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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23F
管理番号 1250981
審判番号 不服2010-12539  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-09 
確定日 2012-01-26 
事件の表示 特願2001- 97998「水中回転機械における主軸の電食防止構造」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 9日出願公開、特開2002-294473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年3月30日の出願であって、平成21年12月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年2月10日付けで意見書が提出されたが、同年3月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成22年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年6月9日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
1 平成22年6月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、特許請求の範囲の記載について、下記(1)を下記(2)に補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 ステンレス鋼製主軸の負荷側導出部に非導電性の羽根車がリング状の犠牲陽極および緩み防止用座金を介して取付ネジにより装着されている水中回転機械において、上記犠牲陽極は主軸に比し自然電位が僅かに卑な鉄系の材料で作られていることを特徴とする、水中回転機械における主軸の電食防止構造。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲(下線は、補正箇所に対して当審で付した。)
「【請求項1】 ステンレス鋼製主軸の負荷側導出部に非導電性の羽根車のボス部裏面にリング状の犠牲陽極が、緩み防止用座金と取付ネジにより介装されている水中回転機械において、上記犠牲陽極は主軸に比し自然電位が僅かに卑な鉄系の材料で作られていることを特徴とする、水中回転機械における主軸の電食防止構造。」

2 補正の適否について
(1)補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「非導電性の羽根車がリング状の犠牲陽極および緩み防止用座金を介して取付ネジにより装着されている」を、「非導電性の羽根車のボス部裏面にリング状の犠牲陽極が、緩み防止用座金と取付ネジにより介装されている」に補正するものである。
この補正によって、犠牲陽極が「羽根車のボス部裏面・・・に介装されている」と特定され、犠牲陽極の設置場所が限定されている。その他に、本件補正の前後で両者に表現上の差異があるものの、この差異は、羽根車、犠牲陽極、緩み防止用座金、及び取付ネジにおける相互の関係を明りょうにするものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号及び第4号に規定された特許請求の範囲の限定的減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)独立特許要件について
次に、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるのか否か)について検討する。

ア 本願補正発明は、上記1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

イ 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に国内において頒布された下記の刊行物1、刊行物2、周知例1及び周知例2には、次の事項が記載されている。

・刊行物1:特開平9-287592号公報(平成21年12月9日付け 拒絶理由通知の引用文献1)
・刊行物2:特開昭58-87281号公報(同通知の引用文献3)
・周知例1:特開平10-103292号公報(平成22年3月8日付け 拒絶査定で提示された周知文献)
・周知例2:特開平8-133185号公報(同査定で提示された周知文 献)

(ア)刊行物1(特開平9-287592号公報)
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工事現場での排水用等に用いられる水中ポンプに好適なウレタンゴム等からなる軟質材料製の羽根車に関するものである。」(【0001】)、
「【0004】本例のようにウレタンゴムのような可撓性の高い素材を羽根車に使用する場合には、トルク伝達部の強度確保や、寸法安定性の確保のために羽根車と軸との係合部から羽根車シュラウド部内へ亘る金属製の芯金を使用する必要があった。・・・」(【0004】)

(1b)「【0010】本発明では、芯金は羽根車ハブ部に限定した小径の金属板で構成されており、この部分で軸と係合し、軸から羽根車へのトルク伝達を行っている。遠心力及び流体の圧力分布によって比較的大きな変形量が発生する羽根車のシュラウド部や翼部はゴムのみで形成し、使用するゴムは耐摩耗性を確保すると同時に、芯金なしでシュラウド部や翼部の変形に耐えられるよう、・・・ウレタンゴムを素材として使用した。」(【0010】)、
「【0012】また、本発明では、羽根車を軸に取付けるに際し、軸ナットの緩み防止に必要な一定の適正締付けトルクを軸ナットに加えた際に、ゴム製の羽根車ハブ部が該締付けトルクによって変形し、軸ナットが座金を介して或いは直接に軸ねじと軸の羽根車取付部との段部に接触し、金属間の接触によって軸ねじが締結されるよう構成した。・・・」(【0012】)

(1c)「【0017】図2は図1に示す本発明の羽根車の軸への取付けを示す断面図である。図2に示すように、羽根車本体1のハブ部2は主軸7に嵌合されている。ハブ部2の端面には平座金8及びばね座金9が設けられている。軸ナット10は主軸7の端部のねじ部7aに螺合される。図2において、平座金8の端面と、軸の羽根車取付部7bとねじ部7aとの段部7cとの隙間δは小さく設定されている。そのため、軸ナット10の締め付け力によって、平座金8は羽根車ハブ部2に一定の圧縮応力を与えると同時に羽根車ハブ部2の変形によって該段部7cに接触し、金属間接触部に軸ナット10の締結力が作用して確実に軸ナット10を固定することができる。尚、図2では軸の羽根車取付部7bはキー溝ではなく、Dカット形状になっている。
【0018】図3は本発明の羽根車を組み込んだ工事用水中ポンプの断面図である。図3において、符号11はモータ部であり、モータ部11のロータを支持する主軸7には、図1に示す本発明の芯金3を埋設した羽根車本体1が取り付けられている。羽根車本体1はゴム製のポンプケーシング13に収容されている。ポンプケーシング13の外側には、ストレーナ14が設けられている。羽根車の主軸への取付は、図2に示す方法により行われている。・・・」(【0017】?【0018】)

(イ)刊行物2(特開昭58-87281号公報)
(2a)「1.腐食環境下における任意形状の金属接合部に、当該金属より卑な電位の陽極金属片を、金属接合部を締め付けているボルト、ナットに取り付けることを特徴とする金属接合面の隙間腐食防止法。」(1頁左下欄4行?7行)

(2b)「本発明は各種腐食性廃液貯蔵タンク類のタンク内にある金属接合面例えばフランジなどの間隙部に発生する隙間腐食を防止する方法に関する。」(1頁左下欄9行?11行)、
「本発明の要点は、金属配管フランジ部を締め付けているボルト、ナットにフランジ部を構成する金属より卑になる金属を犠牲陽極として取り付けることにより、フランジ部の接合面に発生する隙間腐食を防止し、かつ犠牲陽極の取り替えを従来より容易にしたものである。」(2頁左上欄7行?12行)

(2c)「第1表 海水中の金属・合金(審決注:「合属」は誤記)の電位列
卑な金属
↓ Mg
Zn
Al
鉄鋼
鋳鉄
13Crステンレス鋼(活性)
18-8ステンレス鋼(活性)
18-8-3Moステンレス鋼(活性)
・・・
・・・
Ag
Au
↑ Pt
貴な金属 」(2頁右上欄)、
「本発明者等は・・・フランジ面の一部にそのフランジを構成する金属材料よりさらに卑な電位の陽極金属を取り付けて、該陽極金属とフランジ機器との間に発生する直流電流を防食電流として使用することを見い出した。
犠牲陽極として用いられる卑な金属としては、第1表より、・・・母材が・・・ステンレス鋼で構成される場合にはFe又はAlが適当である。
なお、本発明はフランジ面の隙間腐食防止を目的としたが、犠牲陽極を取り付けることにより金属配管及びボルト・ナットの腐食防止も図ることができる。」(2頁左下欄7行?末行)

(2d)「中央部に6mmφの穴を有する30×30×2(厚さ)mmのステンレス鋼板2枚と、10×10×2(厚さ)mmの炭素鋼板を第1図に示すように重ね合せ、ステンレス製ボルト、ナットで締め付けて試験片とした。」(2頁右下欄3行?7行)、
「第3図に示す実施例では、・・・2はフランジ及びタンク内配管を構成する金属材料より低電位の陽極金属(例えばZn、Al、Fe)から成る金属片で、本実施例ではボルト3に取り付けたものである。」(3頁右上欄9行?15行)、
「第4図に示す実施例はタンク内壁面から出たステンレス鋼製L型鋼9にステンレス製パイプ6をUクランプステンレス製ボルト8を用いて固定するに際し、Uボルト8に犠牲陽極2を取り付けるようにしたものである。」(3頁左下欄2行?7行)

(ウ)周知例1(特開平10-103292号公報)
(3a)「【0006】そこで、水中ポンプの金属部分の腐食を防止する従来の方法として、ポンプの外側に金属部分よりも卑な金属を用いた犠牲陽極を取付け、金属部品と犠牲陽極との間に生じる電位差で金属部品の腐食発生を防止することが行われている。」(【0006】)

(3b)「【0012】水中ポンプの一般的な構造は、図1に示した通りであり、・・・軸スリーブ11、羽根車固定座金12、羽根車ナット用平座金13、羽根車用バネ座金14、ヘッドカバー取付用スタットボルト用ナット(図示省略)、羽根車ナット15、シャフト7等がステンレスやその他の金属製であり、これらの部品は水と接触することになる。
【0013】この発明は、シャフト7に固定する羽根車8を、上記した各金属部品に対し、卑な金属を用いて形成し、金属部品の電気防食における電気防食用犠牲陽極としている。
【0014】上記羽根車8の形成に用いる卑な金属としては、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムの金属又は合金を用いることができる。
【0015】前記した各金属部品とシャフト7に取付けた羽根車8とは電気的に導通状態の配置となり、水中において、各金属部品と羽根車8の間に電位差が生じ、羽根車8が犠牲陽極となって、羽根車8から各金属製部品に防食電流が流れ、これにより羽根車が溶触するのに対し、各金属部品の腐食発生を防止する。」(【0012】?【0015】)

(エ)周知例2(特開平8-133185号公報)
(4a)「【0002】
【従来の技術】この種の船舶の艫周り装置の従来例を図8に示す。この艫周り装置10は、プロペラ12と、このプロペラ12に結合されていてそれを回転させるプロペラ軸14と、・・・プロペラ軸14の後端部に取り付けられた犠牲陽極(これは流電陽極とも呼ばれる)22とを備えている。・・・・・
【0004】犠牲陽極22は、プロペラ12のボス121の後端部に配置されており、最後端部に配置されたプロペラナット20等によって、プロペラ12と共にプロペラ軸14の後端部に固定されている。・・・
【0005】犠牲陽極22は、例えばアルミニウム、亜鉛またはマグシウムを主成分とする合金であり、それから海水2を通して主としてプロペラ12に防食電流Iを供給して、主としてプロペラ12の電食(電気化学腐食)を防止するためのものである。・・・」(【0002】?【0005】)

(4b)「【0028】プロペラ32の材質は、例えばブロンズ合金、アルミニウム青銅等である。プロペラ軸34の材質は、例えばステンレス等である。・・・犠牲陽極42の材質は、例えばアルミニウム、亜鉛またはマグネシウムを主成分とする合金である。」(【0028】)

(4c)「【0034】・・・このプロペラナット40の後端部に犠牲陽極42を配置して、当該犠牲陽極42をボルト44によってプロペラ軸34の後端部に固定している。」(【0034】)

上記記載事項(1a)?(4c)を、以下、「摘記事項1a」?「摘記事項4c」という。

ウ 刊行物1に記載された発明
摘記事項1aによると、ウレタンゴムのような可撓性の高い素材を羽根車に使用した水中ポンプが記載されている。
摘記事項1bによると、羽根車と軸との取付構造は、軸ナットが座金を介して或いは直接に軸ねじと軸の羽根車取付部との段部に接触し、金属間の接触によって軸ねじが締結されるよう構成されている。
摘記事項1cによると、羽根車本体1のハブ部2が主軸7に嵌合し、ハブ部2の端面には平座金8及びばね座金9が設けられ、軸ナット10が主軸7の端部のねじ部7aに螺合していること、平座金8が段部7cに接触し、金属間接触部に軸ナット10の締結力が作用し軸ナットを固定されること(【0017】)が記載されている。当該金属間接触部は、平座金8と段部7cとが接触する部分を指しているから、該段部7cを有する該主軸7が金属製であることは明らかである。
摘記事項1cの「モータ部11のロータを支持する主軸7には、図1に示す本発明の芯金3を埋設した羽根車本体1が取り付けられている。」(【0018】)の記載によると、羽根車本体1は、モータ部11の駆動により主軸を介して回転することから、駆動部側と反対側の負荷側導出部に位置している。

よって、本願補正発明の記載振りに則して整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「金属製主軸7の負荷側導出部に設けられたウレタンゴム製羽根車本体1には、ハブ部2の端面に平座金8及びばね座金9が設けられ、当該平座金8及びばね座金9を介して、当該主軸7に軸ナット10が固定されている水中ポンプ。」

エ 対比・判断
(ア)本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「金属製主軸7」は、金属製である点で本願補正発明の「ステンレス鋼製主軸」と共通する。
引用発明の「ウレタンゴム製羽根車本体1」、「ハブ部2」は、それぞれ本願補正発明の「非導電性の羽根車」、「ボス部」に相当し、引用発明の「平座金8及びばね座金9」、「水中ポンプ」は、それぞれ本願補正発明の「緩み防止用座金」、「水中回転機械」に相当する。

(イ)したがって、両者は、次の点で一致する。
「金属製主軸の負荷側導出部に設けられた非導電性の羽根車が、ボス部面に緩み防止用座金を介装している水中回転機械。」

そして、次の点で相違する。
<相違点1>
本願補正発明は、主軸が「ステンレス鋼製」であるのに対し、引用発明は、主軸の金属材料が明らかでない点。

<相違点2>
本願補正発明は、「羽根車のボス部裏面にリング状の犠牲陽極が緩み防止用座金と取付ネジにより介装され」、「上記犠牲陽極は主軸に比し自然電位が僅かに卑な鉄系の材料で作られている主軸の電食防止構造」を有するのに対し、引用発明は、そのような犠牲陽極が介装された主軸の電食防止構造を有するものではない点。

そこで、上記の相違点1、2について検討する。
(ウ)相違点1について
水中ポンプ、船舶用プロペラ等の水中で使用される回転機械において、羽根車を回転させる主軸の材料として、耐食性に優れるステンレス鋼を用いることは、例えば、周知例1の「シャフト7等がステンレスやその他の金属製であり」(摘記事項3b、【0012】)、周知例2の「プロペラ軸34の材質は、例えばステンレス等である。」(摘記事項4b、【0028】)と記載されるように、周知事項である。
したがって、引用発明の金属製主軸の材料をステンレス鋼とすることは、単なる設計事項にすぎない。

(エ)相違点2について
犠牲陽極法は、防食対象金属よりも平衡電位の低い金属(卑な金属)を防食対象の金属部分と接続することにより、該金属部分の腐食を防止する方法であって、この卑な金属からなる部材を「犠牲陽極」あるいは「流電陽極」と呼んでいる。この犠牲陽極法(流電陽極法)による防食は、多くの分野で利用される周知の防食技術であり、船舶等の水中構造物における防食対象となる金属部材に犠牲陽極が取り付けられる(例えば、「金属防蝕技術便覧-新版-」7.3.6節、590頁?592頁(昭和53年12月20日、日刊工業新聞社発行)を参照)。
水中ポンプ、船舶用プロペラ等の水中で使用される回転機械においても、金属製部品を防食するため、卑な金属からなる犠牲陽極による電気防食手段を用いたものが知られている。例えば、周知例1に「水中ポンプの金属部分の腐食を防止する従来の方法として、ポンプの外側に金属部分よりも卑な金属を用いた犠牲陽極を取付け」(摘記事項3a、【0006】)、周知例2に「犠牲陽極22は、・・・主としてプロペラ12に防食電流Iを供給して、主としてプロペラ12の電食(電気化学腐食)を防止するためのものである。」(摘記事項4a、【0005】)と記載されている。
ここで、犠牲陽極の材料としては、上述したように防食する金属部分よりも自然電位(平衡電位)の卑な金属を使用する必要があるところ、金属材料相互の電位関係は、刊行物2の第1表の「海水中の金属、合金の電位列」に記載された順になっており(摘記事項2c)、ステンレス鋼の場合は、鉄鋼、鋳鉄といった鉄系材料が卑な金属に該当し、「母材が・・・ステンレス鋼で構成される場合にはFe、Alが適当である」(摘記事項2c)のように卑な鉄系材料が使用される。
よって、水中で使用される回転機械である引用発明において、金属製主軸を防食するために、主軸よりも僅かに卑な鉄系材料の犠牲陽極を取り付けることは、当業者が容易に想到し得る手段である。
そして、犠牲陽極の取付箇所を羽根車ボス部裏面とした点、及びその取付手段として、リング状の犠牲陽極を座金及びネジにより介装されて固定する点は、上述したとおり、防食対象部材に犠牲陽極が取り付けられることに加え、座金及びネジによる固定が慣用手段であることに照らせば、適宜なし得る範囲の設計事項である。例えば、座金及びネジによる固定手段に関しては、刊行物1に座金8、9及び軸ナット10を用いたもの(摘記事項1c)が記載され、周知例1に犠牲陽極たる羽根車8をナット15及び座金12?14を介して軸スリーブ11に取り付けたもの(摘記事項3b)、周知例2に犠牲陽極42をボルト44によって固定したもの(摘記事項4c)が記載されるように、ネジ状のボルトとナットによって固定したり、リング状の座金を介することは通常の手段である。
以上のことから、相違点2の「羽根車のボス部裏面にリング状の犠牲陽極が緩み防止用座金と取付ネジにより介装され」という事項、及び「上記犠牲陽極は主軸に比し自然電位が僅かに卑な鉄系の材料で作られている主軸の電食防止構造」という事項は、水中回転機械において当然に必要とされる防食という課題を解決する上で当業者が容易に採用し得た技術的手段であると認められる。

(オ)そして、本願補正発明の発明特定事項を採用したことにより得られる防食効果は、刊行物1、2及び周知例1、2等の記載からみて、予測を超える格別のものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び周知例1、2等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年6月9日付けの手続補正が上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願の出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、上記「第2」[理由]1(1)に記載した次のとおりである。

「【請求項1】 ステンレス鋼製主軸の負荷側導出部に非導電性の羽根車がリング状の犠牲陽極および緩み防止用座金を介して取付ネジにより装着されている水中回転機械において、上記犠牲陽極は主軸に比し自然電位が僅かに卑な鉄系の材料で作られていることを特徴とする、水中回転機械における
主軸の電食防止構造。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に国内において頒布された刊行物及び周知例の各記載事項は、上記「第2」[理由]2(2)イに記載されたとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」[理由]2(1)で検討したように、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項を限定するとともに記載を明りょうにしたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」[理由]2(2)エで述べたとおり、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び周知例1、2等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明についても、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のことから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-17 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-09 
出願番号 特願2001-97998(P2001-97998)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23F)
P 1 8・ 575- Z (C23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 北村 明弘
特許庁審判官 鈴木 正紀
川村 健一
発明の名称 水中回転機械における主軸の電食防止構造  

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