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審決分類 |
審判 判定 利用 属さない(申立て成立) E02D |
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管理番号 | 1253403 |
判定請求番号 | 判定2011-600049 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2011-10-28 |
確定日 | 2012-03-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4194049号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書に示す「地下構造物用蓋の食込み解除装置」は、特許第4194049号の請求項1?3に係る発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号説明書としての特許第4763098号の明細書及び図面に示す「地下構造物用蓋の食込み解除装置」(以下「イ号物件」という)が、被請求人所有の特許第4194049号の請求項1?3に係る発明の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 本件特許第4194049号の請求項1?3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下のとおりのものである。 なお、請求項1は、理解を容易にするため、当審が構成要件に分節すると共に、本件特許明細書(甲第1号証)の図番を付した。 【請求項1】 A 地下構造物の上端に設置された受枠2と、 B 上記受枠2内に着脱可能に嵌め込まれて該受枠2を閉鎖し、 C 外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバール41の係合部41a を挿入可能なバール孔7が貫設された蓋本体3と、 D 付勢手段26により上方に付勢されて上記蓋本体3のバール孔7を下方より閉塞し、 E 且つ、上記バール41の係合部41aにより上方より押圧されたときに、上記付勢手段26の付勢力に抗して下降して上記バール孔7を開放すると共に上記蓋本体3の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋21と、 F 上記受枠2の内周に形成されて、上記付勢手段26の付勢力に抗して上記可動支点蓋21が下降したときに該可動支点蓋21に当接して下降を規制するストッパ部54とを備えたことを特徴とする地下構造物用蓋の食込み解除構造5。 【請求項2】 地下構造物の上端に設置された受枠と、 上記受枠内に着脱可能に嵌め込まれて該受枠を閉鎖し、外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバールの係合部を挿入可能なバール孔が貫設された蓋本体と、 上記蓋本体のバール孔の下方に揺動可能に支持され、上記受枠に設けられた係合突起に対して係合爪を係合させて上記蓋本体の開蓋を規制する一方、上記バールの係合部により揺動操作されて上記係合突起に対する上記係合爪の係合を解除可能な揺動部材と、 上記揺動部材に対して案内手段により上下動可能に支持され、付勢手段により上方に向けて付勢されて上記蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、上記バールの係合部により上方より押圧されたときに、上記付勢手段の付勢力に抗して下降して上記バール孔を開放すると共に上記蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、 上記受枠の内周に形成されて、上記付勢手段の付勢力に抗して上記可動支点蓋が下降したときに該可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部と を備えたことを特徴とする地下構造物用蓋の食込み解除構造。 【請求項3】 上記可動支点蓋の上面には、上記バールの係合部に押圧されて上記付勢手段の付勢力に抗して上記可動支点蓋が下降したときに、該バールの係合部を摺接させながら上記蓋本体の下側に移動させるガイド傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋の食込み解除構造。 (以下、本件特許の請求項に係る発明を、その項番号により「本件特許発明1」等という。) 第3 イ号物件 イ号物件の構成は、判定請求書に添付して提出したイ号説明書である甲第3号証(特許第4763098号公報)の明細書及びイ号図面である図1?図12に基づき、請求人が請求書に記載したもの及び被請求人の主張を参酌して、次のとおりのものと特定する。 【イ号物件】 a 地下構造物の上端に設置された受枠12と、 b 上記受枠12内に着脱可能に嵌め込まれて該受枠12を閉鎖し、 c 外周縁より中心側に離間した位置に蓋開閉用のバール18の係合部18aを挿入可能なバール孔19が貫設された蓋本体11と、 d 付勢手段21により上方に付勢されて上記蓋本体11のバール孔19を下方より閉塞し、 e 且つ、上記バール18の係合部18aにより上方より押圧されたときに、上記付勢手段21の付勢力に抗して下降して上記バール孔19を開放すると共に上記蓋本体11の下面との間に間隙を形成する閉塞部材20と、 当該閉塞部材20と連動せず独立的に作動可能であり、鉄蓋の裏面に回転可能に装着され、上部に係合突部を有し、バール18により押圧されたとき回転移動して、係合突部26とバール18との当接部が蓋本体11を上方に動かす際の支点として機能するロック部材25と、 f 上記受枠12の内周に形成されて、バール18によってロック部材25が回転移動したときにロック部材25の係合突部に当接して回転移動を規制する内突起27とを備えた地下構造物用蓋の食込み解除装置10。 なお、被請求人は、答弁書「(2-2)イ号製品の構成」で、構成eに関して、イ号製品の閉塞部材(20)とロック部材(25)との機能を併せもったものを、「開蓋用バール蓋」と称し、構成eを「且つ、上記バール(18)の係合部(18a)により上方より押圧されたときに、上記付勢手段(21)の付勢力に抗して下降して上記バール孔(19)を開放すると共に上記蓋本体(11)の下面との間に間隙を形成する開蓋用バール蓋(20、25)と、」としているが、イ号説明書である甲第3号証の【0021】に「閉塞部材20は、リンク機構を用いて、バール孔19を開閉可能に閉塞する」と記載され、同じく【0022】の「鉄蓋11の裏面には、前述のロック部材25が、鉄蓋11の裏面に設けられた一対の支軸部25a、25aにより、保持部11cに回転可能に軸支されている。」と記載され、かつそれらは、【0023】の「ロック部材25を閉塞部材20に対して独立的に作動可能」なものであって、図1?図12においても、相互に連結され一体化したようなものとして記載されたものでもないので、「閉塞部材20」と「ロック部材25」を独立の部材として構成eを上記のとおり特定した。 また、構成f,gにおいても同様にも、「閉塞部材20」と「ロック部材25」とを独立したものとして、構成を特定した。 第4 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号物件は、本件特許発明1?3の技術的範囲に属しない旨主張している。 (1)イ号物件の構成eには「可動蓋」は存在するが、特許発明1の構成要件Eの「可動支点蓋」に相当するものは存在しない。本件特許発明1の「可動支点蓋」は「可動すること」と、バールに押されて下方に可動した際に受枠のストッパ部に当接してバールの「支点」として機能すること、および、バール孔を下方より閉塞する「蓋」として機能することが必要である。しかしながらイ号物件の構成eの閉塞部材20は「支点」としては機能していない。 よって、イ号物件の構成eは、本件特許発明1の構成要件Eを充足しない。 (2)イ号物件の構成fは、受枠12の内周に内突部27を有しているが、内突部27は、閉塞部材20に当接して下降を規制するものではないために、イ号物件の構成fは「可動支点蓋」21に当接して下降を規制するストッパ部54を備えていないことは明らかである。 よって、イ号物件の構成fは、本件特許発明1の構成要件Fを充足しない。 (3)イ号物件は本件特許発明1とは異なる効果を奏するものである。 (4)イ号物件の構成は、同様に本件特許発明2、3の構成要件も充足しない。 2.被請求人の主張 被請求人は、判定事件答弁書において、イ号説明書(甲第3号証)に示す食込み解除装置は、本件特許発明1の技術的範囲に属するとの判定を求め、その理由を次のように主張している。 (1)技術分野 本件特許発明1およびイ号物件のいずれも、蓋本体のバール孔が蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置に貫設されている地下構造物用蓋を、公共の事業体等、鉄蓋の開閉作業に携わる作業者が一般に備えている開閉工具(一般的なバール)で開蓋させることができる食込み解除構造(テーパー嵌合解除装置)に関するものであり、同一の技術分野に属するものである。 (2)技術思想 本件特許発明1は、バール(41)に押圧されて下降する部材を、受枠(2)の内周に形成したストッパ部(54)で受け止めて下降を規制し、同部材をバ-ル係合部の支点とし、てこの原理により蓋本体(3)の食込みを解除することを技術的特徴(技術的思想)とするものであり、本件特許発明1とイ号物件とは、主たる課題を解決するために同一の技術的特徴(技術的思想)を有するものである。 (3)イ号物件の構成と、本件特許発明1の構成要件との対比 ア.イ号物件の構成a?dは、本件特許発明1の構成要件A?Dを充足する。 イ.イ号物件の閉塞部材(20)とロック部材(25)とは、閉塞部材(20)が開状態にならないとロック部材(25)によるロック伏態が解除されないので、無関係とはいえず、両者は協働の関係にあるといえる。本件特許発明1からみたとき、「開蓋用バール蓋(20、25)」は、閉塞部材(20)の機能とロック部材(25)の機能とを併せ持つものとして構成されるものとして解釈できる。 よって、イ号物件の構成要件eの閉塞部材(20)とロック部材(25)との機能を併せもったものを、「開蓋用バール蓋」とすると、それは、本件特許発明1の構成要件Eの「可動支点蓋」に相当する。 ウ.また、イ号物件の構成要件fの内突起は、本件特許発明1の構成要件Fの「ストッパ部」に相当する。 エ.したがって、イ号物件の構成要件a?fのそれぞれは、本件特許発明1の全ての構成要件A?Fを充足する。 (4)イ号物件と本件特許発明1との利用関係について イ号物件は、たとえ新たな課題(「バール孔の閉塞部材と鉄蓋の裏面との間に小石等が挟み込まれてもロック機構が簡単には解除されないこと」および「開閉工具を用いた一連の開蓋操作において、通常とは異なる操作を必要とすることにより、開蓋方法を察知され難くすること」(甲第3号証、段落[0001]、[0002]、[0007]))を解決するために、「開蓋用バール蓋(20、25)は、閉塞部材(20)と、当該閉塞部材(20)に対して独立的に作動可能であり、鉄蓋の裏面に回転可能に装着されるロック部材(25)とに分離して構成され、当該ロック部材(25)は、上記付勢手段(21)の付勢力に抗して閉塞部材(20)が下降するときに下降し、上記内突起(27)に当接して下降が規制され、当該ロック部材(25)の係合突部(26)が支点として機能する」構成が付加されたものであっても、本件特許発明1の全ての構成要件A?Fを利用するものである。また、本件特許発明1の主たる解決手段である、蓋本体のバール孔が蓋本体の外周縁より中心側に離間した位置に貫設されている地下構造物用蓋の食込みを解除するという技術的思想は、イ号物件において付加された上記構成によって有機的一体性を失うものではない。 そうすると、イ号は、本件特許発明1を利用しているといえるから、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属するものである。 (5)均等要件の充足性について (i)「特許発明の本質的部分」について(均等第1要件) 本件特許発明1とイ号物件との相違部分である、閉塞部材(20)とロック部材(25)とに分離すること自体は、本件特許発明1の本質的部分ではない。 従って、均等の第1要件を満たす。 (ii)「本件特許発明1の目的を達し、同一の作用・効果を奏する」について(均等第2要件) 本件特許発明1において、可動支点蓋を閉塞部材とロック部材とに分離した開閉用バール蓋として構成したとしても、「良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できる」という目的を達成し、同一の作用効果を奏する。 また、上述したように、本件特許発明1とイ号物件とのいずれもが「一般的なバール」が用いられて開蓋されることから、イ号物件も「専用のバールを要することなく一般的な形状のバールにより蓋本体の食込みを解除することができる」という目的を達成し、同一の作用効果を奏する。 従って、均等の第2要件を満たす。 (iii)「容易想到性」について(均等第3要件) 上述したように、本件特許発明1とイ号物件との相違部分は、閉塞部材(20)とロック部材(25)とを分離して構成するという技術思想である。 ここで、乙第4号証(実開昭63-45857号公報)には、イ号物件の閉塞部材に相当する規制部材(9)の頭部(6a)とイ号物件のロック部材に相当する鈎部材(4)とが分離して構成されていることが示されている。 また、乙第5号証(特開昭63-83323号公報)には、イ号物件の閉塞部材に相当する閉塞部材(16)の頭部(24)とイ号物件のロック部材に相当するロック部材(15)とが分離して構成されていることが示されている。 さらに、乙第6号証(特開平2-183019号公報)には、イ号物件の閉塞部材に相当する栓片(29)とイ号物件のロック部材に相当する爪駒(19)とが分離して構成されていることが示されている。 このように、「開蓋用バール蓋」を「閉塞部材(20)」と「ロック部材(25)」とに分離して構成すること自体は、乙第4号証?乙第6号証に例示されるように、当業者には周知の技術であったといえる。 そのような観点によれば、イ号物件は、付加された構成によってたとえ特許性を有しているとしても、本件特許発明1からみて、「開蓋用バール蓋」を、「閉塞部材(20)」と「ロック部材(25)」とに分離した構成に置換することは想到容易である。 従って、均等の第3要件を満たす。 (iv)均等の他の要件について 本件特許発明1についての出願日である平成17年9月30日までに、イ号物件が公知技術と同一または公知技術から容易に推考できたものであるとの証拠もなく、また、本件特許発明1について、被請求人が意見書等を提出するなどして、本件特許発明1からイ号物件の構成を意識的に除外したとする証拠もない。 よって、イ号物件は均等のすべての要件を満たし、本件特許発明1の技術的範囲に属する。 第5 本件特許発明1について 1.対比・判断 本件特許発明1とイ号物件とを対比する。 (1)イ号物件の構成a、b、c及びdは、本件特許発明1の構成要件A、B、C及びDを充足しており、この点について当事者間に争いはない。 (2)イ号物件の構成eと、本件特許発明1の構成要件Eを対比する。 (2-1)本件特許明細書には、構成要件Eについて次のように記載されている。 「バールの先端の係合部により可動支点蓋を上方より押圧すると、可動支点蓋は付勢手段の付勢力に抗して下降して受枠のストッパ部に当接する。そして、この状態では可動支点蓋の下降がストッパ部により規制され、且つ、可動支点蓋と蓋本体の下面との間に間隙が形成されているため、バールの係合部の一側を可動支点蓋上に当接させて支点として機能させ、バールの係合部の他側を蓋本体の下面に当接させて作用点として機能させ、バールの上端を力点と見なして揺動操作すれば、てこの原理により蓋本体に上方への力を作用させて、受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能となる。」(段落【0009】) これらの記載によれば、「可動支点蓋」とは、てこの原理により蓋本体に上方への力を作用させて、受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能とする為の支点として機能するものと解される。 (2-2)他方、イ号物件の構成eの「閉塞部材20」は、バール18により上方より押圧されたときに、バール孔19を開放するものであるものの、支点として機能するものではないから、「可動する蓋」といえるが、本件特許発明1の構成要件Eの「可動支点蓋21」には相当しない。 また、「ロック部材」はバールの支点となるものではあるが、バール孔を開閉する蓋ではなく、付勢手段により付勢されるものでもないから、本件特許発明1の構成要件Eの「可動支点蓋21」には相当しない。 したがって、イ号物件の構成eは、本件特許発明1の構成要件Eを充足していない。 (3)イ号物件の構成fと、本件特許発明1の構成要件Fを対比する。 (3-1)構成要件Fに関しても、本件特許明細書には、上記(2-1)指摘の事項が記載されており、その記載によれば、構成要件Fの「可動支点蓋21に当接して下降を規制するストッパ部54」は、可動支点蓋がストッパ部に当接して可動支点蓋の下降が規制されることで、バールの支点として機能させ、てこの原理により受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能とするための可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部であると解される。 (3-2)他方、イ号物件の構成fの「ロック部材25の係合突部に当接して回転移動を規制する内突起27」は、ロック部材25の係合突部に当接して回転移動を規制して、ロック部材25の係合突部26をバールの支点として機能させるものであって、可動する蓋である閉塞部材20に当接して下降を規制するものではないから、本件特許発明1の構成要件Fの「可動支点蓋21に当接して下降を規制するストッパ部54」に相当しない。 したがって、イ号物件の構成fは、本件特許発明1の構成要件Fを充足していない。 (3-3)被請求人は、イ号物件の閉塞部材20とロック部材25との機能を併せもったものを、「開蓋用バール蓋」と称して、それは、本件特許発明1の構成要件Eの『可動支点蓋』に相当する。」、「また、イ号物件の構成要件f'の『内突起』は、本件特許発明1の構成要件Fの『ストッパ部』に相当する。」旨主張する。 しかし、イ号物件の構成eの「閉塞部材20」と、イ号物件の構成fにおいて支点として機能する係合突部を有する「ロック部材25」とは、独立して作動するものであるので、両者をまとめて、閉塞部材(20)の機能とロック部材(25)の機能とを併せ持つものとして構成される開蓋用バール蓋(20、25)として解釈することはできない。 仮に、イ号物件の構成eの「閉塞部材20」と「ロック部材25」とをまとめて、閉塞部材(20)の機能とロック部材(25)の機能とを併せ持つものとして構成される開蓋用バール蓋(20、25)として解釈したとしても、イ号物件のストッパ部は、付勢手段の付勢力に抗して閉塞部材が下降したときに、閉塞部材と蓋本体との間に形成された隙間に挿入したバールによって回転移動する、閉塞部材と連動せず独立的に作動するロック部材の係合突部に当接して回転移動を規制するものであって、「付勢力に抗して上記可動支点蓋21が下降したときに該可動支点蓋21に当接して下降を規制する」ものではないから、イ号物件の構成fの「ロック部材25の係合突部に当接して回転移動を規制する内突起27」は、本件特許発明1の構成要件Fの「可動支点蓋21に当接して下降を規制するストッパ部54」に相当するものとはいえない。 (4)以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件E、Fを充足していないから、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。 2.均等について 最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。 積極的要件 (1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。 (2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。 (3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。 消極的要件 (4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。 (5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。 まず(1)の要件について検討する。 イ号物件と本件特許発明1とを対比すると、両者は以下の点で相違する。 (1)相違点1(構成要件E及び構成eに関して) 本件特許発明1は「バール孔7を開放すると共に蓋本体3の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋21」を備えるのに対して、イ号物件は、「バール孔19を開放する閉塞部材20」と、「当該閉塞部材20と連動せず独立的に作動可能であり蓋本体11を上方に動かす際の支点として機能するロック部材25」を備えるものである点。 (2)相違点2(構成要件F及び構成fに関して) 本件特許発明1のストッパ部は、「可動支点蓋」を規制するものであるのに対し、イ号物件の内突起27はロック部材25を規制するものである点。 上記相違点1、2が本件特許発明1の本質的な部分であるか否かについて検討する。 本件特許明細書には、本件特許発明1について次のように記載されている。 「【背景技術】・・・ 【0005】・・・特許文献2の技術では、・・・バールの先端近傍をフックに倣った方向に屈曲させて係止爪部を突設し、これによりバールの先端をバール孔の張出し部に係合させた状態で、蓋本体の外周を跨いで干渉を避けながらバールの係止爪部を受枠の周縁上に当接させて支点として利用できるように配慮している。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上記特許文献2の技術では、蓋本体の外周との干渉を回避するために先端部が特殊な形状をした専用のバールを必要とするため、当該バールの準備を要するという問題がある。・・・ 【0007】 本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、良好な止水性を実現して地下構造物内への雨水等の流入を確実に防止できると共に、専用のバールを要することなく蓋本体の食込み解除を実施することができる地下構造物用蓋の食込み解除構造を提供することにある。」 「【0008】 上記目的を達成するため、請求項1の発明は、・・・付勢手段により上方に付勢されて蓋本体のバール孔を下方より閉塞し、且つ、バールの係合部により上方より押圧されたときに、付勢手段の付勢力に抗して下降してバール孔を開放すると共に蓋本体の下面との間に間隙を形成する可動支点蓋と、受枠の内周に形成されて、付勢手段の付勢力に抗して可動支点蓋が下降したときに可動支点蓋に当接して下降を規制するストッパ部とを備えたものである。」 「【0009】・・・可動支点蓋の下降がストッパ部により規制され、・・・バールの係合部の一側を可動支点蓋上に当接させて支点として機能させ、バールの係合部の他側を蓋本体の下面に当接させて作用点として機能させ、バールの上端を力点と見なして揺動操作すれば、てこの原理により蓋本体に上方への力を作用させて、受枠に対する蓋本体の食込みを解除可能となる。」 これらの記載によると、相違点1の「可動支点蓋」や、相違点2の可動支点蓋を規制する「ストッパ部」は、受枠の周縁上をバールを当接させる支点として利用する場合に、バール孔に雨水が流入したり、専用のバールを必要とするという問題を解決する為に、バール孔を閉塞する可動蓋を受枠のストッパ部に当接させ、これをバールの支点として機能させるためのものであって本件特許発明1の課題解決手段に係る本質的な構成といえる。 そして、相違点1は、イ号物件が「バール孔19を開放する閉塞部材20」及び「当該閉塞部材20と連動せず独立的に作動可能であり蓋本体11を上方に動かす際の支点として機能するロック部材25」を備えたものであるものの、本件特許発明1の本質的な構成である「可動支点蓋」を備えないというものであり、相違点2は、イ号物件がロック部材25を規制する「内突起27」を備えたものであるものの、本件特許発明1の本質的な構成である可動支点蓋を規制する「ストッパ部」を備えないというものである以上、それらは本質的な部分の相違であるので、「相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。」とはいえない。 さらに、(3)の要件についても検討する。 イ号物件と本件特許発明1は、上記相違点1及び2で相違するので、それについて検討する。 地下構造物用蓋において、開蓋用バール蓋を閉塞部材とロック部材とに分離して構成すること自体は、被請求人が提示した乙4?6号証に記載されている様に当業者には周知の技術といえるものの、それらの閉塞部材は、付勢手段の付勢力に抗して下降するものではなく、また、ロック部材は、「バール18との当接部が蓋本体11を上方に動かす際の支点として機能する」ものではない。 一方、イ号物件は、閉塞部材とバールの支点となるロック部材を分離したことにより、バールで閉塞部材が操作されてもロック部材はロック状態を維持し、その後、さらにバールを傾斜させてロック部材の係合突起に当接させこれを移動させ、内突起に当接させることで、初めて、係合突起を支点に鉄蓋を持ち上げることができるという作用を奏するものと認められる。 そうすると、本件特許発明1の「バール41の係合部41aにより上方より押圧されたときに、上記付勢手段26の付勢力に抗して下降して上記バール孔7を開放する・・・可動支点蓋21」を、閉塞部材とバールの支点として機能するロック部材とに分離し、さらに、そのロック部材を「バール18との当接部が蓋本体11を上方に動かす際の支点として機能する」ものとすることが、周知技術との置換でなし得たものとはいえない。 したがって、イ号物件は、均等の要件(1)及び(3)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、本件特許発明1と均等であるとすることはできない。 第6 本件特許発明2、3について 本件特許発明2、3についても、イ号物件が構成要件E、Fを充足しないことに変わりないので、上記「第5」と同様に、イ号物件は、本件特許発明2、及び本件特許発明3の技術的範囲に属しない。 第7 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1?3の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2012-03-06 |
出願番号 | 特願2005-287283(P2005-287283) |
審決分類 |
P
1
2・
2-
ZA
(E02D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大森 伸一 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
土屋 真理子 中川 真一 |
登録日 | 2008-10-03 |
登録番号 | 特許第4194049号(P4194049) |
発明の名称 | 地下構造物用蓋の食込み解除構造 |
代理人 | 井澤 洵 |
代理人 | 井澤 幹 |
復代理人 | 岡田 光宗 |
代理人 | 茂木 康彦 |
復代理人 | 岡島 伸行 |
代理人 | 長門 侃二 |