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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1253969
審判番号 不服2007-19731  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-13 
確定日 2012-03-14 
事件の表示 特願2002-582109「ポリマー及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月24日国際公開、WO2002/83760、平成16年10月21日国内公表、特表2004-532314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年4月10日(パリ条約による優先権主張 2001年4月11日 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする特許出願であって、平成15年11月19日に手続補正書が提出され、平成18年9月20日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年4月11日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年7月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月19日に2通の手続補正書(補正対象:明細書及び審判請求書)が提出され、前置審査において同年10月9日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成20年4月16日に2通の手続補正書(補正対象:いずれも明細書)が提出され、同年5月14日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成21年6月16日付けで審尋され、同年9月3日に回答書が提出され、平成22年1月21付けで拒絶理由が通知され、同年7月26日に意見書及び誤訳訂正書が提出され、平成23年2月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成23年9月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7にそれぞれ記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
第1繰返し単位と前記第1繰返し単位に隣接する第2繰返し単位を含むポリマーの製造方法であって、
第1繰返し単位を構成する第1モノマーを第2繰返し単位を構成する第2モノマーと重合反応させる工程を含み、
前記第1モノマーが下記式で示される単位を有し、かつ、各モノマーの重合部位に1つの反応性ハロゲン官能基を有し、

(但し、上記式において、R"は、水素、分岐又は直鎖C_(1-20)アルキル又はアルコキシから選択される)
前記第2モノマーが、任意に置換されたフルオレンであり、かつ、ボロン酸基、ボロンエステル基、ボラン基から選ばれる1つの反応性ボロン誘導体基を各モノマーの重合部位に有し、
前記第1と第2モノマーは金属配位錯体触媒の存在のもとにモノマーを重合する条件下で重合される前記製造方法。
【請求項2】
前記第2モノマーを構成するフルオレンが、9,9-ジアルキルフルオレン、9,9-ジアリールフルオレン、9,9-スピロフルオレン及びインデノフルオレンから選ばれる、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記第2モノマーを構成するフルオレンが、9,9-ジオクチルフルオレンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の方法により製造される、エレクトロルミネッセント装置に使用されるポリマー。
【請求項5】
エレクトロルミネッセント装置における発光ポリマーとして使用されるとき360nmから490nmまでの波長を有する光を放射することができる、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法により製造されるポリマー。
【請求項6】
基板及び基板に支持された組成物を含むエレクトロルミネッセント装置において、前記組成物が請求項4又は5に記載のポリマーを含むエレクトロルミネッセント装置。
【請求項7】
(a)正電荷注入のための第1電荷注入層
(b)負電荷注入のための第2電荷注入層
(c)光を生じさせるために、第1及び第2電荷注入層からの正電荷及び負電荷を受領し結合させるための発光層、及び
(d)第1電荷注入層及び発光層との間、又は第2電荷注入層と発光層との間に選択的に配置される1又は2以上の電荷輸送層であって、ここで、前記発光層及び/又は前記1又は2以上の電荷輸送層の1又は2以上は請求項4又は5に記載のポリマーを含むエレクトロルミネッセント装置。」

3.拒絶理由の概要
当審において平成23年2月22日付けで通知した拒絶理由の理由1は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願は特許を受けることができないというものである。

4.拒絶理由の妥当性
そこで、請求項1に係るポリマーの製造方法の発明、及び、請求項4及び5に係るポリマーの発明について、本願明細書に記載された発明であるかどうかについて検討する。

本願明細書には、ポリマーについて以下の記載が認められる。
a.「従来の技術を見ると、光学装置、特にエレクトロルミネッセント装置の使用に適した新しい電荷輸送ポリマーを提供する必要性が依然として存在する。好ましくは、新しいポリマーは、装置中に使用される際、効率の増大、寿命の改善及び恐らく輝度の増加のような改良された性質を有することになろう。
本発明の目的は、少なくとも部分的にこのような要請に応え、そのようなポリマーを提供することにある。」(段落0015?0016)

b.「したがって、第1の側面においては、本発明は、Ar^(h)X_(2)からなる第1の繰返し単位であって、Ar^(h)は、置換又は未置換ヘテロアリール基からなり、各Xは同じか又は異なり独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基からなる第1の繰返し単位と、第1の繰返し単位に隣接し、ポリマー主鎖の主要部の一部である各Xが第2の繰返し単位に直接共役している、第2の繰返し単位とを含むポリマーを提供する。
……
各第1の繰返し単位は各Xを通して第2の繰返し単位と直接的に共役している。第2の繰り返し単位は第1の繰返し単位と同じか又は異なり得る。……。第1及び第2の繰返し単位が異なるとき、Xは第2の繰返し単位のアリール基と共役している。好ましい第2の繰り返し単位は、場合により置換されたフェニレン、フルオレン、ヘテロアリール及びトリアリールアミンである。
特に好ましいフルオレン繰返し単位は、2,7-結合9,9ジアルキルフルオレン、2,7-結合9,9ジアリールフルオレン、2,7-結合9,9-スピロフルオレン及び2,7-結合インデノフルオレンを含む。」(段落0017?0020)

c.「本発明のポリマー中に上記で定義される繰り返し単位を組み込むことにより、ポリマーの魅力的な物理的及びプロセス特性、並びに、ポリマーのバンドギャップを緩和するための合成上のアリール若しくはヘテロアリール基及びその置換基を選択する能力を有する材料が得られることを見出した。これは、特に光学装置の設計において重要な特徴である。第1に、ポリマーのバンドギャップは、上記装置からの放射光の波長を制御する。さらに、ポリマーが電荷輸送材料として使用されるとき、装置の量子効率は、ポリマーのHOMO及び/又はLUMOレベルのカソード及びアノード並びに装置の発光材料との適合具合に依存する。
……。本発明のポリマーを含む装置は、当技術分野における公知のポリマーを含む装置に比較して、低い駆動電圧下の光学装置において、同じ又はそれ以上の効率、輝度及び寿命を有し得る。」(段落0029?0031)

d.「上記で定義される繰返し単位を本発明のポリマーに含ませることは、エレクトロルミネッセント装置に使用されるポリマー中の電荷、特に電子の輸送用繰返し単位として望ましいことが見出された。WO98/11150に開示されているポリマーに比較して、ポリマーにおいて、共役度、特に、隣接する繰返し単位間での共役度がより大きいと、ポリマー主鎖に沿った改良された電荷輸送をもたらす。
……
本発明のポリマーはポリマー主鎖に沿って部分的に共役しており、特に、隣接する繰返し単位間で少なくとも共役している。好ましくは、それは実質的に、又は完全にさえ共役している。ポリマー主鎖に沿った共役度の選択はポリマーのHOMO及びLUMOレベル、したがって電荷輸送特性を制御する1つの方法であると考えられる。」(段落0034?0036)

e.「他のヘテロアリール基も好ましい場合もあるが、本発明の発明者は、少なくとも1つのV族原子、好ましくは窒素原子を含む置換又は未置換のへテロアリール基をAr^(h)が含む場合に本発明の特に有利なポリマーが得られることを発見した。これは、ヘテロアリール基の環内に窒素原子が存在すると、環が非常に電子欠損となるため、電子注入を受け易くなるので好ましい。
この効果は、ヘテロアリール基の環にさらに窒素原子を含むことによって増大しえる。したがって、ポリマーのHOMO及びLUMOレベルを制御する能力を高めるために、Ar^(h)は2窒素原子以上、好ましくはトリアジン基を含有することが好ましい。
Ar^(h)は、2つのX基に加えて、少なくとも1つのさらなる置換基を含有することが好ましい。これに関連して、特に、Ar^(h)が6員環を含むとき、Ar^(h)は2,4,6トリ置換ヘテロアリール基を含有することが好ましい。
Ar^(h)が少なくとも1つのさらなる置換基を含有するとき、第1の繰返し単位は、各Xが上記で定義されるAr^(h)X_(3)を含有することが好ましい。Ar^(h)がポリマー主鎖の部分であるとき、Ar^(h)X_(3)は次の式(1)で表されるポリマー主鎖に好ましくは組み込まれる。

ポリマー主鎖においてAr^(h)基の両側にX基を有するこの構造は、ポリマー主鎖に沿って望ましい共役度をもたらすので好ましい。上述したように共役度はポリマーのHOMO及びLUMOレベル、バンドギャップ及び量子効率を選択するのに用いることができる。典型的には、共役の増大はバンドギャップの低減をもたらすことになろう。
X基の性質も、ポリマーの性質を選択するためにある程度用いることができる。特に、これらは、ポリマーのHOMO及びLUMOレベル、したがって、ポリマーのバンドギャップ及び量子効率に影響を与えるために使用し得る。
上述したように、X及びX^(1)は同じか異なり得る。しかしながら、ポリマーの製造及び合成を容易にするために、典型的には、X及びX^(1)は同じになることが予想される。
ポリマーのHOMO及びLUMOレベルを変える能力を最適化するために、第1の繰返し単位がAr^(h)XX^(1)X^(2)を含むとき、X^(2)はX及びX^(1)とは異なり得る。しかしながら、これは必須ではない。実際、もしポリマーが望ましいHOMO及びLUMOレベルを有し、したがって望ましいバンドギャップと量子効率が得られるならば、X^(2)はX及びX^(1)と同じであることが望ましいことが予想される。X^(2)もポリマーの溶解性を高めるために使用し得る。これに関連して、X^(2)基は可溶化基でもよい。
X,X^(1)及びX^(2)は置換又は未置換でもよい。有用なことは、置換基はポリマーの溶解性を改善するために用い得る。これに関連して、置換基は可溶化基でもよい。これに加えて、置換基はポリマーのHOMO及びLUMOレベル、及び、したがって、ポリマーのバンドギャップをさらに制御するために用い得る。これらの目的のために、電子吸引性又は電子供与性置換基が適切である。特に好ましい置換基は、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルコキシ及び置換又は未置換アリール及びヘテロアリール基である。特に好ましい置換基はペルフルオロアルキル(好ましくはCF_(3))及びペルフルオロアルコキシである。
X及びX^(1)について再び言及すると、それぞれは独立して、置換又は未置換フェニル基からなることが好ましい。
これに関連して、本発明のポリマーにおいて特に好ましい第1の繰り返し単位は、次式(2)で示される。

ここで、X^(2)は上記のように定義される。
好ましくは、X^(2)は、また、置換又は未置換フェニル基からなる。したがって、式(2)で示される式を有する特に好ましい第1繰返し単位は、次式(3)で示される。

上記で示される繰返し単位(2)及び(3)は、置換又は未置換でもよい。特に、R"は、水素、又は選択的に置換された分岐又は直鎖C1-20アルキル又はアルコキシから選択される。」(段落0038?0051)

f.「上述したように、本発明のポリマーは、光学装置における正孔輸送、電子輸送及び/又は発光に有用であると予想される。これに関して、本発明のホモポリマーは、特に電子輸送ポリマー又は発光ポリマーとして有益であることが予想される。さらに、アリール、例えば特にフルオレン繰返し単位を含む本発明のコポリマー又はさらに高次のポリマーは、特に電子輸送ポリマー又は発光ポリマーとして有益であることが予想される。このようなコポリマー又はより高次のポリマーは、約2.9evにおいてCaのような通常のカソード材料の範囲におけるLUMOエネルギーレベルを有することが予想される。
上記で定義される第1の繰返し単位の性質によって、本ポリマーが光学装置における発光ポリマーとして使われるとき、これに限定されるわけではないが、これらは「青色」光の光源として顕著に有益であることが予想される。本発明の目的においては、「青色」光は360nmから490nmまでの波長を有する光として定義される。好ましくは、本発明のポリマーは重合度少なくとも3を有する.好ましくは、本発明のポリマーは平均分子量が少なくとも、m_(n)=10,000である。」(段落0052?0053)

また、ポリマーの製造方法については以下の記載が認められる。
g.「本発明の第4の側面においては、モノマーがポリマーを形成する重合が行われる条件で、第1のモノマーを第1のモノマーと同じか異なり得る第2のモノマーと反応させる段階からなる本発明の第1の側面で定義されたポリマーを得る方法が提供される。
例えば、Suzuki et al、Synth. Comm. 1981、11、53に開示されているスズキ重合を含む、本発明にしたがってポリマー製造する際に使用し得るいくつかの異なる重合方法が知られている。これには、モノマーのアリール部分同士のパラジウム触媒によるカップリングを伴う。
1つの特に適切なスズキ重合プロセスは、国際特許公開WO00/53656において開示されているが、この内容は、引用例として本明細書に組み込まれる。この文献には、(a)ボロン酸基、ボロンエステル基及びボラン基から選ばれる少なくとも2つの反応性ボロン誘導体基を有する第1の芳香族モノマー、並びに、少なくとも2つの反応性ハロゲン官能基を有する第2の芳香族モノマー、又は(b)1つの反応性ハロゲン官能基及びボロン酸基、ボロンエステル基、及びボラン基から選ばれる1つの反応性ボロン誘導体基を有する第1の芳香族モノマー、並びに1つの反応性ハロゲン官能基及びボロン酸基、ボロンエステル基及びボラン基から選ばれる1つの反応性ボロン誘導体基を有する第2の芳香族モノマーからなる反応混合物において重合することからなるポリマーを得るプロセスが記載されている。ここで、反応混合物は、芳香族モノマーの重合の触媒作用に適したパラジウム触媒の触媒量及び反応性ボロン誘導体官能基をBX'_(3)^(-)アニオン基に変換するに十分な量の塩基からなり、X'はF及びOHからなる群から独立して選ばれる。
上記プロセス中のパート(b)の第1及び第2モノマーは、同じか異なり得る。
このプロセスによって製造された本発明のポリマーは特に有利である。これは反応時間が短く、残りの触媒(例えば、パラジウム)レベルが低いためである。
他の重合方法が米国特許明細書5,777,070に開示されている。この方法は、無機塩基及び相転移触媒の存在のもとに、ボロン酸、C1-C6ボロン酸エステル、C1-C6ボラン及びこれらの組合せから選ばれる2つの反応基を有するモノマーを、芳香族ジハロゲン官能性モノマー若しくは1つの反応性ボロン酸を有するモノマー、ボロン酸エステル若しくはボラン基及び1つの反応性ハロゲン官能基と互いに接触させることを含む。
さらなる重合方法は、"Macromolecules" 31、1099-1103 (1998)から知ることができる。重合反応は、ニッケル媒体型ジブロミドモノマーのカップリングを含む。この方法は、通常、「ヤマモト重合法」として知られている。ヤマモト及びスズキ重合法は、両者ともモノマーのアリール部同士のカップリングによってポリマーを製造するので、本発明にしたがってポリマーを製造するのに適合する。」(段落0062?0067)

さらに、実施例として、以下の記載が認められる。
h.「本発明は、添付の図面を参照することにより、より詳細に理解される。
【実施例1】
本発明のポリマーの製造に適合するモノマーの製造
本発明のモノマーは、VP Borovik&VP Mamaev, "Convenient synthesis of 2-phenyl-4,6-bis(aminophenyl)-S-triazines"、Sib. Khim. Zh. (1991)、(4)、96-8に開示されている方法に従って、下記のスキームに示されているように製造された。

本発明のポリマーの製造
上記のように製造されたモノマーは、本発明のポリマーを製造するために国際特許公開WO00/53656に開示されている方法に従って、9,9-ジオクチルフルオレンジエステルと重合される。」(段落0070?0071)

○請求項1並びに請求項4及び5
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、ポリマーの製造方法に係る発明である。そして、本願明細書においては、ポリマーの製造方法について、上記摘示gのとおりの記載があるが、そこに記載される重合方法は、縮合のための単位反応について従来技術に基づく一般的な手法を紹介するに過ぎないものであり、本願発明1に係る第1モノマー及び第2モノマーに基づいたポリマーの製造方法をその反応条件とともに具体的に述べるものではない。
また、本願明細書には上記摘示hに記載のとおり「実施例」の記載がある。摘示hに示された実施例1の反応式により製造されるモノマーは、好意的に解釈すれば、本願発明1において第1モノマーとして示された式においてR"が分岐C_(4)アルキル(具体的にはs-ブチル)を選択し、結合部位にハロゲン官能基として2つのBrが結合した化合物に相当するものといえる。また、「9,9-ジオクチルフルオレンジエステル」はエステルが何であるか不明であるが、それをボロンエステル基と解釈するならば、本願発明1の第2モノマーといえなくもない。(ただし、2つのボロンエステル基が9,9-ジオクチルフルオレンのどこに置換しているのかは明らかではなく、実施例として具体性に欠けるものである。)
しかしながら、この実施例1の「本発明のポリマーの製造」には、重合について「国際特許公開WO00/53656に開示されている方法に従って」と他の公報の引用が記載されるのみで(摘示h)、そこで使用された重合器具、溶媒、使用された触媒、重合温度及び重合時間など、具体的な重合条件については一切記載されていない。
さらに、本願発明1では、触媒として「金属配位錯体触媒」を使用するものであるが、本願明細書には、「金属配位錯体触媒」についての説明も一切なく、他の文献について引用する記載のある上記摘示gにおいて「パラジウム触媒」(スズキ重合プロセス)あるいは「ニッケル媒体型」(ヤマモト重合法)との記載が認められるにすぎない。

また、本願の請求項4及び5に係るポリマーの発明(以下、それぞれ「本願発明4及び「本願発明5」という。)についてみると、上記摘示hの実施例1には、得られたポリマーの収率や形状、さらに、そのポリマーの繰返し単位や重合度(あるいは分子量)など、どのような物性のポリマーが得られたかということについても、一切記載されていない。エレクトロルミネッセントに用いるポリマーであれば、発光波長など光に関する物性あるいは電荷輸送特性などが示されなくてはならない。
本願明細書には、「発明が解決しようとする課題」として、上記摘示aには、「好ましくは、新しいポリマーは、装置中に使用される際、効率の増大、寿命の改善及び恐らく輝度の増加のような改良された性質を有することになろう。」と記載され、摘示cに、「本発明のポリマー中に上記で定義される繰り返し単位を組み込むことにより、ポリマーの魅力的な物理的及びプロセス特性、並びに、ポリマーのバンドギャップを緩和するための合成上のアリール若しくはヘテロアリール基及びその置換基を選択する能力を有する材料が得られることを見出した。これは、特に光学装置の設計において重要な特徴である。第1に、ポリマーのバンドギャップは、上記装置からの放射光の波長を制御する。さらに、ポリマーが電荷輸送材料として使用されるとき、装置の量子効率は、ポリマーのHOMO及び/又はLUMOレベルのカソード及びアノード並びに装置の発光材料との適合具合に依存する。」と記載され、摘示dには、「上記で定義される繰返し単位を本発明のポリマーに含ませることは、エレクトロルミネッセント装置に使用されるポリマー中の電荷、特に電子の輸送用繰返し単位として望ましいことが見出された。WO98/11150に開示されているポリマーに比較して、ポリマーにおいて、共役度、特に、隣接する繰返し単位間での共役度がより大きいと、ポリマー主鎖に沿った改良された電荷輸送をもたらす。」と記載され、さらに、摘示eに「他のヘテロアリール基も好ましい場合もあるが、本発明の発明者は、少なくとも1つのV族原子、好ましくは窒素原子を含む置換又は未置換のへテロアリール基をAr^(h)が含む場合に本発明の特に有利なポリマーが得られることを発見した。これは、ヘテロアリール基の環内に窒素原子が存在すると、環が非常に電子欠損となるため、電子注入を受け易くなるので好ましい。この効果は、ヘテロアリール基の環にさらに窒素原子を含むことによって増大しえる。したがって、ポリマーのHOMO及びLUMOレベルを制御する能力を高めるために、Ar^(h)は2窒素原子以上、好ましくはトリアジン基を含有することが好ましい。」と、摘示fに「本発明のポリマーは光学装置における正孔輸送、電子輸送及び/又は発光に有用であると予想される。これに関して、本発明のホモポリマーは、特に電子輸送ポリマー又は発光ポリマーとして有益であることが予想される。さらに、アリール、例えば特にフルオレン繰返し単位を含む本発明のコポリマー又はさらに高次のポリマーは、特に電子輸送ポリマー又は発光ポリマーとして有益であることが予想される。」と、本願発明のポリマーについての作用効果に関する記載があるとしても、本願明細書には、これらの作用効果についての検証が一切なされておらず、上記のとおり、実施例には、得られたポリマーの作用効果を確認する記載は一切認められない。
なお、摘示事項a及びc?fの記載からみれば、エレクトロルミネッセントデバイスの発光層や電荷輸送層に使用されるポリマーは、そのモノマーの選択が重要であることが明らかであり、したがって、具体的な第1モノマー及び第2モノマーを明確に特定し、実際に重合し(すなわち、重合条件を明らかにし)、製造されたポリマーについて発光特性や電荷輸送特性等を確認したうえで、これらのすべてについて客観的に把握し得る事項をすべて開示して初めて発明と認識されるものである。
特に、モノマーの構造(置換基を含む)や共役度、重合度はポリマーのバンドギャップ、HOMO及び/又はLUMOレベル、さらには量子効率に影響を与える要素であることが本願明細書の記載から明らかである。そうすると、これらを具体的に特定したポリマーを合成し、そのポリマーがエレクトロルミネッセントにおいてどのような特性を有するものであるかを明らかにした実施例の記載が発明の開示に必須のものとなる。
しかしながら、上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、そのような事項が具体的に何も記載されていないのであるから、本願発明1の製造方法及び本願発明4、5のポリマーを明細書の記載から把握することができず、したがって、本願発明1及び本願発明4、5が発明の詳細な説明に記載されているということはできない。

なお、平成23年9月16日付け意見書に添付して実験データが提出されている。
しかしながら、これらの実験データは、本願出願後かなり経過して提出されたものであるから、その内容をもって本願の国際出願日における明細書、請求の範囲及び図面の各翻訳文(誤訳訂正書による補正後のもの)に記載されていたものとはいえず、そもそも、そのような実験データをもって明細書の記載に代えることはできない。
さらに、実験データで示されたポリマーに使用されるモノマーと、本願明細書の実施例1に記載のモノマーとは相違しており、本願明細書の実施例の内容を補足するものともいえない。
すなわち、第1モノマーとしての(f)並びに第2モノマーとしての(a)、(g)及び(j)だけでなく、他の種々のモノマー(ポリマーA及びBにおいて(b)?(e)、ポリマーC及びDにおいて(h)、(i))を使用するものであり、このような種々のモノマーを併せ用いることにより、ポリマーA及びBが青色素子として使用できるものであることが示されているとしても(なお、ポリマーC及びDは赤色素子に使用されるものであるが、さらにフェニルピリジン-Ir発光剤とブレンドすることが必要である。このことは、摘示fにおける「上記で定義される第1の繰返し単位の性質によって、本ポリマーが光学装置における発光ポリマーとして使用されるとき、これに限定されるわけではないが、これらは「青色」光の光源として顕著に有益であることが予想される。」と記載されることと微妙に齟齬を来している。)、本願明細書の実施例1では、第1モノマーとして(f)の「C_(6)H_(13)」基の代わりに「^(s)Bu」基を置換したものを用い、これと第2モノマーとしての(g)とを重合するものであって、他のモノマーを使用することは記載されていないことからみて、このようなモノマーから得られた重合体がエレクトロルミネッセントに使用できるか否か、また使用できるとしてどのような発光色であるのかはいまだ不明と言わざるを得ない。また、実験データに記載されたポリマー重合の手順と実施例1に記載された「国際特許公開WO00/53656に開示されている方法」との関係も明らかではない。
したがって、これらの実験データを参照したとしても、本願発明1及び本願発明4、5が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、先の拒絶理由は妥当なものといえる。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-14 
結審通知日 2011-10-18 
審決日 2011-10-31 
出願番号 特願2002-582109(P2002-582109)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辰己 雅夫守安 智  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
小林 均
発明の名称 ポリマー及びその製造方法  
代理人 大野 聖二  
代理人 山田 勇毅  
代理人 田中 玲子  
代理人 森田 耕司  
代理人 北野 健  

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