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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251905
審判番号 不服2009-6801  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-01 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2003-200410「薬剤耐性マーカーおよびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月11日出願公開、特開2004-313167〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年7月23日(優先日:平成15年2月24日、出願番号:2003-045826号)の出願であって、平成21年1月16日に補正された明細書又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「PDZK1遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、癌の化学療法に用いられる薬剤に対する薬剤耐性マーカー。」

なお,ここで,「薬剤耐性マーカー」とは,本願明細書の「さらに本明細書において『薬剤耐性マーカー』とは、癌における薬剤耐性の有無、薬剤耐性の程度もしくは改善の有無や改善の程度を診断するために、または薬剤耐性を示す癌の治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、癌の薬剤耐性に関連して生体内組織や細胞において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、または結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体組織や細胞で発現した上記遺伝子およびタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。」(【0036】)との記載によれば,PDZK1遺伝子の細胞内での発現,すなわち,該遺伝子から転写されたmRNAを検出するための(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドプローブやプライマーを意味するものと解される。

第2 引用例

1.引用例の記載事項
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である平成12年7月13日に頒布された国際公開第00/40201号(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。

(1)「イン-サイチューでの上皮細胞由来の新生物における化学療法薬剤に対する耐性を減少させる方法及び手段」(名称)
(2)「本発明は,上皮細胞由来の固形腫瘤新生物によってイン・サイチューで示される,化学療法薬剤に対する耐性を減少させるための方法及び組成物を提供する。固形新生物を構成する腫瘍細胞は,臨床上,一又は複数の薬剤による治療において,イン・サイチューで薬剤耐性を示し,この耐性腫瘍細胞は,PDZK1蛋白質及びcMOAT蛋白質の双方を細胞内で発現している。この発明は, 細胞内のPDZK1蛋白質とcMOAT蛋白質の相互作用を抑制するアンタゴニスト抗体の調製を可能にし,それによって化学薬剤治療用の薬剤が投与される前に,臨床上の耐性を減少させることができる。」(要約)
(3)「化学療法剤に対する耐性のイン・ビボでの明確な進展が,癌治療の一つの大きな問題であること,及び,それによって,ヒトにおいて,非常に大きなパーセントで化学療法が失敗するという結果をしばしば招くことが,認識され想起されるであろう。多くの例において,固形癌腫が示す多薬剤耐性は,PDZK1蛋白質とcMOAT蛋白質の,存在及び発現と,細胞内でのイン-サイチューの相互作用の継続によるものと,信じられている。したがって,本発明のゴール及び目的は,すでに存在する腫瘍細胞を生存させ成長させるために必要な,そのような相互作用を抑制又は防止することである。」(14頁28行?15頁3行)
(4)「PDZK1蛋白質は,細胞内で発現する物質であって,その存在,特に豊富な量の存在は,進行中の新生物の発達を示すこと,及び,そのような特定の細胞及び組織の癌腫における,薬剤耐性のメカニズムの一部を担っていること,は既に示されている。」(16頁20?23行)
(5)「臨床上の重要性
519アミノ酸残基を含むPDZK1蛋白質の発現及び量的存在が,該蛋白質が見られる上皮細胞由来の新生物細胞及び組織における薬剤耐性の進展及び出現における,大きな臨床上の価値及び有用性を有する。PDZK1蛋白質の細胞内,つまり特定の腫瘍細胞タイプ又は新生物組織における存在及び/又は特に大量又は豊富な量の存在は,該対象の細胞及び組織における,cMOAT蛋白質との細胞中での相互作用が進行中であること,及び,問題の細胞及び組織が,変異し,効果的でなくなり,機能障害を起こすと共に,一又は複数の化学療法薬剤による治療に対してさらに耐性になっていること,を示す信頼できる標識である。」(20頁1?11頁)
(6)「上皮細胞由来の正常細胞及び組織における分布:
以降に示すデータによって裏付けられるように,PDZK1蛋白質は選択された正常細胞及び組織においては,いくつかの(全てのタイプのというより)上皮細胞由来の正常細胞および組織でのみ,わずかか,中程度の量発現していた。他の種類の(上皮細胞由来の)細胞は,PDZK1蛋白質を全く発現しなかった。…そのような正常細胞及び組織の代表的リストを以下の表3に示す。」(20頁13?24行)
(7)「上皮細胞由来の新生物(悪性)細胞及び組織における分布
上皮細胞由来の新生物(一般的には癌腫)におけるPDZK1蛋白質の発現及び生産は,異常な細胞・組織と正常な細胞・組織とで大きく異なる範囲と分布を見せた。新生物細胞及び組織と,そのPDZK1蛋白質の発現能の代表的リストを以下の表4に示す。」(23頁17行?末行)
(8)「第4表は,薬剤耐性の増加を示すマーカーとしてのPDZK1蛋白質の発現を利用する際の,重要な診断上の基準及び標準を提供する。これらの発見は,以下のことを示す。(a)これらの細胞及び組織が,医学的に正常であれば,PDZK1蛋白質を発現しないが,該細胞及び組織の癌細胞の多くは,PDZK1蛋白質を大量又は過大量発現し生産する。実例は,乳癌,肺癌及び結腸癌である。(b)医学的に正常な状態で,PDZK1蛋白質を発現し,又は発現しないこれらの細胞及び組織において,これらの細胞及び組織の癌腫の有意な数のものが,PDZK1蛋白質を大量又は過大量発現し生産する。これらの例は,腎臓,乳腺,大腸,肺の癌腫である。
推定的かつ非直接的ではあるが,臨床上のインパクト及び予言的価値を有する,少なくとも一つの追加の結論が導き出せる。医学的に正常な状態で,PDZK1蛋白質を発現しない細胞及び組織では,PDZK1蛋白質の発現及び生産は,わずかな量であっても,該細胞の制御調節のメカニズムが抑制又は失われていることを示す信頼できる指標になるであろう。したがって,腎臓,甲状腺,胸腺などの癌を含む多くの例において,検出できる量のPDZK1蛋白質が発現し,生産されていること,及び,そのPDZK1蛋白質の発現は,その細胞の化学療法薬剤による臨床治療への耐性を増加させることが,予想される。」(25頁1?21行)
(9)「III 細胞内で発現されるcMOAT蛋白質
ヒト細管多特異性有機イオン輸送体(canalicular multispecific organ anion transporter, cMOAT)蛋白質は,多剤耐性関連蛋白質2(MRP2)としても知られている。すなわち,腫瘍細胞において,細胞内の細胞膜で働き,薬剤耐性を与える,多剤耐性関連蛋白質(MRPs)ファミリーの一員である。MRPファミリーの蛋白質,特にcMOATは,ATP結合カセット(ABC)あるいは,腫瘍細胞からさまざまな化学療法薬剤の除去をし,それによって臨床的に薬剤耐性の獲得を示す輸送蛋白質である,輸送ATP分解酵素スーパーファミリーに属する。
ヒトcMOATは1531アミノ酸残基で構成され,190kDaの分子であり,124アミノ酸残基サイズのカルボキシ末端を持つ。該カルボキシ末端部分は,特に重要である。なぜなら,腫瘍の細胞膜において,PDZK1蛋白質のPDZの部分と,直接相互作用するのは,cMOAT分子の該末端部位だからである。該カルボキシ末端のアミノ酸配列は,下記表5に詳述した。」(第25頁第23行?第26頁第6行)
(10)「以下で実験的に示されるとおり,PDK1蛋白質のPDZドメインは,生体内で,細胞膜上あるいは細胞膜近くで局所的に,cMOAT蛋白質のカルボキシ末端アミノ酸残基と相互作用し結合する。cMOAT蛋白質とPDZK1蛋白質の相互作用は直接的であり,中間体や補助因子はその結合反応に必要とされない。そして,その直接の結合相互作用は,上皮由来の固形癌細胞の細胞膜領域内でのみ発生する。
生体内での,それらの直接の結合と相互作用によって,cMOAT蛋白質とPDZK1蛋白質は,細胞内で,化学療法の薬剤を固形瘤腫瘍細胞の細胞質内部から吐き出し除去する働きをする活性のある有機イオン輸送系の,不可欠な要素であり媒介者である。cMOAT/PDZK1蛋白質結合は,臨床的な生体内条件下および試験管内の実験的な環境下のいずれにおける腫瘍に対しても一般的に,化学療法薬剤に対する耐性の上昇を促進すると信じられている。」(第31頁第13行?第25行)
(11)「実験1: 正常ヒト組織及び癌腫におけるPDZK1蛋白質の分布
調製された特異的な抗PDZK1抗体を用いて,正常なヒト腎臓,結腸,及び乳腺の組織サンプルと,それらの器官由来の癌腫について,免疫細胞化学的な研究が行われた。結果は,それぞれ図1A-1Hに示す。」(42頁21?26行)
(12)「実験3: カルボキシ末端ペプチドを介した,cMOATとPDZK1の相互作用
ランダムペプチドを使用した探索と同様に,PDZドメインと相互作用する蛋白質の配列解析は,PDZドメイン結合サイトに対応する共通配列を明らかにした。すなわち,Ser/Thr-X-Val-COOHであり,ここで,Xは任意のアミノ酸を意味し,Valは他の疎水性アミノ酸残基で置換され得る。cMOATのカルボキシ末端配列についての再検討は,-2位にスレオニンを,最終位に疎水性アミノ酸(フェニルアラニン)を伴う,潜在的なPDZドメインとの相互作用サイトを明らかにした(図2Bに提示)。
cMOATのカルボシキ末端に相当する,ビオチン化された30残基のペプチド(アガロース-アビジンビーズに結合されている)と完全なPDZK1配列を含むGST融合蛋白質を使用して,この実験はGST-PDZK1融合蛋白質とcMOATカルボキシ末端ペプチドとの間に相互作用が生じること,一方でGST蛋白質単体ではcMOATペプチドと相互作用しないことを確認した。この結果は,図3という証拠によって,示されている。
図3は,GST-PDZK1融合蛋白質とcMOATのカルボキシ末端ペプチドとの相互作用を証明する,SDS-PAGE分析を示す。GST-PDZK1融合蛋白質は,ビオチル化されたcMOATペプチドで包まれたアガロース-アビジンビーズに結合したが(レーンa),一方で,GSTペプチド単体は,結合していない(レーンb)。GST-PDZK1融合蛋白質もGST蛋白質も,いずれも,cMOATペプチドで覆われていないアガロース-アビジンビーズには結合できなかった(レーンc?dPDZK1とGST-PDZK1融合蛋白質のサンプルが,これら両蛋白質各々の位置を示すために,ゲルに流された(レーンe?f)。」(第44頁第5行-第44頁最終行)
(13)「実験4 イン-サイチュー・ハイブリダイゼーションによる,PDZK1とcMOATとの共局在。
PDZK1とcMOATのmRNAの細胞での局在を確定するため,イン-サイチュー・ハイブリダイゼーション試験が行われた。PDZK1とcMOATのcDNAクローン由来の,相補配列RNAプローブを用い,多くのヒト成人組織サンプルが,腎臓,肝臓,結腸,肺,およびこれら組織から生じた悪性腫瘍を含めて,評価された。これらの結果は,各々図4A-4Tに示されている。……
正常腎臓(図4A-4D)では,両cRNAプローブを用いた標識の付着は,細管の近接部に限定され,一方で,糸球体(G)は標識されていない。比較すると,両RNAプローブによって標識された肝臓細胞は,同様の強度を示す(図4E-4H)。また,両RNAプローブによって標識された腎臓細胞癌(図4I-4L)と結腸腺癌(図4M-4P)が,類似の強度を示した一方で,肺の浸潤癌は,PDZK1のプローブで強く標識されつつも(図4Q-4R),cMOATのプローブでは極めてわずかにしか標識されない(図4S-4T)。
実験データは,正常腎臓では,細管の近接部の上皮細胞では多く発現しているが,腎臓皮質の残りの部分では,発現していないか,あるいは低レベルでしか発現していない(図4A-4B)。…正常肝臓細胞では,PDZK1のmRNA(図4E-4F)とcMOATのmRNA(図4G-4H)は,中レベルで肝細胞で発現していた。
PDZK1とcMOATのmRNAの発現は,さらに12の腎臓癌,大腸癌及び乳癌の細胞について調べられた。広範囲の結果が得られた。PDZK1とcMOATのmRNAは,調べられた腫瘍の17%で高度に発現していた(図4I-4P)が,58%ではPDZK1のmRNAはかなり発現していたが,cMOATのmRNAは低レベルで発現しているか,あまり発現していなかった(図4Q-4T)。cMOATのmRNAは,PDZK1のmRNAが発現していない腫瘍では,ほとんど発現していなかった。
試験された全てのケースで,PDZK1とcMOATの発現は,上皮起源の細胞に限定された。すなわち,間葉性および炎症性の細胞は,検出できる程度には標識されない。cRNAプローブのセンス配列を用いた,対照のハイブリダイゼーションは,全ての組織で陰性であった。」(第45頁第1行?第46頁第9行)

2.引用発明
引用例に記載されたPDK1蛋白質はPDZK1遺伝子によりコードされるものであることは自明であり,引用例には該蛋白質の発現を特異的抗体により検出することによって得た各種細胞・組織における発現のデータや,薬剤耐性の機構についての説明などと共に,PDK1蛋白質の発現が癌の化学療法に用いられる薬剤に対する薬剤耐性の増加を示すことが記載されている。ここで,薬剤耐性の増加を示すPDK1蛋白質の発現を検出するための抗体は,前述の本願明細書の定義によれば,「薬剤耐性マーカー」に相当するものと認められる。
したがって,引用例には,「PDZK1遺伝子によりコードされるPDK1蛋白質からなる癌の化学療法に用いられる薬剤に対する薬剤耐性マーカー。」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第3 対比
本願発明と引用発明を対比すると,両者は,
「PDZK1遺伝子に係る物質からなる癌の化学療法に用いられる薬剤に対する薬剤耐性マーカー。」である点で一致しているが,以下の点で相違している。

相違点:
薬剤耐性マーカーであるPDZK1遺伝子に係る物質が,本願発明では,「PDZK1遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド」であるのに対し,引用発明では,「PDZK1遺伝子によりコードされるPDK1蛋白質に対する抗体」である点。

第4 当審の判断

1.上記相違点について検討する。
検出目的の異常細胞と比較対象の細胞とで差示的に発現され,両者を識別するための検出対象には,発現する蛋白質と同様に,遺伝子の発現産物であって,それから蛋白質が翻訳される,mRNA等の核酸もなり得ることは,本願の優先日時点において,バイオテクノロジー分野において周知である(例えば,国際公開第99/62941号[対応する特表2002-517184号公報の段落【0073】],国際公開第00/12709号[対応する特表2002-523093号公報の段落【0070】及び【0071】],及び国際公開00/063438号[対応する特表2003-521878号公報の段落【0115】,【0116】,【0124】,【0125】])を参照)。
また,遺伝子の発現の検出のために,遺伝子の塩基配列または連続する15塩基以上のその部分配列又はその相補的な配列を有するポリヌクレオチドをプローブ又はプライマーとして使用することは,例を挙げるまでもなく,バイオテクノロジー分野における周知・慣用技術である。
とすると,PDZK1遺伝子によりコードされるPDK1蛋白質の検出が薬剤耐性の増加を示すという引用例の記載を見た当業者であれば,PDZK1遺伝子が転写されたmRNA等の核酸の検出も,蛋白質の場合と同様に,薬剤耐性の増加を示す可能性が十分にあることを理解できるというべきである。そして,その検出のために,PDZK1遺伝子の塩基配列の「連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド」またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなるプローブ又はプライマーを設計し,薬剤耐性マーカーとして使用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,本願発明の効果は,引用例に記載された事項から,当業者であれば容易に予測しうる程度のものに過ぎない。

2.請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は,審判請求の理由において,概略,以下の理由により,たとえ引用例に、PDZK1「蛋白質」の発現状態を、薬剤耐性のマーカーとして用いることが記載されていたとしても、それをもって、PDZK1のDNAのコピー数の変化及びmRNAの発現の変化を薬剤耐性のマーカーとして用いることが容易に類推されるものとは到底言えないとおり主張する。

ア 引用例には、PDZK1「蛋白質」の発現状態を、薬剤耐性のマーカーとして用いることが記載されているが,PDZK1「遺伝子」を、薬剤耐性のマーカーにすることについては教示も示唆もない。
イ DNA→mRNA→蛋白質にいたる経路は単純な1:1の対応ではなく、メチレーションやmiRNAの存在等の複数の要因が複雑に絡み合っており,PDZK1蛋白質の発現に基づいて、mRNAの発現量や、DNAのコピー数の変化量を直接見積もることはできない。例えば、蛋白質の発現量が増大する場合を考えてみると、DNAのコピー数は変化せず、例えばプロモーターが活性化するなどしてmRNAが増大し、その結果として翻訳される蛋白質の量が増大する場合や、DNAのコピー数もmRNAの量も変化せずに、蛋白質の量のみが増大する場合も当然存在する。このような蛋白質の発現量が増大する場合においては、DNAのコピー数が増幅する場合よりもむしろDNAのコピー数は変化しない場合の方が、一般的であると言える場合が多くあるものと思料する。このように、蛋白質の発現量の増大から、DNAのコピー数の増幅という結論は直ちに得られるものではない。

(2)請求人の主張についての判断
アについて
前述の通り,検出対象と比較対象との間で差示的に発現する蛋白質も,その遺伝子の転写物であるmRNAも,同様に細胞の状態を示すマーカーとなりうることは,本技術分野において周知であり,引用例に直接的な記載がないとしても ,当業者であればmRNAの発現の変化をマーカーとして用いることに容易に想到し得るものである。

イについて
通常の内在性タンパク質の発現は,DNA→mRNA→蛋白質という経路をたどるものであり,しばしば例外はあるとはいえ,蛋白質の発現が増大している場合には,その原因としては,そのmRNAの量が増大しているためというのが,まず第一に考えられることである。すくなくとも当業者がそのような可能性を全く考えないということはできない。
また,引用例1においても,PDZK1のcDNAクローン由来の,相補配列RNAプローブを用いた各種細胞・組織におけるイン-サイチュ-・ハイブリダイゼーション試験の結果は,PDZK1蛋白質の発現とほぼ同様の結果であり,基本的に蛋白質の発現量とmRNA量とが相関していることが読み取れる。

したがって,請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
したがって,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-08 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2003-200410(P2003-200410)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
六笠 紀子
発明の名称 薬剤耐性マーカーおよびその利用  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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