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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1252440
審判番号 不服2008-23585  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-16 
確定日 2012-02-16 
事件の表示 平成 9年特許願第525131号「プロトンポンプ抑制剤および制酸剤またはアルギネートを含有する経口用医薬剤形」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月17日国際公開,WO97/25066,平成11年 2月16日国内公表,特表平11-501950〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,1996年12月20日(パリ条約による優先権主張:1996年 1月 8日 スウェーデン)を国際出願日とする出願であって,平成19年 8月31日付けで拒絶理由が通知され,平成20年 3月11日付けで意見書及び願書に添付した明細書についての手続補正書が提出されたところ,同年 6月10日付けで拒絶査定がなされた。その後,同年 9月16日付けで拒絶査定不服審判が請求され,同年10月16日付けで願書に添付した明細書についての手続補正書が提出された。

第2 平成20年10月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項に係る発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1?15が補正後の特許請求の範囲の請求項1?14に補正されたところ,そのうち請求項1は,
「1.制酸剤またはアルギネート1種以上および医薬上許容される賦形剤とともに酸感受性プロトンポンプ抑制剤を含有するマルチプルユニット錠剤剤形であって,個々の酸感受性プロトンポンプ抑制剤の腸溶性コーティング層保有ペレットが制酸剤またはアルギネート製剤とともに圧縮成形される形態であり,そして制酸剤またはアルギネート製剤および医薬上許容される賦形剤とともにペレットをマルチプルユニット錠剤剤形へと圧縮成形する間に腸溶性コーティング層保有ペレットの耐酸性が10%より大きく低下しないような機械的特性を有する,腸溶性コーティング層により互いに分離されていることを特徴とする,上記剤形。」
から
「【請求項1】 制酸剤またはアルギネート1種以上および医薬上許容される賦形剤とともに酸感受性プロトンポンプ抑制剤を含有するマルチプルユニット錠剤剤形であって,個々の酸感受性プロトンポンプ抑制剤の腸溶性コーティング層保有ペレットが制酸剤またはアルギネート製剤とともに圧縮成形される形態であり,そして制酸剤またはアルギネート製剤および医薬上許容される賦形剤とともにペレットをマルチプルユニット錠剤剤形へと圧縮成形する間に腸溶性コーティング層保有ペレットの耐酸性が10%より大きく低下しないような機械的特性を有する,腸溶性コーティング層により互いに分離されており,ここでプロトンポンプ抑制剤の量が5?80mgの範囲にあり,制酸剤/アルギネートの量が100?900mgの範囲にあることを特徴とする,上記剤形。」(下線は平成20年11月26日付けの,審判請求書の【請求の理由】に係る手続補正書による。)
に補正された。

本件補正は,審判請求人が【請求の理由】において主張するように,補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「制酸剤またはアルギネート」及び「酸感受性プロトンポンプ抑制剤」を限定するものであり,かつ,当該補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえる。そうすると,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件について
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。

(1)特許法第29条第2項について
ア 引用例
本願の優先日前に頒布された引用例A?Dには,それぞれ次の事項が記載されている。

引用例A:国際公開第95/10264号(平成21年12月17日付け審尋(前置報告書の内容による審尋)における文献1,原査定の理由における引用文献2)
(A-1) 「本発明は顆粒含有錠剤,いわゆるマルチプルユニット型錠剤に関する。さらに詳しくは腸溶性皮膜で被覆した顆粒からなる腸溶性顆粒剤をユニットとしたマルチプルユニット型錠剤に関する。」(明細書1ページ6?8行)

(A-2) 「腸溶性錠剤の製造方法としては,シングルユニット型の錠剤に腸溶性皮膜を施す方法が一般的である。しかしながら,主として胃からの排出速度に起因する体内動態のバラツキ等は主薬の薬効等に大きく影響することから,再現性の良い吸収を示し,体内動態等のばらつきが少ないマルチプルユニット型の腸溶性錠剤の必要性が認識されてきた。
しかしながら,マルチプルユニット型の腸溶性錠剤は,胃内での耐酸性が必要とされるにもかかわらず,打錠時の腸溶性顆粒の破壊により耐酸性の劣化が認められるため,バイオアベイラビリティに悪影響を与える。」(同1ページ11?19行)

(A-3) 「本発明者らは,上記の事情に鑑み,製剤として腸溶性顆粒含有錠剤は崩壊性,分散性及び溶出性等の十分な基本的機能を有した上で,腸溶性顆粒が損傷することなしに打錠されることにより耐酸性を保持し,腸溶性顆粒の配合比のバラツキが小さく且つ服用しやすい錠剤の大きさである腸溶性顆粒含有錠剤を得ることを目的とし,鋭意検討した結果,腸溶性顆粒に製剤添加剤として,合成ヒドロタルサイト,乾燥水酸化アルミニウムゲル,水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物,水酸化アルミナ・マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム及びジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート(以上,第十二改正日本薬局方または日本薬局方外医薬品規格1993収載)からなる群より選ばれた1または2以上の組合せを含んだ混合物とを打錠することにより,耐酸性が良好で,錠剤中に占める顆粒含有率が高く,コンパクトな錠剤を製造できることを発見し,本発明を完成した。」(同2ページ8?20行)

(A-4) 「本発明における主薬としては,酸により分解しやすい薬物,または薬物による刺激等により胃内での放出が不適当な薬物であれば本来,特に限定されるものではない。例えばオメプラゾール,ランソプラゾールまたは2-(2-ジメチルアミノベンジル)スルフィニルベンズイミダゾール)等のベンズイミダゾール系抗潰瘍物質,他5-メトキシ-2-[[(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチル]スルフィニル]イミダゾ[4,5-b]ピリジン等のプロトンポンプ阻害剤等の抗潰瘍性薬物が挙げられる。腸溶性皮膜を施すための素顆粒としては,押し出し,転動造粒等一般的な造粒方法によって造られたものであれば何ら限定されない。腸溶性皮膜としてメタアクリル酸コポリマーLD,セルロースアセテートフタレート,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(以上,第十二改正日本薬局方または医薬品添加物規格1993収載)等を使用できる。」(同2ページ26行?3ページ13行)

(A-5) 「本発明の錠剤を製造するうえで,適当な結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン等),崩壊剤(架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはカルボキシメチルセルロースカルシウム等)または滑沢剤(タルク,ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム等)を使用することができる。」(同3ページ21?26行)

(A-6) 「以下に,本発明を実施例をもって説明する。
なお,実施例及び比較例における錠剤物性の測定方法を下記に示す。
・耐酸性(%):日局1液における腸溶性顆粒からの主薬の漏出率を示した。値が低いほど酸中において安定であることを示す。
溶出試験機(富山産業(株)製・NTR-VS 3P型)を用い,回転バスケット法(100rpm)を採用した。試験液として日局1液を用い2時間行い,繰り返し数は3で,その平均値をとった。」(同4ページ9?15行)

(A-7) 「(実施例1)
精製白糖球状顆粒(32?42^(♯))500g(フロイント産業(株)製・登録商標ノンパレル。以下ノンパレルと略す)に遠心流動型コーティング造粒装置(フロイント産業(株)製・CF-360型)を用いて 5-メトキシ-2-[[(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチル]スルフィニル]イミダゾ[4,5-b]ピリジン(以下TU-199という)100g,乳糖(200^(♯))500g(DMV社製)の混合物を3%ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製・以下HPC-Lと略す)水溶液200mlを噴霧しながら被覆した後,乾燥・分級し20?42^(♯)の素顆粒1000gを得た。この素顆粒に流動層コーティング装置(フロイント社製・FLOW COATER MINI)を用いてアクリルポリマー系コーティング剤であるメタアクリル酸コポリマーLD(ローム アンド ハース社製・以下オイドラギットL30D-55と略す)34部,マクロゴール6000を4部,水34部,を混合した液を素顆粒に対して30%コーティングし腸溶性顆粒を得た。この腸溶性顆粒の溶出及び耐酸性の結果を表1に示す。
【表1】
????????????????????????????????
・・・ 耐酸性 ・・・
(%)
????????????????????????????????
腸溶性顆粒 ・・・ 0.7 ・・・
(実施例1)
????????????????????????????????
実施例1 ・・・ 2.1 ・・・
????????????????????????????????
・・・・・
????????????????????????????????

この腸溶性顆粒500gに遠心流動型コーティング造粒装置を用いて乳糖85gを3%HPC-L水溶液50mlを噴霧しながら被覆した後,これを乾燥し,オーバーコート顆粒1とした。このオーバーコート顆粒1を80部,乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学工業(株)製)14部,クロスカルメロースナトリウム(旭化成工業(株)製)3部,タルク3部の割合で混合しロータリー打錠機(菊水製作所(株)製・S-15型)を用いて打錠圧400kg/cm2で圧縮し7.5mmφ,180mg/錠の錠剤を得た。」(同5ページ12行?6ページ18行)

(A-8) 「表1の実施例1から腸溶性顆粒は,打錠することで耐酸性が劣化したがその差は,わずかであった。」(同6ページ23?24行)

(A-9) 「1.主薬を含有する腸溶性顆粒に,合成ヒドロタルサイト,乾燥水酸化アルミニウムゲル,水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物,水酸化アルミナ・マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートの内,1または2以上の組み合わせを配合した混合物を打錠した腸溶性顆粒含有錠剤。
5.主薬が酸に不安定な薬物である請求項1,請求項2,請求項3または請求項4の腸溶性顆粒含有錠剤。
6.主薬がプロトンポンプ阻害剤である請求項5の腸溶性顆粒含有錠剤。」(請求の範囲の請求項1,5,6)

引用例B:特開平2-15025号公報(同審尋における文献3)
(B-1) 「本発明は,
1)投与間の長い間隔でのより効能が高くて大きい用量の制酸剤の投与が可能であること,
2)pHのばらつきに対する胃粘膜の物理的保護,
3)患者に苦痛がなく承諾されやすい長期の制酸効果,
4)胃における長い滞留時間による投与された用量のより完全な利用,
5)胃の内容物の表面に浮遊する制酸剤の貯えの存在による胃から食道への酸の逆流(gastro-oesophageal acid reflux)の減少,
を与える。
本発明の更なる観点においては,上記の組成物は,胃酸分泌を抑制する物質,例えば,胃食道逆流症(gastrooesophageal reflux disease)及び胃十二指腸潰瘍(gastroduodenal ulcers)の治療のための,シメチジン(cimetidine),ラニチジン(ranitidine)又は他のH_(2)抗ヒスタミン類又はプロトンポンプ遮断剤と組み合わせることができる。」(3ページ左下欄12行?右下欄10行)

(B-2) 「本発明の主なる特徴及び態様は以下のとおりである。
1.制酸剤の個々に分離した固体顆粒と製薬学的に許容できる賦形剤との粉末混合物である内部相を有し,該内部相は,疎水性有機物質,ヒドロキシル化ポリアルキレン及び非イオン性乳化剤を含有する固体外部相により取り囲まれていることを特徴とする,固体の薬剤。
2.前記制酸剤がアルマゲート,ハイドロタルサイト,マガルドレート又は他の水酸化アルミニウムもしくは水酸化アルミニウムマグネシウムゲルである上記1に記載の薬剤。
・・・
7.胃酸分泌抑制剤を更に含有する上記1乃至6のいずれかに記載の薬剤。
8.前記抑制剤がシメチジン,ラニチジン又はオメプラゾール(omeprazole)である上記7に記載の薬剤。」(5ページ左下欄1行?右下欄14行)

引用例C:医学のあゆみ, 医歯薬出版株式会社, 1991年12月 7日, Vol.159, No.10, pp.779-782(同審尋における文献2)
(C-1) 「第1土曜特集:プロトンポンプインヒビター(PPI) PPIの臨床
逆流性食道炎治療におけるPPI」(標題)

(C-2) 「一方,PPI(現在市販されているのはオメプラゾールのみ)については,オメプラゾール20mg朝経口投与による夜間分泌抑制は,胃液分泌量について約40%,胃酸分泌量については73?80%の抑制をする^(4))。
以上のことは,胃酸分泌抑制が逆流性食道炎の治療に有用であることを示唆するものである。」(779ページ左欄19?24行)

(C-3) 「逆流性食道炎の治療には胃酸分泌抑制が重要であることは明らかであるが,併用する有効薬剤によりさらなる効果を期待するのが普通である。
水酸化アルミニウムゲル,水酸化マグネシウム液剤のような制酸剤やアルギン酸ナトリウム液剤のような粘膜保護剤はすでに古くから用いられてきた薬剤であるが,食道・胃運動調節剤なども逆流性食道炎治療における併用薬として期待される。
・・・
これらのことを総合してみると,処方の実際はつぎのようなものが考えられる。
(1) PPIまたはH_(2)ブロッカー
両者の交互作用
(2) シサプリド
(3) 粘膜保護液剤
(4) 制酸剤
の併用を行うのがよい。ここではPPIは主役ではあるが,病態により主役は交代する。」(781ページ左欄22行?右欄20行)

引用例D:Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 1994 April, Vol.8, No.2, pp.215-220(同審尋における文献4)
(D-1) 「背景:ランソプラゾールは酸分泌を強力に低下させる新たなプロトンポンプ抑制剤である。
方法:我々は,胃潰瘍の治療における,ラニチジンに対するランソプラゾールの有効性及び短期的安全性を比較した。・・・。
結果:ランソプラゾールを1日当たり30mg及び60mg投与したいずれの群においても,毎夜 300mgのラニチジンを投与した群より,それぞれ78%(P<0.05),84%(P<0.01)及び61%の4週間後治癒率により,胃潰瘍のかなり迅速な治癒効果が得られた。8週間後,対応する治癒率は99%,97%及び91%(P=0.08)であった。症状緩和は全ての治療群で同様であったが,ランソプラゾールを投与されている患者ではより少ない量の制酸剤が使用された。69人の患者が91の有害事象を経験し,それらの発生率,パターン及び重症度は全3治療群の間で同様であった。
結論:・・・。」(概要)

(D-2) 「治療スケジュールは,ランソプラゾール30mg又は60mgを毎朝,あるいは,ラニチジン 300mgを毎夜投与するものであった。・・・。マーロックス(RPR薬品,リーズ,英国)制酸剤の錠剤が,必要に応じて,追加の症状緩和のために提供された。」(216ページ左欄8?18行)

イ 対比・判断
(ア)引用例Aに記載された発明
引用例Aの実施例1(摘記事項 (A-7))に記載された「5-メトキシ-2-[[(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチル]スルフィニル]イミダゾ[4,5-b]ピリジン」(以下,「TU-199」という。)は,プロトンポンプ阻害剤の一種であって,プロトンポンプ阻害剤は,酸により分解しやすい薬物である(摘記事項 (A-4))。
また,同実施例1において,最終的な錠剤(180mg/錠)中のTU-199の量は,請求人が平成20年 3月11日付け意見書(6ページ26行?7ページ1行)で述べているように約11mgとなる。

そうすると,引用例A(特に,その実施例1)には,次の発明が記載されているものと認められる。
「酸により分解しやすいプロトンポンプ阻害剤であるTU-199,乾燥水酸化アルミニウムゲル,クロスカルメロースナトリウム,タルク等を含有するマルチプルユニット型錠剤であって,TU-199の腸溶性顆粒に乳糖を被覆したオーバーコート顆粒,乾燥水酸化アルミニウムゲル,クロスカルメロースナトリウム及びタルクがロータリー打錠機を用いて圧縮されるもので,オーバーコート顆粒,乾燥水酸化アルミニウムゲル,クロスカルメロースナトリウム及びタルクをマルチプルユニット型錠剤へ圧縮打錠することにより,腸溶性顆粒の耐酸性が2.1%となり,TU-199の量が約11mgである,マルチプルユニット型錠剤。」(以下,「引用例A発明」という。)

(イ)対比
ここで,補正発明1と引用例A発明とを対比する。

まず,引用例A発明における「酸により分解しやすいプロトンポンプ阻害剤」及び「マルチプルユニット型錠剤」は,それぞれ補正発明1の「酸感受性プロトンポンプ抑制剤」及び「マルチプルユニット錠剤剤形」に相当する。また,引用例A発明の「腸溶性顆粒に乳糖を被覆したオーバーコート顆粒」において,腸溶性顆粒は,素顆粒にアクリルポリマー系コーティング剤である「メタアクリル酸コポリマーLD」をコーティングしたもので(摘記事項 (A-7)),これは腸溶性皮膜を作成するための物質であって(摘記事項 (A-4)),それを使用して腸溶性コーティング層が形成されたといえるから,このオーバーコート顆粒は,補正発明1の「腸溶性コーティング層保有ペレット」に相当する。
次に,本願明細書に「制酸剤1種以上の形態の活性物質は,充填剤,バインダー,錠剤崩壊剤および他の医薬的に許容される添加剤のような不活性の賦形剤と乾式混合する。・・・。適当な不活性賦形剤は例えばマンニトール,コーンスターチ,ポテトスターチ,低置換ヒドロキシプロピルセルロース,微結晶セルロースおよび交叉結合ポリビニルピロリドンである。」(特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付された明細書の翻訳文(以下,「明細書翻訳文」という。)19ページ11?18行)と記載されていることから,本願発明における「賦形剤」は,充填剤,バインダー,錠剤崩壊剤等の物質を意味している。一方,引用例Aの実施例1において使用されている「クロスカルメロースナトリウム」は,「架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム」のことであって(例えば,日本医薬品添加剤協会編「医薬品添加物事典」株式会社薬事日報社,1994年 1月14日,p.32,46 を参照。),これは,引用例Aにおいて「崩壊剤」として使用されているものであるから(摘記事項 (A-5)),本願発明における「賦形剤」にほかならず,当然に医薬上許容されるものである。
また,引用例A発明において,打錠される混合物中には,腸溶性皮膜を被覆した顆粒と製剤添加剤,結合剤,崩壊剤,滑沢剤等とが存在しているから(摘記事項 (A-5)),各顆粒は「腸溶性コーティング層により互いに分離されて」いるといえる。
さらに,補正発明1における「耐酸性」と引用例A発明における「耐酸性」とは,試験の条件が必ずしも同じとはいえないが,いずれも,腸溶性コーティング層により,胃における酸性環境から酸感受性の薬剤がいかに保護されるかを調べる試験であって,特段に異なるものとは認められないし,引用例Aには,腸溶性顆粒の打錠による耐酸性の劣化がわずかであったことが記載されている(摘記事項 (A-8))。よって,引用例A発明における耐酸性の「2.1%」は,補正発明1における「10%より大きく低下しない」との範囲には少なくとも包含されるものと推認される。

そうすると,補正発明1と引用例A発明とは,
「医薬上許容される賦形剤とともに酸感受性プロトンポンプ抑制剤を含有するマルチプルユニット錠剤剤形であって,個々の酸感受性プロトンポンプ抑制剤の腸溶性コーティング層保有ペレットが他の成分とともに圧縮成形される形態であり,そして他の成分および医薬上許容される賦形剤とともにペレットをマルチプルユニット錠剤剤形へと圧縮成形する間に腸溶性コーティング層保有ペレットの耐酸性が10%より大きく低下しないような機械的特性を有する,腸溶性コーティング層により互いに分離されており,ここでプロトンポンプ抑制剤の量が5?80mgの範囲にある,上記剤形。」
である点で一致し,次の2点において相違する。

[相違点1]
マルチプルユニット錠剤剤形中の成分として,補正発明1においては「制酸剤またはアルギネート1種以上」を含有しているのに対し,引用例A発明においては「制酸剤またはアルギネート1種以上」を含有することが明記されていない点。
[相違点2]
制酸剤/アルギネートの量が,補正発明1においては「100?900mgの範囲」にあるのに対し,引用例A発明においてはその量が明記されていない点。

(ウ)判断
以下,これらの相違点について検討する。

[相違点1]について
上述のように(上記(ア)),引用例A発明においては,マルチプルユニット型錠剤中の成分として「乾燥水酸化アルミニウムゲル」を含有しているところ,「乾燥水酸化アルミニウムゲル」が「制酸剤」として使用される薬剤であることは,本願の優先日前において周知であった(例えば,「第十二改正 日本薬局方(厚生省告示第51号)」,平成 3年 3月25日,513ページ,財団法人日本公定書協会監修「第十二改正 日本薬局方解説書」株式会社廣川書店,平成 3年 7月29日,C-1300?C-1303ページを参照。)。したがって,引用例A発明のマルチプルユニット錠剤剤形は制酸剤を含んでいるといえるから,[相違点1]は実質的な相違点とはいえない。

なお,仮に,「乾燥水酸化アルミニウムゲル」の使用量が制酸剤として通常使用される量よりも少ないことをもって,引用例A発明の「乾燥水酸化アルミニウムゲル」が「制酸剤」に該当しないと判断されたとしても,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,逆流性食道炎などの胃酸の分泌過多が原因となるような消化器疾患を治療するに際し,治療効果をより高めるためにプロトンポンプ抑制剤と制酸剤とを併用することは,本願の優先日前に周知の技術事項であり(例えば,引用例B?Dを参照。),また,両者を単一剤形中に含ませることも当業者が必要に応じ適宜行えることにすぎない(摘記事項 (B-2))。
そうすると,引用例A発明のプロトンポンプ抑制剤を主薬とするマルチプルユニット錠剤剤形において,有効成分として更に制酸剤を含有させることは,当業者が容易に想到し得たことである。また,それにより格別な効果を奏したものとも認められない。

[相違点2]について
上記「[相違点1]について」に記載したように,引用例A発明のマルチプルユニット型錠剤は,制酸剤である「乾燥水酸化アルミニウムゲル」を含有しているところ,その含有量は,実施例1においては錠剤(180mg/錠)当たり約25mgとなる(摘記事項 (A-7))。この量は,補正発明1における「100?900mgの範囲」よりも少ないものではあるけれども,使用する制酸剤の量は,それにより奏される効果(特に,組み合わせるプロトンポンプ抑制剤との協同効果)を見ながら,当業者が適宜設定し得る程度のものである。また,その量を「100?900mgの範囲」としたことにより奏される効果も,格別なものであるとは認められない。

なお,仮に,「乾燥水酸化アルミニウムゲル」の使用量が制酸剤として通常使用される量よりも少ないことをもって,引用例A発明の「乾燥水酸化アルミニウムゲル」が「制酸剤」に該当しないと判断されたとしても,上記「[相違点1]について」に記載したように,制酸剤をプロトンポンプ抑制剤とともに単一剤形中に含ませることは当業者にとって容易であり,その使用量も当業者が適宜設定し得る程度のものである。

ウ 請求人の主張について
請求人は,平成20年 3月11日付け意見書,審判請求書の【請求の理由】(同年11月26日付け手続補正書)及び平成22年 6月22日付け回答書において,次のように主張している。
(ア)引用例A(原査定の理由における引用文献2)に記載されたマルチプルユニット錠剤中の水酸化アルミニウムの量(約25mg(最終製剤の 180mg錠剤中))は,主薬(約11mg(同))に対する相対量でも絶対量でも,「制酸作用」をもたらすためには少なすぎる量であるから,引用例Aには,水酸化アルミニウム等を「制酸剤」として用いることは記載も示唆もされていない。

(イ)引用例Aには,本願発明のマルチプルユニット錠剤のように,水酸化アルミニウム等の含量を制酸剤として効果が表れる量まで増加させる(すなわち,錠剤中の腸溶性顆粒の配合割合を60%未満まで減少させる)という動機づけは,全くなかった。

(ウ)引用例B?Dは,いずれも一般的なプロトンポンプ抑制剤と制酸剤が併用できる可能性を指摘したものにすぎず,併用のための具体的な条件や事例を実施可能なように示したものではない。さらに,一個の錠剤中に,有効成分としてのプロトンポンプ抑制剤と制酸剤を含有する,本願発明のマルチプルユニット錠剤については,なんら示唆されていない。

(エ)本願の優先日前には,胃の壁細胞の分泌細管中の酸性環境を塩基等で中性化することにより,オメプラゾールの阻害活性体への変換が抑制され,オメプラゾールの薬理効果が抑制されることが知られていた(回答書に添付した参考資料1)。それにより,当業者であれば,オメプラゾールと制酸剤を組み合わせて一つの錠剤とすることにより,オメプラゾールの薬理効果が損なわれる危険性も知っていたと思われるから,本願優先日前に,当業者が本願発明の組み合わせが実現可能であると期待できたとは考えられない。

しかしながら,次に示す理由により,請求人の主張はいずれも失当である。
(ア)(イ)の主張について
上記「イ(ウ)[相違点1]について」に記載したように,「乾燥水酸化アルミニウムゲル」が「制酸剤」として使用される薬剤であることは,「日本薬局方」に示されているほどに周知のことであった。そして,引用例Aに主薬として記載されている薬物は,プロトンポンプ抑制剤等の抗潰瘍性薬物のみであるところ,対象疾患に対する治療効果をより高めることは周知の課題であって,そのための解決手段としてプロトンポンプ抑制剤と制酸剤とを併用することが,本願の優先日前に周知の技術事項であったことから,引用例Aに接した当業者は,当該マルチプルユニット錠剤中に制酸剤(「乾燥水酸化アルミニウムゲル」であれ,他の制酸剤であれ)を更に含ませることを容易に想到し得るものである。そして,このことが禁止されるほどの阻害事由が引用例A中に存在するものとも認められない。

(ウ)の主張について
引用例B?Dは,プロトンポンプ抑制剤と制酸剤とを併用することが,本願の優先日前に周知であったという事実を立証するために示した文献にすぎない。なお,併用における具体的な条件等は,当業者が適宜設定し得るものである。

(エ)の主張について
参考資料1には,確かに請求人が主張するような記載が存在しており,胃の壁細胞にプロトンポンプ抑制剤が作用する際に,該細胞の分泌細管中の環境が酸性でなければ,プロトンポンプ抑制剤の活性体への変換が抑制される可能性があることは否定できない。しかし,本願発明のマルチプルユニット錠剤剤形において,制酸剤又はアルギネートは同剤形が投与され胃に存在する間に直接胃酸を中和する方向に作用するものであるのに対し,プロトンポンプ抑制剤は腸溶性コーティングにより胃では保護されていて,胃を通過し腸に到達してから腸壁より吸収され,血流に乗って胃の壁細胞に到達して初めて作用するものである。すなわち,制酸剤又はアルギネートとプロトンポンプ抑制剤とは,全時間にわたって同時に作用するものではなく,両者の作用には時間差が存在するから,請求人が主張するような「オメプラゾールの薬理効果が損なわれる危険性」を当業者は考えないものである。なお,本願明細書には,本願発明のマルチプルユニット錠剤剤形が確かに制酸作用を良好に示すことを裏付ける薬理試験データ等が皆無であり,同剤形がそもそも良好な制酸作用を示すものと認めることができない。

エ 小括
したがって,補正発明1は,引用例A及び本願の優先日における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第36条第4項及び第6項第1号について
本願発明の解決しようとする課題は,本願明細書(特に,明細書翻訳文4ページ5?13行)の記載から見て,「活性成分として酸感受性プロトンポンプ抑制剤を含有する腸溶性コーティング層保有ペレットを圧縮成形して錠剤とする場合の,腸溶性コーティング層の耐酸性の向上」にあるものと認められる。
しかし,発明の詳細な説明において,実施例レベルの具体的記載でもって,腸溶性コーティング層の耐酸性の向上が明らかにされているのは実施例1のみである。実施例1では,確かに薬剤活性が「93%」残存しているが,実施例1以外に「腸溶性コーティング層の耐酸性の向上」,特に,補正発明1の発明特定事項に照らすと,その「耐酸性が10%より大きく低下しないような機械的特性を有する」ことが明らかにされた腸溶性コーティング層保有ペレット含有マルチプルユニット錠剤に係る実施例は存在しない。
ところで,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないところ(知財高裁大合議平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)参照。),本願については,出願時の技術常識を考慮しても,上記の課題が解決できることを当業者に認識できるように,発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。そうすると,補正発明1については,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから,本願は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
同様に,発明の詳細な説明の記載に加え,出願時の技術常識を考慮しても,補正発明1の発明特定事項によるマルチプルユニット錠剤剤形において,実施例1の条件以外に,具体的にどのようにすれば腸溶性コーティング層の耐酸性の向上が図れるのかが明らかでない。そうすると,発明の詳細な説明の記載は,補正発明1について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,本願は,特許法第36条第4項の規定に違反する。
したがって,補正発明1は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
よって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年10月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成20年 3月11日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?15に記載されたものであるところ,その請求項1及び8には次のとおり記載されている。
「1.制酸剤またはアルギネート1種以上および医薬上許容される賦形剤とともに酸感受性プロトンポンプ抑制剤を含有するマルチプルユニット錠剤剤形であって,個々の酸感受性プロトンポンプ抑制剤の腸溶性コーティング層保有ペレットが制酸剤またはアルギネート製剤とともに圧縮成形される形態であり,そして制酸剤またはアルギネート製剤および医薬上許容される賦形剤とともにペレットをマルチプルユニット錠剤剤形へと圧縮成形する間に腸溶性コーティング層保有ペレットの耐酸性が10%より大きく低下しないような機械的特性を有する,腸溶性コーティング層により互いに分離されていることを特徴とする,上記剤形。
8.プロトンポンプ抑制剤の量が5?80mgの範囲にあり,制酸剤/アルギネートの量が100?900mgの範囲にある請求項1記載の剤形。」(以下,請求項1及び8に係る発明を,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明8」という。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に記載された引用例(引用文献)及びその記載事項は,前記「第2[理由]2(1)ア」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1は,前記「第2[理由]2(1)」で検討した補正発明1から,「プロトンポンプ抑制剤の量が5?80mgの範囲にあり,制酸剤/アルギネートの量が100?900mgの範囲にある」との発明特定事項を省いたものである。
前記「第2[理由]2(1)イ(イ)」に記載したように,補正発明1と引用例A発明との間には,[相違点1]及び[相違点2]が存在していたところ,上記の本願発明1と補正発明1との関係から,[相違点2]は本願発明1と引用例A発明との間には存在せず,また,本願発明1と引用例A発明との間にも同様に存在する[相違点1]は,前記「第2[理由]2(1)イ(ウ)」における検討の結果,実質的な相違点ではない。
そうすると,本願発明1は,引用例A発明との間に実質的な相違点を有しないから,引用例Aに記載された発明である。

(2)本願発明8について
本願発明8は,本願発明1を引用して,「プロトンポンプ抑制剤の量が5?80mgの範囲にあり,制酸剤/アルギネートの量が100?900mgの範囲にある」との限定を更に加えるものであるから,補正発明1と同一の発明であるといえる。
そうすると,補正発明1が,前記「第2[理由]2(1)」に記載したとおり,引用例A及び本願の優先日における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明8も,同様の理由により,引用例A及び本願の優先日における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから,本願発明1は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,また,本願発明8は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,他の請求項に係る発明について判断するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願平9-525131
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 内田 俊生
特許庁審判官 星野 紹英
鵜飼 健
発明の名称 プロトンポンプ抑制剤および制酸剤またはアルギネートを含有する経口用医薬剤形  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 三輪 昭次  
代理人 高木 千嘉  
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