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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1254533
審判番号 不服2011-7522  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-11 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2005-260598「ポリエステル積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日出願公開、特開2006-111001〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成17年9月8日(優先権主張平成16年9月15日)の出願であって、平成23年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年10月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「全ジオール単位中の5?80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)および紙層(E)を有するポリエステル積層体であって、少なくとも一方の表層がポリエステル層(C)であるポリエステル積層体。」

第3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-182014号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、少なくとも、(1)前記ジカルボン酸構成単位の10?50モル%が環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位であるか、又は(2)前記ジオール構成単位の10?50モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る透明樹脂層の少なくとも1層とを含む多層シート。」

「【0002】
【従来の技術】透明樹脂によるシートはショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途や透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等の食品用途等の用途を有しており、基材としてポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-スチレン共重合体等の樹脂が用いられてきた。しかし、ポリカーボネートは耐候性に劣ることや剛性が低いこと、またポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-スチレン共重合体は耐衝撃性に劣るなどの欠点を有するため、それぞれ用途への利用には制限があった。
【0003】一方で、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある)は透明性、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、近年、ポリエステル系の透明シートの需要が拡大している。しかしながらPETは耐熱性が必ずしも良好でないため、高い耐熱性が要求される分野には利用できない。
【0004】このため、耐熱性の要求される分野に対しては、ポリエチレンナフタレートやポリアリレート、ナフタレンジカルボン酸変性PET等が用いられてきたが、これらの樹脂は非常に高価であるため、用途は限られたものであった。
【0005】また耐熱性のポリエステルとして、米国特許2,945,008号の実施例9,10には、エチレングリコールとPETの変性成分として下記構造式
(5):(審決注:構造式は省略する。)
で表される3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンとを含むジオール成分とジカルボン酸成分としてのジメチルテレフタレートとをチタン化合物触媒の存在下で重合せしめて180?220℃で溶融するポリエステルが得られたことが記載されている。また同公報中には、開示されている変性PETは、ガラス転移点が高く耐熱性に優れるとの記載がなされている。
【0006】本発明者らが、該米国特許で開示されている変性PETから単層シートを製造したところ、耐熱性、機械物性、透明性に優れるものの、シート表面に傷が付くことにより耐衝撃性が著しく低下するという欠点を有することが分かった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は前記の如き状況に鑑み、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れた多層シートを提供することにある。」

「【0021】本発明のポリエステル樹脂(A)はシートの表面に傷が付くことで、耐衝撃性が低下するという欠点を有する。耐衝撃性の低下は、傷が付いた面の裏面から力が加わった場合のみ観察され、力が加わる面に傷が付いても耐衝撃性の低下は観察されない。このため、力の加わる面が限定された用途であれば、多層化によりポリエステル樹脂(A)層の少なくとも片面を保護する、すなわち最低2層の多層シート(ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層)とすることでポリエステル樹脂(A)の表面に傷が付いても、耐衝撃性が低下するという欠点は改善される。 ・・・(中略)・・・
【0022】ポリエステル樹脂(A)と多層化する透明樹脂の種類および層構成(積層順、層の数)は用途により選択すれば良い。」

「【0029】本発明の多層シートは、建材用途では例えば、自動販売機電照板、ショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途、各種産業機械カバー、風防、間仕切り板等に使用することができる。また、食品用途として、例えば、殺菌、滅菌が必要とされる透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等が挙げられる。」

上記【0021】の記載より、最低2層の多層シートが見て取れるから、これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、前記ジオール構成単位の10?50モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の1層と、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る透明樹脂層の1層とのみから成る多層シート。」

第4 対比
引用発明の「前記ジオール構成単位の10?50モル%が環状アセタール骨格を有する」は、本願発明の「全ジオール単位中の5?80モル%が環状アセタール骨格を有する」に相当し、引用発明の「ポリエステル樹脂(A)から成る層の1層」は、本願発明の「ポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)」に相当する。
引用発明は、ポリエステル樹脂(A)から成る層の1層(ポリエステル層(C))と透明樹脂層の1層の2層のみからなるので、本願発明の「少なくとも一方の表層がポリエステル層(C)である」との要件を満たす。
引用発明の「多層シート」は、本願発明の「ポリエステル積層体」に相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「全ジオール単位中の5?80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)を有するポリエステル積層体であって、少なくとも一方の表層がポリエステル層(C)であるポリエステル積層体。」

[相違点]
本願発明は、「紙層(E)」を有するのに対し、引用発明は、「紙層(E)」ではなく、「ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る透明樹脂層」を有する点。

第5 判断
(1)相違点について
前記「第3 引用文献」に示した引用文献の記載によれば、引用発明の目的は、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れた多層シートを提供することとされている(【0007】)。ここで、透明性に優れていることを目的の一つとしているのは、透明樹脂によるシートがエクステリア用途や食品用途等の用途を有しているとの従来技術(【0002】)を想定しているからと解される。ところで、食品用途に使用されるシートとしては、透明なシートのみならず、不透明なシートも周知であり、例えば、ポリエステル層と紙層とを積層したシートが周知である(特開平11-58589号公報(【0005】、【0006】、【0016】、【0018】)、特開平3-96346号公報(2頁右上欄2行?20行)、特開平6-179255号公報(【0002】、【0043】、【0047】)参照。)。
そして、引用発明のポリエステル樹脂(A)はシート表面に傷が付くことで耐衝撃性が低下する欠点を有するが、ポリエステル樹脂(A)層の片面を保護する2層の多層シート(ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層)とすることで上記欠点が改善されるのであり(【0021】)、この際、ポリエステル樹脂(A)層に積層される層が「透明」であることは、耐衝撃性に寄与しないことは明らかである。
そうすると、食品用途に使用される透明なシートに代えて不透明なシートを想定し、それに伴って、透明性を目的とせずに、ポリエステル樹脂(A)の耐衝撃性を改善することに着目することは、当業者が容易に想到しえたことである。そして、ポリエステル層と紙層とを積層したシートが周知であることに加え、紙層をポリエステル樹脂(A)層に積層しても、ポリエステル樹脂(A)層の片面を保護し耐衝撃性を改善し得ることは容易に予測できることから、引用発明の「ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る透明樹脂層」を「紙層」に変更すること、すなわち相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)効果について
本願明細書には、次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
「【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ジオール単位中に特定の割合の環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を含む樹脂層と該ポリエステル樹脂を含む樹脂層以外の層とを有するポリエステル積層体であって、ポリエステル樹脂を含む樹脂層が表層にあるポリエステル積層体がヒートシール性、保香性に優れ、安定して製造できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、全ジオール単位中の5?80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)、ならびにポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含む樹脂層(D)および紙層(E)から選ばれた少なくとも一つの層を有するポリエステル積層体であって、少なくとも一方の表層がポリエステル層(C)であるポリエステル積層体に関するものである。」
「【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステル積層体は、ヒートシール性、保香性に優れ、食品包装分野等における用途で好適に用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。」

上記記載によれば、本願発明の効果は、「ヒートシール性、保香性に優れ、食品包装分野等における用途で好適に用いることができ」るというものであって、この効果は、ポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)に紙層(E)を積層した場合だけではなく、ポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)にポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含む樹脂層(D)を積層した場合にも奏する効果であると認められる。
そうすると、ポリエステル樹脂(A)を含むポリエステル層(C)にポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含む樹脂層を積層したものに相当する引用発明も、上記効果を奏すると認められる。
よって、本願発明の効果が、引用発明の効果に比べて格別顕著であるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-25 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-14 
出願番号 特願2005-260598(P2005-260598)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鴨野 研一  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 紀本 孝
瀬良 聡機
発明の名称 ポリエステル積層体  

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