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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1252615
審判番号 不服2009-12732  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-13 
確定日 2012-02-23 
事件の表示 特願2003-281283「歩行者シミュレーションシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月24日出願公開、特開2005- 50117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年7月28日の出願であって、平成20年12月24日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成21年3月16日付けで手続補正がなされ、同年4月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月13日付けで拒絶査定不服審判請求及び手続補正がなされた。
その後、平成23年3月22日付けで審尋がなされ、同年5月17日付けで回答書が提出され、当審がした同年9月16日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月16日付けで手続補正がなされたものである。

2.当審の拒絶の理由
当審において通知した拒絶理由は、
「1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものであって、具体的には次のようなものである。

(2-1)特許法第36条第6項第2号違反(平成23年9月16日付け拒絶理由通知書に記載した「理由1(3)」)
『(3)請求項1において、「該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合に、前記歩行者毎に各歩行者の周囲にある目標物を決定し、前記方向決定手段が決定した目標物の方向に前記すべての歩行者を移動させる歩行者移動手段と」なる記載に関して、 (a)「重なりのない状態」が衝突判定手段によって判定されるものであることは分かるが、そもそも、重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのか、この発明の前提ともいうべき事項が明らかでなく(シミュレーション条件入力システムにより入力される何らかの入力条件、例えば目標物の位置や歩行速度を変更(調整)して判定を繰り返す必要があるはずでは? かかる技術的事項を明確にすべき。)、
(b)また、「歩行者移動手段」が、「該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合」に、どのような処理によって如何にして「前記歩行者毎に各歩行者の周囲にある目標物を決定」するのか技術的に不明であり、さらに、そもそも「方向決定手段」によって各歩行者の目標物の方向が決定されるのであるから、自ずと各歩行者の目標物は定まるはずであり、「方向決定手段」とは別途に、「歩行者移動手段」が「前記歩行者毎に各歩行者の周囲にある目標物を決定」することの技術的意味(理由)も明らかでない。
したがって、請求項1に係る発明は明確なものでない。』

(2-2)特許法第36条第4項第1号違反(平成23年9月16日付け拒絶理由通知書に記載した「理由2(1)」)
『(1)上記理由1(3)に関連して、
(a)重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのかについて、発明の詳細な説明を参照するに、段落【0021】に「この結果、衝突が発生する場合には、ステップ101に戻り、該当する歩行者に対して、衝突が発生しなくなるまで、歩行速度と目標物への方向に基づき歩行者の位置の計算を繰り返し、調整を行う。」と記載されているものの、明確に理解することができる程度には記載されておらず(特に、どの入力条件を変更(調整)するのかが明確でない)、
(b)また、「歩行者移動手段」が、「該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合」に、どのような処理によって如何にして「前記歩行者毎に各歩行者の周囲にある目標物を決定」するのかについても、発明の詳細な説明には、単に段落【0021】に「すべての歩行者に対して、衝突が発生しない状態が得られた場合には、ステップ104において、各歩行者毎に移動候補先(目標物)を決定し、すべての歩行者を移動候補先に移動させる(S105)」と記載されているのみであって技術的に不明であり、
したがって、これらの点において、本件出願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。』

3.本願特許請求の範囲について
当審がした平成23年9月16日付け拒絶理由通知に対する対応時に提出された同年11月16日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲は、次のとおりである。
「【請求項1】
群集行動を予測するオブジェクト指向の歩行者シミュレーションシステムにおいて、
シミュレーション用の条件を入力するためのシミュレーション条件入力システムと、該シミュレーション条件入力システムにより入力された条件に基づいてシミュレーション計算を行うためのシミュレーション計算コアシステムと、該シミュレーション計算コアシステムにより計算した結果を表示するためのシミュレーション結果表示システムとを備えており、前記シミュレーション計算コアシステムは、
前記シミュレーション条件入力システムにより入力された建物特性に基づいて、各室形状を面データ、開口部を線データによりそれぞれ作成し、設計空間のモデル化を行う建物モデル化手段と、
該建物モデル化手段によりモデル化された各室には複数の目標物がある室が含まれ、各室の各目標物毎に該各目標物を中心とした距離ポテンシャルを格子点上に一定間隔で生成した距離格子を生成する距離格子生成手段と、
前記シミュレーション条件入力システムにより入力された歩行者特性に基づいて、各歩行者の体の領域と、他のオブジェクトとの衝突を判定する衝突判定領域とを面データとして与える衝突判定領域設定手段と、
前記シミュレーションシステム条件入力システムにより入力された建物内での歩行者の配置に基づいて、前記各歩行者の周囲にある目標物への距離格子のうち最も距離ポテンシャルの値が小さい方向に各歩行者の目標物への方向を決定する方向決定手段と、
該方向決定手段により決定された前記目標物への方向と、前記シミュレーションシステム条件入力システムにより入力された前記各歩行者の歩行速度とに基づき、該各歩行者の位置を計算する位置計算手段と、
該位置計算手段により計算された各歩行者の位置における前記各歩行者の衝突判定領域と、相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりの有無により前記各歩行者の衝突の判定を行う衝突判定手段と、
該衝突判定手段による衝突の判定の結果、衝突があると判定された場合には、前記歩行者に対して避難目的地及び歩行速度を変更し、その避難目的地及び歩行速度に合わせて歩行者の目標物を決定し、再度、前記衝突判定手段が前記各歩行者の衝突の判定を行い、該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合に、前記方向決定手段が決定した目標物の方向に前記すべての歩行者を移動させる歩行者移動手段と、
を備え、該歩行者移動手段が、前記すべての歩行者の前記目標物からの避難が終了し、前記すべての歩行者が前記目標物に到達したと判断した場合に前記シミュレーション結果表示システムにシミュレーション結果を表示させることを特徴とする歩行者シミュレーションシステム。」

4.当審の判断
(4-1)特許法第36条第6項第2号違反
上記「2.(2-1)」に記載したとおりの指摘に対して、請求人は平成23年11月16日付け意見書において、
「(3)(a)及び(b)については、歩行者移動手段に関する記載を「該衝突判定手段による衝突の判定の結果、衝突があると判定された場合には、前記歩行者に対して避難目的地及び歩行速度を変更し、その避難目的地及び歩行速度に合わせて歩行者の目標物を決定し、再度、前記衝突判定手段が前記各歩行者の衝突の判定を行い、該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合に、前記方向決定手段が決定した目標物の方向に前記すべての歩行者を移動させる歩行者移動手段」と補正しましたので、解消したものと思料致します。」と述べている。

そこで、平成23年9月16日付け拒絶理由通知書に記載した「理由1(3)」が解消したか否かについて検討する。
特に「重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのか、この発明の前提ともいうべき事項が明らかでない」という当審の指摘に対して、請求人は請求項1について、衝突があると判定された場合には、「歩行者に対して避難目的地及び歩行速度を変更し、その避難目的地及び歩行速度に合わせて歩行者の目標物を決定」し、再度、衝突の判定を行う旨の補正を行った。
しかしながら、「歩行速度」についてはこれを変更すると、衝突判定手段による判定結果にも違いが生じ、重なりのない状態(衝突がない状態)が得られる場合もあると考えられるものの、「避難目的地」についてはこれを変更したとしても、そもそも「避難目的地」と「目標物」との関係が不明であり、例えば、「避難目的地」を変更すると、それに応じて「目標物」についても変更され得るといった関係が導き出されるような前提事項の記載もないのであるから、「目標物」のみがある室にあっては、歩行者の移動方向が変わるなどして衝突判定手段による判定結果に違いが生じ得るのか否か自体明らかでなく、衝突があると判定された場合に、歩行速度のみでなく「避難目的地」についても変更することの技術的意味が不明であると言わざるを得ず、
また、「その避難目的地及び歩行速度に合わせて歩行者の目標物を決定し」とあるが、歩行者の目標物を、避難目的地及び歩行速度に合わせて如何にして(どのような処理により)決定するのか技術的に不明であることに加えて、各歩行者の目標物への方向を決定する「方向決定手段」との技術的関係も不明であって、
依然として、「重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのか、この発明の前提ともいうべき事項」は明らかでない。
なお、さら言えば、そもそも唐突に「避難目的地」なる用語が用いられており、上述したように「避難目的地」と「目標物」との関係が不明であるとともに、「・・該歩行者移動手段が、前記すべての歩行者の前記目標物からの避難が終了し、前記すべての歩行者が前記目標物に到達したと判断した場合に前記シミュレーション結果表示システムにシミュレーション結果を表示させることを特徴とする歩行者シュミレーションシステム」における「避難目的地」の位置付けについても明らかでない。

したがって依然として、請求項1に係る発明は明確なものでない。

よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(4-2)特許法第36条第4項第1号違反
上記「(4-1)特許法第36条第6項第2号違反」についての判断に関連して、重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのかについて、発明の詳細な説明には、段落【0021】に「ステップ101において、すべての歩行者に対して避難目的地、歩行速度を設定し、その避難目的地、歩行速度に合わせて歩行者の移動候補先(目標物)を計算する。目標物への方向は、周囲にある目標物への距離格子のうち最も値が小さい方向、すなわち、目標物に近い方向に決定する。」、「ステップ103において衝突オブジェクトリストに含まれるオブジェクトとの衝突の有無を判定する。・・・・・・・この結果、衝突が発生する場合には、ステップ101に戻り、該当する歩行者に対して、衝突が発生しなくなるまで、歩行速度と目標物への方向に基づき歩行者の位置の計算を繰り返し、調整を行う。すべての歩行者に対して、衝突が発生しない状態が得られた場合には、ステップ104において、各歩行者毎に移動候補先(目標物)を決定し、すべての歩行者を移動候補先に移動させる(S105)。」と記載され、図4にこれに関連するフローチャートが示されている。
これらの記載、図4によると、衝突があると判定された場合にはステップ101(S101)に戻っており、このステップ101(S101)によれば明確な記載はなされていないものの、衝突があると判定された場合、避難目的地、歩行速度を変更して設定することが示唆されているといえるかもしれないが、少なくとも、上記「(4-1)特許法第36条第6項第2号違反」についての判断において指摘したように、衝突があると判定された場合に、歩行速度のみでなく「避難目的地」についても変更することの技術的意味(理由)について理解し得るような記載はなく、
さらに、ステップ101(S101)において、設定した避難目的地、歩行速度に合わせて歩行者の移動候補先(目標物)を如何にして(どのような計算処理により)決定するのか技術的に理解し得るような記載はないばかりか、この「避難目的地、歩行速度に合わせて歩行者の移動候補先(目標物)を計算する」ことと、「目標物の方向は、周囲にある目標物への距離格子のうち最も値が小さい方向、すなわち、目標物に近い方向に決定する」こと、すなわち請求項1でいう「方向決定手段」との技術的関係や、ステップ104(S104)における、衝突が発生しない状態が得られた場合に、「各歩行者毎に移動候補先(目標物)を決定」することとの技術的関係についても不明であり、理解することができない。

そして、平成23年11月16日付け意見書についてみても、単に、
『(1)(a)及び(b)については、歩行者移動手段に関する記載を「該衝突判定手段による衝突の判定の結果、衝突があると判定された場合には、前記歩行者に対して避難目的地及び歩行速度を変更し、その避難目的地及び歩行速度に合わせて歩行者の目標物を決定し、再度、前記衝突判定手段が前記各歩行者の衝突の判定を行い、該衝突判定手段による衝突の判定によりすべての歩行者に対して自分の衝突判定領域と相手の体の領域又は他のオブジェクトの領域との重なりのない状態が得られた場合に、前記方向決定手段が決定した目標物の方向に前記すべての歩行者を移動させる歩行者移動手段」と補正しましたので、解消したものと思料致します。』ときわめて漠然と述べているのみであり、発明の詳細な説明には、重なりがある状態の場合(衝突がある場合)にはどのような処理によって如何にして「重なりのない状態」が得られるようにするのかが明確に理解することができる程度に記載されていないという点がなぜ解消したといえるのかについて何ら具体的な説明はなされていない。

したがって依然として、本件出願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。

よって、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-06 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2012-01-06 
出願番号 特願2003-281283(P2003-281283)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06Q)
P 1 8・ 537- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 匡人  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 津幡 貴生
井上 信一
発明の名称 歩行者シミュレーションシステム  
代理人 北村 周彦  

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