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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C22C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C22C |
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管理番号 | 1253772 |
審判番号 | 訂正2011-390144 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2011-12-28 |
確定日 | 2012-02-23 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4408275号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4408275号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第4408275号(以下、「本件特許」という。)は、平成17年9月29日にした出願(特願2005-283649号)の請求項1?3に係る発明について平成21年11月20日に特許権の設定登録がなされ、平成23年12月28日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 第2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付の明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。 第3 訂正の内容 本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部分が訂正に係る部分である。)。 1.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、 「1.0?4.5質量%のNiと0.25?1.5質量%のSiを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなり、{111}正極点図において、以下の(1)?(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が2.0以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°、β=90±10° (2)α=20±10°、β=270±10° (但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸)」を、 「1.0?4.5質量%のNiと0.25?1.5質量%のSiを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなり、{111}正極点図において、以下の(1)?(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°、β=90±10° (2)α=20±10°、β=270±10° (但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸)」と訂正する。 2.訂正事項2 特許明細書の【0008】について、4行目の「2.0以上10.0以下」を、「5.5以上10.0以下」と訂正する。 第3 当審の判断 1.訂正の目的、新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に記載のCu-Ni-Si系合金について、{111}正極点図における(1)?(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値(以下、「極大値」という。)の下限値を、「2.0」から「5.5」に引き上げるものであって、請求項1の記載を引用する請求項2,3においても、同様に極大値の下限値を引き上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許明細書の【0006】には、本件特許に係る発明の解決しようとする課題が高強度を維持しつつ、曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金の提供であることが記載され、同【0013】?【0015】には、Cu-Ni-Si系合金の成分組成の規定理由が記載され、同【0016】、【0017】には、Cu-Ni-Si系合金の集合組織の規定理由が記載され、極大値が2.0未満であると、曲げ加工性を劣化させる方位の割合が少ないものの、溶体化処理の際、結晶粒径が粗大化するため、耐曲げ割れ性は良いが、所望の強度が得られず、曲げしわも大きくなり、一方、強度比の極大値が10.0を超えると、滑り変形がしにくい{123}<412>方位の割合が増加し、曲げ割れが発生しやすくなったり、曲げしわも大きくなったりすることが記載されている。 そして、特許明細書の【0023】?【0032】の記載によると、【表3】には、Mgを含有するCu-Ni-Si系合金Bであって、訂正後の請求項2に記載された発明に相当する極大値が5.5以上であるNo.3?7の実験例について、強度、及び曲げ加工性に優れていることが示されており、【表2】には、Sn、Znを含有するCu-Ni-Si系合金Aであって、訂正後の請求項3に記載された発明に相当する極大値が6.3以上であるNo.3?7の実験例についても、強度、及び曲げ加工性に優れていることが示されているとともに、MgやZn、Sn等が添加されない請求項1に記載のCu-Ni-Si系合金においても、極大値を2.0から10.0の間の適宜な数値範囲内に設定することにより、高強度を維持しつつ、曲げ加工性が良好な合金が得られるという課題解決がなされることも、【0013】?【0017】を含む特許明細書全体の記載から、当業者が十分に認識し得る事項である。 したがって、訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との記載に矛盾がないように明りょう化するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。 (3)まとめ よって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合する。 2.独立特許要件について 上記のとおり、本件訂正の訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明(以下、まとめて「本件訂正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものかどうかについて検討する。 すると、本件特許に係る出願は、拒絶理由を発見しないとして特許査定されたものであるところ、本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする新たな理由も見当たらない。 よって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金 【技術分野】 【0001】 本発明は銅合金に関し、より詳細にはコネクタ、端子、リレ-、スイッチ等の導電性ばね材に用いられる銅合金に関する。 【背景技術】 【0002】 近年の電子機器の軽薄短小化に伴い、端子、コネクタ等の小型化、薄肉化が進み、使用される電子材料用銅合金には以前にも増して、強度と曲げ加工性が要求されている。この要求に応じ、従来のりん青銅や黄銅といった固溶強化型銅合金に替わりCu-Ni-Si系のコルソン合金やチタン銅といった析出強化型銅合金が使用され、その需要は増加しつつある。析出強化型銅合金の中でもCu-Ni-Si系合金は高強度と比較的高い導電率を兼備する合金系であり、その強化機構は、Cuマトリックス中にNi-Si系の金属間化合物粒子が析出することにより強度を向上させたものである。 一般に強度と曲げ加工性は相反する性質であり、Cu-Ni-Si系合金においても、高強度を維持しつつ曲げ加工性を改善することが従来から望まれてきた。 【0003】 曲げ加工性改善の方法として特許文献1ではCu-Ni-Si系合金系にCoを添加し、溶体化条件を調整することで曲げ加工性を改善している。しかし、添加元素を増やす事は製造コストを増加させる恐れがあった。一方、結晶方位を制御する事で、曲げ加工性を改善する方法が、特許文献2で開示されている。この発明では、(200)面、(220)面、(311)面のX線回折強度をI_((200))、I_((220))、I_((311))として次式を満たす様な集合組織が形成されると曲げ加工性が改善されるとしている。 (I_((200))+I_((311)))/I_((220))≧0.5 【0004】 【特許文献1】特開平5-179377号公報 【特許文献2】特開2000-80428号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかし、I_((200))、I_((311))は再結晶時の粒径粗大化により増大すること、I_((220))は冷間圧延の加工度上昇により増大することを考慮すると、上式を満足するには結晶粒径の粗大化と冷間圧延の加工度低減が必要であり、これは強度低下を引き起こす。そのため、強度低下を引き起こす結晶粒径の粗大化や冷間圧延の加工度低減などの製造工程の調整を必要とせずに曲げ加工性を改善できる方法が望まれていた。 【0006】 本発明は、上記課題を解決することを目的とする。具体的には製造工程を調整し、集合組織を制御することで、高強度を維持しつつ、曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、X線ディフラクトメーターを用いたCu-Ni-Si系合金の集合組織の測定結果と曲げ加工性の相関を調査した。その結果、{111}正極点図上において{123}<412>方位を含む2つの領域内のX線強度の極大値を制御することで、曲げ加工性が改善できる事を見出した。すなわち、上記領域内の極大値を一定範囲内に制御したCu-Ni-Si系合金では、強度が同程度で他の集合組織を有するCu-Ni-Si系合金に比べて、耐曲げ割れ性が良好であり、曲げしわが低減される。 【0008】 (A)本発明は、上記知見に基づくものであり、1.0?4.5質量%のNiと0.25?1.5質量%のSiを含有し、残部が銅および不可避的不純物から実質的になり、{111}正極点図において、以下の(1)?(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金である。 (1)α=20±10°、β=90±10° (2)α=20±10°、β=270±10° 但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸回りの角度とする。 【0009】 (B)更に本発明はMgを0.005?0.3質量%含有する上記(A)に記載のCu-Ni-Si系合金である。 【0010】 (C)更に本発明はZn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Agのうち1種類以上を総量で0.005?2.0質量%含有する上記(A)、(B)に記載のCu-Ni-Si系合金である。 【発明の効果】 【0011】 以上のことから0.2%耐力が同程度のCu-Ni-Si系合金と比べて、本発明例のCu-Ni-Si系合金は、曲げ割れが発生しにくく、しかも、曲げしわも低減されていることから、高強度を維持しながら耐曲げ割れ性および曲げしわが改善された銅合金として端子、コネクタ等の用途に好適である。 【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 以下、本発明の成分組成並びに集合組織の規定理由を、その作用と共に詳述する。 【0013】 [NiおよびSi濃度] Ni及びSiは、時効処理を行うことにより、Ni_(2)Si金属間化合物として析出する。Ni_(2)Si粒子の析出は合金の強度を著しく向上させ、析出に伴い母材に固溶したNiおよびSiが減少することから導電性が向上する。ただし、Ni濃度が1.0質量%未満の場合、またはSi濃度が0.25質量%未満の場合は、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られない。また、Ni濃度が4.5質量%を超える場合、またはSi濃度が1.5質量%を超える場合は十分な強度が得られるものの、導電性が低くなり、更には強度の向上に寄与しない粗大なNi-Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相中に生成し、耐曲げ割れ性、エッチング性及びめっき性の低下を招く。よって、Ni濃度を1.0?4.5質量%、Si濃度を0.25?1.5質量%と定めた。 【0014】 [Mg濃度] Mgには応力緩和特性および熱間加工性を改善する効果があるが、0.005質量%未満では所望の効果が得られず、0.30%を超えると鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性及びめっき耐熱剥離性が低下する。よって、Mgの濃度を0.005?0.3質量%と定めた。 【0015】 [その他の添加物] Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Agは、Cu-Ni-Si系合金の強度及び耐熱性を改善する作用がある。また、これらの中でZnには、半田接合の耐熱性を改善する効果もあり、Feには組織を微細化する効果もある。更にTi、Zr、Al及びMnは熱間圧延性を改善する効果を有する。この理由は、これらの元素が硫黄との親和性が強いため硫黄と化合物を形成し、熱間圧延割れの原因であるインゴット粒界への硫化物の偏析を軽減するためである。Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Agの濃度が総量で0.005質量%未満であると上記の効果は得られず、総含有量が2.0質量%を超えると導電性が著しく低下する。そこで、これらの含有量を総量で0.005?2.0質量%と定めた。 【0016】 [集合組織] 一般に集合組織とは加工、熱処理によって形成される結晶方位の統計的な偏りであり、加工条件、熱処理条件に大きく依存している。本発明者らはX線ディフラクトメーター(株式会社リガク製RINT2500)により製造工程の異なるCu-Ni-Si系合金の集合組織を測定し、Cu-Ni-Si系合金の集合組織と曲げ加工性(耐曲げ割れ性および曲げしわ)の関係を調査した。その結果、両者には相関があり、集合組織の中でも{123}<412>方位の形成が耐曲げ割れ性および曲げしわの大きさと密接な関係があることを見出した。なお、{111}正極点図上で{123}<412>方位はα=22°、β=90°およびα=22°、β=270°に対応する。ここで、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸回りの角度、β:前記回転軸に平行な軸回りの角度である。 【0017】 {123}<412>方位の強度を抑制することで、耐曲げ割れ性および曲げしわが改善される理由は明確でないが、{123}<412>方位がCu-Ni-Si系合金の圧延変形の安定方位であり、他の結晶方位を持つ場合に比べ、すべり変形がしにくいことが原因の一つと考えられる。α、βの範囲を特許請求の範囲の(1)、(2)の様に定めた理由は、加工、熱処理条件および測定誤差等から{123}<412>方位に対応するX線強度比のピーク位置が変動することを考慮し、決定した。また、強度比の極大値を2.0以上10.0以下に定めた理由を以下に示す。強度比の極大値が2.0未満であると、耐曲げ割れ性は良いが、所望の強度が得られず、曲げしわも大きくなる。これは、極大値が2.0未満となる材料では、曲げ加工性を劣化させる方位の割合が少ないものの、溶体化処理の際、結晶粒径が粗大化するためである。一方、強度比の極大値が10.0を超えると、{123}<412>方位の割合が増加し、曲げ割れが発生しやすくなったり、曲げしわも大きくなったりする。そこで、強度比の極大値を2.0以上10.0以下に定めた。 【0018】 Cu-Ni-Si系合金の一般的な製造工程は、高周波溶解炉でインゴットを溶製後木炭被覆下で、電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延を行い、冷間圧延と熱処理を繰り返して、所望の厚み及び特性を有する条や箔に仕上げる。熱処理には溶体化処理と時効処理がある。溶体化処理では、700?1000℃の高温で加熱して、Ni-Si系化合物をCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもある。時効処理では、350?550℃の温度範囲で1h以上加熱し、溶体化処理で固溶させたNiとSiを、Ni_(2)Siを主体とする微細粒子として析出させる。この時効処理で強度と導電性が向上する。より高い強度を得るために、時効処理前及び/又は時効処理後に冷間圧延を行うことがある。また、時効処理後に冷間圧延を行う場合には、冷間圧延後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行うことがある。 【0019】 一連の工程の中で集合組織の制御に重要な影響を及ぼす工程は溶体化処理前の冷間圧延と溶体化処理であった。Cu-Ni-Si系合金の耐曲げ割れ性および曲げしわに悪影響を及ぼす{123}<412>方位は溶体化処理時に形成される集合度の高い再結晶集合組織が最終冷間圧延の際、格子回転により結晶方位が変化することで形成される。即ち、溶体化処理時に形成される再結晶集合組織の集合度を低く抑えることが{123}<412>方位の集合度の抑制に重要であった。再結晶集合組織の集合度は溶体化処理前の加工度および板厚減少率を調整し、溶体化処理を適切に行なうことで2.0?10.0の範囲に制御できる。以下に溶体化処理前の冷間圧延および溶体化処理の条件を詳述する。 【0020】 (A)溶体化処理前の冷間圧延:溶体化処理前に行われる冷間圧延の加工度は40%以上80%未満で行い、かつ、1回の圧延パスにおける板厚の減少量と初期板厚(熱延後の板厚)の比を板厚減少率とし、これを25%以内とする。冷間圧延加工度が40%未満であると、集合度が2.0未満となり、耐曲げ割れ性は良好であるが、強度が低下し、曲げしわも大きくなる。一方、冷間圧延加工度が80%以上であると、冷間圧延により形成された集合度の高い変形集合組織が、溶体化処理時の再結晶により、再結晶集合組織へと変化し、その後の冷間圧延時の格子回転により{123}<412>方位の集合度が10.0を超える。このため、耐曲げ割れ性が劣化し、曲げしわも大きくなる。また、板厚減少率が25%を超えると、冷間圧延の加工度が規定範囲内であっても、集合度の高い変形集合組織が形成され、集合度が10.0を超えるため、耐曲げ割れ性が劣化し、曲げしわも大きくなる。 【0021】 (B)溶体化処理:溶体化処理温度は720℃以上900℃未満で行い、処理時間(材料保持時間)は300秒未満とする。処理温度が720℃未満では、固溶するNi及びSiの量が不十分で、時効処理後の強度が低下する。さらに、集合度が10.0を超え、曲げしわが大きくなる。一方、処理温度が900℃以上であると結晶粒の粗大化により、集合度が2.0未満となり、強度が低下し、曲げしわも大きくなる。また、処理時間が300秒以上でも結晶粒が粗大化するため、強度が低下し、曲げしわも大きくなる。 【0022】 (C)溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延(以下、圧延Aとする。)、時効処理後の冷間圧延(以下、圧延Bとする。)、および時効処理:圧延Aおよび圧延Bの加工度、時効処理の温度および時間は本発明の集合組織が得られるならば任意に設定して構わない。また、時効処理に関しては本発明例の合金では時効温度を350℃以上550℃未満とし、時効時間を1時間以上10時間未満とすることが適当である。 【実施例】 【0023】 以下、本発明の特徴及び本発明を実施するための最良の形態をより明らかにするために、実施例を用いて具体的に説明する。実施例の実験は次の2種類の合金を用いて行なった。 合金A:Cu-1.6質量%Ni-0.35質量%Si-0.5質量%Sn-0.4質量%Zn 合金B:Cu-2.5質量%Ni-0.5質量%Si-0.1質量%Mg 【0024】 高周波誘導炉を用い、内径60mmの黒鉛るつぼ中で、2kgの電気銅を溶解し、Ni、Si、Mg、SnおよびZnを添加して、溶湯成分を調整した。溶湯を1200℃に調整した後、板厚30mm×幅60mm×長さ120mmのインゴットを鋳造した。次に、このインゴットを以下の順に加工・熱処理し、板厚0.3mmの試料を得た。 (1)インゴットを800℃で3時間加熱後、表1の所定の板厚まで熱間圧延した。 (2)熱延材表面の酸化スケールをグラインダーで除去した。 (3)表1に示される所定の条件で冷間圧延し、板厚を1mmに仕上げた。 (4)溶体化処理として表1の所定の温度で30秒間加熱し水中で急冷した。 (5)化学研磨により表面酸化膜を除去した。 (6)板厚0.3mmまで冷間圧延した。 (7)時効処理として水素中で450℃で5時間加熱した。 (8)化学研磨により表面酸化膜を除去した。 【0025】 【表1】 【0026】 このように作製した試料について、次の評価を行った。 (A)X線ランダム強度比の極大値:X線ディフラクトメーター(株式会社リガク製RINT2500)により、各試料の{111}正極点測定を行い、{111}正極点図を作製した。反射法では試料面に対するX線の入射角が浅くなると、測定が困難になることから、実際に測定できる角度範囲は正極点図上で0°≦α≦75°、0°≦β≦360°となる。本測定では、αとβの回転間隔Δα、Δβを5°として前述の角度範囲内を走査し、16×73=1168点のX線強度を測定した。この際に、集合組織を有しない状態即ち結晶方位がランダムである状態を1として正極点図を規格化した。結晶方位がランダムな状態として、銅粉末試料の{111}正極点測定結果を用いた。なお、X線照射条件はCo管球を使用し、管電圧30KV、管電流100mAとした。図1の(1)および(2)の領域に含まれる50点の中からX線強度の極大値を選択し、合金A、合金Bともに極大値が2.0以上10.0以下の場合を○、それ以外の場合を×と判定した。 【0027】 (B)0.2%耐力:引張方向が圧延方向と平行になるようにプレスを用いてJIS13B号試験片を作製し、引張試験を行い0.2%耐力を測定した。合金Aについては、0.2%耐力が650MPaを超える場合を、合金Bについては、0.2%耐力が700MPaを超える場合を強度が良好と判定した。 【0028】 (C)耐曲げ割れ性:曲げ軸が圧延方向と平行(BadWay)になるように幅10mm×長さ30mmの短冊試験片を採取した後、W曲げ試験(JIS H 3130)を行い割れの発生しない最小曲げ半径MBR(Minimum Bend Radius)と板厚tの比MBR/tにより評価した。合金Aについては、MBR/tが0.5以下の場合を、合金Bについては、MBR/tが1.0以下の場合を耐曲げ割れ性が良好と判断した。 【0029】 (D)曲げしわの幅:W曲げ試験において、最小曲げ半径で曲げ加工された試験片の曲げ凸部表面に観察されるしわのSEM像を写真撮影した後、写真上でしわの幅の測定を行い、試験片内での最大のしわ幅を求めた。これを、各供試材で3つの試験片について行い、平均値をしわ幅とした。合金A、合金Bともに、しわ幅が30μm以下の場合をしわ幅が小さいと判断した。 【0030】 表2は、表1の条件で製造した合金Aの評価結果であり、表3は表1の条件で製造した合金Bの評価結果である。0.2%耐力は合金Bの方が高く、耐曲げ割れ性は合金Aの方が良好であるが、製造条件が特性に及ぼす影響は合金A、Bともに同様である。即ち、表2および表3に示される様に、本発明によれば、高強度を維持しつつ、耐曲げ割れ性が良好で、曲げしわが低減された合金を得ることが出来る。(表1No.1?7) 【0031】 【表2】 【0032】 【表3】 【0033】 一方、比較例No.8は溶体化前の圧延加工度が発明例に比べて低いことから、集合組織の極大値が2.0未満となり、強度が低下し、耐曲げ割れ性は良好であるが、曲げしわの幅が30μmを超えた。No.9は溶体化前の圧延加工度が発明例に比べて高いことから、集合組織の極大値が10.0を超え、発明例に比べて耐曲げ割れ性が劣り、曲げしわの幅も30μmを超えた。 【0034】 比較例のNo.10は板厚減少率が発明例に比べて高く、集合組織の極大値が10.0を超え、発明例に比べて耐曲げ割れ性が劣り、曲げしわの幅も30μmを超えた。比較例のNo.11は溶体化処理の温度が発明例に比べて低いため、集合組織の極大値が10.0を超えた。この結果、耐曲げ割れ性は良好であったものの、曲げしわの幅が30μmを超え、固溶するNiおよびSi量が少ない事から発明例に比べて強度が劣った。 【0035】 比較例のNo.12は溶体化処理の温度が発明例に比べて高く、溶体化の際、結晶粒は粗大化し、集合組織の極大値は2.0未満であった。そのため、耐曲げ割れ性は良好であったが、曲げしわの幅は30μmを超え、発明例に比べて強度が劣った。 【図面の簡単な説明】 【0036】 【図1】規定された{111}正極点図上に規定される(1)、(2)の2つの領域に関する説明図である。 【符号の説明】 【0037】 RD 試料の圧延方向 TD 試料の横方向 α シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸 β 前期回転軸に平行な軸 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 1.0?4.5質量%のNiと0.25?1.5質量%のSiを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなり、{111}正極点図において、以下の(1)?(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°、β=90±10° (2)α=20±10°、β=270±10° (但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸) 【請求項2】 Mgを0.005?0.3質量%含有する請求項1に記載のCu-Ni-Si系合金。 【請求項3】 Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Agのうち1種類以上を総量で0.005?2.0質量%含有する請求項1および2に記載のCu-Ni-Si系合金。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-02-15 |
出願番号 | 特願2005-283649(P2005-283649) |
審決分類 |
P
1
41・
851-
Y
(C22C)
P 1 41・ 856- Y (C22C) P 1 41・ 853- Y (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 相澤 啓祐 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
田中 則充 長者 義久 |
登録日 | 2009-11-20 |
登録番号 | 特許第4408275号(P4408275) |
発明の名称 | 強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |