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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1250915
審判番号 不服2007-32582  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-03 
確定日 2012-01-31 
事件の表示 特願2002- 38498「ギア清浄用低燐配合」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 3日出願公開、特開2002-285184〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成14年2月15日〔パリ条約による優先権主張 2001年2月20日 米国(US)〕の出願であって、平成19年8月22日付けで拒絶査定され、その後、平成19年12月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年1月4日付けで手続補正がなされ、平成22年5月25日付けの審尋に対し、平成22年9月28日付けで回答書の提出がなされ、その後、平成23年1月14日付けで審判合議体による拒絶の理由の通知がなされるとともに、同日付けの補正却下の決定により平成20年1月4日付けの手続補正が却下され、これに対し、平成23年7月25日に意見書の提出とともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

そして、本願請求項1?9に記載された特許を受けようとする発明は、平成23年7月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「無灰分散剤を含んでおらず且つMIL-L-2105D(API GL-5)性能要求を満足させると同時に少なくとも7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも9.4のL-60-1スラッジ等級を有するギアオイルであって、
a)ベースオイル、
b)燐酸エステルの油溶性アミン塩及びジシクロペンタジエンとチオ燐酸の反応生成物から選ばれる熱安定性燐含有抗摩耗剤、および
c)金属を含まない硫黄含有極圧剤、
を含んで成っていて成分(b)が燐を配合ギアオイルに100から350ppm与える量で存在しておりかつ成分(c)が硫黄を配合ギアオイルに少なくとも10,000ppm与える量で存在しているギアオイル。」

2.審判合議体による拒絶の理由
平成23年1月14日付けの審判合議体による拒絶の理由は、
理由1として、『この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1及び3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由と、
理由2として、『この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由を含むものである。

3.当審の判断
(1)引用刊行物及びその記載事項
ア.上記審判合議体による拒絶の理由で「刊行物1」として引用された「特開平10-176179号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「【請求項1】ホウ素を含まないクリーンギヤ潤滑油添加剤濃縮物であって、…硫化ポリイソブチレン…から成る…硫黄源、および式I…で表される油溶性アミン塩から成る…燐源、を含有していて、…該硫黄源と該燐源の割合が、ギヤオイルベースストックと…該硫黄源と該燐源を含有させた潤滑油が…少なくとも約7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも約9.4のL-60-1スラッジ等級を示すように選択した割合である添加剤濃縮物。」

摘記1b:段落0007
「【0007】本発明はギヤを奇麗にし得る無ホウ素ギヤ添加剤に関する。これは、ギヤオイルまたは後車軸用オイル組成物のための添加剤であり、この添加剤に、ホウ素を含まない窒素含有無灰分散剤(成分1)と硫黄源(成分2)と燐源(成分3)を含有させ、そしてそれらと一緒に他の任意材料を含有させてもよい。この添加剤組成物を適切なベースオイル(base oil)と一緒にブレンドすると、そのブレンド物は予想外にホウ素を用いる必要なくMT-1およびMIL-PRF-2105E要求を満足させ得る。」

摘記1c:段落0041、0043、0045及び0053?0054
「【0041】成分2:硫黄含有剤…本発明の実施における使用では幅広く多様な硫黄含有極圧剤…が利用可能である。…
【0043】硫黄含有剤の1つの特に好適な種類は、…好適には硫化ポリイソブチレンは、…好適には30から50重量%の硫黄含有量を有する。…
【0045】成分3:燐含有剤…
【0053】典型的な燐含有剤において、R17は炭素数が約5のヒドロカルビル基(アミルアシッドホスフェート)または炭素数が約8のヒドロカルビル基(2-エチルヘキシルアシッドホスフェート…)である。
【0054】…上記アミン類の例にはオレイルアミン…が含まれる。…混合物を用いると摩耗特性と酸化特性のより良好な均衡が達成される。」

摘記1d:段落0120
「【0120】注:…アミルアシッドホスフェート(AAP)とC11-14アミンとオレイルアミンを反応させて塩を生じさせる」

イ.上記審判合議体による拒絶の理由で「刊行物3」として引用された「特開平6-179887号公報」には、次の記載がある。

摘記3a:段落0012?0013及び0017?0019
「【0012】API-GL4サービスに関する使用を満たすか或はそれを超えることに関して、…ギヤオイル添加剤パッケージは、実際、API-GL5の如き他の性能仕様…を満足させ得る。…
【0013】…(1)油溶性の燐および硫黄含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物、および(2)油溶性スルホン酸の少なくとも1種のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、を含んでいるギアオイル添加剤パッケージを提供し、上記ギアオイル添加剤パッケージは、更に、…(i)水添ポリ-アルファ-オレフィンオリゴマーオイルまたは(ii)合成エステル…を少なくとも25重量%含んでいるベースオイルとブレンドすることで、…API-GL4サービスに関する仕様を満たすか或はそれを越え;…金属の含有量が多くて100ppm…である…潤滑剤組成物を与える。…
【0017】…これらのベースオイルは、部分的もしくは全体が低摩擦流体、例えばPAOベースオイルおよび/または合成エステル潤滑オイルで構成されている。…この種類の適切な水添1-アルケンオリゴマー類は、例えばEthyl Corporationおよびその会社の支社から、ETHYLFLOの商標の市販品として入手可能である。
【0018】合成エステルオイル類もまたよく知られており、そして市場で幅広く入手可能である。…
【0019】適切な市販品には、…KETJENLUBE合成オイル(Akzo Chemicals)が含まれる。」

摘記3b:段落0038?0039及び0043?0048
「【0038】番号が1から35の下記実施例は、とりわけ、本発明の好適な添加剤濃縮物および油質組成物を説明するものである。…これらの実施例の全てにおいて、全てのパーセントは重量である。
【0039】…実施例A 反応容器に、硫化イソブチレン38.0部、ジシクロペンタジエンとジチオ燐酸-0,0-ジアルキルエステル…との反応で生じる生成物14.0部、…および2-エチルヘキシルアシッドホスフェート1.75部を仕込む。…この混合物に、6.0部の…第三アルキルの一級アミン混合物…を加えた後、熱をかけないでこの混合物を20分間撹拌する。次に、この第三アルキルモノアミン製品を更に4.9部加え、そしてこの反応容器の内容物を、続けて撹拌しながら50℃に1時間維持する…次に、最終段階で熱をかけないで、この反応容器の内容物に、1.8部の2-t-ドデシルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、12.3部のAmoco 9250添加剤(…ホウ素化マンニッヒベース無灰分散剤の48%オイル濃縮物であると考えられる…特許製品)…を加える。この得られる添加剤濃縮物を60分間撹拌する。…
【0043】実施例1-4 上記個々の実施例A-Dを用いて、下記の如くギア潤滑剤を調合する。
【0044】…実施例5-8 上記実施例A-Dの個々の添加剤パッケージを用いて、下記の如く本発明の代替潤滑剤を調合する。
【0045】…実施例9 下記の成分を、示した量で一緒にブレンドすることにより、本発明の合成オイルを基とする潤滑オイル組成物を作成する。
【0046】6.5%の、実施例A、B、CまたはDの添加剤パッケージ;0.3%の、HiTECR 611スルホン酸カルシウム;39.9%の、ETHYLFLO 168ポリ-α-オレフィンオリゴマーオイル(8cStのベースオイル)(ETHYLFLOはEthyl Corporationの商標である);43.3%の、ETHYLFLO 174ポリ-α-オレフィンオリゴマーオイルの低塩素版(40cStのベースオイル);および10.0%の、KETJENLUBE合成オイル(KETJENLUBEはAkzo Chemicalsの商標である)。
【0047】実施例10 以下に挙げる材料を、示した相対比率で予め混合し、60℃で1.5時間加熱した後、この得られる混合物を、10.0%のKetjenlube 115(Akzo Chemicals)、43.3%のETHYLFLO 174 PAOおよび41.0%のETHYLFLO 168 PAOと共に0.2w/w%のHiTEC^(R) 611硫酸カルシウムを含んでいるSAE 80W-90合成流体の中に、5.5w/w%の濃度で混合する。
【0048】
硫化イソブチル 3.9
オクチルアミン 0.6
オレイルアミン 0.163
カプリル酸 0.5
2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート 0.196
銅不活性化剤 0.07
消泡剤 0.06」

摘記3c:段落0030
「【0030】…ヒドロカルビル燐酸の少なくとも1種の油溶性アミン塩」

(2)刊行物3に記載された発明
摘記3aの「(1)油溶性の燐および硫黄含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物、および(2)油溶性スルホン酸の少なくとも1種のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、を含んでいるギアオイル添加剤パッケージを提供し、上記ギアオイル添加剤パッケージは、…ベースオイルとブレンドすることで、…API-GL4サービスに関する仕様を満たすか或はそれを越え…る…潤滑剤組成物」との記載、摘記3bの「実施例10…以下に挙げる材料を、…硫酸カルシウムを含んでいるSAE 80W-90合成流体の中に、5.5w/w%の濃度で混合する。…硫化イソブチル3.9…オクチルアミン0.6…オレイルアミン0.163…2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート0.196」との記載、及び当該「実施例10」において「無灰分散剤」が使用されていないこと、並びに摘記3bの実施例10の「硫化イソブチル」については、摘記3bの実施例Aの「硫化イソブチレン」との記載を参酌するに、「硫化イソブチレン」の明らかな誤記であると解されることからみて、刊行物3には、
『無灰分散剤を含んでおらず、API-GL4の仕様を満たすか或はそれを超える潤滑剤組成物であって、(1)油溶性の燐および硫黄含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物(硫化イソブチレン3.9w/w%、オクチルアミン0.6w/w%、オレイルアミン0.163w/w%、2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート0.196w/w%)および(2)油溶性スルホン酸のアルカリ土類金属塩(硫酸カルシウム)を含んでいるギアオイル添加剤パッケージを、ベースオイル(SAE 80W-90合成流体)とブレンドした潤滑剤組成物。』についての発明(以下、「刊3発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明と刊3発明とを対比する。
刊3発明の「潤滑剤組成物」は、「ギアオイル添加剤パッケージ」をブレンドしてなるものであるから、本願発明の「ギアオイル」に相当し、
刊3発明の「ベースオイル(SAE 80W-90合成流体)」は、本願発明の「a)ベースオイル」に相当し、
刊3発明の「(1)油溶性の燐および硫黄含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物(硫化イソブチレン3.9w/w%、オクチルアミン0.6w/w%、オレイルアミン0.163w/w%、2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート0.196w/w%)」のうち、
前段の「硫化イソブチレン」という「油溶性の硫黄含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物」は、本願発明の「c)金属を含まない硫黄含有極圧剤」に相当し、
中段の「オクチルアミン」と「オレイルアミン」という2種類のアミン類と、後段の「2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート」という燐酸エステルは、摘記3cの「ヒドロカルビル燐酸の少なくとも1種の油溶性アミン塩」との記載、及び摘記1dの「アミルアシッドホスフェート(AAP)とC11-14アミンとオレイルアミンを反応させて塩を生じさせる」との記載からみて、油溶性アミン塩の「油溶性の燐含有抗摩耗および/または極圧添加剤補足物」を形成しているものと解されるから、本願発明の「b)燐酸エステルの油溶性アミン塩…から選ばれる熱安定性燐含有抗摩耗剤」に相当し、
刊3発明の「2-エチルヘキシル-アシッドホスフェート」という燐含有化合物は、潤滑剤組成物中に0.196w/w%=1960ppmの割合で含まれるものであって、当該燐含有化合物は、分子式がC_(8)H_(19)PO_(4)で表される分子量が210の化合物であって、Pの原子量が31であるところ、刊3発明の潤滑油組成物に含まれる燐の量は、1960×31÷210=289ppmと計算されるので、刊3発明の燐の配合量は、本願発明の「成分(b)が燐を配合ギアオイルに100から350ppm与えるに充分な量」の範囲内にあり、
刊3発明の「硫化イソブチレン」という硫黄含有添加剤は、潤滑剤組成物中に3.9w/w%=39,000ppmの割合で含まれるものであって、当該硫黄含有化合物は、刊行物1の「硫化ポリイソブチレンは、…好適には30から50重量%の硫黄含有量を有する。」との記載(摘記1c)からみて、刊3発明の潤滑油組成物に含まれる硫黄の量は、少なくとも39,000×(0.3?0.5)=11,700?19,500ppm程度の範囲にあるものと推定され、また、平成23年7月25日付けの意見書において明らかにされた本願明細書の「実施例1-6(表3)の添加剤パッケージ」が、刊3発明の3.9w/w%よりも少ない「3.5重量%」の硫化オレフィン量で「ギアオイルに硫黄を約15,000ppm与えるに充分な量」となっていることをも参酌すると、刊3発明の硫黄の配合量は、本願発明の「成分(c)が硫黄を配合ギアオイルに少なくとも10,000ppm与えるに充分な量」の範囲内にあるものと認められる。
してみると、本願発明と刊3発明は、
『無灰分散剤を含んでいないギアオイルであって、
a)ベースオイル、
b)燐酸エステルの油溶性アミン塩から選ばれる熱安定性燐含有抗摩耗剤、および
c)金属を含まない硫黄含有極圧剤、
を含んで成っていて成分(b)が燐を配合ギアオイルに100から350ppm与えるに充分な量で存在しておりかつ成分(c)が硫黄を配合ギアオイルに少なくとも10,000ppm与えるに充分な量で存在しているギアオイル。』である点において一致し、
ギアオイルの性状が、本願発明においては、「MIL-L-2105D(API GL-5)性能要求を満足させると同時に少なくとも7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも9.4のL-60-1スラッジ等級を有する」というものであるのに対して、刊3発明においては、「API-GL4の仕様を満たすか或はそれを超える」というものであって、本願発明の「API GL5」の仕様を満たし、「L-60-1」の炭素/ワニス等級及びスラッジ等級を有することについて記載がない点においてのみ一応相違する。

(4)判断
上記相違点について検討する。

刊行物3の「API-GL4サービスに関する使用を満たすか或はそれを超えることに関して、…API-GL5の如き他の性能仕様…に関する要求を満足させ得る」との記載(摘記3a)からみて、刊3発明は『API-GL5の如き性能仕様に関する要求を満足させ得る』ものと認められる。
また、本願発明の「ギアオイル」と刊3発明の「潤滑油組成物」は、使用する燐含有抗摩耗剤と硫黄含有極圧剤の種類が一致し、その燐及び硫黄の存在量の数値範囲も一致することから、刊3発明の「潤滑油組成物」も、本願発明と同様に「MIL-L-2105D(API GL-5)性能要求を満足させ得ると同時に少なくとも7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも9.4のL-60-1スラッジ等級を有する」という性状を有するものと認められる。
してみると、この点について両者に実質的な差異は認められない。
したがって、本願発明は、刊行物3に実質的に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

また、仮にこの点について相違するとしても、刊行物1には、「ギヤオイルベースストックと…該硫黄源と該燐源を含有させた潤滑油が…少なくとも約7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも約9.4のL-60-1スラッジ等級を示す」という性状を有し(摘記1a)、「MIL-PRF-2105E要求を満足させ得る」というギヤオイルについての発明が記載されているところ(摘記1b)、本願発明の「MIL-L-2105D(API GL-5)性能要求を満足させ得ると同時に少なくとも7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも9.4のL-60-1スラッジ等級を有する」というギアオイルの性状は、本願優先権主張日の技術水準における普通一般の性状ないし製品規格にすぎないものと認められる。
してみれば、刊3発明の「潤滑油組成物」の性状を、当該「MIL-L-2105D(API GL-5)性能要求を満足させ得ると同時に少なくとも7.5のL-60-1炭素/ワニス等級および少なくとも9.4のL-60-1スラッジ等級を有する」という、本願優先権主張日の技術水準における普通一般の製品規格を満たし得るように設定してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。
そして、本願発明の性能仕様は、本願優先権主張日の技術水準における普通一般の製品規格程度のものでしかないことから、本願発明に格別予想外の効果があるとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成23年7月25日付けの意見書において、『審判長殿は、特開平6-179887号公報(刊行物3)の実施例10(公報段落[0047]-[0048])を根拠として、刊行物3には無灰分散剤を含んでいない潤滑剤組成物が記載されていると述べておられる。しかしながら、「以下に挙げる材料、・・・この得られる混合物を、・・・を含んでなるSAE 80W-90合成流体の中に・・・混合する」(段落[0047])の下線部分は、実施例10が成分の一部分が記載されていることを意味するのであるから、無灰分散剤が含まれている可能性を示唆していると考える。しかも、公報段落[0024]、[0025]には、刊行物3の潤滑剤が少なくとも1種の油溶性無灰分散剤を好適に含む旨が明記されている点、マンニッヒベース無灰分散剤を含む添加剤(Amoco 9250)(段落[0039])を含む実施例A-Dのパッケージが多くの実施例(段落[0043]等)に用いられている点を勘案すれば、刊行物3が無灰分散剤を含んでいない潤滑剤組成物を開示しているとは言えず、また、当業者が刊行物3に基づいて本発明の無灰分散剤を含んでいないにも拘らず清浄性能が維持される等の有利な効果を示すギアオイルに想到し得るとは言えないと考える。』と主張しているので、この主張について以下に検討する。

刊行物3の段落0039には、硫黄含有極圧剤(硫化イソブチレン)、燐含有抗摩耗剤(2-エチルヘキシルアシッドホスフェートのアミン塩及びジシクロペンタジエンとジチオ燐酸の反応生成物)、並びにホウ素化マンニッヒベース無灰分散剤(Amoco9250)とを含んでなる「実施例A」の添加剤パッケージが記載され、その段落0043?0046には、当該「実施例A」の添加剤パッケージを用いた実施例1?9の具体例が記載されているところ(摘記3b)、その段落0047?0048に記載された「実施例10」のものは、その段落0048に挙げられる材料5.5重量%を「SAE80W-90合成流体」の中に配合するものであって、当該「段落0048に挙げられる材料」の中には、硫黄含有極圧剤(硫化イソブチレン)、並びに燐含有抗摩耗剤(2-エチルヘキシルアシッドホスフェート及びこれと塩を形成するアミン類)が明記されているものの、無灰分散剤に相当する添加剤については明記されていない(摘記3b)。
そして、刊行物3の「実施例10」のものにおいて使用されている「SAE80W-90合成流体」は、その段落0047に記載されるとおりの「10.0%のKetjenlube 115」、「43.3%のETHYLFLO 174 PAO」、「41.0%のETHYLFLO 168 PAO」、及び「0.2w/w%のHiTEC^(R) 611硫酸カルシウム」の4成分を含んでなるものであるところ(摘記3b)、摘記3aの「PAOベースオイルおよび/または合成エステル潤滑オイルで構成されている。…この種類の適切な水添1-アルケンオリゴマー類は、…ETHYLFLOの商標の市販品として入手可能である。…合成エステルオイル類もまたよく知られており、…適切な市販品には、…KETJENLUBE合成オイル(Akzo Chemicals)が含まれる。」との記載を参酌するに、当該「4成分」のうちの前三者は「合成オイル」であり、後一者は「カルシウム」という「灰分」を含んだ「金属清浄剤」であることが自明(必要ならば、特開平10-219262号公報の段落0040の「HiTEC(商標)611洗浄剤〔公称全塩基数が約300の過塩基アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム〕」との記載を参照されたい。)であるから、当該「4成分」の何れもが「無灰分散剤」に該当せず、そもそも刊行物3においては、その実施例1?9についての記載からみて、無灰分散剤を添加剤パッケージの一員としてベースオイルに添加していることから、当該「SAE80W-90合成流体」それ自体の中に、予め無灰分散剤が添加されているとは解せない。
なお、刊行物3の段落0024の「そして分散添加剤を含んでいてもよくそして好適には含んでいる」との記載、及び同段落0025「より好適にはマンニッヒ塩基無灰分散剤」との記載は、無灰分散剤を、必須ではなく、任意に含んでいてもよいという意味合いしかないので、当該段落0024及び0025の記載を参酌したとしても、刊行物3の「実施例10」の具体例に無灰分散剤が含まれていると解することはできない。
また、平成23年7月25日付けの意見書の『実施例は通常、使用されたものが記載されていればその実行に充分であり、使用されなかったものが殊更記載された実施例は一般的とは言えないことを考慮すれば、無灰分散剤を含まないという特徴は発明の詳細な説明に裏づけられていると考える。』との主張を参酌するに、刊行物3の「実施例10」に関する記載は、「無灰分散剤」が使用されるとの明記がないことから、当該「実施例10」の具体例は「無灰分散剤を含まない」ものであると解するのが普通である。
したがって、上記意見書の主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物3に実質的に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-16 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-07 
出願番号 特願2002-38498(P2002-38498)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10M)
P 1 8・ 113- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 ギア清浄用低燐配合  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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