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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1252736
審判番号 不服2009-6289  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-24 
確定日 2012-02-22 
事件の表示 特願2003-552924「EGVIエンドグルカナーゼ及びそれをエンコードする核酸」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月26日国際公開、WO03/52057、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-512537〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯・本願発明
本願は、平成14年10月30日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年12月18日 米国)とする出願であって、平成21年4月23日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみてその請求項1に記載された発明は、以下のとおりのものである。
「真菌源由来の単離ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドは以下からなる群より選択される核酸配列を含む:
(a)エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2で表すアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列;
(b)エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2で表すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列;
(c)エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2で表すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列;
(d)エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2及び配列番号3で表すアミノ酸配列を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列;
(e)エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2として表すアミノ酸配列を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列;及び
(f)配列番号4として表す核酸配列またはその相補的配列。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の1つは、本願請求項1に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断
(1-1)本願発明について
本願請求項1に記載された発明は、(a)から(f)の選択肢により択一的に記載されたものであり、そのうち選択肢(e)で特定される発明(以下、「本願発明」という。)は、真菌源由来であって、エンドグルカナーゼ活性を有し、及び配列番号2として表すアミノ酸配列を有するポリペプチドをエンコードする核酸配列または相補的な核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに係るものである。

(1-2)本願明細書の記載
これに対して、本願の発明の詳細な説明では、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの機能について、エンドグルカナーゼであると記載されているが、当該ポリペプチドを実際に発現して当該ポリペプチドのエンドグルカナーゼ活性を確認した実施例等の具体例は記載されていない。
また、その機能に関連する記載として、本願明細書には(i)「図2は図1に示すヌクレオチド配列に基づく典型的なEGVIポリペプチドの予想アミノ酸配列(配列番号2)を示す。エンコードされるEGVIポリペプチドの予想分子量は87.1kDaである。19アミノ酸の予想シグナルペプチドは図に示すようにBGEGVIの成熟アミノ末端に先行し、EGVIポリペプチドが分泌されていることを示唆する(中略)。配列(配列番号2)の最後の35アミノ酸は多くの真菌分泌セルラーゼ及びヘミセルラーゼ上に存在するセルロース結合ドメインと65%以下の同一性を有する(中略)。おおよその残基数744からおおよその残基数801のアミノ酸は、セルロース結合ドメインとセルロース結合ドメインを持つ真菌酵素の触媒領域間に通常見られるセリン-及びトレオニンが豊富な結合領域の性質を有する。」(段落【0112】)、(ii)「重複のないタンパク質データベースの基本的なBLASTPサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)は2001年9月12日に実施され、EGVIアミノ酸配列はGenBank登録番号AB015511(Aspergillus aculeatusのアビセラーゼIII)と51%の配列同一性を示し、GenBank登録番号AJ292929(アガリクス・ビスポラスのCEL6タンパク質)と49%の配列同一性、GenBank登録番号AE007608(Clostridium acetabutylicumの分泌する可能性があるシアリダーゼ)と39%の配列同一性、及びGenBank登録番号AL031515(ストレプトマイセスcoelicolorの分泌する可能性があるセルラーゼ)と40%の配列同一性を示す。これらの配列類似性はEGVIがグリコシルヒドロラーゼ属74の一種であることを示す(Henrissat,B.and Bairoch,A.(1993)Biochem.J.293:781-788)。」(段落【0113】)、と記載されている。

(1-3)判断
本願発明が明細書のサポート要件を満足するためには、本願の発明の詳細な説明に、本願発明のポリペプチドがエンドグルカナーゼ活性を有することを当業者が理解できるように記載されているか、または、その記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしてエンドグルカナーゼ活性を有すると認識できる範囲のものでなければならない。
一方、上記(1-2)に記載の(i)は、「配列(配列番号2)の最後の35アミノ酸」や「おおよその残基数744からおおよその残基数801のアミノ酸」といったタンパク質の一部分が、「多くの真菌分泌セルラーゼ及びヘミセルラーゼ上に存在するセルロース結合ドメイン」や「セルロース結合ドメインとセルロース結合ドメインを持つ真菌酵素の触媒領域間」といったある酵素群の構造の一部分と、「65%以下の同一性を有する」、「通常見られるセリン-及びトレオニンが豊富な結合領域の性質を有する」といったそれぞれ一定の類似性を有することが示されているにすぎず、類似性を有するとされている部分は基質結合部位及び基質結合部位と触媒領域の間の部位であるから、技術常識を考慮しても酵素の特定の機能を決定するのに十分な部位であるとはいえず、また、それぞれの部位の類似の程度についても類似していることのみをもってそれぞれの部位が同等の機能を有すると高い蓋然性を持って言える程度の同一性とはいえない。また、類似しているとする比較対象も「真菌分泌セルラーゼ及びヘミセルラーゼ」と異なる機能を有する複数種の酵素群との比較であるから、その点からも当該比較が高い蓋然性をもってエンドグルカナーゼ活性を推認できるものであるとは言えない。
また、上記(1-2)に記載の(ii)には、他の酵素とのアミノ酸配列の同一性から配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドがグリコシルヒドラーゼ属74に属するとされている。しかし、グリコシルヒドラーゼのアミノ酸配列の類似性による構造に着目した分類においては、例えば、回答書の添付資料1においても「52の酵素に相当する482配列の比較に基づいて、45ファミリーが現在定義可能であり、そのうちの22は多特異性である。」(回答書添付資料1 第781頁要約右欄第4行?第6行)とされており、具体的には、例えば、グリコシドヒドラーゼ属5には酵素番号3.2.1.4、3.2.1.58及び3.2.1.74で表される3つの異なる機能を有するグリコシドヒドラーゼが含まれる(回答書添付資料1第782頁表1)ように、構造に着目した当該分類においては、同じ属に属する酵素であっても、機能による分類である酵素番号が異なる、つまりは、異なる触媒活性を有する場合があることは本願出願時の技術常識である。よって、(ii)のように、アミノ酸配列の同一性から、グリコシドヒドラーゼ属74に属すると構造に着目した分類が同定されたとしても、そのことをもって当該酵素がエンドグルカナーゼ活性を有することを高い蓋然性をもって示したことにはならない。
そうすると、上記(1-2)に記載のように、エンドグルカナーゼ活性を実験等により具体的に確認した例のない本願の発明の詳細な説明は、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドがエンドグルカナーゼ活性を有するとの単なる記載があるだけで、技術常識を考慮しても、本願発明のポリペプチドがエンドグルカナーゼ活性を有すると推認できるように裏付けをもって記載されているとはいえない。
以上により、本願の発明の詳細な説明には、本願発明のポリペプチドについて、技術常識を考慮しても、当業者がエンドグルカナーゼ活性を推認できるように裏付けをもって記載されているとはいえず、本願発明は本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない。
なお、意見書と共に提出された平成20年8月27日付の手続補足書で添付資料として本願出願後の2007年に頒布された文献を提出、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドがキシログルカナーゼ(酵素番号3.2.1.151)であることが実験例をもって具体的に示されている(添付資料第356頁要約)。当該ポリペプチドは、エンドグルカナーゼの活性も示すもののキシログルカナーゼ活性と比較してごくわずかに過ぎない(添付資料第359頁表2)ため、当該ポリペプチドは酵素としてはエンドグルカナーゼ(酵素番号3.2.1.4)ではなくキシログルカナーゼ(酵素番号3.2.1.151)であることが示されている。

(1-4)審判請求人の主張
(1-4-1)エンドグルカナーゼ活性に関するデータの提出
請求人は、審判請求書において、エンドグルカナーゼ活性に係るデータであって出願時の実験において集積したものであるとして、当該データが示すように本願発明に係るEGVIは高いエンドグルカナーゼ活性を示す旨主張している。
しかし、上記(1-3)に記載のとおり、本願明細書の記載からは本願出願時の技術常識を参酌しても配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドのエンドグルカナーゼ活性を推認できるとは認められないから、そのような後出しの上記データを参酌することはできず、請求人の上記主張は採用できない。
念のため、データを検討しても、本願発明のポリペプチドの有無のみの差である+5mg/G XYNと+5mg/G EG6におけるキシラン変換率の差とグルカン変換率の差の絶対値が同程度であることから、その差が有意なものであるか不明であり、また、グルカン変換率が有意に向上していたとしてもグルコースの遊離によって生じるグルカン変換率の向上のみをもってエンドグルカナーゼの基質特異性が示されているということはできないから、当該データが有意なエンドグルカナーゼを示すものであるということはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(1-4-2)活性があることが発明の詳細な説明で十分に明らかにされている旨の主張
請求人は「しかしながら、本願発明に係るegl6の核酸配列に基づく予想アミノ酸配列中には、成熟アミノ末端にシグナルペプチドが確認されており、EGVIペプチドが分泌されていることは明らかであるものと思われます(明細書段落0112)。更に、同段落には、本願のEGVIポリペプチドの774乃至810位付近のアミノ酸配列がセルロース結合ドメインを持つ真菌酵素の触媒領域間に通常見られるセリン及びトレオニンが豊富な結合領域を有することが記載されております。更に、段落【0113】には、EGVIのアミノ酸配列が既知のエンドグルカナーゼに対して所定の配列同一性を有することが記載されております。これらの配列類似性は必ずしも高い値ではございませんが、Henrissat,B.及びBairoch,A.によれば、グリコシルヒドロラーゼ属74の一種に分類されることが出願当時の当業者の技術常識であると思われます。更に、Henrissat,B.及びBairoch,A.には該文献に記載の方法によれば、酵素活性を知る前にタンパク質等の分類が可能であると記載されております(添付資料1:Henrissat,B.and Bairoch,A.,786頁、DISCUSSION参照)。これらのことを考慮すると、egl6の核酸配列がコードするポリペプチドに活性があることは発明の詳細な説明において充分に明らかにされているのものと思料いたします。」(回答書第2頁第1行?第17行)
しかし、上記(1-3)のとおり、本願発明のポリペプチドが分泌ペプチドであり、かつ、グリコシルヒドラーゼ74属に属するとしても、それはあくまで構造上類似のものとしての分類を特定しただけであって、そのことのみをもってエンドグルカナーゼ活性を有することが高い蓋然性をもって示されているということはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4.結論
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてないから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-26 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-11 
出願番号 特願2003-552924(P2003-552924)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 引地 進
鈴木 恵理子
発明の名称 EGVIエンドグルカナーゼ及びそれをエンコードする核酸  
代理人 山崎 行造  

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