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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
管理番号 1251277
審判番号 不服2008-19753  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-04 
確定日 2012-02-03 
事件の表示 特願2002-193919「脆性材料基板の分断方法および脆性材料基板分断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 35315〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年7月2日の出願であって、平成17年6月27日に明細書に係る手続補正書が提出され、平成20年2月7日付けで拒絶理由が通知され、同年4月7日に意見書とともに明細書に係る手続補正書が提出され、同年7月2日付けで拒絶査定された。
これに対し、同年8月4日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年9月2日に明細書及び図面に係る手続補正書が提出され、平成23年2月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を利用した審尋がなされ、同年4月18日に回答書が提出された。
その後、同年6月21日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書とともに明細書に係る手続補正書が提出されている。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成23年8月17日付けで提出された手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】 脆性材料基板をスクライブ予定ラインに沿って垂直クラックを形成して分断する脆性材料基板の分断方法であって、
分断対象となる脆性材料基板を、単板のガラス基板の表裏の各面の該スクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成してなる脆性材料基板単板とし、
該脆性材料基板単板の表面および裏面に相互に対向するようにそれぞれ形成される該スクライブ予定ライン上を該脆性材料基板単板の軟化点より低い温度で同時に加熱することによって、該脆性材料基板単板の表面および裏面に加熱領域を形成しつつ、該各加熱領域にそれぞれ近接した該各スクライブ予定ライン上に冷却領域をそれぞれ形成して、形成された該各冷却領域を、該冷却領域のそれぞれが移動方向の後方になるように、近接する該各加熱領域と一体的に該各スクライブ予定ラインに沿って移動させることにより、相互に近接する該加熱領域および該冷却領域のそれぞれによって熱応力を形成して、該脆性材料基板単板の両面から該脆性材料基板単板を貫通するよう該垂直クラックを該各スクライブ予定ラインに沿って連続して形成して該脆性材料基板単板を分断することを特徴とする脆性材料基板の分断方法。」

3.当審の拒絶理由
当審において、平成23年6月21日付けで通知した拒絶の理由の「4.特許法第29条第2項について」の概要は、請求項1に係る発明については、本願の出願の日前に頒布された「特開2001-212683号公報」(以下、「引用文献1」という。)、「特表平8-509947号公報」(以下、「引用文献2」という。)、「特開昭62-137189号公報」(以下、「引用文献3」という。)、「特開昭63-160779号公報」(以下、「引用文献4」という。)、「特開平9-29472号公報」(以下、「引用文献5」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない、というものである。

4.引用文献の記載事項・視認事項
4-1.引用文献1
(ア)「脆性材料にレーザ光を照射するためのレーザ照射工程と、
前記照射されたレーザ光の一部を遮光するための遮光工程と、
前記脆性材料と前記レーザ光との相対位置を移動させる移動工程と、からなる・・・脆性材料の割断方法。」(特許請求の範囲【請求項4】)
(イ)「・・・前記遮光工程により前記レーザ光の照射がさえぎられた、前記脆性材料表面上の遮光領域と、前記レーザ光の照射領域は、前記照射領域の重心点と、前記遮光領域の重心点とを結んだ直線に対して対称であるようにする・・脆性材料の割断方法。」(特許請求の範囲【請求項5】)
(ウ)「・・・前記移動工程は、前記遮光領域の重心点から、前記照射領域の重心点の方向へ、前記脆性材料に対する前記レーザ光の相対位置を移動させる・・・脆性材料の割断方法。」(特許請求の範囲【請求項6】)
(エ)「・・・ガラス等を始めとする脆性材料の切断は、様々な製品の製造工程で用いられている。特に液晶表示パネルの製造工程においては、ガラス表面に金属部材が実装されているガラス板を所定のサイズに切断する工程が必須である。・・・」(段落【0002】)
(オ)「・・・そこで本発明では、簡便に高精度な割断が可能となる割断方法、割断装置を提供するとともに、この方法を用いて液晶表示パネルを歩留まり良く製造する製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0010】)
(カ)「また、本発明の脆性材料の割断方法においては、この2枚のガラス板を重ね合わせた構造を有する構造体の割断において、双方のガラス板にレーザ光を照射して割断を行う事を特徴とするものである。このため精度良く割断を行うことができるとともに、双方のガラス板をひっくり返す機構を用いることなく割断をすることが可能となる。」(段落【0021】)
(キ)「【発明の実施の形態】(第1の実施の形態)以下に本発明の第1の実施の形態について図を用いて説明する。
・・・・・・
レーザ発振器1から照射されたレーザ光2は、ベンダーミラー3により全反射した後、遮光板4により一部を遮光される。その後、この一部を遮光されたレーザ光2はガラス板5を照射し、ガラス板5を割断させる。ガラス板5を固定支持するXYステージ6は、ガラス板5を移動させて割断を進行させる。」(段落【0024】?【0027】)
(ク)「位置決め装置8は、ベンダーミラー3、遮光板4、集光レンズ7を支持する。また、この位置決め装置8は、ガラス板5表面に照射させるレーザ光2の光軸の位置決め、および集光位置の調整を行う。」(段落【0032】)
(ケ)「・・・このガラス板5は厚さ1mmのガラス板5であり図2に示されるように、表面上に、割断を開始するための亀裂10が、硬質工具を用いて予め所定の位置に形成されている。
・・・本実施の形態の場合、図2に示されるように、亀裂10を割断開始位置として、割断予定線11に沿って割断されるように、割断形状が設定される。次にレーザ出力がコントローラ9において設定される。図3に示された、ガラスの板厚と割断に好適なCO2レーザの出力のグラフをもとに、レーザ出力を決定する。ガラス板5の板厚は、1mmなのでレーザ出力は160Wと設定される。」(段落【0035】?【0036】)
(コ)「レーザ発振器1から出射されたレーザ光2は、ベンダーミラー3で全反射する。その後図4に示されるように遮光板4により、レーザ光2の円形断面のうち略長方形部分が遮光される。
一部が遮光されたレーザ光2は、集光レンズ7により亀裂10に集光される。
図5に示されるように、ガラス板5表面上において、遮光領域12は短辺200μm、長辺約400μmで、短辺とレーザ光2の中心との距離が100μmとなる長方形形状である。レーザ光2により照射される照射領域13は直径1mmの円形からこの遮光領域12をのぞいた領域となる。」(段落【0038】?【0040】)
(サ)「照射領域13はレーザ光2のエネルギを吸収して、温度上昇するので熱応力が発生し、予め形成されていた亀裂10を進展させる。XYステージ6はコントローラ9からの制御信号を受けて、照射領域13の重心から遮光領域12の重心方向、すなわち割断予定線11に平行に、150mm/秒の速度で移動する。この移動によって亀裂10が割断予定線11上に進展する作用を説明する。」(段落【0042】)
(シ)「図7(a)はXYステージ6の移動により、B点がレーザ光2の照射領域13に含まれたときの図である。このとき2点ともレーザ光2の照射がないのでほとんど同じ温度である。さらにXYステージ6が移動して、図7(b)はA点が照射領域13に含まれた図である。B点は、レーザ光2が照射されたために温度上昇しているがA点はレーザ光2が照射されていないため、ほとんど温度上昇がない。図7(c)は、B点が遮光領域12に含まれたときの図である。このとき、B点はエネルギ強度がもっとも高いレーザ光2の光軸付近を通過した直後であるので、かなり温度が上昇している。図7(d)は、A点が遮光領域12に含まれた図である。図7(c)は、B点が遮光領域12に含まれたときの図である。このとき、B点はエネルギ強度がもっとも高いレーザ光2の光軸付近を通過した直後であるので、かなり温度が上昇している。図7(d)は、A点が遮光領域12に含まれた図である。図7(c)から図7(d)の間、B点は遮光領域12内部にあるのでレーザ光2が照射されず、周囲の雰囲気との熱伝達およびガラスへの熱伝導により放熱され急激に温度が低下する。一方A点は、エネルギ強度が最も高いレーザ光2の光軸を通過した直後であるので、ガラス板5上でもっとも高温となっている。従って、AB間には大きな温度勾配が生じ、大きな熱応力が発生する。従ってこの熱応力によって亀裂10は進展する。また、照射領域13および遮光領域12は割断予定線11に対して対称であるため、温度分布は割断予定線11に対して対称となる。その結果熱応力も割断予定線11に対して対称となり、亀裂10は割断予定線11に沿って進展する。以上の作用が連続的に起こることによってガラス板5は割断される。」(段落【0044】)
(ス)「また、移動手段はXYテーブルに限られず、位置決め装置8を移動させて割断を進行させることも当然可能である。」(段落【0047】)
(セ)「・・・また、被加工物はガラスに限られずシリコン等他の脆性材料でも変形可能である。・・・」(段落【0048】)
(ソ)「(第2の実施の形態)図9は本発明の第2の実施の形態の構成図である。
第1の実施の形態との変更点は、被加工物が液晶を挟んでガラス板を2枚重ねた液晶セルである点と、2本のレーザ光2a、2bを上下から照射して各々のガラス板を同時に割断する点である。なお、第1の実施の形態と同じ構成要素については同じ番号を付して説明を省略する。」(段落【0049】?【0050】)
(タ)「・・・この液晶セル14は図10に示されるように厚さ0.7mmのガラス板5aおよび厚さ1.0mmのガラス板5bを重ね合せた構造になっている。・・・また、ガラス板5aとガラス板5bの表面には割断を開始するための亀裂10a、10bが硬質工具を用いて予め所定の位置に形成されている。
・・・そこでガラス板5aは亀裂10aを割断開始位置として、割断予定線11aに沿って割断されるように、割断形状を設定する。ガラス板5bは、亀裂10bを割断開始位置として、割断予定線11bに沿って割断されるように、割断形状を設定する。・・・
CO2レーザであるレーザ発振器1aは、レーザ光2aを出射する。レーザ光2aはベンダーミラー3aで全反射した後、液晶セル14の上側のガラス板5aを上方から照射し、ガラス板5aを割断する。また、レーザ光1bは、同様にレーザ光2bを出射し、液晶セル14の下側のガラス板5bを割断する。割断の作用は第1の実施の形態と同様である。
以上の作用により、第1の実施の形態と同様に、簡便な装置でガラス板を精度良く割断することが可能となる。それに加えて、2枚のガラスが重ね合わされた液晶セルを1工程で割断できるという効果がある。・・・」(段落【0052】?【0055】)
(チ)図2によれば、表面上に割断を開始するための亀裂10が形成され、前記亀裂10を割断開始位置として、割断予定線11に沿って割断されるように、割断形状が設定された1枚のガラス板5が見てとれる。
(ツ)図3によれば、ガラスの板厚が0.6mm?1.0mmにおいて、ガラスの板厚とCO2レーザの出力が比例関係にあることを示したグラフが見てとれる。
(テ)図5によれば、一部を遮光されたレーザ光2をガラス板5表面上に照射することにより、前記ガラス板5の表面上に照射領域13と遮光領域12とが形成されることを見てとれる。
(ト)図7(a)?(d)によれば、照射領域13が前方、遮光領域12が後方となるように、照射領域13と遮光領域12が一体的に割断予定線11に沿って移動することを見てとれる。
(ナ)図9によれば、2枚重ねたガラス板5a、5bに対し、2本のレーザ光2a、2bを上下から照射して各々のガラス板を同時に割断する形態を見てとれる。

4-2.引用文献2
(ニ)「本発明は特定の形状の亀裂が切断される材料本体の一方の面に形成され、この亀裂が特定の深さで材料本体内部に延在するようになされた、熱衝撃処理で脆い非金属材料を切断する方法の提供を目的とする。」(第29頁第18?20行)
(ヌ)「電子製品、機器製造等の工業分野において、ガラス等の非金属材料の物品を製造するほとんどの例で、材料自体の表面に対する亀裂平面の厳密に直角性が要求されるように、幾何学的寸法および縁部面の品質に厳格な要求がなされる。本発明による方法を実施する上述した技術は特に最適なこの問題解決を目的とする。」(第37頁第27行?第38頁第2行)
(ネ)「レーザービームが収斂レンズを通してガラス面に向けられ、スコアー線に当てられる。空気/水混合物(冷媒)のジェットはノズルがスコアーの最深部に向けられた突起に始動される。冷媒ジェットがガラスに当たったスポット箇所に微細亀裂が形成され、ブランクはレーザービームおよびジェットノズルに対して移動するので切断線に沿って進行する。」(第39頁第17?21行)
(ノ)「板およびシートガラスの切断に加えて、開示した方法は単一結晶および溶融石英、ガラスセラミック、ロイコサファイヤ、セラミックのような非金属材料の切断に使用された。」(第40頁第9?11行)
(ハ)「1.脆い非金属材料本体(1)の2つの部分を、該本体内部に一方の表面から延在し且つまた表面に沿って所望される方向に延在する亀裂(4)を形成することで互いに分割する方法であり、本体と、意図された亀裂の方向に沿って表面上に放射ビームが入射する該表面のターゲット面積部分(2)との間に相対的な移動を行わせ、また材料の軟化点より低い温度にまで表面を加熱するようにビームエネルギーを制御する諸段階を含む方法であって、
意図された亀裂線上に位置し且つ選択された距離(l)だけ加熱されたターゲット面積部分の後方へ移動された加熱表面の面積部分(3)へ流体冷媒の流れが向けられたことを特徴とする非金属材料の分割方法。」(第43頁第1?9行)
(ヒ)「2.請求項1に請求された方法であって、ビームおよび材料の相対的な移動速度が次式、すなわち
V = ka(b+l)/δ
(V:ビームスポットおよび材料の相対的な移動速度、k:材料の熱物理特性およびビームの出力密度に依存した比例係数、a:材料表面上の加熱ビームスポットの横方向寸法、b:材料表面上の加熱ビームスポットの縦方向寸法、l:加熱ビームスポットの後端縁から冷却帯の前端縁までの距離、δ:盲亀裂の深さ)を満たす非金属材料の分割方法。」(第43頁第10?17行)

4-3.引用文献3
(フ)「発明が解決しようとする問題点
しかし、上記従来の構成では、被加工物104の一方よりレーザ加工を行うので、前期第6図(a)に示すようにセラミック基板にスクライビングを施し、基板分割を行うと、分割した断面にテーパが生じ、寸法制度を確保するのが困難であった。・・・また被加工物を一方より加工するので、加工能率に劣る等の問題があった。
そこで、本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするもので、加工能率を向上させることができ、また被加工物に確実な加工を行うことができるようにしたレーザ加工装置を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第7行?右上欄第1行)
(ヘ)「第1図において、1はレーザ発振器、2はレーザ発振器1の光軸上に設けられ、レーザ発振器Iから発したレーザビーム3を2方向へ分配するレーザ光分配器である半透過ミラー、3a、3bは半透過ミラー2によって分けられたレーザビーム、4はレーザビーム3aを反射させる反射ミラー、5,6,7,8はレーザビーム3bを反射させる反射ミラー、9は反射ミラー4により反射されたレーザビーム3aを収束し、被加工物11の一面(表面)に照射する第1の収束レンズ、10は第1の収束レンズ9に対向して設けられ、反射ミラー5,6,7,8により反射されたレーザビーム3bを収束し、被加工物11の他面(裏面)に照射する第2の収束レンズである。
次に上記実施例の動作について説明する。レーザ発振器1より発したレーザビーム3は半透過ミラー2によって3aと3bζこ分けられ、-万のレーザビーム3aは反射ミラー4により第1の収束レンズ9に導かれ、被加工物11の表面に照射される。
他方のレーザビーム3aは反射ミラー5,6,7,8によって第2の収束レンズ10に導かれ、被加工物11の裏面に照射される。而して被加工物11をレーザビーム3a、3bに対して垂直な平面内で移動させることにより加工が行なわれる。」(第2頁左下欄第3行?右下欄第6行)として、第1図には、レーザ発振器1から発したレーザビーム3を、半透過ミラー2でレーザビーム3a,3bに分割し、各ビーム3a,3bを被加工物11の表裏面に照射するようにしたレーザ加工装置を窺うことができる。
(ホ)「本発明によれば、レーザ発振器から発したレーザビームをレーザ光分配器により分配して被加工物の両面に同時に照射するようにしているので、能率よく加工を行なうことができる。」(第3頁左上欄第14?18行)

4-4.引用文献4
(マ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
以上のように、従来のエネルギービーム切断・穿孔方法では、切断面又は孔にテーパがつくか、テーパがつかないストレートな状態に切断又は穿孔するときには投入熱量が大きくなるという問題があった。このことは、特に被加工物が厚板材料や高分子材料、複合材料である時に大きな問題となっていた。
この発明は、以上のような問題点を解消するためになされたもので、テーパのつかないストレートな切断面又は孔が得られる投入熱量の少ないエネルギービーム切断・穿孔方法を提供することを目的としている。
〔問題を解決するための手段〕
この発明に係るエネルギービーム切断・穿孔方法は、エネルギービームを被加工物の両面から照射して、切断又は穿孔するようにしたものである。」(第2頁左上欄第2?19行)
(ミ)「第1図(a)、(b)、(c)はこの発明の一実施例のエネルギービーム切断・穿孔方法の穿孔の場合を工程順に示す被加工物の拡大断面図で、第1図(a)において(20)はまず被加工物(4)の表面側から照射されたエネルギービーム、この場合レーザビームにより形成された表面孔、第1図(b)において、(21)はさらに被加工物(4)の裏面側から照射されたレーザビームにより形成された裏面孔であり、第1図(c)において、(22)は貫通した孔である。第1図に示したように、被加工物(4)の表裏両面からエネルギービームを照射することにより、ほぼテーパの無い真直な孔をあけることができる。」(第2頁右上欄第8?20行)
(ム)「また第2図には、第1図に示したエネルギービーム切断・穿孔方法を行うための具体的なエネルギービーム切断・穿孔装置の一例を示す。
図において、(9)はレーザビームを折り曲げるための反射鏡、(30)はビーム分岐用ミラー、(31)はビーム分岐用ミラーを切り換えるための駆動用モータ、(33)は被加工物(4)を貫通したビームを吸収させるためのビームダンパである。・・・被加工物(4)をはさんで対向するように集光レンズ(3)を含む2つの加工ヘッドを配置する。レーザ発振器(1)から発したレーザビーム(2)がビーム分岐用ミラー(30)で第1の方向(2a)または第2の方向(2b)に切り換えられ、反射鏡(9)により、それぞれ集光レンズに導びかれ、被加工物(4)の表面又は裏面からレーザビームを照射することができる。」(第2頁左下欄第8行?右下欄第5行)
(メ)「また、上記実施例ではエネルギービームによる穿孔の場合について述べたが、折断の場合も同様の効果を奏するものである。」(第2頁右下欄第15?17行)
(モ)「この発明によればエネルギービームを被加工物に照射して、上記被加工物を切断又は穿孔するものにおいて、上記エネルギービームを被加工物の両面から照射して、切断又は穿孔するようにしたので、テーパのほとんどない切断面又は孔が、少ない投入熱量で得られ、熱変質が起こりにくいエネルギービーム切断・穿孔方法が得られる効果がある。」(第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第6行)

4-5.引用文献5
(ヤ)「・・・レーザによって厚い脆性材料、例えば、2mm以上の脆性材料を割断するには、薄い材料に比較してより大きな熱応力が必要となる。従って、レーザを高い出力パワーへ上げることが必要になるが、発振器能力、材料に対する溶融発生条件により、パワー値には限界が有る。そこで、図8に示すように、両者のパワー限界内でセラミック基板2の表、裏から同位置にレーザ光1を集光することにより、両面から同位置に亀裂を発生させ、割断を可能とする。・・・」(段落【0035】)
(ユ)「基板の表、裏面からレーザ照射すれば、厚板の割断を、安定に高精度で行うことができる。・・・」(段落【0041】)

5.引用発明
(a)引用文献1には、記載事項(ア)に、「脆性材料にレーザ光を照射するためのレーザ照射工程と、前記照射されたレーザ光の一部を遮光するための遮光工程と、前記脆性材料と前記レーザ光との相対位置を移動させる移動工程と、からなる・・・脆性材料の割断方法。」が記載されている。
(b)上記「脆性材料」について、記載事項(エ)に「ガラス等を始めとする脆性材料の切断」と記載され、具体的には、「ガラス板を所定サイズに切断」することが記載されているから、上記「脆性材料」は、その形態が「板」状であるといえる。
(c)上記「ガラス板」は、記載事項(ケ)に、「このガラス板5は厚さ1mmのガラス板5であり図2に示されるように、表面上に、割断を開始するための亀裂10が、硬質工具を用いて予め所定の位置に形成されている。」と記載されるとともに、「本実施の形態の場合、図2に示されるように、亀裂10を割断開始位置として、割断予定線11に沿って割断されるように、割断形状が設定される。」と記載されるように、表面上に割断を開始するための亀裂10が形成され、前記亀裂10を割断開始位置として、割断予定線11に沿って割断されるように、割断形状が設定されたものであり、視認事項(チ)によれば、一方の表面上に割段を開始するための亀裂が形成された、1枚の板、すなわち単板であることは明らかであるから、上記「ガラス板」は、その形態が「一方の表面上に形成された亀裂を割段開始位置として割段予定線に沿って割断されるように割断形状が設定された」「単板」の「ガラス板」であるといえ、上記(b)の検討と併せると、上記「脆性材料」は、その形態が「板」状の「単板」であるといえる。
(d)上記「脆性材料にレーザ光を照射するためのレーザ照射工程」について、記載事項(コ)には、「一部が遮光されたレーザ光2は、集光レンズ7により亀裂10に集光される。・・・ガラス板5表面上に・・・レーザ光2により照射される照射領域13は直径1mmの円形からこの遮光領域12をのぞいた領域となる。」と記載され、記載事項(サ)には、「照射領域13はレーザ光2のエネルギを吸収して、温度上昇するので熱応力が発生し、予め形成されていた亀裂10を進展させる。」と記載されているから、上記(c)の検討と併せると、「レーザ照射工程」で「脆性材料にレーザ光を照射する」ことは、「脆性材料」の一方の表面上に「照射領域」を形成し、「脆性材料」の温度を上昇させること、つまり「加熱する」ことであるといえる。
(e)上記「照射されたレーザ光の一部を遮光するための遮光工程」について、記載事項(コ)には、「一部が遮光されたレーザ光2は、集光レンズ7により亀裂10に集光される。・・・ガラス板5表面上において、遮光領域12は・・・短辺とレーザ光2の中心との距離が100μmとなる・・・レーザ光2により照射される照射領域13は直径1mmの円形からこの遮光領域12をのぞいた領域となる。」と記載され、記載事項(シ)には、「図7(c)から図7(d)の間、B点は遮光領域12内部にあるのでレーザ光2が照射されず、周囲の雰囲気との熱伝達およびガラスへの熱伝導により放熱され急激に温度が低下する。」と記載されているから、上記(d)の検討と併せると、「遮光工程」で「照射されたレーザ光の一部を遮光する」ことは、「脆性材料」一方の表面上に「遮光領域」を形成し、「脆性材料」の温度を低下させること、つまり「冷却する」ことであり、また、レーザ光の中心と遮光領域との距離は100μmであるといえる。
(f)上記「脆性材料と前記レーザ光との相対位置を移動させる移動工程」について、記載事項(キ)には、「レーザ発振器1から照射されたレーザ光2は、ベンダーミラー3により全反射した後、遮光板4により一部を遮光される。その後、この一部を遮光されたレーザ光2はガラス板5を照射し、ガラス板5を割断させる。ガラス板5を固定支持するXYステージ6は、ガラス板5を移動させて割断を進行させる。」と記載されているから、「前記レーザ光」は、「一部を遮光されたレーザ光」であり、上記「脆性材料と前記レーザ光との相対位置を移動させる」ことは、「脆性材料と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる」ことであるといえる。
この「脆性材料と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる」にあたり、前記「ベンダーミラー3」と「遮光板4」は、記載事項(ク)に、「位置決め装置8は、ベンダーミラー3、遮光板4、集光レンズ7を支持する。」と記載されており、前記「一部を遮光されたレーザ光」が移動することは、視認事項(ト)を併せみると、「照射領域」と「遮光領域」とが一体的に移動することであるといえる。
(g)「照射領域」及び「遮光領域」の形成位置について、記載事項(イ)には、「前記脆性材料表面上の遮光領域と、前記レーザ光の照射領域は、前記照射領域の重心点と、前記遮光領域の重心点とを結んだ直線に対して対称であるようにする」と記載されている。この「前記照射領域の重心点と、前記遮光領域の重心点とを結んだ直線」について、記載事項(サ)には、「照射領域13の重心から遮光領域12の重心方向、すなわち割断予定線11に平行に、」と記載され、記載事項(シ)には、「照射領域13および遮光領域12は割断予定線11に対して対称である」と記載されており、「前記照射領域の重心点と、前記遮光領域の重心点とを結んだ直線」は「割断予定線11」であるといえるから、「照射領域13」及び「遮光領域12」の形成位置は、「割断予定線11」上であるといえる。
(h)「照射領域」及び「遮光領域」の移動順序について、記載事項(ウ)には、「前記移動工程は、前記遮光領域の重心点から、前記照射領域の重心点の方向へ、前記脆性材料に対する前記レーザ光の相対位置を移動させる」と記載されているから、照射領域13が前方、遮光領域12が後方とみることができ、このことは視認事項(ト)においてみたように、照射領域13が前方、遮光領域12が後方となるように、照射領域13と遮光領域12が一体的に割断予定線11に沿って移動することからも窺える。
(i)そして、上記「脆性材料と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる」ことにより、記載事項(シ)には、「熱応力によって亀裂10は進展する・・・亀裂10は割断予定線11に沿って進展する。以上の作用が連続的に起こることによってガラス板5は割段される。」と記載されていることから、「脆性材料と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる」ことで、「熱応力によって亀裂10」を「割断予定線11に沿って連続的に進展」させて「脆性材料を割段」しているといえる。
(j)なお、上記「脆性材料と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる」ことについて、記載事項(ス)には、「また、移動手段はXYテーブルに限られず、位置決め装置8を移動させて割断を進行させることも当然可能である。」と記載されている。

(k)上記(a)?(j)の検討を踏まえ、記載事項(ア)?(エ)、(キ)?(ス)、視認事項(チ)?(ト)の事項を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「一方の表面上に割段を開始するための亀裂が所定の位置に形成された単板のガラス板である脆性材料単板の割段予定線上に一部を遮光されたレーザ光を照射して脆性材料単板の一方の表面上に照射領域を形成し、脆性材料単板を加熱するレーザ照射工程と、前記割段予定線上に一部を遮光されたレーザ光を照射して脆性材料単板の一方の表面上のレーザ光中心から100μmの距離に遮光領域を形成し、脆性材料単板を冷却するレーザ遮光工程と、脆性材料単板と一部を遮光されたレーザ光との相対位置を移動させる移動工程とからなり、前記移動工程は、前記照射領域が前方、前記遮光領域が後方となるように、照射領域と遮光領域とが一体的に割断予定線に沿って移動させることで、熱応力によって亀裂が割断予定線に沿って連続的に進展させて、脆性材料単板を割段する、脆性材料単板の割断方法。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

6.対比・判断
(a)引用発明における「割段を開始するための亀裂」、「単板のガラス板」、「脆性材料単板」、「割段予定線」、「照射領域」、「遮光領域」、「レーザ光中心から100μmの距離」は、それぞれ本願発明の「垂直クラックの起点となる切れ目」、「単板のガラス板」、「脆性材料基板」および「脆性材料基板単板」、「スクライブ予定ライン」、「加熱領域」、「冷却領域」、「加熱領域に近接した」に相当する。
(b)引用発明の「一方の表面上に割段を開始するための亀裂が所定の位置に形成された単板のガラス板である脆性材料単板」は、本願発明の「分断対象となる脆性材料基板を、単板のガラス基板の表裏の各面の該スクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成してなる脆性材料基板単板」と、「分断対象となる脆性材料基板を、単板のガラス基板の表面の該スクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成してなる脆性材料基板単板」である点で共通する。
(c)引用発明の「脆性材料の単板の割段予定線上に一部を遮光されたレーザ光を照射して脆性材料の一方の表面上に照射領域を形成し、脆性材料を加熱するレーザ照射工程」は、本願発明の「該脆性材料基板単板の表面および裏面に相互に対向するようにそれぞれ形成されるスクライブ予定ライン上を該脆性材料基板単板の軟化点より低い温度で同時に加熱することによって、該脆性材料基板単板の表面および裏面に加熱領域を形成」することと、「該脆性材料基板単板の表面に形成されるスクライブ予定ライン上を加熱することによって、該脆性材料基板単板の表面に加熱領域を形成」する点で共通する。
(d)引用発明の「前記割段予定線上に一部を遮光されたレーザ光を照射して脆性材料の一方の表面上のレーザ光中心から100μmの距離に遮光領域を形成し、脆性材料を冷却するレーザ遮光工程」は、本願発明の「該各加熱領域にそれぞれ近接した該各スクライブ予定ライン上に冷却領域をそれぞれ形成」することと、「該加熱領域に近接した該スクライブ予定ライン上に冷却領域を形成」する点で共通する。
(e)引用発明の「前記照射領域が前方、前記遮光領域が後方となるように、照射領域と遮光領域とが一体的に割断予定線に沿って移動する」ことは、本願発明の「形成された該各冷却領域を、該冷却領域のそれぞれが移動方向の後方になるように、近接する該各加熱領域と一体的に該各スクライブ予定ラインに沿って移動させる」ことと、「形成された該冷却領域を、該冷却領域が移動方向の後方になるように、近接する該加熱領域と一体的に該スクライブ予定ラインに沿って移動させる」点で共通する。
(f)引用発明の「熱応力によって亀裂が割断予定線に沿って進展することで脆性材料を割段する」ことは、本願発明の「相互に近接する該加熱領域および該冷却領域のそれぞれによって熱応力を形成して、該脆性材料基板単板の両面から該脆性材料基板単板を貫通するよう該垂直クラックを該各スクライブ予定ラインに沿って連続して形成して該脆性材料基板単板を分断する」ことと、「相互に近接する該加熱領域および該冷却領域のそれぞれによって熱応力を形成して、該脆性材料基板単板を貫通するよう該垂直クラックを該スクライブ予定ラインに沿って連続して形成して該脆性材料基板単板を分断する」点で共通する。
(g)そして、引用発明の「亀裂が割断予定線に沿って連続的に進展することで脆性材料単板を割段する、脆性材料単板の割断方法」は、本願発明の「脆性材料基板をスクライブ予定ラインに沿って垂直クラックを形成して分断する脆性材料基板の分断方法」であるといえる。

(h)上記(a)?(g)を踏まえると、両者は、
「脆性材料基板をスクライブ予定ラインに沿って垂直クラックを形成して分断する脆性材料基板の分断方法であって、分断対象となる脆性材料基板を、単板のガラス基板の表面の該スクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成してなる脆性材料基板単板とし、該脆性材料基板単板の表面に形成されるスクライブ予定ライン上を加熱することによって、該脆性材料基板単板の表面に加熱領域を形成しつつ、該加熱領域に近接した該スクライブ予定ライン上に冷却領域を形成して、形成された該冷却領域を、該冷却領域が移動方向の後方になるように、近接する該加熱領域と一体的に該スクライブ予定ラインに沿って移動させることにより、相互に近接する該加熱領域および該冷却領域のそれぞれによって熱応力を形成して、該脆性材料基板単板を貫通するよう該垂直クラックを該スクライブ予定ラインに沿って連続して形成して該脆性材料基板単板を分断する、脆性材料基板の分断方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点A
本願発明の脆性材料基板単板は、単板のガラス基板の表裏の各面の該スクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成し、脆性材料基板単板の両面から加熱及び冷却を行うことで、脆性材料基板単板を分断しているのに対し、引用発明では、一方の面に亀裂を形成し、一方の面から加熱及び冷却を行っている点。

・相違点B
本願発明は、脆性材料基板単板の軟化点より低い温度で加熱するのに対し、引用発明ではかかる事項を有していない点。

上記相違点A、Bについて検討する。
・相違点Aについて
本願発明が両面から加熱及び冷却を行うことについて、本願明細書の段落【0009】には、「本発明は、工程数を低減することができるとともに、製品の歩留まりが向上する」と記載され、同段落【0036】には、「本発明では、脆性材料基板の両面に対してスクライブ工程を実施することにより、1回のスクライブ工程により脆性材料基板を垂直クラックが貫通したフルボディカットして、脆性材料基板が分断された状態とすることにより、従来方法において実施されていたスクライブ工程に続くブレイク工程を省略することができる。これにより、脆性材料基板を分断するための工程数を低減することができる。」と記載されており、本願発明は、両面から加熱及び冷却を行うことで、1回の工程で脆性材料基板単板を分断しているといえる。
一方、引用発明では、一方の面から加熱及び冷却を行って亀裂を進展させ、割断を行うものであるから、本願発明と同様に、上記「1回のスクライブ工程により脆性材料基板を垂直クラックが貫通したフルボディカットして」、「スクライブ工程に続くブレイク工程を省略することができる。」という作用・効果を奏しているものと認められる。
そこで、引用発明では、一方の面から加熱及び冷却を行って亀裂を進展させ、割断を行うことができるにもかかわらず、本願発明では、なぜ、両面から加熱及び冷却を行って割断を行うのかについて検討する。
引用文献1には、記載事項(ケ)に、「図3に示された、ガラスの板厚と割断に好適なCO2レーザの出力のグラフをもとに、レーザ出力を決定する。ガラス板5の板厚は、1mmなのでレーザ出力は160Wと設定される。」と記載され、視認事項(ツ)より、ガラスの板厚とレーザ出力との関係が比例関係であることを見てとることができる。
では、ガラスの板厚が増すごとにレーザ出力を上げればよいかというと、そうでもない。
例えば、引用文献4には、記載事項(マ)に、従来のエネルギービーム切断・穿孔方法で厚板材料を切断しようとすると、エネルギービームの投入熱量が大きくなるという問題点があり、エネルギービームの投入熱量を小さくするために、エネルギービームを両面から照射する旨記載されている。
また、引用文献5には、記載事項(ヤ)に、厚い脆性材料を割断しようとすると、レーザ出力を上げる必要があるが、発振器能力や、脆性材料の材質などにより、出力を上げるには限界があるため、出力の限界内でレーザ光を両面から照射して割断する旨記載されている。
そして、引用文献3には、記載事項(フ)に、片方の面からレーザを照射するよりも、両面から照射させた方が加工能率が向上する旨記載されている。
そうすると、引用発明のように、一方の面から加熱及び冷却を行って割断を行うには、脆性材料基板の厚さや材質、レーザ出力によっておのずと限界があり、このような場合には、本願発明や引用文献3?5のように、両面からレーザを照射すればよいということができる。
してみると、脆性材料基板単板を割断する際に、本願発明のように、両面から加熱及び冷却を行うか、引用発明のように、一方の面から行うかは、脆性材料基板の厚さや材質、レーザ出力、加工能率等に応じて、当業者が適宜選択しうる設計事項に過ぎない。
なお、脆性材料基板単板の表裏の各面のスクライブ予定ラインの端部位置に該垂直クラックの起点となる切れ目を形成しておくことも、例えば、特表平11-511385号公報に記載(第6頁第11?27行を参照)されるように、本願出願前周知であり、記載事項(ケ)の、「表面上に割断を開始するための亀裂10が形成され、前記亀裂10を割断開始位置として、割断予定線11に沿って割断される」という割断のメカニズムを鑑みれば、両面から加熱及び冷却を行うにあたり、両面に切れ目を形成しておくことも、当業者であれば、容易に想到し得ることである。

・相違点Bについて
引用文献2には、記載事項(ニ)に、「熱衝撃処理で脆い非金属材料を切断する方法」が記載され、記載事項(ハ)に「材料の軟化点より低い温度にまで表面を加熱するようにビームエネルギーを制御する」と記載されている。また、引用文献2には、前記「脆い非金属材料」として、記載事項(ノ)に、「板およびシートガラスの切断に加えて、開示した方法は単一結晶および溶融石英、ガラスセラミック、ロイコサファイヤ、セラミック」が例示されている。
これらの記載から、引用文献2には、脆性材料板を該脆性材料の軟化点より低い温度にまで表面を加熱して切断する方法が開示されているといえる。

引用文献1と引用文献2とでは、熱応力よって脆性材料を割断するという技術分野が共通し、かつ、割断精度の向上という課題も共通するから、引用発明において、引用文献2の、脆性材料板の軟化点より低い温度にまで表面を加熱して切断する技術を採用することで、相違点Bに係る特定事項をなすことは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、脆性材料基板単板の両面から加熱及び冷却を行うことで、工程数を低減することができるという本願発明の作用効果も、引用文献1?5及び上記周知技術の記載から、当業者が予測し得る程度のものである。

7.意見書における主張について
なお、請求人は、平成23年8月17日付けの意見書の(3)において、「また、仮に何とかして、引用文献1にこれらの引用文献3あるいは4を組合せ、さらに引用文献2を組み合わせたとしても、上述したようにこれらの引用文献3あるいは4は、被加工物の両面からレーザ照射を行うものであり、本発明のように、脆性材料基板の両面にそれぞれ加熱領域および冷却領域を形成するものとはその構成が明確に異なるものであり、従って、これらの引用文献の単純な組合せからは、せいぜい、脆性材料基板の一方の面には加熱領域及び冷却領域を形成し、他方の面にはレーザによる加熱領域のみを形成し、その際、加熱領域の形成を脆性材料の軟化点より低い温度で行うものが得られるにすぎず、本発明のように脆性材料基板の両面から加熱及び冷却を行うものは得られるものではありません。」と主張しているので、以下に検討する。

引用文献1には、第2実施例として、2本のレーザ光2a、2bを上下から照射する実施例が開示され、前記2本のレーザ光2a、2bを照射するための位置決め装置8a、8bには同じ光学要素(ベンダーミラー3a、3b、遮光板4a、4b、レンズ7a、7b)が用いられている。(記載事項(ソ)?(タ)、視認事項(ナ)を参照)
そうすると、当業者であれば、引用発明の一方の面から加熱及び冷却を行うことに代えて、引用文献3?5のような、両面からレーザ光を照射させる技術を採用するにあたり、同じ機構、すなわち、両面から加熱及び冷却を行う機構を用い得るといえるから、上記主張は採用できない。

8.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1?5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-05 
結審通知日 2011-12-06 
審決日 2011-12-19 
出願番号 特願2002-193919(P2002-193919)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 脆性材料基板の分断方法および脆性材料基板分断装置  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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