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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1253179
審判番号 不服2009-24768  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-15 
確定日 2012-03-08 
事件の表示 特願2008-518203「生ディジタル画像および前処理済ディジタル画像の処理」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月 4日国際公開、WO2007/001773、平成20年12月 4日国内公表、特表2008-544696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成18年6月7日の国際出願(優先権主張 平成17年6月20日、米国)であって、平成21年4月10日付け拒絶理由通知に記載した理由1により平成21年8月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成21年12月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付で手続補正書が提出されたものであって、当審において平成23年5月20日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年8月23日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.当審における拒絶理由通知

当審において平成23年5月20日付けで通知した拒絶理由通知書における理由は以下のとおりである。

「 理 由
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。



主として、以下に示す各事項が不明であり、もって、本願で各請求項に記載されているものが、どのような技術手段でどのように所期の目的を達成することが可能となるのか不明であり、発明を正しく把握することができない。
本願明細書には、用語の定義にもよるが、用語を通常の意味と捉えることにより、技術常識に反する内容が記載されており、発明の内容が著しく不明である。

(1)本願の発明の課題は、段落0010の冒頭に「生画像および前処理済画像双方の画像編集を統一する方法があれば」と記載されていることから明らかなように、両者を統一した空間で合成しようとすることにある。
そして、統一した空間とは線形データの空間であり、(これ自体の意味は不明であり後述する)、線形データとは生ディジタルデータのことであることを合わせ鑑みれば、本願発明は前処理済画像を生画像に変換した上で合成することに特徴があるものと推察される。
なお、本願明細書における「生」とは、国際出願の明細書原文を対応するに、「Raw」であって、生データとは、撮像センサによって検出されるそのままのデータであるRawデータであり、生画像とはRawデータによて表現されるRaw画像であるという、この分野における通常の意味であると判断される。
そのような理解の上で、以下、細分の疑問点を指摘するが、理解に誤りがあるのであれば、本件明細書に記載されている内容について、個々の用語の定義をした上で改めて説明されたい。ただし、用語をこの技術分野における通常とは異なる意味に用いるのであれば、そのような意味が妥当である根拠を示されたい。

(2)「前処理済み」における「処理」と、「既処理」における「処理」の具体的処理内容が不明である。
明細書には直接的には記載されていなが、形成21年7月14日提出の意見書の(3-2)では、生ディジタルデータをセンサ・プロファイルにより変換することが「前処理」としての「処理」であって、この前処理済みデータを出力プロファイルを用いて変換することが「既処理」としての「処理」とされている。
しかしながら、ここで「センサ・プロファイル」も「出力プロファイル」もどのようなプロファイルであるかは明確ではない。
「センサ・プロファイル」、「出力プロファイル」には、カメラ等撮像機器に依存する特性を補正するプロファイル、あるいはCRT等画像生成装置に依存する特性を補正するためのプロファイルという通常の意味があるが、本願明細書全体の記載からみて、そのような通常の意味ではないと解される。
「前処理済み」における「処理」、「既処理」における「処理」、「センサ・プロファイル」、「出力プロファイル」の夫々の意味を明確に定義されたい。

なお、本件の審査過程において、度重なる補正書が提出され、「前処理済み」として記載されている箇所が、少しずつ「既処理」に補正されているが、上記意見書で主張しているように「前処理済み」と「既処理」が異なる意味であるならば、本願の特許請求の範囲の内容は補正の都度、その内容が変わっていることになる。
何が出願当初の明細書に記載されている構成を表す正しい発明であるのか、請求項の記載の各構成が、明細書のどこの記載に基づくものであるかを根拠を示した上で、発明の構成を明確にされたい。

(3)「未修整または最小限の修正を施したセンサ・データであり、線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータのことであるのか、その意味が不明である。

「線形性」を有するとは、変換 f(x)が次の2つの性質を満たすことである。
A:加法性: 任意の x, y に対して f(x + y) = f(x) + f(y)
B:斉次性(作用との可換性): 任意の x, α に対して f(αx) = αf(x)

生デジタルデータ自体は、単なるデータであって、変換が存在しないから、そもそも「線形性」を定義することはできない。
したがって、「線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータであるのか著しく不明である。

審判請求人(出願人)は平成21年7月14日付け提出の意見書において、次の主張をしている。
「生ディジタル画像データ」は、段落〔0004〕において定義されている「生画像データ」と同等のものであり、また、段落〔0014〕の記載も、先行する前記段落〔0004〕の記載を参酌すれば理解し得るものである。さらに、段落〔0003〕には「・・・生のセンサ・データが線形色空間にあること、即ち、ディジタル化した色値と画像において知覚される色との間には線形な相関が存在することであった。線形色空間には、色と露出との相関が簡単に応用でき、色空間全域を通じて精度が高いという利点がある。」等記載されており、この記載等も参酌すれば、「線形性」の意味するところは明らかなものと思料する。
なお、「未修正・・・のセンサ・データ」が何故「線形性」を有するのかという指摘もなされているが、「生ディジタル画像データ」が、上記の意味で「線形性」を有するものであることは、段落〔0003〕等に記載されるように従来から良く知られている事項であり、この点も明らかなものと思料する。」

しかしながら、段落〔0003〕に記載の「・・・生のセンサ・データが線形色空間にあること」とは意味が不明であり、また、このことと「ディジタル化した色値と画像において知覚される色との間には線形な相関が存在する」ことが等価ともいえない。
また、仮に、「ディジタル化した色値と画像において知覚される色との間には線形な相関が存在する」としても、この線形は「ディジタル化した色値」と「画像において知覚される色」の関係(変換)に線形性があるということであって、本願請求項1における「生ディジタル画像データ」に線形性があることの意味を明らかにすることにはならない。

また、更に、仮に「線形性を有する生ディジタル画像データ」が“ディジタル化した色値と画像において知覚される色との間には線形な相関が存在するセンサーを用いて撮影された生ディジタル画像データ”であるとしても、センサーによりディジタル化した(された)色値の意味は理解できるものの、センサーにおける“画像において知覚される色”とは何を意味するのであるか不明である。

いかなる解釈を検討しても、「線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータであるのかを把握することはできない。

その上で、「最小限の修正」や「既処理(あるいは前処理)」における「処理」が、そもそも何を指しているのか不明であるとともに、該「最小限の修正」や「処理」と「線形性」とが、どのような関係にあるかも不明である。

したがって、「線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータであるのかを全く把握することができない。

なお、「未修整または最小限の修正を施したセンサ・データ」における「修整」と「修正」は類似する用語であるが、両者の違いが不明である。「未修整」における「未」はその後「修整」が予定されることを示唆するが、どの時点で実行される、どのような処理を「修整」というのか、発明内容を説明する上で必要であれば見解を述べられたい。
(「未修整」が未来においても何ら修整しないということであれば、この「修整」は発明内容とは無関係な事項であるから、特に定義する必要はなく、その旨のみを主張されたい。)

(4)「前記受け取った追加のディジタル画像データが線形性を有するディジタル画像データか否か判定を行う」とはどういうことか不明である。

前項で指摘したとことと同様に、「画像データが線形性を有する」、すなわち線形性を有する画像データというものがどういうものであるか不明である。
そして、仮にその点が明確になったとして、受け取った追加のデータ自体から、どのようにして線形性を有するか否かをどのような手法で判断できるのか不明である。

(5)本願発明が、前処理済みの画像を生画像に復元変換して生データの空間における画像データに戻すものであるという点について、概念として一応の理解はできるが、段落0028にも記載されているように、通常、生画像(Raw画像)は単色センサの出力データであって、イメージ・センサ内の隣り合った画素からの情報を使用し、デモザイク処理等の推定プロセスを用いて画素毎のデータにするための処理を行う。これがいわゆる前処理であるが、この処理は非可逆変換である。
本願発明が、前処理済みのデータを生データにするものであるならば、非可逆変換されたものは元のデータに戻すことはできないから、本願発明内容は技術常識に明らかに矛盾する。
発明の本質が不明である。

(6)「前記線形ディジタル画像データに1つ又は2つ以上の修正を加え、線形性を有する修正線形ディジタル画像データを生成するステップ」とあるが、ここでの「修正」とは何を意味するのか不明である。
また、当該記載における「修正」は「未修整または最小限の修正を施したセンサ・データであり、線形性を有する生ディジタル画像データ」における「修正」とどのように関連するのか不明である。
更に、請求項5、9においては、更に異なる「修正」を行っているが、この「修正」とは何の修正であるか不明である。

(7)「前記受け取った追加のディジタル画像データが線形性を有するディジタル画像データでないと判定した場合、前記受け取った追加のディジタル画像データを線形性を有するディジタル画像データに変換し、線形性を有する追加線形ディジタル画像データを作成するステップ」とはどういう変換をすることを意味するか不明である。
受け取ったデータが「線形性を有する」(前述のようにこれ自体も意味不明である)のであれば、何ら変換する必要はないものと思慮するが、何のためにどのような変換をするのであるのか。

(8)「前記合成線形ディジタル画像データに、前記センサ・プロファイルおよび出力プロファイルを適用し、出力対応のディジタル画像データを作成するステップ」とあるが、このステップがどのような意味をもつものであるか不明である。
該ステップにおいて、なぜ、「センサ・プロファイル」と「出力プロファイル」を共に適用することになるのか。双方を共に使用することにはどういう意味があるのか。
「出力対応のディジタル画像データを作成する」するために、合成線形ディジタル画像データに、何故「センサ・プロファイル」も適用するのであろうか。
請求項6、8、10の内容について同様。

(9)「作業プロファイル」「作業プロファイルを適用する」とは何を意味するか不明である。(請求項3、7)

(10)「前記生ディジタル画像データに1つ又は2つ以上の修正を加え、線形性を有する修正線形ディジタル画像データを作成するステップ」とあるが(請求項5)、ここでの「修正」とは何を意味するのか不明である。

(11)「合成」とはどういうことか明確でない。
生画像には画素という概念は存在しない。生画像は前処理(デモザイク処理等)がされて初めて画素という概念を生じるものである。
画素というものが存在すれば対応する画素同士の合成という意味は理解できるが、画素とうい概念の存在しない生画像データを「合成」したデータはどういうデータであるのか。 例えば、各色センサ素子の配列が異なり、センサ素子の総数も異なる別個のセンサで撮像された(入力された)データを合成するとは、どういう処理により値を合成することであるのか著しく不明である。

(12)段落【0043】【0044】には、「以下の3つの想定場面が合成に可能となる。」とした上で、
「最初に、同じセンサからの画像を組み合わせる場合、画像を単に線形に組み合わせ、パイプラインの終点においてセンサ・プロファイルを用いて、目標のデバイスまたは作業空間にマッピングする(または、手つかずのまま残して生画像として保存する)。」
「第2に、異なるセンサからの画像を組み合わせる場合、配合ステップを含むステップまでのいずれかの時点においても、一方または双方の画像を、マトリクス・マッピングによって、共通線形色空間に変換することができる。」
「第3の可能な合成の想定場面では、画像をsRGBまたはAdobeRGBのようなデバイス特性プロファイルと組み合わせることを伴う。これらの画像は、ミキシングの前にパイプラインの線形作業空間に変換することができる。」
との3通りの対応が記載されているが、同じセンサからの画像を組み合わせる場合を除き、各請求項に記載されている内容と、この第2、第3の想定場面との対応が不明である。
また、この第2、第3の想定場合について、当該記載では、それぞれの合成(の想定場面)において、具体的にどのような合成がされるのか不明である。なぜ所望の合成が可能となるのか。

(13)特許請求の範囲の記載の構成と、実施例を示す図2、及び特に段落【0027】に記載されている説明との対応が明確でない。

(14)特に、段落【0027】及び図2の記載によれば、本願発明は、まず、センサ24が写真画像データを受け取るものであるが、「センサ」が「写真画像データ」を受け取るとはどういうことであるのか明確でない。
通常、センサは撮像素子(ユニット、機器)を意味するものであり、データを受け取るものではない。
本願における「センサ」、「写真画像データ」が通常の意味と異なるものを指すのであれば、その定義を明確にするとともに、その根拠を示されたい。

(15)また、同説明おいて、センサで受け取ったデータが「前処理済み」であれば、センサ・デモザイク処理216以降、ブロック226までの処理がされ、前処理済みでない「生画像データ」である場合には、ブロック216?226の各々が省かれるとされている。
これは通常の技術常識に反するものである。
通常は、カメラ内部処理として、撮影した生画像データにデモザイク等の処理を行って画像データとされる。
一連の動作が何を意味しているのか著しく不明である。 」

3.平成23年8月23日付けの手続補正

当該拒絶理由通知に対して、平成23年8月23日付け手続補正書により特許請求の範囲の記載は以下のとおり補正された。
発明の詳細な説明についての補正はされていない。

【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
未修正または最小限の修正を施したセンサ・データであり、線形性を有する生ディジタル画像データ、および、前処理済ディジタル画像データの少なくとも1つを処理する方法であって、前記方法は、
ディジタル画像データを受け取るステップと、
前記受け取ったディジタル画像データが生ディジタル画像データかまたは前処理済ディジタル画像データか判定を行うステップと、
センサ・プロファイルを受け取るステップと、
を備えており、前記受け取ったディジタル画像データが前処理済ディジタル画像データであると判定した場合、前記方法は、更に、
前記前処理済ディジタル画像データに、前記センサ・プロファイルを適用し、線形性を有する線形ディジタル画像データを作成するステップと、
追加のディジタル画像データを受け取るステップと、
前記受け取った追加のディジタル画像データが線形性を有するディジタル画像データか否か判定を行うステップと、
前記受け取った追加のディジタル画像データが線形性を有するディジタル画像データでない場合、前記受け取った追加のディジタル画像データを線形性を有するディジタル画像データに変換し、線形性を有する追加線形ディジタル画像データを作成するステップと、
前記追加線形ディジタル画像データを、前記線形ディジタル画像データの少なくとも1つと線形に組合せて合成し、線形性を有する合成線形ディジタル画像データを作成するステップと、
前記合成線形ディジタル画像データに、前記センサ・プロファイルおよび出力プロファイルを適用し、出力対応のディジタル画像データを作成するステップと、
を備えている、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記合成線形ディジタル画像データに前記センサ・プロファイルおよび出力プロファイルを適用するステップは、前記合成線形ディジタル画像データに前記センサ・プロファイルおよびディスプレイ・デバイス・プロファイルを適用するステップから成り、前記方法は、更に、前記出力対応ディジタル画像をディスプレイ・デバイスに出力するステップを備えている、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記合成線形ディジタル画像データに前記センサ・プロファイルおよび出力プロファイルを適用するステップは、前記合成線形ディジタル画像データに前記センサ・プロファイルおよび印刷デバイス・プロファイルを適用するステップから成り、前記方法は、更に、前記出力対応ディジタル画像データを印刷デバイスに出力するステップを備えている、方法。

4.当審の判断

平成23年5月20日付け拒絶理由通知に記載された理由による拒絶査定が解消しているか、すなわち、当該補正された特許請求の範囲、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第6項、第4項の規定を満たしているか否かについて検討する。

以下、いくつかの指摘事項について指摘した点について順次検討する。
なお、項番は拒絶理由における項番を踏襲する。したがって、検討を省く指摘事項については項番は欠番となっている。

(2)“「前処理済み」における「処理」と、「既処理」における「処理」の具体的処理内容が不明である。
明細書には直接的には記載されていなが、平成21年7月14日提出の意見書の(3-2)では、生ディジタルデータをセンサ・プロファイルにより変換することが「前処理」としての「処理」であって、この前処理済みデータを出力プロファイルを用いて変換することが「既処理」としての「処理」とされている。
しかしながら、ここで「センサ・プロファイル」も「出力プロファイル」もどのようなプロファイルであるかは明確ではない。
「センサ・プロファイル」、「出力プロファイル」には、カメラ等撮像機器に依存する特性を補正するプロファイル、あるいはCRT等画像生成装置に依存する特性を補正するためのプロファイルという通常の意味があるが、本願明細書全体の記載からみて、そのような通常の意味ではないと解される。
「前処理済み」における「処理」、「既処理」における「処理」、「センサ・プロファイル」、「出力プロファイル」の夫々の意味を明確に定義されたい。 ”
という点について検討する。

特許請求の範囲については、請求項1において「既処理ディジタル画像データ」に係る記載を削除する等の補正を行い、「既処理」と「前処理済」の関係についての記載不備は解消し、「出力プロファイル」が通常の意味であることは明確化されたものの、「センサ・プロファイル」、「前処理済ディジタル画像データ」を定義する明確な補正はされていない。
そして、平成23年8月23日付け意見書においては、次の説明がされている。

「 カメラセンサから出力された(殆ど)未加工の画像データ(生画像データ)にカメラ毎の画質パラメータ等による処理を施して得られたものが「前処理済」データであり、謂わば「ネガ」に相当するものである(段落〔0060〕等参照)。また、この「前処理済」データに対し、例えば、プリントアウトに必要な処理を施して得られたものが「既処理」データである。
そして、「センサ・プロファイル」、「出力プロファイル」、「前処理済ディジタル画像データ」、「既処理ディジタル画像データ」の関係については、以下のとおりである。
センサ・プロファイルは、上記カメラ毎の画質パラメータによる処理に相当するものである。因みに、各センサの出力値は各画素(ピクセル)の画素(ピクセル)値(色空間におけるRGB値等)に対応するものであり、上記処理は、各センサの出力値に対するある種の変換に相当するものといえるから、結局、センサ・プロファイルは、「生ディジタル画像データ」の画素(ピクセル)値の空間(線形色空間)から「前処理済ディジタル画像データ」の画素値の空間(線形空間とは限らない色空間)への写像(マッピング)を意味するものである。(段落〔0011〕等参照)。
他方、出力プロファイルは、上記プリントアウトに必要な処理に相当するものであり、「前処理済ディジタル画像データ」の画素値の空間から「既処理ディジタル画像データ」(プリンタ等への出力画像データ)の画素値の空間へのマッピングを意味するものである。(段落〔0030〕?〔0032〕等参照)。」

そうすると、「出力プロファイル」「既処理」については理解でき、また、

(ア)「前処理済」における処理とは、「カメラセンサから出力された(殆ど)未加工の画像データ(生画像データ)にカメラ毎の画質パラメータ等による処理」のことである。
(イ)「センサ・プロファイル」は、上記カメラ毎の画質パラメータによる処理に相当するものである。

ということは通常の意味での「センサプロファイル」による処理として理解できるものの、

(ウ)因みに、各センサの出力値は各画素(ピクセル)の画素(ピクセル)値(色空間におけるRGB値等)に対応するものであり、上記処理は、各センサの出力値に対するある種の変換に相当するものといえるから、結局、センサ・プロファイルは、「生ディジタル画像データ」の画素(ピクセル)値の空間(線形色空間)から「前処理済ディジタル画像データ」の画素値の空間(線形空間とは限らない色空間)への写像(マッピング)を意味する。

ということには疑義がある。

「センサ・プロファイル」が、上記カメラ毎の画質パラメータによる処理に相当するものではあるが、「各センサの出力値は各画素(ピクセル)の画素(ピクセル)値(色空間におけるRGB値等)に対応するもの」ということは技術常識と乖離する。
通常、センサは各色毎に設けられるものであって、センサ出力は各画素(ピクセル)の画素(ピクセル)値ではない。本願の発明の詳細な説明の段落【0028】にも記載されているように、センサ自体は単色センサであって、1画素1センサ素子で画素(ピクセル)値(色空間におけるRGB値等)を出力するものではない。
画素位置における画素(ピクセル)値は、各色(通常は3色)のセンサ素子の出力を処理することによりが生成(演算)されるのである。
そして、生画像データ(RAW画像データ)とは、センサ素子の出力データであって、JPEG画像データのような画素(ピクセル)値ではないことは技術常識である。

更に、仮に「センサ・プロファイル」が、上記カメラ毎の画質パラメータによる処理に相当するものであり、各センサの出力値は各画素(ピクセル)の画素(ピクセル)値(色空間におけるRGB値等)に対応するもの」であるとしても、このことと、「センサ・プロファイル」が、「生ディジタル画像データ」の画素(ピクセル)値の空間(線形色空間)から「前処理済ディジタル画像データ」の画素値の空間(線形空間とは限らない色空間)への写像(マッピング)を意味することは等価ではない。
「センサプロファイル」を適用する前のデータも、適用後のデータも「線形」であるか「非線形」とは特定できない。次項で論ずるように、「線形性」はデータ自身の有する特徴ではない。
何をもって「結局」と結論が導かれるのか、すなわち「センサ・プロファイル」による変換が、何故に「生ディジタル画像データ」の画素(ピクセル)値の空間(線形色空間)から「前処理済ディジタル画像データ」の画素値の空間(線形空間とは限らない色空間)への写像ということになるのか不明である。

意見書において説明の根拠とする発明の詳細な説明の段落【0011】には、
「「センサ・プロファイル」を利用することを含む。これは、処理パイプラインの終点において画像データを生状態から既処理状態に(またはその逆に)修正し、更に1つ以上の出力プロファイルによって、データを目標の出力ファイルおよび/またはデバイスにマッピングする。更に、種々の実施形態は、センサ・プロファイルを利用した、合成画像のような、追加の画像データのマッピングによって、生(線形)画像色空間と一致させることもできる。前処理済ディジタル画像データを処理するとき、本実施形態は、更に、センサ・プロファイルを用いて、入力(既処理画像)を線形生空間にマッピングすることも含むことができる。」
と記載されている。

ここには、「「センサ・プロファイル」を利用することを含む。」、「センサ・プロファイルを利用した、合成画像のような、追加の画像データのマッピングによって、生(線形)画像色空間と一致させることもできる。」あるいは「センサ・プロファイルを用いて、入力(既処理画像)を線形生空間にマッピングすることも含むことができる。」とは記載されているものの、「センサ・プロファイル」の特別な定義はされておらず、通常の技術用語である「センサ・プロファイル」が「入力(既処理画像)」が「線形生空間」という空間にマッピングすること」に用いられるということのみが理解できるのであって、「既処理」の各処理内容と「センサ・プロファイル」との関係が明らかであるとはいえない。

結局、「センサ・プロファイル」と「線形性を有する線形ディジタル画像を作成すること」(すなわち、「前処理」)は明確に定義されない。

したがって、拒絶理由で指摘した指摘事項(2)については、その理由が解消されていない。

(3)“「未修整または最小限の修正を施したセンサ・データであり、線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータのことであるのか、その意味が不明である。
「線形性」を有するとは、変換 f(x)が次の2つの性質を満たすことである。
A:加法性: 任意の x, y に対して f(x + y) = f(x) + f(y)
B:斉次性(作用との可換性):
任意の x, α に対して f(αx) = αf(x)

生デジタルデータ自体は、単なるデータであって、変換が存在しないから、そもそも「線形性」を定義することはできない。
したがって、「線形性を有する生ディジタル画像データ」とはどういうデータであるのか著しく不明である。 ”」
という点について検討する。

意見書においては次のように説明されている。
「「生ディジタル画像データ」とは、カメラセンサから出力された未加工の、又は、殆ど未加工のセンサ・データを意味するものである。「生デジタルデータ」は、ご指摘のような「単なるデータ」ではなく、画素値に相応するものであって、各画素の画素値の空間が線形性を有するものである(段落〔0004〕等参照)。
なお、線形性とは、ある画素値の空間Sに属する任意の元(画素値)x、yに対し、x+y、αx(αは任意の実数)が定義されて空間Sに属することを意味するものである。 したがって、拒絶理由で示されたような(空間S上で定義された)マッピング(変換)の線形性を持ちだす必要はないものである。
因みに、このような「線形」という特性から、画素値xとyの内分点(の画素値)も上記空間Sに属することになり、所謂合成画像の画像データの線形性も保証されるものである。 」

しかしながら、線形性とは、ある画素値の空間Sに属する任意の元(画素値)x、yに対し、x+y、αx(αは任意の実数)が定義されて空間Sに属することを意味しない。
属するか属しないかは、空間領域の範囲の問題であり、線形性とは無関係である。
x+y、αx(αは任意の実数)が非線形であるとしても空間Sに属していることもあり、x+y、αx(αは任意の実数)が線形であるとしても空間Sに属さないこともある。
この点において、意見書の主張には疑義がある。

さらに、本願明細書固有のものとして、属するか属さないかを「線形」「非線形」の定義であることとしても、空間Sに属するか否かは、空間領域の問題であって、データが空間Sに属するか否かということについて、明細書にはそのような問題は一切記載されておらず、そのような意見は失当である。

「線形性」を有するとは、拒絶理由において示したように、変換 f(x)が次の2つの性質を満たすことである。
A:加法性: 任意の x, y に対して f(x + y) = f(x) + f(y)
B:斉次性(作用との可換性):
任意の x, α に対して f(αx) = αf(x)

したがって、拒絶理由で指摘した指摘事項(3)についても、その理由が解消されていない。

(4)“「前記受け取った追加のディジタル画像データが線形性を有するディジタル画像データか否か判定を行う」とはどういうことか不明である。”
について検討する。

前項で論じたように、ディジタル画像データが線形性を有することの意味が不明であるから、線形性を有するディジタル画像データか否か判定を行うことを理解することができない。

したがって、拒絶理由で指摘した指摘事項(4)についても、その理由が解消されていない。

(5)“本願発明が、前処理済みの画像を生画像に復元変換して生データの空間における画像データに戻すものであるという点について、概念として一応の理解はできるが、段落0028にも記載されているように、通常、生画像(Raw画像)は単色センサの出力データであって、イメージ・センサ内の隣り合った画素からの情報を使用し、デモザイク処理等の推定プロセスを用いて画素毎のデータにするための処理を行う。これがいわゆる前処理であるが、この処理は非可逆変換である。
本願発明が、前処理済みのデータを生データにするものであるならば、非可逆変換されたものは元のデータに戻すことはできないから、本願発明内容は技術常識に明らかに矛盾する。
発明の本質が不明である。 ”
について検討する。

意見書においては次のように説明されている。
「 例えば、JPEGフォーマットは通常非可逆圧縮であり、審判長殿ご指摘のように、そのままの形では復元変換ができない。したがって、その場合には、画素情報の補間等を行った上で逆変換を行う必要があるが、本願発明においてもそのような形で逆変換を行っているものである。
なお、前処理済ディジタル画像データにセンサ・プロファイルを適用して線形ディジタル画像データを作成する点の「センサ・プロファイルの適用」は、上記の逆変換を意味するものである。」

しかしながら、意見書の主張は

通常の意味における「センサ・プロファイル」「センサ・プロファイルの適用」はそのような意味ではなく、また、本願明細書において、「センサ・プロファイルの適用」がJPEGフォーマットへの非可逆圧縮、また、その逆変換を補間を行うことにより実行することは明細書に記載された内容に基づくものではない。

してみれば、非可逆圧縮を伴う実施態様を含む特許請求の範囲に記載された内容は、発明の詳細な説明に記載されているものではなく、特許法第36条第6項第1号に違反するものである。

したがって、拒絶理由で指摘した事項(2)?(5)の点において、特許請求の範囲の記載は明りょうではなく、また発明の詳細な説明に記載されたものではない。
平成23年8月23日付けで提出された意見書を参酌しても、依然として、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号、同第6項第1号の規定を満たすものではない。

よって、本件出願は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定を満たしていないものとして、特許法第49条の規定により拒絶すべきものである。

5.むすび

以上のとおり、平成23年8月23日付けで提出された手続補正書、意見書によって、平成23年5月20日付け拒絶理由を解消することはできず、本件特許出願は当該拒絶理由通知に記載された理由により拒絶をすべきものである。

よって、原査定を取り消す、この出願の発明は特許すべきものであるとする審判請求の趣旨は認められないから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-12 
結審通知日 2011-10-13 
審決日 2011-10-27 
出願番号 特願2008-518203(P2008-518203)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H04N)
P 1 8・ 537- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊田 好一  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 古川 哲也
千葉 輝久
発明の名称 生ディジタル画像および前処理済ディジタル画像の処理  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 上田 忠  

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