• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251428
審判番号 不服2008-30334  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-28 
確定日 2012-02-01 
事件の表示 特願2002-571931「転写による増幅を使用したHBVDNAの増幅及び検出法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月19日国際公開、WO02/72881、平成16年 8月26日国内公表、特表2004-525632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月6日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年3月7日 欧州特許庁)とする出願であって、平成19年5月11日に手続補正がなされたが、平成20年8月25日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月26日付で手続補正がなされたものである。

2.平成20年12月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?21のうち、請求項2、3、14、15が削除されるとともに、特許請求の範囲の請求項1、5、6、12、13、19?21が補正され、そのうち請求項1は、補正前の
「【請求項1】試料中に場合により存在するHBV DNAから出発するターゲットHBV核酸配列の転写による増幅方法であって、
-HBVを含む疑いのある試料を、
選択した制限部位でHBV DNAを開裂することができ、前記HBV DNA鎖の規定3’末端を生成する1またはそれ以上の制限酵素、
DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの配列を含む5’領域およびDNA鎖の規定3’末端に相補的な3’領域を有するプロモータープライマー、
プロモータープライマーと逆極性であり、前記ターゲット配列の5’末端を含む第2またはリバースプライマー、および
ターゲット配列がHBV一本鎖DNAの場合には制限プライマーと共に、増幅緩衝液中にてインキュベートする段階、
-こうして生成した反応混合物を、制限酵素により消化させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階、
-こうして得られた試料を、制限酵素を失活させるため及び/又は少なくとも部分的に二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階、
-RNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、RNアーゼH活性をもつ酵素と、RNAポリメラーゼ活性をもつ酵素を試料に加える段階、および
-こうして生成した反応混合物を、増幅させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階
を含む前記方法。」から、
「【請求項1】試料中に場合により存在するHBV DNAから出発する二本鎖ターゲットHBV核酸配列の転写による増幅方法であって、
-HBVを含む疑いのある試料を、
選択した制限部位でHBV DNAを開裂することができ、HBV DNA鎖の一方の規定3’末端を生成する1またはそれ以上の制限酵素、
当該制限部位のすぐ上流の一本鎖DNAターゲットと相互作用し当該DNA鎖の規定された3’末端に相補的なハイブリダイジング配列および
DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーター配列を含むプロモータープライマー、および
プロモータープライマーと逆極性であり、前記ターゲット配列の5’末端を含む第2またはリバースプライマーと共に増幅緩衝液中にてインキュベートする段階、
-こうして生成した反応混合物を、制限酵素により消化させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階、
-こうして得られた試料を、制限酵素を失活させるため及び/又は少なくとも部分的に二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階、
-RNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、RNアーゼH活性をもつ酵素と、RNAポリメラーゼ活性をもつ酵素を試料に加える段階、および
-こうして生成した反応混合物を、増幅させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階
を含む前記方法。」へと補正され、
また、請求項12は補正前の
「【請求項12】制限プライマーが、HBVターゲットにハイブリダイズするヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであり、EcoRI部位を基準にヌクレオチド247?252に位置するXbaI部位、EcoRI部位を基準にヌクレオチド253?258に位置するBssSI部位又はEcoRI部位を基準にヌクレオチド178?183に位置するAvrII部位の「両側」の少なくとも10のヌクレオチドを含む請求項1に記載の方法。」から、対応する補正後の請求項10の
「【請求項10】プロモータープライマーが、HBVターゲットにハイブリダイズするヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであり、EcoRI部位を基準にヌクレオチド247?252に位置するXbaI部位、EcoRI部位を基準にヌクレオチド253?258に位置するBssSI部位又はEcoRI部位を基準にヌクレオチド178?183に位置するAvrII部位に隣接する少なくとも10のヌクレオチドを含む請求項1に記載の方法。」へと補正され、
さらに、請求項20は補正前の
「【請求項20】プロモーター配列と結合した、HBVターゲットにハイブリダイズし、制限酵素XbaIと組合せた配列番号10又はBssSIと組合せた配列番号11又はAvrIIと組合せた配列番号12の開裂部位から数えて少なくとも10のヌクレオチドを含むヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであるプロモータープライマーおよび配列番号4及び配列番号5の少なくとも10のヌクレオチドを含むヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーを含む、請求項1に記載のHBV核酸の増幅で使用するのに適したオリゴヌクレオチドプライマーセット。」から、対応する補正後の請求項16の
「【請求項16】HBVターゲットにハイブリダイズしヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであるプロモータープライマーおよび配列番号4及び配列番号5の少なくとも10のヌクレオチドを含むヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーを含む、請求項1に記載のHBV核酸の増幅で使用するのに適したオリゴヌクレオチドプライマーセット。」へと補正された。

(2)目的要件について
上記請求項12(補正後は請求項10)に係る補正は、補正前の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「制限プライマー」を「プロモータープライマー」と変更するものであり、補正前の請求項1には、「プロモータープライマー」と「制限プライマー」が別のプライマーとして記載されているから、かかる補正は特許請求の範囲に記載された事項を変更するものである。
また、上記請求項20(補正後は請求項16)に係る補正は、補正前の請求項20に記載した発明を特定するために必要な事項である「プロモータープライマー」について、「プロモーター配列と結合した、HBVターゲットにハイブリダイズし、制限酵素XbaIと組合せた配列番号10又はBssSIと組合せた配列番号11又はAvrIIと組合せた配列番号12の開裂部位から数えて少なくとも10のヌクレオチドを含むヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドである」から「HBVターゲットにハイブリダイズしヌクレオチド数10から35のオリゴヌクレオチドである」へとして、「プロモーター配列と結合した、制限酵素XbaIと組合せた配列番号10又はBssSIと組合せた配列番号11又はAvrIIと組合せた配列番号12の開裂部位から数えて少なくとも10のヌクレオチドを含む」という限定を削除するものであるから、かかる補正は特許請求の範囲に記載された事項を拡張するものである。
そして、このような特許請求の範囲を拡張及び変更しようとする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、又は上記に記載したとおり、明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものでもないので、よってこの補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

(3)独立特許要件について
上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ターゲットHBV核酸配列」及び「DNA鎖の規定3’末端に相補的な3’領域」についてそれぞれ、「二本鎖ターゲットHBV核酸配列」及び「当該制限部位のすぐ上流の一本鎖DNAターゲットと相互作用し当該DNA鎖の規定された3’末端に相補的なハイブリダイジング配列」という限定を付加するとともに、「ターゲット配列がHBV一本鎖DNAの場合には制限プライマーと共に」という、HBV核酸配列が一本鎖の態様を削除するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(3-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1991年に頒布された刊行物である国際公開第91/4340号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(i)「規定3′末端を有し、標的DNA配列に含まれている、対象DNAを増幅するための等温法を開示する。その方法は適切な条件下で次のものを兼ね備えて成る:標的DNA配列、必要ならば、対象DNAを相補的な核酸配列でハイブリダイズすることを可能にするために処理されたもの;1つのプロモータープライマー;1つのリバースプライマー;少なくとも1つのRNA依存的DNAポリメラーゼ;少なくとも1つのDNA依存的DNAポリメラーゼ;少なくとも1つのDNA依存的RNAポリメラーゼ;RNase H活性を有する試薬;適切なヌクレオシド3リン酸類。さらに、いくつかの増幅工程の態様が開示されている。例えば、選択された位置で標的DNAを切断したり、対象DNAに規定3′末端を持たせるために、選択された位置で一本鎖DNAあるいは二本鎖DNAを認識して特異的に切断する1つの制限酵素も標的DNAと併用される。」(表紙の要約)

(ii)「使用される2つのDNAプライマーをプロモータープライマーとリバースプライマーと言う。プロモータープライマーは、本発明の方法においてプロモータプライマーにとってその存在が必要な少なくとも2つの領域、すなわちDNA依存的RNAポリメラーゼの認識配列を含む5′領域と、対象DNAあるいはRNAのある領域と相補的な配列を含む3′領域を含む、オリゴヌクレオチドである。
…(途中省略)…
リバースプライマーは、その配列が対象DNAあるいはRNAのある5′側の配列に相同なものであり、かつ対象DNAあるいはRNAのプロモータープライマーと相補的な領域と重複しないものである。」(第6頁第18行?第7頁第11行)

(iii)「1つの態様において、選択された位置で一本鎖DNAを認識して切断する1つの制限酵素が使用される(図1)。その制限酵素は、適切な条件下で以下のものと併用される:標的DNA配列、プロモータープライマー、リバースプライマー、少なくとも1つのRNA依存的DNAポリメラーゼ;少なくとも1つのDNA依存的DNAポリメラーゼ;少なくとも1つのDNA依存的RNAポリメラーゼ;RNase H活性を伴う試薬;適切なヌクレオシド3リン酸類。適切な条件(適切な温度やpH等)下で併用されれば、対象DNAの増幅は自発的に起こる。一本鎖DNAを認識して特異的に切断し、規定3′末端を持った対象DNAを生成するための制限酵素によって、標的DNA配列が選択された位置で切断される。続いて、プロモータープライマーの3′領域が、対象DNAの相補的な3′領域にハイブリダイズする。プロモータープライマーの該3′領域はDNA依存的DNAポリメラーゼによって、対象DNAを鋳型として伸長され、一方で対象DNAの3′末端は、プロモータープライマーを鋳型として、DNA依存的DNAポリメラーゼによって伸長され、二本鎖プロモーターを有する二本鎖DNA配列を生成する。
続いて、この二本鎖DNA配列はDNA依存的RNAポリメラーゼによって転写され、規定5′末端をもつRNA転写物を生成する。リバースプライマーは、該RNA転写物の相補的3′末端領域にハイブリダイズし、リバースプライマーの3′末端はRNA依存的DNAポリメラーゼによって、RNA転写物を鋳型として使用して、伸長される。この伸長工程の産物は、規定5′末端を持つRNA転写物と、対象DNAに相当する配列を持つリバースプライマーの伸長産物から成るヘテロ二本鎖分子である。
規定5′末端を持ち、リバースプライマーの伸長産物とハイブリダイズしているRNA転写物はRnaseH活性を有する試薬により加水分解される。続いて、プロモータープライマーの3′領域が、リバースプライマーの伸長産物の相補的3′末端にハイブリダイズする。規定5′末端、規定3′末端、及び二本鎖プロモーターを有する二本鎖DNA配列を生成するために、プロモータープライマーの3′末端は、DNA依存的DNAポリメラーゼによって、リバースプライマーの伸長産物を鋳型として使用して伸長され、一方リバースプライマーの伸長産物の3′末端はプロモータープライマーを鋳型として使用しつつ、DNA依存的DNAポリメラーゼによって伸長される。規定5′末端、規定3′末端、及び二本鎖プロモーターを有する二本鎖DNA配列は、DNA依存的RNAポリメラーゼによって、規定5′末端と規定3′末端と対象DNAに相補的な配列を持つRNA転写物を生産するべく、転写される。本発明の方法において、この規定5′末端と規定3′末端と対象DNAに相補的な配列を持つRNA転写物は、次なる増幅サイクルで鋳型として使用され、それにより対象DNAの増幅を生じる。」(第11頁第29行?第13頁第24行)

(iv)第41頁第3行?第45頁第5行の実施例では、プラスミドpUC8およびpUC13を標的DNAとして、この発明の方法であるMEA(multiple enzyme amplification)法によってアンピリシン耐性遺伝子である対象DNAを増幅したところ、同一プライマーを用いたPCR法による20サイクルの増幅結果と比べて、より多い増幅物が得られたことが確認されており、具体的に以下の工程が記載されている。
(iv)-1 プラスミドpUC8およびpUC13をミニプレップで得た。(第41頁第4行?第42頁第15行)、
(iv)-2 「各ミニプレップは次にScaI制限酵素で処理された。ここで、該制限酵素は、存在すればアンピリシン耐性遺伝子のところでプラスミドを切断し、本発明の増幅法に必要な対象DNAのための望ましい規定3′末端を与える。各反応混合物の最終容量は50μlであった。各反応は5μlの0.5M EDTAを各チューブに加えて停止された。」(第42頁第15行?第22行)、
(iv)-3 「各ミニプレップチューブは蒸留水で1000倍に希釈され、その希釈液の5μlがPCRまたは本発明の増幅方法によって増幅された。PCRとMEA反応の両方に使用されたプライマーの配列は、
プロモータープライマーが:ATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCCACTCACCAGTCACAGAA
リバースプライマーが:CTCCATGGTTATGGCAG
であった。これら2つのプライマーはアンピリシン耐性遺伝子の2つの分離した領域にハイブリダイズし、PCR反応とMEA反応のどちらかでその遺伝子を増幅することができ、104bpの長さのDNA断片を生成する。」(第43頁第6行?第21行)、と記載され、上記プロモータープライマー配列には、5′端から27塩基が「T7プロモーター」、続く3′側18塩基が「相補的領域」であると付記され、
(iv)-4 「MEA反応は、45mM Tris pH8.0、12.5mM NaCl、 37.5mM KCl、 1mM spermidine、 各2mMのATP、 CTP、 GTP、 UTP、 各0.5mMのdATP、dCTP、dGTP、TTP、各0.25μMのプライマー、200単位のM-MLV逆転写酵素(Bethesda Research Labs)、60単位のT7RNAポリメラーゼ(New England Biolabs)からなる、40μl容量中で行われた。逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼは、残りの試薬を含んだチューブが94℃で2分間加熱され、次にプライマーを標的DNAにハイブリダイズさせるために37℃で30秒間冷却された後、添加された。MEA反応は37℃で、3時間静置して行われた。」(第44頁第3行?第15行)

(3-2)対比
上記引用例記載事項(i)及び(iii)には、標的DNA配列に含まれている規定3′末端を有する対象DNAを増幅するための等温法について記載されており、標的DNA配列;対象DNAの規定3’末端と一端が相補配列を有し、他端がT7RNAポリメラーゼプロモーター配列である1つのプロモータープライマー;1つのリバースプライマー;RNA依存的DNAポリメラーゼ;DNA依存的DNAポリメラーゼ;DNA依存的RNAポリメラーゼ;RNase H活性を有する試薬;適切なヌクレオシド3リン酸類;これらを併用して、適切な条件下で対象DNAを転写により増幅させるものであることが記載され、さらに、増幅工程の態様の一つとして、選択された位置で一本鎖DNAあるいは二本鎖DNAを特異的に切断する1つの制限酵素を標的DNAと併用することが記載されている。
また、上記引用例記載事項(iv)-2、(iv)-4には、実施例として、二本鎖プラスミドDNAを制限酵素ScaIで切断後、EDTAを加えて制限酵素を不活性化させた後、蒸留水を加えて希釈した標的DNAを含有するチューブに、増幅反応のための2つのプライマー、増幅緩衝液、及びヌクレオシド3リン酸類を加えてから、標的DNAの二本鎖を一本鎖にするために94℃で2分間加熱した後37℃で30秒間冷却した後、増幅用の各種酵素を添加して37℃で3時間増幅反応を行わせたことが記載されている。
そこで、本願補正発明1と引用例に記載された事項を比較すると、両者は、「試料中に存在する二本鎖ターゲットDNA配列の転写による増幅方法であって、
-ターゲットDNAを含む疑いのある試料を、選択した制限部位でターゲットDNAを開裂することができ、ターゲットDNA鎖の一方の規定3’末端を生成する1またはそれ以上の制限酵素、により消化させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階、
-当該制限部位のすぐ上流の一本鎖DNAターゲットと相互作用し当該DNA鎖の規定された3’末端に相補的なハイブリダイジング配列およびDNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーター配列を含むプロモータープライマー、およびプロモータープライマーと逆極性であり、前記ターゲット配列の5’末端を含む第2またはリバースプライマーと共に増幅緩衝液を試料に加える段階、
-こうして得られた試料を、少なくとも部分的に二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階、
-RNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、RNアーゼH活性をもつ酵素と、RNAポリメラーゼ活性をもつ酵素を試料に加える段階、
-こうして生成した反応混合物を、増幅させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階を含む方法」である点で一致する。
そして、本願補正発明1と引用例に記載された事項は、(イ)制限酵素の失活を、前者では、少なくとも部分的に二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階で、同時に熱処理で失活させるのに対して、後者では、不活性化剤のEDTAを加えて行う点、(ロ)プロモータープライマーとリバースプライマーと共に増幅緩衝液を試料に加える段階が、前者では、制限酵素と共に試料に加えるのに対して、後者では、制限酵素を失活させた後に試料に加える点、及び(ハ)二本鎖ターゲットDNAが、前者ではHBV DNAであるのに対して、後者では、HBV DNAであることは記載されていない点、の3点で相違する。

(3-3)当審の判断
(3-3-1)相違点(イ)について
制限酵素をDNA切断反応後、加熱処理により失活させることは、本願優先日前当業者が通常行う周知慣用の手段であった。このことは、例えば、Takaraバイオ総合カタログ2000、A-20頁に、「切断反応後の制限酵素を失活させるためには、一般的に加熱処理が行われている。」と記載され、各種制限酵素の加熱失活処理後の残存活性が一覧表になっていることからもうかがえ、引用例に記載の不活性化剤により制限酵素を失活させることに代えて、一般的な失活処理である加熱処理を採用することは、当業者が必要に応じて随時なし得たことである。そして、上記(3)に記載したように、引用例記載事項(iv)-4にも、二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階として、94℃で2分間加熱したことが記載されており、制限酵素を加熱処理で失活させる場合には、同じ加熱処理であるこの段階で制限酵素をも同時に失活させようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、本願明細書の段落【0016】に二本鎖DNAの転写による増幅法に適した鋳型を作成する別の方法として記載され、本願優先日前11年以上前に公開された欧州特許出願公開公報であるEP397269号には、実施例として、二本鎖DNAウイルスであるCMV(サイトメガロウイルス)に感染の疑いのある被験者の白血球からDNAを単離し、EcoRV消化緩衝液中にDNAを溶解してEcoRV制限酵素を加えて37℃で2時間消化処理し、次いで、DNA含有試料を95℃で10分間加熱してDNAを一本鎖に変性させた後、プライマーを加えてDNAポリメラーゼにより伸長反応させることが記載されており、この場合、加熱処理により制限酵素が失活することは明らかである。このように、二本鎖DNAを制限酵素で消化後、加熱処理により、二本鎖を一本鎖に変性させると同時に制限酵素を失活させる程度のことは、本願優先日前当業者であれば容易になし得たことである。

(3-3-2)相違点(ロ)について
上記(3-1)に記載したように、引用例記載事項(iv)-4には、制限酵素を失活させた後、増幅反応のための2つのプライマー、増幅緩衝液、及びヌクレオシド3リン酸類を加えてから、標的DNAの二本鎖を一本鎖にするために94℃で2分間加熱することが記載されている。
そうすると、上記(3-3-1)で述べたように、引用例において制限酵素の失活を、標的DNA二本鎖を一本鎖にするための加熱処理と同時に行うことは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることであるから、その場合に、制限酵素の失活はプライマー、増幅緩衝液等を加えた後で行うことになる。そして、本願優先日当時、プライマーの存在が制限酵素の消化処理を妨害するとか、増幅緩衝液中で制限酵素が不活性になるという技術常識は存在しなかったから、制限酵素と共に2つのプライマー及び増幅緩衝液等を試料に加えて制限酵素による消化処理を行うことは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、特段の阻害事由は見い出せない。

(3-3-3)相違点(ハ)について
病原性ウイルスであるHBVをゲノム核酸の存在によって検出することは、本願優先日前既に自明の技術的課題であり、検出のために増幅する二本鎖ターゲットDNAとしてHBV DNAを選択することは、当業者が容易に想到し得たことであり、この点に格別な特徴は見い出せない。

そして、本願補正発明1において奏される効果についても、引用例の記載及び周知の技術的事項から予測できない程の格別顕著なものとはいえない。

(3-4)小括
以上の理由により、本願補正発明1は、引用例の記載及び周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成23年6月29日付回答書において、「このように、本願発明における工程は引用例1記載の方法よりも大きく減少している。すなわち、引用例1記載の方法における工程(3)?(5)(すなわち、EDTAの添加、サンプルの希釈、新しい緩衝液の使用)は本願発明において必要ではない。このことは、工程がより少ないと、サンプルの取り扱いにより生じ得る誤りが少なくなることから重要である。特に、数種のサンプルのHBVの存在に対するハイスループット・スクリーニングを行うに当たって、取り扱う工程の量を減らした方法が必要である。なぜならば、工程が減ることにより、方法を実施する技術者による間違いが生じる可能性が少なくなり、自動的により信頼性のある増幅結果をもたらすからである。
引用例1を含めた先行技術のいずれも、方法全体にわたって同じ緩衝液を使用することを一切教示乃至示唆するものではない。さらに、本願発明者らは、NASBA増幅を行う同じ緩衝液において制限酵素が機能できることを驚くべきことに見出したのである。先行技術のいずれも、同じ反応溶液において、制限酵素による消化を生じさせ、次いで核酸増幅反応を行うことができることを一切教示乃至示唆するものではない。」と主張している。
しかしながら、EDTAの添加、サンプルの希釈が記載された引用例記載事項(iv)は実施例であり、一方、引用例の増幅方法の概略が記載された引用例記載事項(iii)には、EDTAの添加、サンプルの希釈について記載されておらず、引用例に記載のDNAの増幅方法に必須な工程ではない。また、引用例記載事項(iv)の実施例では、公知の増幅方法であるPCRによる増幅結果と、この発明の増幅方法による増幅結果を比較するために、制限酵素による消化工程とその後の増幅工程を分けたものであることは、当業者であれば容易に理解できることであり、そのようなPCRとの増幅結果の比較をする必要がなければ、制限酵素を加熱処理で失活させることに容易に想到し得ることは、上記(3-3-1)で述べたとおりである。
また、操作者のミスや汚染の危険を少なくするために、工程をまとめたり、順序を変更することは、当業者の通常の創作活動の範囲内のことにすぎず、この点に格別な特徴を見いだせない。
さらに、「NASBA増幅を行う同じ緩衝液において制限酵素が機能できることを驚くべきことに見出した」点については、そもそも本願明細書に記載されていない効果であり(本願明細書の段落【0042】には、「本発明の方法で使用する好適制限酵素は当然のことならが比較的安定しており、(比較的高濃度の塩を含有する)増幅緩衝液を含む反応混合物に加える条件下で高活性を維持する酵素である」と記載されているだけである。)、斟酌できない効果であるが、NASBA増幅を行う緩衝液は、3、4種類の酵素を添加して転写による増幅反応を行わせるものであり、これら酵素はその緩衝液中において機能できるから、制限酵素も少なくともある程度は機能できることは予測できることであり、審判請求人の上記主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
さらに、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年12月26日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成19年5月11日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1には、以下のとおり記載されている。
「試料中に場合により存在するHBV DNAから出発するターゲットHBV核酸配列の転写による増幅方法であって、
-HBVを含む疑いのある試料を、
選択した制限部位でHBV DNAを開裂することができ、前記HBV DNA鎖の規定3’末端を生成する1またはそれ以上の制限酵素、
DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの配列を含む5’領域およびDNA鎖の規定3’末端に相補的な3’領域を有するプロモータープライマー、
プロモータープライマーと逆極性であり、前記ターゲット配列の5’末端を含む第2またはリバースプライマー、および
ターゲット配列がHBV一本鎖DNAの場合には制限プライマーと共に、増幅緩衝液中にてインキュベートする段階、
-こうして生成した反応混合物を、制限酵素により消化させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階、
-こうして得られた試料を、制限酵素を失活させるため及び/又は少なくとも部分的に二本鎖を一本鎖にするために十分な温度と時間熱処理する段階、
-RNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、RNアーゼH活性をもつ酵素と、RNAポリメラーゼ活性をもつ酵素を試料に加える段階、および
-こうして生成した反応混合物を、増幅させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階
を含む前記方法。」(以下、「本願発明」という。)

4.特許法第29条第2項
(1)ターゲットHBV核酸配列が二本鎖である態様の本願発明について
ターゲットHBV核酸配列が二本鎖である場合の本願発明は、上記本願補正発明1と実質的に同一であり、本願補正発明1は上記2.(3)に記載した理由によって、引用例の記載及び周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであるから、本願補正発明1を包含する本願発明も引用例の記載及び周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)ターゲットHBV核酸配列が一本鎖である態様の本願発明について
(2-1)引用例
上記2.(3-1)に記載の引用例記載事項(i)?(iv)に加え、上記引用例にはさらに
(v)「また、あるオリゴヌクレオチドと制限酵素がハイブリダイゼーションに利用できる規定3′末端を持った対象DNAの生成のために使用される。そのオリゴヌクレオチドは、ある制限酵素の制限部位に一致する配列を含む対象DNAの領域に相補的であり、その制限酵素は、対象DNAの規定3′末端に隣接する選択された部位を認識し、特異的に二本鎖DNAを切断することができる。この態様では、図3で図式的に表したように、そのオリゴヌクレオチドは、標的DNA配列の相補的領域にハイブリダイズし、二本鎖DNAを特異的に切断する酵素が、選択された部位で対象DNAを切断し、ハイブリダイゼーションに利用できる規定3′末端を持った対象DNAを生成する。」(第14頁第16行?第31行)、と記載されている。

(2-2)対比・判断
そこで、本願発明と引用例に記載された事項を比較すると、上記引用例記載事項(v)にある「オリゴヌクレオチド」は、本願発明の「制限プライマー」に相当するので、両者は、「試料中に存在する一本鎖ターゲットDNA配列の転写による増幅方法であって、
-ターゲットDNAを含む疑いのある試料を、選択した制限部位でターゲットDNAを開裂することができ、ターゲットDNA鎖の一方の規定3’末端を生成する1またはそれ以上の制限酵素、により消化させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階、
-DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターの配列を含む5’領域およびDNA鎖の規定3’末端に相補的な3’領域を有するプロモータープライマー、およびプロモータープライマーと逆極性であり、前記ターゲット配列の5’末端を含む第2またはリバースプライマー、および制限プライマーと共に増幅緩衝液を試料に加える段階、
-RNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性をもつ酵素と、RNアーゼH活性をもつ酵素と、RNAポリメラーゼ活性をもつ酵素を試料に加える段階、
-こうして生成した反応混合物を、増幅させるために十分な時間適切な条件下に維持する段階を含む方法」である点で共通する。
そして、本願発明と引用例に記載された事項は、(イ)前者では、制限酵素を失活させるために十分な温度と時間熱処理する段階により制限酵素を失活させているのに対して、後者では、制限酵素の失活を不活性化剤のEDTAを加えて行う点、(ロ)プロモータープライマー、リバースプライマーと制限プライマーと共に増幅緩衝液を試料に加える段階が、前者では、制限酵素と共に試料に加えるのに対して、後者では、制限酵素を失活させた後に試料に加える点、及び(ハ)一本鎖ターゲットDNAが、前者ではHBV DNAであるのに対して、後者では、HBV DNAであることは記載されていない点、の3点で相違する。
(2-2-1)相違点(イ)について
制限酵素をDNA切断反応後、加熱処理により失活させることは、本願優先日前当業者が通常行う周知慣用の手段であり、引用例に記載の不活性化剤により制限酵素を失活させることに代えて、一般的な失活処理である加熱処理を採用することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
(2-2-2)相違点(ロ)について
2つの工程を1つにまとめたり、順序を変更することにより、操作ミスの防止や自動化を可能にしようとすることは、本願優先日前既に自明の技術的課題であり、本願優先日当時、増幅緩衝液中では制限酵素が不活性になるとか、加熱によりプライマーが失活するという技術常識は存在しておらず、しかも、3つのプライマーのうち制限プライマーは制限酵素と同時またはそれ以前に試料に加える必要があるから、上記(2-2-1)に記載したように、引用例において加熱により制限酵素を失活させることが当業者が必要に応じて適宜なし得たことであり、その場合に、最初から制限酵素と共に3つのプライマー及び増幅緩衝液等を試料に加えて制限酵素による消化処理を行い、その後加熱により制限酵素を失活させることは、当業者であれば格別の創意工夫なくなし得たことである。
(2-2-3)相違点(ハ)について
検出のために増幅する一本鎖ターゲットDNAとして、部分的に一本鎖であることが本願優先日前既に周知のHBV DNAを選択することは、病原性ウイルスであるHBVをゲノム核酸の存在によって検出することが本願優先日前既に自明の技術的課題である以上、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明において奏される効果についても、引用例の記載及び周知の技術的事項から予測できない程の格別顕著なものとはいえない。

(2-3)小括
したがって、ターゲットHBV核酸配列が一本鎖である態様の本願発明は、引用例の記載及び周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-02 
結審通知日 2011-09-06 
審決日 2011-09-20 
出願番号 特願2002-571931(P2002-571931)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山中 隆幸  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
引地 進
発明の名称 転写による増幅を使用したHBVDNAの増幅及び検出法  
代理人 小野 誠  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 金山 賢教  
代理人 川口 義雄  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ