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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C |
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管理番号 | 1254836 |
審判番号 | 不服2010-10460 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-17 |
確定日 | 2012-04-05 |
事件の表示 | 特願2003-101639「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-306730〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年4月4日の出願であって、平成22年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年5月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「タイヤ表面からキャップトレッドA、低発熱性キャップトレッドB、及び高粘着性アンダートレッドCの3層構造からなるトレッド部を有する空気入りタイヤであって、 (a)前記キャップトレッドAを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなり、 (b)前記キャップトレッドBを構成するゴム組成物が、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対して、硫黄をa重量部、下式 R_(2)N-(C=S)-S-S-(CH_(2))x-S-S-(C=S)-NR_(2) [R=C_(6)H_(5)CH_(2), x=6] によって表される配合剤Bをb重量部、及び1種以上のスルフェンアミド系加硫促進剤を合計でc重量部含んでなり、かつ 前記a、b、及びcが、下式 b≧0.2、 1.5≦a+b/2≦2.5、 0.5≦c/(a+b/2)≦0.9 の関係を同時に満足し、そして (c)前記アンダートレッドCを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなる、 ことを特徴とする空気入りタイヤ。」 (以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 3.引用文献及び引用文献に記載された発明 原審の拒絶理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開2002-19417号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。 (あ)「【請求項1】トレッド部がタイヤ表面からキャップ-A,キャップ-B及びベース-Cの3層構造から成り、・・・(中略)・・・キャップ-A層が天然ゴム/ジエン系ゴム=100?60/0?40(重量%比)(合計100重量%とする)から構成され、 キャップ-B層およびベース-C層が独立に天然ゴムおよび/またはポリイソプレンゴムから構成され、そしてキャップ-A層及びキャップ-B層の100℃におけるtanδ(A)及びtanδ(B)が以下の関係: tanδ(A)>tanδ(B) … (I) tanδ(B)≦0.6tanδ(A) … (II) を満足する不整地走行に適した重荷重用空気入りタイヤ。」 (い)「【0006】【発明の実施の形態】・・・(中略)・・・不整地走行する重荷重タイヤにおいては特に摩耗末期でのセンター部のチッピング性が問題となることが多いことに着眼し、トレッドを3層構造とし、第2層目に低発熱かつ耐チッピング性のゴムを、第3層目に低発熱ゴムを配置し、・・・(中略)・・・センター部のチッピングを抑制することにより、耐摩耗性を向上させながら、発熱耐久性を向上させた重荷重用空気入りタイヤを得ることに成功し、本発明をするに至った。」 (う)「【0009】本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部のA,B及びC層を構成するゴムは・・・(中略)・・・天然ゴム(NR)、・・・(中略)・・・各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)などのジエン系ゴムとすることができ、これらは単独又は任意のブレンドとして使用することができる。」 (え)「【0013】上記100℃のtanδ(A)の値がtanδ(B)の値より大きくない場合には初期?中期の耐摩耗性及び耐カット性が不十分となるので好ましくなく、また100℃のtanδ(B)の値が上記(II)の関係を満たさない場合には発熱耐久性の改善が不十分であるので好ましくない。 (お)「【0015】本発明に係る空気入りタイヤ用トレッド部のA,B及びC層を構成するゴム組成物には、・・・(中略)・・・、加硫剤、加硫促進剤、・・・(中略)・・・を配合することができ、」 (か)「【0018】トレッド構成層A-1?C-1の各層を構成するゴム組成物には以下の添加剤を共通に配合した(配合量はゴム100重量部当りの重量部である) 成分 配合量 亜鉛華(JIS 3号) 4 工業用ステアリン酸 3 粉末硫黄 1.9 加硫促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2- ベンゾチアゾールスルフェンアミド) 1.2」 (き)「【0024】・・・(中略)・・・発熱指数:トレッドtanδ(100℃)の比較例1の値を100とした指数で示した。低い値ほどタイヤ全体の発熱が低く、発熱耐久性上好ましい。」 (く)「【0026】【発明の効果】以上の通り、本発明に従えば、耐摩耗性と摩耗の中期以降の耐チッピング性を向上させながら耐熱性を向上させることにより耐発熱耐久性を向上させることができる。また、天然ゴム単独またはBR・SBRブレンドからなるAで耐摩耗性確保および溝底クラック防止を狙い、B/Cは天然ゴム主体によりタック確保を図った。」 以上の記載及び【図1】によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「タイヤ表面からキャップ-A、キャップ-B、及びベース-Cの3層構造からなるトレッド部を有する空気入りタイヤであって、 (a)前記キャップ-Aを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなり、 (b)前記キャップ-Bを構成するゴム組成物が、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分に対して、硫黄、添加剤、及び加硫促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)を含んでなり、そして (c)前記ベース-Cを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなる、 空気入りタイヤ。」 ここで、引用発明における「キャップ-B」は上記(い)の記載から、低発熱性のゴムであるといえ、また、「キャップ-C」は本願発明におけるアンダートレッドCと同じ材料(天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物)を用いており、本願発明のアンダートレッドCが高粘着性であるから引用発明におけるキャップ-Cも高粘着性であるといえる。 4.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「キャップ-A」、「キャップ-B」、「ベース-C」、及び「加硫促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)」は、その構造や機能などからみて、それぞれ本願発明の「キャップトレッドA」、「低発熱性キャップトレッドB」、「高粘着性アンダートレッドC」、及び「スルフェンアミド系加硫促進剤」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 〔一致点〕 「タイヤ表面からキャップトレッドA、低発熱性キャップトレッドB、及び高粘着性アンダートレッドCの3層構造からなるトレッド部を有する空気入りタイヤであって、 (a)前記キャップトレッドAを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなり、 (b)前記キャップトレッドBを構成するゴム組成物が、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分に対して、硫黄、添加剤、及びスルフェンアミド系加硫促進剤を含んでなり、そして (c)前記アンダートレッドCを構成するゴム組成物が、天然ゴム単独又は天然ゴムとジエン系ゴムとの配合物を含んでなる、 空気入りタイヤ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 〔相違点〕 本願発明では、キャップトレッドBを構成するゴム組成物が、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対して、硫黄をa重量部、下式 R_(2)N-(C=S)-S-S-(CH_(2))x-S-S-(C=S)-NR_(2) [R=C_(6)H_(5)CH_(2), x=6] によって表される配合剤Bをb重量部、及び1種以上のスルフェンアミド系加硫促進剤を合計でc重量部含んでなり、かつ 前記a、b、及びcが、下式 b≧0.2、 1.5≦a+b/2≦2.5、 0.5≦c/(a+b/2)≦0.9 の関係を同時に満足しているのに対して、 引用発明では、キャップ-Bを構成するゴム組成物が、上記配合剤Bは用いておらず、かつ、硫黄、配合剤B及びスルフェンアミド系加硫促進剤が上記の関係式を同時に満足していることは記載されていない点。 そこで、上記相違点について検討する。 原審の拒絶理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開2001-2833号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。 (イ)「【請求項2】ジエンゴムおよび常套の添加剤からなる加硫性ゴム配合物を含んでなるゴム成形品であって、配合物に含まれる加硫剤が、ゴム100重量部に対して、 a)式: R_(2)N-(C=S)-S-S-(CH_(2))x-S-S-(C=S)-NR_(2) (I) [式中、R=(C_(6)H_(5)CH_(2))、X=6]で示される化合物(I)0.5?3.8重量部、 b)硫黄0.5?2重量部および c)少なくとも1種の加硫促進剤0.5?3.0重量部を含んでなるゴム成形品。」 (ロ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、改良されたゴム成形品(例えば、タイヤ部材)を製造するための、・・・(中略)・・・加硫性ジエンゴム配合物に関する。」 (ハ)「【0015】本発明のジエンゴムとしては以下のものが挙げられる:天然ゴム(NR)、・・・(中略)・・・ブタジエンゴム(BR)・・・(中略)・・・スチレン-ブタジエンゴム(SBR)。同程度に良好な結果が、これらのゴムの互いのブレンドを使用することによっても得られる。」(ニ)「【0020】非常に異なる種の加硫促進剤が使用でき、・・・(中略)・・・MBT系スルフェンアミド、例えばベンゾチアジル-2-シクロヘキシルスルフェンアミド(CBS)、ベンゾチアジル-2-ジシクロヘキシル-スルフェンアミド(DCBS)、ベンゾチアジル-2-tert.-ブチルスルフェンアミド(TBBS)・・・(中略)・・・が好ましく使用される。」 (ホ)「【0023】本発明によるゴム配合物を、ゴム成形品、特にタイヤ部材を製造するために使用することができ、・・・(中略)・・・、特にトラックタイヤのトレッドを製造するために使用する。」 (ヘ)「【0033】本発明によるゴム配合物は、高いレベルの加工安全性を示し、モジュラスおよび引裂抵抗が同時に向上した加硫物質を生成し、さらに低い発熱および70℃での低いtanδを示すことが実施例からわかる。」 以上の記載から、引用文献2には、タイヤのトレッドを製造するために使用する低い発熱を示すゴム配合物として、 天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対して、硫黄を0.5?2重量部、 下式 R_(2)N-(C=S)-S-S-(CH_(2))x-S-S-(C=S)-NR_(2) [R=C_(6)H_(5)CH_(2), x=6] で示される化合物(I)を0.5?3.8重量部、 及びスルフェンアミド系加硫促進剤を0.5?3.0重量部 を含んでなるものが記載されている。 ここで、本願発明における3つの式を b≧0.2・・・(1)式とし、 1.5≦a+b/2≦2.5・・・(2)式とし、 0.5≦c/(a+b/2)≦0.9・・・(3)式としたときに、 引用文献2に記載された硫黄、化合物(I)及びスルフェンアミド系加硫促進剤の各々の値を、本願発明における上記3つの式(1)?(3)に代入すると (1)式について、 化合物(I)0.5?3.8≧0.2であり、 本願発明の(1)式を満足し、 (2)式について、 硫黄+化合物(I)/2 =(0.5?2)+(0.5?3.8)/2 =(0.5?2)+(0.25?1.9) =0.75?3.9となり、 本願発明の(2)式の範囲1.5?2.5を満足するものも含んでお り、 (3)式について、 スルフェンアミド系加硫促進剤/(硫黄+化合物(I)/2) =0.5/{(0.5?2)+(0.5?3.8)/2} =0.5/{(0.5?2)+(0.25?1.9)} =0.5/(0.75?3.9) =0.67?0.13となり、 本願発明の(3)式の範囲0.5?0.9を満足する。 ところで、引用文献2の第7頁に記載されている表4をみると、実施例7の欄に記載されている試験配合物は、 ゴム成分100重量部に対して、 硫黄が0.8重量部、 架橋剤(I)(本願の化合物(I)に相当)が1.5重量部、 そしてスルフェンアミド系加硫促進剤が1重量部 であることが記載されており、 これらの値から計算すると、 (1)式については、架橋剤(I)(本願の化合物(I)に相当)が1.5≧0.2であり、(1)式を満足し、 (2)式については、0.8+1.5/2=1.55であるから、 1.5≦1.55≦2.5であり、(2)式を満足し、さらに、 (3)式については、1/(0.8+1.5/2)=0.645であるから、0.5≦0.645≦0.9であり、(3)式も満足している。 つまり、実施例7は本願発明の3つの式をすべて満足している。 このことからも、本願発明の3つの式をすべて満足するような各成分の値を採用することは当業者にとって容易であるといえる。 よって、引用発明において、そのキャップ-Bとして、引用文献2に記載された低発熱性のゴム配合物を採用して、相違点に係る本願発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことであると認められる。 また、本願発明が奏する効果も、引用発明及び引用文献2記載の発明から予測できる程度のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願日前に頒布された引用文献1及び引用文献2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、 特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-06 |
結審通知日 | 2012-02-07 |
審決日 | 2012-02-20 |
出願番号 | 特願2003-101639(P2003-101639) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上坊寺 宏枝 |
特許庁審判長 |
栗林 敏彦 |
特許庁審判官 |
佐野 健治 瀬良 聡機 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 竹内 浩二 |
代理人 | 古賀 哲次 |