• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1252097
審判番号 不服2009-24178  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-07 
確定日 2012-02-06 
事件の表示 平成11年特許願第323535号「回転電磁アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月30日出願公開、特開2000-152590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月15日(パリ条約による優先権主張 1998年11月13日、フランス国)の出願であって、平成21年8月3日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成21年8月7日)、これに対し、平成21年12月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出され、当審により、平成22年11月26日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成22年12月3日)、これに対し、平成23年3月16日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により、平成23年4月8日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年4月15日)、これに対し、平成23年6月27日付で意見書及び手続補正書が提出されたものであって、「回転電磁アクチュエータ」に関するものと認められる。


2.平成23年6月27日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年6月27日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
固定部品と可動部品とを含み、前記固定部品に対して前記可動部品が対向するとともに有限行程の相対回転をするように構成された回転電磁アクチュエータであって、
前記固定部品が、少なくとも一つの励磁コイルによって励磁される2N個(但し、Nは整数)の極を含み、
前記固定部品と対向する前記可動部品は深さeのN個の溝を持つ強磁性部分と、厚さLのN個の磁化部分とを有し、各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され、
前記各磁化部分は、前記固定部品の方向に磁化方向を有し、
前記eは前記強磁性部分の表面と前記溝の底との間を測定した厚さであり、
前記Eは前記固定部品の表面と前記溝の底との間を測定した深さであり、
前記E-eは前記固定部品の表面と前記強磁性部分の表面との間で測定したエアギャップであり、
前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸の径方向で対向して配置され、
前記回転電磁アクチュエータは、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されていることを特徴とする有限行程の回転電磁アクチュエータ。
【請求項2】
固定部品と可動部品とを含み、前記固定部品に対して前記可動部品が対向するとともに有限行程の相対回転をするように構成された回転電磁アクチュエータであって、
前記固定部品が、少なくとも一つの励磁コイルによって励磁される2N個(但し、Nは整数)の極を含み、
前記固定部品と対向する前記可動部品は深さeのN個の溝を持つ強磁性部分と、厚さLのN個の磁化部分とを有し、各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され、
前記各磁化部分は、前記固定部品の方向に磁化方向を有し、
前記eは前記強磁性部分の表面と前記溝の底との間を測定した厚さであり、
前記Eは前記固定部品の表面と前記溝の底との間を測定した深さであり、
前記E-eは前記固定部品の表面と前記強磁性部分の表面との間で測定したエアギャップであり、
前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸に沿って対向して配置され、
前記回転電磁アクチュエータは、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されていることを特徴とする有限行程の回転電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記eの値は
一定の出力トルクとするためにはe=0とし、大きな出力トルクを得るために前記eを大きな値に設定し、励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定することを特徴とする請求項1または2に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記N個の磁化部分は、並置された複数の磁石からなることを特徴とする請求項1から3の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記固定部品(2)は、それぞれが励磁コイル(10,10’)に囲まれた筒状扇形の2N個の極(8,9)を有するステータ部品を含むことを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記固定部品(2)は、それぞれが励磁コイル(40,40’)によって囲まれる半環状の2N個の極部品を同じく有する、第一のステータ部品に対称な第二のステータ部品(32)を含むことを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項7】
前記可動部品(1)は、軸方向に磁化された前記N個の磁化部分(3)とN個の強磁性の挿入部分とを支持する回転ヨークからなることを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項8】
前記可動部品は、筒状または半筒状であり、径方向に磁化された瓦形のN個の前記磁化部分と少なくとも一つの強磁性の挿入部分とを支持し、前記固定部品は、半筒状の2N個のステータ極を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項9】
前記可動部品は、前記可動部品に設置後に磁化されるN個の磁化部分を含むものであることを特徴とする請求項1から8の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項10】
前記可動部品は、前記可動部品のヨーク(6)に設けられた空洞内に収容されるN個の磁化部分を含み、この空洞に係合するゾーンが、強磁性の挿入部分を形成することを特徴とする請求項1から9の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項11】
前記固定部品の前記2N個の強磁性の極部品は、飽和可能な強磁性の峡部(isthmes)により相互接続されることを特徴とする請求項1から10の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
固定部品と可動部品とを含み、前記固定部品に対して前記可動部品が対向するとともに有限行程の相対回転をするように構成された回転電磁アクチュエータであって、
前記固定部品が、少なくとも一つの励磁コイルによって励磁される2N個(但し、Nは整数)の極を含み、
前記固定部品と対向する前記可動部品は深さeのN個の溝を持つ強磁性部分と、厚さLのN個の磁化部分とを有し、
前記各磁化部分は、前記固定部品の方向に磁化方向を有し、
前記eは前記強磁性部分の表面と前記溝の底との間を測定した厚さであり、
前記Eは前記固定部品の表面と前記溝の底との間を測定した深さであり、
E-eは前記固定部品の表面と前記強磁性部分の表面との間で測定したエアギャップであり、
前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸の径方向で対向して配置され、
前記磁化部分の前記溝への挿入の厚さがeであり、
前記eの値は、一定の出力トルクとする場合にはe=0を選択し、大きな出力トルクを得る場合には所望のトルクとなるよう0<eの範囲で選択し、励磁コイルの鉄心を飽和させないためにe/L<0.6とすることを特徴とする回転電磁アクチュエータ。
【請求項2】
固定部品と可動部品とを含み、前記固定部品に対して前記可動部品が対向するとともに有限行程の相対回転をするように構成された回転電磁アクチュエータであって、
前記固定部品が、少なくとも一つの励磁コイルによって励磁される2N個(但し、Nは整数)の極を含み、
前記固定部品と対向する前記可動部品は深さeのN個の溝を持つ強磁性部分と、厚さLのN個の磁化部分とを有し、
前記各磁化部分は、前記固定部品の方向に磁化方向を有し、
前記eは前記強磁性部分の表面と前記溝の底との間を測定した厚さであり、
前記Eは前記固定部品の表面と前記溝の底との間を測定した深さであり、
E-eは前記固定部品の表面と前記強磁性部分の表面との間で測定したエアギャップであり、
前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸に沿って対向して配置され、
前記磁化部分の前記溝への挿入の厚さがeであり、
前記eの値は、一定の出力トルクとする場合にはe=0を選択し、大きな出力トルクを得る場合には所望のトルクとなるよう0<eの範囲で選択し、励磁コイルの鉄心を飽和させないためにe/L<0.6とすることを特徴とする回転電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記N個の磁化部分は、並置された複数の磁石からなることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記固定部品(2)は、それぞれが励磁コイル(10,10’)に囲まれた筒状扇形の2N個の極(8,9)を有するステータ部品を含むことを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記固定部品(2)は、それぞれが励磁コイル(40,40’)によって囲まれる半環状の2N個の極部品を同じく有する、第一のステータ部品に対称な第二のステータ部品(32)を含むことを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記可動部品(1)は、軸方向に磁化された前記N個の磁化部分(3)とN個の強磁性の挿入部分とを支持する回転ヨークからなることを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項7】
前記可動部品は、筒状または半筒状であり、径方向に磁化された瓦形のN個の前記磁化部分と少なくとも一つの強磁性の挿入部分とを支持し、前記固定部品は、半筒状の2N個のステータ極を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項8】
前記可動部品は、前記可動部品に設置後に磁化されるN個の磁化部分を含むものであることを特徴とする請求項1から7の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項9】
前記可動部品は、前記可動部品のヨーク(6)に設けられた空洞内に収容されるN個の磁化部分を含み、この空洞に係合するゾーンが、強磁性の挿入部分を形成することを特徴とする請求項1から8の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。
【請求項10】
前記固定部品の前記2N個の強磁性の極部品は、飽和可能な強磁性の峡部(isthmes)により相互接続されることを特徴とする請求項1から9の少なくとも一項に記載の回転電磁アクチュエータ。」


(2)目的要件について
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

(2-1)本件補正後の請求項1
本件補正後の請求項3?10は、本件補正前の請求項4?11に対応しており、また、本件補正後の請求項1に記載された「前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸の径方向で対向して配置され」は、本件補正前の請求項1に記載され、本件補正前の請求項2には記載されていないから、本件補正後の請求項1と、本件補正前の請求項1、3との対応関係について検討する。

(ア)本件補正前の請求項1との関係
本件補正前の請求項1は、「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」ていたものが、本件補正後の請求項1では、当該記載が削除されており、発明を特定するために必要な事項を限定していない。
また、本件補正前の請求項1は、「回転電磁アクチュエータは、磁化部分の溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されて」おり、磁化部分の溝への挿入の深浅でトルクを調整し、しかも磁化部分の溝への挿入の深浅自体が調整可能であったものが、本件補正後の請求項1では、「eの値は、一定の出力トルクとする場合にはe=0を選択し、大きな出力トルクを得る場合には所望のトルクとなるよう0<eの範囲で選択し、励磁コイルの鉄心を飽和させないためにe/L<0.6と」しており、磁化部分とは無関係に溝の深浅eのみでトルクを調整し、磁化部分の溝への挿入の深浅自体が調整可能ではなく、しかも励磁コイルの鉄心を飽和させないという新たな課題を解決しているから、発明を特定するために必要な事項を限定しておらず、解決しようとする課題が同一ではない。
したがって、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1に関し、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものとも認められない。

(イ)本件補正前の請求項3との関係
本件補正前の請求項3は本件補正前の請求項1を引用している。
本件補正前の請求項3は、「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」ていたものが、本件補正後の請求項1では、当該記載が削除されており、発明を特定するために必要な事項を限定していない。
また、本件補正前の請求項3は、「回転電磁アクチュエータは、磁化部分の溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されて」おり、磁化部分の溝への挿入の深浅でトルクを調整し、しかも磁化部分の溝への挿入の深浅自体が調整可能であり、且つ、「eの値は一定の出力トルクとするためにはe=0とし、大きな出力トルクを得るために前記eを大きな値に設定し、励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定」しており、大きな出力トルクのためにeを大きな値とし、励磁コイルを飽和させないようにしていたものが、本件補正後の請求項1では、「eの値は、一定の出力トルクとする場合にはe=0を選択し、大きな出力トルクを得る場合には所望のトルクとなるよう0<eの範囲で選択し、励磁コイルの鉄心を飽和させないためにe/L<0.6と」しており、磁化部分とは無関係に溝の深浅eのみでトルクを調整し、磁化部分の溝への挿入の深浅自体が調整可能ではなく、大きな出力トルクを得るためにはeは大きな値ではなく0<eの範囲であればよく、励磁コイルではなく励磁コイルの鉄心を飽和させないようにしているから、発明を特定するために必要な事項を限定しておらず、解決しようとする課題が同一ではない。
したがって、本件補正前の請求項3と本件補正後の請求項1に関し、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものとも認められない。

さらに、本件補正前の請求項3を引用するのは、本件補正前の請求項4、9?11であるが、本件補正後の請求項1を引用するのは、本件補正後の請求項3?10である。
特許請求の範囲の減縮は、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならないところ、本件補正後の請求項3?10は、本件補正後の請求項1を引用しているから、所謂増項補正であり、特許請求の範囲の減縮に該当しない。

(2-2)本件補正後の請求項2
本件補正後の請求項3?10は、本件補正前の請求項4?11に対応しており、また、本件補正後の請求項2に記載された「前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸に沿って対向して配置され」は、本件補正前の請求項2に記載され、本件補正前の請求項1には記載されていないから、本件補正後の請求項2と、本件補正前の請求項2、3との対応関係について検討する。
本件補正前後の請求項1に記載された「前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸の径方向で対向して配置され」が、本件補正前後の請求項2に記載された「前記固定部品と前記可動部品は、前記可動部品の回転軸に沿って対向して配置され」に換わった他は、本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項1、3と同様の対応関係にあるから、上記(2-1)と同様の理由で、特許請求の範囲の限定的減縮には該当しない。

なお、審判請求人は、平成23年6月27日付意見書において、
『2-4)拒絶理由IIIが解消する理由
新請求項1、2において、審判長殿より明細書に記載のない訳語であるとご指摘のあった「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」との記載を削除する補正をしました。
また、旧請求項3における「励磁コイルを飽和させない」との記載は明細書に記載がないとのご指摘を踏まえて、新請求項1、2では「励磁コイルの鉄心を飽和させない」と変更する補正をしました。
さらに、旧請求項1、2における「挿入部分の溝への挿入の深さ」を可変にする記載は明細書に記載がないとのご指摘と、「設定が可能」な構成に関して明細書に記載がないとのご指摘と、を踏まえて「磁化部分の溝への挿入の厚さがe」とし、段落(0026)の記載に基づいてeの値を「選択」するとの記載に変更する補正をしました。

このように補正したことから、理由IIIは解消したものと思料します。』
と主張するが、
本件補正前の特許請求の範囲に対して、「削除」、「変更」を行っていることを認めており、特許請求の範囲の限定的減縮には該当しないから、請求人の主張は採用できない。

したがって、本件補正は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一であるとは認められず、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
本件補正は、上記「2.」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に係る発明は、上記した平成23年3月16日付手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(1)当審の拒絶の理由
当審で平成23年4月8日付で通知した拒絶の理由II、IIIの概要は以下のとおりである。

『II この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)この出願の発明の構成が不明である。例えば、請求項3において、「励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定する」との訳語があるが、磁石の厚さと強磁性部分の表面と溝の底との間の厚さの比を0.6未満とすることで、何故励磁コイルを飽和させないことが可能であるのか、物理的根拠が全く不明である。(例えば、当該比を、0.6とした場合、0.59とした場合、飽和状態が具体的にどの様に異なるのか何ら開示が無く不明である。)


III 平成23年3月16日付でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1、2において、「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」との訳語があるが、当初明細書等には、E-eは固定部品の表面と強磁性部分の表面との間である旨の記載しかなく、各磁化部分のエアギャップをE-eとする点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。(なお、「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」との訳語に関し、誤記は一切認められず、不明瞭な記載も存在しない。)
(2)請求項3において、「励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定する」との訳語があるが、当初明細書等には、「コイルの鉄心を飽和させないようにe/Lの比を制限しなければならない」としか記載がなく、鉄心ではなくコイルを飽和させないようにする点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。(なお、「励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定する」との訳語に関し、誤記は一切認められず、不明瞭な記載も存在しない。)
(3)請求項1、2において、「前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されている」との訳語があるが、当初明細書等には、
「強磁性の挿入部分の厚さeが薄い場合及びまたはアンペアターンの値が小さい場合、アクチュエータのトルクは電流にほぼ比例し、行程に沿ってほぼ一定であるが(Cni2は無視できる)、強磁性の挿入部分がない場合(e=0)よりもトルクは増加する。」(【0023】)、
「強磁性の挿入部分の厚みが厚い場合、トルクは著しく増加するが、アンペアターンが大きくなると、強磁性の挿入部分が発生する可変リラクタンスのために、トルクはもはや電流に比例せず、トルクの様相は行程に沿って一定ではなくなる。これは、一定の用途では妨げにならず、時には利用することさえ可能である。」(【0024】)
としか記載がなく、当初明細書等では「強磁性の挿入部分の厚さeが薄い」、「強磁性の挿入部分の厚みが厚い」、即ち、永久磁石の厚さには無関係に、eが小さければ出力トルクが一定で、eが大きければ大きなトルクが得られたものが、補正後は、「磁化部分の溝への挿入の深さを薄くする」、「磁化部分の溝への挿入の深さを深くする」、即ち、eの値には無関係に、磁石の溝への挿入深さが薄ければ出力トルクが一定で、磁石の溝への挿入深さが深ければ大きなトルクが得られることとなる(例示すれば、出願当初は、磁石の厚さとは無関係に、eが3mmなら一定トルク、eが5mmなら大きなトルクであったものが、補正後は、厚さ3.5mmの磁石をeが3mmの溝に挿入した場合と、厚さ50mmの磁石をeが5mmの溝に挿入した場合では、全体的にみて、厚さ3.5mmの磁石の方が溝に深く挿入されているから大きなトルクが得られ、厚さ50mmの磁石の方が溝に薄く挿入されているから一定のトルクが得られることとなる。)。したがって、磁化部分の溝への挿入の深さを薄くすることで一定の出力トルクが得られ、磁化部分の溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
更に、「・・・設定が可能なように構成されている」との訳語に関し、本願発明の回転電磁アクチュエータは、溝は最初から形成されていて、当該溝の構成は変更不可能であるものであるが、「設定が可能」即ち、使用時において、磁化部分の溝への挿入の深さを調節できるような構成に関して、当初明細書等には何ら開示が無く、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。(なお、「前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されている」との訳語に関し、誤記は一切認められず、不明瞭な記載も存在しない。)』


(2)理由IIに対する当審の判断
請求項3には、「励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定する」とあるが、溝の深さeと磁化部分の厚さLとの比を0.6未満とすることにより、何故励磁コイルを飽和させないことが可能なのか、出願当初の明細書【0012】、【0025】、【0037】、【0038】を参照しても何等記載が無く、その物理的根拠が不明であり、当業者が、出願時の技術常識を考慮しても、溝の深さeと磁化部分の厚さLとの比を0.6未満とすることにより、何故励磁コイルを飽和させないことが可能なのか不明であり、請求項3に係る発明は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(3)理由IIIに対する当審の判断
(3-1)出願当初の記載事項
請求項1-3の記載に関し、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という)には、以下のように記載されている。

a「少なくとも一つの励磁コイルによって励磁されるステータに、Nが整数のとき少なくとも2N個の極を含み、また厚さEのギャップに配置されたN個の磁化部分をロータに含み、各磁化部分は、全長E-eの一つまたは二つのギャップを画定する0?Eの厚さeの少なくとも一つの強磁性部分に並置されることを特徴とする有限行程の回転電磁アクチュエータ。」(【請求項1】)

b「可動部の強磁性の挿入部品は、厚さLの磁化部分の磁化方向の向きに厚さeを有し、0<e/L<0.6であることを特徴とする請求項1に記載の回転電磁アクチュエータ。」(【請求項3】)

c「本発明は、その最も一般的な意味によれば、Nが整数のとき少なくとも2N個の極を備えた、少なくとも一つの励磁コイルによって励磁される少なくとも一つの第一ステータ磁気回路からなる固定部品と、少なくとも一つの磁石を含む可動部品とを含む回転電磁アクチュエータに関し、可動部品はN個の磁石を含み、この磁石は、全長E-eの一つまたは二つのギャップを画定する0?Eの厚さeの少なくとも一つの強磁性部分に並置されることを特徴とする。」(【0009】)

d「好適な変形実施形態によれば、可動部の強磁性の挿入部品は、厚さLの磁化部分の磁化方向の向きに厚さeを有し、0<e/L<0.6である。」(【0012】)

e「強磁性の挿入部分の厚さeが薄い場合及びまたはアンペアターンの値が小さい場合、アクチュエータのトルクは電流にほぼ比例し、行程に沿ってほぼ一定であるが(Cni2は無視できる)、強磁性の挿入部分がない場合(e=0)よりもトルクは増加する。
強磁性の挿入部分の厚みが厚い場合、トルクは著しく増加するが、アンペアターンが大きくなると、強磁性の挿入部分が発生する可変リラクタンスのために、トルクはもはや電流に比例せず、トルクの様相は行程に沿って一定ではなくなる。これは、一定の用途では妨げにならず、時には利用することさえ可能である。
行程全体について公称トルクの2?3倍大きいトルクが必要になる場合は、行程の終わりにインダクタンスの超過によってコイルの鉄心を飽和させないようにe/Lの比を制限しなければならない。ここで、eは強磁性部品の厚さ、Lは磁化方向における磁石の長さである。そのとき、比e/L<0.6であることが望ましい。」(【0023】-【0025】)

f「図7は、様々な寸法を示す図である。幅Yaの磁化部分は、ギャップE内に配置され、長さE-eの第二のギャップを画定する厚さeの強磁性部分に並置されている。行程Cは、磁化部分の平均直径Dm上をロータが移動する角方向の弧の幅であり、Sは、隣接する2個のステータ極間にある磁石の平均直径上で測定した幅である。Lは、磁化方向における磁化部分の厚さである。」(【0038】)


(3-2)理由III(1)について
上記fに基づけば、磁化部分のエアギャップはE-Lであって、E-eは固定部品の表面と強磁性部分の表面との間のギャップであり、「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」る点は、当初明細書等に記載も示唆もなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことは明らかである。
したがって、平成23年3月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2の「各磁化部分はエアギャップE-eを備えて各溝に配置され」る点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


(3-3)理由III(2)について
上記eに基づけば、e/L<0.6の範囲で設定するのはコイルの鉄心を飽和させないようにするためであり、励磁コイルを飽和させないためである点は、当初明細書等に記載も示唆もなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことは明らかである。
したがって、平成23年3月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項3の「励磁コイルを飽和させないために、e/L<0.6の範囲で設定する」点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


(3-4)理由III(3)について
上記eに基づけば、出力トルクの調整のために、強磁性の挿入部分の厚さeが薄い場合、トルクが行程に沿ってほぼ一定であり、強磁性の挿入部分の厚みが厚い場合、トルクは著しく増加し、換言すれば、永久磁石の厚さには無関係に、eが小さければ出力トルクが一定で、eが大きければ大きなトルクが得られるが、「磁化部分の溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる」点、即ち、eとLとの相対的な関係に基づき、磁石の溝への挿入深さが薄ければ出力トルクが一定で、磁石の溝への挿入深さが深ければ大きなトルクが得られる(例えば、eが同一でも、2種類の磁石のLが、L1<L2であれば、全体的にみて、L1が挿入深さを深くでき、L2が挿入深さが浅くなり、eが同じでも、L1とL2にトルク特性に差が生じる。)点は、当初明細書等に記載も示唆もなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことは明らかである。
更に、上記a?fに基づけば、回転電磁アクチュエータは、溝は最初から形成されていて、当該溝の構成は変更不可能であるものであるが、「・・・設定が可能なように構成されている」点、即ち、使用時において、磁化部分の溝への挿入の深さを調節できるよう設定が可能な点は、当初明細書等に記載も示唆もなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことは明らかである。

したがって、平成23年3月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2の「前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを薄くすることで行程に沿って一定の出力トルクが得られ、前記磁化部分の前記溝への挿入の深さを深くすることで大きなトルクが得られる設定が可能なように構成されている」点は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


(4)むすび
したがって、平成23年3月16日付でした手続補正は、当審の拒絶の理由で指摘した点で当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、依然として明細書及び図面の記載が、当審の拒絶の理由で指摘した点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-08 
結審通知日 2011-09-09 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願平11-323535
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (H02K)
P 1 8・ 537- WZ (H02K)
P 1 8・ 561- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 俊樹  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 槙原 進
冨江 耕太郎
発明の名称 回転電磁アクチュエータ  
代理人 大西 正悟  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ