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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1252441
審判番号 不服2009-4553  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-02 
確定日 2012-02-13 
事件の表示 平成11年特許願第501858号「ベクター」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月10日国際公開、WO98/55607、平成14年 3月 5日国内公表、特表2002-507117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年6月4日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年6月4日 英国、1997年6月10日 英国、1997年7月4日 英国)とする出願であって、平成19年12月19日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成20年11月25日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年3月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月1日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成21年4月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月1日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「5T4抗原を認識する腫瘍結合タンパク質を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質」から
「5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部であるか5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質
。」へと補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「5T4抗原を認識する腫瘍結合タンパク質」について「5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部であるか5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部」と限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)特許法第29条第2項
(2-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるGene, 1995, Vol. 159, p. 73-80(以下、「引用例1」という。)には、
(i)「がん細胞特異的な認識機能を有し、よって正常細胞と腫瘍細胞を区別することができる新しい抗がん剤の開発が進んでいる。認識は腫瘍細胞の細胞表面における増強された抗原決定基の発現に依存する。ErbB-2受容体(ErbB-2R)は正常細胞と比較して胸、卵巣、肺及び胃由来のアデノカルシノーマにおいて高い割合で生産が増強される。腫瘍細胞において増強された発現と細胞外における接近の容易性がこの受容体を腫瘍治療の標的として好ましいものとしている。ErbB-2Rの細胞外ドメインに特異的な一本鎖抗体分子(scFv)を発現する遺伝子はモノクローナル抗体FRP5の軽鎖及び重鎖可変領域をコードするcDNAを結合させて構築した。このscFvをコードする遺伝子は2つのエフェクターのターゲティングドメインとして用いた。(i)修飾したPseudomonas aeroginosa exotoxin A(ETA)をコードする配列をscFvをコードするDNAに付加することで構築された組換えイムノトキシンをコードする遺伝子、(ii)ErbB-2R生産腫瘍細胞に特異的な細胞障害性T細胞(CTL)は、scFv(FRP5)、ヒンジ領域及びT細胞受容体のζ鎖複合体のキメラ遺伝子のレトロウィルス転移によって生成された。微生物で生産された組換えイムノトキシンscFv(FRP5)-ETAはErbB-2R特異的に結合、イン・ビトロ及びイン・ビボの両方でErbB-2Rを高レベルで生産している腫瘍細胞選択的に傷害効果を示した。」(要約第1行?第12行)、
(ii)「従来の腫瘍治療は正常細胞と腫瘍細胞の区別ができない薬剤の分解、傷害活性に依存していた。バイオテクノロジーと免疫学の進歩により腫瘍に対して薬剤や細胞を標的化することが可能になってきている。モノクローナル抗体による選択性は微生物に発現する融合毒素や傷害性T細胞を腫瘍細胞に向けるのに利用されうる。」(第78頁右欄下から第10行?第3行)、
(iii)「我々はここで“賢い”薬剤を利用した癌治療について2つの戦略を記述している。一本鎖抗体ドメインを経由する腫瘍細胞に向けた薬剤の標的化は ErbB-2受容体に限定されない。さらに様々な腫瘍細胞型における細胞表面抗原が同定されてきており、上記と同様に使用し得る。組換えイムノトキシンと移植細胞障害性T細胞や従来の細胞障害剤の組み合わせ治療が予見し得る。」(第79頁左欄下から第2行?右欄第5行)、と記載されている。
また、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるClinical Cancer Research, 1996, Vol. 2, p. 1523-1531(以下、「引用例2」という。)には、
(i)「我々は、C末端で多くのヒト癌細胞上に存在するLeY抗原を認識するB1モノクローナル抗体のscFv領域に結合した腫瘍壊死因子α(TNFα)で構成された融合タンパクを構築した。」(第1523頁左欄ABSTRACT第1行?第5行)
(ii)「用量制限毒性を克服する1つの可能性は癌特異的な抗体を用いて癌細胞にTNFを特異的にターゲットすることかも知れない。抗体を媒介にして毒素分子を癌細胞にターゲティングするという類似の概念は、既に抗体(断片)と修飾された微生物または植物毒素からなるイムノトキシンの形態で成功裏に実現されている。」(第1523頁右欄INTRODUCTION第14行?第20行)、と記載されている。
さらに、同じく引用文献3として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Biotechnology, 1997.02., Vol. 53, p. 3-12(以下、「引用例3」という。)には、
(i)「遺伝子工学的に製造された抗体/サイトカインの二機能性融合タンパク質の構築、合成及び発現について記載されている(中略)それゆえに二機能性の融合タンパク質RM4/TNFはTNFの生物学的効果を腫瘍細胞にターゲティングし、腫瘍細胞の免疫学的破壊を刺激するのに有用であるかも知れない。」(第3頁Abstract)、
(ii)「抗腫瘍抗体は毒素や薬等の治療用薬剤を腫瘍細胞にターゲットする媒体として広範囲にわたって使用されてきている。この方法で、これらの治療用薬剤はイン・ビボで腫瘍細胞に効率的にターゲットされ、同時に高容量投与や深刻な副作用を制限する。」(第4頁左欄第5行?第12行)、と記載されている。
さらに、同じく引用文献4として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるThe Journal of Biological Chemistry, 1994, Vol. 269,p. 9319-9324(以下、「引用例4」という。)には、
(i)「モノクローナル抗体5T4は各種カルシノーマで発現されるが、成人の正常組織では限定的な発現パターンを示す癌栄養芽細胞抗原を定義する。」(第9319頁 要約第1行?第4行)、
(ii)「5T4の得られたアミノ酸配列は、グリコシル化の程度が高い膜結合蛋白であることと整合する」(第9323頁右欄第3行?第5行)、と記載されており、第9320頁の第2図には5T4の420アミノ酸からなる全長のアミノ酸配列及びcDNA配列が記載されている。
(2-2)対比
本願補正発明1は、5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質、に係るものである。
そこでまず、本願補正発明1と引用例1に記載された事項を比較する。引用例1のErbB-2Rの細胞外ドメインに特異的な一本鎖抗体分子(scFv)と本願補正発明1の 5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部は、共に、腫瘍細胞に発現するタンパク質に対する抗体の少なくとも一部に相当し、また、引用例1に記載のscFvと結合した修飾したPseudomonas aeroginosa exotoxin A(ETA)は本願補正発明1における毒素であるエフェクタードメインに相当する。
そうすると、本願補正発明1と引用例1に記載された発明とは、共に、腫瘍細胞に発現するタンパク質に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質である点、で共通し、腫瘍細胞に発現するタンパク質に対する抗体の少なくとも一部が前者では5T4抗原を認識する抗体の少なくとも一部であるのに対し、後者ではErbB-2Rの細胞外ドメインに特異的な一本鎖抗体分子(scFv)である点、で相違する。
(2-3)判断
上記引用例1記載事項(i)(ii)、引用例2記載事項(i)(ii)、引用例3記載事項(i)(ii)より、腫瘍細胞に特異的な抗体と毒素等の腫瘍細胞に作用する薬剤との融合タンパクを治療における腫瘍細胞への薬剤の標的化のために用いることは本願優先日前当該技術分野において当業者にとっての周知技術であり、しかも、上記引用例1記載事項(iii)において、一本鎖抗体ドメインを経由する腫瘍細胞に向けた薬剤の標的化が ErbB-2に限定されず、様々な腫瘍細胞型において同定されてきた細胞表面抗原を使用し得ることが記載されており、他の腫瘍細胞表面抗原の利用が示唆されている。
また、上記引用例4記載事項(i)(ii)には、5T4抗原が各種カルシノーマで発現されるが、成人の正常組織では限定的な発現パターンを示す腫瘍細胞表面抗原であることが記載されており、そのアミノ酸配列及びcDNA配列も記載されている。
そうすると、腫瘍細胞に発現するタンパク質に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質において、腫瘍細胞に特異的な抗体と毒素等の腫瘍細胞に作用する薬剤との融合タンパクを治療における腫瘍細胞への薬剤の標的化のために用いるとの周知技術、及び、引用例1における他の腫瘍細胞表面抗原の利用についての示唆から、腫瘍細胞に発現するタンパク質に対する抗体の少なくとも一部として、引用例1に記載のErbB-2Rの細胞外ドメインに特異的な一本鎖抗体分子(scFv)に代えて、公知の様々な腫瘍細胞表面抗原に結合する抗体あるいはその一部を用いることは当業者が容易になし得ることであり、引用例4により腫瘍細胞に発現する表面抗原であること及びそのアミノ酸、cDNA配列が知られている5T4抗原に結合するモノクローナル抗体あるいはそれに由来するscFv等の抗体の一部を用いることも当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明1によって奏される効果について、実施例においては、B7-1/ScFV及びScFV-IgGが5T4陽性細胞に特異的に結合することが示されているが、5T4に対するモノクローナル抗体あるいはそれに由来するscFv等の結合タンパク質を含む融合タンパクが5T4陽性細胞に特異的に結合することはモノクローナル抗体の特性に基づいて当業者が期待し・予測し得る範囲のものであるから、右効果が引用例1-4から予測される以上の格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、本願補正発明1は、引用例1-4の記載から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(2-4)審判請求人の主張
審判請求人が、平成23年8月8日付で提出した回答書における主張について検討する。
(2-4-1)5T4の正常組織における発現
請求人は、「癌免疫療法の標的として使用するためには、少なくとも、癌細胞において発現すること、かつ、正常細胞では発現しないことが必須であると考えられています。腫瘍関連抗原が、非がん性組織に発現する場合には、その抗原に対する抗体を投与すると正常組織に損傷を与えたり、自己免疫疾患を引き起こすといった、正常組織に対する望まれない免疫応答が生じ得るためです。(中略)
このように、参考資料1及び2では、5T4抗原が癌に広く発現することを記載していますが、各種の正常組織でも低いレベルで発現することを報告しています。腎臓や膵臓のような必須の器官においても発現しているという事実がある以上、当業者は5T4抗原を免疫療法の標的として使用するということを完全に断念します。」(回答書第2頁下から2頁下から第15行?第3頁第11行)及び 「審尋においても言及されている引用例4には、5T4標識のパターンが、直腸結腸癌の予後に重要であると報告されています(第9319頁左欄)。診断や予後診断に有効となる抗原の発現パターンと、免疫療法の適切な標的となり得る発現パターンとは、極めて大きな相違があります。(中略)
抗原が診断や予後診断のマーカーとして有効であるためには、癌組織における抗原の発現が、正常組織における発現と比べて、検出可能な程度に異なること、すなわち、有意に高いことが必要とされます。言い換えれば、診断には、癌組織と正常組織との発現レベルの異なる抗原を用いればよく、正常組織に発現していても問題にはなりません。
一方、抗原が免疫療法のための適切なマーカーとなるためには、癌細胞で発現するのみならず、深刻な副作用を招かないように必須の正常器官において発現しないことが必須となります。
参考資料1や参考資料2に報告されているように、本願出願時には、5T4抗原は、正常組織にも発現することが確認されています。また、参考資料3にあるように、比較的低レベルであっても正常組織にも抗原が発現する場合には、診断には使うことができても、癌免疫療法の標的には使用できないことが、当業者の共通認識です。これらのことから、癌組織における5T4の発現パターンは、5T4が診断及び予後診断マーカーとして有効であるかもしれないが、免疫療法の標的としては使用できないことを強く示しています。 これらの事実に反し、5T4抗原を癌免疫療法の標的として使用した点でも、 本願発明は進歩性を有すると考えます。」(回答書第3頁下から第15行?第5頁第2行)と主張している。
しかしながら、上記(2-3)に記載のように、腫瘍細胞に特異的な抗体と毒素等の腫瘍細胞に作用する薬剤との融合タンパクを治療における腫瘍細胞への薬剤の標的化のために用いることは本願優先日前当該技術分野において当業者にとっての周知技術であるといえ、また、一本鎖抗体ドメインを経由する腫瘍細胞に向けた薬剤の標的化が ErbB-2に限定されず、様々な腫瘍細胞型において同定されてきた細胞表面抗原を使用し得ることが記載されており、他の腫瘍細胞表面抗原の利用が示唆されている以上、そして、腫瘍細胞表面抗原として5T4抗原が各種カルシノーマで発現されるが、成人の正常組織では限定的な発現パターンを示すことが知られている以上、当業者にとって5T4抗原を腫瘍細胞への標的化に用いる動機付けは十分にあるといえる。また、引用例1記載事項(ii)のように、従来の腫瘍治療は正常細胞と腫瘍細胞の区別ができない薬剤の分解、傷害活性に依存していたが、モノクローナル抗体による選択性によって微生物に発現する融合毒素や傷害性T細胞を腫瘍細胞に向けることが考えられるようになったとの技術的背景を踏まえれば、ある程度であっても腫瘍細胞への選択性を付与することには意味があり、引用例1において正常組織においても発現するErbB-2受容体を癌治療における腫瘍細胞への標的化に用いようとしている事実は、むしろ、当業者であれば正常組織にある程度発現する抗原であっても腫瘍細胞における発現がある程度顕著なものであれば、癌治療における腫瘍細胞への標的化に用いることを検討し得ることを示していると言える。また、請求人が回答書に添付している参考資料2においては「相対的に限定された正常組織における抗原分布と共に、5T4抗体は治療、腫瘍局在化及び薬剤の標的化において潜在的に有用である。」(第89頁左欄第29行?第32行)とされており、5T4の腫瘍細胞の標的化への利用が示唆さえされている。
よって、たとえ、回答書で言及のように正常組織における発現があったとしても、そのことをもって、当業者が引用例4に基づいて5T4を用いることを妨げる阻害要因にはならない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
なお、仮にそのような阻害事由があるのであれば、本願補正発明1のタンパク質が癌の免疫治療に使用できるか否かについて、実際に臨床試験等により確認しなければ分からない(すなわち実施可能要件を満たさない)ということになるが、本願の発明の詳細な説明において、そのような確認はなされていない。
(2-4-2)標的細胞における抗体の内在化能
請求人は、「治療効果を奏するためには抗体-毒素複合体が内在化される必要がありますが、細胞表面に対する抗体の全てが内在化されるわけではありません。したがって、5T4抗原が細胞表面タンパク質であると知られている事実のみをもって、抗5T4抗原-毒素複合体が、癌治療において有効であるということにはなりません。」と主張している(回答書第7頁第3行?第7行)。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明においては、抗5T4抗原に対する抗体が内在化能を有することが実験例等の実施例をもって示されておらず、また、実験例なくして当該能力を有すると認められるような論理的な説明もなされていないことから、本願補正発明1自体が請求項に係る発明全体においてそのような能力を有するかどうか不明であり、請求人の主張のそもそもの前提が裏付けをもって示されていない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)特許法第29条第1項第3号または第2項
(3-1)引用例
本願優先日前に頒布された刊行物であるJ.Biol.Chem, May 9 1997, Vol. 272, p. 12430-12436(以下、「引用例6」という。)には、
(i)「腫瘍関連抗原を指向するモノクローナル抗体5T4はFabとスーパー抗原の分泌融合タンパク質として大腸菌で発現された。」(第12430頁 要約第1行?第3行)、
(ii)「最近、腫瘍反応性のFab断片と免疫刺激性の微生物のスーパー抗原との組換え融合タンパクを用いた癌治療の概念が示された。スタフィロコッカスのエントロトキシンA(SEA)等のスーパー抗原は細胞傷害性及びサイトカイン生産性の活性Tリンパ球を活性化する。抗体で標的化されたSEAはイン・ビボでT細胞の腫瘍細胞への強い攻撃を誘引する。」(第12430頁左欄下から第4行?右欄第3行)、と記載されている。
(3-2)対比・判断
本願補正発明1は、5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質、に係るものである。
そこでまず、本願補正発明1と引用例6に記載された事項を比較する。引用例6に記載の融合タンパクにおけるスーパー抗原と本願補正発明1における毒素であるエフェクタードメインは一見相違するが、スーパー抗原は細胞傷害性及びサイトカイン生産性の活性Tリンパ球を活性化し腫瘍細胞への攻撃を誘引するものであるからから、腫瘍細胞に対して間接的に毒素として作用しているといえ、本願補正発明1の毒素には、腫瘍細胞に対して直接毒になるものだけでなく、このように免疫刺激を起こさせることで腫瘍細胞に対して間接的に毒素として作用するものも包含されると解し得るから、引用例6に記載の融合タンパクにおけるスーパー抗原は本願補正発明1における毒素であるエフェクタードメインに実質的に相当すると言える。また、引用例6のモノクローナル抗体5T4のFabは、本願補正発明1の5T4抗原に対する抗体の一部に相当する。
したがって、本願補正発明1と引用例6に記載された発明は共に5T4抗原に対する抗体の少なくとも一部を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質である。
また、引用例6の細胞傷害性及びサイトカイン生産性の活性Tリンパ球を活性化し腫瘍細胞への攻撃を誘引する間接的な毒素であると考えられるスーパー抗原が本願補正発明1の毒素であるエフェクタードメインと異なるものであると仮定した場合であっても、腫瘍細胞の攻撃との観点から、間接的に腫瘍細胞に対する毒素として作用するスーパー抗原に代えて直接的に腫瘍細胞に作用する毒素を用いることは当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。
したがって、本願補正発明1は、引用例6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年4月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」)は、平成19年12月19日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】5T4抗原を認識する腫瘍結合タンパク質を含み、毒素であるエフェクタードメインに連結している腫瘍相互作用タンパク質」
(1)引用例
原査定に引用した引用文献1-4及びその記載事項は、上記2.(2)(2-1)に記載したとおりである。
(2)対比、判断
そして、本願発明1は上記本願補正発明1を包含するものであり、本願補正発明1は上記2.(2)(2-3)に記載した理由によって、引用例1-4の記載から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明1も引用例1-4の記載に基づき当業者が容易に発明することができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-05 
結審通知日 2011-09-22 
審決日 2011-10-04 
出願番号 特願平11-501858
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 花野子濱田 光浩  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
引地 進
発明の名称 ベクター  
代理人 松島 鉄男  
代理人 深川 英里  
代理人 有原 幸一  
代理人 森本 聡二  
代理人 中村 綾子  
代理人 奥山 尚一  
代理人 河村 英文  
代理人 岡本 正之  
代理人 吉田 尚美  

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