際に基板を保持する基板保持手段」について「樹脂材料からなる処理カップの内方に備えられ、処理液を基板に供給」するという限定を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の限定を付加する補正発明が上記第2の2(4)末尾に示したとおり、引用刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし請求項5に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-11 
結審通知日 2011-11-17 
審決日 2011-11-29 
出願番号 特願2006-55135(P2006-55135)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之松岡 美和  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 長屋 陽二郎
豊原 邦雄
発明の名称 基板処理装置および基板取り扱い方法  
代理人 川崎 実夫  
代理人 稲岡 耕作  

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