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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C22C |
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管理番号 | 1253770 |
審判番号 | 訂正2011-390141 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2011-12-28 |
確定日 | 2012-02-23 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4255330号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4255330号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第4255330号(以下、「本件特許」という。)は、平成15年7月31日にした出願(特願2003-283522号)の請求項1?5に係る発明について平成21年2月6日に特許権の設定登録がなされ、平成23年12月28日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 第2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付の明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。 第3 訂正の内容 本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部分が訂正に係る部分である。)。 1.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、 「質量百分率(%)に基づいて(以下、%と表記する)Ni:1.0?4.5%、Si:0.2?1.2%を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金からなり、表面に23?184MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さ(以下、Rvと表記する)が0.93μm以下であり、直径4μm以上の介在物が86個/mm^(2)以下であることを特徴とするCu-Ni-Si系合金部材。」を、 「質量百分率(%)に基づいて(以下、%と表記する)Ni:1.0?4.5%、Si:0.2?1.2%を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金からなり、表面に23?184MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さ(以下、Rvと表記する)が0.5μm以下であり、直径4μm以上の介在物が86個/mm^(2)以下であることを特徴とするCu-Ni-Si系合金部材。」と訂正する。 2.訂正事項2 特許明細書の【0005】について、5行目の「0.93μm以下」を、「0.5μm以下」と訂正する。 第3 当審の判断 1.訂正の目的、新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に記載のCu-Ni-Si系合金部材の表面谷深さRvの数値範囲について、上限値を「0.93μm」から「0.5μm」に引き下げるものであって、請求項1の記載を引用する請求項2?5においても、同様にRvの上限値を引き下げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許明細書の【0004】には、本件特許に係る発明の解決しようとする課題がCu-Ni-Si系合金部材の疲労特性を改良することであり、同【0008】には、Cu-Ni-Si系合金部材の表面粗さを小さくすると、疲労寿命が延び、表面の最大谷深さRvのより好ましい範囲が0.5μm以下であることが記載されているから、訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。 さらに、特許明細書の【0032】、【0033】【表3】には、Mgを含むCu-Ni-Si系合金部材であって、訂正後の請求項2に記載された発明に相当するる表面最大深さRvが0.44μmや、0.27μmであるNo.26,27の試料が、Rvが0.5μmを超えるNo.28?31の試料より、疲労寿命において優れていることが示されているし、【0029】、【0030】【表2】には、Mgを含まないCu-Ni-Si系合金部材であって、訂正後の請求項1に記載された発明に相当するるNo.20の試料、及びP、Sn又はZnを含むCu-Ni-Si系合金部材であって、それぞれ訂正後の請求項3?5に記載された発明に相当するるNo.17?19の試料も、Rvがともに0.3?0.4μmであると、訂正後の請求項2に記載された発明に相当するNo.16の試料、及び前述のNo.26,27の試料とほぼ同等の疲労寿命を達成していることが示されているから、訂正事項1によって、請求項1?5に記載された発明におけるRvの技術的意義に変更はない。したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との記載に矛盾がないように明りょう化するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。 (3)まとめ よって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合する。 2.独立特許要件について 上記のとおり、本件訂正の訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1?5に記載された発明(以下、まとめて「本件訂正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものかどうかについて検討する。 本件特許に係る出願は、拒絶理由を発見しないとして特許査定されたものであるところ、本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする新たな理由も見当たらない。 よって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 疲労特性に優れたCu-Ni-Si系合金部材 【技術分野】 【0001】 本発明はコネクター等の電子材料に利用される高強度銅合金に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器での高密度実装化が進展し、その電子部品は著しく軽薄・短小化している。これに対応し、部品の使用環境下において、金属部材に繰り返し付加される応力は増加する傾向にある。また、部品の耐久性に対するニーズも高くなり、金属部材の疲労特性への要求は高度化している。従来、特に信頼性が要求される部品には、疲労強度が高いベリリウム銅、チタン銅等の高強度型銅合金が使用されてきた。 しかし、これら高強度型銅合金の価格は従来型銅合金と比較して極めて高価であるので、安価なCu-Ni-Si系合金が多く用いられるようになってきた(例えば、特許文献1参照。)。 【0003】 【特許文献1】特開2001-49369号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 このため、Cu-Ni-Si系合金においても疲労特性のさらなる改良が求められるようになってきている。 一般的には合金の強度を高めると、疲労強度が向上する。Cu-Ni-Si系合金は析出強化型銅合金であり、圧延加工度を高くするかまたは強度の増加に寄与する析出物の量を増加させれば強度は増加するが、この高強度化による疲労特性改善には限界があった。 本発明の目的は、コネクター等の電子材料に利用される高強度銅合金であるCu-Ni-Si系合金の疲労特性を改良することにある。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、疲労特性の改善に対し、以下の方策が有効であることを見出した。 (1)質量百分率(%)に基づいて(以下、%と表記する)Ni:1.0?4.5%、Si:0.2?1.2%を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金であって、表面に23?184MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さ(以下、Rvと表記する)が0.5μm以下であり、直径4μm以上の介在物が86個/mm^(2)以下であることを特徴とするCu-Ni-Si系合金部材、 (2)Mg:0.05?0.3%を含有する上記(1)に記載のCu-Ni-Si系合金部材、 (3)P:0.01?0.5%を含有する上記(1)又は(2)に記載のCu-Ni-Si系合金部材、 (4)Sn:0.01?1.5%を含有する上記(1)?(3)のいずれかに記載のCu-Ni-Si系合金部材、 (5)Zn:0.01?1.5%を含有する上記(1)?(4)のいずれかに記載のCu-Ni-Si系合金部材、である。 【発明の効果】 【0006】 本発明によれば、優れた疲労特性を有し、端子、コネクター等電子材料用銅合金として好適である。 【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 本発明の限定理由を以下に説明する。 (1)表面の残留応力 端子、コネクター、リレー等の電子部品の金属部材には、部品の動作あるいは部品の着脱に際し、弾性限内の曲げ応力が繰り返し与えられる。この場合の疲労クラックは曲げ部外周表面より発生し、このクラックが成長して部材の破壊へと至る。金属素材の表面に圧縮残留応力を付与すると、クラックの発生が抑制され、疲労寿命が増大する。 表面に23MPa以上の圧縮残留応力を与えると、疲労特性が向上する。一方、圧縮残留応力が184MPaを超えると却って疲労特性が低下する。そこで、圧縮残留応力値を23MPa以上、184MPa以下に規定する。 【0008】 (2)表面粗さ 表面の凹は切り欠きとして作用し、この凹部で疲労クラックが優先的に発生する。したがって、表面の粗さを小さくすると、疲労寿命が延びる。 表面の最大谷深さRvが0.93μmを超えると疲労寿命の低下が著しくなる。そこで、Rvを0.93μm以下に規定する。より好ましくは0.5μm以下である。 【0009】 (3)介在物 この合金系は析出硬化型であるため、マトリックス中に析出物が存在する。この合金に必要な強度を得るための析出物は微細であるが、4μmを超える粗大な析出物、晶出物等の介在物は強度に寄与しないばかりか、特に大きさが10μmを超える粗大なものは曲げ加工性、エッチング性、めっき性を著しく低下させ、クラックの伝播を促進させる原因と考えられ、疲労寿命が低下する。 ここで本発明において、「介在物」とは、鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物、硫化物等、更には、鋳造時の凝固過程以降、すなわち凝固後の冷却過程、熱間圧延後、溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり、本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。 「介在物の大きさ」および「介在物の個数」は例えば以下の手順で測定される。材料の圧延方向に平行な断面を鏡面研磨後に、47°ボーメの塩化第二鉄溶液で2分間エッチングを行う。その後、チャージアップを防ぐために観察面にカーボンを蒸着させたものを観察試料とする。当該試料に対し、走査型電子顕微鏡を用いて試料の多数箇所で倍率が700倍の2次電子像を撮影する。「介在物の大きさ」は2次電子像に観察される介在物を含む最小円の直径をいう。「介在物の個数」とは、これら2次電子像に観察される介在物個数を実際に数えた単位平方mm当たりの介在物個数である。また、「介在物の大きさ」毎に「介在物の個数」を数え、分級することにより、それぞれの「介在物の大きさ」毎の「介在物の個数」がわかる。 大きさが4μmを超える介在物の個数が86個/mm^(2)を超えると疲労強度が著しく低下する。そこで4μmを超える介在物の個数が86個/mm^(2)以下となるように規定する。 【0010】 (4)銅合金の組成 1)Ni濃度:NiはCuマトリックス中にSiとの金属間化合物を形成して析出し、導電率の低下を抑えて強度を大幅に向上させる。その添加量を1.0?4.5%に規定した理由は、1.0%未満では析出量が少なく充分な強度が得られず、4.5%を超えると鋳造又は熱間加工時に強度向上に寄与しない析出物が生成し、添加量に見合う強度が得られないばかりか、熱間加工性や曲げ加工性に悪影響を及ぼし、又晶出物や析出物が粗大化してリードフレーム端面から突出して貴金属めっきの密着性を悪化させる為である。 【0011】 2)Si濃度:Siは導電性に悪影響を及ぼすことなくNiと反応してNi_(2)Si組成の化合物を生成する。従ってNiの添加量が決まると最適なSi添加量が決まる。Siの添加量を0.2?1.2%に規定した理由は、0.2%未満では、Niの場合と同様に充分な強度が得られず、1.2%を超えるとNiの場合と同様の種々の問題が生じる為である。 【0012】 3)Mg濃度:Mgは応力緩和特性を向上させるが、めっきの耐熱剥離性を劣化させる成分である。Mg添加量を0.05?0.3%とする理由は、0.05%未満では応力緩和特性を改善する事ができず、0.3%を超えるとめっきの耐熱剥離性が低下するためである。 【0013】 4)P濃度:PはMg-P系、Ni-P系またはNi-Mg-P系のP化合物によるピン留め効果により結晶粒成長を抑制して結晶粒を微細化する。その添加量は0.01%未満では効果がなく、0.5%を超えると熱間加工性が低下するとともに導電性が著しく低下するためである。 【0014】 5)Sn濃度:銅合金をコネクターなどの電子材料に用いる場合に、材料の表面にめっきを実施する場合がある。このめっきはSnめっきが多く当該材料をスクラップとして回収し再利用する場合には、Snを含有させない場合には除去するために精錬工程が必要となり、製造上のコストが上がり好ましくない。また、Snを含有することにより強度が高くなる事も期待されるが、その添加量は0.01%未満では効果がなく、1.5%を超えると導電率が低下するためである。 【0015】 6)Zn濃度:Znは銅合金に錫めっきを行った場合、錫めっき層の耐熱剥離性などの耐熱性を向上させるが、その添加量は0.01%未満では効果がなく、1.5%を超えると導電率が低下させるためである。 【0016】 【0017】 次に、この合金を得るための製造方法について説明する。 通常鋳塊の製造は、半連続鋳造法で行なわれる。半連続鋳造における鋳造時の凝固過程においてNi-Si系の粗大な晶出物及び析出物が生成することがある。これら粗大な介在物は800℃以上の温度で1時間以上加熱後に熱間圧延を行ない、終了温度を650℃以上とすることにより、マトリックス中に固溶される。しかし加熱温度が900℃以上になると大量のスケールの発生、熱間圧延時の割れの発生といった問題が生じるため、加熱温度は800℃以上900℃未満とするのがよい。 【0018】 時効処理で高強度の材料を得るため、時効処理の前に溶体化処理を行うことも可能であり、溶体化処理温度が高い方がNi、Siのマトリックス中への固溶量が増加し、時効処理時にマトリックス中からNi-Si系の金属間化合物が微細に析出し、より強度を向上させる。この効果を得るために溶体化処理温度は、750℃以上、好ましくは800?950℃とするのが望ましい。なお、本発明の銅合金は950℃であれば、Ni、Siがマトリックス中に十分固溶されるが、950℃を超える温度では、溶体化処理時に材料表面の酸化が激しく、酸化層を除去するための、酸洗工程の負荷が大きくなるため950℃以下の処理温度が推奨される。 また、時効処理後の強度を一層向上させるため、時効処理前に冷間圧延を行うが、その加工度は大きい程より高い強度が得られる。その加工度は本発明の銅合金に要求される強度、加工性に応じて適宜選択される。 【0019】 時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが、時効処理温度は300?650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく、650℃を越えるとNi-Si粒子は粗大化し、更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい、強度及び電気伝導性が向上しないためである。300?650℃の範囲で時効処理する際、時効処理時間は、1?10時間であれば十分な強度、電気伝導性が得られる。 なお、本発明の銅合金において、更に強度を向上させるため、時効処理後に冷間圧延し、その後熱処理(歪取り焼鈍)を行うことも可能である。 【0020】 表面の粗さの調整は、例えば、圧延、研磨などにより行うことが出来る。実操業においては表面粗度を調整した圧延ロール等を用いて圧延することにより、本銅合金の表面粗度を調整することが出来る。また、圧延後の工程で材料表面に対して例えば、目の粗さが違うバフ研磨を実施することにより材料の表面粗度を調整することも可能である。 材料表面の残留応力の調整は、最終冷間圧延での圧延ロール直径および1回の通板での加工度を調整することにより達成される。すなわち、ロールの直径を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行し、1回の通板での加工度を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。 【実施例】 【0021】 (1)実施例1 高周波溶解炉にて各種成分組成の銅合金を溶製し、厚さ20mmのインゴットに鋳造した。次に、NiおよびSiをマトリックス中に十分固溶させるためにこのインゴットを加熱温度800℃以上900℃未満の温度で2時間以上加熱した後、厚さ8mmまで終了温度が650℃以上となるように熱間圧延を行った。次いで、表面のスケール除去のため面削を施した後、冷間圧延により厚さ3mmの板とした。その後、400から600℃の温度で5時間の焼鈍を行い、ここで、再度表面のスケール除去のため面削した後、冷間圧延により厚さ0.5mmの板とした。次いで850?950℃の温度で10分間の溶体化処理を行った後、0.2mmまで冷間圧延した。そして400?600℃の各組成で最高の温度が得られる温度で各5時間の時効処理を行った。 【0022】 また、材料表面の残留応力を調整するために、最終冷間圧延での圧延ロール直径および1回の通板での加工度を調整した。すなわち、 1)圧延ロール:直径50mm、100mm、200mmのものを準備した。ロールの直径を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。 2)加工度:1回の通板での加工度を小さくする、すなわち0.5mmから0.2mmまで圧延する過程での圧延機への通板回数を増やすと、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。 【0023】 加工後の試料について、引張試験、導電率、応力緩和、表面最大谷深さおよび残留応力測定、疲労試験を行った。 (a)引張試験および導電率測定 JIS Z 2241に準じ、JIS13B号引張試験片を用い、圧延方向と平行に引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。電気伝導性はJIS H 0505に準拠した四端子法により測定した導電率(%IACS)により評価した。 (b)応力緩和率測定 応力緩和特性は150℃の大気中で、0.2%耐力の80%の曲げ応力(σ)が負荷されるように式(1)よりもとめた変位量だけ曲げた状態で、1000時間保持した後の応力緩和率を%で評価した。 y=(2×σ×L^(2))/(3×E×t) … 式(1) (E:ヤング率(=120GPa)、t:板厚、L:ばね長、y:変位量) (c)表面最大谷深さRv JIS B 0601に準じ測定した粗さ曲線の谷底線の値を最大谷深さRvとした。 【0024】 (d)残留応力 幅20mm、長さ200mmの短冊形試料を、試料の長さ方向が圧延方向と一致するように採取した。塩化第二鉄水溶液を用いて、片面側からエッチングして試料の反りの曲率半径を求め、残留応力を算出した。この測定を表裏両面よりエッチング量を変化させて行い、図1に示すような厚み方向の残留応力分布曲線を得た(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社、(1988)、p.46)。この曲線より表面および裏面の残留応力値を求め、両値の平均を表面残留応力値と定義した。 【0025】 (e)疲労試験 JIS Z 2273に準拠し、両振り平面曲げの疲労試験を行った。幅10mmの短冊形試料を、試料の長さ方向が圧延方向と一致するように採取した。試料表面に付加する最大応力(σ)、振幅(f)および支点と応力作用点との距離(L)が、 L = √(3tEf/(2σ)) (t:試料厚み、E:ヤング率(=120GPa)) の関係になるように試験条件を設定した。試料が破断したときの回数(Nf)を測定した。測定は4回行い、4回の測定でのNfの平均値を求めた。 【0026】 【表1】 【0027】 表1に表面残留応力を変化させた各種Cu-Ni-Si系合金の疲労寿命を示す。表1の各試料とも、Rv=0.3?0.4μm、大きさが4μmを超える介在物個数を100個/mm^(2)以下に調整している。 表面に圧縮(負)の残留応力を与えると疲労寿命が長くなることがわかる。ただし、圧縮残留応力が184MPaを超えると、疲労寿命が低下している(No.9)。 【0028】 なお、残留応力値には、ロールの表面粗さ、潤滑油の種類、圧延の際の引張力、圧延する素材の機械的特性等、多くの要因が影響を及ぼす。したがって、今回パラメータとして変化させた圧延ロール直径および通板回数のみで、残留応力が一義的に決定されるものではないが、参考までにNo.2およびNo.6での条件を示すと、 No.2:ロール直径50mm、通板回数12回 No.6:ロール直径200mm、通板回数6回 であった。 【0029】 (2)実施例2 表2に示す組成に各種成分に調整した銅合金を実施例1と同じ製造条件で製造した。なお、各試料とも表面に圧縮(負)の残留応力(-100?-150MPa)を与え、Rv=0.3?0.4μm、大きさが4μmを超える介在物個数を100個/mm^(2)以下に調整した。 【0030】 【表2】 【0031】 本発明例16?20は優れた導電率および疲労特性を有していることが分かる。本発明例20はMgが含有されていないため、本発明例16?19に比べて応力緩和特性が劣っている。 これに対し、比較例21はP濃度が高く、また、比較例25はNiが多かったために熱間圧延で割れが発生したため、以降の加工を断念した。比較例22および23はそれぞれSnまたはZnの濃度が高く、導電率が低下した。比較例24は表面に圧縮(負)の残留応力値を与えたにも関わらず、NiおよびSiの量が少なく強度が低かったために疲労寿命が短かった。 【0032】 (3)実施例3 組成をCu-2.53%Ni-0.48%Si-0.16%Mgに調整したCu-Ni-Si系合金について、最終圧延でのロールの粗さを変化させ、表面の最大谷深さRvが異なる厚み0.15mmの試料を作製した。粗さ以外の製造条件は、実施例1と同じである。なお、各試料の残留応力は、-100?-150MPa(圧縮残留応力)の範囲に調整した。大きさが4μmを超える介在物個数を100個/mm^(2)以下に調整した。 試料の表面形態は最終圧延ロールの表面粗度を調整することにより調整した。すなわち、中心線平均粗さRaが0.5、1.0、1.5μmの同じロール直径(100mm)の圧延ロールを準備し、圧延時の圧下力を変えた。Raが小さいロールを使用して圧下力を下げると表面最大谷深さRvが小さくなり、Raが大きいロールを使用して圧下力を上げると、表面最大谷深さRvが大きくなる。 【0033】 【表3】 【0034】 表3に付加応力σを500MPaとしたときの疲労寿命を示す。Rvが大きいと疲労寿命が低下し、200万回未満となる。 【0035】 (4)実施例4 組成をCu-2.53%Ni-0.48%Si-0.16%Mgに調整したCu-Ni-Si系合金について、実施例1と同じ条件で0.2mmまで加工した。なお、4μm以上の介在物の個数が異なるように熱間圧延前の加熱温度、溶体化処理の温度を調整した。各試料のRvは0.4?0.5μmの範囲、残留応力は、-70?-80MPa(圧縮残留応力)の範囲に調整した。 【0036】 【表4】 【0037】 表4に付加応力σを500MPaとしたときの疲労寿命を示す。介在物の個数が86個/mm^(2)を超えると疲労寿命が低下することがわかる。 【図面の簡単な説明】 【0038】 【図1】板厚方向における残留応力の分布を示す図である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量百分率(%)に基づいて(以下、%と表記する)Ni:1.0?4.5%、Si:0.2?1.2%を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金からなり、表面に23?184MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さ(以下、Rvと表記する)が0.5μm以下であり、直径4μm以上の介在物が86個/mm^(2)以下であることを特徴とするCu-Ni-Si系合金部材。 【請求項2】 Mg:0.05?0.3%を含有する請求項1に記載のCu-Ni-Si系合金部材。 【請求項3】 P:0.01?0.5%を含有する請求項1又は2に記載のCu-Ni-Si系合金部材。 【請求項4】 Sn:0.01?1.5%を含有する請求項1?3のいずれかに記載のCu-Ni-Si系合金部材。 【請求項5】 Zn:0.01?1.5%を含有する請求項1?4のいずれかに記載のCu-Ni-Si系合金部材。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-02-15 |
出願番号 | 特願2003-283522(P2003-283522) |
審決分類 |
P
1
41・
851-
Y
(C22C)
P 1 41・ 853- Y (C22C) P 1 41・ 856- Y (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 近野 光知、伊藤 真明 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
田中 則充 長者 義久 |
登録日 | 2009-02-06 |
登録番号 | 特許第4255330号(P4255330) |
発明の名称 | 疲労特性に優れたCu-Ni-Si系合金部材 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |