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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1252245
審判番号 不服2010-4445  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-01 
確定日 2012-02-15 
事件の表示 特願2000-571469「弁磁石」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月30日国際公開、WO00/17895、平成14年 8月13日国内公表、特表2002-525862〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、平成11年8月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年9月23、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって,平成21年9月15日に手続補正がされ,同年10月19日付けで拒絶査定がされ,これに対して平成22年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2. 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は,平成21年9月15日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

(本願発明)
「【請求項1】 爆発危険のある領域に使用可能なハウジング(10)内に配置されているコイル(30)とコア(31)とを有する弁磁石において、
コイル(30)とコア(31)とがハウジング部分に装入された鋳型材(20)内に埋設されており、
この鋳型材(20)は爆発危険のある大気が帯電部分と接触するのを妨げ、同時に固定および電気的絶縁の働きをし(鋳型カプセル封じ)、さらにコイル(30)の接続部材(41)が、内部での爆発時に所定の爆発圧力に耐えて、爆発が周囲に伝播するのを妨げるハウジング部分(11)内に配置されていること(耐圧カプセル封じ)を特徴とする弁磁石。」

3. 引用例に記載された発明
(1) 引用例に記載された発明
本願の優先権主張の日前に外国において頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である西独国特許出願公開2926549号明細書(以下「引用例」という。)には,図1?3と共に,以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。

ア 「

」(第3ページ4行?最下行)
(審決訳:本発明は、磁気回路に属するパイプ状のカバーによって覆われている巻線空間と回路要素を収容するための空間とを備え、防爆性および耐圧性を有する電磁石に関する。)

イ 「

」(第6ページ17行?22行)
(審決訳:この端子箱は、爆発の原因となり得ない構成要素のみを収容する。したがって端子箱の閉め切りは、手間をかけなくとも十分な形で得ることが可能となる。なお、このことは安全条件を改善するために特別な場合において端子箱に対してそれ自体公知である適切な手段を設けることを除外するものではない。)

ウ 「

」(第7ページ21行?第8ページ11行)
(審決訳:図1において示される本発明の実施例においてカバーパイプは、磁石の駆動側を表す図における下端においてカバーパイプ1と電機子17との間における磁気結合を生成する挿入部分16を有する。
この電機子17は、テーパ部分18を有するテーパ状電機子として形成されている。ネジ孔19は、電機子とこの電機子によって駆動される構成要素とを連結する機能を有する。溝付ピン20は、挿入部分16とカバーパイプ1とを連結する。
カバーパイプ1には、中間板21が挿入されており、この板の22において接続部をコイルまたは巻線空間2に収容されている巻線23へと通すための溝を有する。 中間板21は、さらに電機子17のテーパ部分18に適合された溝24を有する電機子嵌合部材13も担持する。)

エ 「

」(第9ページ1行?第10ページ最下行)
(審決訳: 個々には図示されていない配線および接続によって巻線23と回路要素5とが接続される。接続部は、蓋7における配線ブッシング10を通るように貫通されている。この蓋7は、カバーパイプ1あるいは延長部3の端部6内に挿入されて収容空間4を閉止する。その詳細が同じブッシングが用いられている図2においてよりよく見受けられるブッシング10のための開口部の他に、好ましくは注入のために用いられる別の開口部8が蓋7に設けられる。注入時においては、全ての構成要素を取り付けて接続した後、収容空間4と巻線空間2とが同時に注入物質、具体的には注型樹脂を用いて充填される。注入は、それ自体公知であるように例えば真空下において実施される。
注入工程後には磁石の内部において一切空洞が存在しない。
端子箱11は、実質的にカバーパイプ1上に挿入されて29において溶接されるスリーブ12から構成される。この端子箱11は、接続端子を収容する。収容箱は、スリーブ12の縁において支持される端子箱蓋15によって閉止される。関連する封止部は30で表されている。
端子箱蓋15は、電機子嵌合部材13の柱状延長部14に係止するネジ33によって保持される。この柱状延長部14は、収容空間の蓋7を貫通し、中間板21と蓋7とによって電機子嵌合部材を安定して支持することが可能であることは明白である。
さらに端子箱11は、通常のケーブルブッシング31と接地端子32および36を有する。
図1における本発明の実施例においては電機子嵌合部材13とカバーパイプ1との間における磁気結合がヨークとして機能する中間板21だけではなく蓋7と協働した上で得られるため、個々の構成要素の寸法を決定する際にこれに応じて蓋を考慮することが可能である。
図2および図3における実施例において、回路要素5のための空間34を包囲するハウジング35は、端子箱37とともにユニット38として組み合わされている。このユニット38は、カバーパイプ40の側面に対して例えばネジ止めによって取り付けられている。ユニット38をカバーパイプ40に対して連結するための固定ネジは、41で表される。
ユニット38において回路要素5のための空間34をその他の端子箱空間から分離するための中間壁39が設けられている。この空間34は、さらにブッシング10をも収容する。ブッシングの固定は、カバーパイプ40におけるネジ42、ネジを覆うスリーブ43およびストラップ44によって実施される。こうすることによってブッシング10を空間34において自由に配置することが可能になり、注入工程の後にはこれらブッシングを隙間なく固定することが可能となる。
収容空間34は、導管45およびカバーパイプ40における穿孔46を介して巻線空間2と連結されているため、一回の注入工程で全ての内部空間を充填することが可能となる。このため注入物質がノズルを用いて注入孔47に導入され、先に巻線空間2を、その後空間34を充填する。)

オ 図1には,カバーパイプ1内で,中間板21により囲まれた巻線空間2に巻線23が,端子箱11には,ブッシング10がそれぞれ収容されて,収容空間4,巻線空間2が注型樹脂で充填されていることが記載されている。

カ 図2には,ブッシング10が巻線と接続されていることが記載されている。

キ 上記アによれば,引用例記載の「電磁石」は,「防爆性および耐圧性を有する」ものであるから,それを覆うカバーパイプ1は当然爆発危険のある領域に使用可能なものであることは明らかである。

ク 上記エ及びオによれば,「全ての構成要素を取り付けて接続した後、収容空間4と巻線空間2とが同時に」「注型樹脂を用いて充填され」,「注入工程後には磁石の内部において一切空洞が存在しない」のであるから,構成要素である巻線23は注型樹脂内に埋設されていることが分かる。

以上総合すると,引用例には以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「爆発危険のある領域に使用可能なカバーパイプ1に配置された巻線23を有する電磁石において,巻線23が注型樹脂内に埋設されており,配線ブッシング10が端子箱11内に収容されていることを特徴とする電磁石」

4.対比・判断
(1) 対比
引用発明の「カバーパイプ1」,「端子箱11」,「注型樹脂」および「巻線23」は,それぞれ本願発明の「ハウジング(10)」,「ハウジング部分(11)」,「鋳型材(20)」および「コイル(30)」に相当する。
また,3.(1)カより,引用発明の「配線ブッシング10」が巻線と接続されており,ブッシング10が外部のケーブルに接続されることは明らかであるから,引用発明の「配線ブッシング10」は,本願発明の「接続部材(41)」に相当する。
また,引用発明の「電磁石」は,「巻線空間2」内に「注型樹脂」を「充填」されていることから当然に,その「樹脂」が大気と帯電部分との接触を妨げていること,及び「樹脂」そのものの性質として電気的絶縁の働きがあることは明らかである。
また,本願発明の「弁磁石」も電磁石を弁の動作に応用したもので,引用発明の「電磁石」とは,「電磁石」である点で共通する。

(一致点)
本願発明と引用発明とは,
「 爆発危険のある領域に使用可能なハウジング(10)内に配置されているコイル(30)を有する電磁石において、
コイル(30)がハウジング部分に装入された鋳型材(20)内に埋設されており、この鋳型材(20)は爆発危険のある大気が帯電部分と接触するのを妨げ,同時に固定および電気的絶縁の働きを(鋳型カプセル封じ),
コイル(30)の接続部材(41)が、ハウジング部分(11)内に配置されていることを特徴とする電磁石。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は,「弁磁石」であるのに対して,
引用発明は,「電磁石」である点。

(相違点2)
本願発明は,「コイル(30)とコア(31)とを有」し,「ハウジング部分に装入された鋳型材(20)内に埋設されて」ているのに対して,
引用発明は,「コア」有していないため「コア」が鋳型材内に埋設されていない点。

(相違点3)
本願発明は,「内部での爆発時に所定の圧力に耐え、かつ爆発が周囲に伝播するのを妨げるハウジング部分(11)」であるのに対して,
引用発明は,ハウジング部分の特性について何ら特定されていない点。

(2) 判断
(相違点1,2について)
ア 弁磁石について
電磁石の応用分野として「弁磁石」は,以下の周知例1,2にもあるように周知である。
したがって,引用発明の電磁石を弁磁石に適用することは当業者ならば適宜になし得たことである。

イ コアを設ける点について
一般に電磁石の磁力を強くするために,磁性材料のコアを設けることは,ごく普通に行われていることであるから,引用発明において,コアを設けることは当業者が適宜なし得たことである。そして,引用発明は「注入工程後には磁石の内部において一切空洞がない」(上記3.(1)エ)構成とするものであること,及び弁磁石において,コアとコイルとを鋳型材内に埋設することは,以下の周知例1,2にもあるように周知の技術であることを勘案すると,引用発明において,コアを設けるに際し,本願発明のようにコアも鋳型材内に埋設する構造とすることは,当業者ならば適宜なし得たことである。

(ア) 周知例1:特開昭52-59845号公報
周知例1には,図1とともに以下の記載がある。
a 「油圧用,空圧用など圧力器機用電磁弁の制御には,プランジヤがチューブ内に装入されている形式のソレノイドが多く用いられる。」(第1ページ左下欄16行?18行)

b 「この発明のソレノイドは上記のようなコア本体12(a?dに共通)と,プランジヤ組立体を貫通させ得るボビン20に巻かれたコイル2およびプランジヤ組立体が,コイルのリード線やリード線を電源に接続するためのコネクタなど所要の付属部品と共に,あらかじめこれらを収容できる空間を設けたケース6内においてエポキシ樹脂などの充填剤7によつて固定されているものである。コア,コイル等の間隙および周囲はすべて充填剤で満たされている。
第1図はプランジヤ組立体と第4図のコア本体とを組み合わせて用いたソレノイドの断面を示しており,円筒形コア本体(端面版14を含む)は前記開放部16を有する。またこの実施例では上部磁気回路の断面積を大きくするため上部端面板14が2枚重合使用されている。コア本体とコイル本体との組立体は全体を符号8によるて示す所要の付属部品すなわちリード線80,差し込み式コネクタ81の取付け基部82と共にあらかじめこれらを収容し得る空間を形成したケース6内の所定位置に定置され,充填材7によってケース6の空間内に固定されている。」(第2ページ右上欄4行?同ページ左下欄5行)

c 「また充填剤にはエポキシ樹脂が好適であるが,絶縁の程度その他個個の条件によつては他の充填剤を使用しても良い。」(第4ページ左上欄15行?18行)

(イ) 周知例2:実願平3-30783号(実開平4-89852号)のCD-ROM公報
周知例2には,図1とともに以下の記載がある。
a 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,強磁性材料から成るコアが弁ケーシングの内室に突入していて,この突入端部には,磁石コイルを少なくとも部分的に取り囲んでいる絶縁性の保持体が取り付けられており,接極子によって弁体が操作されるようになっている形式の、内燃機関の燃料噴射装置用の燃料噴射弁に関するものである。」

b 「【0011】
コアと保持体11と磁石コイル12とは弁ケーシング1の内室9を完全には満たしていない。本考案によれば,保持体11及び磁石コイル12を内室9内に組み込む前に、保持体11及び磁石コイル12がプラスチック外とう52で鋳くるまれる。このプラスチック外とう52は,コア・保持体11及び磁石コイル12の全体と弁ケーシング1の内室9の内壁面との間に残されているスペースを満たす。これによって,燃料がたまって腐食を生ぜしめるような透き間容積が形成されることが避けられる。」

(相違点3について)
爆発の危険のある領域で使用する電磁石において,外部との接続部分の防爆の対策を講じることは当業者として当然のことであり,また,引用例にも「安全条件を改善するために特別な場合において端子箱に対してそれ自体公知である適切な手段を設けることを除外するものではない」(上記3.(1)イ)と更なる対策を講じても良いことが示唆されているのである。
そして,弁磁石において,接続部分をカプセル封じで防爆対策を行うことも,以下の周知例3,4に記載されているように周知の技術である。
したがって,引用発明において,接続部分のハウジング部分11,12,15の防爆対策として周知の「耐圧カプセル封じ」で対策を採ることは,当業者ならば容易になし得たことである。

(ア) 周知例3:特開昭59-101806号公報
周知例3には,図とともに以下の記載がある。
a「技術分野
本発明は,電磁石の巻線を該巻線の周面上で直接囲みかつ該巻線のコイルに当接する電磁石ケーシング,該巻線内に設けられた軸方向に可動な可動鉄心及び該電磁石ケーシングに固定的に連結され該巻線の端子を内部に収容する耐圧の接続箱を具備する駆動用電磁石,例えば持ち上げ運動発生用電磁石(Hubmagnet)に関する。本発明による駆動用電磁石は,例えば,地下鉱山等の爆発性気体雰囲気中で用いられる油圧弁制御用の駆動用電磁石として用いることができる。」(第1ページ右下欄17行?第2ページ左上欄4行)

b「磁石ケーシング15の胴面には孔が貫通している。この軸に垂直に配置された管片23は前記の孔に挿入される。管片23は,巻線7に接続された接続線24を収容する。管片23は接続箱38の箱ケーシング25の壁部をも貫通する。接続線は接続箱38中に突出し,接続箱38は接続線24を取り付けるための取付板26を収容する。取付板26は,箱ケーシング25中の壁部を貫通する中空ねじ27により支持される。この中空ねじ27を通って,接続片28が案内される。接続片28は接続線29を介して取付板26に接続される。箱ケーシング25は,取付板26の側に設けられた箱カバー30により,外方に向けて閉成されている。箱カバー30により仕切られ,取付板26を収容する部屋は,巻線7を収容する領域と共に,耐圧に構成されている。箱ケーシング25は,はんだ付けにより,電磁石ケーシング15の胴面に連結されている。接続片28を収容する接続箱の部屋は,図の右側に設けられた接続カバー31により覆れる。」(第3ページ右上欄6行?同ページ左下欄5行)

(イ) 周知例4:特開昭58-128482号公報
周知例4には,図1?3とともに以下の記載がある。
a「(1) 必要に応じ外方に突出する調整エレメントを備えたカバーによつて閉鎖され,アンカー及び戻しばねによつて軸方向に操作される軸によつて隔膜を作動するための電磁石及び電磁石に励磁パルスを与えるための電気制御装置を収容し且つ前端部に隔膜を有するポンプヘッドを保持するハウジングを有する隔膜ポンプに於て,ハウジング(1)はカバー(2)と共に耐圧カプセルを形成しカバーとハウジングとの結合部,軸(26)のハウジングから…(中略)…ことを特徴とする隔膜ポンプ」(第1ページ左下欄5行?17行)

b「この構造に於て電気駆動部は,DIN EN 50018に依る「耐圧カプセル」保護法に相当する如く,耐圧カプセルに封入される。このカプセルは内部の爆発の際にその圧力に耐える。」(第3ページ左上欄7行?10行)

c「ハウジング(1)及びカバー(2)は内部空間…(中略)…中の爆発に耐える如く耐圧性とする。これらは好ましくはマグネシウム6%未満のアルミニウム鋳物製とする。場合によりカバー(2)は合成樹脂製とする。」(第5ページ左下欄17行?右下欄1行)

(4) 判断についてのまとめ
以上検討したとおり,本願発明は,当該技術分野における周知の技術を勘案することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-03 
出願番号 特願2000-571469(P2000-571469)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 西脇 博志
小川 将之
発明の名称 弁磁石  
代理人 大橋 康史  
代理人 青木 篤  
代理人 篠崎 正海  
代理人 鶴田 準一  
代理人 大平 和由  
代理人 島田 哲郎  

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