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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1252040
審判番号 不服2008-30965  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-08 
確定日 2012-02-10 
事件の表示 特願2006-110033「圧電素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 1日出願公開,特開2007-287745〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成18年4月12日の出願であって,平成20年3月31日付けの拒絶理由通知に対して,同年6月10日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年11月7日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求され,その後,当審において平成23年6月30日付けで拒絶理由が通知され,同年9月1日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2 当審の拒絶理由の要旨
当審において平成23年6月30日付けで通知された拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の要旨は,本願の請求項1?4に係る発明は,引用例1又は引用例2に記載された発明及び引用例3?5に記載された周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。(なお,当審拒絶理由中の「引用例1?3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから」との記載において,「引用例1?3」は「引用例1?5」の誤記である。)

3 本願発明の内容
平成23年9月1日に提出された手続補正書によれば,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「基体と,
前記基体の上方に形成された下部電極と,
前記下部電極の上方に形成された圧電体層と,
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と,を含み,
前記圧電体層は,下記一般式(1)で表される圧電材料からなり,
前記圧電材料は,擬立方晶の表示で(110)に配向しており,
前記圧電材料の分極方向は,擬立方晶の表示で[111]方向であり,
前記圧電体層の膜厚は,200nm?1.5μmである,圧電素子。
(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3) ・・・(1)
但し,0.05≦x≦0.50である。」

4 本願発明の容易想到性について
4-1 引用文献の記載と引用発明
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由において引用例1として引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-293628号公報(以下「引用文献1」という。)には,図1とともに,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

ア「【0002】
【従来の技術】現在,圧電磁器を用いた圧電共振子は,フィルタ,レゾネータあるいはセンサなどに幅広く用いられている。特に,チタン酸鉛(PT)あるいはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料は水晶などに代表される単結晶の圧電材料に比べて安価であり,CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory )あるいはDVD(Digital Video Disc)などの記録媒体の再生装置等において基準信号(クロック)を発生させるレゾネータとして広く用いられている。しかし,これらの圧電材料は鉛(Pb)を含有しているので,最近では環境への配慮から鉛を含有しない圧電材料の開発が望まれている。
【0003】鉛を含有しない圧電材料としては,例えば,タンタル酸化合物あるいはニオブ酸化合物などのペロブスカイト構造を有する化合物およびその固溶体(特開平7-82024号公報),イルメナイト構造を有する化合物およびその固溶体,ビスマス(Bi)を含む層状構造化合物またはタングステンブロンズ構造を有する化合物などが知られている。また,最近では,タングステンブロンズ構造を有する化合物とニオブ酸ナトリウムとの複合体について比較的高い機械的品質係数Qm が得られたとの報告もあり(特開平9-165262号公報),注目されている。」

イ「【0019】図1は本実施の形態に係る圧電磁器を用いた圧電共振子の構造を表すものである。この圧電共振子は,本実施の形態の圧電磁器よりなる圧電基板1と,この圧電基板1の一対の対向面1a,1bにそれぞれ設けられた一対の電極2,3とを備えている。圧電基板1は,例えば,厚さ方向,すなわち電極2,3の対向方向に分極されており,電極2,3を介して電圧が印加されることにより,厚み方向に縦振動するようになっている。
【0020】電極2,3は,例えば,銀(Ag)などの金属によりそれぞれ構成されており,圧電基板1を介してその一部が互いに重なり合うように設けられている。これら電極2,3には,例えば,図示しないワイヤなどを介して図示しない外部電源が電気的に接続される。」

ウ「【0046】更に,上記実施の形態および実施例では,圧電素子として圧電共振子を例に挙げて説明したが,他の圧電素子についても本発明を適用することができる。」

エ 図1から,「電極3」の上方に形成された「圧電基体1」と,その上方に形成された「電極2」とを備える圧電共振子が見て取れる。

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の【0002】((1)アを参照。)には,「環境への配慮から鉛を含有しない圧電材料の開発が望まれている。」ことが記載されているから,引用文献1には,引用発明における「圧電基体1」の材料として,鉛を含まない圧電材料を用いているといえる。
そうすると,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「電極3と,
電極3の上方に形成された鉛を含有しない圧電材料からなる圧電基体1と,
圧電基体1の上方に形成された電極2とを備える圧電共振子。」

(3)引用文献2の記載
当審拒絶理由において引用例4として引用された,本願の出願前に外国において頒布された刊行物である,K.Ueda et al, "Coexistence of ferroelectricity and ferromagnetism in BiFeO_(3)-BaTiO_(3) thin films at room temperature" Applied Physics Letters, 米国, 1999年7月26日, vol.75, no.4, pp.555-557(以下「引用文献2」という。)には,図1とともに,次の記載がある。(訳文は当審による。以下同じ。)

ア "In this study, (001) oriented (Bi_(0.7)Ba_(0.3)) (Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3) films were formed on Nb doped SrTiO_(3) (100) substrates by the pulsed-laser deposition technique and their physical properties were examined. Materials with crystalline phase such as oriented films are desirable to clarify the origin of ferromagnetic and ferroelectric properties. The film thickness dependence of dielectric and magnetic properties (size effect) was also studied."
(555頁左欄30行?右欄3行)
(訳文)
”本研究では,(001)配向の(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)薄膜をNbドープされたSrTiO_(3)(100)基板上にパルスレーザー堆積法により形成し,その物性を調査した。配向性薄膜のような結晶相にある材料は強磁性及び強誘電性の起源を確かめるのに好ましい。誘電特性及び磁性の膜厚依存性(サイズ効果)についても調べた。”

イ "Nb-doped SrTiO_(3) (100) substrates are used as bottom electrode and the upper Ag electrode was formed by vacuum evaporation. Ferroelectric hysteresis loops were observed using the Sawyer-Tower circuit."
(555頁右欄21行?右欄24行)
(訳文)
”NbドープされたSrTiO_(3)(100)基板は下部電極として用いられ,上部Ag電極は真空蒸着された。強誘電性ヒステリシスループはソーヤ-タワー回路を用いて測定された。”

ウ "Figure 3(a) shows the dielectric hysteresis loop of (Bi_(0.7)Ba_(0.3)) (Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3) film (3000 Å) at room temperature. Clear hysteresis behavior indicates ferroelectric character of the film. The remanent polarization (P_(r)) is 2.5 μC/cm^(2) and coercive field (E_(C)) is 533 kV/cm. [Ferroelectric properties of the BaTiO_(3) film, prepared using the same technique to confirm the adequacy of the large E_(C) , were measured to be one-fifth of that of (Bi_(0.7)Ba_(0.3)) (Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3) film. BiFeO_(3) films also show clear hysteresis, and P_(r) is 4.0 μC/cm^(2) and E_(C) is 20 kV/cm, respectively.^(8)] "
(555頁右欄38行?556頁左欄15行)
(訳文)
”図3(a)は(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)薄膜(3000Å)の室温における誘電ヒステリシスループを示す。明確なヒステリシス特性は薄膜の強誘電性を示唆している。残留分極(P_(r))は2.5μC/cm^(2)であり,自発分極(E_(c))は533kV/cmである[大きなE_(C)を確認するために同じ方法を用いて準備されたBaTiO_(3)薄膜の強誘電特性を測定したところ,(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)薄膜の1/5であった。BiFeO_(3)も明確なヒステリシスを示し,P_(r)は4.0μC/cm^(2)であり,E_(C)は20kV/cmである。]。”

エ "Thickness dependence of the ferroelectric and ferromagnetic properties (size effect) was also measured in the (Bi_(0.7)Ba_(0.3)) (Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3) films. The thickness of the film is varied from 250 to 3000 Å. The dielectric constants (ε_(r)) and magnetic Curie temperatures (T_(C)) of the films with different thickness (250-3000 Å) were compared and the a- and c-axis lattice constants were estimated from the x-ray measurements (2θ-θ scan and φ scan). These results are exhibited in Fig. 4. The ε_(r) decreases remarkably with reducing the thickness when the film thickness becomes thinner than 1000Å [Fig. 4(a)]. On the other hand, the ferromagnetic T_(C) keeps almost constant values in the whole thickness range [Fig.4(b)]. The a-axis lattice constant decrease and c-axis lattice constant increase with decreasing the thickness [Fig. 4(c)]."
(556頁右欄20行?33行))
”(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)薄膜における強誘電性及び強磁性の膜厚依存性(サイズ効果)も測定された。薄膜の厚さは250から3000Åまで変化させている。異なる膜厚(250-3000Å)をもつ薄膜の誘電率(ε_(r))と磁性キュリー温度(T_(c))が比較され,a軸及びc軸方向の格子定数がx線測定(2θ-θスキャンとφスキャン)から見積もられた。これらの結果は図4に示される。薄膜の厚さが1000Åより薄くなると,厚さの減少に伴いε_(r)が著しく低下する[図4(a)]。一方,強磁性T_(C)は全厚さ領域でほぼ一定値を保つ[図4(b)]。厚さが減少するにつれてa軸格子定数は減少しc軸格子定数は増加する。”

(4)周知例1の記載
本願出願前に国内において頒布された刊行物である,特開2006-80500号公報(以下「周知例1」という。)には,図1?2とともに,次の記載がある。

ア「【0012】
本発明の圧電体素子について説明する。本発明は,Si基板の(100)表面上に少なくとも,(110)優先配向の3層以上の機能層を有する圧電体素子に関する。また,上記機能層とは,バッファー層,電極層,圧電体層とすることができる圧電体素子であり,この3層の機能層は,少なくとも圧電体層及び一対の電極層のうち一方の層(上部電極層又は下部電極層)として機能する。特にバッファー層と電極間で方位の違いがなく,電極剥がれ等の問題のない耐久性に優れた素子である。
【0013】
本発明で「優先配向」とは,基板面にほぼ平行に(110)面を優先的に配向する,面内はランダムな一軸配向,あるいは面内も配向するエピタキシャル配向を意味する。なお,配向はX線回折法によって測定する。
【0014】
また,本発明の圧電体素子は,Si基板の(100)表面上に,少なくとも(110)優先配向の蛍石型酸化物層,(110)優先配向の電極層,(110)優先配向の圧電体層を有する圧電体素子であることが好ましい。」

イ「【0017】
圧電体層はABO_(3)型ペロブスカイト酸化物を含むことが好ましい。本発明の圧電体層とは,圧電体膜及び/又は電歪膜を意味する。圧電体膜に用いられる材料としては,ペロブスカイト型化合物が挙げられる。例えば,チタン酸ジルコン酸鉛PZT [Pb(Zr_(x)Ti_(1-x))O_(3)]やチタン酸バリウムBaTiO_(3)などの圧電材料やリラクサ系材料の電歪材料である。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のxは0.45から0.65のMPB(morphotoropic phase boundary)組成が好ましいが,それ以外の組成比でも良い。」

ウ「【0019】
圧電体膜は単一組成であっても良いし,2種類以上の組み合わせでも良い。又,上記主成分に微量の元素をドーピングした組成物であっても良い。本発明の圧電・電歪膜は,優れた圧電性を発現するために,結晶制御されたものが良く,X線回折で結晶構造の(110)方位が50%以上あるものが好ましく,さらには,90%以上のものがより好ましい。」

エ「【0030】
本発明は,上記圧電体素子を有する事を特徴とするインクジェットヘッドに関する。本発明のインクジェットヘッドは,上記圧電体素子を有するので耐久性が良く,性能の安定したヘッドを得る事が出来る。本発明のインクジェットヘッドを図1,2を用いて説明する。図1はインクジェットヘッドの模式図であり,1は吐出口,2は個別液室3と吐出口1をつなぐ連通孔,4は共通液室,5は振動板,6は下部電極,7は圧電体層,8は上部電極である。7の圧電体膜は,図示されているように矩形の形をしている。この形状は矩形以外に楕円形,円形,平行四辺形等でも良い。本発明の圧電体膜7を更に詳細に図2で説明する。図2は,図1の圧電体膜の幅方向での断面図である。図中11は基板であり,5は(100)表面を有するSi層である。6は,(110)優先配向したバッファー層である。9は(110)優先配向の下部電極層であり,7は(110)優先配向の圧電体層,8は上部電極層を示す。」

(5)周知例2の記載
本願の出願前に国内において頒布された刊行物である,特開2001-80995号公報(以下「周知例2」という。)には,図3とともに,次の記載がある。
ア「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の強誘電体素子を構成する強誘電体膜の結晶は疑似立方晶系であるか,又は疑似立方晶系,菱面体晶系或いは正方晶系のうち少なくとも二つが混在している結晶系であり,且つ前記下部電極に平行な結晶面が(110)面方位に優先配向していることを特徴とする。
【0011】強誘電体素子をかかる構成とすることで,ドメインの回転を伴わずに強誘電体素子を駆動させることができる。例えば,強誘電体膜が正方晶の場合,強誘電体素子の優先配向面を(110)面に選ぶと,6つの分極軸のうち2つは(110)面に対して平行であるから,強誘電体素子に印加した電圧によって上記2つの分極軸は変位しない。また,残りの4つの分極軸のうち2つは(110)面に対して上向きに45°の角度を成し,2つは(110)面に対して下向きに45°の角度を成しているため,分極処理により後者の2つの分極軸を180°反転させることで両者は(110)面の法線に対して対称となるため,強誘電体素子に電圧を印加してもドメインの回転を伴わない。
【0012】また同様に強誘電体膜が菱面体晶の場合,強誘電体素子の優先配向面を(110)面に選ぶと,8つの分極軸のうち4つは(110)面に対して平行であるから,強誘電体素子に印加した電圧によって上記2つの分極軸は変位しない。また,残りの4つの分極軸のうち2つは(110)面に対して上向きに約35°の角度を成し,2つは(110)面に対して下向きに約35°の角度を成しているため,分極処理により後者の2つの分極軸を180°反転させることで両者は(110)面の法線に対して対称となるため,強誘電体素子に電圧を印加してもドメインの回転を伴わない。従って,上記の構成により高速駆動可能な強誘電体素子を提供することができる。」

イ「【0024】図3(F)はインクジェット式記録ヘッドの主要部の断面図である。加圧室基板1には加圧室10がエッチング加工により形成されている。加圧室10の上面には振動板膜として機能する下地層5が成膜されており,当該下地層5上には圧電体素子9が形成されている。圧電体素子9は本発明の強誘電体素子の一例である。当該素子の機械的変位は加圧室10内の内容積を変化させ,加圧室10に充填されているインクをノズル21から吐出する。同図(C)に示すように,圧電体素子9は下部電極6,圧電体膜7及び上部電極8を備えて構成されている。圧電体素子9は圧電アクチュエータ,マイクロアクチュエータ,電気機械変換素子或いは微小変位制御素子とも呼ばれる。」

ウ「【0030】その他,圧電体膜7の具体例として例えば,Pb(Zn,Nb)O_(3)とPbTiO_(3)の固溶体(PMN-PT),Pb(Mg,Nb)O_(3)とPbTiO_(3)の固溶体(PZN-PT),チタン酸バリウム(BaTiO_(3)),チタン酸ストロンチウムバリウム(SrXBa_(1-X)TiO_(3))等がある。」

(6)周知例3の記載
当審拒絶理由において引用例3として引用された,本願の出願前に外国において頒布された刊行物であるM. Mahesh Kumar et al, "Structure property relations in BiFeO_(3)/BaTiO_(3) solid solutions" Journal of Applied Physics, 米国, 2000年1月15日, vol.87, no.2, pp.855-862(以下「周知例3」という。)には,次の記載がある。

ア "BiFeO_(3) , when forming a solid solution with BaTiO_(3) , shows structural transformations over the entire compositional range. Above 70 mole% of BiFeO_(3) the structure is rhombohedral and below 4 mole %, it is tetragonal. In between the structure is cubic. The ferroelectric T_(C) decreases with increasing composition of BaTiO_(3) and a relatively small relaxation is observed."
(要約1行?4行)
(訳文)
”BiFeO_(3)は,BaTiO_(3)と固溶体を形成するとき,全組成域にわたり構造転移を示す。70モル%を超えるBiFeO_(3)で,結晶構造は菱面体晶であり,4モル%未満では正方晶である。その間の結晶構造は立方晶である。強誘電転移温度T_(c)はBaTiO_(3)組成が増加するにつれて低下し,比較的小さい緩和が見られる。”

イ "BiFeO_(3) , which had long been considered an antiferroelectric^(1) because of its superstructure and low values of dielectric constant,^(2) was ultimately classified as ferroelectric and ferroelastic^(3) with a T_(C) around 850℃."
(855頁左欄1行?4行)
(訳文)
”BiFeO_(3)は,長い間その超構造と低い誘電率のため反強誘電体であるとみなされてきたが,最終的にはT_(c)が約850℃の強誘電及び強弾性体に分類された。”

ウ "The samples under study are x.BiFeO_(3)-(1-x)BaTiO_(3), where x=0.9, 0.8, 0.75, 0.7, 0.6, 0.5, and 0.04."
(856頁左欄1行?2行)
(訳文)
”調査した試料は,xBiFeO_(3)-(1-x)BaTiO_(3),x=0.9,0.8,0.75,0.6,0.5及び0.04である。”

エ "Figure 4 shows the variation of dielectric constant with temperature for samples in the rhombohedral and cubic phases. The transitions were observed at 504, 472, and 372 °C for x=0.9, 0.8 and 0.7, respectively, at 100 kHz.^(14) No dielectric anomaly was observed for the composition x=0.6, except for a hump around 314 °C. The dielectric constant increases with increasing temperature, like a normal nonpolar dielectric. If the sample were polar, it is expected to show a T_(C) lower than that of x=0.7 (372 °C)."
(857頁右欄4行?12行)
(訳文)
”図4は菱面体晶及び立方晶の試料について,温度に対する誘電率の変動を示す。100kHzにおいて,x=0.9,0.8及び0.7についてそれぞれ504,472及び372℃で転移が見られた。組成がx=0.6の場合については,314℃付近でこぶが見られた他は,誘電異常は見られなかった。誘電率は温度上昇とともに増加しており,これは通常の非分極誘電体と同様である。もし試料が分極していたなら,x=0.7(372℃)のものよりも低いTcが見られるものと思われる。”

4-2 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明における「電極3」,「圧電基体1」及び「電極2」が,本願発明における「下部電極」,「圧電体層」及び「上部電極」にそれぞれ相当する。また,4-1(1)ウの摘記から明らかなように,引用発明における「圧電振動子」は圧電素子の一種であるから,本願発明における「圧電素子」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

<一致点>
「下部電極と,
前記下部電極の上方に形成された圧電体層と,
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と,を含む圧電素子」
である点。

<相違点1>
本願発明では,「下部電極と,前記下部電極の上方に形成された圧電体層と,前記圧電体層の上方に形成された上部電極」が「基体」の上方に形成されているのに対し,引用発明では「基体」の上方に形成されていない点。

<相違点2>
本願発明は,圧電体層が
「下記一般式(1)で表される圧電材料からなり,
前記圧電材料は,擬立方晶の表示で(110)に配向しており,
前記圧電材料の分極方向は,擬立方晶の表示で[111]方向であり,
前記圧電体層の膜厚は,200nm?1.5μm」であり,
「(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3) ・・・(1)
但し,0.05≦x≦0.50である。」
のに対し,引用発明では,圧電体層が上記のようなものではない点。

4-3 相違点についての判断
(1)相違点1について
「下部電極と,前記下部電極の上方に形成された圧電体層と,前記圧電体層の上方に形成された上部電極」とを「基体」の上方に形成した構造は,周知例1(4-1(4)エを参照。)及び周知例2(4-1(5)イを参照。)にも記載されているように,圧電素子における周知の素子構造であるから,引用発明において当該周知の素子構造を採用することにより上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
上記4-1(2)で認定したとおり,引用発明は「圧電基体1」の材料として「鉛を含まない圧電材料」を用いるものである。
一方,上記4-1(3)ウに摘記したように,引用文献2には,膜厚3000Å(300nm)の「(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)」強誘電体薄膜材料が記載されている。ここで,強誘電体材料が圧電性を有することは当業者の技術常識である。
そうすると,引用発明において,環境への配慮から,鉛を含まない圧電材料として引用文献2に記載された上記の材料を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,引用文献2に記載された公知の材料を具体的に適用するに当たり,分極方向,配向性,組成比及び膜厚は,次のア?エに示すとおり当業者が適宜設定し得たことである。

ア 「(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3)」がx≦0.3で菱面体晶であることは,周知例3(4-1(6)アを参照。)に記載されているように,当業者に知られた事項であるから,分極方向を擬立方晶の表示で[111]方向とすることも,引用文献2の材料を適用することにより当業者が自然に到達し得たことである。

イ 「(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3)」は,BiFeO_(3)-BaTiO_(3)の固溶体であるところ,周知の圧電材料であるBaTiO_(3)を(110)配向させて圧電素子を形成することは,周知例1(4-1(4)ア?ウを参照。)及び周知例2(4-1(5)ア,ウを参照。)に記載されているように,当業者にとって周知の技術であるから,引用文献2の材料を適用するに当たり,BiFeO_(3)-BaTiO_(3)の固溶体である「(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3)」の配向を,BaTiO_(3)の場合と同様の(110)配向とすることは,当業者が普通になし得たことである。

ウ 引用文献2には「(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)」強誘電体薄膜材料((Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3)でx=0.3としたもの)が記載されている。
一方,「(Bi_(1-x)Ba_(x))(Fe_(1-x)Ti_(x))O_(3)」は,x=0.1,0,2及び0.3において強誘電転移温度T_(c)が504,472,372℃であることが周知例3(4-1(6)ウ,エを参照。)に記載され,x=0(BiFeO_(3))において強誘電性を有することが引用文献2(4-1(3)ウを参照。)や周知例3(4-1(6)イを参照。)に記載されていることから,当該材料がx≦0.3で強誘電性であることは,当業者に周知の事項である。また,当該材料において,周知の圧電材料であるBaTiO_(3)成分をより多くした組成領域(x>0.3)においても,ある程度の圧電性を期待することは自然なことであるといえる。
そうすると,引用文献2に記載されたx=0.3を含む範囲として,下限を例えばx=0.05,上限を例えばx=0.5と設定すること,すなわち0.05≦x≦0.5と設定することは,当業者が適宜なし得たことである。
なお,本願の0.05≦x≦0.5との数値範囲は,本願の明細書(【0059】?【0069】を参照。)によれば,あくまでも(100)配向の場合についてのみ具体的効果が確認されているものであるから,(110)配向をとる本願発明において上記数値範囲とすることによる格別の効果は認められない。

エ 引用文献2(上記4-1(3)ウ,エを参照)によれば,「(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)」強誘電体薄膜は,膜厚3000Å(300nm)において従来周知の強誘電体膜であるBaTiO_(3)よりも大きな誘電率が得られ,膜厚が1000Å(100nm)より薄くなると誘電率が著しく低下することが開示されていることから,引用文献2の 「(Bi_(0.7)Ba_(0.3))(Fe_(0.7)Ti_(0.3))O_(3)」強誘電体薄膜を適用する際に,膜厚の範囲を200nm?1.5μmとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,引用発明において引用文献2に開示された材料を適用することにより,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)まとめ
以上検討したとおり,本願発明は,従来周知の技術を勘案することにより,引用発明及び引用例2に記載の公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5 結言
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-29 
結審通知日 2011-11-30 
審決日 2011-12-19 
出願番号 特願2006-110033(P2006-110033)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小川 将之
近藤 幸浩
発明の名称 圧電素子  
代理人 永田 美佐  
代理人 布施 行夫  
代理人 大渕 美千栄  

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