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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1252355
審判番号 不服2010-2163  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-01 
確定日 2012-02-13 
事件の表示 平成10年特許願第193109号「窒化チタン障壁層の形成方法及び窒化チタン障壁層を含む半導体デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 2日出願公開、特開平11-150087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年7月8日(パリ条約による優先権主張平成9年7月9日、米国)の出願であって、平成21年9月29日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成22年2月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされ、その後当審において平成23年4月20日付けで審尋がなされ、同年9月1日に回答書が提出されたものである。

2.平成22年2月1日付けの手続補正について
【補正の却下の決定の結論】
平成22年2月1日付けの手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成22年2月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし30を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし30に補正するものであり、そのうちの補正前後の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
部分的に製作された電子デバイスに窒化チタン障壁層を形成する方法であって、
前記部分的に製作された電子デバイスの上に第1の温度で第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程と、
前記第1の窒化チタンサブレーヤの上に第2の温度で第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程とを備えており、前記第2の温度を前記第1の温度よりも高くすることを特徴とする窒化チタン障壁層の形成方法。」

(補正後)
「【請求項1】
部分的に製作された電子デバイスに窒化チタン障壁層を形成する方法であって、
前記部分的に製作された電子デバイスの上に第1の温度で、第1の抵抗率を有する第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程と、
前記第1の窒化チタンサブレーヤの上に第2の温度で、第2の抵抗率を有する第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程とを備えており、前記第2の温度は前記第1の温度よりも高く、第2の抵抗率は第1の抵抗率よりも低いことを特徴とする窒化チタン障壁層の形成方法。」

(2)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無についての検討
(2-1)補正後の請求項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」及び「第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」を、各々「第1の抵抗率を有する第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」及び「第2の抵抗率を有する第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」と限定的に補正するとともに、「第2の抵抗率は第1の抵抗率よりも低い」という限定事項を付加する補正であるが、そのような補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)そして、「第1の抵抗率を有する第1の窒化チタンサブレーヤ」、「第2の抵抗率を有する第2の窒化チタンサブレーヤ」及び「第2の抵抗率は第1の抵抗率よりも低い」ことは、本願の願書に最初に添付した明細書の【発明の詳細な説明】の【0023】ないし【0025】段落の記載に基づく補正であり、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3)独立特許要件について
(3-1)検討の前提
上記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて検討する。

(3-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1ないし30に係る発明は、平成22年2月1日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(3-3)引用刊行物に記載された発明
(3-3-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成9年2月25日に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-55360号(以下「引用刊行物」という。)には、図1及び2とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線「 」は、当審において、特に強調する点に付与したものである。以下同様。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本願の発明は、各種半導体デバイスや各種センサー等のデバイスに使用される窒化チタン薄膜の作成方法に関するものである。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述のような従来の窒化チタン薄膜の作成では、以下のような問題がある。まず第一に、成膜した基板を大気圧雰囲気中に戻した際、大気中の酸素が窒化チタン薄膜内に拡散し、経時的に比抵抗が増大する問題がある。このような経時的な比抵抗の増大を防止するためには、成膜後にパシベーション(表面不働態化)を行う必要がある。パシベーションは、例えば成膜後に薄膜をアンモニア雰囲気に晒して高温に維持するアニール法等が採用されるが、成膜後の工程が増えるため、生産性が低下する問題がある。本願の発明の第一の目的は上記問題を解決することであり、経時的な比抵抗の増大を防止するパシベーションを成膜後に別途行うことを不要にし、生産性の高い窒化チタン薄膜及びその作成方法を提供することを目的とする。
【0007】次に、従来の成膜方法の第二の問題として、上述の文献のように比抵抗を低下させるためアンモニアガスを添加した場合、ステップカバレッジ特性が低下する傾向がある。このため、アスペクト比が年々増大する集積回路用の薄膜としては好ましくなく、比抵抗の小さい薄膜が作成できるとしても、64メガビット以上のDRAM等では実用化が困難である。本願の発明の第二の目的は上記問題を解決することであり、比抵抗の小さい窒化チタン薄膜を高いステップカバレッジ特性で得ることができる成膜方法を提供することを目的としている。」
「【0016】さて、図1に示す装置の動作を説明しながら、本実施形態の方法について説明する。まず、不図示のゲートバルブを通して反応容器1内に基板20を搬入し、基板ホルダー2上に配置する。ゲートバルブを閉じて排気系11を動作させ、反応容器1内を1×10^(-4)Torr程度まで排気する。また、基板ホルダー2内の基板用加熱機構21が動作して加熱温度を第一の成膜温度に調整し、基板20をこの程度の温度まで加熱する。同時に容器用ヒータ12も動作し、容器加熱用制御部13が反応容器1の温度を所定の温度に制御する。
【0017】第一のガス導入系31の気化器311が予め動作しており、第一のガス導入系31のバルブ314を開けることにより、キャリアガスとしての窒素ガスに混合されたTDEATガスが反応容器1内に導入される。また、同時に第三のガス導入系33のバルブ332を開けて、添加ガスとしてのアンモニアを反応容器1内に導入する。この際、制御機構4は、液体流量調整器313及び気体流量調整器331を制御して、TDEATに対するアンモニアとの流量比が所定の第一の流量比となるよう制御する。導入されたTDEATは、反応容器1内での気相反応によって基板20の表面上に窒化チタンを析出し、窒化チタン薄膜が堆積する。この際、添加されたアンモニアの作用によって、堆積する窒化チタン薄膜の比抵抗が減少する。
【0018】このようにして第一の成膜条件を所定時間行うと、制御機構4は、第二の成膜条件で連続して成膜が行われるよう装置全体を制御する。即ち、まず基板加熱用制御部22に信号を送り、第一の成膜温度より高い第二の成膜温度に基板20が加熱されるよう制御する。また、液体流量調整器313及び気体流量調整器331に制御信号を送り、TDEATに対するアンモニアの流量比が第一の流量比より大きな所定の第二の流量比になるよう制御する。尚、流量比と成膜温度のいずれか一方のみを変えた条件にしても良い。このようにして第二の成膜条件で成膜が行われ、この条件で所定時間成膜を行うと、バルブ314,332を閉じ、基板20を反応容器1外に搬出する。これによって成膜が完了する。
【0019】図2は、上述した実施形態の方法により作成した薄膜デバイスの断面構造を概略的に示したものである。上述した異なる成膜条件での成膜を連続して行うと、図2に示すように、基板20上には、第一の成膜条件で成膜した第一層51の上に、第二の成膜条件で成膜した第二層52が積層された状態となる。この場合、適切な成膜温度及びガス流量比を選定することで、第一層51をアモルファス状バッファ層とし、第二層52をパシベーション改質層とすることを可能となる。この点をさらに詳しく説明する。
【0020】表1は、本願発明の実施例の各成膜条件を示したものである。
【表1】(当審注:省略)
この条件で窒化チタン薄膜の作成を実際行い、第一の成膜条件により第一層51を600オングストロームの厚さで堆積させ、第二層52を300オングストロームの厚さで堆積させた。このようにして作成された窒化チタン薄膜の成膜直後の比抵抗は5000μΩcm程度であった。比較例として、同様な条件でアンモニアの流量をゼロにした場合(第一第二の成膜条件とも)、成膜直後の比抵抗は20000μΩcm程度であった。従って、まずアンモニアの添加の効果によって、成膜直後の比抵抗は75%程度減少したことが分かった。
【0021】次に、表1の条件で作成した窒化チタン薄膜を24時間以上大気に露出させたところ、比抵抗の増加は100%程度であった。比較例として、第一の成膜条件のままで終始成膜を行った場合、24時間以上大気に露出させた後の比抵抗の増加は260%程度であった。このことから、表1に示す例では、経時的な比抵抗の増加は、第二の成膜条件の採用によって採用しない場合の1/3程度に抑えられることが分かった。
【0022】このような経時的な比抵抗の増加の抑制即ちパシベーションの作用は、第二層52において、窒化チタン薄膜の結晶化が進んだことに起因するものと考えられる。即ち、薄膜が結晶構造を有する場合、アモルファス構造の場合に比べて酸素の拡散が困難になり、この結果、経時的な比抵抗の増加が抑制されるのである。尚、窒化チタン薄膜の結晶化は、成膜温度を上昇させることによっても進む。従って、第二の成膜条件を、添加ガスの流量比が同じで成膜温度のみを上昇させた条件としても良い。」
「【0024】さて、上述のように、第一の成膜条件によってアモルファス状の第一層51を形成し、その上に、第二の成膜条件によって結晶状の第二層52を形成すると、成膜直後の比抵抗が小さく且つ経時的な比抵抗の増大も抑制された質の良い窒化チタン薄膜の作成が可能となる。ここで、第二の成膜条件で終始成膜を行っても同様な結果が得られるのではないかとも考えられるが、発明者の研究によると、この構成は次のような問題がある。
【0025】即ち、まず、添加ガスの流量比をあまり増大させると、必要なステップカバレッジ特性が得られない問題がある。例えば、前述した文献では、4sccmのTDEATに対して3リットル毎分のアンモニアを添加した例で85%のステップカバレッジが得られているが、この例はアスペクト比1のコンタクトホールに対する成膜であり、64メガビット以上のDRAMの設計ルールに準拠した0.35μm以下のコンタクトホールに対しては、20%以下のステップカバレッジになってしまうと予想される。また、添加ガスの流量比を大きくして薄膜を結晶化させると、結晶化に伴って内部応力の増大し、このため熱的安定性が低下する等の問題が生ずる。また、結晶粒界の破壊によって表面にスパイク状の凹凸が発生することがある。さらに、結晶状窒化チタン薄膜は、下地に対する密着性が悪いという問題もある。
【0026】従って、必要な厚さの窒化チタン薄膜を、添加ガス流量比の大きな第二の性膜条件で終始作成すると、ステップカバレッジ性が著しく低下したり、膜質や下地密着性等の点で無視し得ない問題が生ずることになる。そこで、本実施形態の発明では、上述のように、第一の成膜条件では薄膜をアモルファスのままにして結晶化させないようにし、第二の成膜条件によって結晶化させるようにしている。そして、必要な膜厚の大部分を第一の成膜条件で成膜することで、薄膜全体の膜質を低下させることなく良好なステップカバレッジ性で且つ良好な下地密着性で成膜を行うようにしている。」
「【0032】また、表1の条件では添加ガスの流量比を増加させるのみであったが、成膜温度を上昇させるようにしても良い。表2は、この実施形態に属する実施例の条件を示したものである。
【表2】(当審注:省略)
この表2の条件によっても、表1の条件の場合と同様の効果を得ることができる。尚、添加ガスの流量比の増大と成膜温度の上昇との両方を行うようにしてもよい。この場合、成膜温度の上昇は小さくて済むので、低温処理の要請という意味からは好適である。尚、成膜温度の上昇は、反応容器1内の圧力を上昇させて熱伝導効率を向上させることによっても行える。従って、キャリアガスの流量を増大させるなどして圧力を上昇させる条件によっても、上述と同様な結果を得ることができる。
【0033】また、上記説明において、100%の結晶化ということは物理的に困難であり、膜厚方向に垂直な平面内で結晶化している部分とアモルファスのままの部分とが混在していると考えられる。尚、上述の通り、パシベーションの効果は窒化チタン薄膜の結晶化によってもたらされるが、充分なパシベーションの効果を得るためには、少なくとも第二層52の50%が結晶化していなければならないと考えられる。結晶化は、電子顕微鏡写真によって観察できるが、結晶化したと見られる領域が面内の50%になっているものが充分なパシベーションを達成できると推測される。尚、充分なパシベーション効果とは、例えば成膜後24時間経過の比抵抗の増大が200%以下に抑えられるものをいうと表現できる。」
「【0036】次に、本願発明の薄膜デバイスの実施形態について説明する。図4は、本願発明の薄膜デバイスの実施形態を説明する断面概略図である。図4に示す薄膜デバイスは、表面にコンタクトホールが形成された基板20と、コンタクトホールを含む基板20の表面上に作成した窒化チタン薄膜5と、コンタクトホールに埋め込まれた配線金属6とから構成されている。このうち、窒化チタン薄膜5は、上述した実施形態の方法によって200?500オングストロームの厚さで形成される。また、配線金属6は、Al,W,Cu等の材料で形成され、スパッタ又はブランケットCVD法等によって形成される。
【0037】このような構造の薄膜デバイスは、採用された窒化チタン薄膜5の比抵抗が小さいことから、コンタクト特性が良好であり、上層の配線金属6のバリア用として良好に機能する。この図4に示す薄膜デバイスは、DRAMや論理素子等に採用される構造である。尚、「薄膜デバイス」とは、薄膜を有するデバイスの総称である。」

(3-3-2)上記記載からみて、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「基板20の表面上に、第一の成膜温度で、窒化チタン薄膜からなる第一層51を成膜し、前記第一層51の上に、前記第一の成膜温度より高い第二の成膜温度で、窒化チタン薄膜からなる第二層52を成膜する、デバイスに使用される窒化チタン薄膜の作成方法。」

(3-4)対比・判断
(3-4-1)刊行物発明における「デバイスに使用される窒化チタン薄膜の作成方法」、「第一の成膜温度」、「窒化チタン薄膜からなる第一層51」、「第二の成膜温度」、「窒化チタン薄膜からなる第二層52」及び「成膜」することは、各々補正後の発明の「部分的に製作された電子デバイスに窒化チタン障壁層を形成する方法」、「第1の温度」、「第1の窒化チタンサブレーヤ」、「第2の温度」、「第2の窒化チタンサブレーヤ」及び「堆積」することに相当する。

(3-4-2)すると、補正後の発明と刊行物発明とは、
「部分的に製作された電子デバイスに窒化チタン障壁層を形成する方法であって、
第1の温度で、第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程と、
前記第1の窒化チタンサブレーヤの上に第2の温度で、第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程とを備えており、前記第2の温度は前記第1の温度よりも高いことを特徴とする窒化チタン障壁層の形成方法。」である点で一致し、以下の2点で一応相違する。

(相違点1)
補正後の発明では、「部分的に製作された電子デバイスの上に第1の温度で、第1の抵抗率を有する第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる」のに対して、刊行物発明では、「表面上に、」「窒化チタン薄膜からなる第一層51」が「成膜」される「基板20」に「電子デバイス」が「部分的に製作され」ているかどうかが、明らかでない点。

(相違点2)
補正後の発明では、「第1の窒化チタンサブレーヤ」が「第1の抵抗率を有」し、「第2の窒化チタンサブレーヤ」が「第2の抵抗率を有」し、「第2の抵抗率は第1の抵抗率よりも低い」のに対し、刊行物発明では、「窒化チタン薄膜からなる第一層51」と「窒化チタン薄膜からなる第二層52」との抵抗率の関係について、特定されていない点。

(3-5)判断
(3-5-1)相違点1について
引用刊行物には、「【0037】このような構造の薄膜デバイスは、採用された窒化チタン薄膜5の比抵抗が小さいことから、コンタクト特性が良好であり、上層の配線金属6のバリア用として良好に機能する。この図4に示す薄膜デバイスは、DRAMや論理素子等に採用される構造である。尚、「薄膜デバイス」とは、薄膜を有するデバイスの総称である。」と記載されていることから、刊行物発明の「基板20」には、DRAMや論理素子等を構成するデバイスが形成されているものと認められる。
したがって、相違点1は、実質的なものでない

(3-5-2)相違点2について
一般に、CVDにより窒化チタン薄膜を成膜する場合、成膜温度が高いほど抵抗率が低くなることは、以下の周知例1ないし3にも記載されるように、当業者にとって、技術常識ともいえることである。
このことは、引用刊行物の「【0019】・・・図2に示すように、基板20上には、第一の成膜条件で成膜した第一層51の上に、第二の成膜条件で成膜した第二層52が積層された状態となる。この場合、適切な成膜温度及びガス流量比を選定することで、第一層51をアモルファス状バッファ層とし、第二層52をパシベーション改質層とすることを可能となる。・・・」、「【0022】このような経時的な比抵抗の増加の抑制即ちパシベーションの作用は、第二層52において、窒化チタン薄膜の結晶化が進んだことに起因するものと考えられる。即ち、薄膜が結晶構造を有する場合、アモルファス構造の場合に比べて酸素の拡散が困難になり、この結果、経時的な比抵抗の増加が抑制されるのである。尚、窒化チタン薄膜の結晶化は、成膜温度を上昇させることによっても進む。従って、第二の成膜条件を、添加ガスの流量比が同じで成膜温度のみを上昇させた条件としても良い。」という記載から、刊行物発明の「窒化チタン薄膜からなる第一層51」と「窒化チタン薄膜からなる第二層52」は、各々「アモルファス構造」と「結晶構造」を有していることが明らかであるところ、「結晶構造」を有する薄膜の方が、「アモルファス構造」を有する薄膜よりも、引用刊行物に記載されているように、「経時的な比抵抗の増加」が抑制されるのみならず、比抵抗(抵抗率)自体も低いことが明らかであることからも裏付けられる。
よって、上記相違点2は、実質的なものでない。

(ア)周知例1:特開平5-206062号公報には、図2とともに、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は集積回路製造技術に関し,具体的には化学蒸着法による窒化チタンの堆積方法に関するものである。」
「【0009】堆積室内のアンモニアの流速を金属-有機前駆体の流速の約30倍以上に維持すると,堆積したTiN薄膜中の酸素含有量は5%以下に低下し,酸化性雰囲気中でも比較的経時時変化が少ないことが分かった。TiN薄膜の電気固有抵抗は堆積温度の低下と共に減少するが,公知の半導体製造法での堆積最低温度は少なくとも200℃であり,また最小の電気固有抵抗を得るための最適温度は約450℃であることが判明した。反応は高温で行なうが,それでも該温度は大半の集積回路基板に許容されうる程度の温度である。」
「【0014】初期の抵抗は堆積温度の関数でもある。初期バルク電気固有抵抗を堆積温度の関数として図2に示した。堆積TiN薄膜の抵抗は150乃至200℃において著しく低下する。350℃までは一定速度で抵抗の低下が継続し,350℃において400℃までは低下が加速する。次いで400乃至450℃において低下速度は緩慢になる。アルミニウムは650℃で溶融するので公知集積回路に対しては450℃近辺が最適温度である。」

(イ)周知例2:特開平5-47707号公報には、図10とともに、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は薄膜の形成方法及び半導体装置に関し、より詳細には半導体装置におけるコンタクトホールの内表面にバリヤ層として形成される TiN膜等の薄膜の形成方法及び該薄膜が形成された半導体装置に関する。」
「【0059】(実施例5)図10の(●)で示した曲線は上述のCVD装置内でマイクロ波パワー1kw、ガス圧1.3mTorrのもとで生成する薄膜の比抵抗と基板の温度との関係を示している。すなわち、基板温度450℃以上において、生成する TiN膜の比抵抗値は従来技術に記載されるLPCVD法による523μΩcmと比べ、200μΩcm以下と非常に小さくなり、半導体装置の拡散層部分と金属配線の電極部分とを電気的に接続する機能の面から極めて良好な値が得られた。一方、基板温度が450℃以下であると、生成する TiN膜の比抵抗値は急激に増加して、使用に耐えないものとなる。」

(ウ)周知例3:特開平6-61229号公報には、図5とともに、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体装置の製造方法に関し、より詳しくは、半導体層と配線の間に介在されるバリアメタルの材料となる高融点金属窒化物の成長工程を有する半導体装置の製造方法に関する。・・・」
「【0038】図5に、比抵抗と成長温度の関係を示す。比抵抗は、成長温度の増加にともなって低くなり、MH還元により成長されたTiN は、500℃で90μΩ・cmになった。NH_(3 )還元により同等の比抵抗を得るためには700℃以上の高い温度が必要となる。 図6は、TiN 膜中の塩素濃度と成長温度の関係を示すもので、NH_(3 )還元により成長されたTiN 中の塩素濃度は成長温度500℃で3.3atomic%であるのに対して、MH還元により成長されたTiN では、同じ成長温度で0.18atomic%となった。
【0039】これによりMHガスはTiCl_(4 )を充分に還元し、残留塩素濃度を減らすことができることがわかる。塩素濃度は成長温度の上層とともに低くなり、図5の結果を考え合わせると、比抵抗は残留塩素濃度の減少とともに低下すると考えられる。塩素濃度が低くなるとその上に形成されるアルミニウムの腐食が少なくなる。その腐食は、水洗後に観察される。そこで、MH還元によりTiN を形成し、その上にアルミニウム膜を積層し、水洗後に顕微鏡観察をしたところ、アルミニウム表面の腐食は全く観察されなかった。これに対して、NH_(3 )還元によれば、腐食をなくすためには成長温度を550℃以上にし、塩素含有量を少なくする必要がある。」

(3-6)独立特許要件についてのまとめ
以上、検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、いずれも実質的なものでないから、補正後の発明は、引用刊行物に記載された発明であると認められるので、補正後の発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(4)補正の却下の決定についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成22年2月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし30に係る発明は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.引用刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物には、上において検討したとおり、上記2.(3-3-1)に記載したとおりの事項及び上記2.(3-3-2)において認定したとおりの発明が記載されているものと認められる。

5.判断
上記2.(2)において検討したとおり、補正後の請求項1は、補正前の請求項1の発明特定事項である「第1の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」及び「第2の窒化チタンサブレーヤを堆積させる工程」について、各々「第1の抵抗率を有する」及び「第2の抵抗率を有する」と限定するとともに、「第2の抵抗率は第1の抵抗率よりも低い」という限定事項を付加したものである。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記の限定をなくしたものである。
そうすると、上記2.(3)において検討したように、補正後の発明が、引用刊行物に記載された発明である以上、本願発明も、当然に引用刊行物に記載された発明であると認められるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-20 
結審通知日 2011-09-21 
審決日 2011-10-04 
出願番号 特願平10-193109
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 小野田 誠
松田 成正
発明の名称 窒化チタン障壁層の形成方法及び窒化チタン障壁層を含む半導体デバイス  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 上田 忠  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  

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