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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1254606
審判番号 不服2010-12292  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-08 
確定日 2012-03-28 
事件の表示 特願2003-564890「太陽電池の相互接続」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月7日国際公開、WO03/65392、平成17年6月2日国内公表、特表2005-516364〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年1月25日を優先日(優先国 米国(US))とし、平成15年1月24日を国際出願日とする出願であって、平成21年8月19日付けで拒絶理由が通知され、同年11月25日付けで手続補正がされ、平成22年2月4日付けで拒絶査定がされ、この査定を不服として、平成22年6月8日に審判請求がされるとともに手続補正がされたものである。
そして、その発明は、審判請求時の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「感光性ナノマトリクス層と電荷輸送媒体をそれぞれ含む第1及び第2の太陽電池を含み、前記第1及び第2の太陽電池の各々が、
前記第1の太陽電池の少なくとも一部を前記第2の太陽電池の少なくとも一部から電気絶縁する少なくとも1つの接着性絶縁材料がその上に配置された、柔軟且つ著しく光透過性である第1の基材と、
前記第1の太陽電池と関連し且つモジュール電流を第1の向きで誘導する第1の伝導材料、及び前記第2の太陽電池と関連し且つモジュール電流を前記第1の向きとは反対の第2の向きで誘導する第2の伝導材料をその上に有する、柔軟且つ著しく光透過性である第2の基材と、
の間に配置されている、太陽電池モジュール。」(以下、「本願発明」という。)

第2 原査定の理由の概要
本願発明は、実質的に平成21年11月25日付けの手続補正における請求項3に係る発明であって、原審における拒絶査定の理由の1つは、本願発明(原査定時の請求項3に係る発明)が、本願出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1,2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開平08-306399号公報
刊行物2:特開2001-357897号公報

第3 刊行物の記載事項
1.刊行物1の記載事項
[1a]「【請求項1】 少なくとも1つのキャリヤ基板と該キャリア基板上の複数の層とを有する光化学電池、殊に、色素太陽電池を製造する方法において、
前記層(7,8,9,10,11;8,9,10)を、相前後して行う複数の印刷過程によって被着することを特徴とする、光化学電池を製造する方法。
---略---
【請求項7】 複数の層(7,8,9,10,11)をブリッジする絶縁ウェブ(17,17′)を製造するために、複数の絶縁ウェブ層を被着する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。」

[1b]「【0006】特に、本発明によれば、各層を、印刷機の固有の印刷装置により被着する。この目的のため、各印刷装置には、相応の材料が供給される。この材料は、層毎に異なっていてよい。このような材料が粘性流体状の媒体として形成されていると有利である。」

[1c]「【0015】図1には、キャリヤ基板3上に位置する複数の層2から成る色素太陽電池1の構造が示されている。これらの層2の、キャリヤ基板3とは反対の側には、別のキャリヤ基板4が配置されている。キャリヤ基板3は、ガラス板5またはプラスチック板として構成されている。プラスチックフォイルを用いることもできる。キャリヤ基板4も同様に、ガラス板6または相応のプラスチックエレメント(板またはフォイル)として形成することができる。ガラス板5,6は光を色素太陽電池1内に透過させ、電流を発生させる。」(下線は当審にて付与。以下同様)

[1d]「【0018】図1に見られるような基板全体の層の列は、図3から分かるように、各個別電池18に分割するため、製造時に絶縁ウェブ17,17′を備えることができる。これらの絶縁ウェブ17,17′は、層平面に対して横方向に、特に直角方向に延びている。それぞれ2つの絶縁ウェブ17の間には、絶縁ウェブ17′が配置されている。しかも、層の列において、絶縁ウェブ17とこれに隣接する絶縁ウェブ17′との間の領域に形成された個別電池18の構成と、絶縁ウェブ17′とこの絶縁ウェブ17′に続く次の絶縁ウェブ17との間の領域に形成された隣接する個別電池18の構成とは互いに異なっている。すなわち、二酸化チタン層8と電解質層10との位置が入れ替るようになっている。こうすることにより、互いに隣接する個別電池18の電気極性が逆になる。絶縁ウェブ17;17′は、隔壁を形成するように配置されているので、1つの層平面内に位置する二酸化チタン層8が、同じ層平面内に位置する、隣接する電解質層10と接触することはない。個別電池18を形成するためには、導電層7,11ならびに色素層9も、絶縁ウェブ17;17′によって分割される。導電層7,11の分割の場合は、図3の実施例では、絶縁ウェ17がガラス板6を起点にして、導電層7にまで延びているが、しかし導電層7を分断してはいない。これに対して、絶縁ウェブ17′は、ガラス板5を起点にして導電層11にまで延びており、この場合も導電層11を分断してはいない。このように、異なる層が交互に分断されることによって、導電層7,11により導体層19が形成される。その場合、導体層19によって、それぞれ個別電池18の正もしくは負の極が、それぞれ隣接する個別電池18の、対応する逆の極(つまり負もしくは正の極)と接続される。このようにして、直列接続により電気的なモジュールが形成される。
【0019】重要な点は、絶縁ウェブ17,17′がやはり印刷プロセス中に一緒に製造されることである。印刷機は、例えば層平面A(図3)を製造する場合、左から右へ見て、先ずこの平面内で電解質層10を被着し、次いで、印刷方向で見て、絶縁ウェブ17(すなわち、その一部)を形成するための材料を被着する。次いで二酸化チタン層8を被着し、再び、絶縁ウェブ17′を形成するための一部を形成し、以下同様に処置される。簡略化のため、絶縁ウェブ17;17′の全長を形成する個々の部分を、分割した状態では図示していない。なぜなら、これらの部分は重ねて印刷することで、全体が均質なユニットを形成するからである。」

[1e]「【符号の説明】
1 色素太陽電池
2 層
3,4 キャリヤ基板
5,6 ガラス板
7,11 導電層
8 二酸化チタン層
9 色素層
10 電解質層
12 外部電流回路
---略---
17,17′ 絶縁ウェブ
18 個別電池
19 導体層」

[1f]図3


2.刊行物2の記載事項
[2a]「【請求項1】 絶縁性透明支持体と絶縁性支持体とが対向し、その間に光電変換素子が複数並列に設けられた光電変換モジュールであって、
前記光電変換素子が、前記絶縁性透明支持体の表面に設けられた透明導電性部材と、該透明導電性部材表面に設けられた光半導体電極と、前記絶縁性支持体の表面に設けられた対向電極部材と、該対向電極部材および前記光半導体電極間に封入された酸化還元媒体と、からなり、前記隣合う光電変換素子間を含む前記光電変換素子の周囲が封止手段により封止および絶縁されており、
かつ、前記光電変換素子のうち一端に位置するものを除く光電変換素子の透明導電性部材と、その隣の光電変換素子の対向電極部材とを導通し得る導通手段が、隣合う光電変換素子間に配されてなることを特徴とする光電変換モジュール。」

[2b]「【0034】<(7)封止手段>本発明における封止手段とは、主としてシール部材であり、個々の光電変換素子の外側に設けられ、光電変換素子としてのシール性を保持する役割を果たす。
【0035】シール部材を形成するためのシール剤としては、電解液に対して不溶であり、接着面との密着性の良好なものが使用される。具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびガラス粉末ペースト等が挙げられる。これらのうち樹脂は、熱硬化型あるいは紫外線硬化型のいずれでもよいが、作業性の面からは紫外線硬化型が好ましい。液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルの製造等に使用されている公知のシール剤を使用してもよい。なお、後述の導通手段が封止手段を兼ねる構成であってもよいが、その詳細については後述する。」

第4 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の[1a]によると、「少なくとも1つのキャリヤ基板と該キャリア基板上の複数の層とを有する色素太陽電池を製造するにあたり、前記層(7,8,9,10,11;8,9,10)を、相前後して行う複数の印刷過程によって被着し、さらに、複数の層(7,8,9,10,11)をブリッジする絶縁ウェブ(17,17′)を複数被着することによって製造する色素太陽電池」が記載されているといえ、[1e]によれば、前記層(7,8,9,10,11)が、導電層(7,11)、二酸化チタン層(8)、色素層(9)及び電解質層(10)であることが示されている。また、[1c]には、キャリヤ基板(3,4)は、ガラス板またはプラスチック板に限らず、プラスチックフォイルを用いることができることが記載されている。さらに、[1d]及び[1f]によると、色素太陽電池における複数の個別電池(18,18’)は、それぞれ、導電層(7)、二酸化チタン層(8)、色素層(9)、電解質層(10)及び導電層(11)を順に積層したものであり、かつ、個別電池の両側の導電層(7,11)がキャリヤ基板(3,4)により挟まれているものである。そして、絶縁ウェブ(17)とこれに隣接する絶縁ウェブ(17′)との間の領域に形成された個別電池(18)と、絶縁ウェブ(17′)とこの絶縁ウェブ(17′)に続く次の絶縁ウェブ(17)との間の領域に形成された隣接する個別電池(18)とは、二酸化チタン層(8)と電解質層(10)との位置が入れ替ることで、個別電池(18)の電気極性が逆になるように、直列接続された電気的なモジュールであることが把握できる。

以上によると、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「導電層(7)、二酸化チタン層(8)、色素層(9)、電解質層(10)及び導電層(11)を順に積層した複数の個別電池(18,18’)を含み、前記複数の個別電池(18,18’)の各々が、
前記個別電池(18)の一部を前記個別電池(18’)の一部から電気絶縁する絶縁ウェブ(17,17’)がその上に被着配置された、キャリヤ基板(3)であるプラスチックフォイルと、
前記個別電池(18)の電気極性が、隣接する個別電池(18)と逆となる配置でその上に有する、キャリヤ基板(4)であるプラスチックフォイルと、
の間に配置されている、色素太陽電池。」

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「導電層(7)」、「導電層(11)」「電解質層(10)」、「個別電池(18,18’)」、「絶縁ウェブ」及び「色素太陽電池」は、それぞれ、本願発明の「第1の伝導材料」、「第2の伝導材料」、「電荷輸送媒体」、「第1及び第2の太陽電池」、「絶縁材料」及び「太陽電池モジュール」に相当し、引用発明の「二酸化チタン層(8)」及び「色素層(9)」は、本願発明の「感光性ナノマトリクス層」の機能を奏するものである。そして、引用発明の「キャリヤ基板(3,4)」である「プラスチックフォイル」は、ガラス板またはプラスチック板とは異なり柔軟性を有するから、本願発明の柔軟である「第1の基材」及び「第2の基材」に相当する。さらに、引用発明の「導電層(7,11)」を有する「個別電池(18)の電気極性が、隣接する個別電池(18)と逆となる配置」とは、本願発明の「第1の太陽電池と関連し且つモジュール電流を第1の向きで誘導する第1の伝導材料、及び前記第2の太陽電池と関連し且つモジュール電流を前記第1の向きとは反対の第2の向きで誘導する第2の伝導材料」となるように配置していることを含むものである。

そうすると、両者は、
「感光性ナノマトリクス層と電荷輸送媒体をそれぞれ含む第1及び第2の太陽電池を含み、前記第1及び第2の太陽電池の各々が、
前記第1の太陽電池の少なくとも一部を前記第2の太陽電池の少なくとも一部から電気絶縁する少なくとも1つの絶縁材料がその上に配置された、柔軟である第1の基材と、
前記第1の太陽電池と関連し且つモジュール電流を第1の向きで誘導する第1の伝導材料、及び前記第2の太陽電池と関連し且つモジュール電流を前記第1の向きとは反対の第2の向きで誘導する第2の伝導材料をその上に有する、柔軟である第2の基材と、
の間に配置されている、太陽電池モジュール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明は、絶縁性材料が接着性であるのに対して、引用発明は、絶縁材料が被着されるものである点

<相違点2>
本願発明は、「第1の基材」及び「第2の基材」が著しく光透過性であるのに対して、引用発明は、そのような特定がない点

3.相違点についての判断
ア)相違点1について
上記摘記[1b]によれば、引用発明は、絶縁材料である絶縁ウェブに限らず、各層を、印刷装置により被着するものである。そうすると、被着する各層の材料として離型性を有する材料ではなく、接着性の材料を採用することは、当業者が当然に考慮することである。また、刊行物2の上記摘記[2a]及び[2b]において開示されているように、太陽電池である光電変換素子を複数有する光電変換モジュール、すなわち、太陽電池モジュールについて、隣合う光電変換素子間の周囲を封止及び絶縁するための封止手段であるシール剤として、接着面との密着性の良好なもの、すなわち、接着性のものを用いることは、本願出願前において特別な技術的事項ではない。
したがって、引用発明において、絶縁材料として、接着性絶縁材料を採用することは、当業者が容易になし得たものである。

イ)相違点2について
本願明細書【0017】の記載によれば、「著しく光透過性」とは、「入射可視光の少なくとも約60%を透過させる」ものであるところ、引用発明は、太陽電池であって、上記摘記[1c]の「ガラス板5,6は光を色素太陽電池1内に透過させ、電流を発生させる。」との記載を勘案すると、キャリア基板全般に光透過性が要求されているものといえる。そして、キャリア基板が光不透過物又は光半透過物ではない以上、入射可視光の透過率が60%を下回るとするのは技術常識とはいえないから、当該相違点は実質的な相違点とはいえない。仮に、当該相違点が実質的なものであったとしても、太陽電池のキャリア基板の光透過率を60%以上にすることは、太陽光を有効に活用するために、当業者が当然に採用する技術的事項である。

ウ)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.補足
なお、請求人は、審判請求書において、引用文献の出願時の技術常識に鑑みれば、グレッツェル電池のように高温プロセスが使用されるものでは、「プラスチックフォイル」のような耐熱性の低い基材を用いることは困難であり、耐熱性の高い「ガラス板」を用いることが一般的である旨を主張しているが、本願出願前において、色素と酸化チタンを用いた太陽電池であるグレッツェル電池の基板として、ガラス板ではない柔軟なプラスチックを用いることが、当業者にとって全く実施できないほどの困難な技術的事項に該当するとはいえないし、例えば、特開平11-288745号公報、特開2001-247314号公報又は特開2001-160426号公報に記載されているように、当業者が容易に実施できる事項とするのが妥当である。
さらに、請求人は、引用発明は、本願発明の製造プロセスとは異なるものである旨の主張をしているが、本願発明は「物」の発明であって、かつ、請求人が主張の基礎としている技術的事項は、本願発明の「物」の発明特定事項とはいえないから、当該主張も採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当である。
したがって、本願発明は特許を受けることができないものであるから、請求項2?31に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-26 
結審通知日 2011-11-01 
審決日 2011-11-14 
出願番号 特願2003-564890(P2003-564890)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 雅博  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 野田 定文
小柳 健悟
発明の名称 太陽電池の相互接続  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
代理人 西山 清春  

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