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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F15B |
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管理番号 | 1251151 |
審判番号 | 不服2009-10431 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-06-01 |
確定日 | 2012-01-25 |
事件の表示 | 特願2002-559958「バルブ/アクチュエータ装置を多重入力-多重出力方式で制御する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 1日国際公開、WO02/59487、平成16年 7月15日国内公表、特表2004-521283〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年1月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年1月25日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年7月28日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成21年1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年2月23日付けで補正の却下の決定がなされると共に拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同年7月1日に手続補正書が提出され、さらに、平成22年10月7日付けで当審における拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年4月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年4月12日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「設定ポイント信号を有する複数の入力信号のうち少なくとも1つの入力信号に各々が応答する複数の独立訂正制御信号であって、該複数の独立訂正制御信号のうち他の独立訂正制御信号が動作に失敗した場合でもバルブ/アクチュエータ装置を前記設定ポイント信号の設定ポイントまで駆動し得る前記複数の独立訂正制御信号を生成するステップと、 前記複数の独立訂正制御信号のうち2つ以上が動作に失敗していない場合、この2つ以上の独立訂正制御信号を組合わせてバルブ/アクチュエータ装置を前記設定ポイントまで駆動する1つの組み合わせ制御にするステップと、 前記独立訂正制御信号のうち1つだけが動作に失敗していない場合、この1つの独立訂正制御信号だけを使ってバルブ/アクチュエータ装置を前記設定ポイントまで駆動するステップとを有し、 前記複数の独立訂正制御信号のうち少なくとも2つの独立訂正制御信号は、異なる制御アルゴリズムを用いて生成されている、 バルブ/アクチュエータ装置を制御する方法。」 3.引用刊行物 3-1.引用例 当審における拒絶の理由に引用された特開昭63-23003号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「(1)並列冗長アクチュエータシステムであって、それぞれが該システムの出力部材の所望位置を表す各命令信号と該出力部材の実際位置を表すフイードバック信号との間の差に応答する複数の信号レーン、該信号レーンの出力に応答して、該レーンの出力の総和を表す出力信号を出力する加算手段、及び該加算手段の出力に応答して、該出力部材の位置を制御するアクチュエータからなる並列冗長アクチュエータシステムにおいて、 各レーンの入力と該加算手段の出力との間において、該システムが非線形特性を示し、そしてひとつのレーンの故障による入力変化が生じる入力値範囲における該非線形特性の勾配が、該レーンが作動できる入力値の範囲にわたって特性が線形である場合よりも大きいことを特徴とする並列冗長アクチュエータシステム。」(1頁左下欄5行?同頁右下欄2行) ・「(5)該加算手段がトルクモータである特許請求の範囲第4項に記載のシステム。 (6)該アクチュエータが油圧アクチュエータであり、そして該トルクモータによって、油圧流体の該アクチュエータへの供給及びそれからの排出を制御する弁手段を制御する特許請求の範囲第5項に記載システム。」(1頁右下欄15行?2頁左上欄1行) ・「並列冗長アクチュエータ・システムにおいては、それぞれが該システムの出力部材の所望位置を示す、複数の命令信号をそれぞれ複数の、名目上同一の信号レーンに入力して、その出力により出力部材の位置を制御している。このシステムの利点は、これら信号レーンのすべてではないが、ひとつかそれ以上のレーンの成分が故障しても、運転を続行できる点にある。 このようなシステムの公知形式のものにおいては、出力部材の実際位置を表す信号を各レーンの入力端にフィードバックし、ここでレーン命令信号と比較し、そしてエラー信号をレーンを介して加算機構に送り、アクチュエータシステムの出力部材の位置を制御するために使用される、レーン出力信号の総和を表す出力を出力するようになっている。 上記のようなシステムでは、加算手段は、レーン出力信号が加えられる複数の制御巻線を備えたトルクモータからなり、そしてこのモータに、出力部材がシステムの出力部材を構成する油圧アクチュエータに加圧油圧流体を送り、そして該アクチュエータからこれを送り出すことを制御する弁を設ける。 このようなシステムの運転中に、一つのレーンに故障が生じて、このレーンによって加算手段に送られる信号が既にこのレーンに加えられる命令信号に関係なくなると、残りの故障していないレーンによって加算手段に送られる信号が、故障レーンが与える適正でない信号を補償する量だけ変化する。ところが、ひとつのレーンが故障すると、所定の命令信号に対する故障していないレーンの出力信号を変化させる必要がある。従って、一つのレーンに故障がでた場合には、アクチュエータ出力部材の位置を必然的に少し変化させる必要がある。そして、この位置変化の大きさは、故障レーンを補償するのに必要な、故障していないレーンの出力信号変化の大きさに応じて変わってくる。この問題は、従来のように、アクチュエータシステムん動的応答を向上するために、各レーンがアクチュエータ出力部材の位置フイードバックループの内側にさらにフイードバックループを備えている場合に、顕著になる。」(2頁左下欄左下欄7行?3頁左上欄11行) ・「添付図面は本システムの概略図である。 本システムは、出力部材がロッド3の形をとる油圧ラムアクチュエータを備えている。運転中、本システムはロッド3の軸方向動作を制御する。ロッド3の端部は、本システムによって動作を制御すべき装置(図示せず)、例えば航空機の操縦装置面に取り付ける。 このロッド3は、内壁11によって2つの区画室7、9に分割される中空の円筒形エンクロージャ5に軸方向に移動自在に設ける。ロッド3に沿って離間した位置に、2つのピストン13、15がある。一方のピストン13は区画室7を2つのチャンバ7A、7Bに、そして他方のピストン15は区画室9をチャンバ9A、9Bに分割する。 各区画室7、9にそれぞれ制御弁17、19を設け、ブラシ無しトルクモータ21によって一体的に作動させる。 運転中、モータ21によって弁17、19を制御して、それぞれの供給ラインから加圧油圧流体をチャンバ7A、7Bに送り、そしてチャンバ7A、7Bから流体をそれぞれの戻りライン27、29に排出して、ロッド3を図示のように右側に駆動するか、あるいは供給ライン23、25から流体をチャンバ7B、9Bに送り、そしてチャンバ7A、9Aから流体を戻りライン27、29に排出して、ロッド3を図示のように左側に駆動する。」(3頁左下欄10行?同頁右下欄18行) ・「トルクモータ21、従って弁17および19を制御する電流信号を3つの信号レーンに並列供給する。このようなレーンの各信号出力をモータ21の固定子の各巻線33A、B又はCに送り出す。各巻線は固定子の別々な極片に設け、そして巻線全体は共通モード故障を防止するために、相互に分離しておく。トルクモータ21は、巻線33A、B及びCに加えられる信号によって表されるトルクの線形演算和である出力トルクである出力トルクを出力するように設ける。 各信号レーンは第1加算点35A、B又はCを備え、ここでシステムの出力部材3の所望位置を表す命令信号を、それぞれ3つの位置検出器37A、B及びCの一つから誘導される、出力部材3の実際の位置を表す信号で弁別して、エラー信号を出力する。 エラー信号を第1増幅器39A、B又はCを介して第2加算点41A、B又はCに送り出す。第2加算点において、増幅器39A、B又はCの出力信号を、モータ21の対応する制御巻線33A、B又はC中の電流を表す信号で弁別する。次に、生じたエラー信号を第2増幅器43A、B又はCを介して対応する巻線33A、B又はCに加える。このようにして得られた第2フイードバックループは、公知サーボ機構によるシステムの動的応答を向上させるだけでなく、フイードバックループが遮断したり、接地した場合に、レーンにおける増幅器43A、B又はCの出力を増幅する効果がある。 通常運転では、各レーン31A、B又はCは、命令信号によって要求された位置にロッド3を作動させるためにモータ21が供給しなければならないトルクのl/3に実質的に相当する信号をモータ21に送る。 一つのレーン、例えばレーン31Aが故障すると、故障していない残りの2つのレーン31B、Cそれぞれによって送られるトルクが、故障レーン31Aが送るトルクの変化を補償するのに十分な量だけ変化する。故障していないレーン31B、Cがこれをなすためには、レーン31Aが故障する前の位置からロッド3の位置を少しズラス必要がある。 本発明によれば、このズラシを最小限に抑えるためには、モータ21の各巻線33A、B又はCに入力する電流入力信号とモータ出力に生じるトルクとの関係を非線形にする。特に、この入力/出力特性は、高入力になると共に減少する勾配を示す。この結果、故障していないレーン31B及びCが供給するトルクの所要変化が、上記入力/出力特性が所要トルク範囲にわたって線形である場合に比較して、故障していないレーン31B及びCの加算点35B及びCの出力信号のより少ない変化で、従ってロッド3の位置のより少ないズラシで、達成できる。 因みにいえば、作動しない制御弁状態を解消するためには、各レーン31の最大トルク能力は、運転中に制御弁17、19に加える必要がある最大合計トルクをかなり上回っていなければならない。従って、レーン故障を補償するための、故障していないレーン31B及びCのトルク変化は、相当する線形特性よりも勾配の大きい、上記入力/出力特性の下部において生じる。」(4頁左上欄2行?同頁右下欄7行) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「出力部材3の所望位置を表す複数の命令信号のうち1つの命令信号に各々が応答する複数の信号レーンの信号出力であって、少なくとも1つの前記信号レーンに故障が生じた場合でも、各巻線に加えられる各前記信号レーンの前記信号出力によって表されるトルクの演算和である出力トルクを出力する加算手段であるトルクモータ21と、該トルクモータ21によって一体的に作動する制御弁17、19と、前記トルクモータ21によって前記制御弁17、19が制御されることにより、前記出力部材3を流体により軸方向に駆動する油圧ラムアクチュエータとからなる装置を、前記出力部材3が前記所望位置となるように駆動し得る前記複数の信号レーンの前記信号出力を生成するステップと、 2つの前記信号レーンが故障していない場合、この2つの前記信号レーンの前記信号出力が前記トルクモータ21の前記各巻線に加えられて、前記装置を前記出力部材3が前記所望位置となるように駆動するステップとを有し、 作動しない制御弁状態を解消するために、各前記信号レーンの最大トルク能力が、運転中に前記制御弁17、19に加える必要がある最大合計トルクをかなり上回るようにされている、 前記装置を制御する方法。」 3-2.周知例 当審における拒絶の理由に引用された特開平5-52202号公報(以下「周知例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0008】この発明の目的は、構造が簡単で既設設備にも容易に適用でき、安価でかつ実用性が高く、高速性能、高精度、高応答性を有する油圧式サーボ装置を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、大小2種類以上の流量特性を有する複数のサーボ弁を並列に配設し、一つの制御回路で複数のサーボ弁を同時に、かつお互いの干渉を無くして使用可能とすることによって、安価で高速性能と高精度、高応答性とを具備した油圧式サーボ装置が得られるとの結論に至り、この発明に到達した。」 ・「【0015】 【実施例】以下にこの発明の詳細を実施の一例を示す図1ないし図5に基いて説明する。図1はこの発明の油圧式サーボ装置の関数発生器を設けた制御系のブロック図、図2はこの発明の油圧式サーボ装置の周波数帯域の異なるフィルターを設けた制御系のブロック図、図3はこの発明の油圧系統図、図4は従来技術、本発明装置の実施例1および本発明装置の実施例2の位置制御系のステップ応答の一例を示す説明図、図5は図2の周波数帯域の異なるフィルターの特性を示す線図である。図1において、1は大流量サーボ弁、2は小流量サーボ弁、3はシリンダのピストンチューブ、4はピストンチューブ3内に設けたシリンダラムである。5は位置制御部、6は位置指令信号、7および8は関数発生器、9はシリンダラム4の位置を検出する位置検出器で、位置検出器9で検出されたシリンダラム4の位置は加算器10にフィードバックされる。加算器10は、位置指令信号6と位置検出器9からフィードバックされるシリンダラム4の位置信号とを比較演算し、その偏差を位置制御部5に出力するよう構成する。 【0016】なお、関数発生器7、8は、図1中に示してあるような特性を有しており、関数発生器7は、位置制御部5の出力を入力として、入力が大きいときに有効となり、入力の小さいときに無効もしくはゲインを十分小さくするような特性となっている。また、関数発生器8は、位置制御部5の出力を入力として、入力が小さいときに有効となり、入力の大きいときは一定の出力に制限されるような特性となっている。したがって、位置制御部5からのサーボ電流指令または開度指令が大の場合は、関数発生器8の出力が一定に制限され、関数発生器7により大流量サーボ弁1のサーボ電流または開度が制御される。逆に位置制御部5からのサーボ電流指令または開度指令が小の場合は、関数発生器7の出力が無効もしくはゲインが十分小さく制限され、関数発生器8により小流量サーボ弁2のサーボ電流または開度が制御される。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを、その機能・作用からみて対比する。 ・後者の「出力部材3の所望位置を表す複数の命令信号」は前者の「設定ポイント信号を有する複数の入力信号」に相当し、後者の「信号レーンの信号出力」は前者の「独立訂正制御信号」に相当し、よって、後者の「出力部材3の所望位置を表す複数の命令信号のうち1つの命令信号に各々が応答する複数の信号レーンの信号出力」は前者の「設定ポイント信号を有する複数の入力信号のうち少なくとも1つの入力信号に各々が応答する複数の独立訂正制御信号」に相当する。 ・後者の「少なくとも1つの信号レーンに故障が生じた場合」は前者の「複数の独立訂正制御信号のうち他の独立訂正制御信号が動作に失敗した場合」に相当する。 また、後者の「各巻線に加えられる各信号レーンの信号出力によって表されるトルクの演算和である出力トルクを出力する加算手段であるトルクモータ21と、該トルクモータ21によって一体的に作動する制御弁17、19と、前記トルクモータ21によって前記制御弁17、19が制御されることにより、出力部材3を流体により軸方向に駆動する油圧ラムアクチュエータとからなる装置」は前者の「バルブ/アクチュエータ装置」に相当する。 さらに、後者の「出力部材3が所望位置となるように駆動し得る」態様は、前者の「設定ポイント信号の設定ポイントまで駆動し得る」態様に相当する。 ・後者の「2つの信号レーンが故障していない場合」は前者の「複数の独立訂正制御信号のうち2つ以上が動作に失敗していない場合」に相当する。 また、後者の「この2つの信号レーンの信号出力がトルクモータ21の各巻線に加えられて、装置を出力部材3が所望位置となるように駆動する」態様については、2つの信号レーンの信号出力(独立訂正制御信号)が加算手段であるトルクモータ21によって組み合わされて、装置(バルブ/アクチュエータ装置)を駆動することになるから、前者の「この2つ以上の独立訂正制御信号を組合わせてバルブ/アクチュエータ装置を設定ポイントまで駆動する1つの組み合わせ制御にする」態様に相当する。 ・後者の「装置を制御する方法」は前者の「バルブ/アクチュエータ装置を制御する方法」に相当する。 したがって、両者は、 「設定ポイント信号を有する複数の入力信号のうち少なくとも1つの入力信号に各々が応答する複数の独立訂正制御信号であって、該複数の独立訂正制御信号のうち他の独立訂正制御信号が動作に失敗した場合でもバルブ/アクチュエータ装置を前記設定ポイント信号の設定ポイントまで駆動し得る前記複数の独立訂正制御信号を生成するステップと、 前記複数の独立訂正制御信号のうち2つ以上が動作に失敗していない場合、この2つ以上の独立訂正制御信号を組合わせてバルブ/アクチュエータ装置を前記設定ポイントまで駆動する1つの組み合わせ制御にするステップとを有する、 バルブ/アクチュエータ装置を制御する方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] バルブ/アクチュエータ装置を設定ポイントまで駆動することに関し、本願発明では、「独立訂正制御信号のうち1つだけが動作に失敗していない場合、この1つの独立訂正制御信号だけを使ってバルブ/アクチュエータ装置を設定ポイントまで駆動するステップ」を有しているのに対して、引用発明では、独立訂正制御信号のうち1つだけが動作に失敗していない場合については特定されていない点。 [相違点2] 複数の独立訂正制御信号に関し、本願発明では「複数の独立訂正制御信号のうち少なくとも2つの独立訂正制御信号は、異なる制御アルゴリズムを用いて生成されている」のに対して、引用発明ではそのような特定はされていない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1について] 引用発明が「作動しない制御弁状態を解消するために、各前記信号レーンの最大トルク能力が、運転中に前記制御弁17、19に加える必要がある最大合計トルクをかなり上回るようにされている」こと、及び、引用例において「並列冗長アクチュエータ・システムにおいては、それぞれが該システムの出力部材の所望位置を示す、複数の命令信号をそれぞれ複数の、名目上同一の信号レーンに入力して、その出力により出力部材の位置を制御している。このシステムの利点は、これら信号レーンのすべてではないが、ひとつかそれ以上のレーンの成分が故障しても、運転を続行できる点にある。」(2頁左下欄7?15行)との記載があり、引用発明と同様に複数の信号レーンを有する構成において、1つ以上の信号レーンの故障が生じた場合でも運転を続行することが示唆されていることを考慮すると、引用発明において、独立訂正制御信号(「信号レーンの信号出力」が相当。以下、括弧内は同様。)のうち1つだけが動作に失敗していない場合、この1つの独立訂正制御信号だけを使ってバルブ/アクチュエータ装置(装置)を設定ポイントまで駆動する(出力部材3が所望位置となるように駆動する)ものと認められ、上記相違点1は実質的な相違とは認められない。 仮に、引用発明において、独立訂正制御信号のうち1つだけが動作に失敗していない場合、この1つの独立訂正制御信号だけを使ってバルブ/アクチュエータ装置を設定ポイントまで駆動するものと認められないとしても、そのようなことは制御の信頼性を向上するために当業者が適宜なし得る設計的事項と認められる。(例えば、当審における拒絶の理由に引用された特開2000-213666号公報の段落【0024】には、「なお、3本のサーボコイル56、58、60のうち2本のサーボコイルが断線したときを考慮したときには、設定値Gの大きささを2?3%に設定すればよい。」と記載されているように、ドライブ回路からの開度信号による電流が1本のサーボコイルにのみ流れること(「1つの独立訂正制御信号だけを使ってバルブ/アクチュエータ装置を設定ポイントまで駆動する」ことに相当。)が示されている。) [相違点2について] 本願発明において、上記相違点2に係る構成である「複数の独立訂正制御信号のうち少なくとも2つの独立訂正制御信号は、異なる制御アルゴリズムを用いて生成されている」との事項を採用したことの技術的意義について、平成23年4月12日付け意見書には「このように、明細書には、実施形態において異なる制御アルゴリズムに夫々一致する独立訂正制御信号が異なる要因(例えば、前述の摩擦、デッドバンドおよびヒステリシス)を補償し得ることが記載されている。つまり、別々の制御アルゴリズムを用いて独立訂正制御信号を生成することで精度及び応答性等を向上させることができる。」(2頁2?5行))との説明及び「前記多重制御アルゴリズムの幾つかは、設定ポイント信号の所定の割合内においてエラー信号を即座に送り、そして摩擦や慣性を乗り越えるようになっている。また、他の制御アルゴリズムは、振動を引き起こすことなくエラー信号を徐々に最小化するようになっている。このように、明細書には、異なる制御アルゴリズムで生成された独立訂正制御信号が異なる時期に有利に作用する。」(2頁12?16行)との説明がされている。 これら説明によると、上記事項は、独立訂正制御信号が動作に失敗していない通常の制御状態において複数の性能を向上するために採用されたものと認められる。 そして、複数の制御信号により一の制御対象を制御するものにおいて、高速性能、高精度、高応答性等の複数の性能を向上するために、複数の制御信号を異なる制御アルゴリズムを用いて生成したものとすることは、例えば、周知例(特に、段落【0008】?【0009】、段落【0015】?【0016】及び図1を参照。)に記載されているように本願の優先日前に周知技術であり、制御の技術分野において複数の性能を向上することは一般的な課題であって、引用発明においても通常の制御状態における複数の性能を向上することは当然に考慮されることであるから、引用発明において上記周知技術を適用することは当業者が任意になし得る事項であり、格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。 そうすると、引用発明において上記周知技術を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。 そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-23 |
結審通知日 | 2011-08-30 |
審決日 | 2011-09-13 |
出願番号 | 特願2002-559958(P2002-559958) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F15B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 竜一、細川 健人 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
槙原 進 冨江 耕太郎 |
発明の名称 | バルブ/アクチュエータ装置を多重入力-多重出力方式で制御する方法および装置 |
代理人 | 特許業務法人 有古特許事務所 |