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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1252766
審判番号 不服2008-25865  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-08 
確定日 2012-02-24 
事件の表示 特願2002-542764「1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月23日国際公開、WO02/40434、平成16年 5月13日国内公表、特表2004-513931〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年11月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月16日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月28日付けで拒絶理由が通知され、同年6月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月8日付けで拒絶査定がされ、同年10月8日に拒絶査定に対する審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成20年6月30日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得する方法において、
前記方法を隔壁塔(1)中で実施し、前記塔中で、隔壁(8)を、塔の長軸方向で上部の共通塔領域(9)、下部の共通塔領域(14)、供給部(10,12)及び取出部(11,13)を構成するように配置することを特徴とする、1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得する方法。
【請求項2】 底部蒸発器(7)及び付属の管路系中の滞留時間を、1?15分間に制限する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 塔の供給部(10)もしくは取出部(11)への隔壁(8)上端での液体還流比を、1対1.3?2.2の比に調節する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 塔の供給部(12)もしくは取出部(13)への隔壁(8)の下端での蒸気流の量比を、1対0.7?1.3の比に調節する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】 塔頂での圧力が2?10barである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】 上部の共通塔領域には、設定パラメーターとして留出液流、還流比又は還流量を利用する、最上部の理論段の下方の測定位置を有する温度調節器が備えられている、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】 下部の共通塔領域には、設定パラメーターとして底部取出し量を利用する、最下部の理論段の上方の測定位置を有する温度調節器が備えられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】 塔底に、設定パラメーターとして側部取出し量を利用する液位調節器を備える、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】 40?70の理論段数を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施するための隔壁塔(1)。
【請求項10】 1,3-粗ブタジエンのための供給位置(2)が、20番目?40番目の理論段上に配置されている、請求項9記載の隔壁塔(1)。
【請求項11】 25番目?50番目の理論段に1,3-純ブタジエンのための側部取出し位置(3)を有している、請求項9又は10記載の隔壁塔(1)。
【請求項12】 隔壁(8)が塔中で、10番目?60番目の理論段の間に配置されている、請求項9から11までのいずれか1項記載の隔壁塔(1)。
【請求項13】 分離効果のある内部構造物として規則充填物又はトレーを備えている、請求項9から12までのいずれか1項記載の隔壁塔(1)。
【請求項14】 トレーが、特にせき高に関して、塔中の滞留時間が15分間を上回らないように設計されている、請求項13記載の隔壁塔(1)。」
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」といい、上記補正された明細書を「本願明細書」という。)

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願請求項1?14に係る発明は、先の拒絶理由通知書に記載した理由1によって拒絶をすべきというものであって、該理由1は、「引用文献1-3によれば、1,3-ブタジエンは低沸点のメチルアセチレンと高沸点のCis-2-ブテン、C_(5)炭化水素、1,2-ブタジエンを蒸留により分離して精製され、そして、多成分から中間留分を蒸留により分離する手段として、隔壁を有する蒸留塔を用いる方法は当業者に周知であるから(引用文献4、5)、1,3-ブタジエンの精製を当該方法で行うことは当業者が容易に着想することである。」というものである。
すなわち、原査定の拒絶の理由は、本願請求項1?14に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?3に記載された発明及び同引用文献4、5に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 刊行物及び記載事項
刊行物1?3は次のとおりであって、以下の事項が記載されている。なお、刊行物2及び3は、周知事項を示すために挙げたものである。
刊行物1:社団法人化学工学協会編、「化学プロセス集成」、
株式会社東京化学同人、昭和45年3月3日第1版第1刷発行、
第664-672頁(原査定における引用文献2)
刊行物2:特開平9-299702号公報(同引用文献4)
刊行物3:特開昭59-142801号公報(同引用文献5)

(1)刊行物1:「化学プロセス集成」
(1a)「ブタジエンは各種の合成ゴム,その他に使用され、各製品により原料ブタジエンの規格に対する要求は異なるが,一般にpolymerization gradeとして純度99%以上,高級アセチレン類含有量100ppm以下のものが使用されている.このような高純度のブタジエンを製造するためには,脱水素法,併産ブタジエンの利用とも表5に示す程度のブタジエンを含むC_(4)炭化水素混合物より精製分離をする工程が必要である.しかしこの混合物は表6に示すように相互に接近した沸点をもち,また共沸物を形成するものもあるので,通常の蒸留操作のみでは高純度ブタジエンを製造することはできない.」(665頁右欄13?14行、666頁左欄下から2行?右欄4行)
(1b)「4.GPB法の詳細
4・1 製法
GPB法についてはフローシートに示す.
原料はナフサ分解併産C_(4)留分にとれば,その組成は表6のごとくである.
・・・気化されたC_(4)留分は第1抽出蒸留塔の中段に供給される.・・・
一方下降液は次第にブタジエン,アセチレンに富む物質となり,塔底より溶剤とともに排出され,第1放散塔に供給される.・・・第1放散塔より出たブタジエン,アセチレンガスは・・・第2抽出蒸留塔に送られる.・・・アレチレン類は高溶解度物として塔底より溶剤とともに排出される.これは第2放散塔で溶剤中より放散され塔頂より出される.
・・・
第2抽出蒸留塔塔頂よりのブタジエン中には若干のDMFに対する溶解度の近似している不純物を含んでいる.これらは低沸点物としてメチルアセチレン,高沸点物としてC_(5)パラフィンのようなもので通常の蒸留により簡単に除去できるので,精留塔で精製され,表11に示すような高純度の製品ブタジエンを得るものである.」(670頁左欄17行?右欄16行)
(1c)「

」(671頁のフローチャート)

(2)刊行物2:特開平9-299702号公報
(2a)「【0032】・・・本発明は、前記従来の蒸留方法の問題点を解決して、複数の蒸留塔を使用することなく、多成分を含有する原液を各成分に分離することができ、かつ、コストを低くすることができる蒸留方法を提供することを目的とする。」
(2b)「【0033】
【課題を解決するための手段】そのために、本発明の蒸留方法においては、フィードノズルを介して少なくとも三つ以上の成分を含有する原液を、第1の蒸留部の濃縮部と回収部との間に供給する。」
(2c)「【0036】そして、前記第2の蒸留部の上端に、主成分より沸点が低い成分の留出液を、前記第3の蒸留部の下端に、主成分より沸点が高い成分の缶出液を、第2の蒸留部における回収部と第3の蒸留部における濃縮部との間に、原液より主成分の純度が高いサイドカット液を得る。」
(2d)「【0049】・・・このように、複数の蒸留塔を使用することなく、多成分を含有する原液を各成分に分離することができる。そして、各第1、第2、第3の蒸留部65?67において加熱及び冷却をそれぞれ必要以上に繰り返す必要がないので、蒸発器、凝縮器等のユーティリティの使用量、及び消費エネルギーを少なくすることができる。」
(2e)「【図1】


(2f)「【図2】


(2g)「【図3】


(2h)「【図4】

」(平成9年5月16日提出の手続補正書中の図4)

(3)刊行物3:特開昭59-142801号公報
(3a)「(1)供給位置から蒸留塔に流入する多数の留分から成る供給物質を純粋な塔頂留分と,純粋な残留分と,塔頂留分と残留分の間の沸点範囲内にありかつ塔頂留分及び残留分による不純物不含であるか又は実質的に該不純物不含である多数の,有利には1種又は2種の中間沸点留分とに蒸留分解するための蒸留塔において,供給位置の下及び/又は上の蒸留塔の部分範囲に液体及び/又は蒸気流の横方向混合を阻止するために縦方向に作用する分離装置が配置されており,該分離装置が蒸留塔を供給物質が流入する供給部分と,中間沸点留分が流出する取出部分とに分割し,かつ縦方向に作用する分離装置が,取出部分で塔頂留分及び残留分による不純物不含の又は実質的に不含の中間沸点留分を取出すことができる程の数の分離段にわたつて配置されていることを特徴とする,多数の留分から成る供給物質を蒸留分離するための蒸留塔。」(特許請求の範囲第1項)
(3b)「n個の留分から成る物質混合物を連続的に分離する際に,純粋な留分に分解するためにはn-1回の蒸留工程が必要である。このことが多数の留分から組成された物質混合物においては高い技術的費用を必要とする。」(2頁左上欄17行?右上欄1行)
(3c)「本発明の課題は,前記欠点を排除することであつた。」(2頁左下欄19?20行)
(3d)「第1図及び第2図に示した2つの実施例は,縦方向に作用する分離装置を使用しかつそれにより達成される塔の供給部分と取出部分との分割における基本原理を示す。・・・
このような塔の分離段数はほぼ通常の側方取出塔に相当するが,総分離段数を比較すると,側塔を備えた主塔よりは少なくなる。また,エネルギー需要に関しても,供給部分及び取出部分を有する本発明の塔は側塔を有する塔よりも有利である。更に,側塔が固有の気化器及び凝縮器を必要とするのに対して,夫々1つだけの気化器及び凝縮器が必要であるにすぎないことも利点として見なされる。」(3頁左上欄最下行?左下欄3行)
(3e)「分離すべき留分の沸点差が小さくかつ側方留分に対する純度要求が高い場合には,長い分割装置が必要である。分離精度に対する要求が低い場合には,短い分離装置で十分である。」(3頁右下欄11?14行)
(3f)「熱力及び分離段数が匹敵する,縦方向分割装置を有しない側方取出塔の追跡計算によれば,同じ塔頂及び塔底生成物純度で側方放出物に関しては最大83?85%が達成可能であることが判明した。縦方向で分割された塔で得られたような99.3%の純度は約17倍高い熱力を必要とした。」(5頁左上欄14?19行)
(3g)「1……塔,2……分離装置,3……供給部分,
4……取出部分,LS……低沸点物,MS……側方取出物,
SS……高沸点物」(5頁右上欄9?11行)
(3h)「

」(第1図)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「高純度ブタジエン」の製造について記載され(摘示(1a))、具体的には、「C_(4)炭化水素混合物より精製分離をする工程が必要である」が、「この混合物は表6に示すように相互に接近した沸点をもち、また共沸物を形成するものもあるので、通常の蒸留操作のみでは高純度ブタジエンを製造することはできない」こと(摘示(1a))、C_(4)留分を第1抽出蒸留塔及び第2抽出蒸留塔に供給し、その後、若干の不純物を含むブタジエンは、不純物である低沸点物と高沸点物を除去するために精留塔で精製されて、高純度の製品ブタジエンを得ること(摘示(1b))、フローチャートによれば、精留は2回行われること(摘示(1c))、が記載されている。
ここで、高純度なものとして得ようとしているブタジエンが、1,3-ブタジエンであることは明らかであるから、刊行物1には、
「原料であるC_(4)留分を第1抽出蒸留塔及び第2抽出蒸留塔に供給し、その後、若干の不純物を含むブタジエンを、精留を2回行うことにより不純物である低沸点物と高沸点物とを除去することによる、高純度の1,3-ブタジエンを取得する方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明における「1,3-粗ブタジエン」について、本願明細書には、「C_(4)留分からの1,3-粗ブタジエンの取得は、成分の相対的な揮発性の僅かな差異のために、複雑化した蒸留技術的問題であり、かつ故に通例、いわゆる抽出蒸留により実施される。」(段落【0003】)と記載されているから、「1,3-粗ブタジエン」はC_(4)留分を抽出蒸留して得たものであり、本願発明においては、これをさらに蒸留するのであるから、「1,3-粗ブタジエン」は、当然に不純物を含むものである。すなわち、本願発明における「1,3-粗ブタジエン」とは、「C_(4)留分を抽出蒸留して得た、まだ不純物を含んでいるもの」といえる。
すると、引用発明における「原料であるC_(4)留分を第1抽出蒸留塔及び第2抽出蒸留塔に供給し、その後、若干の不純物を含むブタジエン」は、本願発明における「1,3-粗ブタジエン」に相当する。
また、本願明細書には、「1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得することは、技術水準において2段階で行われる:第一段階において、約7barの塔圧力で主にプロピン及びプロパジエンの混合物が塔頂生成物として排出され、後接続された第二の蒸留塔中で、約4.5barの圧力で缶出液として1,2-ブタジエン及びC_(5)炭化水素が分離される。」(段落【0005】)と記載されているから、「1,3-粗ブタジエン」に含まれる不純物は、1,3-ブタジエンよりも低沸点のもの(第一段階の塔庁生成物)と高沸点のもの(第二の蒸留塔の缶出液)の両方であるといえる。
すると、引用発明における「不純物である低沸点物と高沸点物とを除去することによる、高純度の1,3-ブタジエンを取得する方法」は、本願発明における「1,3-純ブタジエンを蒸留により取得する方法」に相当する。

そうしてみると両者は、
「1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得する方法」
で一致し、次の点で相違する。

(i)「蒸留により取得する方法」が、本願発明においては、「隔壁塔(1)中で実施し、前記塔中で、隔壁(8)を、塔の長軸方向で上部の共通塔領域(9)、下部の共通塔領域(14)、供給部(10,12)及び取出部(11,13)を構成するように配置する」ものであるのに対し、引用発明においては、「精留を2回行う」ものである点

3 判断
上記の相違点及び効果について検討する。
(1)相違点(i)について
蒸留についての周知技術をみるため、刊行物2と刊行物3を検討する。

ア 刊行物2には、「複数の蒸留塔を使用することなく、多成分を含有する原液を各成分に分離することができ、かつ、コストを低くすることができる蒸留方法」(摘示(2a))について記載され、ここで用いられる蒸留塔は、例えば図1に示されるように、中仕切り61?64で第1、第2、第3の蒸留部に分けられており(摘示(2e))、フィードノズルを介して少なくとも三つ以上の成分を含有する原液を、第1の蒸留部の濃縮部と回収部との間に供給し(摘示(2b))、第2の蒸留部の上端から主成分より沸点が低い成分の留出液を、第3の蒸留部の下端から主成分より沸点が高い成分の缶出液を、第2蒸留部における回収部と第3の蒸留部における濃縮部との間から、原液より主成分の純度の高いサイドカット液を得るもの(摘示(2c))である。
ここで、図1に示された蒸留塔の中仕切り61?64の上部と下部は、供給部分でも取出部分でもない共通塔領域といえるところであり、該中仕切りと本願発明でいうところの隔壁とは同じものであるから、この蒸留塔は、「隔壁を、塔の長軸方向で上部の共通塔領域、下部の共通塔領域、供給部及び取出部を構成するように配置した蒸留塔」(以下「隔壁型蒸留塔」という。)といえる。
そうしてみると、刊行物2には、上記の隔壁型蒸留塔を用いれば、図2?3に示されるような複数の蒸留塔(摘示(2f)、(2g))を用いることなく、また、図4に示されるような主塔と側塔からなる蒸留塔(摘示(2h))を用いることもなく、少なくとも三つ以上の成分を含有する原液を各成分に分離することができ、蒸発器、凝縮器等のユーティリティの使用量、及び消費エネルギーを少なくすることができること(摘示(2d))、が記載されている。

イ 一方、刊行物3には、「多数の留分から成る供給物質を蒸留分離するための蒸留塔」について記載されるところ(摘示(3a))、該蒸留塔は、例えば第1図(Fig.1)に示されるように、分離装置2、供給部分3、取出部分4を有するものであって(摘示(3g)、(3h))、この蒸留塔を用いることで、純粋な塔頂留分と純粋な残留分と、不純物不含の中間沸点留分を得ている(摘示(3a))。
ここで、第1図に示された蒸留塔の「分離装置2」の上部と下部は、供給部分でも取出部分でもない、本願発明の「共通塔領域」といえるところであり、該「分離装置」と本願発明でいうところの「隔壁」とは同じものであるから、この蒸留塔も、上述の隔壁型蒸留塔といえる。
また、「多数の留分から成る供給物質」は、純粋な塔頂留分と純粋な残留分と、不純物不含の中間沸点留分を含むので、少なくとも三以上の留分を含むものといえる。
そうしてみると、刊行物3には、上記の隔壁型蒸留塔を用いれば、三以上の留分を含む供給物質の蒸留であっても、n個の留分から成る物質混合物を連続的に分離するにはn-1回の蒸留工程が必要であった(摘示(3b))という従来の欠点(すなわち、nが3であれば2回の蒸留工程が必要になる)を排除することができ(摘示(3c))、エネルギー的に有利であること(摘示(3d)、(3f))、さらに、分離すべき留分の沸点差が小さくかつ側方留分に対する純度要求が高ければ長い分割装置を、そうでない場合は短い分離装置を用いること(摘示(3e))が記載されている。

ウ そうすると、刊行物2にも刊行物3にも同様に、三成分以上の留分を含む原料を、上記の隔壁型蒸留塔を用いて蒸留することにより、複数の蒸留塔(蒸留工程)を用いることなく、「取出部より、低沸点不純物も高沸点不純物も含まない目的成分の留分が得られ、かつ、消費エネルギーを少なくすることができる」、ということが記載されているから、「三成分以上の留分を含む原料を、隔壁を、塔の長軸方向で上部の共通塔領域、下部の共通塔領域、供給部及び取出部を構成するように配置した蒸留塔(隔壁型蒸留塔)を用いて蒸留すると、取出部より、低沸点不純物も高沸点不純物も含まない目的成分の留分が得られ、複数の蒸留塔を用いることなく、消費エネルギーを少なくすることができる」ということが、蒸留の技術分野において当業者に周知の事項であったといえる。

エ そして、引用発明は「若干の不純物を含むブタジエンを、精留を2回行うことにより不純物である低沸点物と高沸点物とを除去することによる、高純度の1,3-ブタジエンを取得する方法」で、三以上の成分を含む原料を複数の蒸留塔で蒸留し、不純物である低沸点物と高沸点物を除去するものであり、また、上述の周知事項は蒸留技術全般に対するもので、蒸留する原料が沸点の異なる三成分以上の留分を含むものであればよいといえる。
してみると、上述の、三成分以上の留分を含む原料の蒸留にあたって、複数の蒸留塔を用いずにエネルギー消費を減らすとの周知の課題を認識し、その解決手段を、「高純度の1,3-ブタジエンを取得する方法」である引用発明に適用すること、すなわち、「蒸留により取得する方法」を、「精留を2回行う」ことに代えて、「隔壁型蒸留塔」である「隔壁塔(1)」「中で実施し、前記塔中で、隔壁(8)を、塔の長軸方向で上部の共通塔領域(9)、下部の共通塔領域(14)、供給部(10,12)及び取出部(11,13)を構成するように配置する」ものとすることは、当業者にとって容易になし得たことと認められる。(なお、上記の隔壁塔の各部分に、本願発明に合わせて番号を付したが、このことは適宜なし得ることである。)

(2)本願発明の効果について
本願発明の奏する効果は、本願明細書に記載されるとおり、「本発明による方法により、90,000tの年間能力での1,3-純ブタジエンへの1,3-粗ブタジエンの蒸留を、要求される規格の遵守下に、従来の2段階の蒸留法に比べて20%の投資費用節約及び16%のエネルギー費用節約を伴い実施することができた。」(段落【0035】)というものであるところ、本願の請求項1に示される隔壁塔を用いることで、消費エネルギーを少なくできることは当業者に周知であり(「(1)ウ」)、例えば刊行物3には、「縦方向分割装置を有しない側方取出塔の追跡計算によれば、・・・最大83?85%が達成可能であることが判明した。縦方向で分割された塔で得られたような99.3%の純度は約17倍高い熱力を必要とした。」(摘示(3f))と記載されるように、相当量のエネルギー節約ができることも周知といえる。
したがって、本願発明の奏する効果は、周知事項より、当業者の予測の範囲内のものといえ、格別に優れたものであるとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3で示される周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張
(1)請求人の主張
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由 (3)本願発明と引用発明との対比」において、(a)の項で、次の(a-1)と(a-2)を、(c)の「本願発明の効果」の項で、次の(c-1)と(c-2)を、主張している。
(a-1) 当業者には、ブタジエンの蒸留精製に関する引用文献1?3(審決注:「引用文献2」は「刊行物1」と同じである。以下「刊行物1」という。)の教示を、1つの隔壁蒸留塔に関する引用文献4及び5(審決注:「刊行物2」及び「刊行物3」と同じである。以下「刊行物2」、「刊行物3」という。)の教示と組み合わせる動機付けが存在しない。
(a-2)本願以前に知られた全ての変法は、重合傾向のある熱感受性ジエンに配慮し、第一の蒸留塔の頂部でプロピン/プロパジエン混合物をより多く凝縮させるために、2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作することが必須の前提条件であった。これは引用文献1?3に記載の方法においても同じであり、引用文献2記載のGBP法中の精留について詳しく説明している参考資料1からも明らかである。
(c-1)従来の2段階の蒸留方法に比較して、本願発明による20%の投資費用及び16%のエネルギー費用に関する節約(段落[0035]参照)は、数十年来知られた古い方法であり、また化学的に完全に新規な方法が開発されていない粗ブタジエンの精製のような方法にとっては、極めて著しい効果である。
(c-2)唯一の塔、すなわち隔壁塔を必要とする本願発明の方法において、ポップコーン形成に関与する部分が、著しく低下する。すなわち、技術水準の方法において、ポップコーン形成に関与する部分は、2つの塔、3つの凝縮器及び2つのリボイラーであるの対して、本願発明の方法において1つのみの塔、2つの凝縮器及び1つのリボイラーがポップコーン形成に関与するに過ぎない。したがって、本願発明の方法によって、安全面及びプラントの信頼性が著しく改善され、環境面のリスクが技術水準の方法に比較して著しく低下される。

(2)検討
ア (a-1)について
刊行物1は、1,3-ブタジエンの蒸留精製に関するものであって、高純度の1,3-ブタジエンを得るには、不純物として含まれる低沸点物と高沸点物のどちらも除去せねばならないことが記載され(摘示(1a)?(1c))、高純度ブタジエンを製造する際の課題が挙げられている。
また、「3(1)ウ」で述べたように、刊行物2及び3には、三成分以上の成分を含む原料を蒸留する場合に、隔壁型蒸留塔が適すること、このような蒸留塔を用いれば、低沸点不純物も高沸点不純物も除去でき、沸点差の小さい成分の混合物を分けるのにも適し、複数の蒸留塔を使用することなく蒸留でき、消費エネルギーを少なくすることができること等が記載され(摘示(2a)?(2d)、(3a)?(3f))、このことは、三成分以上の成分を含む原料を蒸留する場合においては、複数の蒸留塔を使用し、消費エネルギーが大きいとの課題があり、これを隔壁型蒸留塔を用いることで解決することを示唆したものといえ、これが当業者に周知であることも、「3(1)ウ、エ」で述べたとおりである。
そうすると、「3(1)エ」で述べたように、引用発明における、高純度ブタジエンの製造において、複数の蒸留塔を使用し、消費エネルギーが大きいとの周知の課題を認識し、その課題の解決手段として隔壁型蒸留塔を適用することができることは、当業者に明らかであったといえる。
よって、刊行物1に記載された発明と、刊行物2、3に示される周知事項とは、十分に組み合わせる動機が存在するから、請求人の主張は採用できない。

イ (a-2)について
請求人は、従来は、「重合傾向のある熱感受性ジエンに配慮し、第一の蒸留塔の頂部でプロピン/プロパジエン混合物をより多く凝縮させるために、2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作すること」が必須の前提条件であったと主張し、引用文献1?3、参考文献1をその根拠としている。
しかし、原査定で引用した引用文献3(特開昭56-150024号公報)の記載も見ても、図面中の分留ユニット25において、特に「2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作すること」はしていない。
また、本願明細書の段落【0006】に従来技術として示されるEP-B 284971(ファミリー文献である特開昭63-255239号公報参照)には、
「(1)まず抽出蒸留により選択的溶媒で粗1,3-ブタジエンを分離し、次いでこれから1,3-ブタジエンよりも容易に沸騰する炭化水素(以下において「低沸点不純物」と称する)を含有する相及び1,3-ブタジエンよりも高温で沸騰する炭化水素(以下において「高沸点不純物」と称する)を含有する相を蒸留分離して、1,3-ブタジエンならびに少量のプロピン及びC_(5)炭化水素を含有するC_(4)炭化水素混合物から高純度の1,3-ブタジエンを得る方法において、相連続する2蒸留圏において粗1,3-ブタジエンを蒸留し、その際
(a)粗1,3-ブタジエンを気相で第1蒸留圏に給送し、
(b)1,3-ブタジエンならびに低沸点不純物を含有する塔頂生成物を第1蒸留圏から液相で排出して第2蒸留圏中間帯域に給送し、
(c)1,3-ブタジエンならびに高沸点不純物を含有する液相側流を第1蒸留圏側部から排出して、第2蒸留圏の塔底に給送し、
(d)第1蒸留圏の塔底で高沸点不純物を排出し、
(e)第2蒸留圏の塔頂で低沸点不純物を排出し、
(f)第2蒸留圏の側部で目的生成物として1,3-ブタジエンを液相で排出し、
(g)1,3-ブタジエン及び高沸点不純物を含有する第2蒸留圏塔底生成物を液相で排出して第1蒸留圏の液相側流取出し帯域に還流給送することを特徴とする方法。
(2)請求項(1)による方法であって、第1蒸留圏が3乃至5.5バールの圧力で、第2蒸留圏が5.5乃至8.5バールの圧力で操作されることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲第1項、第2項)と記載され、第一蒸留塔の方が第二蒸留塔よりも低い圧力を用いているから、これも、「2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作すること」はしていない。
そうしてみると、請求人の主張する「必須の前提条件」は、必ずしもそのとおりであるとはいえないから、必須の前提とはいえない条件を根拠に展開された、請求人の主張は採用できない。
また、仮に、1,3-粗ブタンジエンの蒸留において「2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作すること」が引用文献1、刊行物1、参考文献1に記載されるように多くの場合に採用されているとしても、それは、低沸点成分、1,3-ブタンジエン、高沸点成分の三成分を順次別々に蒸留分離する2つの蒸留塔では異なった圧力で蒸留を行うことが好ましいことを示唆しているにすぎず、隔壁型蒸留塔で低沸点成分、1,3-ブタンジエン、高沸点成分の三成分を一度に蒸留分離するに際し、熱感受性ジエンに配慮し、適切な圧力条件を選定して蒸留分離をすることができないことを意味するものではない。
そして、刊行物1には1,3-粗ブタンジエンの蒸留において、圧力についての制限は記載されておらず、刊行物2、3に、1、3-ブタジエンの精製には使用できない旨の教示もないのであって、一方、「ア」に示したように、刊行物1に記載された発明と、刊行物2、3に示される周知事項とは、十分に組み合わせる動機が存在しているのであるから、「2つの圧力で、すなわち第二の蒸留塔中での圧力を第一の蒸留塔中での圧力よりも低くして操作すること」が多くの場合に採用されているということが、本願発明をなす上での阻害要因になるとはいえない。

ウ (c-1)について
「3(2)」に示したとおり、予測の範囲内のものといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

エ (c-2)について
ポップコーンポリマー形成現象については、本願明細書に何ら説明されておらず、これがどのような条件で生起し易く、どのような条件で避けられるか、ということは、本願の特許請求の範囲のみならず、発明の詳細な説明にも何ら記載されていないのであるから、ポップコーンポリマー形成に関する主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであるばかりでなく、発明の詳細な説明の記載に基づくものでもない。
また、ポップコーンポリマー形成現象の抑制について本願明細書に記載されているものとしても、ポップコーンポリマー形成現象が知られている化合物を扱う場合には、そのような現象を避けるべく、温度、圧力、光、酸素、水分等についての条件を選定することは、当業者が通常行うところといえ、また、装置がより単純化されれば、それにともない、温度をかける部分や圧力をかける部分、光、酸素、水分等に晒される部分が減少することは当然といえるから、請求人の主張する、「本願発明の方法によって、安全面及びプラントの信頼性が著しく改善され、環境面のリスクが技術水準の方法に比較して著しく低下される。」という効果は、刊行物2、3に記載されるような、隔壁を有する単一の蒸留塔という、より単純化された周知の装置を用いたことによる当然の結果といえる。
したがって、請求人のこの主張も採用できない。

オ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することはできない。

5 まとめ
よって、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-28 
結審通知日 2011-09-30 
審決日 2011-10-12 
出願番号 特願2002-542764(P2002-542764)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 松本 直子
齋藤 恵
発明の名称 1,3-粗ブタジエンから1,3-純ブタジエンを蒸留により取得するための方法及び装置  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 星 公弘  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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