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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1253048
審判番号 不服2010-15619  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-12 
確定日 2012-02-27 
事件の表示 特願2007-553347「差動符号化およびバイポーラ差動検出を有する波長多重光CDMA」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日国際公開、WO2006/083822、平成20年 7月31日国内公表、特表2008-529422〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年1月31日(パリ条約に基づく優先権主張2005年1月31日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成22年3月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成22年7月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年7月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

〈補正前〉
「【請求項1】
入力メッセージをDPSK符号化するDPSK符号器、
前記DPSK符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するパルス光源、および、
前記DPSK符号器および前記パルス光源に動作可能に接続したスペクトル符号器であって、前記光変調およびDPSK符号化した入力メッセージのスペクトル成分に対して、所定の光CDMAコードを使用してスペクトル位相符号化を実施して、符号化信号を生成するスペクトル符号器を備えることを特徴とする光CDMA送信機。」

〈補正後〉
「【請求項1】
入力メッセージをDPSK符号化するDPSK符号器、
前記DPSK符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するコヒーレント波長多重光源、
位相変調器、および、
前記DPSK符号器および前記コヒーレント波長多重光源に動作可能に接続したスペクトル位相符号器であって、光信号を独立したスペクトル成分に分割し、別個の光位相シフトを特定の光CDMAコードを示す位相マスクに基いて差動符号化信号のそれぞれに適用し、出力する位相シフトした成分と符号化したメッセージを組み合わせるように構成されたスペクトル位相符号器
を備えることを特徴とする光CDMA送信機。」

本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「パルス光源」を「コヒーレント波長多重光源」に限定し、「DPSK符号化した入力メッセージにより変調」することについて「位相変調器」を用いることを限定し、「スペクトル符号器」を「スペクトル位相符号器」に限定し、「スペクトル符号器」の「前記光変調およびDPSK符号化した入力メッセージのスペクトル成分に対して、所定の光CDMAコードを使用してスペクトル位相符号化を実施して、符号化信号を生成する」という機能を「光信号を独立したスペクトル成分に分割し、別個の光位相シフトを特定の光CDMAコードを示す位相マスクに基いて差動符号化信号のそれぞれに適用し、出力する位相シフトした成分と符号化したメッセージを組み合わせるように構成された」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
刊行物1.S. Galli, R. Menendez, P. Toliver, T. Banwell, J. Jackel, J. Young, S. Etemad, “DWDM-Compatible Spectrally Phase Encoded Optical CDMA”, IEEE Global Telecommunications Conference 2004 (GLOBECOM '04), Volume 3, (29 Nov. - 3 Dec. 2004), pp.1888-1894

刊行物2.特開平11-4196号公報

刊行物3.特開2003-60580号公報

(2-1)刊行物1の記載
刊行物1には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ア)第1888頁左欄第1行から第7行
Abstract^((1)) - We present initial results on a WDM compatible spectrally phase encoded Optical CDMA (OCDMA) system that uses 16 phase-locked laser line within an 80-GHz tunable window and an ultrahigh frequency resolution encoder/decode. The described system differs from conventional OCDMA systems by independently phase encoding individual spectral line of a Mode Locked laser (MLL).

〈当審訳〉
要約^((1)) - 我々は、80GHzの調整可能なウィンドウ内で16本の位相同期レーザー線と超高周波分解能の符号器/復号器とを用いた、WDM互換なスペクトル位相符号化光学CDMA(OCDMA)システムの初期成果を提示する。ここで記載されているシステムは、従来のOCDMAシステムと異なり、1つのモードロックレーザー(MLL)の個々のスペクトル線毎に独立に位相符号化を行う。

(イ)第1888頁右欄第21行から26行
The phase-locked multiple line are generated by a MLL as shown in the lower section of Figure 2, for the case of N=16 lines spaced Δf=5 GHz apart.
The lines are the longitudinal modes of the MLL and are separated by a frequency interval equal to the temporal pulse repetition rate.

〈当審訳〉
位相同期多重線は、以下の図2に示されるMLLによって生成される。
それらの線は、MLLの縦モードであり、パルスの時間的な繰り返し速度と等しい周波数間隔で分離されている。

(ウ)第1889頁左欄第1行から第10行
Figure 3 illustrates the overall OCDMA architecture. Also shown is a conceptual diagram of the signals as they flow through the system, both in the time domain as well as the frequency domain. Starting from left, (the first of six sections identified by vertical gray arrows) the MLL spectrum and temporal intensity signal is used to feed M users. The spectral content and temporal representation in the six sections are those of 1) the MLL, 2) after on-off keyed data modulation, 3) after phase encoding, 4) after mixing all users, 5) after decoder of first user, 6) after time gating and O/E conversion.

〈当審訳〉
図3は、当該OCDMAアーキテクチャ全体を図解している。当該システムを流れるときの信号の概念図も、時間領域及び周波数領域の双方で示されている。左から始まり、(灰色の縦矢印で特定される6つの部分のうちの最初の部分である)MLLのスペクトル及び時間的強度信号は、M人のユーザに供給するために用いられる。6つの部分のスペクトル内容及び時間的表現は、1)MLL、2)オンオフキーデータ変調後、3)位相符号化後、4)全ユーザのミキシング後、5)最初のユーザの復号器の後、6)時間ゲート及び光電気変換後についてである。

(エ)図3(Figure 3)では、位相同期多周波レーザー(Phase-locked multi-wavelength laser)からの信号がデータ変調器(Data Modulator)で変調され、変調後の信号がスペクトル位相符号器(Spectral Phase Encoder)で符号化され、ネットワークを通過した後、スペクトル位相復号器(Spectral Phase Decoder)で復調されることが見てとれる。

(オ)第1889頁右欄第1行から左欄第31行
B. Hyperfine Phase Encoder
In its idealized form, the hyperfine encoder for user i acts as a phase-mask filter with frequency response E_((i))(f):
N
E^((i))(f) = Σ c_(j)^((i)) Rect_(Δf)(f-f_(j)) (3)
j=1
where c_(j)^((i)) are complex symbols indicating the j-th (1≦j≦N) element of the i-th code c^((i)) (1≦i≦M), and the function Rect_(W)(f) denowtes the rectangle function of unitary amplitude and width W defined as:
(当審注:数式(4)略)
Although in principle the element of code c^((i)) can take any complex value, the phase mask currently employed allows only for unitary amplitude and binary phase values:
c_(j)^((i)) = e^(jα_j^(i)), with α_(j)^((i))∈{0, π} ⇒ c_(j)^((i))∈{-1, 1} (5)
Ideally, all the spectral components of the unencoded signal would emerge from the encoder unchanged in amplitude but, in some cases flipped in phase.
Due to the finite diffraction-limited spot size of the imaging optics, a spectral component situated at a phase transition boundary (or bin edge) will overlap two values of c_(j)^((i)) and effectively be cancelled.
The manifestation of this “bin edge effect” in the transmitted intensity profile of the encoder is dips aligned with code phase transitions. Figure 4 shows the measured intensity transfer function of an encoders used in our experiments.
The effect of phase encoding is to spread in time the MLL narrow pulses of width 1/(NΔf) seconds across the whole pulse interval. Therefore, the proposed phase encoded OCDMA can be considered as the dual version of conventional direct sequence CDMA (DS-CDMA) based on frequency spreading.

なお、上記式(5)中、eの右肩付の「jα_j^(i)」は、「jα_(j)^((i))」の意味である(肩付文字の中でさらに肩付文字を使うことができないため、このような表記を採用した)。

〈当審訳〉
B.Hyperfine位相符号器
理想形では、ユーザiのためのhyperfine符号器は周波数応答E_((i))(f)を持つ位相マスクフィルタとして働き、周波数応答E_((i))(f)は、
N
E^((i))(f) = Σ c_(j)^((i)) Rect_(Δf)(f-f_(j)) (3)
j=1
であり、ここで、c_(j)^((i))は複素記号であってi番目 (1≦i≦M)の符号c^((i))の j番目(1≦j≦N)の要素を示し、そして、関数 Rect_(w)(f)は単位振幅と幅Wを持つ矩形関数であり、
(当審注:数式(4)略)
と定義される。
原理上、符号c^((i))はいかなる複素数値をも取れるが、現在用いられている位相マスクは単位振幅と二値位相のみが許されており、
c_(j)^((i)) = e^(jα_j^(i)), with α_(j)^((i))∈{0, π} ⇒ c_(j)^((i))∈{-1, 1} (5)
である。
理想的には、符号化されていない信号の全スペクトル成分は、振幅を変えない符号器から出てくるが、位相が反転する場合がある。
結像光学系が有限の回折限界的なスポットサイズであるために、位相変化境界(又はビンのエッジ)に位置するスペクトル成分は、c_(j)^((i))の2つの値と重なり、事実上キャンセルされる。
当該符号器の透過強度プロファイルにおけるこの“ビンエッジ効果”は、符号位相変化に揃ったくぼみとして現れている。図4は、我々の実験で用いた符号器の実測した強度伝達関数を示す。
位相符号化の効果は、幅1/(NΔf)のMLL狭パルスを、全パルス間隔にわたって時間的に拡散することである。それ故に、提案する位相符号化OCDMAは、周波数拡散を基づく従来の直接拡散CDMA(DS-CDMA)の二重のバージョンだと考えられる。

(カ)第1889頁右欄第21行から第7行
C. OOK Data Modulation
Due to the bin edge effects in the Hyperfine mask, OOK modulation rate must be chosen so that the spectrum broadening of each of the N spectral lines is confined to Δf/2 Hz. OOK modulation at a rate of R_(b)=Δf/2 bits/sec that uses multiple pulses from the MLL to represent a single bit satisfies this physical restriction. As an alternative, using duobinary encoding and then modulating at the full rate R_(b)=Δf bits/sec ensures that the spectral constituents of the data-modulated signal stay within their respective Δf-wide frequency bins. In principle, if no amplitude bin-edge effect were present, full rate modulation would be possible even without line coding.
Therefore, after modulation the temporal expression of the signal pertaining to the i-th user can be written as follows:
b^((i))(t) = Σ a_(k)^((i)) p(t-kT) (6)
k
where a_(k)^((i))∈{0,1} is the sequence of information bits of user i.

〈当審訳〉
C.OOKデータ変調
Hyperfineマスクのビンエッジ効果のために、OOK変調速度は、N本のスペクトル線の各々のスペクトル拡大がΔf/2 Hz以内に収まるように選ばれなければならない。単一ビットを表すためのMMLからの多数のパルスを用いるR_(b)=Δf/2ビット/秒の速度でのOOK変調は、この物理的制限を満たす。別の方法として、デュオバイナリ変調を用いれば、R_(b)=Δfビット/秒全速での変調は、データ変調済み信号のスペクトル構成要素がそれぞれのΔf幅の周波数ビンにとどまることを確実にする。原理上は、振幅ビンエッジ効果が無かったとすれば、ラインコーディング無しでも全速変調が可能であろう。
それ故に、変調後のi番目のユーザに関連する信号の時間表現は、以下のように記述できる。
b^((i))(t) = Σ a_(k)^((i)) p(t-kT) (6)
k
ここで、a_(k)^((i))∈{0,1}は、ユーザiの情報ビット列である。

以上の刊行物1の記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「16本の位相同期レーザー線と超高周波分解能の符号器/復号器とを用いた、WDM互換なスペクトル位相符号化光学CDMA(OCDMA)システムであって、
1つのモードロックレーザー(MLL)の個々のスペクトル線毎に独立に位相符号化を行い、
位相同期多重線は、MLLによって生成され、それらの線は、MLLの縦モードであり、パルスの時間的な繰り返し速度と等しい周波数間隔で分離されており、
信号の流れは、1)MLL、2)オンオフキーデータ変調、3)位相符号化、4)全ユーザのミキシング、5)最初のユーザの復号器、6)時間ゲート及び光電気変換、の順であり、
位相同期多周波レーザー(Phase-locked multi-wavelength laser)からの信号がデータ変調器(Data Modulator)で変調され、変調後の信号がスペクトル位相符号器(Spectral Phase Encoder)で符号化され、ネットワークを通過した後、スペクトル位相復号器(Spectral Phase Decoder)で復調され、
ユーザiのためのhyperfine符号器は周波数応答E^((i))(f)を持つ位相マスクフィルタとして働き、周波数応答E^((i))(f)は、
N
E^((i))(f) = Σ c_(j)^((i)) Rect_(Δf)(f-f_(j)) (3)
j=1
であり、ここで、c_(j)^((i))は複素記号であってi番目 (1≦i≦M)の符号c^((i))の j番目(1≦j≦N)の要素を示し、
符号c^((i))はいかなる複素数値をも取れるが、現在用いられている位相マスクは単位振幅と二値位相のみが許されており、
c_(j)^((i)) = e^(jα_j^(i)), with α_(j)^((i))∈{0, π} ⇒ c_(j)^((i))∈{-1, 1} (5)
であり、
位相符号化の効果は、幅1/(NΔf)のMLL狭パルスを、全パルス間隔にわたって時間的に拡散することであり、
OOK変調速度は、N本のスペクトル線の各々のスペクトル拡大がΔf/2 Hz以内に収まるように選ばれなければならず、R_(b)=Δf/2ビット/秒の速度でのOOK変調は、この物理的制限を満たし、
変調後のi番目のユーザに関連する信号の時間表現は、以下のように記述でき、
b^((i))(t) = Σ a_(k)^((i)) p(t-kT) (6)
k
ここで、a_(k)^((i))∈{0,1}は、ユーザiの情報ビット列である、
OCDMAシステム。」

(2-2)刊行物2の記載
周知技術を示す刊行物2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(キ)第0003段落
この光位相変調器2には、増幅器3でゲイン調整された符号化器(NRZ/DPSK)4の出力が駆動信号として与えられている。この符号化器(NRZ/DPSK)4は、NRZ符号で表現されるデータ信号を、このデータ信号にビット同期したクロック信号に基づいてDPSK(Differential Phase Shift Keying :差動同期位相シフトキーイング)符号に変換するもので、これによりレーザ光源1の出力光はこのされる。ここで位相変調された光信号は、エルビウムドープ光ファイバ増幅器(以下EDFAと略す)5で増幅されたのち、光アンテナ6から宇宙空間に放射される。

(ク)第0009段落
【0009】上記した従来の光通信システムでは、地上系の光ファイバ通信で通常用いられるIM-DD(強度変調・直接検波)方式と比較して約3dB高感度な受信特性が得られることが知られている。

(2-3)刊行物3の記載
周知技術を示す刊行物3には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ケ)第0005段落
【0005】本発明の一実施例では、送信機において、データを表す電気信号は差分符号化され、高ビットレート(例えば、40Gbit/s)RZ光パルスのストリームの位相を変調するために使用される。

(コ)第0008段落
OOKに比べて、DPSKのほうが、特に平衡受信機が使用されるときには受信機感度がより高いため、ASE雑音に対して耐性があり、より低い光パワーでの伝送の余地がある。また、このことは、FWM障害を低減し、例えば、パワーの3dBの低減が、FWM効果の6dBの低減につながる。

(3)対比
本願補正発明と刊行物1記載発明とを以下で対比する。

刊行物1記載発明は「光学CDMA(OCDMA)システム」であり、「MLL」、「オンオフキーデータ変調」及び「位相符号化」によって送信機を構成していることは明らかであるから、本願補正発明と刊行物1記載発明とは、「光CDMA送信機」である点で一致する。

刊行物1記載発明の「モードロックレーザー(MLL)」は、「16本の位相同期レーザー線」を出すものであり、「パルスの時間的な繰り返し速度と等しい周波数間隔で分離されて」いるものであるから、刊行物1記載発明の「モードロックレーザー(MLL)」は、本願補正発明の「コヒーレント波長多重光源」に相当する。

刊行物1記載発明の「データ変調器」は、明らかに「オンオフキーデータ変調」すなわち「OOK変調」を行うものである。
刊行物1記載発明の「データ変調器」によれば、「位相同期多周波レーザー(Phase-locked multi-wavelength laser)からの信号がデータ変調器(Data Modulator)で変調」されるものであり、その変調は式(6)にしたがってユーザiの情報ビット列a_(k)^((i))でMLLを変調するものである。
刊行物1記載発明のユーザiの情報ビット列a_(k)^((i))は、「a_(k)^((i))∈{0,1}」であるから、二値符号化されていることが明らかであり、よって、刊行物1記載発明の「データ変調器」は、符号化した入力メッセージによりMLLの光を変調するものであり、MLLは変調されるべきキャリア信号を生成している。
したがって、本願補正発明と刊行物1記載発明とは、「符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するコヒーレント波長多重光源」を備える点、及び、「変調器」を備える点で一致する。

刊行物1記載発明において、「スペクトル位相符号器」と「hyperfine符号器」とは同一のものを指していることが明らかであり、これは、本願補正発明の「スペクトル位相符号器」に相当する。
刊行物1記載発明では「位相同期多周波レーザー(Phase-locked multi-wavelength laser)からの信号がデータ変調器(Data Modulator)で変調され、変調後の信号がスペクトル位相符号器(Spectral Phase Encoder)で符号化され」るのであるから、本願補正発明の「スペクトル位相符号器」と刊行物1記載発明の「スペクトル位相符号器」とは、「コヒーレント波長多重光源に動作可能に接続」している点で一致する。
刊行物1記載発明の「スペクトル位相符号器」は、前述のとおりデータ変調器で変調された後の信号を符号化するものであり、さらに、「1つのモードロックレーザー(MLL)の個々のスペクトル線毎に独立に位相符号化を行い」、「周波数応答E^((i))(f)を持つ位相マスクフィルタとして働」くものであるから、本願補正発明の「スペクトル位相符号器」と刊行物1記載発明の「スペクトル位相符号器」とは、「光信号を独立したスペクトル成分に分割し、別個の光位相シフトを位相マスクに基いて符号化信号のそれぞれに適用し、出力する位相シフトした成分と符号化したメッセージを組み合わせるように構成され」ている点で一致する。
刊行物1記載発明の「位相マスク」は、ユーザiのための周波数応答E^((i))(f)を持つものであり、該E^((i))(f)を定義するc_(j)^((i))は、「i番目 (1≦i≦M)の符号 c^((i))の j番目(1≦j≦N)の要素」を表すものであり、この位相マスクによって「幅1/(NΔf)のMLL狭パルスを、全パルス間隔にわたって時間的に拡散する」のであるから、刊行物1記載発明の「位相マスク」と、本願補正発明の「位相マスク」とは、「特定の光CDMAコードを示す」点で一致する。

すると、本願補正発明と刊行物1記載発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するコヒーレント波長多重光源、
変調器、および、
前記コヒーレント波長多重光源に動作可能に接続したスペクトル位相符号器であって、光信号を独立したスペクトル成分に分割し、別個の光位相シフトを特定の光CDMAコードを示す位相マスクに基いて符号化信号のそれぞれに適用し、出力する位相シフトした成分と符号化したメッセージを組み合わせるように構成されたスペクトル位相符号器
を備えることを特徴とする光CDMA送信機。」である点。

〈相違点1〉
本願補正発明は、「入力メッセージをDPSK符号化するDPSK符号器」が存在するのに対し、刊行物1記載発明は、DPSK符号化をしておらず、そのためのDPSK符号器も存在しない点。

〈相違点2〉
本願補正発明は、コヒーレント波長多重光源からのキャリア信号の変調を、DPSK符号化されたメッセージにより、位相変調器で行っているのに対し、刊行物1記載発明は、ユーザの情報ビット列により、オンオフキーデータ変調で行っている点。

〈相違点3〉
本願補正発明は、スペクトル位相符号器がDPSK符号器と動作可能に接続され、位相マスクに基づいた光位相シフトを、差動符号化信号に対して適用しているのに対し、刊行物1記載発明では、スペクトル位相符号器がデータ変調器と動作可能に接続され、位相マスクに基づいた光位相シフトを、オンオフキーデータ変調された信号に対して適用している点。

(4)判断

(4-1)相違点1から3について
刊行物1記載発明は、ユーザの情報ビット列によりオンオフキーデータ変調を用いてキャリア信号を変調するものであるが、刊行物1に「別の方法として、デュオバイナリ変調を用いれば、R_(b)=Δfビット/秒全速での変調は、データ変調済み信号のスペクトル構成要素がそれぞれのΔf幅の周波数ビンにとどまることを確実にする」(上記摘記事項(カ)を参照)とあるように、他の変調方式を用いることも示唆されている。
一方、光通信の技術分野において、DPSK符号により位相変調器を用いてデータを変調すると、オンオフキーデータ変調(OOK)に比べて雑音特性が改善することは周知技術である(例えば、刊行物2及び3についての上記摘記事項(キ)から(コ)を参照)。

してみれば、刊行物1記載発明において、雑音特性を改善するために、ユーザの情報ビット列によるオンオフキーデータ変調に代えて、DPSK符号による位相変調を用いるようにし、そのために、DPSK符号器を設け、変調器を位相変調器とし、後段のスペクトル位相符号器をDPSK符号器と動作可能に接続することは、当業者が容易になし得ることである。

(4-2)効果について
また、本願補正発明の構成によって生じる効果も、上記刊行物1記載発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のもので格別顕著であるとはいえない。

(4-3)
上記(4-1)及び(4-2)のとおり、本願補正発明は、刊行物1記載発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成22年7月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年9月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
入力メッセージをDPSK符号化するDPSK符号器、
前記DPSK符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するパルス光源、および、
前記DPSK符号器および前記パルス光源に動作可能に接続したスペクトル符号器であって、前記光変調およびDPSK符号化した入力メッセージのスペクトル成分に対して、所定の光CDMAコードを使用してスペクトル位相符号化を実施して、符号化信号を生成するスペクトル符号器を備えることを特徴とする光CDMA送信機。」

(1)刊行物
刊行物2.特開平11-4196号公報
刊行物3.特開2003-60580号公報
刊行物4.特開2001-108861号公報(原査定の拒絶の理由に引用されたもの)

周知技術を示す刊行物2及び3の記載事項は、前記2.(2)(2-2)及び(2-3)に記載したとおりである。

(1-1)刊行物4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物4には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(サ)第0002段落から第0008段落
【0002】
【従来の技術】光信号伝送、光信号処理技術の発展に伴い、より低価格で、より高い伝送容量を確保するために、時間分割多重方式や波長分割多重方式を補完する多重方式として、CDM(Code Division Multiple:符号分割多重)方式を用いることが必要になってきている。
【0003】CDM方式は、多重化させたい信号を、空間軸または時間軸または周波数軸上の直交関数系もしくは疑似直交関数系中の各基底関数の係数にすることで符号化し、その後、合波することで多重化する方式である。分波には復号したい信号の基底関数との内積をとることで、係数である信号情報を取り出すことができる。
【0004】図1に周波数領域での符号分割多重方式を実現する従来の符号化・復号回路の一例を示す。図1において、1はアレイ導波路格子であり、導波路2、スラブ導波路3,5及びアレイ導波路4がシリコン基板6上に作製されてなっている。また、7はアレイ導波路格子1のスラブ導波路5の焦点面近傍に配置された空間位相フィルタである。
【0005】空間位相フィルタ7中の1つ1つの位相フィルタ要素の幅は高々アレイ導波路格子1の空間分解能程度であり、また、フィルタの深さ方向の分布は存在しない。その場合、スラブ導波路5の焦点面に空間的に展開された入射信号スペクトルは、空間位相フィルタ7によってそれぞれ独立に位相変化を与えられ、かつ単に垂直方向に反射され、アレイ導波路4に再結合することになる。
【0006】また、図2に従来の周波数領域での符号分割多重方式の符号化・復号過程を示す。
【0007】同図(a)に示す各々の時系列信号D1,D2,D3,D4は一旦、周波数スペクトルに展開され、スペクトル成分の位相を基底関数に従って符号化することで、同図(b)に示すように符号化信号C1,C2,C3,C4となる。符号化信号C1,C2,C3,C4は合波され、同図(c)に示すようにCDM多重化信号C1+C2+C3+C4となる。
【0008】前述したように復号したい信号の数だけスターカプラ等によってCDM多重化信号を同図(d)に示すように分波し、それぞれに復号したい信号の基底関数をかける(周波数領域の場合は符号化に用いたものと逆の周波数応答関数を持つ位相フィルタを作用させる)ことで、同図(e)に示すように取り出したい原信号を得ることができる。

(シ)第0010段落
【0010】本発明は上述の問題に鑑み、周波数領域での符号分割多重システムにおいて、しきい値素子を用いることなく原信号から符号化及び合波を一括で行うことで符号分割多重信号を作成し、また、符号分割多重信号から復号及び分波を一括で行うことで原信号を取り出すことができる光信号処理回路及びその方法を提供することを目的とする。

(ス)第0020段落
【0020】
【発明の実施の形態】図3は本発明の光信号処理回路の実施の形態の一例、ここでは周波数領域での符号分割多重方式を実現する光符号分割多重・光符号分割分離回路の一例を示すものである。図3において、10はアレイ導波路格子であり、導波路11、第1のスラブ導波路12、アレイ導波路13及び第2のスラブ導波路14がシリコン基板15上に作製されてなっている。また、20は反射型のホログラム基板である。

(セ)第0028段落から第0032段落
【0028】図4に図3の光回路でCDM多重化信号を分波する際の概念図を示す。図4におけるアレイ導波路13のうち、一つのアレイ導波路13から入射した、各々別の符号で符号化され多重された符号分割多重信号C1,C2,C3,C4は、各々フーリエ変換され、それぞれスペクトルがスラブ導波路14の焦点面近傍に配置されたホログラム基板20上に空間的に展開される。
【0029】ホログラム基板20にはフーリエ変換ホログラムが多重記録されており、それぞれの符号化信号C1,C2,C3,C4を原信号D1,D2,D3,D4に復号し、かつそれぞれ異なる角度に反射させるように構成されている。
【0030】それぞれの反射角度方向にアレイ導波路13を用意して、それぞれのアレイ導波路13に入射させるようにすることで、CDM多重化信号が空間的に分離可能となる。また、図5に示すように、図4における分波過程を逆に利用することで複数の信号を一括符号化し、かつ合波することも可能である。
【0031】図6に本発明の周波数領域での符号分割多重方式の符号化・復号過程を示す。
【0032】同図(a)に示す原信号D1,D2,D3,D4はそれぞれ符号化されると同時に合波され、同図(b)、(c)に示すようにCDM多重化信号C1+C2+C3+C4となる。復号・分波の際も、同図(d)、(e)に示すように信号毎に空間的に分離され、他の信号成分が混じることが無いので、従来のCDMの復号に見られたようなしきい値処理は必要ない。

(ソ)第0040段落
【0040】また、本実施の形態では、ホログラム基板としてホログラム媒体を用いたが、液晶やマイクロマシンを用いた空間位相変調器アレイ、空間強度変調器アレイを用いても同様の効果が得られる。

(タ)第0044段落から第0046段落
【0044】これらのCDM符号化・多重回路、CDM復号・分離回路を用いて10Gbit/s、RZ(Return-to-Zero)フォーマットの4多重CDM信号を一括符号化・合波し、光ファイバ中を伝送し、一括復号・分波する回路を構成し、伝送実験を行った。
【0045】図11は、CDM多重化信号伝送システムの実施の形態を示す回路構成図である。
【0046】図11において、61は10GHz繰り返しのモードロック光源、62はLiNbO3強度変調器であり、RZフォーマットの疑似ランダム信号を作成した。63は前述したアレイ導波路格子及びホログラム基板からなるCDM符号化・多重回路、64はブースター用エルビウムドープファイバアンプ(EDFA)、65はEDFA64の自然放出光(ASE)をカットする光バンドパスフィルタである。以上の61から65の回路が光CDM送信器となる。66は100kmの分散シフトファイバである。

(チ)図11では、モードロック光源61からの光が強度変調器62で変調され、強度変調器で変調された信号がCDM符号化・多重回路63でCDM符号化及び多重化がなされることが見てとれる。

以上の刊行物4の記載によれば、刊行物4には、次の発明(以下、「刊行物4記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「10GHz繰り返しのモードロック光源と、
RZフォーマットの疑似ランダム信号を作成するLiNbO3強度変調器と、
後述するアレイ導波路格子及びホログラム基板からなるCDM符号化・多重回路と、
ブースター用エルビウムドープファイバアンプ(EDFA)と、
EDFA64の自然放出光(ASE)をカットする光バンドパスフィルタと、
からなる光CDM送信器であって、
モードロック光源からの光が強度変調器で変調され、強度変調器で変調された信号がCDM符号化・多重回路でCDM符号化及び多重化がなされ、
前記CDM符号化・多重回路は、周波数領域での符号分割多重方式を実現する光符号分割多重・光符号分割分離回路である光信号処理回路であって、
一つのアレイ導波路13から入射した、各々別の符号で符号化され多重された符号分割多重信号C1,C2,C3,C4は、各々フーリエ変換され、それぞれスペクトルがスラブ導波路14の焦点面近傍に配置されたホログラム基板20上に空間的に展開され、
ホログラム基板20にはフーリエ変換ホログラムが多重記録されており、それぞれの符号化信号C1,C2,C3,C4を原信号D1,D2,D3,D4に復号し、かつそれぞれ異なる角度に反射させるように構成され、
それぞれの反射角度方向にアレイ導波路13を用意して、それぞれのアレイ導波路13に入射させるようにすることで、CDM多重化信号が空間的に分離可能となり、
また、上記分波過程を逆に利用することで複数の信号を一括符号化し、かつ合波することも可能であり、
原信号D1,D2,D3,D4はそれぞれ符号化されると同時に合波され、CDM多重化信号C1+C2+C3+C4となり、
前記CDM符号化・多重回路、CDM復号・分離回路を用いて10Gbit/s、RZ(Return-to-Zero)フォーマットの4多重CDM信号を一括符号化・合波し、光ファイバ中を伝送し、一括復号・分波する、光CDM送信機。」

(2)対比
本願発明と刊行物4記載発明とを以下で対比する。

本願発明と刊行物4記載発明とは、「光CDMA送信機」である点で一致する。
刊行物4記載発明の「モードロック光源」は、本願発明の「パルス光源」に相当する。

刊行物4記載発明の「強度変調器」は、モードロック光源からの光をRZフォーマットの疑似ランダム信号に変調するものであるから、本願発明と刊行物4記載発明とは、「入力メッセージを符号化する符号器」及び「前記符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するパルス光源」を備える点で一致する。

刊行物4記載発明は、「モードロック光源からの光が強度変調器で変調され、強度変調器で変調された信号がCDM符号化・多重回路でCDM符号化及び多重化がなされ」るものであり、かつ、刊行物4記載発明の「CDM符号化・多重回路」は、「周波数領域での符号分割多重方式を実現する光符号分割多重・光符号分割分離回路である光信号処理回路」である一方、本願発明の「スペクトル符号器」はCDMA符号化を行うものであるから、本願発明と刊行物4記載発明とは、「前記符号器および前記パルス光源に動作可能に接続したスペクトル符号器であって、前記光変調および符号化した入力メッセージのスペクトル成分に対して、スペクトル符号化を実施して、符号化信号を生成するスペクトル符号器を備える」点で一致する。

刊行物4記載発明の「CDM符号化・多重回路」である「光信号処理回路」は、「分波過程を逆に利用することで複数の信号を一括符号化し、かつ合波することも可能」なものであり、符号化と復号化とのどちらにでも用いることができるものである。
そして、該「光信号処理回路」の復号化において、「一つのアレイ導波路13から入射した、各々別の符号で符号化され多重された符号分割多重信号C1,C2,C3,C4は、各々フーリエ変換され、それぞれスペクトルがスラブ導波路14の焦点面近傍に配置されたホログラム基板20上に空間的に展開され、ホログラム基板20にはフーリエ変換ホログラムが多重記録されており、それぞれの符号化信号C1,C2,C3,C4を原信号D1,D2,D3,D4に復号し、かつそれぞれ異なる角度に反射させるように構成され」ているのであるから、符号化においては、原信号D1,D2,D3,D4毎に各々別の符号で符号化し多重することによって、CDM多重化信号C1+C2+C3+C4を生成するものである。
してみると、本願発明の「スペクトル符号器」と刊行物4記載発明の「CDM符号化・多重回路」とは、「所定の光CDMAコードを使用してスペクトル符号化を実施」する点で一致する。

すると、本願発明と刊行物4記載発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「入力メッセージを符号化する符号器、
前記符号化した入力メッセージにより変調されるキャリア信号を生成するパルス光源、および、
前記符号器および前記パルス光源に動作可能に接続したスペクトル符号器であって、前記光変調および符号化した入力メッセージのスペクトル成分に対して、所定の光CDMAコードを使用してスペクトル符号化を実施して、符号化信号を生成するスペクトル符号器を備えることを特徴とする光CDMA送信機。」である点。

〈相違点1〉
本願発明は「入力メッセージをDPSK符号化」しているのに対し、刊行物4記載発明はRZ符号化をしており、符号器による符号化の種類が異なっている点。

〈相違点2〉
本願発明の「スペクトル符号器」は、「DPSK符号器および前記パルス光源に動作可能に接続し」ているのに対し、刊行物4記載発明の「スペクトル符号器」は、「符号器および前記パルス光源に動作可能に接続し」ている点。

〈相違点3〉
本願発明では、スペクトル符号器において「スペクトル位相符号化」を行っているのに対し、刊行物4記載発明では、スペクトル符号化を行っているものの、スペクトル位相符号化を行っているかが明らかではない点。

(3)判断

(3-1)相違点1及び2について
光通信の技術分野において、DPSK符号を用いて変調すると、強度変調に比べて雑音特性が改善することは周知技術である(例えば、刊行物2及び3についての上記摘記事項(キ)から(コ)を参照)。
してみれば、刊行物4記載発明において、雑音特性を改善するために、強度変調に代えて、DPSK符号による変調を用いるようにし、後段のスペクトル位相符号器をDPSK符号器と動作可能に接続することは、当業者が容易になし得ることである。

(3-2)相違点3について
刊行物4記載発明の「スペクトル符号器」は、ホログラム基板を用いたものであり、ホログラム基板は、光の位相及び強度を再現するように記録されたものであるから、刊行物4記載発明の「スペクトル符号器」は、本質的に各スペクトルの位相を変調する「スペクトル位相符号器」となり得る。このことは、上記摘記事項(ソ)に「本実施の形態では、ホログラム基板としてホログラム媒体を用いたが、液晶やマイクロマシンを用いた空間位相変調器アレイ、空間強度変調器アレイを用いても同様の効果が得られる。」との記載があることからも、裏付けされる。
また、刊行物4記載発明は、「周波数領域での符号分割多重システムにおいて、しきい値素子を用いることなく原信号から符号化及び合波を一括で行うことで符号分割多重信号を作成し、また、符号分割多重信号から復号及び分波を一括で行うことで原信号を取り出すことができる光信号処理回路及びその方法を提供することを目的とする」ものであって(上記摘記事項(シ)を参照)、元となる従来技術は、空間位相フィルタを用い、「焦点面に空間的に展開された入射信号スペクトルは、空間位相フィルタ7によってそれぞれ独立に位相変化を与えられ」るように構成されたものであるから、この従来技術を改良した刊行物4記載発明において、入射信号スペクトルにそれぞれ独立に位相変化を与えるようなスペクトル位相符号化を行うようにすることは、容易になし得る。
してみれば、相違点3は、実質的な相違点ではないか、又は、当業者が容易になし得る程度の事項に過ぎない。

(3-3)効果について
また、本願発明の構成によって生じる効果も、上記刊行物4記載発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のもので格別顕著であるとはいえない。

(3-4)
上記(3-1)から(3-3)のとおり、本願発明は、刊行物4記載発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物4記載発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-04 
結審通知日 2011-10-07 
審決日 2011-10-18 
出願番号 特願2007-553347(P2007-553347)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 直哉  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 近藤 聡
丸山 高政
発明の名称 差動符号化およびバイポーラ差動検出を有する波長多重光CDMA  
復代理人 久下 範子  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 濱中 淳宏  

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