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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1252342
審判番号 不服2008-28850  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-12 
確定日 2012-02-17 
事件の表示 特願2003-357948「排水処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月12日出願公開、特開2005-118711〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年10月17日の特許出願であって、平成20年6月23日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年8月22日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成20年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年12月11日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされるとともに同日付で審判請求書に係る手続補正がなされた後、平成23年5月16日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成23年7月15日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成20年12月11日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月11日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正の目的
平成20年12月11日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)において、特許請求の範囲についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載の「前記排水処理領域を流動可能な担体」に関し、「前記排水処理領域を流動可能であり、前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう担体」とする補正事項1と、本件補正前の請求項1に記載の「前記一対の平板状金属電極は、前記担体流動化手段によって流動化した前記担体が電極間に流入可能な電極間距離を有し、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対する前記電極間距離の比率が1.7以上とされた構成である」ことに関し、「前記一対の平板状金属電極の電極間距離は、前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離とされた構成である」こととする補正事項2からなるものである。
そして、上記補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載の「前記排水処理領域を流動可能な担体」に関し、「前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう」との記載を付加し、減縮するものであることは明らかである。
上記補正事項2において、本件補正前の「前記担体流動化手段によって流動化した前記担体が電極間に流入可能な電極間距離を有し、」との記載が削除されているものの、この記載が特定する内容は、本件補正後の「前記一対の平板状金属電極の電極間距離は、・・・・前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離とされた構成である」との記載により実質的に特定されているといえる。そうすると、上記補正事項2は、担体の長軸方向に関する長軸長さに対する電極間距離の比率について、本件補正前の「1.7以上」との特定を「1.7?2.5」との特定に減縮するとともに「前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように」との記載の付加により減縮するものとみることができる。
よって、本件補正において、特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

2-2.独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「排水処理領域に滞留する被処理水に浸漬される一対の平板状金属電極と、前記排水処理領域を流動可能であり、前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう担体と、前記担体を流動化させる担体流動化手段とを有する排水処理装置であって、
前記一対の平板状金属電極の電極間距離は、前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離とされた構成であることを特徴とする排水処理装置。」

(2)刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特開2001-079580号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「汚水中に含まれるリンを、電気化学的に金属電極から金属イオンを溶出させることでリン除去する汚水処理の脱リン装置において、流動床担体を充填した生物濾過槽の上方部に、当該担体の浮上防止用ネットを設け、生物濾過槽の下方部に前記担体の沈降防止用ネットを設け、前記浮上防止用ネットと沈降防止用ネットの間に散気装置を設けると共に、生物濾過槽の底部室に逆洗装置を設けてなり、前記上下ネット間の区画室に入れた流動床担体が、前記散気装置の間を通過して当該区画室内を流動自在とし、前記上部ネットから陰陽一対の前記金属電極を区画室に落とし込んで掛架支持し、前記流動床担体に対する散気・逆洗時に、流動床担体を含む汚水を散気・曝気撹拌することにより、前記金属電極の表面に流動床担体を擦り付けたり、衝突させることで、当該金属電極に付着した生物膜や電極表面の不動態皮膜を剥離洗浄するように構成したことを特徴とする脱リン用金属電極を備えた生物濾過装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項3】)
(b)「尚、請求項1?請求項3に記載の流動床担体又は濾材としては、プラスチック、セラミック、アンスラサイト又は砂のいずれかとし、好気性処理槽に充填したこのような接触媒体を金属電極の洗浄媒体としても有効利用する。即ち、前記の流動床担体や濾材を本来の生物濾過処理のための接触・濾過媒体として機能すると共に、当該担体や濾材の散気・逆洗時においては、金属電極に付着した生物膜や当該電極表面に形成される不動態皮膜を剥離洗浄するため洗浄媒体としても機能する。」(段落【0012】)
(c)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図1と図2に示す汚水浄化槽Tの概要図と、本発明の要部を示す図3の斜視図等に基づいて説明する。汚水浄化槽Tの内部は、・・・・具体的には、夾雑物除去槽Aと嫌気濾床槽Bと生物濾過槽Cと処理水槽Dと消毒槽Eの各処理槽を備えている。
・・・・
Xは合成樹脂製で中空円筒状の流動床担体であって、具体的には、その内外径が12?14mmφ程度の円筒形状で、その高さが14?15mm程度、肉厚が1mm程度に成形され、・・・・。
・・・・
次に、脱リン装置Pの本体構成を、図4(a)、(b)に基づいて説明する。35は間隔を隔てて対向した陰陽一対の金属電極であって、具体的には、鉄やアルミニウム、マグネシウム等の板状、棒状等の導電性ある金属により形成され、その一方が陽極35a、他方が陰極35bとして機能し、その対極間に直流又は交流のいずれかの電流が印加される。・・・・。
・・・・これにより、脱リン装置Pにおける金属電極35が、生物処理槽Cの区画室Fに垂下形成され、生物濾過槽Cの好気処理水中に浸漬されて電気溶解に供される。」(段落【0013】?【0021】)
(d)「また、図8に示す第3の実施形態の場合には、汚水を二次処理する好気性処理槽T2の槽内に比較的比重の重い、直径数mm程度のセラミック製濾材Y又はアンスラサイト、砂等の濾材Yを下部ネット14上に充填して濾過層43を形成し、・・・・。この場合にも、前記した第1・第2の実施形態と同様に、・・・・電極表面の付着物や不動態皮膜等の剥離洗浄が行われる。・・・・。」(段落【0034】)
(e)「【図4】脱リン装置を示す図であって、(a)はその斜視図、(b)は側面図である。」(【図面の簡単な説明】の【図4】)との記載とともに、【図4】(a)及び(b)の図面には、陽極35aと陰極35bが平板状であることが窺える。

(3)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、記載(a)に、「汚水中に含まれるリンを、電気化学的に金属電極から金属イオンを溶出させることでリン除去する汚水処理の脱リン装置において、流動床担体を充填した生物濾過槽の上方部に、当該担体の浮上防止用ネットを設け、生物濾過槽の下方部に前記担体の沈降防止用ネットを設け、前記浮上防止用ネットと沈降防止用ネットの間に散気装置を設けると共に、生物濾過槽の底部室に逆洗装置を設けてなり、前記上下ネット間の区画室に入れた流動床担体が、前記散気装置の間を通過して当該区画室内を流動自在とし、前記上部ネットから陰陽一対の前記金属電極を区画室に落とし込んで掛架支持し、前記流動床担体に対する散気・逆洗時に、流動床担体を含む汚水を散気・曝気撹拌することにより、前記金属電極の表面に流動床担体を擦り付けたり、衝突させることで、当該金属電極に付着した生物膜や電極表面の不動態皮膜を剥離洗浄するように構成した」「脱リン用金属電極を備えた生物濾過装置。」が記載されている。
イ そして、上記アの「生物濾過装置」の「金属電極」に関し、この発明の実施の形態を説明する記載(c)に、「35は間隔を隔てて対向した陰陽一対の金属電極であって、具体的には、鉄やアルミニウム、マグネシウム等の板状、棒状等の導電性ある金属により形成され、」と記載されていることからみて、該「金属電極」として、一対の平板状金属電極を用い得ることは明らかであり、このことは、記載(e)の図面から窺うことができる事項にも裏付けられている。
ウ また、該「金属電極」に関し、記載(c)に、「脱リン装置Pにおける金属電極35が、生物処理槽Cの区画室Fに垂下形成され、生物濾過槽Cの好気処理水中に浸漬されて電気溶解に供される」と記載されていることからみて、該「金属電極」は、生物濾過槽Cの好気処理水中に浸漬されているといえる。
エ 上記ア?ウで検討したところを踏まえ、刊行物1の記載事項を整理すると、刊行物1には、
「汚水中に含まれるリンを、電気化学的に金属電極から金属イオンを溶出させることでリン除去する汚水処理の脱リン装置において、流動床担体を充填した生物濾過槽の上方部に、当該担体の浮上防止用ネットを設け、生物濾過槽の下方部に前記担体の沈降防止用ネットを設け、前記浮上防止用ネットと沈降防止用ネットの間に散気装置を設けると共に、生物濾過槽の底部室に逆洗装置を設けてなり、前記上下ネット間の区画室に入れた流動床担体が、前記散気装置の間を通過して当該区画室内を流動自在とし、前記上部ネットから陰陽一対の平板状金属電極である前記金属電極を区画室に落とし込んで掛架支持して生物濾過槽の好気処理水中に浸漬させ、前記流動床担体に対する散気・逆洗時に、流動床担体を含む汚水を散気・曝気撹拌することにより、前記金属電極の表面に流動床担体を擦り付けたり、衝突させることで、当該金属電極に付着した生物膜や電極表面の不動態皮膜を剥離洗浄するように構成した、脱リン用金属電極を備えた生物濾過装置。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
ここで、本願補正発明1と刊行1発明とを対比する。
ア 刊行1発明の「汚水」は、電気化学的に金属電極から金属イオンを溶出させることでリン除去の対象とされるものであり、本願補正発明1の「排水」は、本願明細書の段落【0025】の記載によれば、電気分解により金属電極から金属イオンを溶出させ、溶解しているリン成分を難溶性の金属リン酸塩として除去する処理の対象とされるものであることからみて、刊行1発明の「汚水」と本願補正発明1の「排水」は、実質的に差異がないものといえる。
そうすると、刊行1発明の「区画室」は、「汚水」を処理する領域であるといえることから、本願補正発明1と同様、「排水処理領域」であるとみることができる。また、刊行1発明の「脱リン用金属電極を備えた生物濾過装置」は、「汚水」を処理する装置であるといえることから、本願補正発明1と同様、「排水処理装置」であるとみることができる。
イ 刊行1発明では、「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」を「上部ネットから」「区画室に落とし込んで掛架支持して生物濾過槽の好気処理水中に浸漬させ」ており、このことからみて、「区画室」には「好気処理水」が「滞留」しており、この「好気処理水」に「金属電極」を浸漬させていることは明らかである。また、この「好気処理水」は、「被処理水」とみることができる。
これらのことと上記アで検討したところを踏まえると、刊行1発明の「金属電極」は、本願補正発明1の「排水処理領域に滞留する被処理水に浸漬される一対の平板状金属電極」に相当するといえる。
ウ 刊行1発明では、「金属電極に付着した生物膜や電極表面の不動態皮膜を剥離洗浄する」ように構成されているところ、この「金属電極」は、「陰陽一対の平板状金属電極」であって、「生物濾過槽の好気処理水中に浸漬させ」ている。
ここで、上記「生物膜」については、「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」の表面のうち「生物濾過槽の好気処理水中に浸漬させ」た部分に付着すること、すなわち、「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」の外側の面とともに「電極間の」金属電極表面に生物膜が付着することは、当業者には自明のことである(必要であれば、特開2002-119985号公報の図3等参照。)。また、上記「不動態皮膜」についても、「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」の外側の面とともに「電極間の」金属電極表面に形成されることは明らかである。
そうすると、「金属電極の表面に流動床担体を擦り付けたり、衝突させることで、当該金属電極に付着した生物膜や電極表面の不動態皮膜を剥離洗浄する」ものである刊行1発明において、「金属電極」の「電極間の」金属電極表面を洗浄すること、また、そのために、流動床担体を「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」の「電極間の」金属電極表面に衝突させるようにすることは、当業者が当然に所望することであり、刊行物1に記載されているに等しい事項であるといえる。
さらに、上記「流動床担体」は、「区画室内を流動自在」とされているものである。
これらのことを踏まえると、刊行1発明の「流動床担体」は、本願補正発明1の「前記排水処理領域を流動可能であり、前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう担体」と実質的な差異がない。
エ 刊行1発明では、「流動床担体を充填した生物濾過槽の上方部に、当該担体の浮上防止用ネットを設け、生物濾過槽の下方部に前記担体の沈降防止用ネットを設け、前記浮上防止用ネットと沈降防止用ネットの間に散気装置を設けると共に、生物濾過槽の底部室に逆洗装置を設けてなり、前記上下ネット間の区画室に入れた流動床担体が、前記散気装置の間を通過して当該区画室内を流動自在と」するとともに「前記流動床担体に対する散気・逆洗時に、流動床担体を含む汚水を散気・曝気撹拌することにより、前記金属電極の表面に流動床担体を擦り付けたり、衝突させ」ている。このことからみて、刊行1発明の「散気装置」及び「逆洗装置」は、「流動床担体」を流動させていることは明らかであり、本願補正発明1の「担体を流動化させる担体流動化手段」に相当するといえる。
オ 上記ア?エで検討したところを踏まえ、本願補正発明1と刊行1発明とを対比すると、両者は、「排水処理領域に滞留する被処理水に浸漬される一対の平板状金属電極と、前記排水処理領域を流動可能であり、前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう担体と、前記担体を流動化させる担体流動化手段とを有する排水処理装置」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:一対の平板状金属電極の電極間距離について、本願補正発明1では、「前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離」と特定されているのに対し、刊行1発明では、かかる事項が特定されていない点。

(5)相違点についての検討
ア 刊行物1には、流動床担体が電極間に閉塞するのを防止することについての記載はない。しかしながら、上記(4)ウで検討したように、刊行1発明において、流動床担体が「陰陽一対の平板状金属電極」である「金属電極」の「電極間の」金属電極表面に衝突することは、当業者が当然に所望することであり、そうである以上、流動床担体が電極間に閉塞するのを防止すべきことは、当業者には自明のことである。
イ さらに、刊行物1には、「陰陽一対の平板状金属電極」の「電極間距離」についての記載もないが、電極間距離をどの程度とするかは、処理効率の向上等の自明な課題を考慮した実験等により適宜定め得る設計的事項である。
してみると、刊行1発明において、流動床担体が電極間に閉塞するのを防止すること(上記ア)を考慮した実験等により電極間距離を適宜定めることとし、「陰陽一対の平板状金属電極」の「電極間距離」について、上記相違点に係る本願補正発明1の発明特定事項である「前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離」とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
ウ ところで、刊行物1には、「流動床担体又は濾材」に関し、記載(b)の「尚、請求項1?請求項3に記載の流動床担体又は濾材としては、プラスチック、セラミック、アンスラサイト又は砂のいずれかとし、好気性処理槽に充填したこのような接触媒体を金属電極の洗浄媒体としても有効利用する。」との記載、記載(c)の「Xは合成樹脂製で中空円筒状の流動床担体であって、具体的には、その内外径が12?14mmφ程度の円筒形状で、その高さが14?15mm程度、肉厚が1mm程度に成形され、」との記載、及び記載(d)の「第3の実施形態の場合には、汚水を二次処理する好気性処理槽T2の槽内に比較的比重の重い、直径数mm程度のセラミック製濾材Y又はアンスラサイト、砂等の濾材Yを下部ネット14上に充填して濾過層43を形成し、・・・・。この場合にも、前記した第1・第2の実施形態と同様に、・・・・電極表面の付着物や不動態皮膜等の剥離洗浄が行われる。」との記載があることからみて、刊行物1には、流動床担体又は濾材として、合成樹脂製で中空円筒状で高さが14?15mm程度のものや、直径数mm程度のセラミック製のものを用い得ることが記載されているといえる。そして、これらは単なる例示にすぎないこと、また、流動床担体又は濾材として、合成樹脂製で中空円筒状で高さが数mm程度の小さなものも普通に用いられていること(必要であれば、特開平2-211292号公報の特許請求の範囲及び表1参照。以下、この公報を「周知例1」という。)を踏まえると、流動床担体又は濾材として、合成樹脂製で中空円筒状で高さが「数mm?15mm」の範囲のものを用い得ることは、当業者には明らかである。
エ また、電気化学的に金属イオンを溶出させて汚水中に含まれるリンを除去するために陰陽一対の平板状金属電極を用いる際に、電極間距離を20?25mm程度とすることは、普通に行われている(例えば、原査定の拒絶理由に引用された特開2001-062463号公報の段落【0065】、特開2001-252668号公報の段落【0053】等参照。さらに必要であれば、特開2000-317493号公報の段落【0030】等参照。以下、これらの公報を順にそれぞれ「周知例2」、「周知例3」、「周知例4」という。)。
このことと上記ウで検討したところからみても、流動床担体として、合成樹脂製で中空円筒状で高さが「数mm?15mm」の範囲内の例えば10mmのものを用いるとともに、電極間距離として、「20?25mm」の範囲内の例えば20mmとすることは、格別困難なことではなく、また、このようにすることにより、「電極間距離」は「担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍」となることからみて、上記イの判断は妥当であるといえる。
オ さらに、本願補正発明1の「担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離」との発明特定事項の技術的意義について検討すると、本願明細書の段落【0028】?【0033】の記載によれば、担体の長軸長さd1に対する電極間距離d2の比率(d2/d1)に関し、当該比率を1.7以上とすることにより、一対の金属電極の電極間に担体が閉塞するのを防止することが可能となり、当該比率を3.0以下とすることにより、一対の金属電極に作用する電圧の上昇を防止しランニングコストの上昇を防止することが可能となるものとされている。
しかしながら、電極間距離が大きくなると、一対の金属電極に作用する電圧が上昇し、ランニングコストが上昇することは、当業者が予測し得ることであり、電極間距離を小さく(上記比率を小さく)することにより、これを防止できることが格別な効果であるということはできない。
また、上記アで検討したところによれば、一対の金属電極の電極間に担体が閉塞するのを防止できるとの効果についても、当業者が予測し得る範囲内のものといえるし、この効果に関する上記比率の最適値(最適範囲)は、少なくとも担体の形状や担体流動の駆動力などの条件に左右されるのは明らかであるから、このような条件を特定していない本願補正発明1において、上記発明特定事項による特定をしても、上記効果が顕著なものになるということはできない。本願明細書の段落【0030】に記載された実験において、このような条件が何らかの特定のものに固定されているとしても、本願明細書及び図面の記載からは、本願補正発明1の上記発明特定事項における数値範囲の限定に臨界的意義を見いだすことはできない。
カ したがって、刊行1発明において、上記相違点に係る本願補正発明1の発明特定事項である「前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

2-3.補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知例1?4に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成20年12月11日付けの特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年8月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「排水処理領域に滞留する被処理水に浸漬される一対の平板状金属電極と、前記排水処理領域を流動可能な担体と、前記担体を流動化させる担体流動化手段とを有する排水処理装置であって、
前記一対の平板状金属電極は、前記担体流動化手段によって流動化した前記担体が電極間に流入可能な電極間距離を有し、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対する前記電極間距離の比率が1.7以上とされた構成であることを特徴とする排水処理装置。」

4.刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物は、刊行物1(特開2001-079580号公報)であり、その記載事項は、上記2-2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1を本願補正発明1に照らしてみると、本願発明1は、本願補正発明1の発明特定事項のうち、(1)「担体」に関し、「前記一対の平板状金属電極の電極間の金属電極表面に衝突することによって当該平板状金属電極の洗浄を行なう」との発明特定事項を削除し、(2)「担体の長軸方向に関する長軸長さ」に対する「電極間距離」の比率に関し、「1.7?2.5」との数値範囲を「1.7以上」との数値範囲に拡張するとともに、「前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように」との発明特定事項を削除し、(3)「一対の平板状金属電極」の「電極間距離」に関し、「前記一対の平板状金属電極は、前記担体流動化手段によって流動化した前記担体が電極間に流入可能な電極間距離を有」するとの発明特定事項を付加するものである。
ここで、上記(1)、(2)については、本願補正発明1の範囲を拡張するものであることは明らかである。上記(3)で付加する発明特定事項の内容は、本願補正発明1の「前記一対の平板状金属電極の電極間距離は、前記金属電極表面に衝突する前記担体が電極間に閉塞するのを防止するように、前記担体の長軸方向に関する長軸長さに対し1.7?2.5倍の電極間距離とされた構成である」との発明特定事項により実質的に特定されていることであるから、本願発明1は、これが付加されても、本願補正発明1の範囲を減縮したものにはならない。してみると、本願発明1は、本願補正発明1の範囲を拡張し、それを包含するものである。
してみれば、本願補正発明1が、上記2-2.で述べたように、特許を受けることができないものである以上、本願補正発明1を包含するものである本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、特許を受けることができないものであるといえる。すなわち、本願発明1は、本願補正発明1と同様、刊行物1に記載された発明及び周知例1?4に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上検討したところによれば、本願発明1すなわち本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-16 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願2003-357948(P2003-357948)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
目代 博茂
発明の名称 排水処理装置  
代理人 岩田 哲幸  

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