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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1251373
審判番号 不服2009-21235  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-02 
確定日 2012-02-13 
事件の表示 特願2003-562470「往復内燃機関の内部エンジン堆積物を除去するための供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日国際公開、WO03/62626、平成17年 6月 2日国内公表、特表2005-516142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、2003年1月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年1月23日、米国、2002年11月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年7月23日付けで特許法第184条の4に規定する明細書、請求の範囲及び要約の翻訳文が提出され、平成20年10月22日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月29日付けで拒絶査定がなされ、それに対して同年11月2日に審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本件出願の請求項1ないし20に係る発明は、平成21年4月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに平成16年7月23日付けの明細書の翻訳文及び国際出願日における図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
運転中の往復エンジン装置の内部表面に洗浄液を投与するための、往復エンジンの空胴部の内部に、アクセスポートを通って配置できるように適合化された処理用マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置であって、該処理用マニホールドが、貫通している内腔と、洗浄を要する該エンジンの内部表面に液体を供給するように導くオリフィスを持つ少なくとも一個の可動性端部とを有し、アクセスポートの位置に無関係にオリフィスの位置決めができるような充分な長さがある処理用マニホールドであり、そして該処理用マニホールドの周囲に備えられ、処理用マニホールドと連携して該エンジンのアクセスポートに着脱可能に係合することのできる封止部材を含む装置。」

3.引用文献
3-1.引用文献1記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-295662号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0008】
【発明の実施の形態】図1、図2には本発明の一実施形態としての筒内噴射エンジンの吸気通路構造1を装備したエンジン2を示した。このエンジン2は4気筒の筒内噴射式エンジンであり、エンジン2の各シリンダ(1気筒のみ示した)3の上部とシリンダヘッド4とで囲まれる部分には燃焼室5が形成される。各シリンダ3の上側内壁面には吸気弁V1に開放可能に閉鎖された吸気ポート6および排気弁V2に開放可能に閉鎖された排気ポート7が形成され、これら吸、排気ポート6、7と干渉しない位置には図示しない点火プラグが、側端位置には燃料噴射用のインジェクタ8が配備される。なお、インジェクタ8はデリバリパイプ9を介して図示しない燃料供給装置に接続され、同燃料供給装置側より高圧燃料を常時供給されている。シリンダヘッド4の上部には各燃焼室5の吸排気弁V1,V2を駆動する弁駆動系11、12が収容され、これらはシリンダヘッド4に締め付け固定されるロッカカバー13により覆われている。」(段落【0008】)」

イ.「【0010】シリンダヘッド4及びロッカカバー13の各ポート部p1、p2及びポート側接続端部151が吸気ポートとの対向域eを形成している。この対向域eの最上部近傍に位置するポート側接続端部151はその上向き壁部に外向膨出部152を形成され、外向膨出部152に吸気路r1と外部とを上下に貫通させる作業孔18を形成している。作業孔18はその外側上部に常閉蓋として機能する常閉ビス19を螺着する内螺子を形成され、その内径は後述のストロー部材21を遊嵌することができるよう形成される。しかも、作業孔18はその内側下部が吸気ポート6の最深部内壁wや吸気弁V1の傘部とほぼ直線で結ばれる位置に形成されている。これにより作業孔18に差し込まれたストロー部材21の先端部を容易に最深部内壁wや吸気弁V1の傘部に接近配備できるように構成される。なお、図1の筒内噴射エンジンの吸気通路構造1では、インテークマニホールド15の各吸気ブランチのポート側接続端部151にそれぞれ常閉ビス19で常閉される作業孔18が形成される。」(段落【0010】)

ウ.「【0011】ここで、吸気路内壁である最深部内壁wや吸気弁V1の傘部に堆積する吸気系汚れを洗浄するデポジット洗浄用清浄剤の洗浄装置27を説明する。図1、図2に示すように、この洗浄装置27は洗浄用清浄剤を加圧する清浄剤加圧部28と、清浄剤加圧部28の加圧洗浄剤を噴射する噴射ガン29と、これらを連通させるホース31とで形成される。清浄剤加圧部28は基枠32に載置され洗浄用清浄剤を収容するタンク33と、タンク33に高圧エアを導入する加圧装置34と、作業時に開放されタンク33より加圧洗浄用清浄剤を送り出す出口側仕切り弁35と、タンク内エア圧を表示する圧力計36とで構成される。加圧装置34はタンク33内のエア圧を一定値に保持すべく図示しないエア圧制御系で駆動制御される。タンク33に収容される洗浄用清浄剤は排ガスやオイル及び炭化水素(HC)の蒸発成分からなるデポジットd(図1、図2参照)を洗浄する特性を備えたものが用いられ、ここでは燃料(レギュラーガソリン)が用いられる。なお、場合により、ポリ・エーテル・アミン系(PEA系)の清浄剤を混入しているプレミアムガソリンを用いても良く、この場合より洗浄作用が向上する。」(段落【0011】)

エ.「【0012】図2に示すように、噴射ガン29は握り部を形成した本体37と、その内部に長手方向に形成されホース31に連通する流入路38と、流入路38の途中に配備される常閉の開閉弁39と、開閉弁39を閉弁方向である弁座41に押圧するバネ42と、本体37に一端がピン結合されると共に開閉弁39をバネ42の閉弁力に抗して開放側に押圧可能なハンドル43と、流入路38の先端の清浄剤室381に一端が連通すると共に本体37より延出する噴射手段としてのストロー部材21とを備える。なお符号44はハンドル43を弁閉位置(図2に実線で示す位置)に戻す戻しバネを、符号45は開閉弁39の外部突出し軸部を内側のエア流入路38に対して密閉するシールを示している。ストロー部材21は可撓性樹脂材で形成されたストロー状の細管であり、作業孔18に差し込み可能な外径のものが使用される。」(段落【0012】)

オ.「【0016】そこで、運転者(作業者)等は車両の走行距離、たとえば1000Km走行毎に、吸気系にデポジットdが堆積し洗浄必要距離に達したと見做し、車両を整備工場等に搬入する。なお、走行距離に代えて、車両の定期点検時や、所定の経過時間毎に、洗浄必要時に達したと見做しても良い。その上で、作業者は常閉ビス19を外向膨出部152より外し、作業孔18を開放する。次いで、噴射ガン29のストロー部材21を作業孔18に差し込み、その先端部を湾曲した吸気路r1内に徐々に進入させ、最深部内壁wや吸気弁V1の傘部に接近配備する。更に、噴射ガン29のハンドル43の本体側への引込み操作により開閉弁39をバネ42の閉弁力に抗して開放作動させる。これにより、清浄剤加圧部28の加圧洗浄剤がホース31及び噴射ガン29を通してストロー部材21の先端部より高圧噴射され、吸気ポートとの対向域e、特に、デポジットdが堆積しやすい最深部内壁wや吸気弁V1の傘部を順次確実に洗浄排除できる。なお、これら洗浄処理後には、常閉ビス19が外向膨出部161の内螺子に螺着され、通常時に同部を閉鎖できる。
【0017】このような洗浄作業はインテークマニホールド15の各ポート側接続端部151の作業孔18を順次開放して、同様に行われる。また、吸気ポートとの対向域eにはデポジットd及び燃料からなる廃液が残るが、これらはエンジン駆動時に燃焼排除されるが、場合により図示しない吸引装置で廃液を吸引排除してもよい。このように、図1の筒内噴射エンジンの吸気通路構造1を適用したエンジン2はそのシリンダヘッド側に配設された吸気系に関連する種々の部品を分解して取り外すことなく、吸気路r1に堆積したデポジットdを確実に除去できる。又非洗浄時である通常時には、作業孔18を常閉ビス19のような蓋等で閉鎖するだけで済み、構成が簡素化され、特に、常閉ビス(螺子部材)19を螺着するという簡素な構成を採ることでコスト増を確実に抑えられる。更に、図1のエンジン2では噴射ガン29のストロー部材(噴射手段)21が加圧された洗浄用清浄剤を噴射するので、最深部内壁wや吸気弁V1の傘部にデポジットdが強固に付着していても、これを加圧洗浄剤の噴射で確実に洗浄排除することができる。更に、噴射手段が可撓性を有するストロー部材21で形成されるので、吸気通路形成部材が湾曲していてもその形状に沿って変形してデポジットdの堆積位置に容易に接近でき、洗浄作業が容易化される。」(段落【0016】及び【0017】)

(2)上記記載事項(1)ア.ないしオ.及び図面から次のことが分かる。
カ.上記記載事項(1)ア.ないしウ.及び図1から、洗浄装置27は、4気筒の筒内噴射式エンジン2の吸気ポート6の最深部内壁wにデポジット洗浄用清浄剤を噴射するためのものであって、洗浄装置27のストロー部材21は、4気筒の筒内噴射式エンジン2の吸気ポート6の内部に、作業孔18を通って配置できるように適合化されていることが分かる。

キ.上記記載事項(1)ウ.及びエ.並びに図2から、洗浄装置27のホース31は、流入路38及び清浄剤室381を介してストロー部材21と連通していること、すなわち、ホース31は、ストロー部材21と液体的に連絡していることが分かる。

ク.上記記載事項(1)エ.及びオ.並びに図1から、ストロー部材21がストロー状の細管であることから、ストロー部材21は貫通している内腔を有することが分かり、ストロー部材21が可撓性樹脂材で形成されていることから、ストロー部材21は変形可能であることが分かり、また、ストロー部材21の先端部から洗浄用清浄剤をエンジン2の吸気ポート6の最深部内壁wに液体を噴射することから、ストロー部材21の先端部が噴射口であること、及び、ストロー部材21は充分な長さがあることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)並びに図面によると、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「4気筒の筒内噴射式エンジン2の吸気ポート6の最深部内壁wにデポジット洗浄用清浄剤を噴射するための、4気筒の筒内噴射式エンジン2の吸気ポート6の内部に、作業孔18を通って配置できるように適合化されたストロー部材21と液体的に連絡しているホース31を有する洗浄装置27であって、該ストロー部材21が、貫通している内腔と、洗浄を要する該4気筒の筒内噴射式エンジン2の吸気ポート6の最深部内壁wに液体を供給するように導く噴射口を持つ変形可能な先端部とを有し、充分な長さがあるストロー部材21である洗浄装置27。」(以下、「引用文献1載の発明」という。)

3-2.引用文献2記載の技術
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-61456号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
サ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンの吸気系統内部を洗浄する洗浄方法に関する。」(段落【0001】)

シ.「【0004】上記のように構成された電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンの吸気系統内部は長期の使用により、油汚れ、カーボン、ごみ等が付着し、本来設定されたスロットルバルブ1の動きを損わせたり、その他の精密な部品の性能を低下させる恐れがある。従って、これらを障害なく機能させるためには洗浄を行なう必要が生じる。」(段落【0004】)

ス.「【0018】本発明では、電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンのスロットルチャンバー2及びその他の吸気系統内部の洗浄に際し、上記の接続パイプ6から、クランクケースにつながるブローバイホース(図3の7)を外し、代わりに専用ノズルA13を、その噴射口14がスロットルバルブ1の中心を向くようにして挿入し、図1に示すように、シリコンゴム等からなる栓15で固定する。この際、噴射口14の数は1個または、噴射の広がりをより広くとるために2個以上設けても良い。また、専用ノズルA13はシリコンゴム等からなる栓15を介して洗浄剤容器9と、作業のし易い長さにしたチューブ16で接続される。
【0019】次に、エンジンをかけながら洗浄剤をエアダクト4内に注入・噴射し、噴射後は、排煙がなくなるまで断続的に空ふかしを行ない、エンジン内部に残った洗浄剤を燃焼させて終了する。
【0020】次に、この実施形態(図1)における作用について説明する。スロットルチャンバー2及びその他の吸気系統内部を洗浄するに際し、エアダクト4の接続パイプ6からブローバイホース7を外し、代わりに、図1に示すように専用ノズルA13を栓15を介してエアダクト4内に挿入し、専用ノズルA13の一端にチューブ16を介して連通された洗浄剤容器9から、洗浄剤をエンジンをかけながらスロットルバルブ1へ向けて注入・噴射する。その際、専用ノズルA13には図1に示すように、ノズルの挿入方向から直角方向に噴射するように噴射口14が設けられており、この噴射口14をスロットルバルブ1へ向けてシリコンゴム等の栓15で固定させる。このようにセットして、噴射された洗浄剤は直接スロットルバルブ1及びその周辺を洗浄し、さらにスロットルバルブ1よりも下流域のインテークマニホールドに対しても洗浄効果を示す。なお洗浄液は、最後には燃焼室で燃焼させる。」(段落【0018】ないし【0020】)

(2)上記記載事項(1)サ.ないしス.並びに図面から次のことが分かる。
タ.上記記載事項(1)サ.ないしス.並びに図1から、洗浄剤容器9、栓15、チューブ16及び専用ノズルA13からなる装置は、自動車エンジンをかけながら、自動車エンジンの吸気系統内部を洗浄するものであることが分かり、また、この装置は吸気系統内部の汚れを洗浄するものであるから洗浄対象となる吸気系統内部の表面に洗浄剤を注入・噴射するものであることが分かる。

チ.上記記載事項(1)ス.及び図1から、専用ノズルA13は、自動車エンジンのエアダクト4の内部に、接続パイプ6を通って配置できるように適合化されていることが分かる。

ツ.上記記載事項(1)ス.及び図1から、洗浄剤容器9が専用ノズルA13の一端にチューブ16を介して連通されていること、すなわち、チューブ16は、専用ノズルA13と液体的に連絡していることが分かる。

テ.上記記載事項(1)ス.及び図1から、栓15は、専用ノズルA13の周囲に設けられるものであることが分かり、栓15は、専用ノズルA13と連携して自動車エンジンの接続パイプ6に固定されることが分かり、栓15はその機能からみて接続パイプに着脱可能であることは明らかである。

(3)上記(1)及び(2)並びに図面によると、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「自動車エンジンをかけながら自動車エンジンの吸気系統内部の表面に洗浄剤を注入・噴射するための、自動車エンジンのエアダクト4の内部に、接続パイプ6を通って配置できるように適合化された専用ノズルA13と液体的に連絡しているチューブ16を有する装置であって、専用ノズルA13と連携して該自動車エンジンの接続パイプ6に着脱可能に固定することのできる栓15を含む装置。」(以下、「引用文献2載の技術」という。)

4.対比
本願発明と引用文献1記載の発明を対比すると、引用文献1記載の発明における「4気筒の筒内噴射式エンジン2」、「吸気ポート6の最深部内壁w」、「デポジット洗浄用清浄剤」、「噴射」、「吸気ポート6」、「作業孔18」、「ストロー部材21」、「ホース31」、「洗浄装置27」及び「噴射口を持つ変形可能な先端部」は、それぞれの技術的意義及び機能からみて、本願発明における「往復エンジン装置」、「内部表面」、「洗浄液」、「投与」、「空胴部」、「アクセスポート」、「処理用マニホールド」、「長尺導管」、「装置」及び「オリフィスを持つ少なくとも一個の可動性端部」に、それぞれ相当する。
したがって、本願発明と引用文献1記載の発明は、
「往復エンジン装置の内部表面に洗浄液を投与するための、往復エンジンの空胴部の内部に、アクセスポートを通って配置できるように適合化された処理用マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置であって、該処理用マニホールドが、貫通している内腔と、洗浄を要する該エンジンの内部表面に液体を供給するように導くオリフィスを持つ少なくとも一個の可動性端部とを有し、充分な長さがある処理用マニホールドである装置。」
という点で一致し、1)及び2)の点で相違している。

1)本願発明においては、装置が「運転中の」往復エンジン装置に洗浄液を投与するものであるのに対して、引用文献1記載の発明においては、洗浄装置27(本願発明における「装置」に相当。)が4気筒の筒内噴射式エンジン2(本願発明における「往復エンジン装置」に相当。)の「運転中」にデポジット洗浄用清浄剤(本願発明における「洗浄液」に相当。)を噴射(本願発明における「投与」に相当。)するかどうかかが明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

2)本願発明においては、装置が処理用マニホールドの周囲に「封止部材」を有するのに対して、引用文献1記載の発明においては、洗浄装置27(本願発明における「装置」に相当。)がストロー部材21(本願発明における「処理用マニホールド」に相当。)の周囲に「封止部材」を有しない点(以下、「相違点2」という。)。

3)本願発明においては、「処理用マニホールド」が「アクセスポートの位置に無関係にオリフィスの位置決めができるような充分な長さがある」のに対して、引用文献1記載の発明においては、ストロー部材21(本願発明における「処理用マニホールド」に相当。)は、「充分な長さ」はあるものの作業孔18(本願発明における「アクセスポート」に相当。)の位置に無関係に噴射口(本願発明における「オリフィス」に相当。)の位置決めができるようなものであるかが明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

5.当審の判断
上記相違点1ないし相違点3について検討する。
1)相違点1について
「運転中の」エンジンに洗浄液を投与することは周知の技術(例えば、上記引用文献2として提示した特開平10-61456号公報、実願昭58-21163号(実開昭59-126147号)のマイクロフィルム及び特開2000-213367号公報参照。以下、「周知技術」という)であることを考慮すれば、引用文献1記載の発明におけるデポジット洗浄用清浄剤の噴射を4気筒の筒内噴射式エンジンの運転中に行うようにして、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

2)相違点2について
本願発明と引用文献2記載の技術を対比すると、引用文献2記載の技術における「自動車エンジンをかけながら」、「吸気系統内部の表面」、「洗浄剤」、「注入・噴射」、「エアダクト4」、「接続パイプ6」、「専用ノズルA13」、「チューブ16」、「固定」及び「栓15」は、それぞれの技術的意義及び機能からみて、本願発明における「運転中の」、「内部表面」、「洗浄液」、「投与」、「空胴部」、「アクセスポート」、「処理用マニホールド」、「長尺導管」、「係合」及び「封止部材」に、それぞれ相当し、また、引用文献2記載の技術における「自動車エンジン」は、「エンジン」である限りにおいて、本願発明における「往復エンジン装置」に相当するから、引用文献2記載の技術を本願発明の用語を用いて表現してみると、
「運転中のエンジンの内部表面に洗浄液を投与するための、エンジンの空胴部の内部に、アクセスポートを通って配置できるように適合化された処理用マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置であって、処理用マニホールドと連携して該エンジンのアクセスポートに着脱可能に係合することのできる封止部材を含む装置。」となる。
引用文献1記載の発明は、上記3.3-1(1)オ.に摘記した事項からみて、洗浄の対象がエンジンの吸気系に堆積したデポジットdであることが分かり、また、引用文献2記載の技術は、上記3.3-2(1)シ.に摘記した事項からみて、洗浄の対象がエンジンの吸気系統内部に付着したカーボン等であることが分かる。
してみれば、引用文献1記載の発明と、引用文献2記載の技術は、いずれもエンジンの吸気系の付着物の洗浄という技術分野に属するものであり、このことを考慮すれば、引用文献1記載の発明における「ストロー部材21(本願発明における「処理用マニホールド」に相当。)」に、引用文献2記載の技術における封止部材に関する技術を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

3)相違点3について
「ストロー部材21(本願発明における「処理用マニホールド」に相当。)」の長さに関して、処理をする対象物の位置に応じてストロー部材21が充分な長さを確保すべきであることは自明の事項であって、その「充分な長さ」として「作業孔18(本願発明における「アクセスポート」に相当。)の位置に無関係に噴射口(本願発明における「オリフィス」に相当。)の位置決めができるような」ものとすることは当業者が適宜なし得る程度の設計的事項にすぎない。
引用文献1記載の発明における「ストロー部材21」に、上記設計的事項を考慮して、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明は、全体でみても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するとも認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-21 
結審通知日 2010-10-22 
審決日 2010-11-02 
出願番号 特願2003-562470(P2003-562470)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 西山 真二
中川 隆司
発明の名称 往復内燃機関の内部エンジン堆積物を除去するための供給装置  
代理人 柳川 泰男  

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