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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1254800
審判番号 不服2009-9558  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-07 
確定日 2012-04-06 
事件の表示 平成 9年特許願第351328号「食品および医薬製剤を着色するための、可溶化したカロテノイド製剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月 7日出願公開、特開平10-182493〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年12月19日の出願(パリ条約による優先権主張、1996年12月20日、ドイツ国)であって、その請求項1?8に係る発明は、平成21年1月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 1種または数種のカロテノイド1?40重量%、グリセロールポリオキシエチレングリコールリシノレート、グリセロールポリオキシエチレングリコールオキシステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテートおよび15個のエトキシ単位を含有するモノヒドロキシステアリン酸から選択される1種または数種の非イオン乳化剤20?90重量%および油溶性酸化防止剤0?50重量%を包含する懸濁液を短時間120?200℃に加熱し、均質な溶液を水またはグリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液と、10?95℃で乱流混合して0.5?10重量%のカロテノイド含量を有する可溶化した製剤を生成することにより製造した可溶化したカロテノイド製剤からなる着色剤の製法。」

2.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された下記の刊行物には、それぞれ次の事項が記載されている。(以下、下線は当審で付加したものである。)

(1)特表平08-504089号公報(平成8(1996)年5月7日公表。以下、「引用例1」という。)
(1a)「【特許請求の範囲】
1.ヒトまたは動物の健康管理における用途としての光学上清澄な製品を製造するための安定した水性組成物の製法であって、
a)約40℃の温度に加熱しながら、2?20%の10?18のHLB(親水親油バランス)値を有する乳化剤または乳化剤の混合物に0.1?1.0%の酸化防止剤を分散させ;
b)透明混合物を得るために、約80?200℃に加熱しながら、前記a)の混合物に0.1?5.0%の1種またはそれ以上の油溶性成分、または適当な油中20?30%w/wの分散液として0.1?2.0%w/wの1種またはそれ以上の油溶性成分を分散させ;
c)所望により、さらに油溶性成分を添加してもよく;
d)撹拌を維持しながら、適宜、混合物を昇温させて透明混合物を維持し;および
e)連続撹拌しながら、該混合物を最低95℃の温度を有する水と合し、透明組成物を提供することからなる、安定した水性組成物の製法。」(2頁1?15行)

(1b)「本発明は健康の維持および/または増進における用途としての油溶性成分からなる液状組成物に関する。特に、本発明は、飲料のようなヒトまたは動物が内部または外部的に用いる着色生成物としての組成物、かかる組成物の製法および該組成物含有の製品に関する。
鮮やかに着色された食料品および飲料品は消費者に訴える力が大きい。・・・清澄製品はまたある種微生物による損傷の検出に役立つという意味でも利点を有する。」(4頁3?11行)

(1c)「カロチノイドは、植物、藻および細菌に見ることができるテルペノイド群の天然のイエローないしレッド色素である。カロチノイドは『カロチン』(大部分はβ-カロチンであるが、αおよびβ-カロチンの混合物)、α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、リコペン、・・・を包含する。天然の着色料の多くは合成でき、例えば商業的に用いられるβ-カロチンは合成されている。カロチノイドの多くは、天然にてシスおよびトランス異性体形として存在するが、合成化合物は、しばしば、ラセミ体混合物である。
カロチノイドは食品および飲料品についての色相添加源として注目されている。しかし、その水不溶性および食品に慣用的に用いられる油中貧溶解性ならびにその酸化感受性により、特に水性製品、例えば、飲料およびシロップおよび水が加えられるであろう製品にてその用途が制限される。」(4頁下から3行?5頁13行)

(1d)「好ましくは、本発明の組成物は、油溶性成分が着色剤および/または酸化防止剤または酸化防止剤の混合物からなる着色組成物である。
意外にも、本発明の組成物は、これまでは、所望の特性、特に高水溶性を有する製品にて十分に溶解させることが困難であることがわかっている成分を用いて、そのような特性を有する製品を生成できることが見いだされた。
好ましくは、油溶性着色成分はカロチノイドである。好ましくは、該カロチノイドはβ-カロチンまたはアポ-カロチナールである。適当には、カロチノイドの量は、純物質として、0.1?2.0重量%、好ましくは0.1?1.0重量%である。」(6頁9?17行)

(1e)「好ましくは、乳化剤は非イオン性乳化剤または混合物であり、12-16のHLB(親水親油バランス)を有するものが好ましく、HLB値が15であるものが最も好ましい。好ましい化合物は、サリー州、レザーヘッド、アイ・シー・アイ・スペシャリティー・ケミカルズ(ICI Speciality Chemicals)より入手可能なツィーン60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアラート)およびツィーン40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート)を包含する。」(7頁16?21行)

(1f)「本発明の組成物は、ビタミンのような、飲料以外の医学または獣医学における着色液体消耗品および特に光学清澄度が重要であるせき止めシロップ、のど用スプレー、ローションおよびマウスウォッシュに用いることができる。」(9頁4?7行)

(1g)「本発明に従って得られる組成物は、水性製品に溶解し、光学上清澄な最終製品を生成しうる水性分散液である。
さらなる成分、例えば、甘味剤、保存剤(例、二酸化硫黄、安息香酸およびソルビン酸)・・・食品および飲料品の製造に用いる他の物質を、所望により、本発明の組成物中にまたは最終食品に配合してもよい。」(9頁下から6?1行)

(1h)「 実施例1-着色組成物 %w/w
β-カロチン(結晶) 1.0
酸化防止剤(α-トコフェロール) 0.3
乳化剤(ポリソルベート40または60) 7.5
水 100まで
前記の成分を以下のように合する。約40℃に加熱しながら酸化防止剤を乳化剤に分散させる。ついで、維持しながら、β-カロチンを加え、混合物の温度を少なくとも140℃まで昇温させる。この時点で、混合物は透明である。該混合物を、撹拌を維持しながら、50ml/分の速度で、最終容量の約75%の熱水(最低温度95℃)にゆっくりと加える。希釈混合物を室温に冷却し、最終容量まで水で希釈する。別法として、上記したように、β-カロチンを加え、加熱した後、撹拌しながら、熱水をゆっくりと50ml/分の速度でβ-カロチン混合物に加える。半分の容量の水を加えると、著しい粘度の増加がある。該水を必要な容量まで加え続け、粘度を減少させ、清澄なオレンジ-ブラック色組成物を得る。」(12頁1?16行)

なお、引用例1の「カロチン」は「カロテン」と同義である。

(2)特開平04-247028号公報(原審における刊行物2。以下、「引用例2」という。)
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 β-カロテンを乳化剤と一緒に短時間加熱して均質溶液を得、これを水の添加により100℃より低く急速冷却し、引き続き所望の最終濃度のβ-カロテンに調節することによるβ-カロテンソルビリゼートの連続的製法において、20?80℃に前加熱された、乳化剤中のβ-カロテン1?40重量%の懸濁液を、熱伝達油中に置かれた加熱コイルにポンプ導通し、ここで可溶化混合物は、120?180℃であり、かつ滞留時間は、10?300秒であり、かつ均質溶液を混合室中で、かなりの量の水と、10?80℃で乱流混合させて、β-カロテン0.5?6%を含有するソルビリゼートを生ぜしめ、かつ必要に応じて所望の最終濃度に希釈することを特徴とする、β-カロテンソルビリゼートの連続的製法。」(2頁1欄1?15行)

(2b)「【0008】特に好適な非-イオン乳化剤の例は、次のものである:グリセロールポリオキシエチレングリコールリシノレエート、グリセロールポリオキシエチレングリコールヒドロキシステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート及びオキシエチレン15単位を有するモノヒドロキシステアリン酸。」(2頁2欄30?38行)

(2c)「【0011】新規方法でも使用される慣例の酸化防止剤の例は、次のものである:ブチル化ヒドロキシトルエン・・・d,l-α-トコフェロール。」(3頁3欄19?22行)

3.引用発明
引用例1には、光学上清澄な製品を製造するための安定した水性組成物の製法であって、
a)約40℃の温度に加熱しながら、2?20%の10?18のHLB(親水親油バランス)値を有する乳化剤または乳化剤の混合物に0.1?1.0%の酸化防止剤を分散させ;
b)透明混合物を得るために、約80?200℃に加熱しながら、前記a)の混合物に0.1?5.0%の1種またはそれ以上の油溶性成分を分散させ;
d)撹拌を維持しながら、適宜、混合物を昇温させて透明混合物を維持し;および
e)連続撹拌しながら、該混合物を最低95℃の温度を有する水と合し、透明組成物を提供することからなる、安定した水性組成物の製法
が、記載されている(摘示事項(1a))。

上記「10?18のHLB(親水親油バランス)値を有する乳化剤」としては、「ツィーン60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアラート)およびツィーン40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート)」が好ましく(上記(1e))、実施例1では「7.5%w/w(当審注:正式には、「%wt/wt」と表記するのが適切であるので、以下、摘示箇所以外は当該記載で表記する。)のポリソルベート40または60が使用されている。また、実施例1では酸化防止剤としては「α-トコフェロール」が使用されている。(上記(1h))
上記「0.1?5.0%の1種またはそれ以上の油溶性成分」は、「着色剤および/または酸化防止剤または酸化防止剤の混合物からなる着色組成物」であって、好ましくは、「油溶性着色成分はカロチノイド」であり(上記(1d))、実施例では1.0%wt/wtの「β-カロチン」が使用されている。(上記(1h))
また、実施例においては、透明混合物を得るために「少なくとも140℃まで昇温」加熱されている。(同(1h))

したがって、引用例1には、
「光学上清澄な製品を製造するための安定した水性着色組成物の製法であって、
a)約40℃の温度に加熱しながら、2?20%の乳化剤(ポリソルベート40または60)に、0.1?1.0%の酸化防止剤(α-トコフェロール)を分散させ、
b)透明混合物を得るために、少なくとも140℃まで加熱しながら、前記a)の混合物に0.1?5.0%の油溶性成分(β-カロチン)を分散させ、
d)撹拌を維持しながら透明混合物を維持し、
e)連続撹拌しながら、該混合物を最低95℃の温度を有する水と合し、透明組成物を提供することからなる、安定した水性組成物の製法」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

4.対比

引用例1発明の「β-カロチン」「酸化防止剤(α-トコフェロール)」はそれぞれ、本願発明の「1種または数種のカロテノイド」「油溶性酸化防止剤」に相当する。
また、引用例1発明の「ポリソルベート40」「ポリソルベート60」は「ツィーン40」「ツィーン60」の別名であって、それぞれ、「ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート」「ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアラート)」であり、これらはいずれも非イオン乳化剤であるから(上記(1e))、引用例1発明の「乳化剤(ポリソルペート40または60)」は、本願発明の「グリセロールポリオキシエチレングリコールリシノレート、グリセロールポリオキシエチレングリコールオキシステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテートおよび15個のエトキシ単位を含有するモノヒドロキシステアリン酸から選択される1種または数種の非イオン乳化剤」に相当する。
ところで、引用例1発明における各成分の割合は、合計しても100%wt/wtにならないことから、製造された水性組成物中における割合を示したものと解される。そこで、実施例1における水を除いた成分の割合についてみると、β-カロチン、乳化剤、酸化防止剤の割合はそれぞれ、約11%wt/wt(1.0/(1.0+7.5+0.3)×100≒11)、約85%wt/wt(7.5/(1.0+7.5+0.3)×100≒85)、約3%wt/wt(0.3/(1.0+7.5+0.3)×100≒3)であるから、本願発明のカロテノイド1?40重量%、非イオン乳化剤20?90重量%、油溶性酸化防止剤0?50重量%の範囲内である。

また、引用例1において、実施例1において「約40℃に加熱しながら酸化防止剤を乳化剤に分散させる。ついで、維持しながら、β-カロチンを加え、混合物の温度を少なくとも140℃まで昇温させる」のであるから、引用例1発明の「少なくとも140℃まで加熟しながら、前記a)の混合物に0.1?5.0%の油溶性成分(β-カロチン)を分散させ」は、本願発明における「(カロテノイド、非イオン乳化剤および油溶性酸化防止剤を包含する)懸濁液を120?200℃に加熱し」に相当する。
引用例1発明の「透明混合物」は、本願発明の「均質な溶液」に相当する。

そして、本願発明における「均質な溶液を水またはグリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液と、10?95℃で乱流混合して」とは、「均質な溶液を水と乱流混合する態様」と、「均質な溶液をグリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液と乱流混合する態様」の二つの態様のいずれかであることは明らかであるから、引用例1発明の「連続撹拌しながら、該混合物を最低95℃の温度を有する水と合し」は、本願発明の「均質な溶液を水またはグリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液と、混合して」に相当する。
引用例1発明における「水性組成物」は0.1?5.0%の油溶性成分(β-カロチン)を含むのであるから、引用例1発明は、本願発明の「0.5?10重量%のカロテノイド含量を有する可溶化した製剤」に相当する。
また、引用例1発明で製造された「水性組成物」は、食品や医薬品の着色剤として用いられるものであるから(上記(1b),(1c),(1f),(1g)等参照)、本願発明の「可溶化した製剤を生成することにより製造した可溶化したカロテノイド製剤からなる着色剤の製法」との発明を特定するための事項を備えている。

したがって、本願発明と引用例1発明を対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「1種または数種のカロテノイド1?40重量%、グリセロールポリオキシエチレングリコールリシノレート、グリセロールポリオキシエチレングリコールオキシステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテートおよび15個のエトキシ単位を含有するモノヒドロキシステアリン酸から選択される1種または数種の非イオン乳化剤20?90重量%および油溶性酸化防止剤0?50重量%を包含する懸濁液を120?200℃に加熱し、得られた均質な溶液を水またはグリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液と混合して0.5?10重量%のカロテノイド含量を有する可溶化した製剤を生成することにより製造した可溶化したカロテノイド製剤からなる着色剤の製法。」である点。

<相違点>
(イ)本願発明の製法においては、懸濁液を加熱し均質な溶液とする工程が「短時間」で行われるのに対して、引用例1発明ではこの点の特定がされていない点。
(ロ)本願発明の製法においては、均質な溶液と水とを混合して可溶化した製剤を調整する工程において、均質な溶液と水が「10?95℃で乱流混合」されるのに対して、引用例1発明では、「連続撹拌しながら、均質な溶液と最低95℃の温度を有する水が混合」される点。

5.判断
ここで、引用例2の記載事項について検討する。
引用例2には、「β-カロテンを乳化剤と一緒に短時間加熱して均質溶液を得、これを水の添加により100℃より低く急速冷却し、引き続き所望の最終濃度のβ-カロテンに調節することによるβ-カロテンソルビリゼートの連続的製法において、20?80℃に前加熱された、乳化剤中のβ-カロテン1?40重量%の懸濁液を、熱伝達油中に置かれた加熱コイルにポンプ導通し、ここで可溶化混合物は、120?180℃であり、かつ滞留時間は、10?300秒であり、かつ均質溶液を混合室中で、かなりの量の水と、10?80℃で乱流混合させて、β-カロテン0.5?6%を含有するソルビリゼートを生ぜしめ、かつ必要に応じて所望の最終濃度に希釈することを特徴とする、β-カロテンソルビリゼートの連続的製法。」が記載されている。(上記(2a)参照。)

上記によれば、均質溶液を製造する際の加熱温度は120?180℃、滞留時間は10?300秒の「短時間」であるから、引用例2には、上記相違点(イ)に係る構成要件が記載されている。
また、「均質溶液を混合室中で、かなりの量の水と、10?80℃で乱流混合させ」るのであるから、引用例2には、上記相違点(ロ)に係る構成要件も記載されている。

そして、引用例2記載の「β-カロテン」を含有する「ソルビリゼート」において、乳化剤として、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、オキシエチレン15単位を有するモノヒドロキシステアリン酸等の非イオン乳化剤が用いられ(上記(2b))、酸化防止剤としてブチル化ヒドロキシトルエンやα-トコフェロール等が用いられている(上記(2c))のであるから、引用例2における「β-カロテンソルビリゼート」(β-カロテン可溶化物)は、引用例1発明における「水性組成物」と組成が共通している。
そうすると、引用例1発明において、上記の引用例2記載の方法を採用することは当業者が容易に想到しうる事項であるということができる。
また、本願明細書の記載事項からみて、上記方法を採用することによって本願発明において、当業者の予測を超えた格別顕著な効果が奏されているものと認めることはできない。

なお、引用例1発明により製造される組成物は、食品や医薬品等の着色剤として用いられるのに対し、引用例2に記載された方法によって得られる組成物は、医薬(注射剤)として使用されるものであるが、そもそも、β-カロチン等のカロテノイドは、着色剤として、また、医薬(ビタミンA前駆体)として使用されるものであることは周知であるから、引用例1と引用例2とで製造される組成物の用途が異なることが直ちに引用例2記載の方法を引用例1記載の製造方法に適用する上で特段の阻害事由になるということはできない。

したがって、本願発明は、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1および引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

ところで、請求人は、本願発明の効果として「意外にも大量のアスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムを、可溶化した製剤中に沈殿物が生じることなしに、水相に溶解することができる」旨主張している。
しかしながら、本願明細書には「トコフェロールを含有する可溶化した製剤の場合には、意外にも大量のアスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムを、可溶化した製剤中に沈殿物が生じることなしに、水相に溶解することができた。」と記載されており(段落【0020】)、トコフェロールを含有しない(請求項1には「油溶性酸化防止剤0?50重量%」と記載されており、本願発明は、トコフェロール以外の油溶性酸化防止剤を含む態様、及び、油溶性酸化防止剤を含まない態様を包含する。)場合にも奏される効果であるか否か明らかでない。しかも、前記のとおり、本願発明は、「水」のみを使用する態様、すなわちアスコルビン酸等を含まない態様と、「グリセロール及びアスコルビン酸とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせから選択される水溶性酸化防止剤を包含する水溶液」すなわち、グリセロールとアスコルビン酸を含む態様とを包含するものである。
本願発明は、トコフェロール及びアスコルビン酸を含むものに限定されていないから、上記請求人の主張は、特許請求の範囲に記載された事項に基づかないものであって、採用することはできない。

また請求人は、「可溶化した製剤中の水分活性を減少でき、従ってDAB10(DAB:Deutsches Arzneibuch、ドイツ薬局方)による微生物数決定のための微生物学的試験の要求を満たす」旨、「高い活性化合物濃度にも拘わらず、物理的および化学的に安定である」旨主張している。
しかしながら、上記の点については、従来技術との比較が示されておらず、本願発明の方法によって当業者の予測を超えた効果が奏されるか否か明らかにされていないから、上記請求人の主張も採用することはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論じるまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2011-10-26 
結審通知日 2011-10-27 
審決日 2011-11-22 
出願番号 特願平9-351328
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 上條 のぶよ
渕野 留香
発明の名称 食品および医薬製剤を着色するための、可溶化したカロテノイド製剤の使用  
代理人 久野 琢也  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 星 公弘  
代理人 ラインハルト・アインゼル  

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