• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1251298
審判番号 不服2010-28061  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-11 
確定日 2012-02-03 
事件の表示 特願2005- 66518「ナビゲーション装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月21日出願公開、特開2006-250659〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月10日の特許出願であって、平成22年9月6日付けで拒絶査定がなされ、同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正(「以下、[本件補正」という。)がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年12月11日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるとおりのものと認める
「車両の方位変化量および移動距離を検出する自律航法センサと、
前記自律航法センサによって検出された方位変化量および移動距離を累積して車両位置を計算する車両位置計算手段と、
車両が特定施設へ進入したことを検出する進入検出手段と、
前記進入検出手段によって前記特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録する走行軌跡記録手段と、
前記走行軌跡記録手段によって記録された走行軌跡に基づいて、同一の走行経路を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一経路走行判定手段と、
前記同一経路走行判定手段によって車両が同一の走行経路を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して前記車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正手段と、
車両が前記特定施設から退出したことを検出する退出検出手段と、
を備え、前記走行軌跡記録手段は、車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、前記退出検出手段によって前記特定施設から退出したことが検出されるまで、少なくとも前記1周目の走行軌跡の記録を保持することを特徴とするナビゲーション装置。」

また、上記の補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である走行「軌跡」及び走行「軌跡上」に関し、走行「経路」と補正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する目的に適合するものである。

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-89979号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車載用ナビゲーション装置に関し、特にマップマッチング処理を実行して車両の現在位置を検出する車載用ナビゲーション装置に関する。」

・「【0007】特に、車両が駐車場内を走行する場合には、屈曲走行により同じ経路を繰り返して走行することが多いため、上記センサの検出誤差のうち、方向(方位)を検出するためのセンサの検出誤差が蓄積されて、現在方位の検出値が大幅にずれてしまう可能性がある。また、このような駐車場内の走行時において、マップマッチング処理により車両の計算位置が予め準備された道路データ上の何れかの位置に強引に変更されてしまうと、車両位置の検出精度が一層悪化することもあった。」

・「【0027】まず図1は、本実施例の車載用ナビゲーション装置の概略構成図である。車両には、その走行方向及び走行距離を検出するための検出器として、車速センサ1と方位センサ2とが積載されている。車速センサ1は、車両の走行速度を検出するものであり、この走行速度を後述する電子制御回路20により積分処理することによって、車両の走行距離が求められる構成となっている。方位センサ2は、車両の走行方向を検出するものであり、本実施例では、ジャイロコンパスの検出にて方向を得るものを用いている。但し、この方位センサ2としては、地磁気によるものや、左右操舵輪の回転差などから得られる車両のステアリング角を累積して方向を求めるものなどでもよい。
【0028】また、本実施例の車載用ナビゲーション装置は、コンパクトディスク等の大容量の記憶装置で構成された地図記憶手段としての地図メモリ4を備えており、この地図メモリ4には、国内各地の道路地図を再生するための地図データが記憶されている。地図データは、道路に関する道路データと、地名、地形、建物等の他のデータとから成るものであり、上記道路データは、図6に例示するような情報によって構成されている。即ち、本実施例において、道路地図内の道路は、所定距離毎の直線に分解されて記憶されており、道路データは、その各直線の識別番号である「道路ID」と、各直線の両端点の座標である「ノード座標」と、各直線の方向を示す「道路方位」と、各直線と接続する他の直線の道路IDを示す「接続情報」と、各直線が所属する道路(つまり、その直線により形成される道路)の種類を示す「道路属性」と、から構成されている。
【0029】一方更に、本実施例の車載用ナビゲーション装置には、コントロールスイッチ6が設けられており、これは、運転者が初期値を入力したり、表示される地図を選択したり、あるいは目的地までのルートを設定するための各種スイッチで構成されている。
【0030】これらの車速センサ1、方位センサ2、地図メモリ4、コントロールスイッチ6は、夫々、電子制御回路20に接続されている。この電子制御回路20は、周知のCPU22、制御用のプログラムやデータを予め格納してあるROM24、読み書き可能なRAM26に、入出力回路28がコモンバス30を介して相互に接続されて構成されている。CPU22は、車速センサ1、方位センサ2、地図メモリ4、コントロールスイッチ6からの信号を入出力回路28を介して入力し、これらの信号、ROM24、RAM26内のプログラムやデータ等に基づいて、入出力回路28、CRTコントローラ32を介して表示装置としてのCRT34に駆動信号を出力する。
【0031】このCRTコントローラ32は、CRT34の表示を制御し、電子制御回路20から転送される地図データを、CRT34の画面に地図として再生すると共に、電子制御回路20から転送される車両の検出位置を、現在表示中の地図上に表示する構成のものである。
【0032】前記電子制御回路20では、図示しない電源スイッチがオンされると、ROM24に予め設定されたプログラムに従って、CPU22が様々な処理の実行を開始する。本実施例では、発進前に車両の乗員が、コントロールスイッチ6を操作して、CRT34に表示される地図を選択し、この地図上に自らの現在位置を初期位置として指示する。あるいは、これ以外にも、前回の車両の運転停止時の位置を所定の不揮発性メモリに格納しておき、この位置を初期位置として自動設定するようにしてもよい。
【0033】そして、車両が走行を開始すると、車速センサ1から入力される走行速度を積分して得られる走行距離と、方位センサ2から得られる走行方向が検出され、この検出された走行距離と走行方向とに基づき後述の如く検出される車両の現在位置が、CRT34の表示地図上に例えばカーソルにより識別可能に表示される。
【0034】次に、車両の現在位置(以下、車両位置ともいう)を検出するために電子制御回路20で実行される車両位置検出処理について、図2に示すフローチャートに沿って説明する。尚、図2の処理は、所定時間毎に繰り返し実行される。また、電子制御回路20は、この車両位置検出処理の実行周期よりも短い所定時間毎に、車速センサ1及び方位センサ2からの検出信号に基づき車両の現在位置を算出する位置演算処理を実行している。具体的には、車速センサ1と方位センサ2との出力を読み込み、後述するステップ110の処理で決定した最新の車両位置を起点とする現在位置を、車速センサ1から入力される走行速度を積分して得られる走行距離と方位センサ2から得られる走行方向とに基づき、所定間隔(例えば2m)毎に算出する。また、その算出した各現在位置を所定個蓄積することにより、車両の走行軌跡も求めている。但し、電源スイッチがオンされた直後には、前述したように指示或いは設定された初期位置が、現在位置及び走行軌跡を求めるための起点として用いられる。」

・「【0037】また更に、このS110では、上記の如く決定した車両の現在位置を順次蓄積することにより、所定距離分の車両の走行軌跡をRAM26に更新して記憶する処理も行っている。即ち、本実施例では、S110のマップマッチング処理により、車速センサ1と方位センサ2の検出誤差及び位置演算処理の演算誤差を補正している。そして、S110の処理で決定した車両の現在位置は、車両の検出位置としてCRT34の表示地図上に表示されると共に、位置演算処理にて、現在位置及び走行軌跡を求めるための新たな起点として用いられる。
【0038】このようにS110で車両の現在位置が決定されると(即ち、車両位置の検出が行われると)、S120に進んで、地図メモリ4に道路データが記憶されていない場所を車両が走行していることを示すフラグ(以下、駐車場走行判定フラグという)FがONされているか否かを判定する。
【0039】そして、駐車場走行判定フラグFがONされていない場合には、S130?S170の処理を実行する。即ち、まずS130にて、道路離脱状態であるか否かを判定する。道路離脱状態とは、S110で決定された車両の現在位置が地図メモリ4に予め記憶された道路データにて表される道路(換言すれば、地図メモリ4に道路データが記憶された道路)の上に存在しない状態であり、S110で決定された現在位置が地図メモリ4に記憶された何れの道路からも所定距離以上離れている場合に、道路離脱状態であると判定するようにしても良い。
【0040】このS130にて道路離脱状態ではないと判定した場合には、当該車両位置検出処理を一旦終了するが、道路離脱状態であると判定した場合には、S140に進み、位置演算処理の実行で求められる車両の走行軌跡、或いはS110でRAM26に記憶した車両の走行軌跡に基づき、車両が所定旋回角度以上の屈曲走行をしたか否かを判定する。
【0041】そして、S140で車両が屈曲走行していないと判定した場合には、当該車両位置検出処理を一旦終了するが、車両が屈曲走行したと判定した場合には、S150に進み、S140で今回判定した車両の屈曲が、S130で道路離脱状態と判定されてから車両が所定距離だけ走行するまでの間において、所定回数(本実施例では4回)目の屈曲であるか否かを判定する。そして、所定回数目の屈曲でなければ、当該車両位置検出処理を一旦終了するが、所定回数目の屈曲であれば、車両が、駐車場の如く地図メモリ4に道路データが記憶されていない場所を走行しているものと判断して、S160に進む。
【0042】そして、このS160にて、前述した駐車場走行判定フラグFをONし、更に続くS170にて、S130で道路離脱状態であると判定されてからS150で所定回数目の屈曲であると判定されるまでの車両の走行軌跡を含む領域を、駐車場領域Wとして設定し、その後、当該車両位置検出処理を一旦終了する。
【0043】ここで、S130?S170の処理について、図5(A)を用い具体的に説明する。尚、図5(A)において、点線は、車両が走行した軌跡の一例を表しており、符号「R」を付した実線は、地図メモリ4に道路データが記憶された道路を表している。また、一点鎖線は、S170で設定される駐車場領域Wを表している。
【0044】図5(A)に例示するように、車両が、地図メモリ4に道路データが記憶された道路Rから外れて走行すると、まず地点P1で道路離脱状態と判定される(S130:YES)。そして、その後、車両が所定距離だけ走行するまでの間に4回屈曲走行すると(S140:YES及びS150:YES)、その4回目の屈曲を判定した地点PFonで、駐車場走行判定フラグFがONされると共に(S160)、道路離脱状態であると判定されてから4回目の屈曲を判定した地点PFonまでの車両の走行軌跡を含む一点鎖線の領域が、駐車場領域Wとして設定されるのである(S170)。
【0045】一方、前述したようにS160で駐車場走行判定フラグFがONされると、次回に当該車両位置検出処理が実行された場合には、S120で肯定判定されて、S180に移行する。そして、このS180にて、未だ道路離脱状態であるか否かを判定し、道路離脱状態であれば、続くS190にて、S110で決定された車両の現在位置がS170で設定した駐車場領域W内にあるか否かを判定する。そして、現在位置が駐車場領域W内にある場合には、S200に進んで仮想道路生成処理を実行する。
【0046】この仮想道路生成処理は、駐車場領域W内における車両の走行軌跡を、道路データ化して、RAM26の仮想道路データ領域に仮想道路として記憶するための処理であり、図3に示す手順で実行される。即ち、仮想道路生成処理の実行が開始されると、まずS310にて、駐車場走行判定フラグFの変化状態を判定し、駐車場走行判定フラグFがOFFからONに変化した直後であれば、S320に進んで、前述したS130で道路離脱状態と判定されてからS160で駐車場走行判定フラグFがONとなるまでの間に、S110の処理でRAM26に記憶された車両の走行軌跡(つまり、S110で決定した車両の現在位置を蓄積してなる走行軌跡)を読み出し、その読み出した走行軌跡を所定距離間隔毎の直線に分解する。
【0047】また、S310にて、駐車場走行判定フラグFが前回から継続してONであると判定した場合には、S315に移行する。そして、このS315にて、方位センサ2からの検出信号等に基づき車両が屈曲走行中であるか否かを判定し、屈曲走行中であれば、S320に進んで、車両が前回に屈曲走行を終えてから今回の屈曲走行を開始するまでの間に、S110の処理でRAM26に記憶された車両の走行軌跡を読み出し、その読み出した走行軌跡を所定距離間隔毎の直線に分解する。
【0048】そして、このようにS320にて車両の走行軌跡が直線に分割されると、続くS330にて、S320で分解した直線の夫々について、道路データに変換する必要があるか否かを判定し、道路データに変換する必要のある直線があれば、続くS340で、その直線を図6に例示したような道路データに変換し、更に続くS350にて、上記変換した道路データをRAM26の仮想道路データ領域に記憶する。そして、その後、当該仮想道路生成処理から図2の車両位置検出処理に戻って、この車両位置検出処理を一旦終了する。すると、S350でRAM26の仮想道路データ領域に記憶された道路データは、次回からのS110にて、地図メモリ4に予め記憶された道路データと共にマップマッチング処理に用いられることとなる。
【0049】また、S330にて、道路データに変換すべき直線がないと判定した場合、或いは、S315にて、車両が屈曲走行中ではないと判定した場合には、そのまま当該仮想道路生成処理から図2の車両位置検出処理に戻って、この車両位置検出処理を一旦終了する。
【0050】尚、S330の判定は次のように行われる。即ち、走行軌跡を分解してなる直線の方向(方位)及び両端点の座標が、RAM26の仮想道路データ領域に道路データとして既に記憶されている直線の方向(=「道路方位」)及び両端点の座標(=「ノード座標」)に対し、所定方向差以内且つ所定距離差以内であれば、今回分解した直線を道路データ化しても、既に記憶した道路データと同じものになるとして、道路データに変換する必要がないと判定するようにしている。そして、このような判定を行うことにより、既にRAM26の仮想道路データ領域に記憶されている道路データに対し一致度が所定範囲内である走行軌跡は、道路データ化して記憶する対象から除外するようにしている。
【0051】一方、前述した図2のS180にて、道路離脱状態ではないと判定されるか、或いは、S190にて、S110で決定された車両の現在位置がS170で設定した駐車場領域W内にないと判定した場合には、S210に移行して、駐車場走行判定フラグFをOFFし、更に続くS220にて、仮想道路生成処理の実行によりRAM26の仮想道路データ領域に記憶した道路データを全て消去すると共に、S170で設定した駐車場領域Wを破棄する(RAMクリア)。そして、その後、当該車両位置検出処理を一旦終了する。すると、次回からのS110では、地図メモリ4に予め記憶された道路データだけがマップマッチング処理に用いられ、通常の処理に戻ることとなる。
【0052】ここで、S180?S200(S310?S350),S210,S220の処理について、車両が図5(A)の点線で示したように走行した場合を例に挙げて具体的に説明する。まず、前述したように、図5(A)の地点PFonで駐車場走行判定フラグFがONされると、S180とS190とで肯定(YES)判定されると共に、図3の仮想道路生成処理では、S310にて駐車場走行判定フラグFがOFFからONに変化した直後であると判定されて、S320以降の処理が実行される。
【0053】すると、道路離脱状態と判定された地点P1から駐車場走行判定フラグFがONとなった地点PFonまでの車両の走行軌跡が、図5(A)及び(B)に示すように、地点P1?P13を夫々端点とする所定距離間隔毎の直線L1?L9に分解される(S320)。
【0054】尚、この場合のS320では、道路離脱状態と判定された地点P1から車両が1回目の屈曲走行を開始した地点P3までの走行軌跡が所定距離毎の直線L1,L2に分解され、車両が1回目の屈曲走行を終えた地点P4から車両が2回目の屈曲走行を開始した地点P7までの走行軌跡が所定距離毎の直線L3?L5に分解され、車両が2回目の屈曲走行を終えた地点P8から車両が3回目の屈曲走行を開始した地点P9までの走行軌跡が所定距離毎の直線(この例では1つの直線L6)に分解され、車両が3回目の屈曲走行を終えた地点P10から車両が4回目の屈曲走行を開始した地点P13までの走行軌跡が所定距離毎の直線L7?L9に分解される、といった具合いに、車両の走行軌跡のうちで屈曲走行部分を含まない部分が直線に分解される。
【0055】そして、このように駐車場走行判定フラグFがOFFからONに変化した直後の場合には、RAM26の仮想道路データ領域に道路データが未だ記憶されておらず、しかも、図5(A)の如く車両が走行した場合には、S320の分割により得られる各直線L1?L9の方向(方位)及び両端点の座標は、夫々が互いに異なるものとなるため、S320に続くS330の判定では、全ての直線L1?L9を道路データに変換する必要があると判定される。
【0056】よって、続くS340及びS350の処理により、図5(B)の如く分割された各直線L1?L9が、図6に示すような道路データに変換されて、RAM26の仮想道路データ領域に格納される。尚、図6は、図5(B)に示す各直線L1?L9に、「道路ID」として1?9を順に設定した場合の道路データを表している。よって、例えば直線L1については、「ノード座標」として、地点P1の座標(X1,Y1)と地点P2の座標(X2,Y2)とが設定され、「道路方位」として、南方(図5における下方)を示す270゜が設定され、「接続情報」として、一方のノード座標(X1,Y1)に接続する直線が無く、他方のノード座標(X2,Y2)に接続する直線が道路ID=2のものであることを示す(-1,2)が設定される。また、例えば直線L4については、「ノード座標」として、地点P5の座標(X5,Y5)と地点P6の座標(X6,Y6)とが設定され、「道路方位」として、東方(図5における右方)を示す0゜が設定され、「接続情報」として、一方のノード座標(X5,Y5)に接続する直線が道路ID=3のものであり、他方のノード座標(X6,Y6)に接続する直線が道路ID=5のものであることを示す(3,5)が設定される。そして、これら各直線L1?L9については、その「道路属性」として、地図メモリ4に予め記憶された道路データと区別可能な様に、駐車場を示すデータが設定される。
【0057】一方、次回以降に図3の仮想道路生成処理が実行される場合には、S310にて駐車場走行判定フラグFが継続してONであると判定されて、S315以降の処理が実行される。そして、この場合には、車両が屈曲走行を行う度に(S315:YES)、車両が前回の屈曲走行を終えた地点から今回の屈曲走行を開始した地点までの走行軌跡が、所定距離毎の直線に分割される(S320)。そして、その分割された直線の方向及び両端点の座標が、RAM26の仮想道路データ領域に道路データとして既に記憶されている直線の方向(=「道路方位」)及び両端点の座標(=「ノード座標」)に対し、所定方向差以内且つ所定距離差以内でなければ(S330:YES)、上記分割された直線が図6の如き道路データに変換されてRAM26の仮想道路データ領域に追加して記憶され、所定方向差以内且つ所定距離差以内であれば(S330:NO)、上記分割された直線は道路データに変換されることなく破棄される。
【0058】よって、図5(A)に例示するように、車両が駐車場走行判定フラグFのONされた地点PFonから、以前に走行したのと同じ経路を繰り返して走行した場合には、その2回目の走行軌跡については、道路データとしてRAM26に記憶されることが禁止される。
【0059】そして、その後、図5(A)の地点PFoffに示すように車両がS170で設定した駐車場領域Wから出るか(S190:NO)、或いは、S110のマップマッチング処理により、地図メモリ4に道路データが予め記憶された道路Rの上に車両の現在位置が変更されて(引き込まれて)、道路離脱状態ではなくなると(S180:NO)、駐車場走行判定フラグFがOFFされると共に、RAM26の仮想道路データ領域に記憶した車両の走行軌跡に基づく道路データが消去されて(S210,S220)、地図メモリ4に予め記憶された道路データだけがS110でのマップマッチング処理に用いられる状態に戻ることとなる。
【0060】尚、本実施例では、図2の車両位置検出処理において、S130及びS180が、道路離脱判定手段としての処理に相当し、S140及びS150が、屈曲走行判定手段としての処理に相当し、S170が、領域設定手段としての処理に相当しており、更にS190が、車両位置判定手段としての処理に相当している。そして、S200の仮想道路生成処理及びS220が、仮想道路作成手段としての処理に相当している。
【0061】次に、以上のような車両位置検出処理(図2)と並行して、電子制御回路20で所定時間毎に実行されるパラメータ変更処理について、図4に示すフローチャートに沿って説明する。このパラメータ変更処理は、車両位置検出処理におけるS110のマップマッチング処理で用いられる演算パラメータを変更するために実行されるものであり、その実行が開始されると、まずS410にて、駐車場走行判定フラグFがONされているか否かを判定する。
【0062】そして、駐車場走行判定フラグFがONされている場合、即ち、RAM26の仮想道路データ領域に記憶された車両の走行軌跡に基づく道路データが、地図メモリ4に予め記憶された道路データと共にマップマッチング処理に用いられる場合には、S420に進み、S110のマップマッチング処理で用いられる演算パラメータを、地図メモリ4内の道路データに対してはマップマッチングされ難くなるように変更する。
【0063】具体的には、前述したようにS110のマップマッチング処理では、地図メモリ4とRAM26の仮想道路データ領域に記憶された道路データから、位置演算処理の実行で求めた車両の走行軌跡に対して道路形状の一致度が所定範囲内である道路を検索するのであるが、S420の処理では、地図メモリ4に記憶された道路データから道路を検索する場合の前記所定範囲のみ、通常時よりも狭く設定する。そして、この設定変更により、駐車場走行判定フラグFがONされている場合には、位置演算処理の実行で算出した車両の現在位置が、地図メモリ4に道路データが記憶された道路上の位置に変更され難く(マップマッチングされ難く)している。そして、このS420の処理を実行した後、当該パラメータ変更処理を一旦終了する。
【0064】一方、S410にて、駐車場走行判定フラグFがONされていないと判定した場合、即ち、地図メモリ4に予め記憶された道路データだけがマップマッチング処理に用いられる場合には、S430に移行して、S110のマップマッチング処理で用いられる演算パラメータを、通常値に設定する。つまり、前述したS420での設定変更を無効にするのである。そして、このS430の処理を実行した後、当該パラメータ変更処理を一旦終了する。以上詳述したように、本実施例の車載用ナビゲーション装置では、マップマッチング処理により検出(決定)した車両の現在位置が地図メモリ4に予め道路データの記憶された道路上にない道路離脱状態になってから、車両が所定回数だけ屈曲走行すると(S130及びS150:YES)、その後に車両はその付近を繰り返して走行する可能性があると推測して、道路離脱状態となってから車両が所定回数だけ屈曲走行するまでの走行軌跡を含む駐車場領域Wを設定し(S170)、その駐車場領域W内から車両の現在位置が出るか、或いは、道路離脱状態でなくなるまでの間、駐車場領域W内での車両の走行軌跡を道路データに変換してRAM26の仮想道路データ領域に記憶すると共に、その記憶した道路データを、地図メモリ4に予め記憶された道路データと共にマップマッチング処理の実行に用いるようにしている(S180及びS190:YES,S200)。
【0065】よって、車両が、駐車場の如く地図メモリ4に道路データが記憶されていな場所において、図5(A)に例示したように同じ経路を繰り返して走行しても、車両が一度走行した経路を再び走行した場合には、既に走行している経路の軌跡が仮想の道路データとして記憶されており、その道路データを対象としてマップマッチング処理が行われるため、位置演算処理の実行で算出した車両の現在位置(計算位置)が上記仮想の道路データ上の所定位置に変更されることとなる。
【0066】この結果、地図メモリ4に道路データが記憶されていな場所において、車両が同じ経路を繰り返して走行しても、検出される車両の現在位置が実際の位置に対して次第に大きくずれていってしまう、といったことが防止される。例えば、図5(A)の点線で例示したように、車両が、地図メモリ4に道路データが記憶された道路Rから外れて長方形状に繰り返し周回走行した場合に、本実施例の如き処理を行わない従来の装置では、方位センサ2の検出誤差や演算誤差が次第に蓄積されて、車両の検出位置が実際の位置に対し次第に大きくずれていってしまうのであるが、本実施例では、既に走行した経路の軌跡に応じた仮想の道路データを対象としてマップマッチング処理が行われるため、このような問題を効果的に解決することができるのである。
【0067】従って、このような本実施例の車載用ナビゲーション装置によれば、地図メモリ4に道路データが予め記憶されていない場所を車両が走行した場合にも、車両の現在位置を正確に検出することができ、延いては、当該装置の使用者に対して、車両の現在位置を常に正確に案内することができるようになる。
【0068】また更に、本実施例の車載用ナビゲーション装置では、図4に示したパラメータ変更処理を実行して、駐車場領域W内から車両の現在位置が出るか、或いは、道路離脱状態でなくなるまでの間、即ち、RAM26に記憶した仮想の道路データを地図メモリ4に予め記憶された道路データと共にマップマッチング処理の実行に用いる場合に(S410:YES)、地図メモリ4内の道路データに対してはマップマッチングされ難くしている(S420)。
【0069】よって、車両が、図5(A)に例示した如く地図メモリ4に道路データが記憶されていな場所を走行している場合に、位置演算処理の実行で算出した車両の計算位置が、地図メモリ4に予め記憶された道路データ上の何れかの位置に強引に変更されてしまうことが抑制され、車両位置の検出精度をより一層向上させることができる。
【0070】一方、本実施例の車載用ナビゲーション装置では、駐車場領域W内から車両の現在位置が出るか、或いは、道路離脱状態でなくなると(S180又はS190:NO)、RAM26に記憶した道路データを消去するようにしているため(S220)、RAM26の記憶容量を小さく設定することができる。
【0071】そして更に、本実施例の車載用ナビゲーション装置では、図3の仮想道路生成処理におけるS330の判定により、既にRAM26に記憶されている道路データに対し一致度が所定範囲内である走行軌跡は、道路データ化して記憶する対象から除外するようにしている。よって、車両が同じ経路を繰り返し走行した場合に、同様の道路データがRAM26に記憶されることが防止され、RAM26の記憶容量を節約しつつ、前述した各効果を得ることができる。
【0072】尚、上記実施例では、道路離脱状態になってから、車両が所定回数だけ屈曲走行すると、仮想的な駐車場領域Wを設定し、その駐車場領域W内での車両の走行軌跡を、道路データに変換してマップマッチング処理に用いるようにしたが、駐車場領域Wを設定することなく、道路離脱状態であると判定されている場合に、車両の走行軌跡を道路データに変換してマップマッチング処理に用いるようにしても良い。
【0073】具体的には、まず、図2に示した車両位置検出処理は、S110の処理を実行した後、S180に移行して道路離脱状態であるか否かを判定し、道路離脱状態であれば、S200に移行して仮想道路生成処理を実行し、また道路離脱状態でなければ、S220に移行してRAM26の仮想道路データ領域を消去するように構成する。そして、図3に示した仮想道路生成処理は、S310の判定を行うことなく、最初からS315の判定を行い、車両が屈曲走行中であれば、S320?S350の道路データ作成のための処理を実行するように構成する。また、この構成の場合、図4のパラメータ変更処理は、実行しないようにしても良いし、また、S410にて道路離脱状態であるか否かを判定し、道路離脱状態である場合にS420の処理を実行するようにしても良い。
【0074】そして、上記のように構成しても、前述した実施例の車載用ナビゲーション装置と同様の効果を得ることができるが、前述した実施例のように仮想的な駐車場領域Wを設定するようにすれば、駐車場内のように車両が同じ経路を繰り返し屈曲走行して、本当に車両位置の検出精度が低くなってしまう可能性がある場合にのみ、仮想の道路データを対象とするマップマッチング処理を行うようにすることができ、車両位置を検出するための処理の最適化・低減化を図ることができる、という点で有利である。」

・図2及び図3には、ナビゲーション装置の具体的な処理を実行するステップがS110等の記号により示されている。また、図5には、駐車場領域W内を走行する場合に、同じ経路を繰り返して走行する点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「車両の走行方向及び走行距離を検出するための車速センサ1と方位センサ2と、
前記車速センサ1から入力される走行速度を積分して得られる走行距離と前記方位センサ2から得られる走行方向とに基づき、車両の現在位置を算出する電子制御回路20と、
車両位置が地図メモリに記憶された道路上にない道路離脱状態となってから、車両が所定回だけ屈曲走行することを検出するステップS150と、車両の走行軌跡を含む領域である駐車場領域Wを設定するステップS170と、
ステップ180で道路離脱状態と判断され、さらに、ステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中とステップS190で判断した場合に、走行軌跡を道路データに分解して記憶する仮想道路を生成処理するステップS200と、
ステップ180で道路離脱状態と判断された場合に、車両の走行軌跡を含む領域に応じてステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中か否かを判定するステップS190と、
道路離脱状態であり、かつ、駐車場領域W内を走行中と判定されたときに、既に走行した経路の軌跡に応じた仮想の道路データを対象としてマップマッチング処理が行なわれるステップS110と、
道路離脱状態でないと判定するか、又は、駐車場領域W内を走行中でないと判定するステップ180及びステップ190と、
を備え、前記仮想道路を生成処理するステップS200はステップS180において、道路離脱状態でない、または、ステップS190において、駐車場領域W内を走行中でないと判定すると、ステップS220においてRAMをクリアすることが検出されるまで、車両が一度走行した経路を再び走行した場合には、既に走行している経路の軌跡が仮想の道路データとして記憶されているナビゲーション装置。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)後者の「車速センサ1と方位センサ2」は、「車両の走行方向及び走行距離を検出する」機能を有していることから、前者の「自律航法センサ」に相当するといえる。
後者の「車両の走行方向及び走行距離を検出するための車速センサ1と方位センサ2」が前者の「車両の方位変化量および移動距離を検出する自律航法センサ」に相当する。

(イ)上記のように後者の「車速センサ1と方位センサ2」が前者の「自律航法センサ」に相当するといえることを踏まえると、後者の「車速センサ1から入力される走行速度を積分して得られる走行距離と方位センサ2から得られる走行方向とに基づき、現在位置を算出する」態様が前者の「自律航法センサによって検出された方位変化量および移動距離を累積して車両位置を計算する」態様に相当することは技術常識であるといえることから、
後者の「車速センサ1から入力される走行速度を積分して得られる走行距離と方位センサ2から得られる走行方向とに基づき、車両の現在位置を算出する電子制御回路20」が前者の「自律航法センサによって検出された方位変化量および移動距離を累積して車両位置を計算する車両位置計算手段」に相当する。

(ウ)後者の「車両位置が地図メモリに記憶された道路上にない道路離脱状態となってから、車両が所定回だけ屈曲走行することを検出するステップS150と、車両の走行軌跡を含む領域である駐車場領域Wを設定するステップS170」が、
前者の「車両が特定施設へ進入したことを検出する進入検出手段」に相当する。

(エ)後者の「ステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中とステップS190で判断した場合に、走行軌跡を道路データに分解して記憶する仮想道路を生成処理するステップS200」で仮想道路が生成されるのは、ステップS150で道路離脱状態となってから、車両が所定回だけ屈曲走行することを検出した場合のみであり、後者の「ステップS150」が前者の「進入検出手段」に相当することを踏まえると、後者の「ステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中とステップS190で判断した場合」が前者の「進入検出手段によって特定施設に進入したことが検出された後」に相当するといえることから、
後者の「ステップ180で道路離脱状体と判断され、さらに、ステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中とステップS190で判断した場合に、走行軌跡を道路データに分解して記憶する仮想道路を生成処理するステップS200」が前者の「進入検出手段によって特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録する走行軌跡記録手段」に相当する。

(オ)後者の「ステップ180で道路離脱状体と判断された場合に、車両の走行軌跡を含む領域に応じてステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中か否かを判定するステップS190」と
前者の「走行軌跡記録手段によって記録された走行軌跡に基づいて、同一の走行経路を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一経路走行判定手段」とは、
「走行軌跡に基づいて、特定施設を車両が走行しているか否かを判定する特定施設走行判定手段」なる概念で共通する。

(カ)後者の「既に走行した経路の軌跡」、及び、「マップマッチング処理」が前者の「1周目の走行軌跡」、及び、「車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正」に相当するといえることから、
後者の「道路離脱状態であり、かつ、駐車場領域W内を走行中と判定されたときに、既に走行した経路の軌跡に応じた仮想の道路データを対象としてマップマッチング処理が行なわれるステップS110」と
前者の「同一経路走行判定手段によって車両が同一の走行経路を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正手段」とは、
「特定施設走行判定手段によって車両が特定施設を走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正手段」なる概念で共通する。

(キ)後者の「ステップ180及びステップ190」が前者の「退出検出手段」に相当するといえることから、
後者の「道路離脱状態でないと判定するか、又は、駐車場領域W内を走行中でないと判定するステップ180及びステップ190」が前者の「車両が特定施設から退出したことを検出する退出検出手段」に相当する。

(ク)後者の「車両が一度走行した経路を再び走行した場合には、既に走行している経路の軌跡が仮想の道路データとして記憶されている」態様が前者の「少なくとも1周目の走行軌跡の記録を保持する」態様に相当し、後者の「仮想道路を生成処理するステップS200はステップS180において、道路離脱状態でない、または、ステップS190において、駐車場領域W内を走行中でないと判定すると、ステップS220においてRAMをクリアすることが検出されるまで、車両が一度走行した経路を再び走行した場合には、既に走行している経路の軌跡が仮想の道路データとして記憶されている」態様と
前者の「走行軌跡記録手段は、車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、退出検出手段によって特定施設から退出したことが検出されるまで、少なくとも1周目の走行軌跡の記録を保持する」態様とは、
「走行軌跡記録手段は走行軌跡の保存が不要となることが検出されるまで、少なくとも1周目の走行軌跡の記録を保持する」とした概念で共通する。

したがって、両者は、
「車両の方位変化量および移動距離を検出する自律航法センサと、
前記自律航法センサによって検出された方位変化量および移動距離を累積して車両位置を計算する車両位置計算手段と、
車両が特定施設へ進入したことを検出する進入検出手段と、
前記進入検出手段によって前記特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録する走行軌跡記録手段と、
前記走行軌跡に基づいて、前記特定施設を車両が走行しているか否かを判定する特定施設走行判定手段と、
前記特定施設走行判定手段によって車両が特定施設を走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して前記車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正手段と、
車両が前記特定施設から退出したことを検出する退出検出手段と、
を備え、前記走行軌跡記録手段は走行軌跡の保存が不要となることが検出されるまで、少なくとも前記1周目の走行軌跡の記録を保持するナビゲーション装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
特定施設を車両が走行しているか否かを判断する特定施設走行判定手段に関し、本願発明では、「走行軌跡記録手段によって記録された」走行軌跡に基づいて、「同一の走行経路」を車両が「繰り返し」走行しているか否かを判定する「同一経路」走行判定手段であるのに対し、引用発明では、車両の走行軌跡を含む領域に応じてステップS170で設定された駐車場領域W内を走行中か否かを判断するステップS190であり、「走行軌跡記録手段によって記録された」走行軌跡でなく、また、「同一の走行経路」を車両が「繰り返し」走行しているか否かを判断していない点。

[相違点2]
車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正を行う場合の条件が、本願発明では、「同一経路」走行判定手段によって車両が「同一の走行経路」を「繰り返し」走行していると判定されたときであるのに対し、引用発明では駐車場領域W内を走行中と判定されたときであるが、車両が「同一の走行経路」を「繰り返し」走行していることを判定していない点。

[相違点3]
走行軌跡の保存が不要となる時点に関し、本願発明では「車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、退出検出手段によって特定施設から退出した」ことが検出されるまでであるのに対し、引用発明では、道路離脱状態でないか、または、ステップS190において、駐車場領域W内を走行中でないことを判定した時である点。

5.判断
[相違点1、及び、2]について
本願発明において、走行軌跡記録手段によって記録された走行軌跡に基づいて、同一の走行経路を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一経路走行判定手段と、同一経路走行判定手段によって車両が同一の走行経路を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正することによる技術的意義は、出願当初の明細書の【0028】の「同一軌跡走行判定部26から車両位置補正部22に対して同一の走行経路上を繰り返し走行している旨が通知され、この通知を受け取った車両位置補正部22は、2周目以上の走行軌跡上の車両位置を1周目の走行軌跡に合わせる位置補正動作を行う(ステップ105)。」なる記載からみて、位置補正動作を行う場合を検出するためのものであるといえる。
一方、「道路離脱状態であり、かつ、駐車場領域W内を走行中と判定されたときに、既に走行した経路の軌跡に応じた仮想の道路データを対象としてマップマッチング処理が行われる」引用発明においても、「道路離脱状態であり、かつ、駐車場領域W内を走行中と判定されたとき」という条件で位置補正動作を行う場合を検出するものであるといえる。さらに、引用例の【0066】には、「地図メモリ4に道路データが記憶されていな場所において、車両が同じ経路を繰り返して走行しても、検出される車両の現在位置が実際の位置に対して次第に大きくずれていってしまう、といったことが防止される。例えば、図5(A)の点線で例示したように、車両が、地図メモリ4に道路データが記憶された道路Rから外れて長方形状に繰り返し周回走行した場合に、本実施例の如き処理を行わない従来の装置では、方位センサ2の検出誤差や演算誤差が次第に蓄積されて、車両の検出位置が実際の位置に対し次第に大きくずれていってしまうのであるが、本実施例では、既に走行した経路の軌跡に応じた仮想の道路データを対象としてマップマッチング処理が行われるため、このような問題を効果的に解決することができるのである。」と記載されているように、同一の走行経路を車両が繰り返し走行している場合に有利であることが記載されていることから、引用例には、走行軌跡に基づいて、同一の走行経路を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一経路走行判定手段と、同一経路走行判定手段によって車両が同一の走行経路を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正することが示唆されているといえる。
なお、本願発明では、同一の走行経路を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する際に、判断対象とする走行軌跡が走行軌跡記録手段によって記録されたものである点を特定しているが、出願当初の明細書には、それによる技術的意義は記載されていないことから、引用発明において、「車両の走行軌跡を含む領域である駐車場領域W」を使用するのか、「走行軌跡を道路データに分解して記憶する仮想道路」を使用するのかは任意であるといえる。してみると、本願発明において、判断対象とする走行軌跡が走行軌跡記録手段によって記録されたものである点は、設計事項にすぎないといえる。
そうすると、引用発明において、上記の引用例の示唆を踏まえることにより、相違点1、及び、2に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点3]について
本願発明において、車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、退出検出手段によって特定施設から退出したことが検出されるまで、少なくとも1周目の走行軌跡の記録を保持することによる技術的な意義は、出願当初の明細書の【0033】の「走行軌跡記録部24では、車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく1周目の走行軌跡が保持されるため、デパート等の駐車場に車両を駐車させて買い物をした後に車両の走行を開始し、再び屋内駐車場内を走行する際にも、1周目の走行軌跡に車両位置を合わせる位置補正動作を継続することが可能になり、自律航法センサ5による測位誤差を低減した状態を維持することができる。」なる記載からみて、デパート等の駐車場に車両を駐車させて買い物をした後に車両の走行を開始し、再び屋内駐車場内を走行する際にも、1周目の走行軌跡に車両位置を合わせる位置補正動作を継続することであるといえる。
一方、「仮想道路を生成処理するステップS200はステップS180において、道路離脱状態でないと判断するとステップS220においてRAMをクリアすることが検出されるまで、車両が一度走行した経路を再び走行した場合には、既に走行している経路の軌跡が仮想の道路データとして記憶されている」引用発明も、道路離脱状態でないと判断されるとRAMをクリアするものであり、いいかえれば、道路離脱状態ではRAMをクリアされないといえる。してみると、引用発明のものもデパート等の駐車場に車両を駐車させて買い物をした後に車両の走行を開始し、再び屋内駐車場内を走行する際にも、1周目の走行軌跡に車両位置を合わせる位置補正動作を継続することができるといえる。
請求人は、平成22年12月11日付けの審判請求書の「(a4)請求項1に係る発明と引用文献との対比(理由2について)」において、『拒絶査定では「刊行物2には、仮想道路データを駐車場領域内にないと判定した場合に消去することが記載されているから、駐車場領域内にあれば消去しないことが記載されているものである。」と指摘されているが、この指摘には同意できない。刊行物2の段落0034には、「電源スイッチがオンされた直後には、前述したように指示或いは指定された初期位置が、現在位置及び走行軌跡を求めるための起点として用いられる。」という記載がある。一般にはイグニッションスイッチを投入後にナビゲーション装置やその他の車載機器に電力が供給され、その後電源スイッチの操作に応じてナビゲーション装置が動作するものであるため、刊行物2のナビゲーション装置はイグニッションキーを切った際に電源が切断されて走行軌跡のデータも消滅してしまうことになる。すなわち、刊行物2については、上記の指摘事項は誤りであると考えられる。』と主張している。しかしながら、ナビゲーション装置の制御装置に使われるRAMは、エンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、必要に応じてバッテリーによりバックアップされるものであることが技術常識であるといえる(必要があれば、特開2002-67834号公報の【0003】に、「従来の車両システムにおいては、各種のアクチュエータを電子制御するコンピュータ毎にCPU、メモリ(ROM、RAM)、I/Oポート等の機能をそれぞれ設けている。特に、イグニションスイッチをOFFしている間、すなわち、エンジンOFF中に乗員の操作情報や制御に必要な情報(例えばデジタル時計の時刻情報、あるいはカーナビゲーションにおける目的地の検索情報またはルート探索情報、あるいはETC(有料道路自動料金収受システム)における履歴情報など)を記憶しておくためには、各コンピュータ全てにバックアップ電源が必要で、エンジンOFFが長く続くと、複数個のコンピュータに供給される暗電流によって消費電力が増加することにより、車載電源が消耗しバッテリー上がりを起こしてしまうという問題があった。また、車両走行中においても、電力の消費は燃費の悪化につながるので、極力軽減することが望ましい。」と記載されているので参照されたい。)。してみると、請求人が主張する「一般にはイグニッションスイッチを投入後にナビゲーション装置やその他の車載機器に電力が供給され、その後電源スイッチの操作に応じてナビゲーション装置が動作するものであるため、刊行物2のナビゲーション装置はイグニッションキーを切った際に電源が切断されて走行軌跡のデータも消滅してしまうことになる。」との主張は採用することができない。
そうすると、引用発明も、実質的に「車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチの切断の有無に関係なく、退出検出手段によって特定施設から退出した」ことが検出されるまで、少なくとも1周目の走行軌跡の記録を保持するものと解される。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、及び、上記技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明、及び、上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-29 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-12-19 
出願番号 特願2005-66518(P2005-66518)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
P 1 8・ 574- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 田村 嘉章
冨江 耕太郎
発明の名称 ナビゲーション装置  
代理人 雨貝 正彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ