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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C12P
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C12P
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C12P
審判 全部無効 6項4号請求の範囲の記載形式不備  C12P
審判 全部無効 2項進歩性  C12P
審判 全部無効 特174条1項  C12P
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
管理番号 1251813
審判番号 無効2009-800024  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-13 
確定日 2010-06-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4047929号発明「タキサス種の細胞培養によるタキサンの増強生産」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求項1,4?25についての訂正を認める。 請求項2及び3についての訂正(引用する請求項1についての訂正事項を含む)を認めない。 明細書についての訂正を認める(ただし,明細書の段落【0069】における「好ましくは少なくとも100μM」の記載は誤記であり,正しくは「好ましくは少なくとも100nM」であると認める。)。 特許第4047929号の請求項1?21に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許無効審判被請求人ファイトン・インコーポレーテッドは,下記1記載の特許権者であり,その経緯概要は下記2のとおりである。

1.特許第4047929号「タキサス種の細胞培養によるタキサンの増強生産」
特許出願 平成9年5月27日(パリ条約による優先権主張1996年 5月24日,米国)
出願番号 特願平9-542824

2.経緯概要
平成 9年 5月27日 出願
平成19年 3月27日 拒絶査定(発送)
平成19年 6月25日 拒絶査定不服審判請求
平成19年 7月24日 明細書についての手続補正書提出
平成19年 8月29日 審判請求書についての手続補正書提出
平成19年11月 1日 特許査定(発送)
平成19年11月30日 設定登録
平成21年 2月13日 無効審判請求 請求項1-25
(無効2009-800024号)
請求人:サムヤン ジェネックス コーポレー ション
平成21年 6月 2日 被請求人より訂正請求書及び答弁書提出
平成21年 8月27日 被請求人より訂正のやり直しに係る訂正案の提 出(ファクシミリ)
平成21年 9月11日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
被請求人より口頭審理陳述要領書提出
口頭審理
平成21年10月16日 請求人より上申書提出
平成21年10月16日 被請求人より上申書提出

第2.訂正の可否についての判断
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲についての訂正事項
ア.訂正事項1
請求項1に「タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,ここで,前記一つ以上の栄養培地は900μM以下の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは,以下の群:a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル,及びb)オーキシン関連成長調節因子から選択される増強剤を含む,前記の方法。」とあるのを,
「タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,ここで,前記一つ以上の栄養培地は10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは,以下の群:a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル,及びb)オーキシン関連成長調節因子から選択される増強剤を含む,前記の方法。」と訂正する。
すなわち,この訂正は,請求項1における「900μM以下の銀」の記載を,「10μM以上100μM以下の濃度の銀」に訂正するものである。
そして,これに伴い,請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?25についても,同様の訂正がなされることになる。

イ.訂正事項2
請求項2において,引用する請求項1についての訂正事項1の訂正に加えて,請求項2に「増強剤がジャスモン酸またはジャスモン酸エステルであり,増強剤に対する銀のモル比が9.5未満である,請求項1の方法。」とあるのを,「増強剤がジャスモン酸メチルであり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合,増強剤に対する銀のモル比が0.001と8の間の範囲である,請求項1の方法。」と訂正する。

ウ.訂正事項3
請求項3において,引用する請求項1についての訂正事項1の訂正に加えて,請求項3に「増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀に対する増強剤のモル比が少なくとも0.011である,請求項1の方法。」とあるのを,「増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合,銀に対する増強剤のモル比が0.011から1000の範囲の間である,請求項1の方法」と訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲において,請求項18,20,22及び25を削除し,請求項19以下の項番号を付与しなおす。

(2)明細書についての訂正事項
ア.訂正事項5
特許明細書の段落【0069】に「培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が900μM以下,好ましくは500μM以下,更に好ましくは200μM以下になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合,抗エチレン剤は濃度が10nM以上,好ましくは100nM,更に好ましくは1μM,及び一般的には10μM添加する。」とあるのを,「培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が900μM未満,好ましくは500μM未満,更に好ましくは200μM未満になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が少なくとも10nM,好ましくは少なくとも100μM,更に好ましくは少なくとも1μM,及び一般的には10μM添加する。」と訂正する(なお,後記するように,訂正後の「100μM」は「100nM」の誤記と認める。)。

イ.訂正事項6
特許明細書における「成長調節因子」及び「成長因子」関連の用語について,以下のとおり訂正する。
(ア)【0020】,【0070】,【0071】,【0079】,【0080】,【0083】,【0084】,【0092】,【0093】,【0218】,【表11】,【0219】(【表12】),及び【0220】(【表13】)における「成長調節剤」との記載を「成長調節因子」と訂正する。
(イ)【0053】及び【0064】における「成長調節物質」との記載を「成長調節因子」と訂正する。
(ウ)【0084】における1つめ及び【0210】(【表3】)における「成長制御因子」との記載を,「成長調節因子」と訂正する。
(エ)【0084】における2つめの「成長制御因子」との記載を,「成長因子」と訂正する。
(オ)【0170】,【0174】における「成長調節」との記載を,「成長調節因子」と訂正する。
(カ)【0217】(【表10】)における「増殖調節剤」との記載を,「成長調節因子」と訂正する。
(キ)【0040】における「調節物質」との記載を,「調節因子」と訂正する。

ウ.訂正事項7
特許明細書の以下の箇所における以下の各用語を,「増強剤」と訂正する。
(ア)【0017】における「増強因子」。
(イ)【0166】,【0170】,【0171】,【0173】?【0175】,【0177】,【0178】,【0180】,【0188】,【0190】,【0225】(【表17】)における「増加因子」
(ウ)【0221】(【表14】)における「増加の作用因」

エ.訂正事項8
特許明細書の段落【0085】における「をを」との記載を「を」と訂正する。

オ.訂正事項9
特許明細書の段落【0169】における「その結果100mlの0.1Mのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。」及び「0.22μMカートリッジフィルター」との記載を,「その結果100mlの20mMのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。」及び「0.22μmカートリッジフィルター」と訂正する。

カ.訂正事項10
特許明細書の段落【0208】の【表2-1】において,下から24行目のピリドキシンHClの下に,「チアミンHCl」を挿入し,下から23行目?下から3行の「グルタミン」から「フォルミン酸」までを1行ずつ繰り下げ,下から3行目の「フォルミン酸」を「葉酸」と訂正する。

キ.訂正事項11
特許明細書段落【0225】(【表17】)の脚注11行目における「5mMグルコース」との記載を「5mMのグルタミン」と訂正する。

2.当事者の主張
(1)請求人の主張
請求人は,口頭審理陳述要領書(第2頁第5行?第4頁第23行)において,以下のとおり訂正要件違反を主張している。
ア.訂正事項1について
任意の形で銀が10μM以上100μM以下含まれ,オーキシン関連成長調節因子,ジャスモン酸又はジャスモン酸エステル,及びその他の培地成分の種類及び量が任意である栄養培地を用い,用いるタキサス種細胞の種及び株が任意である方法が,本件特許明細書に記載されているとは認められない。
よって,訂正事項1は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内で行われたものではなく,特許法第134条の2第5項で準用する第126条第3項の規定に違反する。

イ.訂正事項2について
訂正後の請求項2に係る発明は,増強剤がジャスモン酸メチルであり,銀がチオ硫酸銀以外である場合を含み,この場合は,増強剤に対する銀のモル比が制限されない。一方,訂正前の請求項2に係る発明では,増強剤に対する銀のモル比が「9.5未満」に限定されていたのであるから,訂正事項2は,特許請求の範囲を拡張するものである。
従って,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項及び同条第5項で準用する第126条第4項の各規定に違反する。
ウ.訂正事項3について
訂正後の請求項3に係る発明は,増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀がチオ硫酸銀以外である場合を含み,この場合は,銀に対する増強剤のモル比は制限されない。一方,訂正前の請求項3に係る発明では,銀に対する増強剤のモル比が「少なくとも0.011」に限定されていたのであるから,訂正事項3は,特許請求の範囲を拡張するものである。
従って,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項,及び同条第5項で準用する第126条第4項の各規定に違反する。

エ.訂正事項5について
特許明細書段落【0069】の,4行目の「好ましくは100nM」が「好ましくは少なくとも100μM」に訂正されたが,この文言は,本段落に対応する国際出願時の明細書(本件国際公開公報)の22頁7行の「at least・・・preferably 100nM」に相当するから,「nM」を「μM」とする訂正は誤訳訂正には該当しない。
従って,訂正事項5は,特許法第134条の2第5項で準用する第126条第3項の規定に違反する。

(2)被請求人の主張
被請求人は,平成21年8月27日付の訂正請求のやり直しのための訂正案を提出し,平成21年6月2日付訂正請求書による訂正は,特許庁発行の「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」付録7に記載される「II.訂正請求機会の再付与についての考え方(例外的措置)」における訂正のやり直しが認められるべき理由の「(2)答弁内容と訂正請求とが整合しない場合」に該当するとして,訂正請求のやり直しを求めた。

3.訂正の可否についての当審の判断
(1)特許請求の範囲についての訂正事項
ア.訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1における栄養培地の銀濃度について「900μM以下」という範囲から,訂正後の「10μM以上100μM以下」という範囲に限縮するものである。
そして,訂正前の請求項1には,
「タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,ここで,前記一つ以上の栄養培地は900μM以下の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは,以下の群:a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル,及びb)オーキシン関連成長調節因子から選択される増強剤を含む,前記の方法。」
と記載され,特許明細書の段落【0023】には,
「別の態様においては,本発明は,一つまたはそれ以上の栄養培地における成長および産物形成条件下での懸濁培養でTaxus種の細胞を培養し,および前述の細胞または前述の細胞と前述の培地の両方から1種またはそれ以上のタキサンを回収することを含むTaxus種の細胞培養における高収量のタキサンを生産する方法を提供するが,その際細胞はカルスまたは懸濁培養に由来し,および,栄養培地は,ジャスモン酸またはジャスモン酸のエステルまたはオーキシン関連成長調節因子でありうる少なくとも1種類の増強剤とともに銀含有化合物,または銀錯体,または銀イオンの形態で900μMまたはそれ以下の濃度の銀を含む。好ましい態様においては,増強剤はジャスモン酸またはジャスモン酸のエステルであり,銀の増強剤に対するモル比は9.5未満である。別の好ましい態様においては,増強剤はオーキシン関連成長調節因子であり,銀の増強剤に対するモル比は少なくとも0.011である。」と記載されている。
また,段落【0217】,【0221】-【0227】に記載される実施例では,複数種の銀含有化合物,複数種類の栄養培地,複数種類の株を用いて試験を行ったことが記載され,10μM,20μM,50μM及び100μMという具体的な銀濃度も記載されている。
さらに,本件特許明細書には,銀含有化合物の種類,オーキシン関連成長調節因子の種類,ジャスモン酸又はジャスモン酸エステルの種類,その他の培地成分の種類や量,タキサス種の種類や株によって,銀含有化合物の奏する効果が異なることは記載されておらず,銀濃度の数値範囲についても,これらの条件の相違と何らかの関係を有することを示唆する記載はない。

してみると,訂正前の請求項1に係る発明は,任意の形の銀が含まれ,オーキシン関連成長調節因子,ジャスモン酸又はジャスモン酸エステル,及びその他の培地成分の種類及び量が任意である栄養培地を用いて,任意のタキサス種細胞を培養してタキサンを生産する方法において,900μM以下に含まれる全ての範囲の銀濃度で,銀含有化合物,銀錯体または銀イオンを使用するものとして,本件特許明細書に記載されていたことは明らかである。

したがって,訂正事項1の訂正は,特許請求の範囲の限縮を目的として,900μM以下の銀濃度を,実施例における最小値から最大値までの範囲の濃度に限定したものであり,本件特許明細書に記載された事項の範囲内で行われたものである。また,訂正事項1の訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

イ.訂正事項2について
訂正後の請求項2では,増強剤がジャスモン酸メチルであり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合の増強剤に対する銀のモル比は,訂正前の請求項2に比べて限縮した範囲が記載されているものの,「増強剤がジャスモン酸メチルであり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合,・・・である」という記載からみて,増強剤がジャスモン酸メチルでない場合や,銀含有化合物がチオ硫酸銀でない場合も含まれる記載となっている。
したがって,訂正後の請求項2では,増強剤の種類,及び,増強剤がジャスモン酸メチルであり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合以外についての増強剤に対する銀のモル比の範囲についての特定がなく,それらが特定されている訂正前の請求項2に対して実質上拡張又は変更されている。

ウ.訂正事項3について
訂正後の請求項3では,増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合の銀に対する増強剤のモル比は,訂正前の請求項3に比べて限縮した範囲が記載されているものの,「増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合,・・・である」との記載からみて,増強剤がオーキシン関連成長調節因子でない場合や,銀含有化合物がチオ硫酸銀でない場合も含まれる記載となっている。
したがって,訂正後の請求項3では,増強剤の種類,及び増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合以外についての銀に対する増強剤のモル比の範囲についての特定がなく,それらが特定されている訂正前の請求項3に対して実質上拡張又は変更されている。

エ.訂正事項4について
請求項18,20,22及び25の削除は,特許請求の範囲の限縮に相当する。
また,請求項の削除に伴う,請求項19以下の項番号を付与し直した請求項は,請求項1の従属請求項であるから,訂正事項1と同じ訂正はなされているが,それ以外の事項については,訂正はなされていない。
そして,項番号の記載の訂正は,明瞭でない記載の釈明に相当する。
よって,訂正事項4の訂正は,特許請求の範囲の限縮及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり,本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
また,訂正事項4は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)明細書についての訂正事項
ア.訂正事項5について
本件特許の特許法第184条の19により読み替えて適用される同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項に規定される,特許法第184条の4第1項の国際出願時における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「原文明細書,特許請求の範囲又は図面」という。)における明細書第22頁第4?8行には,
「When silver is incorporated in the medium, it will be added at a concentration of less than 900μM, preferebly less than 500 μM, and more preferbly less than 200μM. When silver is incorporated in the medium, it will be added at a concentration of at least 10nM, preferably 100nM, more preferably 1μM, and typically at 10μM.」
と記載されている。
従って,訂正事項5における訂正前の「以下」,「抗エチレン剤」及び「10nM以上」を,訂正後の「未満」,「銀」及び「少なくとも10nM」と変更し,2箇所の「好ましくは」の後に「少なくとも」を挿入する訂正は,誤訳の訂正を目的としたものと認める。
また,訂正事項5における訂正前の「100nM」の記載を,訂正後の「100μM」として,その単位を「nM」から「μM」に変更する訂正は,誤記又は誤訳の訂正を目的としたものでも,明瞭でない記載の釈明を目的としたものでもない。
しかしながら,この記載については,原文明細書及び訂正前の特許明細書の記載は一致しており,また訂正明細書において「100μM」の部分には,他の訂正箇所について付されている下線が付されていない。
しかも,その前後に記載される「少なくとも10nM」及び「更に好ましくは少なくとも1μM」等の記載から見ても,この箇所は銀濃度を段階的に限定している記載であり,「さらに好ましくは少なくとも1μM」の前に,それより狭い範囲の「少なくとも100μM」が記載されているのは,明らかに文脈と矛盾するから,この箇所は本来訂正を必要とする箇所ではないことは明らかである。
したがって,訂正後の「100μM」は,「100μM」の単なる誤記といえる。
そして,この理解に立てば,訂正事項5の訂正は,原文明細書,請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

イ.訂正事項6?11について
訂正事項6及び7の訂正については,明瞭でない記載の釈明ないし誤訳の訂正を目的とするものであり,訂正事項8の訂正については,誤記の訂正を目的とするものであり,訂正事項9?11については,誤訳の訂正を目的とするものと認める。
そして,訂正事項6?11の訂正は,本件特許の原文明細書,請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正の可否についての結論
よって,本件訂正の可否は,以下のとおりである。
ア.請求項1についての訂正は認め,その訂正に基づく,請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項4?17,19,21,23及び24についての訂正は認める。
イ.請求項2及び3についての訂正は,引用する請求項1の訂正に基づく訂正と,請求項2又は3に記載自体の訂正に基づく訂正とを含む。そして,請求項2又は3の記載自体の訂正については,前記(2)イ及びウのとおり認められない。
そして,平成19年(行ヒ)第318号最高裁判決においても,「特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合」について,一部訂正を原則として否定した最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決の趣旨が妥当するものと述べているように,請求項2又は3についての訂正において,請求項1の訂正に伴う訂正事項のみを許容することはできない。
よって,請求項2及び3についての訂正は,特許法第134条の2第1項の規定に違反するので,引用する請求項1についての訂正事項も含めて,その訂正は認められない。
ウ.請求項18,20,22及び25を削除し,請求項数を21とし,請求項19以降の項番号を18?21と付与し直す訂正を認める。
エ.明細書についての訂正は認める。ただし,訂正後の段落【0069】の「好ましくは少なくとも100μM」の記載は,「好ましくは少なくとも100nM」の誤記と認める。

(4)訂正請求のやり直しについて
「特許庁発行『平成15年改正法における無効審判等の運用指針 平成15年11月』付録7.訂正請求の機会付与に関する運用指針 II.訂正請求機会の再付与についての考え方(例外的措置)(2)答弁内容と訂正請求とが整合しない場合」には,審理の遅延をもたらすおそれがなく,その他一定の要件を満たす場合に限り,訂正請求のやり直しを認めても差し支えないことが記載されている。
しかしながら,本件については,訂正請求のやり直しを認めることにより,請求人が新たな無効理由の主張立証を行わないという見込みは立たず,審理の遅延をもたらすおそれがないとはいえない。
したがって,本件については,訂正請求のやり直しを認めないこととした。

第3.本件発明
「第2.訂正の可否についての判断」において述べたように,平成21年6月2日付訂正請求書による,請求項1,4?25についての訂正及び明細書についての訂正を認め,請求項2及び3についての訂正を認めないので,本件における以下の審理の対象は,上記訂正後の請求項1,4?21,特許時の請求項2及び3(特許時の請求項1を引用するもの),及び訂正後の明細書及び図面である。

したがって,本件の訂正後の請求項1,4?21に係る発明(以下「訂正発明1,4?21」という。)は,平成21年6月2日付訂正請求書により訂正された特許請求の範囲請求項1,4?21に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,
ここで,前記一つ以上の栄養培地は10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは,以下の群:
a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル,及び
b)オーキシン関連成長調節因子
から選択される増強剤を含む,前記の方法。
【請求項4】
一つ以上の栄養培地がタキサン前駆体も含む,請求項1の方法。
【請求項5】
タキサン前駆体がα-フェニルアラニン,β-フェニルアラニン,またはその混合物である,請求項4の方法。
【請求項6】
一つ以上の栄養培地がグルタミンも含む,請求項1の方法。
【請求項7】
一つ以上の栄養培地がグルタミン酸,アスパラギン酸,またはその混合物も含む,請求項1の方法。
【請求項8】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてマルトースを含む,請求項1の方法。
【請求項9】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてスクロースを含む,請求項1の方法。
【請求項10】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてグルコース,フルクトースまたはその混合物を含む,請求項1の方法。
【請求項11】
マルトース,スクロース,グルコース,フルクトースまたはその混合物が一次炭素源である,請求項7の方法。
【請求項12】
栄養培地が培養細胞増殖についてならびにタキソールおよびタキサンの生産について同一である,請求項1の方法。
【請求項13】
一種以上のタキサンの生産が栄養培地の組成を変えることによって誘導される,請求項1の方法。
【請求項14】
タキサン生産の間に少なくとも一度,栄養培地を交換することをさらに含む,請求項13の方法。
【請求項15】
培養段階の間に少なくとも一度,栄養培地を交換することをさらに含む,請求項1の方法。
【請求項16】
タキサン生産の間に培地からタキサンを除去することをさらに含む,請求項1の方法。
【請求項17】
タキサス種の細胞が給餌-バッチ法(fed-batch process)によって培養される,請求項1の方法。
【請求項18】
タキソールが細胞または細胞培養の培地,またはその両者から回収される,請求項1の方法。
【請求項19】
バッカチンIIIが細胞または細胞培養の培地,またはその両者から回収される,請求項1の方法。
【請求項20】
タキサス種が,タキサス ブレビフォリア(T. brevifolia),タキサスカナデンシス(T. canadensis),タキサス チネンシス(T. chinensis),タキサス カスピダタ(T. cuspidata),タキサスバッカタ(T. baccata),タキサスグロボサ(T. globosa),タキサス フロリダナ(T. floridana),タキサス ウォリチアナ(T. wallichiana)またはタキサス メディア(T. media)である,請求項1の方法。
【請求項21】
タキサス種の細胞が,増強剤を含まない培地中のカルス培養または懸濁培養でのELISAによる背景値以上にタキソールを生産する,請求項1の方法。」

また,本件の特許時の請求項2及び3に係る発明(以下「特許発明2及び3」という。)は,本件特許明細書の特許請求の範囲において請求項1を引用して記載された請求項2及び3に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,
ここで,前記一つ以上の栄養培地は900μM以下の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは,以下の群:
a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル,及び
b)オーキシン関連成長調節因子
から選択される増強剤を含む,前記の方法。
【請求項2】
増強剤がジャスモン酸またはジャスモン酸エステルであり,増強剤に対する銀のモル比が9.5未満である,請求項1の方法。
【請求項3】
増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀に対する増強剤のモル比が少なくとも0.011である,請求項1の方法。」

第4.当事者の主張
したがって,以下では,本件訂正発明1,4?21,特許発明2及び3,並びに訂正後の明細書及び図面(以下「訂正明細書及び図面」という。)に対する当事者の主張を検討する。

1.請求人の主張
請求人は,本件特許は,以下の理由により無効とすべきものであると主張している。
無効理由1:
平成19年7月24日付け手続補正書により行った補正(以下「本件補正」という。)は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。

無効理由2:
本件発明(訂正発明1,4?21,並びに特許発明2及び3)は,甲第1号証に記載された発明と同一発明か,あるいは甲第1及び第2号証に記載された発明に基づいて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。

無効理由3:
本件発明(訂正発明1並びに特許発明2及び3(審判請求時に無効とすることが請求された特許時の請求項18,20,22及び25は,訂正により削除された。))は,特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない。

そして請求人は,証拠方法として以下の甲第1号証?甲第11号証を提出している。

甲第1号証:特開平8-56680号公報(1996年3月5日)
甲第2号証:特表平7-506721号公報(1995)
甲第3号証:Biotechnology and Bioengineering, (1994)Vol.44, p.967-971,及びそのアブストラクトの抄訳文
甲第4号証:国際公開第95/02063号(1995),並びにその補正された請求項2及び第11頁23?26行の抄訳文
甲第5号証:米国特許第5451392号明細書(1995),並びにそのアブストラクト及び第5欄25?34行の抄訳文
甲第6号証:Science (1993), Vol.260, No.5105, p.214の要約,及びその抄訳文
甲第7号証:Tetrahedron Letters(1992), Vol.33, No.36, p.5235-5236, 及びそのアブストラクト第26?29行の抄訳文
甲第8号証:Plant Science (1992), Vol.84, p.65-74, 及びそのアブストラクト第1?3行の抄訳文
甲第9号証:化学大辞典2巻(1997),共立出版株式会社,p.769
甲第10号証:Bio Technology (1993), Vol.11, p.731-734, 並びにそのアブストラクト第1?2行及び第731頁第1?5行の抄訳文
甲第11号証:Biotechnology Letters (1995), Vol.17, No.1, p.101-106

2.被請求人の主張
これに対して,被請求人は,証拠方法として以下の乙第1号証?乙第12号証を提出し,本件特許を無効にすることができないと主張している。

乙第1号証:本件特許に係る特許法第184条の5第1項の規定による提出書面およびその添付書類
乙第2号証:Physiologia Plantarum(1962), Vol.15, p.473-497
乙第3号証:Plant Physiol.(1990), Vol.94, p.95-101
乙第4号証:Ventakaraman Bringi博士の宣誓書及びその抄訳文
乙第5号証:Harald Heckenmuller博士の宣誓書及びその抄訳文
乙第6号証:化学辞典(1994),東京化学同人, p.843
乙第7号証:化学大辞典5縮刷版(1989),共立出版, p.843
乙第8号証:The Merck Index, Eleventh Edition, Saturated Solutions(1989), MISC-104-109
乙第9号証:化学大辞典4縮刷版(1989), 共立出版,p.776
乙第10号証:化学大辞典1縮刷版(1989), 共立出版,p.1031-1032
乙第11号証:化学大辞典3縮刷版(1989), 共立出版,p.905-906
乙第12号証:化学大辞典9縮刷版(1993), 共立出版, p.798-799

第5.無効理由1について
1.請求人の主張
請求人は,審判請求書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,以下の主張をしている。
(1)本件特許発明は,栄養培地が900μM以下の銀を含むこと,増強剤に対する銀のモル比を9.5未満にすること,銀に対する増強剤のモル比を少なくとも0.011とすること等を特徴としているが,この技術的特徴を裏付ける表中の銀や増強剤の濃度を「mM」から「μM」に変更することは新規事項の追加であり,認められない。なお,タイプミスとか優先権明細書に記載されているといったことは,適法な補正の理由とならない。(審判請求書,第6頁下から3行?第8頁第20行)

(2)被請求人は,答弁書において,「銀については,0169段落に以下の記載がある。……20mMのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。……そして,20mMを培地中に直接薄めて使用しているから,それより濃い100mMなどの数値がありようはずがない。」と述べている(第15頁第6行?下から第3行)。
しかし,チオ硫酸銀貯蔵溶液を培地で希釈して用いた実験の結果は表11に示されており,その実験方法は表10に記載された実験の方法と同様なのであるから,この貯蔵溶液は表11に示される実験でのみ使用されたものである。従って,チオ硫酸銀貯蔵溶液濃度と培地中のチオ硫酸銀濃度とを比較した被請求人の主張は,表10,表13?表15,及び表17のチオ硫酸銀濃度が誤記である理由にはならない。
また,表10には,銀化合物としてチオ硫酸銀以外の化合物が8種記載されているが,これらの銀化合物の濃度が誤記であるとする根拠も示されていない。
さらに,表11のチオ硫酸銀濃度に関しても,そもそも,チオ硫酸銀貯蔵溶液の濃度が正しくて,表11に記載のチオ硫酸銀濃度が誤りであるとする根拠がない。
よって,国内書面の表10,表11,表13?表15,及び表17に記載された銀又は銀化合物の濃度が誤記であるとはいえない。(口頭審理陳述要領書,第12頁第4行?最終行)

(3)α-ナフタレン酢酸の濃度の補正について,被請求人は,答弁書において,「α-ナフタレン酢酸濃度について,「0047段落および0070段落においても,最大の範囲で10^(-10)と10^(-3)との間で使用されると記載されており,1mMを含む1mM以上の濃度の使用は想定されていない。」と述べている。しかし,「10mM」及び「20mM」という記載自体,明確な意味をなしている。また,発明の詳細な説明に記載された「好ましい濃度範囲」が誤っているのか,実施例に記載された濃度が誤っているのかは分らないのであるから,実施例に記載された濃度が誤記であるとの主張は失当である。
チジアズロン,ゼアチン,ジャスモン酸,ジャスモン酸メチル,3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸,及びインドール酪酸の濃度の補正についても,α-ナフタレン酢酸と同様である。(口頭審理陳述要領書,第13頁第1行?第16頁第4行)

2.被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,以下の主張をしている。
(1)銀について
本件特許明細書の段落【0169】には以下の記載がある。
「・・・チオ硫酸銀の調製のために使われる方法は以下であった:1.98gのチオ硫酸ナトリウム(5水和物)は80mlの水に溶解された。いきおいよく全体をかき回して20mlの0.1M硝酸銀溶液が加えられ,その結果100mlの20mMのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。・・・その貯蔵溶液は所定の実験の開始時に細胞培養培地のなかへ0.22μmカートリッジフィルターを用いて滅菌濾過された。・・・」
そして,20mMを培地中に直接薄めて使用しているから,それより濃い100mMなどの数値はありようはずがない。
かろうじて薄い10mMの数値は,貯蔵溶液の濃度20mMより「薄まっている」が,本件明細書の段落【0167】に記載されるように,表10に示された組成の培養培地が使用されているところ,20mMの貯蔵溶液から,終濃度10mMの溶液を作成するということは,すなわち,他の成分の濃度が半分に希釈されることとなるが,そのような実験は系統的な実験として通常許容されないものであることから,銀の濃度を10mMと解釈することもありえない。
また,銀の原液は,「貯蔵溶液は所定の実験の開始時に細胞培養培地のなかへ0.22μmカートリッジフィルターを用いて滅菌濾過され」ているという記載から,せいぜい1000分の1程度の量の貯蔵溶液の添加を意図して実験が設計されていることは明らかであり,終濃度がμMの範囲に収まることは当業者の技術常識から明らかである。
したがって,表中の銀イオンはいずれも正しくはμMであるべきことは技術常識および明細書の実験手法の記載から当然であり,銀濃度について,補正後の記載がμMとなっていることは,新規事項の追加に該当しない。(答弁書,第15頁第5行?第17頁第3行)

(2)αナフタレン酢酸,チジアズロン,ゼアチン,インドール酪酸について
技術常識において,αナフタレン酢酸,チジアズロン,ゼアチン,インドール酪酸などの成長因子は,通常μM前後の範囲で使用されるものであり,mMのオーダーでは使用されず,特許明細書の0070段落においても,最大濃度の範囲で10^(-10)Mと10^(-3)Mとの間で使用されると記載されている。このことは,本件特許出願優先日前の技術常識を示す文献(乙第2号証)からも明らかである。
したがって,表10?15及び17において記載された成長因子の単位がμMであるべきことは,技術常識から当然であることが理解され,また,本件特許明細書の0047段落,0070段落及び表2の内容とも齟齬しない。
したがって,成長因子の濃度について,補正後の記載がμMとなっていることは,本件特許明細書の記載及び技術常識に照らし,新規事項の追加に該当しないことは明白である。(答弁書,第17頁第4行?第19頁第9行,第21頁第8?20行)

(3)ジャスモン酸及びジャスモン酸メチルについて
ジャスモン酸関連化合物の使用濃度としては,本件特許明細書の0079段落において,10^(-6)と5×10^(-4)Mの間,すなわち1μMと500μMの間,さらに好ましくは10^(-5)と2×10^(-4)Mの間,すなわち10μMと200μMの間で培地に含ませると記載しており,本件特許明細書において想定されるジャスモン酸関連化合物の使用濃度は数十μMレベルであることが理解される。
ここで,表12,表14,表15,表16b及び表17に記載されるジャスモン酸又はジャスモン酸メチルの数値は18,45,89,100及び200であるから,本件特許明細書の記載に基づけば,その適切な単位はμMであることが当然に理解される。
よって,ジャスモン酸及びジャスモン酸メチルの濃度の単位がμMであるべきことは,一般常識を考慮しても当然に導きだされるものであり,本件特許明細書の0022段落,0079段落及び表2の内容とも齟齬しない。
したがって,ジャスモン酸及びジャスモン酸メチルの濃度について,補正後の記載がμMとなっていることは,本件特許明細書の記載及び一般常識を含む技術常識に照らし,新規事項の追加に該当しない。(答弁書,第19頁第10行?第20頁第17行)

(4)3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸(MDNA)について
MDNAは,本件特許明細書0021段落,0073段落に記載されるように,フェニルプロパノイド代謝の阻害剤であり,0073段落には,「更に好ましくは濃度が1ppmと50ppmのあいだで加える。」と記載されている。
MDNAの分子量は237であるから,10ppmは42.1μMに相当し,この濃度は,数十μMの範囲であることが理解される。
ここで,表13,表14,表15,表17に記載される数値は,30,40及び50であるから,これらの数値の単位は,μMであるべきことは当然に理解される。
また,フェニルプロパノイド代謝の阻害剤として知られる3,4-メチレンジオキシ桂皮酸は,100μMレベルで使用されることが知られている(乙第3号証)から,技術常識とも齟齬しない。
したがって,MDNAの濃度について,補正後の記載がμMとなっていることは,本件特許明細書の記載及び技術常識に照らし,新規事項の追加に該当しない。(答弁書,第20頁第18行?第21頁第7行)

(5)請求人の主張に対する反論(上申書,第6頁第10行?第11頁第26行)
ア.請求人は,0169段落に記載されるチオ硫酸銀の貯蔵溶液調整方法は表11に示される実験でのみ使用されたものであると主張する。
しかし,本件明細書の0169段落に記載されるように,チオ硫酸銀溶液の貯蔵溶液の調整方法を詳細に記載しているのは,チオ硫酸銀が「水にほとんど不溶」であるため(乙第6号証),異なる調整法を用いて貯蔵溶液を調整した場合には,濃度などが異なる貯蔵溶液を調整してしまう可能性があるためである。
そのため,実験間のデータの比較をするためにも,同一の貯蔵溶液の調整方法を用いることが常識であり,万一,異なる調整方法を用いるのであれば,その異なる調整方法について明細書中に詳細に記載したはずであるが,本件明細書に記載されるチオ硫酸銀の調整方法は0169段落のみであるから,本件明細書の記載から,チオ硫酸銀の調整方法として使用された方法は0169段落に記載の方法のみであるということが理解できる。
さらに,表11の実験は,表10の結果に基づいて細胞株間の変動をみた実験であることから,銀濃度を「mM」から「μM」へと1000分の1に減少させることは非常識であり,常識的に考えても,細胞株以外のパラメーターであるチオ硫酸銀濃度を変化させずに実験を行ったと考えられる。
上記と同様の理由により,他の表13?15及び17についても同一濃度のチオ硫酸銀を追加した実験であると,当然に考えられる。

イ.請求人は,表11のチオ硫酸銀濃度に関しても,チオ硫酸銀貯蔵溶液の濃度が正しくて,表11に記載のチオ硫酸銀濃度が誤りであるとする根拠がないと主張している。
しかしながら,仮に,補正前の表における単位が正しく,表以外の記載において単位に誤記があったとすると,チオ硫酸銀貯蔵溶液の濃度が本来「20M」もの高濃度であるべきところ,チオ硫酸ナトリウム,硝酸銀の溶解度(乙第7?9号証)からすると,チオ硫酸銀の調整できる濃度は「20M」には満たないから,0169段落に記載されるチオ硫酸銀貯蔵溶液の調整方法が誤りであり,表11に記載のチオ硫酸銀濃度が正しいということは,化学的にあり得ない。

ウ.請求人は表10に記載されるチオ硫酸銀以外の銀化合物の濃度が誤記であるとする根拠も示されていないと主張しているが,表10において凡例として記載されるチオ硫酸銀の濃度がμMでしかあり得ないのであるから,他の銀塩の濃度もまた「μM」でしかあり得ないと考えるのが自然である。
塩化銀,酸化銀,リン酸銀の溶解度(乙第10?12号証)からしても,「mM」レベルの濃度の銀溶液を用いる実験は不可能であるから,技術常識からは,表10の数値は,チオ硫酸銀のみならず,他の銀化合物についてもμMと考える外はない。

3.当審の判断
(1)補正の内容
まず,本件の特許法第184条の12第2項の規定において読み替えて適用される同第17条の2第3項の同第184条の4第1項の国際出願日における同第184条の3第2項の国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の同第184条の4第1項の翻訳文(以下「当初明細書」という。)における表10?15及び17には以下の事項が記載されていた。

表10:


表11:



表12:


表13:


表14脚注:
「a全ての組み合わせのための培養培地は表2においての培地Nであった。培地Nに加えて,培養培地Iは10mMのナフタレン酢酸(NAA),3mMのthidiazuron(TDZ),50mMの3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸(MDNA),89mMのジャスモン酸メチル(MJS),および50mMのチオ硫酸銀(SLTS)を含有した。培地Nに加えて,培養培地IIは10mMのNAA,1mMのTDZ,50mMのMDNA,89mMのMJS,10mMのSLTS,および追加で98.5mg/Lの(一塩基の)りん酸ナトリウムを含有した。培地Nに加えて,培養培地IIIは10mMのインドール酪酸,3μMのTDZ,30mMの3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸,89mMのMJS,および50mMのSLTSを含有した。培地Nに加えて,培養培地IVは10mMのNAA,89mMのMJS,100mMのSLTS,および5mMのグルタミンを含有した。培地Nに加えて,培養培地Vは10mMのNAA,89mMのMJS,および50mMのSLTSを含有した。培地Nに加えて,培地VIは10mMのNAA,1mMのTDZ,50mMのMDNA,18mMのMJS,50mMのSLTS,および5mMのグルタミンを含有した。」

表15脚注:
「aこれらの培養条件のための培養培地は表2においての培地Nであった。培地Nに加えて,培養培地Iは10mMのナフタレン酢酸(NAA),1mMのthidiazuron(TDZ),50mMの3,4-メチレンジオキシニトロ桂皮酸(MDNA),18mMのジャスモン酸メチル(MJS),および10mMのチオ硫酸銀(SLTS)を含有した。培地Nに加えて,培養培地IIは10mMのNAA,1mMのTDZ,50mMのMDNA,89mMのMJS,10mMのSLTS,および5mMのグルタミン酸(1カリウム塩)を含有した。培地Nに加えて,培養培地IIIは10mMのNAA,2.5mMのゼアチン,30mMのMDNA,89mMのMJS,および50mMのSLTSを含有した。
b繰り返された増加は,実施例14において記載された培地交換により達成された。
c明細書に記載された培養培地のもとで所定の細胞系統により生産された有力な産物は記載された;全タキサン生産が記載されてある,細胞系統SS45-146をのぞいては,有力な産物でないタキサンもまたそれぞれの場合において生産された。
dバッチ培養の生産濃度は細胞外濃度,すなわち,細胞外培地において測定されたタキサン割る細胞外培地の体積の量に当てはまる。培地交換により繰り返された増加のために,それぞれの培地交換後の生産濃度は細胞外培地において測定されたタキサンの全量割る懸濁液の体積に当てはまる。
e平均生産性体積は生合成能力の一つの指標である;平均生産体積は全産物割る懸濁液の体積,およびさらに割る保温培養の継続時間として定義される。」

表17脚注:
「a主要な炭素源がこの説明文において記載されたほかの供給源によりおきかわった全ての組み合わせのための培養培地は培地N(表2)であった。培養培地Iはスクロースの代わりに100g/Lのマルトースを含有し,およびさらに,20mMの1-ナフタレン酢酸(NAA),40mMの3,4-メチレンジオキシニトロ桂皮酸(MDNA),45mMのジャスモン酸メチル(MJS),100mMのチオ硫酸銀(SLTS),および5mMのグルタミンを含有した。培養培地IIはスクロースの代わりに50g/lのマルトースを含有し,およびさらに,10mMのNAA,40mMのMDNA,100mMのMJSおよび75mMのSLTSを含有した。培養培地IIIはスクロースの代わりに50g/Lのマルトースを含有し,およびさらに,20mMのNAA,40mMのMDNA,45mMのMJS,100mMのSLTS,および5mMのグルコースを含有した。培養培地IVはスクロースの代わりに50g/lのラクトースを含有し,およびさらに,20mMのNAA,40mMのMDNA,45mMのMJS,100mMのSLTS,および5mMのグルタミンを含有した。培養培地Vはスクロースの代わりに40g/lのガラクトースを含有し,およびさらに,20mMのNAA,40mMのMDNA,45mMのMJS,100mMのSLTS,および5mMのグルタミンを含有した。培養培地VIはスクロースの代わりに70g/Lのマルトースを含有しおよびさらに,20mMのNAA,40mMのMDNA,45mMのMJS,100mMのSLTS,および5mMのグルタミンを含有した。
b新鮮な重量濃度は26%(w/v)であった。」

そして,平成19年7月24日付手続補正により,これらの記載箇所に含まれる,チオ硫酸銀等の銀含有化合物,α-ナフタレン酢酸,チジアズロン,ゼアチン,インドール酢酸,ジャスモン酸,ジャスモン酸メチル及び3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸についての全ての「mM」という濃度の単位が,「μM」に補正され,その補正がなされた出願について特許がされた。

(2)当初明細書の記載事項
一方,当初明細書には,各成分の使用濃度に関して,以下の記載がある。
ア.「抗エチレン剤は培地に10ppbから1000ppmの程度で含有させることが可能である。培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が900μM以下,好ましくは500μM以下,更に好ましくは200μM以下になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合,抗エチレン剤は濃度が10nM以上,好ましくは100nM,更に好ましくは1μM,及び一般的には10μM添加する。」(当初明細書第21頁第6?10行(公表公報(特表2000-511420号)第26頁第6?10行))

イ.「本発明において想定される増強剤は,植物成長調節剤,特にオーキシン,オーキシン様の活性を持つ化合物,及びオーキシン拮抗剤を含むオーキシン関連成長調節剤を含む。オーキシン関連成長調節剤は,一般的には濃度が10^(-10)Mと10^(-3)Mの間で,好ましくは10^(-8)と10^(-5)の間で培地に含ませる。最も好まれるオーキシン関連成長調節剤の例は,1-ナフタレン酢酸,2-ナフタレン酢酸・・・」(当初明細書第21頁第11?15行(公表公報第26頁第11?15行))

ウ.「他の種別の植物成長調節剤も増強剤として栄養培地に含ませることが可能である。これらは,N6-ベンジルアデニン,6-[γ,γ-ジメチルアリルアミノ]プリン,キネチン,ゼアチン,N-フェニル-N'-1,2,3-チジアゾール-5-イル尿素(チジアズロン),及び関連フェニル尿素誘導体,及びその類似物等の,サイトカイニン関連成長調節剤,GA3,GA4,GA7,及びGA誘導体等のジベレリン類,アブシジン酸及びその誘導体,ブラシノステロイド,及びエチレン関連成長調節剤を含む。これらの成長調節剤は濃度が10^(-10)Mと10^(-3)Mの間で,好ましくは10^(-8)と10^(-5)の間で培地に含ませることが可能である。」(当初明細書第23頁第10?17行(公表公報第28頁第10?17行))

エ.「他の種の増強剤は阻害剤である。阻害剤は酵素性または他の細胞性活性を阻害する化合物である。本明細書で使用する「代謝阻害剤」という用語は,栄養培地に加えられ,特定の生合成経路を阻害する化合物を示すために使用される。例えば,代謝阻害剤は,初期の生合成前駆体に関し競合する種々の経路を阻害することにより,タキソール,バッカチンIII,または他のタキサン生合成を増強するために使用することが可能である。この種の特に効果的な増強剤は,桂皮酸またはその誘導体の合成または代謝を阻害することが可能な化合物であるフェニルプロパノイドの代謝阻害剤を含む。これら化合物は,好ましくはp-クマル酸,・・・及び最も好ましくは,3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸,・・・及び1-アミノベンゾトリアゾール,及び関連類似物質を含む。培地に含ませる場合,阻害剤は濃度が10ppbと1000ppmの間で,好ましくは濃度が100ppbと100ppmの間で,更に好ましくは濃度が1ppmと50ppmのあいだで加える。」(当初明細書第23頁第26行?第24頁第27行(公表公報第28頁第26行?第29頁第27行))

オ.「ジャスモン酸関連化合物は二次的代謝生合成を刺激することによりエリシター効果反応に寄与する種別の化合物である。ジャスモン酸関連化合物は,ジャスモン酸,及びメチルジャスモン酸,・・・及びその関連誘導体及び類似物質を含む。ジャスモン酸関連化合物は濃度が10^(-9)Mと10^(-3)Mの間で,好ましくは濃度が10^(-5)と5×10^(-4)Mの間で,更に好ましくは濃度が10^(-5)Mと2×10^(-4)Mの間で培地に含ませる。」(当初明細書第26頁第11?24行(公表公報第31頁第11?24行))

カ.「細胞系の特徴を評価する生産培養は適した増強剤を含む。一般的には六種の選択的増強カクテル(最高五種の増強剤の組み合わせ)を各々の細胞系に対し試験する。組み合わせは以下の表Aに示す。」(当初明細書第29頁第20?22行(公表公報第34頁第20?22行))

キ.「表A 増強カクテル
増強剤の組み合わせ
1.20μM Naa+30μM Mdna
2.20μM Naa+30μM Mdna+50μM Slts
3.20μM Naa+30μM Mdna+89μM Mjs
4.20μM Naa+30μM Mdna+89μM Mjs+50μM Slts
5.20μM Naa+30μM Mdna+89μM Mjs+50μM Slts+5mM Gln
6.20μM Naa+89μM Mjs+50μM Slts
Gln=グルタミン
Naa=1-ナフタレン酢酸
Mdna=3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸
Mjs=ジャスモン酸メチル
Slts=チオ硫酸銀」(当初明細書第30頁第7?19行(公表公報第35頁第7?19行))

ク.「実施例10:
10.1 銀の使用のタキサン生産の増加
銀,化合物を含む銀の形態において,銀混合体,あるいは銀イオンは,Taxus種の細胞培養においてのタキソール,バッカチンIII,およびタキサン生合成の有用な増加因子であることが発見された。銀およびほかの増加因子の組み合わせもまたタキサン生産の高い割合の獲得および維持においては有用であることが発見された。
培地L(表2)において培養されたKS1A Taxus chinensis懸濁液の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。15%から20%(w/v)の範囲において新鮮な細胞の濃度を与えるため,約0.75から1グラム重量の新鮮な細胞は表10において示された所定の組成物の培養培地の4から5mlへ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて110rpmで旋回撹拌器(1”throw)で25プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ,および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
表10において要約されたデータはタキソール,バッカチンIII,およびほかのタキサンの生産は化合物を含むいろいろな銀によりうまく増加させられるということを指し示す。化合物および異なる逆イオンを含む異なる銀の多様性の増加を示している表10において説明したように,この増加は第一に培地にある銀の存在に帰する。これらの生産の濃度は増加されない培養において観察された生産の濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりも重大に高い。
10.2 チオ硫酸銀の使用のタキサン生産の増加
毒性の考慮および調製物および保管の容易に基づくと,チオ硫酸銀は二次的な実験において使用される。チオ硫酸銀の調製のために使われる方法は以下であった:1.98gのチオ硫酸ナトリウム(5水和物)は80mlの水に溶解された。いきおいよく全体をかき回して20mlの0.1M硝酸銀溶液が加えられ,その結果100mlの0.1Mのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。チオ硫酸カリウムは同等の効果のある結果をもつチオ硫酸ナトリウムの適所に使用されることも可能であった。その貯蔵溶液は所定の実験の開始時に細胞培養培地のなかへ0.22μMカートリッジフィルターを用いて滅菌濾過された。チオ硫酸銀溶液と同様なもう一つの調製方法もまた適合される。細胞培養実験計画案は表10において記載された実験のために記載されたものと同様であった。
表11はTaxus chinensisの異なる多くの細胞培養の一つの増加因子として銀の使用により獲得されたデータを要約した。これらのデータは銀は一般的にタキサン生合成の基本的な増加をもたらすということを示す。いかなる所定の場合において観察された特別な産物の側面は細胞の系統および培養培地の特性を反映する。銀イオン/混合体は成長調節,炭素源,塩,微量元素,およびそのようなものなどの生合成の好む培地においてはほかの因子と組み合わせにおいて使用されるときタキサン生産の増加においてとくに効果的だろう。」(当初明細書第48頁第3行?第49頁第16行(公表公報第52頁最終行?第54頁第13行))

(3)銀について
当初明細書の記載事項アによれば,本件発明における銀の使用濃度は,「銀は濃度が900μM以下,好ましくは500μM以下,更に好ましくは200μM以下になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合,抗エチレン剤は濃度が10nM以上,好ましくは100nM,更に好ましくは1μM,及び一般的には10μM添加する。」というものである。
そして,記載事項クには,実施例10.2では,1.98gのチオ硫酸ナトリウム(5水和物)80mlと20mlの0.1M硝酸銀溶液を混合して得られた100mlチオ硫酸銀の貯蔵溶液を用いて試験を行い,その結果を表11に示したことが記載されている。
ここで,記載事項クにおける「0.1Mのチオ硫酸銀貯蔵溶液」との記載は,0.1M硝酸銀溶液を,チオ硫酸ナトリウムと混合することにより,5倍に希釈して調整していることから,貯蔵溶液の銀濃度は「20mM」の誤記であると認める。
そして,この実施例では,この貯蔵溶液を培養培地に添加して用いるのであるから,培養培地中の銀の最終的な濃度が20mMより少なくなることは,自明である。
さらに,乙第6?12号証に記載されるように,チオ硫酸ナトリウム,硝酸銀,塩化銀,酸化銀及びリン酸銀の溶解度が低く,チオ硫酸ナトリウムと硝酸銀を加えて生成されるチオ硫酸銀では20Mの濃度の溶液は作れないこと,塩化銀,酸化銀及びリン酸銀についても,せいぜい数十?数百μMの濃度の溶液しか作れないことは,本願出願時当時の技術常識であったといえる。

一方,本件補正前の表10,11,13?15及び17に記載される銀濃度は,10mM?100mMの範囲が記載されており,本件発明で意図する銀の使用濃度が「900μM以下」という範囲と矛盾する。
また,表11については,銀濃度が「50mM」と記載され,使用した銀貯蔵溶液よりも濃度が高くなっており,記載事項ク及び上記技術常識とも明らかに矛盾する。
さらに,表11以外の銀濃度についても,表11と同じ銀貯蔵溶液を用いて調整したか否かは不明であるものの,記載事項ア及び上記技術常識からみて,10mM?100mMという濃度は,高すぎる値であるといえる。
したがって,本件補正前の表10,11,13?15及び17に記載される銀濃度には,明細書の記載事項ア及びク並びに技術常識に照らして,誤記があることは明らかである。

しかしながら,これらの誤記が,本来「μM」とすべきところを「mM」と記載したものであるのか,あるいは桁の誤り等の数値自体の誤記であるのかは不明である。
また,記載事項キには,表Aとして増強剤の組み合わせが記載され,チオ硫酸銀を「50μM」で添加することが例示されているけれども,表Aと同じ増強剤の組み合わせとなる実施例は表10,11,13?15及び17には記載されていないから,記載事項キは,これらの誤記について,単位の「mM」のみを「μM」に補正する根拠とはならない。
さらに,記載事項アにあるように,本件発明における銀濃度の下限として記載されているのは,「10nM以上」であるのだから,これらの誤記が,具体的数値は正しく,単位のみの誤記であったとしても,その正しい単位の記載が,「μM」であったのか,「nM」であったのかも不明である。
そして,本件出願日当時の技術常識からみて,タキサス種の細胞培養において,μMオーダーの銀を添加して培養することが自明であるともいえない。
したがって,本件補正前の表10,11,13?15及び17に記載される全ての銀濃度の「mM」を,「μM」に変更する補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。

(4)αナフタレン酢酸,チジアズロン,ゼアチン及びインドール酪酸について
当初明細書の記載事項イ及びウによれば,本件発明におけるαナフタレン酢酸等のオーキシン関連成長調節剤及びチジアズロン等のサイトカイニン関連成長調節剤の使用濃度は,「10^(-10)Mと10^(-3)Mの間で,好ましくは10^(-8)と10^(-5)の間」,すなわち「100pM?1mMの間,好ましくは10nM?10μMの間」というものである。
そして,成長調節剤をμMオーダーで使用することは,乙第2号証及び乙第3号証にも記載されているが,これらの文献を引用するまでもなく,成長調節剤が通常「mM」のオーダーという高濃度で培地に添加されるものではないことは,植物細胞培養の技術分野における技術常識といえる。

一方,当初明細書の表10?15及び17に記載される成長調節剤の濃度は,1?50mMの範囲であるから,記載事項イ及びウ並びに上記技術常識と明らかに矛盾する。
したがって,本件補正前の表10?15及び17に記載される成長調節剤の濃度が誤記であることは,明らかである。
しかしながら,銀濃度と同様に,これらの誤記は,単位のみの誤記であるのか,あるいは桁の誤り等の数値自体の誤記であるのかは不明である。
また,記載事項キには,表Aとして増強剤の組み合わせが記載され,成長調節剤をμMオーダーで添加することが例示されているけれども,表Aと同じ増強剤の組み合わせとなる実施例は表10?15及び17には記載されていないから,記載事項キは,これらの誤記について,単位の「mM」のみを「μM」に補正する根拠とはならない。
さらに,数値に誤記がなかったとしても,記載事項イ及びウに記載されるように,本件発明における成長調節剤の使用濃度の下限は,「100pM」であるから,その正しい単位が,「μM」であったのか,「nM」又は「pM」であったのかも不明である。
そして,本件出願日当時の技術常識からみて,タキサス種の細胞培養において,μMオーダーの成長調節剤を添加して培養することが自明であるともいえない。

被請求人が提出する乙第2号証には,0.2mg/lのIAAが使用されたことは記載されているが,ナフタレン酢酸については,0.05?0.2mg/lがカルスの成長にとって良好であったこと(第489頁第2?6行),カイネチンについても,0.04?10mg/lの範囲で使用したこと(第485頁表B及び第489頁図13)が記載されている。そして,ナフタレン酢酸の分子量は186.21であるから,ナフタレン酢酸の0.05?0.2mg/lは,約268nM?1.07μMであり,カイネチンの分子量は215.21であるから,カイネチンの0.04?10mg/lは,約185nM?46.5μMである。
すなわち,乙第2号証には,成長調節剤がnMオーダー又はμMオーダーで使用されることが記載されており,成長調節剤が常にμMオーダーで使用されるという技術常識を示す文献とはいえず,このことは,当初明細書の記載事項イ及びウとも齟齬しない。
したがって,本件補正前の表10?15及び17に記載される成長調節剤の濃度の「mM」を「μM」に変更する補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。

(5)ジャスモン酸及びジャスモン酸メチルについて
当初明細書の記載事項オによれば,本件発明におけるジャスモン酸関連化合物の使用濃度は,「10^(-9)Mと10^(-3)Mの間で,好ましくは濃度が10^(-5)と5×10^(-4)Mの間で,更に好ましくは濃度が10^(-5)Mと2×10^(-4)Mの間」,すなわち「1nMと1mMの間,好ましくは10μMと500μMの間,更に好ましくは10μMと200μMの間」というものである。
一方,当初明細書における表12,14,15及び17に記載されるジャスモン酸関連化合物の濃度は,18?200mMであり,記載事項オの説明と矛盾する。
そして,本件出願日当時に,タキサス種の細胞培養において,μMオーダーのジャスモン酸関連化合物を添加して培養することが技術常識であったともいえない。
してみると,当初明細書において,ジャスモン酸関連化合物の使用濃度について,誤記があることは明らかであるが,表12,14,15及び17に記載される濃度が誤記であるのか,その他の記載箇所における濃度が誤記であるのかは,不明である。
また,表12,14,15及び17に記載される濃度が誤記であったとしても,その数値には誤記がなく,単位のみが誤記であるのか,あるいは桁の誤り等の数値自体の誤記であるのかは不明であり,記載事項キが補正の根拠とならないことは,銀濃度等と同様である。
さらに,単位のみが誤記であったとしても,記載事項オに記載される本件発明のジャスモン酸関連化合物の使用濃度の下限は,「1nM」であるから,その正しい単位が「μM」であったのか,「nM」であったのかも不明である。
したがって,表12,14,15及び17に記載されるジャスモン酸関連化合物の濃度の「mM」を「μM」に変更する補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。

(6)3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸(MDNA)について
当初明細書の記載事項エによれば,本件発明におけるMDNA等のフェニルプロパノイド代謝阻害剤の使用濃度は,「10ppbと1000ppmの間で,好ましくは濃度が100ppbと100ppmの間で,更に好ましくは濃度が1ppmと50ppmのあいだ」である。
ここで,MDNAの分子量は237であり,10ppmは42.1μMに相当するから,記載事項エに記載される本件発明におけるMDNAの使用濃度は,「42.1nMと4.21mMの間,好ましくは421nMと421μMの間で,更に好ましくは4.21μMと210.5μMの間」というものである。
一方,当初明細書の表13?15及び17に記載されるMDNAの濃度は,30?50mMであり,記載事項エの説明と矛盾する。
しかし,本件出願日当時において,タキサス種の細胞培養において,μMオーダーでフェニルプロパノイド代謝阻害剤を添加して培養することが,技術常識であったともいえない。
被請求人は,乙第3号証をフェニルプロパノイド代謝阻害剤の技術常識を示す文献として提示しているが,乙第3号証は,バニラ(Vanilla planifolia)の細胞培養によるバニリン酸生産におけるフェニルプロパノイド代謝阻害剤の効果を研究した文献であって,タキサス種とは異なる植物であり,生産物も全く異なるものであるから,タキサス種の細胞培養によるタキソール生産時のフェニルプロパノイド代謝阻害剤の使用濃度についての技術常識を示す文献とはいえない。
してみると,当初明細書において,MDNAを含むフェニルプロパノイド代謝阻害剤の濃度について誤記があることは明らかであるが,表13?15及び17に記載されるMDNAの濃度が誤記であるのか,その他の記載箇所における濃度が誤記であるのかは,不明である。
また,表13?15及び17に記載される濃度が誤記であったとしても,単位のみの誤記であるのか,あるいは桁の誤り等の数値自体の誤記であるのかは不明であり,記載事項キが補正の根拠とならないことは,銀濃度等と同様である。
さらに,単位のみの誤記であったとしても,記載事項エに記載される本件発明におけるフェニルプロパノイド代謝阻害剤の使用濃度の下限は,「42.1nM」であるから,その正しい単位が「μM」であったのか,「nM」であったのかも不明である。
したがって,表13?15及び17に記載されるMDNAの濃度の「mM」を「μM」に変更する補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。

(7)小括
したがって,本件の平成19年7月24日付け手続補正書により行った補正は,特許法第184条の4第1項の国際出願日における同法第184条の3第2項の国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の同法第184条の4第1項に規定する翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の同項の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願における図面(図面の中の説明を除く。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,本件特許は平成14年改正前特許法第184条の12第2項において読み替えて適用される同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり,同法第123条第1項第1号に該当する。

第6.無効理由2について
1.甲号証
甲第1号証?甲第8号証,甲第10号証及び甲第11号証には,以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証
ア.「【請求項1】タキサン型ジテルペンを産生する植物の組織及び/又は細胞を,重金属を含む化合物類,重金属を含む錯イオン類,及び重金属イオンよりなる群から選ばれた少なくとも一つの存在下に培養し,得られる培養物及び/又は培地からタキサン型ジテルペンを回収することを特徴とするタキサン型ジテルペンの製造方法。」(請求項1)

イ.「【請求項2】 重金属が,銀であることを特徴とする請求項1記載のタキサン型ジテルペンの製造方法。」(請求項2)

ウ.「【請求項7】 銀を含む化合物類,銀を含む錯イオン類,又は銀イオンの濃度が,10^(-8)M?10^(-1)Mであることを特徴とする請求項2記載のタキサン型ジテルペンの製造方法。」(請求項7)

エ.「本発明は,卵巣癌,乳癌,肺癌等の治療薬として有用であるタキソールを含むタキサン型ジテルペンの製造法に関する。」(【0001】段落)

オ.「本発明者らは,鋭意研究の結果,タキサン型ジテルペンを産生する植物の組織及び/又は細胞を,重金属を含む化合物類,重金属を含む錯イオン類,及び重金属イオンよりなる群から選ばれた少なくとも一つの存在下に培養を行うと,タキサン型ジテルペンの生産性が向上することを見いだし,本発明を完成するに至った。」(【0006】段落)

カ.「以下,本発明を詳細に説明する。本発明の製造方法の対象となるタキサン型ジテルペンとしては,タキサン骨格を有するジテルペンであれば特に制限はなく,例えばタキソール,10-デアセチルタキソール,7-エピタキソ-ル,バッカチンIII,10-デアセチルバッカチンIII,7-エピバッカチンIII,セファロマニン,10-デアセチルセファロマニン,7-エピセファロマニン,タキサギフィン及びその類縁体,タキサン1a及びその類縁体,キシロシルセファロマニン,キシロシルタキソール等が挙げられる。」(【0008】段落)

キ.「本発明の組織培養に用いられるタキサン型ジテルペンを産生する植物としては,例えばセイヨウイチイ(Taxus baccata LINN),イチイ(T. cuspidata SIEB.etZUCC),キャラボク(T. cuspidata SIEB.et ZUCC var. nana REHDER),タイヘイヨウイチイ(T. brevifolia NUTT),カナダイチイ(T. canadiensis MARSH),中国イチイ(T. chinensis),T.media等のイチイ属植物を挙げることができる。」(【0009】段落)

ク.「これら培地に植物ホルモンを添加し,更に必要に応じて炭素源,無機成分,ビタミン類,アミノ酸等を添加することもできる。炭素源としては,シュクロース,マルトース,ラクトース等の二糖類,グルコース,フルクトース,ガラクトース等の単糖類,デンプンあるいはこれら糖源の2種類以上を適当な比率で混合したものを使用できる。」(【0018】段落)

ケ.「植物ホルモンとしては,例えばインドール酢酸(IAA),ナフタレン酢酸(NAA),2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)等のオーキシン類,カイネチン,ゼアチン,ジヒドロゼアチン等のサイトカイニン類が用いられる。ビタミン類としては,例えばビオチン,チアミン(ビタミンB1),ピリドキシン(ビタミンB6),パントテン酸,イノシトール,ニコチン酸等が用いられる。
アミノ酸類としては,例えばグリシン,フェニルアラニン,ロイシン,グルタミン,システイン等を添加できる。一般に前記の各成分は,無機成分が約0.1μM?100mM,炭素源が約1?約30g/l,植物ホルモン類が約0.01?約10μM,ビタミン類及びアミノ酸類がそれぞれ約0.1?約100mg/lの濃度で用いられる。」(【0020】-【0021】段落)

コ.「本発明の効果を高める方法として,特願平6-36156号明細書,特願平6-104211号明細書,特願平6-104212号明細書にタキサン系化合物の生産促進物質として開示されている,ジャスモン酸類の存在下に培養する方法との併用が挙げられる。」(【0024】段落)

サ.「前記ジャスモン酸類には種々の立体異性体(シストランス異性体,光学異性体)が存在するが,それぞれの異性体を単独で用いても,混合物の形で用いてもよい。以上のジャスモン酸類は,全てタキサン型ジテルペンの生産性向上に効果を有するが,中でも前記一般式(I)においてR1 が-CH_(2) COOH又は-CH_(2)COOCH_(3 )であり,R2 及びR3 が水素原子であり,R4 とR5 が共同して二重結合を形成している化合物であるジャスモン酸又はジャスモン酸メチル,ツベロン酸又はツベロン酸メチル,及びククルビン酸又はククルビン酸メチルが生産性向上に対する効果の大きさの点から特に好ましい。」(【0058】段落)

シ.「ジャスモン酸類は,培地における濃度が0.01?1000μMとすることが必要であり,この中でも特にジャスモン酸類の濃度を0.1?500μMの範囲に調整することが好ましい。ジャスモン酸類は,培養細胞の増殖期ないし定常期に添加することが効果的であり,この中でも特に増殖期から定常期に移行する時期にジャスモン酸類を添加することが好ましい。また,内在性ジャスモン酸類の生産量を高めるための処理の時期についてもこれと同様である。例えば,21日おきに細胞を移植している場合には7?16日目がジャスモン酸類の添加又は内在性ジャスモン酸類の生産量を高めるための処理の適期にあたる。また,ジャスモン酸類の添加及び内在性ジャスモン酸類の生産量を高める処理は,一度に行ってもよいし,複数回に分けて行ってもよい。」(【0062】段落)

ス.「以上のようにして得られた培養組織又は培養細胞から,メタノール等の有機溶媒による抽出によってタキサン型ジテルペンをを分離することができる。また,培地中に適当な吸着剤や有機溶媒を共存させ,培養中に連続的にタキサン型ジテルペンを回収することもできる。本発明の組織培養の好ましい一例としては,次の方法が挙げられる。
先ずイチイ属に属する植物の植物体,例えば根,生長点,葉,茎,種子などから採取される植物片を殺菌処理後,ゲランガムで固めたウッディー・プラント・メディウムの固体培地上に置床し,10?35℃で14?60日程度経過させて組織片の一部をカルス化させる。このようにして得られたカルスを継代培養すると生育速度が漸次高まり安定化したカルスが得られる。ここで,安定化したカルスとは,培養中にカルスの一部がシュートや根に分化しないでカルスの状態を保持する性質をもち細胞の生育速度が均質であるものをいう。
この安定化したカルスを増殖に適した液体培地,例えばウッディー・プラント・メディウムの液体培地に移して増殖させる。液体培地において更に生育速度が高められる。本発明では,この安定化したカルスまたは該カルスを構成する細胞は,重金属を含む化合物類,重金属を含む錯イオン類,及び重金属イオンよりなる群から選ばれた少なくとも一つの存在下,固体培地又は液体培地で培養される。
重金属を含む化合物類,重金属を含む錯イオン類,又は重金属イオンは,培養開始時ないし培養細胞が増殖期から定常期に移行する時期までに添加することが効果的であり,特に培養開始時に添加することが好ましい。また当該化合物又はイオンの添加は,一度に行っても良いし,数回に分けて行っても良い。本発明の組織培養における培養温度としては,通常は約10?約35℃,特に約23?28℃が増殖速度が大きいので好適である。また,培養期間としては,14?42日間が好適である。
本発明の培養方法において液体培地を用いた場合には,培養終了後に培養細胞をデカンテーションまたは濾過等の方法によって培地から分離し,培養細胞および/または培地から目的とする代謝産物を有機溶媒による抽出等の方法によって分離することができる。」(【0070】-【0074】段落)

セ.「〔実施例1〕ナフタレン酢酸を10^(-5)Mの濃度になるように添加したウッディー・プラント・メディウムの固体培地(ゲランガム0.25重量%)に,前もって2%アンチホルミン溶液または70%エタノール溶液等で滅菌処理したセイヨウイチイ(Taxus baccata LINN)の茎の一部を置床し,25℃で暗所にて静置培養してセイヨウイチイカルスを得た。次にこのカルス1g(新鮮重)を,上記成分を同じ濃度で添加したウッディー・プラント・メディウムの液体培地20ml入りの三角フラスコに移し,ロータリーシェーカー上で旋回培養(振幅25mm,100rpm)し,21日毎に植えつぎ,該カルスの生育速度を速めた。
このようにして得られた培養細胞1g(新鮮重)を,上記成分を同じ濃度で添加したウッディー・プラント・メディウムの液体培地20ml入りの三角フラスコに移した後,重金属を含む化合物として〔Ag(S_(2)O_(3))_(2)〕^(3-)をその終濃度が10^(-9)M?1Mになるように添加した。そして25℃で21日間,旋回培養を行った。培養終了後,セイヨウイチイ培養細胞を濾過により採取し,凍結乾燥した後その乾燥重量を測定し,生育倍率を求めた。得られた乾燥カルスからメタノール等を用いてタキサン型ジテルペンを抽出し,高速液体クロマトグラフィーを用いて標準品タキソール,セファロマニン,バッカチンIIIと比較定量することによってタキサン型ジテルペン収量を測定した。その結果を表1に示す。」(【0076】-【0077】段落)

ソ.「〔実施例6〕実施例1に於いて,培養14日目にジャスモン酸類としてジャスモン酸類のメチルエステル〔式〔I〕に於いて,R1がCH_(2)COOCH_(3)であり,R2およびR3がHであり,R4,R5が二重結合を形成する化合物〕をその終濃度が10^(-4)Mになるよう添加すること以外は該実施例と同様に操作した。その結果を表1に示す。」(【0081】)

タ.「〔実施例8〕実施例7に於いて,培養14日目にジャスモン酸類のメチルエステルを,その終濃度が10^(-4)Mになるよう添加すること以外は該実施例と同様に操作した。その結果を表1に示す。」(【0084】段落)

チ.「〔比較例1〕実施例1に於いて,〔Ag(S_(2)O_(3))_(2)〕^(3-)を添加しない以外は該実施例と同様に操作した。その結果を表1に示す。」(【0087】段落)

ツ.表1(【0096】段落)




記載事項ア?ツによれば,甲第1号証には,イチイ属植物の組織及び/又は細胞を,10^(-8)M(100nM)?10^(-1)M(100mM)の濃度の銀を含む化合物類,銀を含む錯イオン類,又は銀イオンよりなる群から選ばれた少なくとも一つの存在下に培養し,得られる培養物及び/又は培地からタキサンを回収する,タキサンの製造方法が記載され,培地には植物ホルモンを0.01?約10μMの濃度で添加すること,及びタキサン生産促進物質として知られるジャスモン酸類を0.01?1000μMの濃度で培地に添加してもよいことが記載されている。

(2)甲第2号証
ア.「懸濁細胞培養基中のタクスス属種のカルス組織から誘導された細胞を栄養培地内で細胞培養成長および製品形成条件下で培養する工程を有するタクスス属種の懸濁培養基から高収率でタキソールおよびタキサンを産生する方法において前記タキソールおよびタキサンが前記懸濁培養基の前記細胞および/または前記培地から産生されることを特徴とする方法。」(請求項1)

イ.「定期的な栄養培地の交換をさら含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。」(請求項9)

ウ.「前記栄養培地が懸濁培養成長に対してとタキソールおよびタキサンの生産に対してとで等しいことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。」(請求項11)

エ.「前記栄養培地が懸濁培養成長に対してとタキソールおよびタキサンの生産に対してとで異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。」(請求項12)

オ.「成長および製品形成が1段または2段のバッチ処理,またはフェッドバッチ処理,または半連続処理,または連続処理,またはそれらの変形であることを特徴とする請求の範囲第11項および第12項のいずれかに記載の方法。」(請求項13)

カ.「生産性を向上させるための迅速な培地交換
実施例7.3に記載したように,使用済み培地の除去および新しい培地の補充を3日おきに行うと総タキサンおよびタキソールの生産が顕著に向上するのに寄与するとともに,細胞外生産物の量の増加にも寄与する。
培地交換の刺激効果はその場生産物の除去によっていたことが考えられ,フィードバック阻害および生産物の分解を防止するものと思われる。その場生産物の除去の二次的中間代謝物の生産および懸濁培養への分泌に対するそのような積極的効果は,就中,RobinsおよびRhodes(1986)ならびにAsadaおよびShuler(1989)により報告されている。使用済み培地を定期的に除去すると上述の利点が取り入れられ,さらに培地から他の非タキサン系阻害成分(フェノール化合物のような)を除去することにより二次的生合成を抑制するのに役立つことがある。
新しい培地を活発な生合成を行いつつある細胞に補充すると枯渇した必須栄養物質を提供することにより生産を向上することもある。例えば,Miyasaka et al.(1986)はサルヴィア・ミルチオリザ(Salvia miltiorhiza)の定常期の細胞を刺激してジテルペン中間代謝物であるクリブトタナヒノンとフェルギノールを生産させることができたが,これは単に培地にスクロースを添加することによって行われた。推測では,定常期における炭素の制限により生合成が停止したものと思われる。本発明において使用する定期的培地交換プロトコルは上述のファクターの何れの結果としても有益であると考えられる。
交換される培地の量,交換の頻度,および補充される培地の組成は変えることができるものと了解される。
定期的培地交換により生合成および分泌を刺激することができることは連続,半連続またはフェッド-バッチ(fed-batch )方式の効率的な商業的方法の設計および実施に対する重要な示唆を与える。」(第9頁右上欄第11行?左下欄第21行)

キ.「特に,本発明者らはTaxus chinensis種は迅速に成長することができ,非常に高いレベルのタキソールおよびタキサンを短期間に生産することができることを見い出した。・・・さらに,本発明の方法により従前に報告されたよりもずっと短い時間枠内でタキソールを得ることが可能である。Taxus chinensis種では,本発明者らは細胞を操作して他のTaxus属種の組織培養から得られる量をはるかに越える量のタキソールを生産することができた。さらに,Taxus chinensis細胞培養の成長速度はChristen et al.(1991)に記載のTaxus brevifoliaに対するものよりも顕著に高く,3ないし6倍である。」(第5頁左下欄第8行?右下欄第2行)

ク.第5表 種々のタクスス属種のタキソール生産(第21頁左上欄)




(3)甲第3号証
「タキサス カスピダタの細胞培養は,タキソール及び関連タキサン源として,全植物中抽出物の代替物になる。カルス培養へのフェニルアラニンの供給がタキソール収量を増加させることが,従来示されており,これは多分,このアミノ酸がタキソールのN-ベンゾイルフェニリソセリン側鎖の前駆体になることによる。本研究では,タキサス カスピダタFCL1F細胞系の2年齢の細胞懸濁液におけるタキソールの蓄積への,フェニルアラニン,安息香酸,N-ベンゾイルグリシン,セリン,グリシン,アラニン,及び3-アミノ-3-フェニルプロピオン酸の種々の濃度の影響を調べた。試験した全ての化合物は,静止期(懸濁液),又は最速成長期の後(カルス)に培地に含まれた。アラニン,及び3-アミノ-3-フェニルプロピオン酸はカルス培養だけで試験され,タキソール蓄積には影響しなかった。フェニルアラニン,安息香酸,N-ベンゾイルグリシン,及びグリシンの存在下で,カルス及び懸濁液におけるタキソール蓄積の顕著な増加又は増加傾向が観察された。タキソール蓄積の最大の増加が,フェニルアラニン(カルスでは0.2mM及び1mM,懸濁液では0.05,0.1,及び0.2mM),及び安息香酸(カルスでは1mM,懸濁液では0.05,0.1,及び0.2mM)の種々の濃度の存在下で観察された。」(第967頁左欄第1?25行)

(4)甲第4号証
ア.「タキサス種の組織を培養し,カルス又は培養培地からタキソール,又はその誘導体を回収することによるタキソール,又はその誘導体の生産方法であり,前記組織が接合体胚である方法。」(第26頁,補正された請求項2)

イ.「特に,タキソール生産を増加させるために,生産培地は好ましくは誘導物質を含む。誘導物質は,菌の誘導物質,雌性配偶体抽出物(1-5ml/l),フェニルアラニン(50-300mM),及びGA3(0.5-1.0ppm)から選ばれてよい。」(第11頁第23?16行)

ウ.「実施例7 胚形成カルスの大量生産のために,実施例4の胚形成カルスはインペラ型のバイオリアクターを用いて培養された。・・・培養物は,2ppmのNAAを追加したMS培地(生産培地)を含む5リッターインペラ型バイオリアクターに置かれた。培養物は25-28℃,好気的条件下で30日間維持された。培養30日後,培養ブロスは細胞を沈殿させるために24時間静置され,細胞が培養培地と分離された。パスツールピペットが細胞から培養培地を完全に除去するために使用された。このように分離された細胞及び培養培地は,実施例5に記述されたと同じ方法で,抽出されてタキソール及びその誘導体を生産した。・・・細胞は,乾燥細胞1g当たり0.09mgのタキソールを含み,培養培地からはl当たり約8mgのタキソールが含まれていると計算された。」(第17頁第21行?第18頁第18行)

エ.「(2)誘導物質として,雌性配偶体抽出物2ml/L,フェニルアラニン100mM又はジベレリン酸1ppmを生産培地に添加した以外は,実施例7の方法を繰り返した。その結果を表3に示す。」(第20頁第7?10行及び表3)

(5)甲第5号証
ア.「滅菌されたイチイの木のストックを,還元剤,エネルギー源,pHを6.5から7.5の範囲に維持するためのバッファー,タキソール前駆体,及びステロイド阻害剤を含む反応溶液に接触させることにより,タキソール及び放射標識されたタキソールが滅菌されたイチイの木から生産された。放射標識されたタキソールが滅菌されたタキソールを生産するために反応溶液に含まれてよい。」(第1頁,要約)

イ.「その溶液の必須成分はタキソール前駆体,即ち,生産されるタキソールの必須要素として働くことができる材料である。酢酸,その他のアシルラジカル源,又は対応するエステル誘導体,例えば酢酸塩が使用されてよい。ベンゼン環を含む化合物,例えばベンゼンが適している。アミノ酸の化学構造はタキソールの化学構造の少なくとも一部分を形成するので,フェニルアラニン,ロイシンなどのようなアミノ酸が特に満足できるものである。」(第5欄第25?34行)

(6)甲第6号証
「真菌の内部寄生菌であるタキソマイセス アンドレナエが,タイヘイヨウイチイ,タキサス ブレビフォリアの師部(内皮)から単離された。この菌は,糸状不完全菌類であり,半合成液体培地で成長させるとタキソール及び関連化合物を生産した。タキソールは,マススペクトロメトリー,クロマトグラフィー及びタキソールに特異的なモノクローナル抗体との反応性により同定された。[1-14C]酢酸及びL-[U-14C]フェニルアラニンの双方は,菌の培養において,[14C]タキソールの前駆体として働いた。0時間の培養,又は培養フラスコに接種するのに使用された少量の寒天プラグには,タキソールは検出されなかった。」(第154頁 要約)

(7)甲第7号証
ア.「酢酸,メバロン酸及びフェニルアラニンがタキサス カナデンシスのタキサンの生合成の構成要素に相当することを,放射性標識した給肥実験が確証した。」(第5235頁 要約)

イ.「加えて,[環状-2,6-^(3)H]L-フェニルアラニンと(3R)[2-^(14)C]メバロン酸(^(3)H/^(14)C=3.6)との混合物が,タキサス カナデンシスの新たに成長している葉に,ii)の方法に従って供給された。これに由来するタキソールが抽出され,公表された方法で精製された。純粋なタキソールにおいて得られた^(3)H/^(14)Cは4.4であった。」第5235頁下から8?5行)

(8)甲第8号証
「インビトロでの[^(14)C]タキソール生産のためのシステムが考案されてきた。この無菌システムは,適切な^(14)C-ラベルされた前駆体,及び還元環境(ジチオスレイトール),及び無菌的に調整されたタキサス ブレビフォリア(タイヘイヨウイチイ)の内皮片を利用した。[^(14)C]フェニルアラニン,及び[^(14)C]ロイシンは,試験された化合物の中で,[^(14)C]タキソール生産の最良の前駆体である。」

(9)甲第10号証
ア.「タキサス種の細胞培養は,癌化学療法で使用されるタキソール及び関連タキサンの見込みのある代替ソースを代表する。」(第731頁アブストラクト第1?2行)

イ.「B5bPVP(実験プロトコールを参照)培地への0.1mMフェニルアラニンの補給はカルス成長に影響を与えなかったが,タキソール生産量を著しく刺激した。フェニルアラニンが補給されたカルスは,55日後に,コントロールカルスに比べてタキソール生産量が約2倍になった(図2)。」(第731頁左欄下から5?1行,及び図2)

(10)甲第11号証
ア.「タキサス ブレビフォリアの懸濁細胞が,タキソール及び関連タキサンの代替ソースとして培養された。」(第101頁要約第1?2行)

イ.「文献における2種類のタキソール生産培地(生産培地B及びC;Brindgi及びKadkade,1993)が比較され,図1に結果が示される。生産培地B及びCのスクロース濃度が5%であるため,比較のため,各培地に5%のスクロースが添加された。培養25日後に,タキソールのだけでなく他の関連タキサンも生産が,生産培地Bにおいて著しく高かった。生産培地Bにおけるタキソール合成の明らかな誘導は,多分,成長培地の幾つかの修正によるものである。主な原因は,生合成前駆体として刺激効果を有するフェニルアラニンの補給かもしれない。」(第104頁第6?13行,及び図1)

2.請求人の主張
請求人は,審判請求書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,以下の主張をしている。

(1)本件訂正発明1について(口頭審理陳述要領書,第4頁下から4行?第6頁下から2行)
ア.本件訂正発明1と甲第1号証に記載の発明とは,銀濃度の範囲において重複し,表現上区別できないが,甲第1号証の実施例1には,オーキシン関連成長調節因子であるナフタレン酢酸,及び10^(-5)M(10μM)又は10^(-4)M(100μM)のチオ硫酸銀を含む培地を用いてタキサンを生産したことが記載されている(【0076】段落,【0077】段落,表1)。従って,訂正発明1は,甲第1号証に対して,新規性がない。
また,甲第1号証(【0024】段落,【0058】段落)には,銀,及びジャスモン酸又はジャスモン酸エステルを含む培地を用いる方法が記載されている。
ここで,甲第1号証の発明における培地中の銀濃度範囲は10^(-7)?10^(-2)Mであり(【0015】段落),これは連続した数値範囲であるから,訂正発明1の銀濃度10μM以上100μM以下は,甲第1号証に記載されている。従って,訂正発明1の「ジャスモン酸又はジャスモン酸エステル」の部分は,甲第1号証に対して,新規性がない。
また,本件特許明細書で【表14】?【表18】が記載される実験は,タキサン種の細胞株,並びに培地成分の種類及び濃度などが統一されていないため,銀濃度とタキサン生産量との関係を何ら示していない。従って,銀濃度10μM以上100μM以下の数値限定に臨界的意義があるとは認められず,甲第1号証の発明において,銀濃度10^(-7)?10^(-2)Mの範囲から10μM以上100μM以下の範囲を選択することは,当該数値限定に臨界的意義がない以上,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。従って,訂正発明1は,甲第1号証に対して,進歩性もない。

イ.被請求人は,「甲第1号証の記載は,銀濃度を10μM以上100μM以下とする動機付けを妨げる。」旨述べている(答弁書,28頁1行?29頁14行)。
しかし,甲第1号証の【表1】には,チオ硫酸銀濃度10μM又は100μMの場合に,銀を添加しない場合に比べて約13?28倍のタキサン収量が得られたことが示されている。従って,甲第1号証は,銀濃度10?100μMとすることがタキサン生産に格別な技術的支障をもたらすことは示していない。
よって,甲第1号証の記載は,本件訂正発明1に対する動機付けを妨げるものではない。

ウ.被請求人は,「本件特許明細書の【表14】によれば1160mg/Lのタキサン収量が得られたことが実証されているのに対して,甲第1号証の【表1】に記載されたタキサン収量は74.32mg/L及び74.07mg/Lにすぎないから,本件訂正発明は顕著な効果を奏する」旨述べている(答弁書,30頁8?18行)。
しかし,本件特許明細書の【表14】のタキサン収量は細胞接種量20%(w/v)の場合の結果であるのに対して(【0179】段落),甲第1号証の【表1】のタキサン収量は細胞接種量5%(w/v)の場合の結果である(【0077】段落)。細胞接種量が多ければ,タキサン収量が多くなるのは当然である。また,本件特許明細書の【表14】に結果を示す培養と,甲第1号証の【表1】に結果を示す培養とは,細胞接種量の他に,培地成分,細胞株,及び培養条件も相違するのであるから,タキサン収量の絶対値を比較することは妥当ではない。

(2)本件特許発明2及び3について(審判請求書,第8頁第22行?第16頁第9行)
ア.本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは,本件特許発明1においては,栄養培地に含まれる銀の濃度が900μM以下に数値限定されているのに対し,甲第1号証に記載された発明は,そのような数値限定がない点で,両者は一応相違する。
しかしながら,甲第1号証には,栄養培地に含まれる銀の濃度が10^(-8)M?10^(-1)Mとすることが好ましく,特に10^(-7)M?10^(-2)Mの範囲に調製することが更に好ましい旨記載されており,本件特許発明1における栄養培地に含まれる銀濃度とは,10^(-8)M?900μMの間で重複し,両者は区別できない。しかも,甲第1号証の記載,「10^(-8)M?10^(-1)M」には,その範囲内の全ての数字が記載されていると解釈すべきであり,したがって本件特許発明に係る900μMもまた甲第1号証に記載されている。したがって,両者は少なくとも900μMで一致している。
さらに,本件特許明細書の記載をみても,銀濃度を900μM以下とする数値限定に臨界的意義があることを読み取ることは到底不可能であり,栄養培地に含有させる銀の濃度を900μM以下とする数値限定は臨界的意義がないのであるから,本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明と同一であり,新規性を欠如するものである。

イ.本件特許発明2は,特許発明1における増強剤を「ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル」に限定し,該増強剤に対する銀のモル比を「9.5未満」に限定するものである。
しかしながら,ジャスモン酸またはジャスモン酸エステルに対する銀のモル比を「9.5未満」とすることは,甲第1号証【0015】段落の銀濃度に関する「培地における濃度が10^(-8)M?10^(-1)Mとすることが好ましく,特に10^(-7)M?10^(-2)Mの範囲に調製することが本発明の方法にとって更に好ましい。」との記載と,【0062】段落の「ジャスモン酸類は,培地における濃度が0.01?1000μMとすることが必要であり,この中でも特にジャスモン酸類の濃度を0.1?500μMの範囲に調整することが好ましい。」との記載とから当業者が容易になし得ることである。
さらに,本件特許明細書には,ジャスモン酸またはジャスモン酸エステルに対する銀のモル比を9.5未満とする数値限定に臨界的意義があることは示されていない。
以上から,本件特許発明2も甲第1号証に記載の発明と実質的に区別できず,新規性を欠くか,少なくとも進歩性を欠くものである。

ウ.本件特許発明3は,特許発明1における増強剤を「オーキシン関連成長調節因子」に限定し,銀に対する増強剤のモル比を「少なくとも0.011」に限定するものである。
しかしながら,甲第1号証の【0020】段落にオーキシン関連成長調節因子が記載されている。
また,銀に対するオーキシン関連成長調節因子のモル比を「少なくとも0.011」とすることは,甲第1号証【0015】段落の「上記重金属類の内,銀を含む化合物類,銀を含む錯イオン類,又は銀イオンは,培地における濃度が10^(-8)M?10^(-1)Mとすることが好ましく,特に10^(-7)M?10^(-2)Mの範囲に調製することが本発明の方法にとって更に好ましい。」との記載と,【0076】段落の「ナフタレン酢酸を10^(-5)濃度になるように添加したウッディー・プラント・メディウム」の記載とから当業者が容易になし得ることである。また,本件特許明細書の記載からみても前記モル比を「少なくとも0.011」とする数値限定に臨界的意義は示されていない。
以上から,本件特許発明3も甲第1号証に記載の発明と実質的に区別できず,新規性を欠くか,少なくとも進歩性を欠くものである。

(3)訂正発明4?7について(審判請求書,第16頁第10行?最終行,及び上申書第2頁第7行?第3頁第22行)
ア.甲第1号証の【0018】及び【0021】に記載されるように,栄養培地にフェニルアラニン,グルタミンなどのアミノ酸(タキサン前駆体)を添加することは,甲第1号証により,本件特許の優先日前に既知であった。
以上から,本件特許発明4?7も甲第1号証に記載の発明と実質的に区別できず新規性を欠くか,少なくとも進歩性を欠くものである。

イ.甲第3?8号証,甲第10号証及び甲第11号証に示すとおり,フェニルアラニンがタキサス種により生産されるタキソールの前駆体であり,タキサス種のカルス又は懸濁培養由来の細胞の培養によるタキサンの生産方法において,培地にフェニルアラニンを添加することによりタキソールの生産量が増加することは,本件特許の優先日前の当該技術分野における技術常識である。
したがって,訂正発明1においてタキソール前駆体としてフェニルアラニンを用いることは,甲第1号証に記載されており,それによるタキソール生産増加効果は,優先日における技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものではないのであるから,訂正発明5は,甲第1号証,並びに甲第3?8号証,甲第10号証及び第11号証に対して,進歩性がない。

(4)訂正発明8?11について(審判請求書,第17頁第1?23行)
甲第1号証の【0018】段落に記載されるように,栄養培地にマルトース,スクロース,グルコース,フルクトースなどの炭素源を添加することは,甲第1号証により,本件特許の優先日前に既知であった。
以上から,本件特許発明8?11も甲第1号証に記載の発明と実質的に区別できず,新規性を欠くか,少なくとも進歩性を欠くものである。

(5)訂正発明12?19について(審判請求書,第17頁第24行?第18頁第23行)
本件訂正発明12?19に付加された要件(同一培地,相違培地,培地交換,生成物除去,培地及び細胞からの生成物の回収)は,甲第2号証(請求項9,請求項10,請求項12及び請求項13),甲第1号証の段落【0070】,【0074】などにも記載されるように,当業者の技術常識である。
以上から,本件訂正発明1が新規性を有しない以上,本件訂正発明12?19は新規性を有しないか,または甲第1号証,甲第2号証並びに技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであり,進歩性を欠くものである。

(6)訂正発明20について(審判請求書,第19頁第7?27行)
本件訂正発明20で用いる植物と甲第1号証の【0009】段落に記載される植物とは大幅に重複している。
以上から,本件訂正発明1が新規性を有しない以上,本件訂正発明20も新規性を欠くものである。

(7)訂正発明21について(審判請求書,第19頁第28行?第20頁第8行)
本件訂正発明21に付加された「タキサス種の細胞が,増強剤を含まない培地中のカルス培養または懸濁培養でのELISAによる背景値以上にタキソールを生産する」という要件は,本件訂正発明1がタキソールを含むタキサンを高収量で生産することを目的とするものである以上,何ら特別の要件ではなく,当業者が当然考慮することである。以上から,本件訂正発明1が新規性を有しない以上,本件訂正発明21は新規性を欠くか,少なくとも進歩生を欠くものである。

3.被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,以下の主張をしている。

(1)以下に説明するように,本件訂正発明は,甲第1乃至2号証のいずれにおいても,教示も示唆もされていないものであり,そして,予想されない効果を奏するものでり,新規性および進歩性がある。
ア.甲第1号証の表1から明らかなように,高収量のタキサンが得られるのは,10^(-3)M以上のチオ硫酸銀を培地に添加した場合のみであることが明記され,10^(-3)M未満のチオ硫酸銀を用いた場合には,タキサン収量が減少している。

イ.甲第1号証の表1の記載は,1000μM未満の銀濃度を用いることによってタキサン収量が減少したことを示すこと,また,甲第1号証の表1以外には,10^(-3)M未満の濃度の銀を用いることについて,教示も示唆もしていないことから,甲第1号証の記載が,「10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体,または銀イオンの形で含み」という低い銀濃度に特徴を有する本件訂正発明に対する動機付けを妨げることは明らかである。

ウ.さらに,甲第1号証では,1000μMの銀濃度の場合にのみ,ジャスモン酸メチルを添加している。
本件訂正発明の特徴は,「10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体,または銀イオンの形で含み」かつ「a)ジャスモン酸又はジャスモン酸エステル,及び,b)オーキシン関連成長調節因子から選択される増強剤を含む」点にあるところ,甲第1号証の記載は,この特徴的組合わせに対しても動機付けを妨げるものである。

エ.甲第2号証は,タキサンの生産及び回収を促進する方法を記載するに過ぎず,「10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体,または銀イオンの形で含」むことは,教示も示唆もされていない。

オ.本件明細書の表10では,10?100μMの範囲の銀濃度が実際に使用され,そして,タキサンを高収量(「培養培地のみ」と比較して,2倍以上の収量)で生産しており,この表10の結果のみを参酌しても,本件訂正発明が顕著な効果を奏するものであることは明白である。
また,明細書の表14でも,10μMのチオ硫酸銀を,ジャスモン酸メチル及びナフタレン酢酸とともに培地に添加したところ,1160mg/Lもの高収率のタキサンが得られたことが実証されている。さらに,表14,17及び18も,本件訂正発明によって,タキサンの収量が予想外に増加するという顕著な効果が奏されることを実証している。
これに対して,甲第1号証の表1の記載から明らかなように,甲第1号証では,ジャスモン酸メチルを添加した場合であっても,タキサンの収量は,せいぜい,74.32mg/Lおよび74.07mg/Lに過ぎない。(答弁書,第26頁第1行?第31頁最終行)

(2)甲第1号証の結果は,タキサス バッカタ LINNを用いたタキサン産生実験において,培養培地に添加したチオ硫酸銀の濃度が10^(-3)Mの場合にタキサンの産生量が最大であり,10^(-3)Mよりも多いチオ硫酸銀又は10^(-3)Mよりも少ないチオ硫酸銀を用いた場合にタキサンの生産量が減少することを示す。
この結果から,当業者は,高収量のタキサン生産のための培養培地には,銀濃度として10^(-3)Mを選択します。培養条件は多種多様な要素が関与し得るものであり,複数の要素を一度に変更することは困難であることから,具体的な生産条件の決定においては,各個別の要素の最適化を積み重ねるのが常套手段であるから,銀濃度の最適値として甲第1号証に記載される「1000μM」をさらなる生産条件検討の前提とすることは,当業者が当然に取るべき手段であり,あえて,タキサンの生産量が低くなる銀濃度を逐一検討するなどということはありえない。
甲第1号証の表1の結果は,「1000μM」以外の銀濃度を示唆するものではなく,むしろ,「1000μM」未満に銀濃度を低下させることについての動機付けを妨げるものである。(口頭審理陳述要領書,第20頁第1行?第21頁第7行)

(3)訂正発明5に関して,請求人がフェニルアラニンによるタキソール生産増加効果についての技術常識を立証することを意図して提出した甲第3号証ないし甲第8号証は,特許文献ないし原著論文である学術文献に過ぎず,周知技術を示す文献とはいえないものである。
しかも,甲第5号証ないし甲第8号証は,フェニルアラニンがタキソールの前駆体であるか否かを考察しているに過ぎず,フェニルアラニンによるタキソール生産増加効果についての技術常識を立証する根拠とはなり得ない。
以上により,「フェニルアラニンよるタキソール生産増加効果」が当該分野において技術常識として知られていたとは到底いえないことは明白である。

4.当審の判断
(1)訂正発明1について
本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明を対比すると,甲第1号証に記載された「イチイ属植物」及びその実施例1で用いられている「ナフタレン酢酸」等の「植物ホルモン」は,本件訂正発明1における「タキサス種」及び「オーキシン関連成長調節因子」にそれぞれ相当する。
次に,本件訂正発明1における「高収量」については,本件訂正明細書において,どのような収量を高収量とするのかについては定義がなされていない。そして,甲第1号証の記載事項オに記載されるように,甲第1号証に記載される発明は,タキサス種の組織又は細胞を,重金属を含む化合物類,重金属を含む錯イオン類,及び重金属イオンよりなる群から選ばれた少なくとも一つの存在下に培養を行うと,タキサンの「生産性を向上する」ことを見いだし,発明を完成するに至ったというものであるから,甲第1号証に記載される発明は,「タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法」である。
また,甲第1号証の記載事項ス及びセに記載されるように,イチイ属植物を固体培地で培養して得られたカルスを,液体培地に移して増殖させる培養では,タキサス種の細胞が,増殖及び産物形成をする条件下で,2つ(1つ以上)の栄養培地中で懸濁培養を行っていることは明らかであり,培養後または培養中に細胞または培地からタキサンを回収することも記載されているから,甲第1号証に記載された発明は,「カルスを,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養すること,並びに前記細胞または細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含」む方法である。

次に,甲第1号証の記載事項セ?ツには,実施例において,ナフタレン酢酸を10^(-5)Mを含む栄養培地にチオ硫酸銀を10^(-9)M(1nM)?10^(-1)M(100mM)の濃度で添加することで,チオ硫酸銀を添加しなかった比較例よりも,タキサン収量が増加したことが確認されている。
したがって,甲第1号証には,「10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物の形で含み,オーキシン関連成長調節因子からなる増強剤を含む」栄養培地を用いて,タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンを生産したことも記載されている。

よって,甲第1号証には,「タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を,増殖及び産物形成条件下,一つ以上の栄養培地中で,懸濁培養で培養すること,並びに前記細胞または前記細胞培養の培地,またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み,ここで,前記一つ以上の栄養培地は10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み,そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つはオーキシン関連成長調節因子からなる増強剤を含む,前記の方法。」が記載されており,本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明とは相違点がなく,本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明である。

さらに,甲第1号証の記載事項セ?ツの実施例では,最もタキサンの収量が高くなるのは,銀濃度が1000μMの時であり,10μM及び100μMの時では,1000μMの時より収量が減少しており,当該実施例では,タキサンの至適濃度が,本件訂正発明1において特定する「10μM以上100μM以下の濃度」とは異なっているので,仮にこの点を,本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点としたとしても,以下のとおり,本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明から進歩性がない。
まず,甲第1号証には,銀の濃度を「10^(-8)M(10nM)?10^(-1)M(100mM)」の範囲とすることが記載されている(記載事項ウ)。しかも,甲第1号証に記載される上記実施例における1000μMという銀の至適濃度は,特定の栄養培地及び培養条件,特定の細胞を用いた場合の至適濃度であって,どのような栄養培地や培養条件,細胞種を用いても,常に1000μMが銀の至適濃度であるということを示すものではない。
ゆえに,栄養培地や細胞の種類等を変更した場合に,甲第1号証に記載された上記実施例と同様に,10^(-9)M?1Mといった広い濃度範囲で試験を行い,銀の好適な濃度範囲を決定することは,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,本件訂正発明1における銀濃度の範囲を「10μM以上100μM以下」とすることについての臨界的意義について,本件訂正明細書を参照すると,【0069】段落に,「培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が900μM以下,好ましくは500μM以下,更に好ましくは200μM以下になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合,銀は濃度が10nM以上,好ましくは100nM(「μm」の記載は誤記と認める。),更に好ましくは1μM,及び一般的には10μM添加する。」との説明があるが,どのような理由によりこのような範囲を好ましいとしているのかは説明がなされていない。
また,本件訂正明細書に開示された実施例において具体的に使用されている銀の濃度は,全て10μM以上100μM以下の範囲である。表16b及び表18bに記載される給餌バッチにおける250μM以上の銀濃度は,栄養培地に対して,10ml/L以下の量として添加されて希釈されるため,終濃度では100μM以上にはならない。
よって,実施例には,10μM未満の低い銀濃度,及び100μMより高い銀濃度を用いた場合の比較実験データは開示されていない。
したがって,銀濃度の範囲を「10μM以上100μM以下」と特定することには,格別な臨界的意義を有するものではなく,それによって本件訂正発明1が甲第1号証から予測できない格別な効果を奏するものとも認められない。

以上であるから,本件訂正発明1は,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)特許発明2について
本件特許発明2を検討するに先立って,本件特許発明2の引用する,本件の特許時の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)を検討する。
本件特許発明1は,本件訂正発明1において特定される「一つ以上の栄養培地は10μM以上100μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み」という特定事項を,「一つ以上の栄養培地は900μM以下の濃度の銀を,銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み」とし,銀の濃度の範囲を広くしたものである。
そして,本件特許発明1より銀の濃度の範囲の狭い本件訂正発明1は,(1)で検討したとおり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正発明1を包含する本件特許発明1も,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証から当業者が容易に発明をすることができたものである。

次に,本件特許発明2について検討する。
本件特許発明2は,本件特許発明1に,「増強剤がジャスモン酸またはジャスモン酸エステルであり,増強剤に対する銀のモル比が9.5未満である」という特定事項を付加するものである。
一方,甲第1号証の記載事項サ及びソには,ジャスモン酸及びジャスモン酸エステルを,タキサンの生産性向上のために培地に添加することが記載され,記載事項シには,ジャスモン酸類の培地における濃度を0.1?500μMの範囲が好ましいことが記載されている。また,記載事項ウには,銀の濃度を10nM?100mMとすることが記載されているから,甲第1号証に記載された発明において,ジャスモン酸又はジャスモン酸エステルを培地に添加した場合の,これらに対する銀のモル比は,2×10^(-5)?10^(6)の範囲であり,本件特許発明2で特定する「9.5未満」という範囲を包含する。
そして,(1)にも記載したように,甲第1号証の実施例とは異なる栄養培地や細胞種を用いた場合に,銀濃度の好適な範囲の設定を行うとともに,さらにジャスモン酸類についても,好適な濃度の範囲と,これらに対する銀のモル比についての好適な範囲を,具体的に設定することは,当業者が容易に想到し得たものである。

ここで,本件特許発明2におけるジャスモン酸またはジャスモン酸エステルに対する銀のモル比の臨界的意義について本件訂正明細書の記載を参照すると,【0082】段落に「お互いに組み合わせて使用する場合,ジャスモン酸関連化合物及びエチレン作用阻害剤は培地にお互いに特定の割合で含ませることができる。例えば,ジャスモン酸メチル及びチオ硫酸銀を組み合わせて用いる場合,ジャスモン酸メチルのチオ硫酸銀に対するモル比は0.0001から9.5の範囲の間で,好ましくは0.001と8の間の範囲で,更に好ましくは0.1と7の範囲の間で,最も好ましくは1と5の範囲の間でになるであろう。」との記載はあるが,どのような理由によりこのような範囲を好ましいとしているのかという説明はない。
さらに,この記載は,本件特許発明2で特定する「増強剤に対する銀のモル比」ではなく,「銀に対する増強剤のモル比」を説明しており,本件特許発明2において「増強剤に対する銀のモル比が9.5未満」とする技術的意義については,訂正明細書に全く根拠がない。
よって,本件特許発明2における「増強剤に対する銀のモル比」の範囲については,格別な臨界的意義を有するものではなく,本件訂正発明2は甲第1号証に記載された発明から予測できない格別な効果を奏するものでもない。

以上であるから,本件特許発明2は甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3で引用する本件特許発明1については,(2)で検討したとおり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

次に,本件特許発明3は,本件特許発明1に「増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀に対する増強剤のモル比が少なくとも0.011である」という特定事項を付加するものである。
一方,甲第1号証には,記載事項ケにオーキシン関連調節因子を0.01?10μMで培地に添加することが記載されている。
また,記載事項セ及びツには,オーキシンの一種であるナフタレン酢酸を10^(-5)M含み,チオ硫酸銀を10^(-9)?1M含む培地を用いて試験を行った実施例が記載され,チオ硫酸銀濃度が10^(-9)M(1nM)?10^(-4)M(100μM)の試験では,銀に対する増強剤のモル比が全て0.011より大きくなっている。
よって,甲第1号証には,「増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり,銀に対する増強剤のモル比が少なくとも0.011である」ことが記載されている。

以上であるから,本件特許発明3は,本件特許発明1と同様に,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)訂正発明4及び5について
本件訂正発明4は,本件訂正発明1に「一つ以上の栄養培地がタキサン前駆体も含む」という特定事項を付加したものであり,本件訂正発明5は,本件訂正発明4に更に「タキサン前駆体がα-フェニルアラニン,β-フェニルアラニン,またはその混合物である」という特定事項を付加したものである。
そして,本件訂正明細書の【0186】段落及び表16.a及びb.には,フェニルアラニンの給餌により,タキソールの生産を増加する効果が記載されている。

一方,甲第1号証の記載事項ケには,培地にフェニルアラニン等のアミノ酸類を添加することもできることが記載され,このフェニルアラニンには,αフェニルアラニン及び/又はβフェニルアラニンが含まれることは,技術常識から明らかであるが,記載事項ケでは,フェニルアラニンは,培地に添加され得る成分として列挙されるものの一つとして記載されるのみであり,フェニルアラニンがどのような目的で培地に添加されるものであり,どのような効果を有するものであるのかといった説明は,甲第1号証には記載されていない。

したがって,本件訂正発明5と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,本件訂正発明5では,「栄養培地が,タキサン前駆体を含み,タキサン前駆体が,α-フェニルアラニン,β-フェニルアラニン,またはその混合物である」のに対し,甲第1号証には,フェニルアラニンを添加することは記載されるものの,タキサン前駆体として添加されるものであることは記載されていない点で,両発明は一応相違する。
しかしながら,甲第5?8号証に記載されるように,フェニルアラニンがタキソール前駆体であることは,本件特許の優先日当時に周知の事項であり,さらに,甲第3,4,10及び11号証に記載されるように,タキサス種細胞の培養培地に,フェニルアラニンを添加することで,タキソール生産量が増加させることも,本件特許の優先日当時において,周知技術であった。
してみると,甲第1号証に記載された発明において,上記周知技術に基づき,フェニルアラニンがタキソール前駆体として,タキソール生産量を増加させるために培地に添加することは,当業者が容易に想到し得たものといえる。
そして,本件訂正発明5の奏するタキソール生産量の増加という効果は,甲第1号証及び上記周知技術から予測されるとおりの効果である。
したがって,本件訂正発明5は,甲第1号証に記載された発明及び上記周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものである。
また,本件訂正発明5の上位概念の発明である本件訂正発明4についても,本件訂正発明5と同じく,甲第1号証に記載された発明及び上記周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)訂正発明6及び7について
本件訂正発明6は,本件訂正発明1に「一つ以上の栄養培地がグルタミンも含む」という特定事項を付加したものである。
また,本件訂正発明7は,本件訂正発明1に,「一つ以上の栄養培地がグルタミン酸,アスパラギン酸,またはその混合物も含む」という特定事項を付加したものである。
そして,本件訂正明細書の【0046】段落には,栄養培地に窒素源として,グルタミン,グルタミン酸,及びアスパラギン酸のようなアミノ酸を添加することが記載されているが,この3種のアミノ酸が他のアミノ酸に比べて,特に有利であるといったことは記載されていない。
一方,甲第1号証の記載事項ク及びケには,培地にアミノ酸類を添加することが記載され,グルタミンについては記載事項ケに明記されている。
よって,本件訂正発明6は,本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,グルタミン酸及びアスパラギン酸については,甲第1号証には明記されていないが,これらのアミノ酸は,窒素源として周知のアミノ酸であるから,甲第1号証において示唆されるアミノ酸類として,これらを選択することに格別な困難性は認められない。
よって,本件訂正発明7は,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)訂正発明8?11について
本件訂正発明8?10は,本件訂正発明1に「一つ以上の栄養培地が炭素源としてマルトースを含む」,「一つ以上の栄養培地が炭素源としてスクロースを含む」及び「一つ以上の栄養培地が炭素源としてグルコース,フルクトースまたはその混合物を含む」という特定事項をそれぞれ付加したものである。
また,本件訂正発明11は,本件訂正発明7に,「マルトース,スクロース,グルコース,フルクトースまたはその混合物が一次炭素源である」という特定事項を付加したものである。
そして,本件訂正明細書の【0045】段落,【0052】段落には,栄養培地に炭素源として,マルトース,スクロース,グルコース,フルクトースが使用できることが説明されているが,これら4種の炭素源が,他の炭素源に比べて特に有利であるといったことは記載されていない。
一方,甲第1号証の記載事項クには,培地の炭素源としてシュクロース(スクロース),マルトース,グルコース,フルクトースが記載され,これらを混合したものを使用することも記載されている。
以上であるから,本件訂正発明8?11は,本件訂正発明1と同様に甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件訂正発明12について
本件訂正発明12は,本件訂正発明1に「栄養培地が培養細胞増殖についてならびにタキソールおよびタキサンの生産について同一である」という特定事項を付加したものである。
一方,甲第1号証の記載事項スには,カルスを増殖に適した液体培地に移して培養した後,培養中又は培養終了後にタキサンを回収することが記載されており,同一の液体培地において,培養細胞を増殖させながら,タキサンを生産させていることは明らかである。
よって,本件訂正発明12は本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件訂正発明13について
本件訂正発明13は,本件訂正発明1に「一種以上のタキサンの生産が栄養培地の組成を変えることによって誘導される」という特定事項を付加したものである。
そして,栄養培地の組成を変える方法について,本件訂正明細書を参照すると,【0024】段落には,「別の態様においては,1種類またはそれ以上のタキサンの産生は栄養培地の組成物を変化させることによって培養中に誘導される。好ましい態様においては,培養における培地は周期的に交換され,一般的に培地の交換は,培養からのタキサンの周期的な除去を成し遂げる。好ましくは,前述のTaxus種の細胞は給餌-バッチ工程(fed-batch process)により培養される。」と説明され,【0035】段落には,「一般に,生産時期は,生育培地を産生培地に置き換えること,またはタキサン産生において有意な増強を誘発する増強剤を添加することによる栄養培地の組成物の変化によって開始する。」と説明されている。
一方,甲第1号証の記載事項シには,タキサン生産を促進するジャスモン酸類を,細胞の増殖期から定常期に移行する時期に培地に添加することが記載され,記載事項スには,銀含有化合物,銀錯体又は銀イオンを,細胞の増殖期から定常期に移行するまでの時期に数回に分けて添加することが記載されており,これらの成分を培地に添加することにより,培地の組成が変化し,タキサン生産が誘導されるものと認められる。
よって,本件訂正発明13は本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件訂正発明14,15及び17について
本件訂正発明14は,本件訂正発明13に更に,「タキサン生産の間に少なくとも一度,栄養培地を交換することをさらに含む」という特定事項を付加したものである。
また,本件訂正発明15は,本件訂正発明1に,「培養段階の間に少なくとも一度,栄養培地を交換することをさらに含む」という特定事項を付加したものである。
さらに,本件訂正発明17は,本件訂正発明1に,「タキサス種の細胞が給餌-バッチ法(fed-batch process)によって培養される」という特定事項を付加したものである。

一方,甲第1号証に記載された発明では,(8)に記載したとおり,甲第1号証には,培地にジャスモン酸や銀含有化合物といった特定成分を添加して,培地の組成を変えることは記載されているが,培地を交換したり追加することは,甲第1号証には記載されていない。
よって,本件訂正発明14と甲第1号証に記載された発明とは,本件訂正発明14では,「タキサン生産の間に少なくとも一度,栄養培地を交換することをさらに含む」のに対し,甲第1号証に記載された発明では,そのようなことは行わない点で,両発明は相違する。

しかしながら,甲第2号証の記載事項ア?カに記載されるように,培地を定期的に交換したり,給餌バッチ方式等により培地を追加することにより,細胞の二次代謝産物の生合成を促進することは,本件優先日当時において,周知技術であった。
したがって,甲第1号証に記載された発明において,タキソールの生産を促進するために,上記周知技術に基づき,タキサン生産の間に培地の交換を行うことは,当業者が容易に想到し得たものである。
同様に,本件訂正発明15と甲第1号証に記載された発明とは,本件訂正発明15では,培養段階の間に少なくとも一度,栄養培地を交換するのに対し,甲第1号証に記載された発明では,そのようなことは行わない点で相違するが,甲第1号証に記載された発明において,タキソールの生産を促進するために,上記周知技術に基づき,培養段階の間に培地の交換を行うことは,当業者が容易に想到し得たものである。
また,本件訂正発明17と甲第1号証に記載された発明とは,本件訂正発明17では,細胞が給餌-バッチ法で培養されるのに対し,甲第1号証に記載された発明では,そのようなことは行わない点で相違するが,甲第1号証に記載された発明において,タキソールの生産を促進するために,上記周知技術に基づき,細胞を給餌-バッチ法で培養することは,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,本件訂正発明14,15及び17の奏する効果は,甲第1号証及び上記周知技術から予測されるとおりのものである。

よって,本件訂正発明14,15及び17は,甲第1号証及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件訂正発明16,18及び19について
本件訂正発明16は,本件訂正発明1に「タキサン生産の間に培地からタキサンを除去することをさらに含む」という特定事項を付加するものであり,本件訂正発明18は,本件訂正発明1に「タキソールが細胞または細胞培養の培地,またはその両者から回収される」という特定事項を付加するものであり,本件訂正発明19は,本件訂正発明1に「バッカチンIIIが細胞または細胞培養の培地,またはその両者から回収される」という特定事項を付加するものである。
一方,甲第1号証の記載事項スには,培養中に連続的にタキサンを回収することが記載され,記載事項セ及びツには,タキソール及びバッカチンIIIが回収されたことが記載されている。
よって,本件訂正発明16,18及び19は,本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件訂正発明20について
本件訂正発明20は,本件訂正発明1に「タキサス種が,タキサス ブレビフォリア(T. brevifolia),タキサス カナデンシス(T. canadensis),タキサス チネンシス(T. chinensis),タキサス カスピダタ(T. cuspidata),タキサス バッカタ(T. baccata),タキサス グロボサ(T. globosa),タキサス フロリダナ(T. floridana),タキサス ウォリチアナ(T. wallichiana)またはタキサス メディア(T. media)である」という特定事項を付加するものである。
一方,甲第1号証の記載事項キには,タキサス バッカタ,タキサス チネンシス等が例示され,記載事項セ?ツでは,タキサス バッカタを用いた培養が記載されている。
よって,本件訂正発明20は,本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(11)本件訂正発明21について
本件訂正発明21は,本件訂正発明1に「タキサス種の細胞が,増強剤を含まない培地中のカルス培養または懸濁培養でのELISAによる背景値以上にタキソールを生産する」という特定事項を付加するものである。
ここで,上記特定事項は,タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法において,ELISAを実施する工程を付加するものではなく,タキサス種の細胞が生産するタキソールの生産量を特定したものである。
また,ELISAによる背景値については,本件訂正明細書中には明確な定義がなされておらず,増強剤を含まない培地を用いた試験も記載されていないため,上記「背景値」が具体的にどのような値をとるのかは不明であるが,【0020】段落等にも説明されるように,本件発明における「増強剤」はタキサンの生産量を増強させるものであるから,増強剤を含まない培地を用いた培養でのタキサン生産量及びそのELISAによる背景値は,増強剤を含む培地を用いた培養でのタキサン生産量及びそのELISAによる測定値より,少なくなるものといえる。
そして,本件訂正発明1では,増強剤を含むことを発明の特定事項としているから,本件訂正発明1におけるタキサン収量及びそのELISAによる測定値が,増強剤を含まない培地中のカルス培養又は懸濁培養でのELISAによる背景値以上となるのは,当然である。
してみると,本件訂正発明21は,本件訂正発明1に上記特定事項を付加することによって,何ら限定を加えるものとはいえない。
よって,本件訂正発明21は,本件訂正発明1と同様であり,甲第1号証に記載された発明であるか,甲第1号証に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)被請求人の主張について
被請求人の主張について以下に検討する。

ア.「2.被請求人の主張(1)ア?エ及び(2)」について
「(1)本件訂正発明1について」において検討したとおり,甲第1号証には,10nM?100mMの範囲の銀濃度を用いることが記載され,実施例においても,1nM?100mMのチオ硫酸銀濃度の実施例で,銀を添加しない比較例よりタキサン収量が増加したことが記載されている。
甲第1号証に記載された実施例において,最も高い収量は1mMのチオ硫酸銀を培地に添加したものであるからといって,それ以外の濃度では使用できないというものではない。
したがって,甲第1号証には,10^(-3)M未満の濃度の銀を用いることについて教示も示唆もしていないという請求人の主張は失当である。
また,甲第1号証に記載された実施例の銀の至適濃度が10^(-3)Mであったからといって,これはあくまでも一実施例におけるデータであって,あらゆる栄養培地,培養条件,細胞の種類において,銀の至適濃度が10^(-3)Mであることを示すものではない。
したがって,生産条件の決定において個別の要素の最適化を積み上げるのが常套手段であるとしても,甲第1号証の実施例においてチオ硫酸銀の最適値を決定する前提として用いたタキサス種や基本培地の種類等の条件について変更を加える場合に,チオ硫酸銀の濃度も含めて再度最適値を検討することを妨げるものとはいえない。

イ.「2.被請求人の主張(1)オ」について
甲第1号証の記載事項ツでは,10nM?100mMの範囲の銀濃度において,銀を添加しない比較例と比較して,2倍以上の収量であったことが記載されている。
被請求人は,本件訂正明細書に開示されるタキサス チネンシスを用いた実施例において得られた収量と,甲第1号証の記載事項ツに記載されたタキサス バッカタを用いた実施例の収量とを比較して,本件発明の効果の顕著性を主張している。
しかしながら,甲第2号証の記載事項キ及びクに記載されるように,銀を添加しない培地においても,タキサス チネンシスは,他のタキサス種よりタキソール生産量が高く,タキサス チネンシスはタキサス バッカタの100倍以上のタキソールを生産するものである。
したがって,本件訂正明細書に開示される実施例の収量と,甲第1号証に開示される実施例の収量が大きく異なるのは当然であり,使用するタキサス種の種類のみならず,その他の培養条件においても異なる両実施例の結果のみを比較して議論することは,無意味である。
さらに,本件発明は,タキサス チネンシスを用いることを発明の特定事項としていないから,本件訂正明細書に開示されたタキサス チネンシスを用いた実施例の効果は,タキサス チネンシスを用いない態様を含む本件発明に特有の効果ということはできない。
以上により,本件発明が,甲第1号証に記載された発明と比較して,顕著な効果を奏するものとはいえない。

ウ.「3.被請求人の主張(3)」について
被請求人の主張するように,甲第5?8号証は,フェニルアラニンがタキソール生産を増加する効果を有することについては記載されていない。
しかしながら,請求人は,本件優先日当時において,フェニルアラニンがタキソール生産増加効果を有することについての技術常識を示す文献として,甲第3及び4号証に加えて,甲第10及び11号証を提出している。
そして,これらの文献によれば,本件優先日当時,当該技術分野において,フェニルアラニンがタキソール生産増加効果を有すること,及びフェニルアラニンがタキソール前駆体であることが技術常識であったといえる。

(13)小括
以上により,本件訂正発明1,4?21並びに本件特許発明2及び3は,特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

第7.無効理由3について
1.請求人の主張
請求人は,審判請求書及び上申書において,以下の主張をしている。
ア.特許されたときの特許請求の範囲の請求項1,2および3における「900μM以下の銀を・・・含み」,「増強剤に対する銀のモル比が9.5未満である」および「銀に対する増強剤のモル比が少なくとも0.011」という表現は,銀の含有量の下限,銀のモル比の下限,増強剤のモル比の上限が不明であり,発明の範囲が不明確である。
また,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,銀の含有量が900μM以下であれば,銀のモル比を9.5未満とすれば,あるいは増強剤のモル比を0.011以上とすれば,どのような範囲であっても,本件特許発明を実施可能できるように記載されていない。(審判請求書,第20頁下から2行?第21頁第7行)

イ.本件特許請求項2及び請求項3の各発明は,特許法第36条第4項に違反する。これらの発明を包含する訂正後の請求項1の発明は,その範囲内に同法第36条第4項に違反する部分である請求項2及び請求項3の各発明を含むため,同法第36条第4項に違反する。よって,訂正後の請求項1の発明は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。(上申書,第3頁第23行?第4頁第2行)

2.被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書及び上申書において,以下の主張をしている。

ア.本件訂正発明1においては,銀濃度を「10μM以上100μM以下」と明確に規定している。
銀濃度が100μM,50μM及び10μMである場合に,高収量のタキサンが得られることは,表10等の実験において実証されている。
以上より,本件明細書の記載から,当業者は,本件訂正発明1に規定される銀濃度の上限から下限にわたる全範囲において,タキサンの高収率が達成されることを,理解する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件訂正発明1の全範囲にわたって当業者が実施可能な程度に記載されている。本件訂正発明1には,無効理由3は存在しない。(答弁書,第32頁第1?第33頁最終行,上申書,第13頁第7?17行)

3.当審の判断
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1では,銀濃度を「10μM以上100μM以下」としており,銀の上限及び下限が明確に規定されている。
また,本件訂正明細書の実施例10,12?17では,10?100μMの銀と,オーキシン関連成長調節因子,ジャスモン酸またはジャスモン酸エステルを添加した培地を用いてタキサンを生産した実験が記載されており,銀の含有量が10?100μMの範囲で,本件訂正発明1が実施可能であることが裏付けられている。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2では,銀の含有量の下限,及び増強剤に対する銀のモル比の下限が規定されておらず,発明の範囲が不明確である。
また,本件訂正明細書の実施例10,12?17では,10?100μMの銀を添加した培地を用いてタキサンを生産した実験は記載されているが,10μM未満,又は100μM?900μMの範囲の銀を添加した培地を用いた実験は記載されていない。
さらに,実施例10,13?17に記載されたチオ硫酸銀:ジャスモン酸メチルの比は,10:89(表14-II,モル比= 約0.112)?500:89(表16-F5,モル比=約5.61)の範囲であり,モル比が9.5未満の全範囲についての実施例は記載されていない。
そして,本件特許発明2で特定する銀の含有量,及びジャスモン酸またはジャスモン酸メチルに対する銀のモル比の全範囲において,高収量のタキサンを生産できるという技術常識もない。
したがって,900μM以下の銀を含み,ジャスモン酸又はジャスモン酸エステルに対する銀のモル比が9.5未満という,全範囲について,本件特許発明2が実施可能であることは,明細書において裏付けられていない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3では,銀の含有量の下限,及び銀に対するオーキシン関連成長調節因子のモル比の上限が規定されておらず,発明の範囲が不明確である。
また,本件訂正明細書の実施例10?17では,10?100μMの銀を添加した培地を用いてタキサンを生産した実験は記載されているが,10μM未満,又は100μM?900μMの範囲の銀を添加した培地を用いた実験は記載されていない。
さらに,実施例10?16で記載される,ナフタレン酢酸:チオ硫酸銀が,10:100(表14-IV,モル比=0.1)?10:10(表15-I,モル比1)であり,モル比が0.011より大きい全範囲についての実施例は記載されていない。
そして,本件特許発明3において特定する銀の含有量,及び銀に対するオーキシン関連成長調節因子のモル比の全範囲において,高収量のタキサンを生産できるという技術常識もない。
したがって,900μM以下の銀を含み,銀に対するオーキシン関連成長調節因子のモル比が少なくとも0.011であるという,全範囲について,本件特許発明3が実施可能であることは,明細書において裏付けられていない。

(4)小括
以上であるから,本件訂正後の請求項1については,特許を受けようとする発明が明確に記載されており,また,発明の詳細な説明において,本件訂正発明1を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものである。
しかし,本件特許時の請求項2及び3は,特許を受けようとする発明が明確に記載されておらず,また,発明の詳細な説明には,本件特許発明2及び3を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって,本件特許は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当する。

第8.むすび
したがって,本件特許は,特許法第123条第1項第1号,第2号及び第4号に該当し,無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
タキサス種の細胞培養によるタキサンの増強生産
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキサス種の細胞培養における高収量のタキサンの生産方法であって:カルスまたは懸濁培養由来のタキサス種の細胞を、増殖及び産物形成条件下、一つ以上の栄養培地中で、懸濁培養で培養すること、並びに前記細胞または前記細胞培養の培地、またはその両者から一種以上のタキサンを回収することを含み、ここで、前記一つ以上の栄養培地は10μM以上100μM以下の濃度の銀を、銀含有化合物または銀錯体または銀イオンの形で含み、そして前記一つ以上の栄養培地のうち少なくとも一つは、以下の群:
a)ジャスモン酸またはジャスモン酸エステル、及び
b)オーキシン関連成長調節因子
から選択される増強剤を含む、前記の方法。
【請求項2】
増強剤がジャスモン酸メチルであり、銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合、増強剤に対する銀のモル比が0.001と8の間の範囲である、請求項1の方法。
【請求項3】
増強剤がオーキシン関連成長調節因子であり、銀含有化合物がチオ硫酸銀である場合、銀に対する増強剤のモル比が0.011から1000の範囲の間である、請求項1の方法。
【請求項4】
一つ以上の栄養培地がタキサン前駆体も含む、請求項1の方法。
【請求項5】
タキサン前駆体がα-フェニルアラニン、β-フェニルアラニン、またはその混合物である、請求項4の方法。
【請求項6】
一つ以上の栄養培地がグルタミンも含む、請求項1の方法。
【請求項7】
一つ以上の栄養培地がグルタミン酸、アスパラギン酸、またはその混合物も含む、請求項1の方法。
【請求項8】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてマルトースを含む、請求項1の方法。
【請求項9】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてスクロースを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
一つ以上の栄養培地が炭素源としてグルコース、フルクトースまたはその混合物を含む、請求項1の方法。
【請求項11】
マルトース、スクロース、グルコース、フルクトースまたはその混合物が一次炭素源である、請求項7の方法。
【請求項12】
栄養培地が培養細胞増殖についてならびにタキソールおよびタキサンの生産について同一である、請求項1の方法。
【請求項13】
一種以上のタキサンの生産が栄養培地の組成を変えることによって誘導される、請求項1の方法。
【請求項14】
タキサン生産の間に少なくとも一度、栄養培地を交換することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項15】
培養段階の間に少なくとも一度、栄養培地を交換することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項16】
タキサン生産の間に培地からタキサンを除去することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項17】
タキサス種の細胞が給餌-バッチ法(fed-batch process)によって培養される、請求項1の方法。
【請求項18】
タキソールが細胞または細胞培養の培地、またはその両者から回収される、請求項1の方法。
【請求項19】
バッカチンIIIが細胞または細胞培養の培地、またはその両者から回収される、請求項1の方法。
【請求項20】
タキサス種が、タキサス ブレビフォリア(T.brevifolia)、タキサスカナデンシス(T.canadensis)、タキサス チネンシス(T.chinensis)、タキサス カスピダタ(T.cuspidata)、タキサスバッカタ(T.baccata)、タキサスグロボサ(T.globosa)、タキサス フロリダナ(T.floridana)、タキサス ウォリチアナ(T.wallichiana)またはタキサス メディア(T.media)である、請求項1の方法。
【請求項21】
タキサス種の細胞が、増強剤を含まない培地中のカルス培養または懸濁培養でのELISAによる背景値以上にタキソールを生産する、請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
背景技術
本発明はタキサス(Taxus)種の細胞培養によるタキソール、バッカチンIIIおよびその他のタキサンの増強生産および回収のための方法に関する。
【0002】
関連技術分野
タキサン供給課題
タキソールはセイヨウイチイ、Taxus brevifolia(Waniら、1971,J.Am.Chem.Soc.,93,2325-2327)の樹皮から単離されたジテルペノイド・アルカロイドである。タキソールに対する興味は、国立がん研究所(NCI)が大規模な検索計画において、樹皮の粗抽出液が抗腫瘍活性を示すことを発見したことから端を発した。それ以来、臨床的な試行により、タキソールが難治の卵巣癌、および乳癌およびその他の癌に対して非常に効果的であることが確認されてきた。タキソールは、その細胞傷害性の基本的に異なる機構、すなわち微小管の脱重合を阻害することによるがゆえに、化学療法における大発見とされてきた(Rowinskyら1 990,J.Natl.Cancer Inst.,82,1247-1259を参照)。
【0003】
タキソールにおける絶望的な要因は供給である。樹皮由来のタキソールは第一の商業薬品源として生産中止されており、大量生産は半合成、すなわち側鎖を植物由来の前駆体である10-デアセチルバッカチンIIIへ化学的に結合することにより実行されている。学術研究室による全合成はタキソールへの生存可能である商業的な手段として信頼は薄い。それゆえにコスト的に効果的であり、環境に優しく、およびタキソールの急増する需要に絶え得る堅実な供給源の開発が急務である。
【0004】
タキソールに加え、関連タキサン分子の商業的生産のための方法を開発することが急務である。タキソテアなどのタキソール誘導体が既に世界の市場に導入されている。さらに、利点の大きい活性を有する新規タキサン誘導体の発見および開発に多大な研究活性が集まっている。その利点とは、そこから得られるあらゆる誘導体が効果的に合成されるような適切な最初の「骨格」分子の、増加する大量の需要を作り出すようなものである。
【0005】
そのような分子の一例は前述の前駆体である10-デアセチルバッカチンIIIであり、それは半合成タキソールの開始点として使用される。タキソールおよびその他の誘導体の半合成生産のためのもう一つの望ましい開始分子はバッカチンIIIである。バッカチンIIIは通常、植物において主要なタキサンとして蓄積せず、それゆえこの分子の容易な大量の自然源は存在しない。しかし、この分子はタキソールに化学的に近いため、非常に望ましい半合成のための開始点である。例えば、10-デアセチルバッカチンIIIではなくバッカチンIIIが開始点であるならば、10-デアセチルバッカチンIIIの10位のアセチル化を必要とする工程は省略される。
【0006】
本発明はタキソール、バッカチンIIIおよびその他のタキサンの商業的な生産のための、植物細胞培養を基にした方法の開発に関連するものである。
植物由来の化学薬品の源としての組織培養
様々な培養計画のもとでの植物細胞の分裂、成長、および二次代謝物の生産の能力は多くの研究グループによって十分に示されている。まずは、2つの化合物、シコニン(赤色色素および抗炎症剤)およびジンセンゴシド(東洋医学における強壮剤)は日本において組織培養法により生産される。他の多くの方法は報告の通り、商品化に近いものであり、バニリン、ベルベリンおよびロスマリン酸(Payneら、1991,”Plant Cell and Tissue Cultures in Liquid Systems,”ハンザー出版、ミュンヘン、を参照)を含む。
【0007】
タキソール、バッカチンIII、およびタキサンのための植物細胞培養方法の利点は多く、(i)細胞培養法は産物が無限であり、連続的および一定の供給を保証し、害虫、災害、および季節の変動に左右されない、(ii)細胞培養は大きなバイオリアクターの中で培養が可能であり、環境の条件を操作することにより、興味の対象である化合物の過剰生産を誘発することが可能である、(iii)細胞培養は樹皮と比較して単一の範囲の化合物を生産し、または画一化する分離および精製がかなり不要である、(iv)細胞培養法は農業を基にした方法よりも需要の変化に迅速に順応することも可能である、(v)タキソール、バッカチンIIIまたはその他の前駆体の供給の他に、細胞培養法は、有利な生物活性の側面を示しまたはその他の生物活性を有する誘導体への変換も可能であるタキサン化合物の生産もまた可能である。
【0008】
無菌の、大規模の植物細胞培養は本来費用がかかり、細胞培養法は、これらの費用が高い生産性によって相殺されるときのみ商業的に妥当なものとなる。あらゆる植物種および標的代謝産物は異なり、個別の系毎に異なるアプローチが必要である。本発明はタキソール、バッカチンIIIおよびタキサンの生産のための生産性の高い植物細胞培養を得るための独創的で技術的なアプローチに焦点を合わせたものである。
【0009】
木本植物および針葉樹の組織培養における問題
文献上の歴史的な調査は、草本植物は比較的容易に培養操作ができるが、木本植物および針葉樹の生産的培養の達成は困難を伴うことを示唆する。
【0010】
裸子植物および針葉樹の培養を生産する二次代謝産物の成長は一般的に低かった。例えば、BerlinおよびWhite,(1988,Phytochemistry,27,127-132)はThuja occidentalisの培養はそのバイオマスが18日間で約30%しか増加しないことを発見した。Van Udenら(1990.Plant Cell Reports,9,257-260)はCallitris drummondiiの懸濁液が21日間で20-50%のバイオマスの増加を報告した。Westgateら(1991,Appl.Microbiol.Biotechnol.,34,798-803)は裸子植物Cephalotaxus harringtoniaの懸濁液につき約10日間の倍加時間を報告した。Bornman(1983,Physiol.Plant.57,5-16)によって要約されているように、エゾマツ懸濁液(Picea abies)のための培地の開発に対しては大量の努力が注がれた。これらの研究の集成は、裸子植物の懸濁液は実際に早く成長する能力を有すること、しかし一般法則は適用され得ないこと、および異なる細胞系列に対する培地の設定は独立に工夫しなければならないことを示している。
【0011】
裸子植物の培養間の二次代謝産物の生産性の調査もまた、草本植物と比較して高速生合成を含むことの難しさを指摘している。例えば、Cephalotaxus harring toniaの培養は、テルペンアルカロイドを親の植物に見られる量のわずか1%から3%の程度で生産した(DelfelおよびRothfus,1977,Phytochemistry,16,1595-1598)。成功した誘導においてさえ、Heinstein(1985,Journal of Natural Products,48,1-9)は親の植物において生産された程度に接近することのみが可能であった(約0.04%乾燥質量総アルカロイド)。Van Udenら(1990)はポドフィロトキシンを生産するために、針葉樹Callitris drummondiiの懸濁培養を誘導することが可能であったが、針によって生産された量の10分の1の程度のみであった。Thu ja occidentalisの有意な程度のモノテルペン(10-20mg/L)およびジテルペノイド・デヒドロフェルギノール(2-8mg/L)を生産する能力はBerlinら(1988)によって説得力をもって示されている。しかし、これらの結果は低成長速度(18日間で30%バイオマス増加)および低細胞密度(リットルあたり5から7グラム乾燥質量)の培養とともに得られた。
【0012】
タキサン生産のための細胞培養
裸子植物懸濁液において直面する早い成長および高生産性の達成における困難は、Taxus細胞培養におけるタキサンの生産に対するこれまでの報告に一般的に反映されている。
【0013】
Jaziriら(1991,J.Pharm.Belg.,46,93-99)は近年Taxus baccataのカルス培養を開始したが、イムノソーベントアッセイを用いたタキソールの検出は不可能であった。WickremesinheおよびArteca(1991,Plant Physiol.,96,(補足)p.97)はTaxus media(cv.hicksii)のカルス培養における0.009%乾燥質量タキソールの存在を報告したが、倍加時間、細胞密度、および報告されたタキソールの生産に要した時間についての詳細は示されなかった。
【0014】
米国特許第5,019,504号(Christenら、1991)はTaxus brevifoliの細胞培養によるタキサンおよびタキサン様化合物の産生および回収について記載した。これらの研究者は2から4週間の時間枠で1から3mg/Lの程度のタキソール生産を報告した。彼らはまた、「3-4週間で5-10倍」の細胞質量の上昇を報告しており、これは約7から12日の倍加時間に相当する。
【0015】
タキサン力価および体積上の生産性の有意な上昇は、経済的に成育可能な植物細胞培養法によって、計画された1年あたり数百キログラムの年間需要を供給する事を可能とするために必要とされている。
【0016】
発明の概要
本発明の対象は、早い成長、高い細胞密度、および高い細胞生存率を促進するための特別な環境条件の開発を含む(この研究において報告する成長の特性は、従来の結果にはるかに勝るものである)。
【0017】
本発明の目的は細胞系列の注意深い選択、培地条件の注意深い選択および操作、増強剤の取り込み、および方法を操作する様式の注意深い選択によって、高速でタキサンを生産することである。
【0018】
本発明の目的は培地の組成および環境条件を変化させることによってタキサンの生産を操作する能力を含む。特に、主要なタキサン産物としてタキソールまたはバッカチンIIIの生産を細胞に促進させること、および/または副産物セファロマニンの生産を抑制することも目的であり、それによって後工程での分離および精製の問題に、みごとな生物学的解決法を提供する。これらおよびその他の目的は本発明の一つまたはそれ以上の態様によって達成される。
【0019】
本発明者らは、タキソール、バッカチンIII、およびその他のタキソール様化合物、またはタキサンが、既知のあらゆるタキサン種、すなわち、brevifolia,canadensis,cuspidata,baccata,globosa,floridana,wallichiana,mediaおよびchinensisから非常に高い収量で産生されることを発見した。さらに、本発明の方法により、タキソール、バッカチンIII、およびその他のタキサンを既に報告されているよりも非常に短い時間で得ることが可能である。特に、本発明はTaxus chinensis種は急速な成長および極めて大量のタキソール、バッカチンIII、およびタキサンの短時間での生産が可能であることを発見した。Taxus chinensis種によって、本発明者らはタキソール、バッカチンIII、およびタキサンを他のTaxus種の組織培養から得られる量をはるかに上回る量で生産する細胞を操作することを可能にした。
【0020】
培養条件(すなわち、培地組成および操作状態)の特定の修飾は、任意のTaxus種の細胞培養から得られる様々なタキサンの収量を増強することが発見された。特に好ましい増強剤は、銀イオンまたは複合体、ジャスモニン酸(特にメチルエステル)、オーキシン関連成長調節因子、および3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸などのフェニルプロパノイド経路の阻害剤を含む。増強剤は単独でまたは互いに組み合わせて、または収量を増強するその他の条件で使用することも可能である。T.chinensisの植物細胞培養からのタキサンの収量はこれらの一つまたはそれ以上の条件の使用によって特有に増強されると同時に、全Taxus種からのタキサンの収量がこれらの条件の使用により向上することがわかった。
【0021】
一つの態様においては、本発明は、一つまたはそれ以上の栄養培地における成長および産物形成条件下での懸濁培養でTaxus種の細胞を培養すること、および前述の細胞または前述の細胞培養の前述の培地、または、カルスまたは懸濁培養に由来する細胞およびフェニルプロパノイド代謝の阻害剤を含む栄養培地の両方から1種またはそれ以上のタキサンを回収することを含むTaxus種の細胞培養における高収量のタキサンを生産する方法を供給する。フェニルプロパノイド代謝の適切な阻害剤は3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸、3,4-メチレンジオキシ桂皮酸、3,4-メチレンジオキシフェニルプロピオン酸、3,4-メチレンジオキシフェニル酢酸、3,4-メチレンジオキシ安息香酸、3,4-トランス-ジメトキシ桂皮酸、4-ヒドロキシ桂皮酸、フェニルプロピオン酸、フルオロフェニルアラニン、1-アミノベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ安息香酸、SKF-525A、シュウ酸アンモニウム、ビニルイミダゾール、ジエチルジチオカルバミン酸、およびシナピン酸を含む。
【0022】
より好ましい態様においては、本発明の方法において使用されている一つまたはそれ以上の栄養培地の少なくとも一つはまた、エチレン作用の阻害剤でもあり得る別の増強剤;ジャスモン酸またはジャスモン酸のエステル;またはオーキシン関連成長調節因子をも含む。特定のより好ましい態様においては、その他の増強剤とは、銀含有化合物、または銀錯体、または銀イオンであるところのエチレン作用の阻害剤である。別の特定の好ましい態様においては、その他の増強剤はジャスモン酸またはそのアルキルエステルであり、およびさらに好ましくは、ジャスモン酸にエステル化されているアルキル基は1から6個の炭素原子を有する。さらにより好ましい態様においては、増強剤はジャスモン酸またはそのアルキルエステルであり、およびその培地はまた銀含有化合物、銀錯体または銀イオンをも含む。別の特定の好ましい態様においては、その他の増強剤はインドール酢酸、ピクロラム、α-ナフタレン酢酸、インドール酪酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボキシル酸、または3,6-ジクロロ-o-アニス酸などのオーキシン関連成長調節因子である。
【0023】
別の態様においては、本発明は、一つまたはそれ以上の栄養培地における成長および産物形成条件下での懸濁培養でTaxus種の細胞を培養し、および前述の細胞または前述の細胞と前述の培地の両方から1種またはそれ以上のタキサンを回収することを含むTaxus種の細胞培養における高収量のタキサンを生産する方法を提供するが、その際細胞はカルスまたは懸濁培養に由来し、および、栄養培地は、ジャスモン酸またはジャスモン酸のエステルまたはオーキシン関連成長調節因子でありうる少なくとも1種類の増強剤とともに銀含有化合物、または銀錯体、または銀イオンの形態で900μMまたはそれ以下の濃度の銀を含む。好ましい態様においては、増強剤はジャスモン酸またはジャスモン酸のエステルであり、銀の増強剤に対するモル比は9.5未満である。別の好ましい態様においては、増強剤はオーキシン関連成長調節因子であり、銀の増強剤に対するモル比は少なくとも0.011である。
【0024】
上記の態様のいずれにおいても、一つまたはそれ以上の栄養培地は、α-フェニルアラニン、β-フェニルアラニン、またはその混合物でも有り得るタキサン前駆体をも含んでよい。上記の態様のいずれにおいても、一つまたはそれ以上の栄養培地は、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはこれらのアミノ酸の混合物をも含んでよく、または細胞の培養に使用する一つまたはそれ以上の栄養培地は、マルトース、スクロース、グルコースおよび/またはフルクトースを炭素源として、好ましくは一次炭素源として含んでよい。ある態様においては、栄養培地は細胞培養成長のためのものと、タキソールおよびタキサン産生のための物が同一である。別の態様においては、1種類またはそれ以上のタキサンの産生は栄養培地の組成物を変化させることによって培養中に誘導される。好ましい態様においては、培養における培地は周期的に交換され、一般的に培地の交換は、培養からのタキサンの周期的な除去を成し遂げる。好ましくは、前述のTaxus種の細胞は給餌-バッチ工程(fed-batch process)により培養される。
【0025】
一般的に、タキソールまたはバッカチンIIIおよび/またはその他のタキサンは、前述の細胞または前述の細胞培養の前述の培地、またはその両方から回収される。一般的に、本発明に従ったTaxus種の培養は、タキサン産生の期間を通して平均15mg/L/日のタキサンの平均体積生産性を提供する。タキソールの平均体積生産性は一般的に、タキソール産生の期間の推定で少なくとも10mg/L/日である。バッカチンIIIの平均体積生産性は一般的に、タキサン産生の期間の推定で少なくとも15mg/L/日である。
【0026】
好ましくは、本発明の方法に従って培養する細胞はTaxus種の細胞であり、その種はT.brevifolia,T.canadensis,T,chinensis,T.cuspidata,T.baccata,T.globosa,T.floridana,T.wallichianaまたはT.mediaであり得る。好ましくは、本発明の方法に使用したTaxus種の細胞は、増強剤を含まない培地でのカルス培養または懸濁培養におけるELISAにより背景値を上回るタキソールを生産する細胞である。より好ましくは、本発明の方法に使用したTaxus種の細胞は、チオ硫酸銀、メチルジャスモン酸およびオーキシンを含む培地において10mg/Lの平均体積生産性をもって懸濁培養においてタキサンを生産する細胞である。
【0027】
発明の詳細な説明
植物は長い間、薬剤および特別な化学物質の重要な原料を供給してきた。これらの産物は一般的に、回収した植物材料の抽出または化学的合成を通して得られていた。タキソールおよびタキサンは自然産物の検索から近年発見された最も重要な分類の抗癌剤の一つとなってきた。
【0028】
本明細書で使用されている「タキソール様化合物」または「タキサン」という用語は、タキサン環を有するジテルペノイド化合物を記述するために互換的に使用する。タキサンはそれ自身が抗悪性物活性を有し、または生物活性を有する化合物を産生するように修飾されることも可能である。「総タキサン」という用語は以下の実施例5に記載されているような特徴的なUV吸光度を示す全てのタキサンについて言及する。
【0029】
本明細書で使用されている「カルス」という用語は、構造的に未分化であり、固体化された培地において培養される培養植物細胞の集団を記述するために使用される。本明細書で使用されている「懸濁培養」という用語は、液体栄養培地において分散する構造的に未分化な細胞を記載するために使用する。懸濁培養は様々な凝集の段階にある細胞を含むことが理解されよう。凝集の大きさの範囲は、本発明に記載されている懸濁液において、直径10ミクロン(単一細胞またはほぼ未凝集の細胞)から、数千の細胞から成る直径数ミリメートルの凝集に至る範囲の大きさをもって計測される。
【0030】
本発明において有用な植物材料はあらゆる既知のTaxus種、たとえばbrevifolia,canadensis,cuspidata,bacatta,globosa,floridana,wallichiana(yunnanensisとも言及される),media,fastigiataおよびchinensis(sumatrama,celebica,およびspeciosaなどの同義の種,およびchinensis var.mairei亜種を含む)から得ることが可能である。特に、本発明者らは有意な量のタキソール、バッカチンIII、およびタキサンを高い体積生産性で産生する能力を有するものとしてTaxus chinensis種を同定した。
【0031】
本発明者らによって、特定のタキサン内容量は、植物種により、および組織源および特定の樹木に由来する植物種内において変化することが発見されている。タキサン産生のための高収量の源および培養を選択することが、医療使用のための十分な量のタキサンの供給に向けての重要な第一歩である。
【0032】
商業的適合性の基準
商業的な魅力およびタキサン産生のための与えられた植物細胞培養を基にした工程の成功性を判断するために数々の基準を使用することが可能である。そのような基準は、発酵費用、後での回収の容易性、および生産量を含む、工程の鍵となる要因の効果を特徴化および実証すべきである。ここに記載される基準は、ブロス力価および体積生産性である。
【0033】
ブロス力価は全体のブロスにおける産物の濃度として定義され、通常1リットルのブロスあたりのミリグラム数(mg/L)として表現される。定義により、全ブロス力価は産物の細胞内および細胞外の部分は区別しない。ブロス力価は典型的にはバッチまたは給餌-バッチ工程の効率評価に使用される。より高いブロス力価は、与えられた反応器の体積に対して産物の体積がより大きいこと、およびそれに付随して単位生産費用がより低いことを意味する。同様に、高力価産物は通常高収量で回収することが容易であり、単位生産費用の更なる改善へと導く。
【0034】
体積生産性は、単位反応体積あたり単位時間あたりに生産された産物の量として定義され、1リットルあたり1日あたりのミリグラム数の単位で表現される。タキサン産生の目的のために、時間の尺度は、収集および回収に先立つ、生産尺度において生産が起きる間の時間枠として定義する。体積生産性はバッチおよび給餌-バッチ工程の基準としての力価を補足するもので、産物が産生の間に除去される工程、例えば周期的培地交換または別の除去方法、の評価に特に有用である。高い体積生産性は、与えられた時間を通して与えられた反応体積に対する産物体積が大きいこと、およびそれに付随して単位生産費用がより低いこと、および全工程の性能の向上を意味する。
【0035】
体積生産性が生物学的工程の本来の能力を計測するために使用される場合、例えば工程開発の初期の段階においては、生産周期の最も生産的な部分、すなわち、生合成の速度がその最大であるときの短い期間での生産性を測定することが有用である。これは一般的に、最大瞬間体積生産性と呼ばれる。しかし、工程の性能の計測において、より適切な基準は、全体の生産時期を通して測定される生産性である平均体積生産性である。明らかに、最大の平均体積生産性を達成するためには最大瞬間生産性が生産時期の大部分を通して維持されなければならない。別に規定しないかぎり、「体積生産性」という用語は全体の生産時期に対して決定された平均体積生産性を意味する。一般に、生産時期は、生育培地を産生培地に置き換えること、またはタキサン産生において有意な増強を誘発する増強剤を添加することによる栄養培地の組成物の変化によって開始する。
【0036】
Taxus細胞株の開始
Taxus植物材料はその他の大陸と同様に北アメリカ全域から集められ得る。培養は生育に適したTaxusの組織を選択することから始められる。樹皮、形成層、針葉、幹、種子、球果、および根を含む植物のどの部分由来の組織でもカルスを誘導するために選択され得る。しかしながら、タキソールの収量を最良にするためには針葉および植物の分裂組織の部分が望ましい。最も望ましいのは針葉の新芽(生え始めてから1から3ヶ月)であり、これは一般にそれが黄緑色をしていることで同定され得る。”新芽”という語はその年の成育期のうちに生えた針葉を広く指している。
【0037】
培養物への汚染を防ぐために、組織は培地への導入に先だって表面を滅菌されるべきである。CLOROX(Clorox Companyの脱色剤の登録商標)処理等のどんな滅菌技術も有効である。それに加えて、セフォキシチン、ベンレート、クロクサシリン、アンピシリン、ゲンタマイシン硫酸塩、およびフォスフォマイシンのような抗生物質が植物材料の表面滅菌に用いられ得る。
【0038】
カルスの生育
培養物は典型的には生育中の形態、増殖量、生成物の性質、およびその他の性質に多様性を示す。個々の細胞株は培地の成分に対する親和性に多様性があり、数多くの異なる増殖培地がカルスの誘導および増殖に用いられ得る。
【0039】
適切な培地の組成は培養されている生物種によって異なる。異なる種に対する望ましい培地は表3に挙げられる。例えば、Taxus chinensisに対する望ましい増殖栄養培地は、他のものも用いられ得るものの、A,D,I,J,K,L,M,O,Pである。これらの培地は表2に挙げた成分を含むことが望ましい。技術を有する技術者はその量のいくらかの変化は細胞増殖に大きな影響を与えないことが認識し得るが、表2に示した量でその成分を含む培地を用いて培養が行われることが望ましい。
【0040】
例えば、培地Aが用いられるならば、成長ホルモンまたは調節因子は1ppbから10ppmの間の量で、望ましくは2ppbから1ppmの間の量で培地に含まれる。培地Dが用いられるならば、成長ホルモンまたは調節因子は1ppbから10ppmの間の量で、望ましくは2ppbから2ppmの間の量で培地に含まれる。その他の培地成分は表2に示された量の1/10から3倍までの濃度で含まれ得る。
【0041】
タキサンを大量に生成することはTaxus細胞を懸濁培養で増やすことによって可能になる。一般に、懸濁培養はカルス培養に成功した培地を用いて開始され得る。しかしながら、懸濁培養の必要性および特にタキサンの高い効率での生成のために、培地の修正が望ましい。Taxus細胞が修正され、本発明の方法によって特性を調節された培地中で培養された場合、培養物からの1種類あるいはそれ以上のタキサンの収量は有意に増加する。
【0042】
本明細書で用いられる”栄養培地”という語は、植物細胞のカルスの増殖および懸濁培養に適した培地を記載するために用いられる。”栄養培地”という語は一般的な語であり、”生育培地”および”産生培地”の両方を含む。”生育培地”と言う語は培養細胞の迅速な生育を可能にする栄養培地について記載するために用いられる。”産生培地”と言う語は培養細胞内でタキソール、バッカチンIIIおよびタキサンの生合成を可能にする栄養培地を指す。産生培地内で生育が起こり得、生育培地内で生成が起こり得、また最適な生育と生成が一つの栄養培地内で起こり得ることが理解されよう。
【0043】
懸濁増殖
Taxusの懸濁培養では迅速な増殖速度と他の植物細胞培養のように迅速で高い細胞濃度が可能である。しかしながら最適な細胞濃度は細胞株によって異なるので任意のどんな細胞株にたいしても迅速に最適化できるような手法が考えられなければならない。
【0044】
様々なTaxus種の培養物は多量および微量栄養塩類、炭素源、窒素源、ビタミン類、有機酸、天然および合成植物成長調節因子を含む栄養培地に移すことで生育させられる。特にTaxus細胞の懸濁培養用の栄養培地は典型的にはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン酸、硫酸、塩素、硝酸、およびアンモニウムと言った多量栄養分および銅、鉄、マンガン、モリブデン、亜鉛、ホウ素、コバルト、ヨウ素およびニッケルといった微量栄養分を補給する無機塩類を含む。この培地はまた、典型的にはミオイノシトール、チアミン、アスコルビン酸、ニコチン酸、葉酸、ピリドキシンおよび場合によっ.てビオチン、パントテン酸、ナイアシン、およびその類似物等のビタミン類をも含む。これらの成分は表2に列挙された濃度の1/30から30倍の範囲の濃度で存在し得、望ましくは表2に列挙された濃度の1/20から20倍の濃度で、さらに望ましくは表2に列挙された濃度の1/3から3倍の濃度で、および最も望ましくは表2に列挙された濃度で含まれ得る。
【0045】
栄養培地はまた1種類またはそれ以上の炭素源、および典型的には栄養培地内の全炭素の50%以上を供給するものである1次炭素源を含む。1次炭素源は望ましくはラクトース、ガラクトース、ラフィノース、マンノース、セロビオース、アラビソース、キシロース、ソルビトール、または望ましくはグルコース、フルクトース、スクロース、またはマルトースである。1次炭素源の濃度は0.05%(w/v)から10%(w/v)の範囲で有り得、望ましくは0.1%(w/v)から8%(w/v)の範囲で有り得る。
【0046】
栄養培地はまた、多量栄養塩類の形で加えられる任意の窒素源に加えて、望ましくは少なくとも部分的には有機栄養源(例えばグルタミン、グルタミン酸、およびアスパラギン酸のような1種類又はそれ以上のアミノ酸、またはタンパク質加水分解物)によって供給される窒素源をも含む。これらの有機窒素源は0.1mMから60mMの、望ましくは1から30mMの範囲の濃度の窒素を供給し得る。この培地はまた酢酸、ピルビン酸、クエン酸、オキソグルタル酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸およびそれらの類似物のような1種類またはそれ以上の有機酸をも含み得る。これらの成分は培地中に、0.1mMから30mMの濃度で、望ましくは0.5mMから20mMの濃度で含まれ得る。
【0047】
この培地はまた典型的にはピクロラム、インドール酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール酪酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボキシル酸、3,6-ジクロロ-o-アニス酸およびその類似物のようなオーキシン関連成長調節因子、N^(6)-ベンジルアデニン、6-[γ,γ-ジメチルアリルアミノ]プリン、キネチン、ゼアチン、N-フェニル-N’-1,2,3-チヂアゾール-5イル尿素(チジアズロン)および関連フェニル尿素誘導体およびその類似物のようなサイトキニン関連成長調節因子、GA_(3)、GA_(4)、GA_(7)およびGA誘導体のようなジベレリン、アブシジン酸やその誘導体、ブラシノステロイド、およびエチレン関連成長調節因子を含む1種類またはそれ以上の天然または合成植物成長調節因子をも含む。さらに別の適切なオーキシン関連植物成長調節因子は以下に列挙される。栄養培地は、例えば1種類以上のオーキシン関連調節因子、1種類以上のサイトカイニン関連調節因子のような単一の種別に属する1つ以上の成長調節因子を含み得ることに注意されたい。成長調節因子は培地中に10^(-10)Mから10^(-3)Mの間の濃度で、望ましくは10^(-8)から3x10^(-5)Mで、さらに望ましくは表2にあげられた濃度で含まれることが望ましい。
【0048】
他に記述がない限り、本明細書において定義される生育培地は、カルス培養培地および産生培地の通常の技術で最適化するために適切な開始点を提供する。当該技術分野における技能を有するものにとってはある種別の成分および任意の種別の成分を添加し、修飾し、操作することによって最適な結果を達成することは日常的技術範囲である。ある種の培地修飾は表および下記の実施例の中に供給される。
【0049】
液体培養物は空気のような好気的な環境に曝され、振とうされるか、あるいは撹拌されることで培養成分の適切な混合を可能にされることが望ましい。培養物は、適切な条件および/または環境下では0℃から33℃の範囲が可能であるものの、23℃から27℃の間の温度に保たれる。pHは約3から7の間で、望ましくは4から6の間で有り得る。培養物は様々な期間の間完全な暗黒から完全な照明(狭い周波数帯および/または広いスペクトル)下までの範囲の照明条件下で生育される。
【0050】
倍化速度は時間依存的にバイオマスの増加を調べることとともに、単に通常の部分培養の間の生育指数を調べることによって測定される。リットルあたり15から24グラムの最大乾燥重量濃度が達成される。様々なTaxus種懸濁物の生育特性は実施例4に詳述される。
【0051】
タキサン生成条件
懸濁培養物における2次代謝産物の形成が生育と同時に起こる場合、その代謝は生育に関連していると呼ばれ、1種類の培地を形成することが良好な生育と多量の生成を達成するのに十分で有り得る。他の多くの系においては迅速な生育と高度の生成物形成は同時には起こらないことが分かっている。このような場合は生育および生成相は分離され、それぞれの相に対する培地が独立に開発される(Payne et al.1991,Plamt Cell and Tissue Culture in Llquid Systems,Hanser publishers,Munichに概説されている)。Taxusにおけるタキサン生成の場合は、生育および生成物形成は分離され得、独立な培地がそれぞれに対して開発された。
【0052】
本発明の望ましい様式においては細胞増殖相の間の培地組成はタキサン生成相の間の培地組成とは異なる。例えば、炭素源、特に1次炭素源の種類と量が生育相と生成相では異なり得る。産生培地は生育培地におけるよりも多量の糖を含むことが望ましい。産生培地における糖の量は生育相における場合と比べて生成相において2から20倍多いことがより望ましい。1次炭素源はラクトース、ガラクトース、ラフィノース、マンノース、セロビオース、アラビノース、キシロース、ソルビトールであることが望ましく、またはグルコース、フルクトース、スクロース、またはマルトースであることが望ましい。1次炭素源の濃度は005%(w/v)から10%(w/v)の間で有り得、0.1%(w/v)から8%(w/v)で有ることが望ましい。タキソールまたはバッカチンの生成のために特に望ましい炭素源はマルトース、スクロース、グルコースおよび/またはフルクトースである。特に望ましい態様においてはこれらの糖は初期の栄養培地中に少なくとも3.5%の濃度で含まれる。
【0053】
ビタミン、アミノ酸のような有機窒素源を含む有機添加物の種類およびレベルは、下記の増強剤の存在またはレベルと同様に、培地において変化し、または異なるであろう。天然または合成の植物成長調節因子の同一性およびレベルは、培地間で異なるであろう。同様に、多量元素および微量元素の塩のレベルおよび種類も、生育および産生培地間で異なるであろう。好ましくは、塩含量は生育培地に比べ産生培地において減少され、所望により硝酸塩および硫酸塩は不均等に減少され、かつ、より好ましくは減少度は2-20倍の係数による減少である。しかし、この培養系に対し単一の生育/産生培地を設定することも可能であることは理解されよう。
【0054】
本発明の産生培地は、タキサン形成のみならず、タキソールまたはバッカチンIIIといった特定のタキサンの生成につながる直接的な細胞の生合成をも増加させる。さらに、セファロマニンのような夾雑副産物の生成は、樹皮組織に比べ最小化される。本発明の産生培地はまた、細胞の生存能力及び生合成の増加を促進し、さらに有意なレベルの産物を細胞外培地へ分泌させる。これらの特性は、タキサン生成の効率的な商業的スケール手法の運用において非常に重要である。
【0055】
細胞および培地よりタキソールおよびタキサンを抽出および回収する手法は、慣用された技術に基づく(例えば実施例5を参照)。イムノアッセイ(ELISA)技術は、商業的に入手可能なキットとしてHawaii Biotechnologyにより提供されるプロトコールに主として基づいた(本明細書に参照文献として記載されたGrothausら,1995,Journal of Natural Products,58,1003-1014をも参照)。抗体は、タキソールまたはバッカチンIIIといったいずれのタキサンにも特異的であってよく、または、タキサン骨格に対し、より非特異的であってもよい。高速液体クロマトグラフィーの手法は、実施例5に詳述された既存のプロトコールより僅かに変更された。本発明において用いられた条件の下で、タキサンピークの明確な分離が達成され、その結果、正確な検出および定量がなされた。タキサンでない成分が共溶出する可能性があるため、タキサンピークのスペクトル純度は、ピーク領域を混合する前にダイオードアレイにより慣例法で検査された。タキサン標準品の保持時間は実施例5に示されており、かつクロマトグラムの例示は図4に含まれている。
【0056】
高等植物にとって、光は植物本体、培養細胞いずれにおいても二次代謝における有効な因子である。光の強度および波長の双方が重要である(SeibertおよびK adkade 1980,”Plant Tissue Culture as a Source of Biochemicals”E.J.Staba編,CRC Press,Boca Raton,Florida,pp123-141)。例えば、通常フラボノイドおよびアントシアニン生合成は、強度の強い連続光により促進され、一方、他の代謝産物については、暗所で培養された細胞が好ましい。培養細胞の緑化または光合成能力の増加は、産物生成または産物の範囲をも増加させるであろう。本発明者らの研究は、広範囲のみならず特異的な狭い範囲の光源の利用にも関する。実施例7.3.に示されたように、光照射はタキソールの蓄積のみならず、培地への分泌の増加をも引き起こす可能性がある。タキソール生成に対する光の刺激効果は、タキサンの生合成に関する特異な制御機構の存在を示唆する。光受容体の特性および光により誘導される刺激の生化学的特性は未だ明らかでない。しかし、本発明によると、増強剤の導入が、最適の結果に対する光の役割をより重要でないものにする。
【0057】
不揮発性の溶存栄養分に加え、気体成分、主に酸素、二酸化炭素、およびエチレン(植物ホルモン)は、生育および産物生成において重要な役割を担っている。2つのパラメーターが重要である。生育およびタキソール生成を促進する溶存気体濃度は明らかに重要である。なぜなら、それらは反応装置を操作するする条件を規定するからである。さらに、最適な特定の濃度が維持されるよう、消費または生成の効率を反応装置の設計に考慮する必要がある。
【0058】
呼吸における重要性の他に、酸素は二次代謝産物の生合成の効率にも劇的な影響を与える。二次生合成経路において酸素を要求する過程に対する高い飽和定数は、反応装置内において細胞が高い酸素レベルに曝されていることを要求する。高い成長率を維持するためのCO_(2)添加の重要性が報告されている。植物ホルモンであるエチレンは、二次代謝を含む植物の生育および発生の全ての側面において、多面発現的な役割を担う(例えば、Payneら,1991を参照)。
【0059】
本発明者らは、ある気体濃度の様式が、培養細胞における生育および二次代謝を促進することを見出している。例えば、酸素濃度の範囲は、1%空気飽和から200%空気飽和まで、および好ましくは10%から100%の範囲、および最も好ましくは25%から95%の範囲において、培養と両立する。二酸化炭素濃度の範囲は、0.03%(培地と平衡にある気相におけるv/v)から15%(v/v)まで、および好ましくは0.3%から8%(v/v)の範囲において、培養と両立する。溶存気体の最適濃度は、細胞代謝により異なる可能性があり、例えば、速い成長を行っている細胞は、典型的に高めの酸素レベルを好み、かつ、高めの二酸化炭素レベルに対して感受性がより低いタキサン生合成中の細胞とは異なる最適値を有するであろう。最適値はまた、培養の速度論によっても異なる可能性があり、例えば、遅滞期にある細胞は、対数増殖期にある細胞とは異なる溶存気体濃度を好むであろう。
【0060】
溶存気体は、他の培養成分および増強剤と多様な様式により相互作用するであろう。例えば、酸素の要求は、生合成の誘導または刺激により変化するであろう。傷害反応としての呼吸効率の上昇は、植物培養細胞が誘導を受けた際に一般的に観察される。エリシターまたは刺激物は、それらの機能をエチレンを通じ仲介し、または二次代謝の促進とは独立にエチレン生成に影響を与えるであろう。その場合、微生物由来のエリシター調製物をエチレンに置換し、かつエリシター調製物中の他の微生物由来成分に関連する毒性を恐らく抑制することが望ましいであろう。あるいは、エチレンの作用を抑制し、従ってエリシターまたは刺激物が二次代謝をより独占的、従ってより効率的な方法で促進できるようにすることは有利であろう。下記のように、エチレン作用に影響を与えることが知られている成分である銀イオンは、実際タキサン生合成を有利に変化させる。
【0061】
増強剤
二次代謝産物の生成は複雑な過程であり、究極的に二次代謝産物に変換されるべき前駆体を生成しかつ順々に修飾する、多数の異なる酵素の協調した作用を要求する。同時に、二次代謝産物生成は、他の酵素が目的の代謝産物の前駆体を代謝し、二次代謝産物を構築するのに必要な前駆体プールを流失させる場合には低下するであろう。
【0062】
低い生成または引き続く変換による利用可能な前駆体の量の制限、前駆体または中間産物の下流中間産物への変換の制限、または関連酵素の活性の制限は、二次代謝産物の生成を限定するであろう。いずれの特定の培養系においても、二次代謝産物が生成される効率は、前駆体が二次代謝産物に変換される経路において律速段階を形成する、これらの限定要因のうちの一つにより制御されるであろう。律速段階の原因となる限定要因の緩和は、当該培養系の二次代謝産物生成効率を、経路の他の過程が律速となる点にまで上昇させるであろう。生成効率全体を限定する特定の過程は、限定要因を緩和する作用と同様に、培養系間で異なるであろう。
【0063】
タキサンは一連の多数の酵素過程を通じて生成される二次代謝産物であり、本発明者らは、タキサン生合成における一つまたはそれ以上の効率限定過程を緩和する、複数のクラスの増強剤をつきとめた。これらの増強剤のうち一つのタキサン生成細胞への添加は、タキサンの生成効率を増加させる。さらに本発明者らは、本明細書中に記載されている増強剤の利用が、大部分のタキサン生成培養細胞において、少なくともいくつかの促進効果を示すであろうことを決定しており、生成効率全体が単一の効率限定過程ではなく、複数の限定要因の間の複雑な相互作用により決定されていることを示唆している。促進の程度は、一旦ある種の限定要因が緩和された際にタキサン生合成における他の過程の相対的限定効果を決定する、特定の細胞の状態に依存するであろうが、いずれか一つの限定要因の緩和はタキサン生成を増加させるであろう。多種の限定要因間の相互作用に影響する培養条件は、細胞の遺伝的構成、培地の組成および気体環境、温度、光照射および過程のプロトコールを含み、かつ特定の培養系に添加される増強剤は、本明細書中に示されたように個別の増強剤の効果を比較することにより経験的に決定されるであろう、当該培養系の限定要因の観点より通常選択されるであろう。さらに、培養系に一つより多い増強剤が存在する場合に、タキサン生成の更なる増加が達成されるであろうことが発見されている。
【0064】
本発明の意図する代表的な増強剤は表1に例示されている。本発明の増強剤は、複数の一般的なクラスに分類されるであろう。それらのクラスは、抗褐色化剤、抗老化剤、抗エチレン剤、オーキシン関連成長調節因子、前駆体、阻害剤、エリシター、刺激物およびジャスモン酸関連化合物といった植物成長調節因子である。
【0065】
本発明の意図する増強剤の一つのクラスは、抗褐色化剤である。本明細書中で使用されている「抗褐色化剤」の用語は、細胞培養過程における色素の形成を阻害するため栄養培地に添加される成分を示す。これらの色素は、細胞成長、生存能力、および産物生成に有害な影響を及ぼすことが一般的に観察される、フェノール類および関連化合物を含む。本発明の栄養培地において用いられる典型的な抗褐色化剤は、アスコルビン酸である。典型的には、抗褐色化剤は培地中に10ppbから1000ppmの範囲の濃度となるよう添加されるであろう。
【0066】
他の種別の増強剤は抗老化剤である。抗老化剤は細胞を老化より防護する、生物学的または非生物学的起源の物質である。この様な薬剤は例えば、老化を促進する化合物の生成を防ぐ、老化促進物質の活性を抑える、ラジカル除去剤または抗オキシダント活性を提供する、細胞性の膜及び小器官の無傷な状態を守護する、またはその他の機構により反応可能である。この様な薬剤にはエチレン反応の拮抗剤、スペルミン、スペルミジン、ジアミノプロパン、及びその類似物質等のポリアミン及びその代謝産物、抗褐色化剤、フェノール産物の阻害剤、及びラジカル除去剤、例えば還元型グルタチオン、没食子酸プロピル、及びβ-メルカプトエタノールアミン等のスルフヒドリル化合物を含む。
【0067】
抗エチレン剤はエチレン生成またはエチレン反応を阻害する物質として定義される。エチレン代謝を阻害する抗エチレン剤は、エチレン生合成拮抗剤及びエチレン反応拮抗剤へとさらに分類される可能性がある。エチレン生合成拮抗剤は、エチレンの生合成経路を阻害する化合物である、この生合成経路に沿った阻害される酵素の例はACC合成酵素、ACC酸化酵素、及びエチレン酸化酵素を含む。エチレン生合成拮抗剤の例はα-アミノイソ酪酸、アセチルサリチル酸、メトキシビニルグリシン、アミノオキシ酢酸、及びその類似物を含む。
【0068】
エチレン活性拮抗剤の例は、銀を含有する化合物、銀錯体、または銀イオン、二酸化炭素、1-メチルシクロプロペン、2,5-ノルボルナジエン、トランス-シクロオクテン、シス-ブテン、ジアゾ-シクロペンタジエン、及びその類似物を含む。適切な銀塩は硝酸銀、チオ硫酸銀、リン酸銀、安息香酸銀、硫酸銀、トルエン硫酸の銀塩、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀、シアン酸銀、乳酸の銀塩、ヘキサフルオロリン酸銀、亜硝酸銀、及びクエン酸の三銀塩を含む。多種の銀塩によるタキサン生合成の増強の例は例10に示す。
【0069】
抗エチレン剤は培地に10ppbから1000ppmの程度で含有させることが可能である。培地に銀が含まれる場合、銀は濃度が900μM未満、好ましくは500μM未満、更に好ましくは200μM未満になるよう添加する。培地に銀が含まれる場合、銀は濃度が少なくとも10nM、好ましくは少なくとも100μM、更に好ましくは少なくとも1μM、及び一般的には10μM添加する。
【0070】
本発明において想定される増強剤は、植物成長調節因子、特にオーキシン、オーキシン様の活性を持つ化合物、及びオーキシン拮抗剤を含むオーキシン関連成長調節因子を含む。オーキシン関連成長調節因子は、一般的には濃度が10^(-10)Mと10^(-3)Mの間で、好ましくは10^(-8)と10^(-5)Mの間で培地に含ませる。最も好まれるオーキシン関連成長調節因子の例は、1-ナフタレン酢酸、2-ナフタレン酢酸、1-ナフタレンアセトアミド/ナフチルアセトアミド、N-(1-ナフチル)フタルアミド酸、1-ナフトキシ酢酸、2-ナフトキシ酢酸、β-ナフトキシ酢酸、1-ナフトキシアセトアミド、3-塩化フェノキシ酢酸、4-塩化フェノキシ酢酸、4-ヨウ化フェノキシ酢酸、インドールアセトアミド、インドール酢酸、インドイル酢酸、インドールアセチルロイシン、γ-(3-インドール)酪酸、4-アミノ-3,5,6-トリクロロピコリン酸、4-アミノ-3,5,6-トリクロロピクリン酸メチルエステル、3,6-ジクロロ-o-アニス酸、3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボン酸、フェニル酢酸、2-ヨウ化フェニル酢酸、3-ヨウ化フェニル酢酸、2-メトキシフェニル酢酸、クロロプロファム(イソプロピル-3-クロロカルバニレート)、4-塩化インドール-3-酢酸、5-塩化インドール-3-酢酸、5-臭化-4-塩化-3-インドイル酪酸、インドールアセチルフェニルアラニン、インドールアセチルグリシン、インドールアセチルアラニン、4-塩化インドール、p-塩化フェノキシイソ酪酸、1-ピレノキシル安息香酸、リソホスファチジン酸、1-ナフチル-N-メチルカルバミン酸、及びエチル-5-塩化-1H-インダゾール-3-イル酢酸-3-インドールブタン酸を含む。その他の好まれるオーキシン関連成長調節因子の例は、ナフタレン-2,6-ジカルボキシル酸、ジ無水ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボキシル酸、ナフタレン-2-スルホンアミド、無水4-アミノ-3,6-ジスルホ-1,8-ナフタリン酸、3,5-ジメチルフェノキシ酢酸、1,8-ナフタルイミド、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、2,3-ジクロロフェノキシ酢酸、2,3,5-トリクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-塩化フェノキシ酢酸、ニトロフェノキシ酢酸、DL-α-(2,4-ジクロロフェノキシ)プロピオン酸、D-α-(2,4-ジクロロフェノキシ)プロピオン酸、4-臭化フェノキシ酢酸、4-フッ化フェノキシ酢酸、2-ヒドロキシフェノキシ酢酸、5-塩化インドール、6-塩化-3-インドイル酢酸、5-フッ化インドール、5-塩化インドール-2-カルボン酸、3-塩化インドール-2-カルボン酸、インドール-3-ピルビン酸、5-臭化-4-塩化-3-インドイル酪酸、6-塩化-3-インドイル酪酸、キノリン-2-チオグリコール酸、アミノフェニル酢酸、3-ニトロフェニル酢酸、3-塩化-4-ヒドロキシ安息香酸、クロルフルレノール(2-クロロ-9-ヒドロキシフルオレン-9-カルボン酸)、6-塩化-3-インドイル酢酸、N-(6-アミノヘキシル)-5-塩化-1-ナフタレンスルホンアミドヒドロクロライド、2-塩化-3(2,3-ジクロロフェニル)プロピオンニトリル、o-塩化フェノキシ酢酸、6,7-ジメトキシ-1,2-ベンゾイソキサゾール-3-酢酸、3-オキソ-1,2-ベンゾイソチアゾリン-2-イル酢酸、マストパラン、2,3,5-トリヨード安息香酸、2-(3-塩化フェノキシ)プロパン酸、及びメコプロップ(2-(4-クロロ-2-メチルフェノキシ)プロパン酸)を含む。他のオーキシン関連成長調節因子に適した例は、ナフトエ酸ヒドラジド、2,4-ジブロモフェノキシ酢酸、3-トリフルオロメチルフェノキシ酢酸、オキシインドール、インドール-2-カルボン酸、インドール-3-乳酸、β-(3-インドール)プロピオン酸、2-臭化フェニル酢酸、3-臭化フェニル酢酸、2-塩化フェニル酢酸、3-塩化フェニル酢酸、2-メチルフェニル酢酸、3-メチルフェニル酢酸、3-トリフルオロメチルフェニル酢酸、3-メチルチオフェニル酢酸、フェニルプロピオン酸、4-塩化-2-メチルフェニルチオ酢酸、2-塩化安息香酸、3-塩化安息香酸、2,3-ジクロロ安息香酸、3,4-ジクロロ安息香酸、2,3,5-トリクロロ安息香酸、2,4,6-トリクロロ安息香酸、2-ベンゾチアゾールオキシ酢酸、2-塩化-3-(2,3-ジクロロフェニル)プロプオンニトリル、2,4-ジアミノ-s-トリアジン、無水ナフタル酸、ジケグラック(Dikegulac)(2,3:4,6-ビス-O-(1-メチルエチリデン)-α-L-キシロ-2-ヘキスロフラノソン酸(hexulofuranosonic acid))、クロルフルレノールメチルエステル、2-(p-塩化フェノキシ)-2-メチルプロピオン酸、2-塩化9-ヒドロキシフルオレン-9-カルボン酸、2,4,6-トリクロロフェノキシ酢酸、2-(p-クロロフェノキシ)-2-メチルプロピオン酸、エチル4-(塩化-o-トリルオキシ)酪酸、[N-(1,3-ジメチル-1H-ピラゾール-5-イル)-2-(3,5,6-トリクロロ-2-ピリジニル)オキシ]アセトアミド、4-塩化-2-オキソベンゾチアゾリン-3-イル-酢酸、2-(2,4-ジクロロフェノキシ)プロパン酸、2-(2,4,5-トリクロロフェノキシ)プロパン酸、4-フッ化フェニル酢酸、3-ヒドロキシフェニル酢酸、オルソニル(2(β-クロロ-β-シアノエチル)-6-クロロトルエン)、3,4,5-トリメトキシ桂皮酸、2(3,4-ジクロロフェノキシ)トリエチルアミン、インドール-3-プロピオン酸、イオキシニルナトリウム(Sodium Ioxynil)(4-ヒドロキシ-3,5-ジヨードベンゾニトリル)、2-ベンゾチアゾール酢酸、及び(3-フェニル-1,2,4-チアジアゾール-5-イル)チオ酢酸を含む。
【0071】
他の種別の植物成長調節因子も増強剤として栄養培地に含ませることが可能である。これらは、N^(6)-ベンジルアデニン、6-[γ,γ-ジメチルアリルアミノ]プリン、キネチン、ゼアチン、N-フェニル-N’-1,2,3-チジアゾール-5-イル尿素(チジアズロン)、及び関連フェニル尿素誘導体、及びその類似物等の、サイトカイニン関連成長調節因子、GA_(3)、GA_(4)、GA_(7)、及びGA誘導体等のジベレリン類、アブシジン酸及びその誘導体、ブラシノステロイド、及びエチレン関連成長調節因子を含む。これらの成長調節因子は濃度が10^(-10)Mと10^(-3)Mの間で、好ましくは10^(-8)Mと10^(-5)Mの間で培地に含ませることが可能である。
【0072】
他の種別の増強剤は前駆体または生合成前駆体である。本明細書中で使用する「前駆体」という用語は、栄養培地に加えられ細胞により代謝され及び取り込まれたタキソール及びタキサンになる化合物を示すために使用される。適した前駆体は、酢酸、ピルビン酸及びその類似物、α-フェニルアラニン、β-フェニルアラニン(3-アミノ-3-フェニルプロピオン酸)、フェニルイソセリン、N-ベンゾイルフェニルイソセリン、安息香酸、シキミ酸、グルタミン、桂皮酸、及びその類似物などイソプレノイド化合物の前駆体を含む。これらの分子の誘導体も又前駆体として適している。
【0073】
他の種の増強剤は阻害剤である。阻害剤は酵素性または他の細胞性活性を阻害する化合物である。本明細書で使用する「代謝阻害剤」という用語は、栄養培地に加えられ、特定の生合成経路を阻害する化合物を示すために使用される。例えば、代謝阻害剤は、初期の生合成前駆体に関し競合する種々の経路を阻害することにより、タキソール、バッカチンIII、または他のタキサン生合成を増強するために使用することが可能である。この種の特に効果的な増強剤は、桂皮酸またはその誘導体の合成または代謝を阻害することが可能な化合物であるフェニルプロパノイドの代謝阻害剤を含む。これら化合物は、好ましくはp-クマル酸、4-フッ化-DL-チロシン、4-メトキシ安息香酸、3-ジメチルアミノ安息香酸、4-メトキシ桂皮酸、4-ニトロ桂皮酸エチルエステル、4-ニトロシンナムアルデヒド、メルカプトエタノール、4-ヒドロキシクマリン、シンナミルフルオレン、2-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シンナミルイデンマロン酸、4-ジメチルアミノ桂皮酸、N-シンナミルピペラジン、N-トランス-シンナモイルイミダゾール、2-アミノインダン-2-ホスホン酸、ベンジルヒドロキシルアミン、プロカイン、モネシン、N-(4-ヒドロキシフェニル)グリシン、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3-(2-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、さらに好ましくは、D-フェニルアラニン、N-(2-メルカプトプロピオニル)グリシン、及びその酢酸塩複合体、DL-メタフルオロフェニルアラニン、p-フッ化-DL-フェニルアラニン、ジチオスレイトール、4-フッ化桂皮酸、トランス-3,4-ジフルオロ桂皮酸、3,4-ジフルオロ-D-フェニルアラニン、ジエチルジチオカルバン酸、4-フッ化-(1-アミノ-2-フェニルエチル)ホスホン酸、3,4-メチレンジオキシ安息香酸、及び最も好ましくは、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸、3,4-メチレンジオキシ桂皮酸、3-[3,4-メチレンジオキシフェニル]プロピオン酸、3,4-メチレンジオキシフェニル酢酸、4-フッ化-L-フェニルアラニン、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、4-フッ化-DL-チロシン、トランス3,4-ジメトキシ桂皮酸、フェニルプロピオル酸、L-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸、2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ安息香酸、SKF-525A(α-フェニル-α-プロピルベンゼン酢酸の2-(ジエチルアミノ)エチルエステル)、ビニルイミダゾール、オキサル酸アンモニウム、シナプ酸、及び1-アミノベンゾトリアゾール、及び関連類似物質を含む。培地に含ませる場合、阻害剤は濃度が10ppbと1000ppmの間で、好ましくは濃度が100ppbと100ppmの間で、更に好ましくは濃度が1ppmと50ppmのあいだで加える。
【0074】
培養細胞中のタキソール、バッカチンIII、及び他の関連タキサンの収量を増進するために、本発明者らは多くのアプローチを試みた。生産性を増強させる方法の一つは、エリシターと呼ばれるものの使用である。本明細書で使用する「エリシター」という用語は、植物または培養植物細胞に添加したときに二次的代謝産物の増加を引き起こす、生物学的及び非生物学的起源の化合物を意味するために使用する(Eilert 1987,”Cell Culture and Somatic Genetics of Plants,”Vol.4,F.Constabel and I.K.Vasil(eds.),Academic Press,New York,pp.153-196;Ebel,1984,Bioregulators:Chemistry and Uses.257-271;and Darvill et al.,1984,Ann.Rev.Plant Physiol.,35,243-275)。多くの異なる化合物がその起源の性質及びその細胞代謝における活性の方法に依存してエリシターとして機能することが可能である。当該研究分野において、本発明は二つの主要な種類のエリシターを使用した。1)通常は選別された菌類、細菌類、及び酵母の集団の細胞壁抽出物または濾過物、及びその精製画分を含む生物的エリシター。2)生物起源の化合物と同様な、化学的なストレス剤を含む非生物的エリシター(表1に一覧されたエリシターを参照)。加えて、重金属イオンを含む塩及び複合体も、効果的な非生物的エリシターとみなすことが可能である。これらは、コバルト、ニッケル、ランタン、セレニウム、バナジウム、鉛、カドミウム、クロム、アルミニウム、ヨウ素、バリウム、ビスマス、リチウム、ルビジウム、ストロンチウム、及び金などの例を含む。特筆すべきは、エリシター効果を伝達するある種の化合物、例えば下記に示すジャスモン酸関連化合物もエリシターとみなすことが可能であるということである。
【0075】
Christenらは(1991)Taxus brevifoliaの懸濁によるタキソールの生産のための菌類のエリシター及び選別された化合物の使用について報告している、しかし、エリシター処理に起因するタキソール蓄積程度の増加については特定していない。
【0076】
一般的には、2種類のエリシター効果(タキサンの培地中への分泌並びにタキサンの培養細胞への蓄積)発生の範囲はエリシター間で及び種間で異なるが、両種のエリシターは共に効果的である。最高の生産性増加はキトサングルタメート、リケナン、フェルラ酸、及び安息香酸により達成される。キトサン及びリケナンは微生物の細胞壁由来の多糖類複合体である。キトサンは単独で用いると培地に不溶であり、及び毒性があり、及び永久的に細胞に損傷を与える。一方キトサングルタメートは培地に容易に溶け、及び細胞の生育に影響を与えない。フェルラ酸及び安息香酸は生物起源の合成化学物質であり、及び一般的には生体系では抗オキシダントとして使用される。
【0077】
エリシター及び代謝ストレス剤は、本発明によれば、タキソール、バッカチンIII及び全タキサンを生産させ及び培養組織への分泌を最大にするために、エリシターの特異性、濃度、タイミングおよび添加継続時間を培養年齢及び培地組成の関数として評価して使用されるであろう。
【0078】
本発明において意図される他の種別の増強剤は刺激剤である。本明細書で使用する刺激剤という用語は、栄養培地に加えられ、特定の生合成経路をしげきまたは活性化する(例えば生合成を導く)化合物を示すために使用される。
【0079】
ジャスモン酸関連化合物は二次的代謝生合成を刺激することによりエリシター効果反応に寄与する種別の化合物である。ジャスモン酸関連化合物は、ジャスモン酸、及びメチルジャスモン酸、エチルジャスモン酸、プロピルジャスモン酸、ブチルジャスモン酸、ペンチルジャスモン酸、ヘキシルジャスモン酸などのそのアルキルエステル、ジヒドロジャスモン酸、及びメチルジヒドロジャスモン酸、エチルジヒドロジャスモン酸、n-プロピルジヒドロジャスモン酸、ブチルジヒドロジャスモン酸、ペンチルジヒドロジャスモン酸、ヘキシルジヒドロジャスモン酸などのそのアルキルエステル、エピメチルジャスモン酸、フッ化メチルジャスモン酸、シス-ジャスモン、イソジャスモン、テトラヒドロジャスモン、12-オキソフィトジエン酸、ジヒドロジャスモン、ジャスモニル酢酸、アプリトン、アミルシクロペンテノン、ヘキシルシクロペンテノン、ヘキシルシクロペンタノン、及びその関連誘導体及び類似物質を含む。ジャスモン酸関連化合物は濃度が10^(-9)Mと10^(-3)Mの間で、好ましくは濃度が10^(-6)と5×10^(-4)Mの間で、更に好ましくは濃度が10^(-5)Mと2×10^(-4)Mの間で培地に含ませる。特筆すべきは一種以上のジャスモン酸関連化合物を栄養培地に含ませることが可能であるということである。ジャスモン酸関連化合物、オーキシン関連成長調節因子、前駆体、及びその他の栄養物質は、これら化合物が培養中において代謝されることにより濃度が変化するということは当業者により認識されよう。特に示さない限り、本明細書において列挙された濃度は栄養培地における初期濃度を記載する。
【0080】
以下に述べる最低二種以上の種類の増強剤からの増強剤を組み合わせると、いかなる一種の薬剤を単独で用いたときに観察される最高の増強をも上回るTaxus細胞によるタキサン生産の増強を示す。これらの種別の増強剤は、エリシター、ジャスモン酸関連化合物、エチレン作用の阻害剤、フェニルプロパノイド代謝の阻害剤、抗老化剤、前駆体、及びオーキシン関連成長調節因子である。つまり、好まれる手法において、本発明は、少なくとも二種のこれらの薬剤群から選択された増強剤の存在下におけるTaxus種細胞の培養により一種またはそれ以上のタキサンの生産を増強させる方法を提供する。
【0081】
好まれるタキサンの生産方法はエチレン作用の原型阻害剤である銀を、少なくとも一種の他の増強剤と組み合わせて用いる、特に好まれる方法においては、その他の増強剤はジャスモン酸メチルであるか、または3,4-メチレンジオキシニトロ桂皮酸等のフェニルプロパノイド代謝の阻害剤である。
【0082】
お互いに組み合わせて使用する場合、ジャスモン酸関連化合物及びエチレン作用阻害剤は培地にお互いに特定の割合で含ませることができる。例えば、ジャスモン酸メチル及びチオ硫酸銀を組み合わせて用いる場合、ジャスモン酸メチルのチオ硫酸銀に対するモル比は0.0001から9.5の範囲の間で、好ましくは0.001と8の間の範囲で、更に好ましくは0.1と7の範囲の間で、最も好ましくは1と5の範囲の間でになるであろう。
【0083】
お互いに組み合わせて使用する場合、オーキシン関連成長調節因子及びエチレン作用阻害剤は培地にお互いに特定の割合で含ませることができる。例えば、オーキシン関連成長調節因子及びチオ硫酸銀を組み合わせて用いる場合、オーキシン関連成長調節因子のチオ硫酸銀に対するモル比は0.011から1000の範囲の間で、好ましくは0.015と100の間の範囲で、更に好ましくは0.02と50の範囲の間で、最も好ましくは0.05と30の範囲の間になるであろう。
【0084】
一般的には、Taxus細胞をタキサンの生産のために培養する場合、一種またはそれ以上のオーキシン関連成長調節因子を培養培地に加える。オーキシン関連成長調節因子の存在は細胞の成長を促進するが、より重要な事項は培養によるタキサンの生産を増強することである。少なくとも一種の他の増強剤をオーキシン関連成長因子と同時に添加することにより、さらなる増強を得ることが可能である。
【0085】
本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、一種またはそれ以上のタキサンの生産量を増強剤が存在しないときの生産量の相対比で、少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍、更に好ましくは少なくとも10倍、更に好ましくは少なくとも30倍に増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、タキソールの容積測定生産性を、少なくとも10mg/L/day、好ましくは少なくとも15mg/L/day、更に好ましくは少なくとも22mg/L/dayに増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、タキソールの全ブロス力価を、少なくとも150mg/L、好ましくは少なくとも200mg/L、更に好ましくは少なくとも350mg/Lに増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、バッカチンIIIの容積測定生産性を、少なくとも15mg/L/day、好ましくは少なくとも20mg/L/day)更に好ましくは少なくとも25mg/L/dayに増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、バッカチンIIIの全ブロス力価を、少なくとも100mg/L、好ましくは少なくとも150mg/L、更に好ましくは少なくとも250mg/Lに増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、タキサンの容積測定生産性を、少なくとも15mg/L/day、好ましくは少なくとも25mg/L/day、更に好ましくは少なくとも40mg/L/dayに増強する。他の本発明において好まれる方法において、一種またはそれ以上の増強剤を十分量培地に添加することにより、タキサンの全ブロス力価を、少なくとも200mg/L、好ましくは少なくとも300mg/L、更に好ましくは少なくとも400mg/Lに増強する。
【0086】
以上に増強剤として示した多くの化合物は他の植物系においても使用された。これら非Taxus系における公式化、管理、及び適切な生理的濃度水準は当該技術者に、本発明と同値のこれら薬剤を適用する手引きを提供する。
【0087】
細胞材料
本発明の方法において培養に適する細胞はTaxusのいかなる種由来でもあることができる。好ましくは、細胞は、生来タキサンを比較的高収量で生産する細胞系由来であると良い。特に、この様な細胞は一種またはそれ以上のタキサンを標準条件下で高水準で生産する、または標準条件下でタキサンの高い平均容積測定生産性を示す能力を有している。適切な細胞系は、細胞系の細胞を標準タキサン生産条件下で培養し、及び培養液における生産された一種またはそれ以上のタキサンの水準を観察し、または以下に述べる手段により培養液中の細胞による一種またはそれ以上のタキサンの平均容積生産性を決定することにより単離することが可能である。
【0088】
試験手段産生培地において使用される細胞は特定の細胞系に適応した適当な培地において生育する。対数増殖期の終了の後、細胞の一部をタキサンの生産試験のために培養する。カルス培養は固形培地が使用してもよいが、生産培養は、一般的に液体培地で行われる。生産培養においては、細胞は表2におけるN培地、スクロースを7%(w/v)マルトースで代用するのを除いては表2におけるのと同様のN培地、または特定の細胞系の生育及び維持を最大限にする栄養培地において培養される。生産培養においては、細胞密度は新鮮な重量を基本として15-20パーセント(w/v)の範囲であるべきである。細胞は10-20日間、25度+/-2度において暗条件で培養する。液体培養は適切に揺り動かし及び空気にさらすべきである、例えば、旋回式振盪機で120-180rpm。
【0089】
細胞系の特徴を評価する生産培養は適した増強剤を含む。一般的には六種の選択的増強カクテル(最高五種の増強剤の組み合わせ)を各々の細胞系に対し試験する。組み合わせは以下の表Aに示す。
【0090】
培養の終了時に培養における個々のタキサンの力価を、本明細書で示したELISA分析を行うことにより測定することができる、または、培養において生産されたタキサンのプロフィールを、実施例5において示したようにHPLC解析により決定することができる。好まれる細胞系は一種またはそれ以上のタキサンを、一種またはそれ以上の増強カクテルにおける最低目標タキサン水準を越えて生産する。好まれる細胞系は、少なくとも一種の増強カクテルにおいて、及び、更に好ましくは二種またはそれ以上の増強カクテルにおいて、力価及び生産性の双方の目標水準を越える。適した細胞系の生産培養終了時の最低目標タキサン力価は、少なくとも100mg/Lタキサンである。あるいは、生産培養行程終了時の最低平均容量測定生産性目標は10mg/L/dayタキサンである。さらに好まれる細胞系は、生産培養終了時の最低タキサン力価は少なくとも100mg/Lタキソールまたは200mg/LバッカチンIII、または生産培養行程終了時の平均容量測定生産性は10mg/L/dayタキソールまたは15mg/L/dayバッカチンIIIに達する。
【0091】
【化1】

【0092】
様々な種に適した産生培地は表5に列挙するが、その他のものも使用できる可能性がある。例えば、表2の培地B、C及びNは、Taxus chinensisの産生培地として特に適している。培地は表2に列挙した成分を含むことが望ましい。これらの培地は、主要な及び重要ではない無機塩、有機物及び成長ホルモンまたは成長調節因子を、一般には表2に示した各培地成分の濃度の、好ましくは1/10から始まり3倍の範囲で、量において含むことが望ましい。培地BまたはNを使用した場合、成長調節因子を特に、量において01ppmから20ppmの間で、好ましくは1ppmから10ppmの間で培地に含ませる。培地CまたはNを使用した場合、成長調節因子を好ましくは0.1ppmから5ppmの範囲水準で含ませる。
【0093】
本発明における意図において、本明細書で示した培地において、他の慣例的組成物(有機物、ビタミン、アミノ酸、前駆体、活性剤及び阻害剤など)の代用、成長調節因子を含む様々な組成物の添加または削除、または割合の変更等の装飾を、成長とタキサン生産を表2において示した培地において観察されるものと同等またはそれ以上にするために行う可能性があることは、当該技術者により理解されている。
【0094】
操作工程の方法
植物細胞培養工程の操作方法は、栄養、細胞、および産物が時間について加えられ、またはのぞかれる方法(Payne et al.1991)を参照する。最初に全栄養分が供給され、培養期間の最後に細胞および産物よりなる培養内容が回収される操作方法は「1段階バッチ工程」と呼ばれる。バッチ工程が2つの連続した期、成長期、および産生期の間に、培地が換えられる方法では、操作法は「2段階バッチ工程」と呼ばれる。本発明の観点において、生育培地から産生培地への変換は、急な工程変更、または連続的一連の工程による段階的、または段階的変更により引き起こされる。ある極端な例において、段階的変更は次第に大きく変化する組成の培地への段階的置換により成し遂げられる。また別の場合、段階的変更は成長期培養への産生培地の一つまたはそれ以上の化合物の供給により成し遂げられる。これは、給餌-バッチ工程の一例である。
【0095】
「給餌-バッチ(fed-batch)」工程においては、栄養物、および/または一つまたはそれ以上の増強剤などの特異的培地物質が培養の間、定期的または連続的に供給される。ある成分を最初にバッチ法によって栄養培地に加え、次いで給餌-バッチ法によって加えてもよく、または専ら給餌-バッチ法によってのみ加えてもよいことに注意すべきである。
【0096】
給餌-バッチ工程の使用で、細胞を長期にわたる産生状態にすることが可能で、事実、細胞の産生能力は増強されることが発見された。実施例15、17、および表16、および18に示したように、給餌-バッチ工程において加える栄養物および増強剤は全タキサン生産量および、タキソールおよびバッカチンIIIとしての特定のタキサンの合成効果において有意な改良が見られる。さらにこの操作法はさまざまな異なる培養条件下におけるさまざまな異なる細胞系についても適用可能であることがわかった。
【0097】
成分を給餌-バッチ式で添加することは、特定の成分の濃度が培養中で低いレベルで保たれなければならないとき特に有利である。たとえば、基質の阻害効果を回避する場合などである。同様に、給餌-バッチ式の添加は、栄養培地に最初に成分を加えた時に細胞が消極的反応を示すとき、または、化学量論的に有意量の化合物は溶解度や有毒限界量のために加えることができないときに有利である。さらに、ある成分を含む給餌溶液の連続的または連続(定期的)給餌-バッチ添加は、パルス式の添加のような急激な方法で成分が加えられると、細胞が消極的反応を示す場合に特に好ましい。給餌-バッチ法で加えられることにより好ましい反応を細胞が示す特定の化合物には、アルファーおよびベータフェニルアラニンなどのタキサン前駆体や炭素源としてのマルトース、フルクトース、およびグルコース、アミノ酸としてのグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、マクロ栄養物質としてリン酸、カルシウム、、およびマグネシウム、およびオーキシン-関連成長調節因子およびジャスモン酸関連化合物などの増強剤などが含まれる。
【0098】
該当技術分野において通常の知識を有する技術者には、供給される成分の組成は、タキサン産物の増加のための産生期間の延長やより高いバイオマス濃度を得るための増殖期の延長などの、望みの結果を得るために変化させうることは明白であろう。最適な産生活性および効果を達成するための最適条件の選択は、本明細書の開示に基づいて通常の知識を有する技術者には容易である。
【0099】
本明細書において、培地交換とは培養からの使用済み培地の除去、および引き続き行われる新鮮培地の添加を意味する。細胞はおおむね操作の間中、培養中に維持される。本発明の方法において、培地交換法は容量当たりのタキサンの高産生を可能にし、且つ持続させ、バッチ法に比べ、優れた工程効率および全産生レベルの向上に有用である。培地交換法を行う場合、細胞外産物はその後の回収および精製過程は、他の操作法の場合より容易である。
【0100】
実施例14および表15に示したように、培地交換はタキサン全般および、タキソール、バッカチンIIIおよび、10-脱アセチルバッカチンIIIなどの特定のタキサンの高産生活性を維持することを成功させる。さらに、この操作法はバッチ操作法に比べ、タキサン全般および、タキソールおよびバッカチンIIIなどの特定のタキサンに対し、容積当たりの産生増加ももたらす。さらに、この操作法はさまざまな異なる培養条件下におけるさまざまな異なる細胞系に対し、適用可能である。実施例7.3に示したように、3日毎の使用済み培地の除去および、新鮮培地の再添加は、増殖条件でのタキサンおよびタキソールの産生の有意な増強や、同様に細胞外産物の量の増加をもたらす。
【0101】
培地交換の刺激的効果は、細胞内産物の除去によって、フィードバック阻害や産物の分解が回避されるためであろう。細胞内産物除去による、2次的代謝物の産生および培養液への分泌へのこのような好ましい効果は、多くの文献中でも、Robins and Rhodes(1986,Appl.Microbiol.Biotechnol.,24,35-41)およびAsada and Shuler(1989.Appl.Microbiol.Biotechnol.,30,475-481)により報告されている。定期的な使用済み培地の除去は、上記の利点を含み、さらに他の、非タキサン、阻害物質(フェノール化合物など)が培地から除去されることにより、2次的生合成への抑制を取り除く作用をする。
【0102】
活発に生合成を行っている細胞への新鮮培地の再添加は、減少した必須栄養物質の供給による産生増強をもたらすであろう。例えば、Miyasaka et al.(1986,Phitochemistry,25,637-640)は、単なるスクロースの培地添加によりSalvia miltiorhizaの静止期の細胞を刺激し、ジテルペン代謝産物、クリプトタンシノンおよびフェルギノールの産生をさせることを報告している。おそらく、静止期において炭素の限界により、生合成が止まっていたのだろう。本発明において用いた定期的培地交換法は上記の要素の結果として有益となるだろう。培地交換の量、交換頻度、および交換する培地の組成はさまざまでありうることは理解されよう。培地交換による生合成および分泌の活性化能は、連続的、半連続的、または給餌-バッチ法において、効率的商業的工程の操作や構築にとって重要な意味を持つ。
【0103】
バッチ培養の内容の全部でないが大部分が回収されて、連続的細胞増殖および産生のために新鮮な培地の添加がされると、その工程は「繰り返し-汲み出し-充填」操作に似て、「半-連続工程」と呼ばれる。新鮮培地が連続的に供給されて流れ出る培地が連続的に除去されると、この工程は「連続的」と呼ばれる。細胞が反応装置内に保持される場合、工程は「パーフュージョン法」と呼ばれる。細胞が連続的に流れ出る培地とともに除去されると、その連続的工程は「恒成分培養槽(chemostat)」と呼ばれる。
【0104】
このようなさまざまな操作工程の方法がここで記載したタキサン-合成系に適用できることは理解されよう。
【0105】
【実施例】
以下の実施例は、本発明を実施するのに用いた材料と方法のさらなる記載のために提供される。実施例は説明を意図しており、いかなる方法においても発明を限定するものではない。
【0106】
実施例1 カルスの開始
Taxus植物材料は多くの野生型および培養系の植物から得られた。材料は研究室において到着後すぐに処理するか、または4℃で使用時まで保存した。
【0107】
材料は最初に希釈セッケン溶液で洗浄し、水でリンスし、CLOROX溶液(1%ハイポクロライト、pH7.0)で10分間、表面を滅菌した。材料は滅菌条件下で3回滅菌水でリンスした。針は1%ポリビニルピロリドン(PVP)100mg/lアスコルビン酸溶液中で切断される。針は切断末端を培地E(表2参照)中にして静置した。30から40の植物組織片を培地プレート当たりに培養した。組織片を含むプレートは25±1℃の暗黒下で培養した。プレートは毎日、微生物の汚染を調べ、汚染が見られたときは、非汚染針を取り出して新鮮な培地Eプレートの中に置いた。実質的カルス形成を観察し、カルスを20日目に組織片から分離し、表3に示したさまざまなカルス増殖培地へと移した。たとえばTaxus chinensisのカルスは培地Dに移した(表2参照)。この最初の手順は非常に効率がよく、低い汚染率および高い90%以上の最初の組織片のカルス誘導率へとつながった。同様の手順をTaxus brevifolia,Taxus canadensis,Taxus cuspidata,Taxus baccata,Taxus globosa,Taxus floridana,Taxus wallichiana,Taxus media,およびTaxus chinensisの開始培養に対しても首尾よく用いることができた。
【0108】
実施例2 カルスの増殖
組織片から取り出したカルスは、25±1℃の暗黒下で培養した。健康なカルス部分を新鮮な培地に7から10日毎に移植したが、この移植の頻度は褐色化を防ぎ、長くカルスを維持するために非常に重要であった。さまざまな種のカルスに対して好ましい成長および維持培地を表3にまとめた。
【0109】
実施例3 懸濁培養の開始
1gの生重量のカルス材料を、各種に対して適当な培地(表3参照)25mlを含む125mlの3角フラスコに無菌的に接種した。例えば培地DはTaxas chinensisに用いられた。フラスコにシリコンキャップ(Bello,NJ)を被せ、旋回振盪機上に120rpmで24±1℃暗黒下で置いた。懸濁培養はおよそ3から10日で形成された。最初に、培地はミラクロスフィルター(Calbiochem)を含むブフナー漏斗を用いフラスコ内容物を吸引濾過することにより交換し、すべての生物を新鮮な培地に再懸濁した。細胞が増殖したとき、1から2g(生重量)の細胞を一般に新たな25mlの新鮮な培地を含む125mlフラスコに移し、その後毎週副培養(サブカルチャー)した。
【0110】
実施例4 懸濁細胞の成長
典型的成長率および細胞濃度は表4にまとめた代表的種の懸濁培養において達成される。
【0111】
ある詳細な例として、時間ごとの生物重量(生重量および乾燥重量)の増加はTaxus chinensis系統K-1について図1に示した。最大増殖率はもっとも急速に生物重量が増殖曲線上で増加した点における勾配を取ることで測定した。Taxus chinensisの細胞培養は最大倍加時間2.5日で増殖した。この増殖率はTaxus種の懸濁培養について以前報告されていたものより有意に高い。例えば、Christen et al.(1991)は、3から4週間の培養で生物重量は5から10倍に増加すると報告した。これは、Taxus brevifolia懸濁培養についての平均倍加時間7から12日に換算される。
【0112】
高濃度での培養能力は、細胞培養過程の量的産生能力を最大にするのに重要である。Taxus brevifoliaの培養では、1lの培養当たり乾燥重量1g以下にしか届かない(Christen et al.(1991)にあるデータより計算される)が、Taxus chinens isの懸濁培養では18日の成長の後1l当たり8から20gの乾燥重量に到達することが可能である。細胞の生存率は0.05%フルオレセインジアセテートの溶液(Widholm,1972,Stain Technol.,47,189-194)によりアセトン中で染色し、倒立蛍光顕微鏡下(Olympus IMT-2,Japan)で青色光の励起により緑の蛍光を発した細胞を数えることにより決定した。細胞の生存率は増殖期を通じ90%以上であった。
【0113】
急速増殖条件下での高生存率を維持しながらの細胞の高細胞濃度への培養能力は、タキソール、バッカチンIII、およびタキサンの産生のための植物培養過程の経済的操作に対しての前もって必須となる重要な要素である。
【0114】
実施例5 タキソール、バッカチンIII、および他のタキサン類の解析
5.1.ELISA法
ELISA解析(Hawaii Biotech♯TA-01)を用いて、細胞培養抽出液中のタキソールの検出を行った。この方法は高感受性(0.1ng/mL)を提供した。しかしポリクローナル抗体が用いられるため、他のタキサンとの交差反応が見られた。画分回収式の調製用(解析スケール)HPLCは、10-デアセチルタキソール、7-キシロシル-10-デアセチルタキソール、セファロマニン、10-デアセチル-7-エピタキソール、7エピタキソール、並びに他の未同定タキサンとの交差反応を示した。そのような交差反応にも関わらずこの方法はタキサン産物の検出に特に有用であり、多くの細胞系統が素早くスクリーニングされることが見いだされた。優位なタキサンの産生を示す細胞抽出液は、概略を後に示すHPLC法を用い詳細に解析した。
【0115】
モノクローナルELISA解析(Hawaii Biotech#TA-02)も、細胞抽出液中のタキソールの検出に用いた。この方法は高い感受性(0.1ng/mL)および有意な低い交差反応を提供する。
【0116】
5.2 タキソール、バッカチンIII、および他のタキサンの抽出
タキサンの上清からの抽出は存在濃度に依存していくつかの方法により成し遂げられた。十分量のタキサン(およそ1-5mg/L)が液体倍地中に存在するとき、試料はとても迅速かつ効率的に調製された。培地(2mL)を完全に乾燥し(真空中で)、測定された量のメタノール(0.5-2.0mL)を加えた。この混合物を超音波により完全に溶解するまで、または試料の分散が達成されるまで振盪した。HPLC解析に先立ち遠心により固体を除去した。量的回収は1mg/Lのレベルであったが、検出レベルは0.1mg/L以下であった。
【0117】
タキサンの培養上清中の濃度が非常に低いとき(1mg/L以下)は培地は3倍量のメチレンクロライドとイソプロピルアルコール(IPA)との混合液(9:1用量で)により抽出した。有機層を乾燥で減少させ、計量したメタノールの(50-250ml)中に再構成した。多くの抽出では90-95%のタキソール、セファロメニン、およびバッカチンIIIが0.6mg/Lのレベルで回収された。
【0118】
上清のタキサン濃度が5mg/Lを越えるときはより迅速な試料調製を用いた。上清1に対し(容量)3の0.1%酢酸を含むメタノールに混合する。この混合を30分間音波撹拌し、濾過し、HPLC解析を行った。
【0119】
全ブロス試料(細胞を含む培養上清)は手順の節で記述したのと同様の方法で調製した。培地1に対し(容量)3の0.1%酢酸を含むメタノールに混合した。この混合物は30分間超音波撹拌し、さらに30分間静置し、濾過し、HPLC解析した。
【0120】
細胞物質は、新鮮に回収した細胞を凍結し(-5℃)および引き続き真空乾燥し、およびメタノールソックスレーを50サイクル繰り返し行うことにより抽出した。メタノールは回転式真空機により濃縮し(100倍)、試料はHPLCにより解析した。一般に、70から80%のタキサンは10から15%の測定可能な分解とともに回収された。ソックスレーに先立つ試料の乾燥を十分に行うと、タキソールの分解は5%以下にとどまることが後に判明した。
【0121】
固体培地およびカルスの抽出はタキサンレベルが低いときの細胞の抽出と等しい。しかし、最終メタノール抽出でのメチレンクロライド/IPAと水の分離はいつも引き起こされる。タキサンレベルが5mg/Lを越えるとき、全培地の抽出法は固体培地上のカルスの試料の調製に適用される。
【0122】
5.3 高性能液体クロマトグラフィー法
高性能液体クロマトグラフィー解析(HPLC)は、CM3500/CM3200ポンプから構成されるLDC2勾配高圧混合解析系、CM4100可変容量自動試料調製機、およびコンピューターに接続したSM5000光ダイオード光線検出器を用い、高-炭素注入ディフェニルカラム(Supelco,5μM,4.6mm X25cm)において行われた。Eldex CH150カラムオーブンにより、カラム温度は35℃に制御された。タキサンのHPLC定量解析は、以下の2成分勾配溶出法を用い行った。
【0123】
【化2】

【0124】
クロマトグラフィー法は類似のいくつかの公表された方法(Witherup et al.1989,J.Liq.Chromatog.,12,2117-2132)を用い、トリフルオロ酢酸を含むリン酸緩衝液の使用および長勾配の適用などの改良とともに行われた。これらの改良は混合物からのタキソールおよび他のタキサン類の分解能を有意に向上させる。タキサン類の比保留時間は以下に示す。タキソールは、用いたカラムとハードウェアに依存して31分から33分の間で溶出する。
【0125】
【化3】

【0126】
タキソール、セファロマニン、およびバッカチンIIIの保留時間は国立ガン協会(National Cancer Institute)より得た真性試料を用いて決定した。上にまとめた他のタキサン類の保留時間は、Hauser Chemical(Boulder,CO)から提供された解析標準品と比較した。既知のタキサン類の同定は保留時間および紫外線スペクトルの比較に基づいて行った。タキソールおよびバッカチンIIIの紫外線スペクトルと類似のUVスペクトルを示すが、これらのタキサン類の比保留時間を示さない化合物はタキサン類と考えられる。タキソール、セファロマニン、およびバッカチンIIIの定量は真性物質から決定された係数に基づいて行った。10-デアセチルバッカチンIIIの定量はバッカチンIIIに対し決定された係数を用い行われた。必要な場合、他のタキサン類の定量はタキソールおよびバッカチンIIIの計算に用いた係数により行われた。用語「全タキサン類」はタキソールおよびバッカチンIIIと類似の特異的UVスペクトルを示したタキサン類の合計を表す。Taxus培養において同定された全タキサン類は、10-デアセチルバッカチンIII、9-ディヒドロバッカチンIII、7-エピ-10-デアセチルバッカチンIII、バッカチンIII、9-ディヒドロ-13-アセチルバッカチンIII、7-キシロシル-10-デアセチルセファロマニン、7-キシロシル-10-デアセチルタキソール、7-エピバッカチンIII、10-デアセチルタキソール、7-キシロシルタキソール、セファロマニン、7-エピ-10-デアセチルタキソール、タキソール、2-ベンゾイル-2-デアセチル-1-ヒドロキシバッカチンI、タキソールC、7-エピタキソール、および2-ベンゾイル-2-デアセチルバッカチンIを含む。
【0127】
タキサン類の特異的なUV吸光度を示さないが、重量スペクトルにおいて特異的なタキサン-重量-断片化特性を示す、タキサン類もTaxus細胞培養において観察された。Taxus細胞中で産生されたそのようなタキサン類の例には、タクスウンナニンC(Taxuyunnanine C)およびその類似体およびその誘導体が挙げられる。
【0128】
各標準品(10μL)は典型的に注入され(最初標準品、次いで3または4試料)、各3成分の面積を227nmクロマトグラムから計算した。各成分の係数はデータの線形-最小-2乗解析により得られた。10μLの各試料が注入され、注入当たりの量は標準データ回帰に基づき計算された。これらの結果は1リットル当たりの総量または乾燥重量パーセントに換算された。図4に上清試料の典型的クロマトグラムを示す。
【0129】
5.4 迅速高性能液体クロマトグラフィー法
上記の方法に加え、いくつかのHPLCの迅速な方法がより多くの試料を処理できるようにするために開発された。以下にこれらの方法のうち2つの詳細を示す。
【0130】
方法1)迅速高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)は、環境温度において前述のハードウェアを用い、Phenomenex Curosil-Gカラム(5μM,4.6mm X 25cm 4.6mm X 3cmガードつき)行った。タキサン類の定量HPLC解析は以下に示す2成分勾配溶出法で行った。
【0131】
【化4】

【0132】
タキサン類に観察された比保留時間は以下に示す。タキソールは用いたカラムおよびハードウェアに依存して約8分で溶出した。
【0133】
【化5】

【0134】
タキソール、バッカチンIII、および10-デアセチルバッカチンIIIの標準品は50mg/L,10mg/L、および1mg/Lレベルで調製した。標準品を最初に注入し、その後9試料を注入し、各3成分の面積を227nmクロマトグラムから算出した。各成分の係数はデータの線形最小2乗解析により得られた。10μLの各試料を注入し、1リットル当たりの量を試料の希釈および標準試料のデータ回帰に基づくピーク面積から計算した。
【0135】
方法2)迅速高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)は前述のハードウェアを用い、環境温度において、Phenomenex IB-SILカラム(3μM,4.6X15cm、4.6mm X 3cmのガードつき)で行った。タキサン類の定量HPLC解析は以下の2成分勾配溶出法で行った。
【0136】
【化6】

【0137】
タキサン類に観察された比保留時間は以下に示す。タキソールは用いたカラムおよびハードウェアに依存して約9.5分で溶出した。
【0138】
【化7】

【0139】
定量は前述のように行った。
上記の方法の流速および勾配間隔および時間についての修飾によって、植物細胞培養解析にの最適なクロマトグラフィーが行われるこ々も見いだされた。
【0140】
5.4. タキソールのMS/MS確認
細胞培養上清中のタキソールの同定のため、フローインジェクションとイオンスプレー常圧化学イオン化とを組み合わせたMS/MS法(図6に示される)を用い確かめた。図6にあるデータを得るのに用いた手順の詳細を以下に示す。重量スペクトル計測機:Sciex API 3の3重4極子常圧イオン化源。窒素を遮断ガスとしてして用い、アルゴンをCIDスペクトルの衝突ガスとして用いた。界面:イオンスプレー界面はイオン蒸発イオン化機(電気スプレー)により産生された。ゼロガスを噴霧ガスとして用いた。LCポンプ:5μL/分で作動するABI140B二重シリンジポンプ装置を使用。溶剤:50/50アセトニトリル/H_(2)O 2mM NH_(4)OAc+0.1%ギ酸。注入量:5μL、スペクトルは全てフローインジェクション注入で求めた。この方法により、細胞培養試料中におけるタキソールの明確な存在の確認およびHPLCの結果によく一致する定量結果が得られた。
【0141】
実施例6 さまざまな種からのタキソールの生産
さまざまなTaxus種培養からのタキソールの生産を表5にまとめた。カルスは20日暗黒下で各種毎に示される固体培地において培養された。細胞および培地を一緒に乾燥し、メタノール抽出し、示したようにELISAまたはHPLCにより検定した。
【0142】
実施例7
7.1 増殖培地における生産
タキソールおよびタキサン類の生産は、Taxus chinensis細胞系統K1の増殖培地Aへの移植の最初の2日間に開始した。15日において観察される最大タキソールは8.81μg/フラスコであり、0.44mg/Lに相当する。このうち46.1%は細胞外培地に存在した。15日目に、全タキサン濃度は72.87μg/フラスコ、または3.6mg/Lとなり、このうち58.6%が細胞外培地に存在した。生存率は蛍光染色(実施例4)により計測され常に90%以上であった。このことは細胞外タキソールおよびタキサン類は細胞の溶解によるものではなく、分泌によるものであることを示唆する。
【0143】
タキソール、バッカチンIIIおよび関連タキサン類の生産レベルを、タキサン生合成用の増強剤を添加しないさまざまな異なる増殖条件(表2および他の実施例において詳しく述べた)において、さまざまに異なる細胞系統により決定した。これらの回収データは細胞は増殖に最適な条件で培養され、タキサン生合成条件でないとき、タキソール生合成レベルは典型的には0.5mg/L以下であり、常に2mg/L未満であり、容量当たりのタキソール生産活性は典型的には0.03mg/L/日から0.07mg/L/日の範囲にあり、常に0.3mg/L/日未満であった。同様にバッカチンIII生産レベルは典型的には0.5mg/L以下であり、常に1mg/L以下であった。容量当たりのバッカチンIIIの生産活性は典型的には0.03mg/L/日以下であり、常に0.15mg/L/日未満であった。同様に全タキサン価のレベルは典型的には5mg/L未満であり、常に20mg/L以下であった。容量当たりの全タキサン生産活性は、典型的には1mg/L/日未満であり、常に3mg/L/日未満であった。
【0144】
7.2. 生産増強のための培地交換
タキソールおよび全タキサン生産活性の有意な改良は、9日目における無菌的培地Aの吸引除去および新鮮培地の添加、および同じ処置の12日目の繰り返しによって認められた。実験は15日間で打ち切られ、結果は図2に示される。培地交換による重要な生産活性の増加は表6にまとめた。タキソールおよびタキサン類の総生産量は、上記処置を施さない対照と比較して4.6倍に高まった。重要なことに、細胞外培地から回収されるタキソールは4.9倍、全タキサン類は5.9倍に、培地交換しなかった対照に比較して高まった。
【0145】
タキソールおよび全タキサン生産活性の増加、およびさらに細胞外への産物の蓄積を引き起こす注目すべき能力は、効率的操作、細胞の再使用を伴う連続的工程、およびその後の精製工程の簡易化のために重要である。
【0146】
7.3. 増殖培地におけるタキサン生産に対する光の効果
光は光合成だけでなく、植物細胞培養中の2次的代謝にもさまざまな面で重要な役割を果たす(Seibert and Kadkade 1980)。実施例4、7.1および7.2に記載した実験は暗黒条件で行ったが、Taxus chinensis培養の光への反応をここで記述する。
【0147】
1グラムの生重量の7日目Taxus chinensis系統K1の細胞を125ml三角フラスコ中の25mlの生育培地A(表2参照)に移植し、24±1℃において回転振盪機で120rpmで培養した。同じフラスコを暗黒条件および標準Gro Luxランプに3フィート離しておいた。ランプのスペクトル特異性は図3に示される。結果は表7に示される。
【0148】
培養を光に曝すことは全タキサンのレベルおよび細胞外の蓄積に影響しなかった。しかしタキサンの内容は有意に2つの処理で変化した。たとえば光下で培養したものはタキソールを暗黒条件下のものより2.8倍も多く生産した。細胞外タキソールの割合もまた暗黒処理のものより有意に高かった(76%対56%)。光処理の使用、特に特異的スペクトルでの使用は、タキソールの生産のための細胞培養工程において有用でありうる。
【0149】
実施例8 エリシター
エリシターという単語は、植物細胞培養物に加えられたとき二次代謝の増加をひきおこす生物学上の(または生物の)、および非生物学上の(または無生物の)起源を有する化合物を意味する。
【0150】
多くのエリシターが有効であるとわかっているが、代表例、すなわち、キトサングルタメートの使用が、本明細書中に詳しく記載されている。キトサンは、いくつかの植物細胞培養物組織においてはエリシターとして以前に試されたが、褐色化および生存率の損失などの毒性を伴う反応は、キトサンの使用を非実用的にする(Beaumont and Knorr 1987,Biotechnol.Lett.9,377-382)。事実、そのような毒性反応は、論文において報告された多くのエリシターの共通の欠点である。特にキトサングルタメートなどの化学的に修飾されたキトサンの使用により、毒性効果を回避しつつ、タキソールおよびタキサン生合成を誘導することは新しいアプローチである。
【0151】
培地Dにおいて7日から8日成長させたTaxus chinensis系統K-1の懸濁液はmirachloth(Calbiochem)フィルターを有する滅菌ブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。新鮮な2グラム重量の細胞は、125mlエルレンマイヤーフラスコにおいて25mlのC培地(表2参照)へ無菌的に移された。0.05%のキトサングルタメート溶液は、新たに調製され、および0.22μmカートリッジフィルターを通して濾過滅菌された。1g乾燥重量当たり165ミリグラムのエリシターの濃度となるように、この溶液の825μlを実験の開始時にフラスコに加えた。フラスコは、暗やみにおいて110rpmで旋回撹拌器で24プラスマイナス1℃で保温培養された。フラスコは15日で破壊的に試料とされ、および成長、細胞の色および培地の観察および細胞の生存率が記録された。試料は実施例5において記載されたようにタキサンの分析に付した。この実験の結果は表8において示されている。
【0152】
エリシター処理は、非処理の対照標準よりも細胞当たりの全タキサン生産量(0.53%対0.42%乾燥重量タキサン)が多く、ささやかな改良の結果となった。エリシターの非毒性の性質は、両方の処理において観察される高生存率(75%-80%)から明白である。実際に、対照標準に比べてエリシター処理において増加した乾燥重量は再現性をもって観察された(14.2g/1対10.1g/l乾燥重量)。細胞の高濃度も加味すると、エリシター処理においては全タキサンの1.8倍の力価、すなわち75.8mg/l対対照標準42.4mg/lの結果となった。
【0153】
細胞当たりの基準(0.098%対0.054%乾燥重量タキソール、1.8倍増加)および力価においての比較(13.9mg/l対5.4mg/l、2.6倍増加)の両方で、エリシター処理はタキソール生合成の増加の結果をもたらしたる。分泌の程度も、対照標準に比べエリシター処理のほうがより高かった(85%対72%細胞外産物)。
【0154】
本明細書中に記載されているエリシター処理は、タキソール産物の増加、より有利な産物の側面、産物分泌の増加および細胞の高生存率の保持力の結果となる。これらの生産の特性は、タキソール生産の細胞の培養過程にかなりの改良を表す。
【0155】
実施例9 産生培地開発
実施例6において記載された濃度を越えるタキソール生産力の増加のための努力においては、特別な「産生培地」を計画するために栄養濃度は処理された。培地Dにおいて成長させたTaxus chinensis系統K-1の7日から8日たった懸濁液は、MIRACLOTH(アクリル酸のバインダーを含むレーヨンポリエステル布地)フィルター(Calbiochem)を有する滅菌ブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。新鮮な500mg重量の細胞は、5mlの産生培地BおよびC(表2参照)へ無菌的に移された。その容器は暗やみにおいて110rpmで旋回撹拌器で24プラスマイナス1℃で18、25および42日のいろいろな時間の期間で保温培養された。処理は破壊的に試料とされ、および成長、細胞の色および培地の観察、および細胞の生存率が記録された。試料は実施例5において記載されたようにタキサンの分析をされた。この実験の結果は表9において示されている。
【0156】
9.1 18日培養の結果
タキサンおよびタキソールのかなりの濃度の生産によりTaxus chinensis細胞培養は培地の組成物の変化に応答する。これらのデータは表9において要約され、および試料のクロマトグラムは図4において示されている。培地Bにおいては、99.8mg/lの全タキサンが生産され、24.1mg/lのタキソールを含んだ。培地Cにおいては、110mg/lの全タキサンが生産され、21.3mg/lのタキソールを含んだ。乾燥重量の基準では、細胞は、培地Bにおいては0.18%乾燥重量タキソール、培地Cにおいては0.065%乾燥重量タキソールを生産した。
【0157】
9.2 長期培養
Taxus chinensis(K-1系統)の25および42日の長期培養後のタキソールおよびタキサンの生産は、培地Cにおいて研究され、その結果は図5において要約されている。以下に重大な観察が要約されている:
(i)Tuxus培養懸濁液は、タキソールおよびほかのタキサンのかなりの濃度を生産することができる。もっとも高い集積は42日で起こり、0.32%の乾燥重量タキソール、および0.62%の乾燥重量タキサンを含んだ;最終の培地体積に基づくタキソールの力価153mg/lおよび全タキサンの力価295mg/lに相当した。タンデム質量分光測定法によるこの試料の分析は、図6において示されたようなタキソールの存在を確認した。MS/MSによる定量は、HPLCと非常に良い一致を示した。
【0158】
(ii)25日から42日の間のタキソール生合成の速度は、17日間においては直線的な生産であると仮定すると、1日につき、1リットル当たり7.6mgタキソールであった。この速度は、最初の25日においての生産速度よりも有意に高い。25日および42日の間の全タキサンの生合成の速度は、1日につき、1リットル当たり12.3mgであった。タキソール、バッカチンIII、および全タキサンの生産力の体積の平均は、それぞれ、3.6、0.5、および7.0mg/l/dayであった。
【0159】
(iii)実施例7において記載された急速増殖条件などの(タキサン生合成は増加されない)急速増殖条件と比較して、産生培地の定式化は特定のタキソール含有量において45倍の増加の誘導も可能である。
【0160】
(iv)望ましくないタキサン産物を最小限度にし、産物スペクトルを希望する最終産物タキソールへの生合成を漏斗を通り抜けるようにする処理も可能であった。たとえば、25日では、タキソールは全タキサンの28%を構成しおよび42日では、全タキサンの52%を構成したが、それに対して生育培地(実施例7.1参照)においては、タキソールは全タキサンの12.2%しか構成しなかった。処理した産物の側面のこの能力は、下流部門の精製および調節結果の純度に関わる産物に重要な影響を有するだろう。たとえば、タキサン副産物、セファロマニンの生産を押さえる能力は樹皮からのタキソールの精製に比べて、後の工程での精製を非常に単純化させる可能性がある。
【0161】
(v)Taxus細胞培養物はタキソール(42日で87%)およびほかのタキサンのかなりの量の分泌を誘導した。細胞外タキソールおよびタキサンの存在は細胞溶解液に帰するというよりはむしろ分泌に帰するということは、いくつかの独立した観察により確証される:(a)連続した生合成が25日と42日の間に起こり、このことは細胞は生きていておよび活動したことを示唆した。独立した観察は産生培地においては18日後に70%以上の生存率が観察されたということを示した。(b)異なるタキサンの異なる割合が分泌された。もし細胞が溶解するとしたなら、培地においての割合は異なるタキサンでも同じであるはずである。
【0162】
(vi)このTaxus細胞系統が産物濃度が非常に高い細胞外環境において生長し、および高い割合でタキソールを生産する能力をもつことは特に注目すべき価値がある。
【0163】
(vii)これらの結果が得られるTaxus細胞系統は細胞の高濃度の増殖を急速にすることも可能であり、および急速増殖条件下で20世代後にも報告された生産性を明白にし、このことはその安定性および商業上の潜在能力を証明する。
【0164】
以前に報告された結果よりも、本明細書中に記載されている条件下でのTaxus chinensisの細胞系統により生産されるタキソールおよびタキサンの濃度は35から150倍高い。たとえば、Christen et al.(1991)は培養の2から4週間後Taxus brevifoliaの培養懸濁液より1から3mg/lのタキソールの生産を報告した。WickeramesinheおよびArteca(1991)はTaxus mediaの細胞培養においては、乾燥重量の0.009%のタキソールの生産を報告した。
【0165】
要約すると、我々のデータはTaxus chinensis培養の念入りな開始および選択をもって、および特別に処理された生育培地条件をもって、細胞は高濃度の増殖の誘導も可能だろう。これらの細胞が産生培地条件に移されたとき、細胞は長期間に高い生存率を維持してタキソールおよびほかのタキサンのかなりの濃度を生合成および分泌することも可能である。提起的な培地の交換、光、および産生培地をもつエリシターの混合は、多くの協同性の生産性の増加の結果となる。これらの特性は、組織培養技術の使用のタキソールおよびタキサンの生産の十分な商業上の過程の重大な必要条件である。
【0166】
実施例10
10.1 銀の使用のタキサン生産の増加
銀、化合物を含む銀の形態において、銀混合体、あるいは銀イオンは、Taxus種の細胞培養においてのタキソール、バッカチンIII、およびタキサン生合成の有用な増強剤であることが発見された。銀およびほかの増強剤の組み合わせもまたタキサン生産の高い割合の獲得および維持においては有用であることが発見された。
【0167】
培地L(表2)において培養されたKS1A Taxus chinensis懸濁液の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。15%から20%(w/v)の範囲において新鮮な細胞の濃度を与えるため、約0.75から1グラム重量の新鮮な細胞は表10において示された所定の組成物の培養培地の4から5mlへ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて110rpmで旋回撹拌器(1” throw)で25プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ、および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
【0168】
表10において要約されたデータはタキソール、バッカチンIII、およびほかのタキサンの生産は化合物を含むいろいろな銀によりうまく増加させられるということを指し示す。化合物および異なる逆イオンを含む異なる銀の多様性の増加を示している表10において説明したように、この増加は第一に培地にある銀の存在に帰する。これらの生産の濃度は増加されない培養において観察された生産の濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりも重大に高い。
【0169】
10.2 チオ硫酸銀の使用のタキサン生産の増加
毒性の考慮および調製物および保管の容易に基づくと、チオ硫酸銀は二次的な実験において使用される。チオ硫酸銀の調製のために使われる方法は以下であった:1.98gのチオ硫酸ナトリウム(5水和物)は80mlの水に溶解された。いきおいよく全体をかき回して20mlの0.1M硝酸銀溶液が加えられ、その結果100mlの20mMのチオ硫酸銀の貯蔵溶液となった。チオ硫酸カリウムは同等の効果のある結果をもつチオ硫酸ナトリウムの適所に使用されることも可能であった。その貯蔵溶液は所定の実験の開始時に細胞培養培地のなかへ0.22μmカートリッジフィルターを用いて滅菌濾過された。チオ硫酸銀溶液と同様なもう一つの調製方法もまた適合される。細胞培養実験計画案は表10において記載された実験のために記載されたものと同様であった。
【0170】
表11はTaxus chinensisの異なる多くの細胞培養の一つの増強剤として銀の使用により獲得されたデータを要約した。これらのデータは銀は一般的にタキサン生合成の基本的な増加をもたらすということを示す。いかなる所定の場合において観察された特別な産物の側面は細胞の系統および培養培地の特性を反映する。銀イオン/混合体は成長調節因子、炭素源、塩、微量元素、およびそのようなものなどの生合成の好む培地においてはほかの因子と組み合わせにおいて使用されるときタキサン生産の増加においてとくに効果的だろう。
【0171】
実施例11 ジャスモン酸メチルおよびジャスモン酸関連化合物の使用のタキサン生産の増加
ジャスモン酸および関連化合物と同様に、ジャスモン酸のメチルエステル(ジャスモン酸メチル)は、Tuxus種の細胞培養においてタキサン生合成の増強剤として有用であることが発見された。ジャスモン酸メチルおよびほかの増強剤の結合もまたタキサン生産の高い割合の獲得および維持においては有用であることが発見された。
【0172】
培地M(表2)において培養されたTaxus chinensis懸濁液の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。15%から20%(w/v)の範囲において新鮮な細胞の濃度で、細胞は表12において示された所定の組成物の培養培地の4から5mlへ植えつけられた。その培養物は暗やみにおいて120または180rpm(容器の大きさに依存する)で旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ、および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
【0173】
表12はいくつかの代表的なTaxus chinensis細胞系統の増強剤としてジャスモン酸およびジャスモン酸メチルエステルの使用により獲得されたデータを要約した。これらのデータはジャスモン酸およびジャスモン酸メチルエステルは一般的にタキサン生合成の基本的な増加をもたらすということを示す。いかなる所定の場合において観察された特別な産物の側面は細胞の系統および培養培地の特性を反映する。これらの増強剤の存在において獲得されたこれらの生産の濃度は増加されない培養において観察された生産の濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりも重大に高い。
【0174】
ジャスモン酸、ジャスモン酸メチルエステル、および関連化合物は、ほかの増強剤、成長調節因子、炭素源、塩、微量元素、およびそのようなものなどの生合成の好む培地においてはほかの因子と結合において使角されるときタキサン生合成の効果的増強剤である。
【0175】
実施例12 3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸の使用のタキサン生産の増加
桂皮酸類似化合物、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロ桂皮酸(MDNA)および関連化合物はTuxus種の細胞培養においてタキサン生合成の有用な増強剤であることが発見された。MDNAおよびほかの増強剤の結合もまたタキサン生産の高い割合の獲得および維持においては有用であることが発見された。
【0176】
培地M(表2)において培養されたTaxus chinensis懸濁液培養SS122-42の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。細胞は15%から20%(w/v)の新鮮な細胞の濃度の培養培地条件へ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて180rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。処理された培養物は試料になりおよびいろいろな時間点で実施例5において記載された方法を使用して分析がされた。蒸発分は滅菌された蒸留水の周期的な間隔の付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ、および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
【0177】
表13はTaxus chinensis細胞培養においてタキサン生合成の増強剤として3,4-メチレンジオキシニトロ桂皮酸の使用により獲得されたデータを要約した。これらのデータはMDNAは一般的にタキサン生合成の基本的な増加をもたらすということを示す。培地IIにおいて、すなわちMDNAおよび銀の存在においての培養は、タキサンの生産をより増加させる。いかなる所定の場合において観察された特別な産物の側面は細胞の系統および培養培地の特性を反映する。これらの生産の濃度は増加されない培養において観察された生産の濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりも重大に高い。
【0178】
実施例13 増強剤の組み合わせの使用のタキサン生産の増加
いろいろな増強剤は、タキサン生産においては組み合わせにおいて使用され、重大および協同性の改良を与えた。
【0179】
培地P(SS64-412)、培地O(SS64-561,SS64-571)、培地I(SS124-77,SS85-26)、培地M(SS122-29)(これらの培地の組成物は表2において記載されてある)において培養されたTaxus chinensis懸濁液培養の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbi ochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。細胞は20%(w/v)の新鮮な重量の濃度の(表14において指し示されている)培養培地へ植えつけられた。その培養物は暗やみにおいて180rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の周期的な間隔の付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ、および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
【0180】
表14はTaxus chinensis細胞培養においてタキソール、バッカチンIII、およびタキサン生合成の増強剤のいろいろな組み合わせの使用により獲得されたデータを要約した。そのデータは増強剤の組み合わせにより個々の因子でみられるタキサン生産の増加、および増加されない条件においての生産濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりたくさんのタキサン生産の増加を立証する。
【0181】
実施例14 培地交換によるタキサン生産の増加
この実施例は培地において高い生産性は培地成分の補充および消費された培地の除去により維持されるのも可能であるということを立証する。
【0182】
細胞は最初は培地M(Paella)、培地I(SS29-3A5)、および培地I(SS45-146)において培養された。これらの培養培地の詳しい組成物は表2において記載されている。これらの細胞系統の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。新鮮な約1.5グラム重量の細胞は表15において指し示されたそれぞれの培養培地の4.5mlへ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて120rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の周期的な間隔の付加により補正された。培地交換処理のために、容器において後ろの細胞を残して、消費された産生培地は一回分の培養の10から11日後に滅菌したピペットを使用して吸引して取り除かれた。その消費された上清は実施例5において記載された方法を使用して細胞外タキサンの分析がされた。最初の1回分の培養と同じ組成物の新鮮な培養培地は生産力のある細胞を含む容器に加えられた。その細胞は上で記載された同じ環境条件下で培養された。培地交換の周期は培養のさらに10から11日後に繰り返された。一回分の生産の全細胞外タキサンは表15において培地交換の生産の全細胞外タキサンと比較されている。培地交換濃縮の値は細胞懸濁液培養の体積(すなわち、5.75ml)により分けられた細胞外培地において生産されたタキサンの全量を意味する。
【0183】
表15は細胞は延長期間に生産力のある状態を維持されることも可能であるということを指し示し、および実際に、細胞の生産性は繰り返された培地交換により増加されるということを指し示す。繰り返された培地交換による増加は異なる増加条件の集まり、および細胞培養の多様性に便利である。
【0184】
そのデータは増加されない条件においての生産濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりたくさんのタキサン生産の増加を立証する。
【0185】
実施例15 給餌バッチ操作によるタキサン生産の増加
培地I(CR-128,SS36-245)、および培地L(SS36-359)(これらの培地の組成物は表2において記載されている)において培養された細胞系統の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。新鮮な約1グラム重量の細胞は表16.a.において指し示された所定の組成物の培養培地の4mlへ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて120rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の周期的な間隔の付加により補正された。給餌バッチ操作のため、あらかじめ決められた組成物の滅菌した飼料溶液は、たとえば11の培養液当たり1日あたり10mlの飼料溶液のように、あらかじめ決められた飼料を与える速度で培養溶液のなかへ連続的に飼料を与えられた。飼料溶液の組成物および給餌の実験計画案を含む、給餌バッチ操作の詳細は表16.b.において記載されている。処理された培養物は実施例5において記載された方法の使用で試料とされおよび分析がされた。
【0186】
表16.a.は細胞は延長期間に生産力のある状態を維持されることも可能であるということを指し示し、および実際に、細胞の生産性は給餌バッチ操作により増加されることも可能であるということを指し示し、その結果バッカチンIII、タキソール、およびほかのタキサンの高濃度の蓄積となる。特別なタキサンの関連する量は給餌実験計画案および細胞系統および培養条件の試料の組成物の相互作用を反映する。この表もまたフェニルアラニンの給餌はほかのタキサンと比例してタキソールの生産の増加の結果となるということを指し示す。
【0187】
そのデータは増加されない条件においての生産濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりたくさんのタキサン生産の増加を立証する。
【0188】
実施例16 増強剤の組み合わせの使用のタキサン生合成の増加
種々の増強剤が、タキソール、バッカチンIII、およびタキサン生産において組み合わされて使用され、重大および協同性の改良を与えた。
【0189】
培地M(その培地の組成物は表2において記載されてある)において培養されたTaxus chinensis懸濁液培養(SS122-41,cr427,SS122-30,cr857,cr452)の7日たった細胞はMIRACLOTH(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。表17において別な方法で記載されることなしに細胞は20%(w/v)の新鮮な重量の濃度の(表17において指し示されている)培養培地へ植えつけられた。その培養物は暗やみにおいて180rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス1℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の必要に応じたの付加により補正された。全液の試料(すなわち細胞外および細胞内のタキサンの両方)は周期的な間隔で得られ、および実施例5において概説された方法にしたがってHPLCにより処理および分析がされた。
【0190】
表17はTaxus chinensis細胞培養においてタキソールおよびタキサン生合成の増強剤のいろいろな組み合わせの使用により獲得されたデータを要約した。そのデータは増強剤の組み合わせにより個々の因子でみられるタキサン生産の増加、および増加されない条件(その詳細は実施例7において用意されている)よりたくさんのタキサン生産の増加を立証する。
【0191】
実施例17 給餌バッチ操作によるタキサン生産の増加
培地M(SS122-41)(これらの培地の組成物は表2において記載されている)において培養された細胞系統の7日たった細胞はMiracloth(Calbiochem)フィルターにあわせた滅菌したブフナー漏斗の使用で無菌的に吸引濾過された。新鮮な約1グラム重量の細胞は表18.a.において指し示された所定の組成物の培養培地の4mlへ植えつけられた。その容器は暗やみにおいて120rpmで旋回撹拌器(1” throw)で24プラスマイナス2℃で保温培養された。蒸発分は滅菌された蒸留水の付加により補正された。給餌バッチ操作のため、あらかじめ決められた組成物の滅菌した飼料溶液は培養溶液のなかへ連続的に飼料を与えられた。飼料溶液の組成物および給餌の実験計画案を含む、給餌バッチ操作の詳細は表18.b.において記載されている。処理された培養物は実施例5において記載された方法の使用で試料とされおよび分析がされた。
【0192】
表18.a.は細胞は延長期間に生産力のある状態を維持されうるということを指し示し、および実際に、細胞の容積測定の生産性は給餌バッチ操作により増加されうるということを指し示し、その結果バッカチンIII、タキソール、およびほかのタキサンの高濃度の蓄積となる。特別なタキサンの関連する量は給餌実験計画案および細胞系統および培養条件の試料の組成物の相互作用を反映する。
【0193】
そのデータは増加されない条件においての生産濃度(その生産濃度は実施例7において詳しく述べられている)よりたくさんのタキサン生産の増加を立証する。
【0194】
ほかの側面、利点および修飾は発明が関係する作品において理解されるかもしれないが、理解の明快の目的のため特別な実施態様の組み合わせにおいて図解および例としたいくつかの詳細において前記の発明が記載された。発明の予知に限界はないが、前記の記載および例は図解される。その作品において理解された目的のような発明を実行するための上記に記載された方法の修飾は発明の余地の中に意味され、このことは追加された請求項によりのみ限られる。
【0195】
この詳述において言及されたすべての刊行物および特許申請はこの発明が関係する作品において理解されたそれらの理解の水準を示す。それぞれ独立した刊行物または特許申請が参考文献により編入されたことを特別におよび独立に指し示されたように全ての刊行物および特許申請は同じ程度の参考文献によりここに編入された。
【0196】
【表1-1-1】

【0197】
【表1-1-2】

【0198】
【表1-1-3】

【0199】
【表1-2】

【0200】
【表1-3-1】

【0201】
【表1-3-2】

【0202】
【表1-4】

【0203】
【表1-5-1】

【0204】
【表1-5-2】

【0205】
【表1-5-3】

【0206】
【表1-6-1】

【0207】
【表1-6-2】

【0208】
【表2-1】

【0209】
【表2-2】

【0210】
【表3】

【0211】
【表4】

【0212】
【表5】

【0213】
【表6】

【0214】
【表7】

【0215】
【表8】

【0216】
【表9】

【0217】
【表10】

【0218】
【表11】

【0219】
【表12】

【0220】
【表13】

【0221】
【表14】

【0222】
【表15】

【0223】
【表16-1】

【0224】
【表16-2】

【0225】
【表17】

【0226】
【表18-1】

【0227】
【表18-2】

【図面の簡単な説明】
【図1】培地Aにおける一般的バッチ成長周期を通してのTaxus chinensis懸濁培養系列K-1におけるバイオマスの増加。誤差線は一双のフラスコから測定される標準偏差を表す。
【図2】15日実験におけるタキソール(A)および総タキサン(B)生産性に対する第9日および第12日の培地交換の効果。各々の箱の数字は産物が生産された時間の間隔(日)を表す。細胞内ボックスの影のついた部分は実験開始時に細胞接種原に存在したタキソールまたは総タキサンを表す。すべての処理は二連で行われた。Taxus chinensis懸濁培養系列K-1は表2において述べられた培地Aとともに使用された。
【図3】実施例7.3において使用した標準Gro-Luxランプ(GTE Sylvania,Danvers,MA)のスペクトル特性。
【図4】Taxus chinesis細胞懸濁物K-1におけるタキサン産生。クロマトグラムの10から40分の部分を示した。選択されたタキサンのピークのダイオード配列走査は227nmのピークを持つ特徴的なタキサンUV吸光スペクトルを示した。
【図5】培地CにおけるTaxus chinensis細胞系列K-1による長期間培養後のタキソールおよびタキサン産生。Aは既知および未知のタキサンに対するデータを表にしたものである。Bは25から42日の期間におけるタキソールおよびタキサンの生産の増加を示す。
【図6】細胞培養の上清におけるタキソールのMS/MSによる確認。図Aは本来のタキソールのイオンスプレ-APCI質量分析を示す。図Bは親ピーク(m/z 871=タキソール+NH4+)の娘イオンスペクトルを示す。図Cは細胞培養の粗抽出液から得られたイオンスプレーAPCIスペクトルを表し、タキソールに特徴的なm/z 854および871を示す。図Dはm/z 871に対応する娘スペクトルを示し、細胞培養上清におけるタキソールの存在を示す決定的な証拠を提供する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-11-20 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-16 
出願番号 特願平9-542824
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (C12P)
P 1 113・ 121- ZA (C12P)
P 1 113・ 841- ZA (C12P)
P 1 113・ 55- ZA (C12P)
P 1 113・ 113- ZA (C12P)
P 1 113・ 538- ZA (C12P)
P 1 113・ 854- ZA (C12P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 吉田 佳代子
齊藤 真由美
登録日 2007-11-30 
登録番号 特許第4047929号(P4047929)
発明の名称 タキサス種の細胞培養によるタキサンの増強生産  
代理人 長谷部 真久  
代理人 多田 央子  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  
代理人 岩谷 龍  
代理人 駒谷 剛志  
代理人 駒谷 剛志  
代理人 長谷部 真久  
代理人 酒井 善典  
代理人 山崎 朝子  

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