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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1253196
審判番号 不服2010-20722  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-15 
確定日 2012-03-08 
事件の表示 特願2007-329362「画像処理装置および複写機の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日出願公開、特開2009-152902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成19年12月20日の出願であって、平成21年10月27日付け拒絶理由に対して平成21年12月28日付けで意見書および手続補正書が提出されたが、平成22年6月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成22年9月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成23年10月14日付けで審判合議体が通知した拒絶理由に対し、平成23年12月12日付けで手続補正書および意見書が提出されている。

2.本願発明の認定

本願の請求項に係る発明は、平成23年12月12日付け手続補正書によりにより補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載した事項により特定されるところ、請求項8に記載の発明は次のとおりである。
以下、当該請求項8に係る発明を本願発明として審理する。
(なお、請求項1については別途検討する。)

【請求項8】
潜像を含む地紋を有した原稿を読み取って複写を行うことが可能な複写機の制御方法であって、
前記原稿を読み取り部によって読み取って画像データを得るステップと、
ユーザからの入力に基づいて前記原稿についての正規のユーザであるか否かを認証するステップと、
前記原稿についての正規のユーザであると認証された場合に、前記潜像を含む前記地紋を再現し、かつ、前記潜像が顕在化しないように、前記画像データを補正するステップと、
補正された前記画像データを印刷するステップと、
を有することを特徴とする複写機の制御方法。

3.平成23年10月14日付け拒絶理由

審判合議体が、平成23年10月14日付けで通知した拒絶理由の内、[理由1]は次のとおりである。

「 [理由1]
本件出願の全請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.特開2006-303870号公報(新たに提示)

本願各請求項には次項[理由2]において指摘する記載不備が存在するが、当該刊行物には、本願全請求項に記載されている構成とほぼ同様の発明が記載されている。
( 後略 ) 」

4.拒絶理由における引用刊行物に記載の発明

拒絶理由に引用した刊行物6(特開2006-303870号公報)には、以下の(ア)から(ク)の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【要約】
【課題】 適正なユーザには、付加画像の浮き上がりが発生していない原本の複製が作成できるようにする。
【解決手段】 画像形成において、複製されると顕像化する付加画像と原本画像とを含む原稿を読み取って原稿画像データを出力し、前記原稿画像データから、前記原本画像に相当する原本画像データを抽出して出力画像データを生成し、生成された前記出力画像データに基づいて印刷を行う。好ましくは、出力画像の生成において、抽出された前記原本画像データに、印刷後は付加画像となる付加データを付加して前記出力画像データを生成する。 」

(イ)「【請求項10】
複製されると顕像化する付加画像と原本画像とを含む原稿を読み取って原稿画像データを出力し、
前記原稿画像データから、前記原本画像に相当する原本画像データを抽出して出力画像データを生成し、
生成された前記出力画像データに基づいて印刷を行う
画像形成方法。
【請求項11】
前記出力画像の生成において、抽出された前記原本画像データに、印刷後は付加画像となる付加データを付加して前記出力画像データを生成することを特徴とする請求項10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記出力画像データの生成において、付加画像に関する情報に基づいて、前記原稿画像データから付加画像に相当する付加画像データを削除して、前記原本画像データを抽出することを特徴とする請求項10または11に記載の画像形成方法。
【請求項13】
前記出力画像データの生成において、前記原稿画像データから前記付加画像データを削除した箇所は、その周囲から補間を行い、前記出力画像データを生成することを特徴とする請求項12に記載の画像形成方法。 」

(ウ)「【請求項14】
さらに、ユーザ認証を行い、前記ユーザ認証により認証されなかった場合、前記出力画像の生成を禁止し、前記原稿画像データに基づいて印刷を行うことを特徴とする請求項10または11に記載の画像形成方法。 」

(エ)「【背景技術】
【0002】
近年、電子写真技術を利用した複写機が普及し、これを利用して誰でも簡単に紙などに印刷された文字や画像を複写できるようになった。特に、最近のカラーデジタル複写機、MFPなどでは画像処理技術や画像形成技術が飛躍的に向上していて、原本との見分け方がきわめて困難な複写物でさえも容易に作成できるようになった。したがって、不正複写を防止することが重要な課題となっている。
【0003】
複製が禁止された印刷物などの不正複写や社外などへの漏洩を防止する技術として、付加画像すなわち目視では認識できないまたは認識しにくい付加画像を埋め込んでいるものがある。この付加画像は、心理的に不正複製を抑止する効果をねらっているものであり、画像形成装置で文書を複製するときに顕像化して、明らかに浮き出てくるように作成されている(たとえば特開2001-197297号公報、特開2004-201068号公報、特開2004-228897号公報)。たとえば、「コピー禁止」等の文字を付加画像として原本の画像に埋め込んでいると、そのような付加画像を含む原本を複製するとき、原本と同等の複製物は作成されず、得られた複製物を見ると、画像に埋め込まれていた付加画像すなわち「コピー禁止」等の文字が顕像化されている。したがって、その複製物を見ると、原本に含まれていない「コピー禁止」等の文字が現れているので、原本でないことが明かになる。
【0004】
目視で認識できる情報が原稿に付加される例が、たとえば特開2004-153563号公報に記載されている。原稿画像は様々な原因によって汚れや黄ばみ等の劣化が見られるようになる。また、元々パソコン上で作成したカラー原稿を高速の白黒複写機で多数部印刷して配布した場合に、その原稿のオリジナルの画像が必要となる場合も想定される。そこで、特開2004-153563号公報に記載された複写機では、原稿印刷時に、そのオリジナル原稿情報(オリジナル原稿の保存先を示すバーコード、URLなど)を印刷画像に付加しておく。これにより、印刷画像を原稿台に載せてスキャンさせると自動的にオリジナル画像を取り出せる。また、原稿を読み取ったときオリジナル原稿情報が識別されると、その部分を黒塗りする。これにより、オリジナル原稿の保存先の情報が必要以上に露出されるのを回避して、オリジナル原稿に関するセキュリティを向上する。なお、この技術は不正複写の防止に関するものではない。
【特許文献1】特開2001-197297号公報
【特許文献2】特開2004-201068号公報
【特許文献3】特開2004-228897号公報
【特許文献4】特開2004-153568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のコピー抑止効果を生じるための付加画像が付加されている原本を画像形成装置で複製するとき、一般ユーザのみならず、たとえばその原本の作成者が複製する場合であっても、付加画像が顕像化される。したがって、本来複製が許されるべき原本作成者であるにもかかわらず、原本でないことが明らかな画像が印刷されることになり、原稿と同一の
複製(付加画像が顕像化されていない状態)または原本と同一の複製(付加画像がない状態)を作成できない。しかし、原稿作成者などの適正なユーザであれば、原稿と同一または原本と同一の複製を作成できることが望ましい。このような原稿と同一または原本と同一の複製を作成するような事態が生じるのは急な場合が多く、特開2004-153568号公報の場合のようにネットワークに繋がっていることを前提としたようなものでは、対応できない。
【0006】
本発明の目的は、画像形成の際に顕像化される付加画像を含む文書を複製するとき、適正なユーザが原稿と同一の複製(付加画像が顕像化されていない状態)または原本と同一の複製(付加画像がない状態)を作成できるようにすることである。 」

(オ)「【0013】
本発明に係る画像形成方法では、複製されると顕像化する付加画像と原本画像とを含む原稿を読み取って原稿画像データを出力し、前記原稿画像データから、前記原本画像に相当する原本画像データを抽出して出力画像データを生成し、生成された前記出力画像データに基づいて印刷を行う。好ましくは、前記出力画像の生成において、抽出された前記原本画像データに、印刷後は付加画像となる付加データを付加して前記出力画像データを生成する。
【0014】
前記画像形成方法において、好ましくは、前記出力画像データの生成において、付加画像に関する情報に基づいて、前記原稿画像データから付加画像に相当する付加画像データを削除して、前記原本画像データを抽出する。好ましくは、前記出力画像データの生成において、前記原稿画像データから前記付加画像データを削除した箇所は、その周囲から補間を行い、前記出力画像データを生成する。
【0015】
前記画像形成方法において、好ましくは、さらに、ユーザ認証を行い、前記ユーザ認証により認証されなかった場合、前記出力画像の生成を禁止し、前記原稿画像データに基づいて印刷を行う。好ましくは、さらに、原稿からユーザに関する情報を読み取り、読み取った前記ユーザ情報に基づいて前記ユーザ認証を行う。 」

(カ)「【0025】
重要書類などの印刷物の偽造、変造、不正コピーの防止対策として、原本の画像に、目視では認識できないまたは認識しにくい付加画像を埋め込むものがある。原本に付加画像を埋め込んだ印刷物を原稿として何らかの手段と作用を加えると、この付加画像が顕像化される。この顕像化により心理的に不正複製を抑止する効果をねらっている。付加画像は、たとえば、原本画像の一部に大きさの異なる網点を種々形成しておくことにより形成できるが、そのほか、線画像、網点、波状線、万線、トーンジャンプ、モアレなどを利用した種々の形成手法が公知であり、適当な手法を採用できる。付加画像は、たとえば、「コピー厳禁」、「複製物」などの文字、著作者名など、付加画像を埋め込んだ原稿の再生物であることが見て判る文字、図形などである。付加画像は、たとえば、一様な繰り返しパターンとして形成される。以下では、付加画像として地紋画像を用いた場合について説明する。
【0026】
上述の複合装置は、付加画像を含む原稿を複写すると、付加画像が浮き出た複製を作成できる。一例として、画像形成装置の画像読取部16におけるCCDセンサなどによる画像読み取りの解像度限界を用いる場合について説明すると、ドットなどの大きさが認識可能な解像度より小さければ、そのドットなどは読み取り後に消える。読取の解像度が10ライン/mm程度であるとすると、これ以上の解像度で印刷された原稿複製物にはスキャンの際に著しい再現性の劣化が発生する。付加画像部分にこの解像度以下のパターンを用いて画像を構成すると、複写により得られた複製物において、付加画像が現出する。このように、印刷の解像度と画像読み取りの解像度の差を用いて付加画像を浮かび上がらせることができる。 」

(キ)「【0027】
図2は、この画像形成装置における付加画像情報処理に関連する機能ブロックの構成を示す。画像形成装置40は、画像読取部16、情報読取部28、情報書込手段30、個人認証部42及び画像書込部50を備える。画像書込部50は、画像処理部18の一部である。
【0028】
原稿70には、原本画像の他に、上述したように、付加画像が埋め込まれており、この付加画像は、原本画像と付加画像を含む原稿を複製するとき、顕像化されて、浮かび上がるように作成されている。また、原稿70は、記憶媒体である無線タグ72を埋め込んだ用紙を用いて作成されており、無線タグ72には、その原稿70の複製が許可されているユーザの情報が蓄積されている。原稿の複製が許可されているユーザは、たとえば原本作成者である。さらに、原稿70に埋め込まれた付加画像に関する情報(画素位置、形状な
ど)も記憶されている。原稿の画像は、無線タグ76を埋め込んだ用紙に複写され、複製物74が生成される。
【0029】
上述のMFP40は、通常の用紙への印刷、複写などを行うほか、無線タグを埋め込んだ用紙への印刷、複写なども行える。このため、MFP40は、非接触型ICタグである上述の無線タグ72、76と通信するための情報読取部28と情報書込部30を備えている。情報読取部28は無線タグ72から情報を読み取り、情報書込部30は無線タグ76に情報を書き込む。情報読取部28は、印刷の際に、用紙に埋め込まれた無線タグ72から情報を読み取ることができる。また、情報書込部30は、印刷の際に、原稿の複製が許可されているユーザに関する情報などを無線タグ76に書き込むことができる。
【0030】
情報読取部28が無線タグ72から読み取った情報を用いて、MFPにログインしたユーザが、無線タグ72から読み込まれたユーザ情報に含まれるか否かが判断できる。MFPにログインしたユーザが、無線タグ72から読み込まれたユーザ情報に含まれているユーザであるときは、すなわち、MFPにログインしたユーザが原稿の複製を許可されているときは、読み取った原稿の画像データから付加画像データを検出して、付加画像データを消去する。そして、消去後の原本画像データのみの画像データに新たに、印刷後は付加画像となる付加データを付加する。そして、複製74を作成する。付加データとして付加画像データと同じデータを再付加すると、原本70と同様な可視画像の複製74が生成される。そして、情報書込部30は、複製物74の無線タグ76に、原本作成者などの原稿の複製が許可されているユーザ名を書き込む。これに対し、ログインしたユーザが、無線タグ72から読み込まれたユーザ情報に含まれていないユーザであるときは、原稿70を複製すると、付加画像が浮き上がった複製物74が得られる。この付加画像に関する画像処理プログラムは、CPU10により実行される。画像読取部16により読み込まれた画像データは、画像処理部18の中の画像メモリに記憶されている。画像処理プログラムは、上述の通り、その画像データから付加画像データを検出して、付加画像データを消去し、消去後の原本の画像データに新たに付加する画像のデータである付加データを再付加する。この付加データが付加された画像データに基づいた印刷を行うことにより、原稿と同一の複製(付加画像が顕像化されていない状態)が得られる。」

(ク)「【0034】
次に、読み取られた付加画像の処理について説明すると、画像書込部50は、通常モードと第1モードをもっている。通常モードでは、画像読取部16で読込んだ画像データに基づいて画像を用紙に印刷する。読み込んだ画像データが、付加画像データを含んでいる場合、付加画像が浮き上がった画像が出力される。一方、第1モードでは、画像読取部16で読込んだ画像データにおいて付加画像データを検出し、検出した付加画像データを消去するとともに、消去した画像に新たに付加データを再付加して、印刷する。これにより原稿と同一の複製(付加画像が顕像化されていない状態)が得られる。なお、第1モードで印刷されるのは、個人認証部42で取得したユーザ情報と、情報読取部28で取得したユーザ情報が一致するとき、すなわち、原本作成者などの原稿の複製が許可されているユーザが印刷を行うときである。一致しないときは、通常モードで印刷され、付加画像が浮き上がっている複製が得られる。第1モードで印刷するときの付加画像データの検出、付加画像データの消去、付加データの再付加に関する詳細手法については後で説明する。
【0035】
付加画像データの検出ならびに付加画像データの消去(削除)は、以下の3通りの手法で実現できる。第1の手法では、あらかじめ、本画像形成装置40で付加した付加画像に関する情報Aを画像書込手段50に登録しておく。そして、登録されている付加画像情報Aを元に、読み取った可視画像とのマッチングを行い、付加画像データを検出する。そして、検出された付加画像データに含まれる画素に対して、付加画像データを消去する。そして、付加画像が浮かび上がる前の値(画素データ)を予測して、当該画素データを予測値で置き換えて、出力画像データを生成する。予測は、たとえば当該画素の周辺の画素から補間により行う。この手法は、この画像形成装置40を用いて付加画像を埋め込んだ原稿に対してのみ有効である。すなわち、あらかじめ画像書込手段50に登録されている情報Aは、この画像形成装置40を用いて付加可能な付加画像の情報である。 」

したがって、上記記載を総合すれば、刊行物6には次の(ケ)なる発明が記載されていると認められる。
(以下、これを引用発明という。)

[引用発明]
(ケ)原本画像に地紋画像として「コピー厳禁」「複製物」などの文字を付加した原稿を複写した際に、印刷の解像度と画像読み取りの解像度の差を用いて付加画像を浮かび上がらせることが可能な複合装置の画像形成方法であって、
原本画像に付加画像を地紋画像として付加した原稿を読み取って、原稿画像データを得、
原稿画像データから、付加画像情報を元に、読み取った可視画像とのマッチングを行い、付加画像データを検出し、検出された付加画像データに含まれる画素に対して、付加画像データを消去し、付加画像が浮かび上がる前の値(画素データ)を予測して、当該画素データを予測値で置き換えるとともに、
消去後の原本画像データのみの画像データに新たに、付加画像に関する情報に基づいて、印刷後は付加画像となる付加データを付加して出力画像データを生成し、
生成された出力画像データ基づいて印刷を行う画像形成方法であって、
ユーザ認証を行い、ユーザ認証により認証されなかった場合、出力画像の生成を禁止し、原稿画像データに基づいて印刷を行う画像形成方法。

5.対比・判断

本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「複合装置」は複写機能を有する装置であるから、「「コピー厳禁」「複製物」などの文字を付加画像として原本画像に付加画像を地紋画像として付加した原稿を複写した際に、印刷の解像度と画像読み取りの解像度の差を用いて付加画像を浮かび上がらせることが可能な複合装置」は、本願発明の「潜像を含む地紋を有した原稿を読み取って複写を行うことが可能な複写機」に相当し、引用発明の「画像形成方法」は複写機の印刷を制御するものであるから、本願発明の「制御方法」に相当する。

引用発明における
「ユーザ認証を行い、ユーザ認証により認証されなかった場合、出力画像の生成を禁止し、原稿画像データに基づいて印刷を行う」
ことは、
“ユーザ認証を行い、ユーザ認証により認証された場合、(原稿画像データではなく、)原本画像に付加画像を地紋画像として付加した画像に相当する出力画像データの生成をして、該出力画像データに基づいて印刷を行う”
ことに他ならないから、これは、本願発明における
「前記原稿についての正規のユーザであると認証された場合に、前記潜像を含む前記地紋を再現し、かつ、前記潜像が顕在化しないように、」した「前記画像データを印刷する」ことと等価である。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の(コ)なる点で一致し、(サ)の点において一応の相違がある。

[一致点]
(コ)潜像を含む地紋を有した原稿を読み取って複写を行うことが可能な複写機の制御方法であって、
前記原稿を読み取り部によって読み取って画像データを得るステップと、
ユーザからの入力に基づいて前記原稿についての正規のユーザであるか否かを認証するステップと、
前記原稿についての正規のユーザであると認証された場合に、前記潜像を含む前記地紋を再現し、かつ、前記潜像が顕在化しないようするステップと、
潜像が顕在化しないようにされた前記画像データを印刷するステップと、
を有することを特徴とする複写機の制御方法。

[相違点]
(サ)本願発明において、画像データを「潜像が顕在化しないように」するステップが、「前記画像データを補正する」とされているのに対し、引用発明においては、
「付加画像データを検出し、検出された付加画像データに含まれる画素に対して、付加画像データを消去し、付加画像が浮かび上がる前の値(画素データ)を予測して、当該画素データを予測値で置き換えるとともに、
消去後の原本画像データのみの画像データに新たに、付加画像に関する情報に基づいて、印刷後は付加画像となる付加データを付加」
するものとされている点。

以下、相違点について検討する。

引用発明において、付加画像の存在する領域のみに関すれば、その領域データを一旦消去して、その領域を新たに潜像と地紋のデータとするものであるから、狭義には「補正」ではないものの、広義には「補正」である。

また、データの一部について、これを削除し、新たなデータとすることは、データ全体としてみれば、これは狭義としても「補正」そのものである。
引用発明は、原稿画像データを全て削除し、これに代えて、全く新たな出力データに置き換えるものではなく、一部の画素データを削除し、その一部の画素データを他の値に置き換えることであるから、原稿画像データが処理されて出力画像データが生成されることは、原稿画像データが「補正」されて出力画像データとなることである。

したがって、引用発明における
「付加画像データを検出し、検出された付加画像データに含まれる画素に対して、付加画像データを消去し、付加画像が浮かび上がる前の値(画素データ)を予測して、当該画素データを予測値で置き換えるとともに、
消去後の原本画像データのみの画像データに新たに、付加画像に関する情報に基づいて、印刷後は付加画像となる付加データを付加」は、「前記潜像が顕在化しないように、前記画像データを補正するステップ」
としての一手法に他ならない。

一方、請求項8には、単に、「補正する」とされているだけで、本願発明は補正の具体的手法について何ら特徴を有するものではない。

してみれば、補正について、具体的にその手法を限定した引用発明に対し、その手法を限定しない本願発明は、限定をなくして、これを上位の発明としたものといえる。
そして、発明を上位概念で捉えることに格別の困難性は存在しないから、引用発明に対して他に相違点を有しない本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成23年12月12日付け提出の意見書において、「方法発明に関する請求項8、11について、請求項1、4と同内容となるように修正を行いました。」としているが、請求項8については請求項1と同内容となるような修正は行われていない。
なお、別項で後述するように、補正(修正)された請求項1には記載不備があり、発明を正しく認定することはできないから、請求項8について、仮に同内容となるような修正が行われたとした請求項8の記載からは発明を正しく認定することはできない。
よって、本件の審理は発明が明確である請求項8に係る発明について行った。

6. むすび

以上のとおりであるから、本願請求項8に係る発明は刊行物6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、平成23年10月14日付けで通知した拒絶理由の内、理由1により拒絶すべきものである。

よって、原査定を取り消す、本願は特許すべきものである、という審判請求の趣旨は認められないから、結論のとおり審決する。

7.付記・請求項1に記載の発明について。

審判合議体は、平成23年10月14日付け拒絶理由書において、次の[理由2]の拒絶理由をも通知をしている。

「[理由2]
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。



(1)「潜像が顕在化しないように」というのはどういうことか曖昧である。
データ上完全に潜像の存在を無くすことであるのか、元画像と同様に潜像として印刷されることであるのか。
図3(D)は潜像が再現されないものであるが、この印刷を再度複写した場合に潜像は顕像化されるのか、しないのか明らかでない。

(2)「原稿を読み取って得られる画像データ」から「地紋に含まれる含まれる潜像」、あるいは「消去ドット群」をどのように検出、判断しているか不明である。

(3) (略)

(4)各請求項には「第2の補正処理」が存在しないが、段落0071の記載を参酌すれば、そもそも第2の処理手段が存在しないものにおいて、潜像は顕像化しないものと思われる。
請求項に記載の内容の技術的意味が不明である。
なお、「第2の補正処理」が発明の必須要件であるならば、「第1の補正処理」と「第2の補正処理」との時間的関係(順序)が明確でない。 」

これに対し、平成23年12月12日付け提出の意見書における主張の要点は、以下のとおりである。

(3-1)「図3(D)の複写画像HG3を再度複写した場合には、条件に応じて潜像が顕在化されることになります。」
「したがって、第1補正手段を経て印刷された用紙は、ほぼ元の原稿画像である図3(A)と同等のものとなり、再度複写した場合には、条件に応じて潜像は顕在化されることになります。」

(3-2)「本願発明において、「消去ドット群」の検出については、例えば本願明細書の段落番号0055に記載されているように、読み取り部の光学系のMTF特性に起因して、消去ドットは消滅したり、濃度が低くなったりすることにより、検出されます。」

(3-4)「本願の図2には、第1補正処理部52の処理と第2補正処理部53の処理とが並列していることが示されています。正規のユーザであるか否かに基づいて、第1補正処理部52の処理結果である信号GD1、または第2補正処理部53の処理結果である信号GD2のいずれかが、セレクタ54により選択され、次の処理へと出力されます(段落番号0039、0041)。
したがって、第2の補正処理は常に必須の処理ではありません。この点を明確にするため、今回の手続補正において、請求項1を「…前記第2補正処理手段による潜像の顕在化を行わずに、前記第1補正処理手段による補正処理を行い…」と補正しました。」

そうすると、補正された請求項1の記載、図2の記載内容、及びこれらの主張から、本願請求項1の内容は次のようなものであるということになる。

(a)スキャナで読み取られた原稿データGDは(フレームメモリに一旦格納された後)、第1補正処理部により処理されることにより、顕在化されていた地紋における潜像内容が潜在化される。
(b)スキャナで読み取られた原稿データGDは(フレームメモリに一旦格納された後)、第2補正処理部により処理されることにより、潜像を含む地紋(潜在化されていた地紋における潜像内容)が顕在化される。

これは、スキャナで読み取られた原稿データGDであるフレームメモリから第1、第2の補正処理部に入力される信号が(a)と(b)で何ら違いが無く、同一のデータであるにもかかわらず、(a)においては潜像は顕在化されているものであり、(b)においては、潜像は顕在化されていない潜像状態であって、両者が異なる状態のデータとして扱われることになり、技術的に矛盾する。
また、第1、第2の補正処理部に入力される信号(GD)が、顕在化しているものであるか、潜像状態にあるのかを判断する機能は発明の構成として存在せず、また、そのことを示唆する記載も存在しない。

さらに、発明の詳細な段落【0071】には、
「 【0071】
(他の実施形態)
上記実施形態においては、消去ドットSDを消去しないことによって潜像SZを再現しないようにするための処理として、第1補正処理部52による第1補正処理を実施することとしたが、画像処理において一般的に実施される第2補正処理を実施しないことによって、同様の効果が奏される。 」
と記載されているが、上記(a)(b)の点と当該段落の記載内容は合致しない。

請求項1についての補正、審判請求書の主張から、引用発明は付加画像に関する情報を用いているのに対し、本願請求項1に係る発明が付加画像を関する情報を用いていない点が両者の相違であることは自体は発明の目的として理解できるが、請求項1には、これを具現化した発明としての構成が記載されてはいない。

したがって、平成23年10月14日付けで通知した拒絶理由の内、[理由2]については一部解消はしているものの、全てが解消しておらず、補正された請求項1の記載は依然として明確ではない。
また、請求項1に係る発明を正しく認定することはできないため、請求項1について[理由1]についての判断をすることができない。
 
審理終結日 2012-01-04 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-01-23 
出願番号 特願2007-329362(P2007-329362)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國分 直樹  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官
千葉 輝久
古川 哲也
発明の名称 画像処理装置および複写機の制御方法  
代理人 久保 幸雄  

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