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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1254867
審判番号 不服2011-6160  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-22 
確定日 2012-04-05 
事件の表示 特願2006-172201「建材用化粧材および床材」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日出願公開、特開2008- 973〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成18年6月22日に出願されたもので、平成22年9月1日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲についての同年11月8日付け手続補正書が提出されたものの、同年12月17日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、上記明細書及び特許請求の範囲についての平成23年3月22日付け手続補正書が提出されている。

2.原査定
原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-58039号公報に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

「特開平8-58039号公報」を、以下、「引用刊行物1」という。

3.当審の判断
3-1.平成23年3月22日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-1-1.本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。
補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。

(cl);
「 【請求項1】
絵柄(2、3)を印刷した着色塩化ビニル樹脂シート(1)の絵柄(2、3)面に、透明塩化ビニル樹脂シート(4)を熱圧着してなり、上記絵柄(2、3)が水性ウレタン樹脂をバインダーとする水性インキにより形成されてなる建材用化粧材であって、該建材用化粧材に残留する揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満であることを特徴とする建材用化粧材。
【請求項2】
前記水性ウレタン樹脂が、自己乳化型のウレタン樹脂である請求項1に記載の建材用化粧材。
【請求項3】
前記水性ウレタン樹脂が、末端がイソシアネート基のウレタン樹脂である請求項1または2に記載の建材用化粧材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の化粧材を基材表面に貼合してなることを特徴とする床材。」

(CL);
「 【請求項1】
絵柄(2、3)を印刷した着色塩化ビニル樹脂シート(1)の絵柄(2、3)面に、透明塩化ビニル樹脂シート(4)を熱圧着してなり、上記絵柄(2、3)が水性ウレタン樹脂をバインダーとする水性インキにより形成されてなる建材用化粧材であって、
前記水性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオール、ポリアミン又はアミノ酸を含むポリオールとを反応させて得られたものが、アンモニア又は有機アミンで中和された自己乳化型のウレタン樹脂であり、
該建材用化粧材に残留する揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満であることを特徴とする建材用化粧材。
【請求項2】
前記水性ウレタン樹脂が、末端がイソシアネート基のウレタン樹脂である請求項1に記載の建材用化粧材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建材用化粧材を基材表面に貼合してなることを特徴とする床材。」

ここ「3-1.」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。

3-1-2.本件補正の適否
補正事項aは「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的としたものであるが、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下に述べるように、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
1)新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
絵柄(2、3)を印刷した着色塩化ビニル樹脂シート(1)の絵柄(2、3)面に、透明塩化ビニル樹脂シート(4)を熱圧着してなり、上記絵柄(2、3)が水性ウレタン樹脂をバインダーとする水性インキにより形成されてなる建材用化粧材であって、
前記水性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオール、ポリアミン又はアミノ酸を含むポリオールとを反応させて得られたものが、アンモニア又は有機アミンで中和された自己乳化型のウレタン樹脂であり、
該建材用化粧材に残留する揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満であることを特徴とする建材用化粧材。」

2)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな引用刊行物1には、以下の記載a?bが図面とともに示されている。
記載a;「【0009】
【実施例】本発明のフレキシブルエンボス化粧シートを、図1の一実施例におけるフレキシブルエンボス化粧シートAの側断面図に従って詳細に説明すれば、表面にクリアーな透明ポリ塩化ビニルシート1と、適宜色調に着色され又は表面に適宜着色若しくは印刷柄5を施したポリ塩化ビニルシート2とを重ね合わせ、110℃?150℃、又は130℃?180℃程度に加熱して加熱ラミネート(熱ラミ)により貼り合わせた総厚0.15mm?0.35mmのダブリングシート3を備える。例えば、表面に厚さ約0.2mmのクリアーな上記透明ポリ塩化ビニルシート1を備え、該シート1裏面に、適宜色調に着色され又は表面に適宜着色若しくは印刷柄5を施した厚さ約0.1mmの上記ポリ塩化ビニルシート2を重ね合わせて貼り合わせた厚さ約0.3mmのダブリングシート3を備える。」
記載b;「【0019】本発明における前記ダブリングシート3の表面より施される前記エンボス部6は、フレキシブルエンボス化粧シートAが、ビルディング、住宅など建造物の屋外又は屋内の壁面用建材として使用されるような化粧シートである場合には、花崗岩などの石目調壁や粗壁など、その壁面の質感を呈するような着色印刷柄5が施され、それに同調するようなパターンに凹凸エンボスされたエンボス部6であり、又、上記本発明におけるフレキシブルエンボス化粧シートAが、床材として使用されるような化粧シートである場合には、実際の敷石、タイルなどの質感を呈するような着色印刷柄5が施され、それに同調するようなパターンに凹凸エンボスされているものである。」
そして、【図1】には、着色ポリ塩化ビニルシート上に印刷柄が設けられ、透明ポリ塩化ビニルシートが重ねて設けられている点が図示されている。

3)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特開2004-291587号公報(以下、引用刊行物2という。)、特開2004-291434号公報(以下、引用刊行物3という。)、特開平7-3199号公報(以下、引用刊行物4という。)、特開2004-115670号公報(以下、引用刊行物5という。)、特開平10-130561号公報(以下、引用刊行物6という。)には、以下の記載が認められる。

引用刊行物2:
記載a;「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、室内空気汚染等に影響を与える揮発性有機化合物、特に、製造過程において用いられ、残存が予想される有機溶剤の含有を抑制した改良された化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化粧シートは、種々の対象物品の表面を被覆し、美観を付与するもので、その対象物品の種類は多いが、中でも、建築物の内外装、家具、家庭電機製品、もしくは厨房家具等の表面を被覆し、美観を与えるためによく使われている。
【0003】
化粧シートの構成は、上記したような用途のそれぞれに合わせた様々のものであり得るが、いずれの用途向けであっても、化粧シートとしては、対象物品を隠蔽し得る隠蔽性、耐久性、特に耐摩耗性、柔軟性、および強度等が一定レベル以上であることが望まれる。
【0004】
従来の化粧シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂の着色シートに印刷して模様層を設け、その上に、やはりポリ塩化ビニル樹脂の透明シートを熱融着させると共に、エンボス加工を施した二層のシートからなるものが多用されていた。」
記載b;「【0018】
本発明においては、化粧シート1の模様層4、接着剤層5、および保護層7をいずれも水性組成物を用いて構成する点が好ましい。水性組成物においては、樹脂成分を溶解もしくは分散させるために、有機溶剤を配合せず、本質的に水のみを用いて、印刷機や塗布機により適用可能な粘度とすることができる。また、これらの水性組成物を用いて模様層4、接着剤層5、および保護層7の各層を構成した化粧シート1の総揮発性有機化合物の濃度は、400μg/m^(3)以下であることが好ましい。以下に、本発明の化粧シート1の各層を構成する、もしくはそのために用いる好ましい素材、および各層の積層法、並びに総揮発性有機化合物の濃度について、順次説明する。
【0019】
基材シート3としては、通常、化粧シートに用いられる素材であれば、原則的には、いずれも使用可能であり、大別すれば、各種の紙類、プラスチックフィルムもしくはプラスチックシート(以降、単に、プラスチックシートと言う。)、または金属箔もしくは金属シート等であり、必要に応じて、任意に複合して使用することができるが、印刷や塗装による美観の付与が容易であり、化粧シート1の製造時の加工や化粧シート1を対象物品の表面に適用するときの加工、例えば、折り曲げや成形に適している点でプラスチックフィルムもしくはプラスチックシートが適している。
【0020】
プラスチックシートとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリアクリル酸ブチル樹脂、ナイロン6もしくはナイロン66等で代表されるポリアミド樹脂、三酢酸セルロース樹脂、セロファン、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、またはポリイミド樹脂等の各種樹脂を素材とするものが使用できる。」
記載c;「【0040】
模様層は、染料もしくは顔料等の着色剤とバインダ樹脂との組成物で形成される。模様層4が印刷法によるときは、これら着色剤とバインダ樹脂は、印刷用インキの成分である。プラスチックシートを印刷の対象とする印刷用インキ組成物は、通常、バインダ樹脂を有機溶剤で溶解したバインダ樹脂溶液中に、着色剤を分散させたものである。印刷用インキ組成物は、印刷によりプラスチックシートに転移した後、有機溶剤が揮発して乾燥しセットされるので、適度な乾燥性を有しているべきであるが、印刷用版に供給されてからプラスチックシートにインキが転移するまでの間は乾燥しない程度の乾燥の遅さが逆に要求されるため、比較的、分子量の高いものが用いられ、このことが、後日、化粧シート1からの有機化合物の揮発の原因の一つとなっている。
【0041】
そこで、比較的分子量の低い有機溶剤を使用するか、もしくは水を使用する必要に迫られる。本発明においては、有機溶剤の揮発を無くす観点から、水を使用することとし、水に溶解するか、もしくはエマルジョンとして水に分散する等してバインダ液を構成し得るバインダ樹脂を用いる。
・・・
【0043】
あるいは、バインダ樹脂としては、例えば、ポリアルリルアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリN-ビニルピロリドン系樹脂、水溶性ポリウレタン系樹脂(2液硬化型ポリウレタン系樹脂)、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂、水溶性アミノ系樹脂、もしくは水溶性フェノール系樹脂等の水溶性合成樹脂、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、もしくは多糖類等の水溶性天然高分子等も使用することができる。」

引用刊行物3:
記載a;「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物の内装、建具の表面化粧、車両の内装等に用いられる化粧シートに関し、更に詳しくは、環境安全性が著しく向上すると共に、層間密着性、耐スクラッチ性および意匠性に優れた化粧シートおよびその製造方法に関するものである。」
記載b;「【0004】
溶剤系塗工剤で形成される化粧シートにおいては、インキ層や接着剤層を、有機性揮発物質(以下、VOCという。)であるトルエン、キシレン等の芳香族溶剤およびメチルエチルケトンや酢酸エチル等の脂肪族溶剤を含む溶剤系塗工剤により形成することが一般に行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、近年、建材等から放散される揮発性有機物質が原因とされるシックハウス症候群の発症件数が増えており、厚生労働省により特に危険性が高いとされる物質を指定物質として放散量の指針値化および総揮発性有機物質の放散量の指針値化が実施されている。
【0006】
上述したトルエン、キシレン等の芳香族溶剤およびメチルエチルケトンや酢酸エチル等の脂肪族溶剤は有機性揮発物質(以下、VOCという。)であり、特にトルエン、キシレン等の芳香族溶剤はPRTR法の指定化学物質や室内空気中化学物質の指針値策定物質として挙げられていることから、そうした芳香族溶剤やその他の溶剤の使用を減少させようという動きがある。
【0007】
化粧シートの製造においても、溶剤系塗工剤に含まれるVOCの揮発による化粧シート製造時の作業環境の問題や、化粧シートに残存したVOCが一般の生活空間に供給される環境安全性の問題があり、VOCの使用を減少させて前記の問題を解決しようとする手段が種々提案されている。例えば、下記特許文献2には、インキ層や接着剤層を、VOCの含有を極力減少した水性塗工剤で形成することにより、上記の環境問題を解決することが記載されている。」
記載c;「【0097】
上述の水性化合物で架橋される樹脂成分としては、各種の樹脂成分が好ましいが、本発明においては、2液性の水性ウレタン樹脂を使用することが好ましい。この水性塗工剤は、架橋剤と樹脂成分とを水または水とアルコールと等とからなる混合溶媒に溶解または均一に分散させて調製した2液性のウレタン樹脂塗工剤であり、その水性塗工剤を塗布・乾燥してベタインキ層3及び/又は絵柄インキ層4からなるインキ層11うち少なくとも1層を形成する。そのうち少なくともベタインキ層を2液性の水性ウレタン樹脂を使用して形成することが好ましい。
【0098】
2液性の水性ウレタン樹脂を樹脂成分とした水性塗工剤を用いることにより、基材シート2との層間密着性を向上させることができる。層間密着性が向上する理由は、形成された層を構成するウレタン樹脂が柔軟性と追従性を併せもち、かつ、層中の内部凝集力が高いことであると推察される。この理由は、本発明に係る水性塗工剤で形成した他の層、すなわち、接着剤層5、表面保護層9、裏面プライマー層10、プライマー層13の場合も同じである。」

引用刊行物4:
記載a;「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は水性印刷インキ用バインダーに関する。」
記載b;「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、有機ポリイソシアネート(a)、ポリエステルポリオール(b)、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を含有する化合物(c)、重合停止剤(d)、および必要により鎖伸長剤(e)からなる、平均官能基数(1分子当りのイソシアネート基の平均個数)が1以上、2未満のイソシアネート基末端プレポリマー(A)の中和物を、水中で鎖伸長した水性ポリウレタン樹脂からなることを特徴とする水性印刷インキ用バインダーである。」
記載c;「【0007】分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を含有する化合物(c)としては、活性水素とアニオン基〔アニオン基またはアニオン形成性基(塩基と中和してアニオン基を形成するもの)〕を含有する化合物として公知のものが挙げられ、具体例としては、ジヒドロキシカルボン酸(α,α-ジメチロールプロピオン酸、α,α-ジメチロール酪酸など);ジヒドロキシスルホン酸〔3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩など〕;ジアミノカルボン酸(ジ-アミノ安息香酸など);およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはジヒドロキシカルボン酸であり、特に好ましいものはα,α-ジメチロールプロピオン酸である。(c)のアニオン性親水基がカルボキシル基の場合の該カルボキシル基の含量は、水性ポリウレタン樹脂の重量に基づき通常1.0?7.0重量%、好ましくは1.5?6.0重量%である。カルボキシル基の含量が1.0重量%未満では、安定な水性ポリウレタン樹脂が得られず、7.0重量%を超えるとインキとしたときの皮膜の耐水性が低下する。
【0008】アニオン形成性基を中和する塩基としては、有機塩基(トリメチルアミン、トリエチルアミンなど)および無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)が挙げられ、好ましいものは有機塩基である。」
記載d;「【0016】本発明の水性印刷インキ用バインダーを構成する樹脂は、該水性ポリウレタン樹脂単独でもよく、必要により他の水性樹脂を併用してもよい。併用できる他の水性樹脂としては、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、ロジン系などの水溶性樹脂が挙げられる。」
記載e;「【0019】水性印刷インキが適用できる対象プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなどが挙げられる。
【0020】また、本発明の水性印刷インキ用バインダーは、一液型水性印刷インキ用として使用してもよいが、硬化剤と併用して二液型水性印刷インキ用として使用することもできる。」
記載e;「【0038】
【発明の効果】以上のように本発明の水性印刷インキ用バインダーは、従来のポリウレタン系水性印刷インキ用バインダーの問題であった再溶解性および耐油性を向上させることが出来ることから、特にプラスチックフィルム用の水性印刷インキ用バインダーとして極めて有用である。また、本発明の水性インキ用バインダーは、接着性等の性能が優れていることから、上記用途としてだけではなく塗料のバインダー、紙等のコーティング材としても有用である。」

引用刊行物5:
記載a;「【0002】
【従来の技術】
従来、ポリウレタンはその優れた機械的性質、耐摩耗性、耐薬品性、接着性などの特性を活かして、ゴムとプラスチックスの境界分野を埋める樹脂として、塗料、接着剤、人工皮革などの幅広い用途分野に浸透している。その中で、環境保全、省資源、安全性といった社会ニーズに対応すべく、水性ポリウレタンが急激に発展してきている。ウレタン樹脂の水中への乳化分散技術、アイオノマー化による自己乳化分散技術、さらには水中での高分子量化技術等に進歩により高性能の水性ポリウレタンが出現し、その性能は今日では溶剤系ポリウレタン樹脂に匹敵するレベルになり、各種の用途分野で実用化されるに至っている。
【0003】
しかしながら、水性ポリウレタンの問題点として、水性化する場合に必要な乳化剤やイオン基により、ポリウレタン樹脂本来の特性、例えば、耐溶剤性や耐熱性を阻害することがしばしばある。
一般的に、水性ポリウレタン樹脂は、その製造方法から強制乳化法、ケトン法、プレポリマー水中攪拌法、溶融分散方法、ケチミン法、自己乳化方法が知られている。水性インキに用いられるウレタン樹脂は、顔料分散性、印刷適性、フィルムへの接着性、耐水性などから、一般的にケトン法、すなわちイソシアネート基を含むプレポリマーをケトン系溶媒などの有機溶剤等で合成し中和後、脱溶剤過程を経てエマルジョン、コロイダルデスパージョン、水溶解型等の水性ウレタン樹脂が使用されてきた。」
記載b;「【0011】(イソシアネート末端ポリウレタン樹脂)
本発明に用いられる、イソシアネート基末端ポリウレタン樹脂は、公知の方法により得られ、ジオールおよびジイソシアネートをイソシアネート基/水酸基比率が1以上2以下となるように反応させて得られる。」
記載c;「【0016】(酸価)
ポリウレタン樹脂に酸基を付与するために、酸基含有モノマーを使用することができる。本発明に使用するイソシアネート基末端ポリウレタン樹脂の酸価は好ましくは5から70の範囲である。酸価が5を下回るとポリウレタン樹脂の水への分散・溶解性が劣るため樹脂の分離や沈殿の発生等安定性に問題が生じ、さらに水性印刷インキのバインダーとして用いた場合、顔料分散性、再溶解性が劣り、版かぶり性、版づまり性等の印刷適性に欠ける。酸価が70を越えるとポリウレタン樹脂の水への分散・溶解性が良好となり安定性が良くなるが、水性印刷インキのバインダーとして用いた場合インキ皮膜を形成した後の耐水性が劣る。また、インキ皮膜が硬くなり接着性が劣る。」
記載d;「【0026】(中和剤の種類)
本発明で用いられるポリウレタン樹脂の酸基を中和する塩基性物質としては、アンモニア;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いられるが、乾燥後の皮膜の耐水性を向上させるためには、水溶性であり、かつ熱によって容易に解離する揮発性の高いものが好ましく、特にアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。」

引用刊行物6:
記載a;「【0003】
【従来の技術】従来において使用されていた、プラスチック・フィルムに印刷されるインキは、顔料分散性、フィルムに対する接着性、耐水性、乾燥性ならびに印刷適性などのインキの基本性能は勿論のこと、ラミネート加工や、ボイル・レトルト処理などの後加工適性にも優れているという処からも、ほとんどが、溶剤タイプのものであった。
【0004】ところで、インキ用バインダーとして特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、極性基を有するフィルムに対して良好なる接着性を有するポリウレタン樹脂の単独系であるとか、あるいはポリウレタン樹脂と、ポリオレフィン系フィルムに対して良好なる接着性を有する塩素化ポリプロピレンとを、特定の組成比で以て併用した形の併用系などであり、こうした形の公知慣用の種々のインキ用バインダーが用いられている。
【0005】しかし、最近では、資源保護、環境保全ならびに作業の安全性の向上化などのニーズの高まりによって、印刷インキの水性化が図られており、斯かる水性化の手段としての、まず、溶剤性インキを水性化する方法として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、溶剤性インキとして用いられている、いわゆるバインダー樹脂を、乳化剤の存在下で、水中に分散させるか(水分散タイプ)、
【0006】あるいは分子中に酸基を導入せしめたのちに、塩基性化合物の存在下で、水中に溶解させ(水溶性タイプ)または分散させて(自己乳化性タイプ)、水を媒体とした形のインキと為すという方法がある。」
記載b;「【0043】これらとは別に、湿気硬化型ウレタン樹脂の名で、一般的に呼称されているような、各種のポリイソシアネート・プレポリマーなどもあり、それらのうちでも特に代表的なもののみ例示するにとどめれば、
【0044】トリメチロールプロパンやエチレングリコールなどで代表されるような各種のポリオール類とか、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールの如き、各種のポリオールプレポリマー類とか、
【0045】トルエンジイソシアネート、1,6-ヘキサンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートの如き、各種のジイソシアネート類を基本原料として、OH/NCO<1なる条件下で以て、ウレタン化反応せしめるということによって得られるという形の化合物などである。」
記載c;「【0049】以上に掲げたような種々の原料成分と調製方法とを駆使して得られる当該ポリウレタン樹脂としては、酸価が約10?約200の範囲内が、好ましくは、15?100の範囲内が適切である。
【0050】約10未満の場合には、どうしても、乳化重合時の安定性が確保され難くなり易いし、一方、約200を超えて余りにも多くなるというような場合には、どうしても、とりわけ、皮膜強度ならびに耐水性などが悪くなり易いので、いずれの場合も、好ましくない。
【0051】中和剤としての塩基性化合物として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムまたはアンモニアあるいはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミンまたはN-メチルモルホリンなどのような種々の第3級アミン類などであるが、
【0052】これらの種々の塩基性化合物の中でも、分散性などが良好であって、しかも、塗膜中に残存しにくい、いわゆる揮発性の高い、たとえば、アンモニア、トリエチルアミンまたはジメチルエタノールアミンなどの使用が特に望ましい。」

4)引用刊行物1には、記載a及び【図1】によれば、化粧シートが、表面にクリアーな透明ポリ塩化ビニルシート1を、表面に着色印刷柄5を施したポリ塩化ビニルシート2の着色印刷柄を施した側に重ね合わせ、加熱ラミネートにより貼り合わせたダブリングシートを備えたものであることが記載され、記載bによれば、前記ダブリングシートが壁面用建材や床材に使用される化粧シートに用いることが記載されているのであるから、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「表面に着色印刷柄を施したポリ塩化ビニルシートの着色印刷柄を施した側に、透明ポリ塩化ビニルシートを加熱ラミネートにより貼り合わせたダブリングシートを備えた壁面用建材や床材に使用される化粧シート。」

5)次に、補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「表面に着色印刷柄を施したポリ塩化ビニルシート」「透明ポリ塩化ビニルシート」「加熱ラミネートにより貼り合わせた」「壁面用建材や床材に使用される化粧シート化粧シート」は、それぞれ、補正発明の「絵柄(2、3)を印刷した着色塩化ビニル樹脂シート(1)」「透明塩化ビニル樹脂シート(4)」「熱圧着してなり」「建材用化粧材」に対応する。
以上のことから、補正発明は、引用発明とは、
「絵柄を印刷した着色塩化ビニル樹脂シートの絵柄面に、透明塩化ビニル樹脂シートを熱圧着してなる建材用化粧材」である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点a;補正発明は、絵柄が水性ウレタン樹脂をバインダーとする水性インキにより形成されてなり、該水性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオール、ポリアミン又はアミノ酸を含むポリオールとを反応させて得られたものが、アンモニア又は有機アミンで中和された自己乳化型のウレタン樹脂であるのに対して、引用発明においては、絵柄を形成するインキに関して特定されていない点。
相違点b;補正発明は、建材用化粧材に残留する揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満であると特定しているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

6)そこで、相違点aについて検討する。
建材用化粧材の技術分野において、残留する揮発性有機化合物(VOC)の抑制は、上記3)の引用刊行物2記載a,b、引用刊行物3記載a,bに記載されるように、当業者にとって常に考慮される自明の課題であり、該自明の課題を解決するため、絵柄を形成するインキのバインダーとして、水性ウレタン樹脂を用いることは、上記3)の引用刊行物2記載c、引用刊行物3記載cにも記載されるように、周知慣用技術である。
そして、水性インキ用のバインダーとしての水性ウレタン樹脂に、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオール、ポリアミン又はアミノ酸を含むポリオールとを反応させて得られたものが、アンモニア又は有機アミンで中和された自己乳化型のウレタン樹脂が用いられることは、引用刊行物4記載b?d,引用刊行物5記載a,b,d,引用刊行物6記載a?cに記載されるように、周知慣用技術である。
したがって、引用発明において、絵柄を印刷するときのインキのバインダーとして、残留する揮発性有機化合物(VOC)の抑制のために、水性ウレタン樹脂を用い、その中でも、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオールとを反応させて得られたものを塩基で中和した自己乳化型のウレタン樹脂を用いることは、当業者にとって何ら困難性はなく、相違点aは容易に想到し得るものである。
また、適用したことによる作用効果を検討しても、本件明細書【0039】【0040】の記載から補正発明は塩化ビニル系共重合体をバインダー樹脂に用いたものに対する比較がなされているだけであるし、また、引用刊行物3記載c、引用刊行物4記載eに示されるように、自己乳化型の水性ウレタン樹脂をバインダーとした場合にも層間密着性、接着性に優れたものが得られているのであるから、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

7)次に、相違点bについて検討する。
揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満と上限限定されている点は、相違点aに関して、6)において述べたように、建材用化粧材の技術分野において、残留する揮発性有機化合物(VOC)の抑制は、当業者にとって常に考慮される自明の課題である以上、例えば上記3)の引用刊行物2記載bも開示されるように、有機溶剤を用いずに水性組成物を用いることによって、残留する揮発性有機化合物(VOC)の濃度を一定以下にすることができるのであるから、本件明細書【0038】(5)の建材用化粧材に残留する有機溶剤の評価結果をみても、3mg/m^(2)未満という上限は、できるだけ有機溶剤を減らすという観点からの目安としての上限であり、当業者であれば、容易に想到し得るものである。

なお、請求人は、平成24年1月10日付け回答書3?7頁において、補正案を前提として、水性ウレタン樹脂の末端がイソシアネート基である場合の耐水性の向上に関して、比較実験例を追加して主張しているが、水性ウレタン樹脂の末端をイソシアネート基とすることは、引用刊行物5記載b、引用刊行物6記載bにも記載されるように、水酸基に対するイソシアネート基の割合を、本件明細書【0016】と同様に、1より大きくすることにより形成されるものであるし、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの酸価を調整して耐水性にも優れたものが形成されたことも開示されているのであるから(引用刊行物5記載c、引用刊行物6記載c参照)、当業者の予測を超える、格別顕著なものとは言えず、上記主張は採用できない。

8)してみると、補正発明は、引用発明及び引用刊行物2?6に記載されるような前記周知慣用技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-1-3.まとめ
補正事項aを有する本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3-2.原査定の拒絶理由について
3-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「3-1.」で述べたように却下すべきものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「絵柄(2、3)を印刷した着色塩化ビニル樹脂シート(1)の絵柄(2、3)面に、透明塩化ビニル樹脂シート(4)を熱圧着してなり、上記絵柄(2、3)が水性ウレタン樹脂をバインダーとする水性インキにより形成されてなる建材用化粧材であって、該建材用化粧材に残留する揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフ法による測定値が3mg/m^(2)未満であることを特徴とする建材用化粧材。」

3-2-2.引用刊行物1及び周知文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1及び引用刊行物2、3(周知技術を示すための文献)の記載事項は、前記「3-1-2. 3)」に記載したとおりである。

3-2-3.対比・判断
1)本願発明は、前記「3-1.」で検討した補正発明から「水性ウレタン樹脂」の限定事項である「前記水性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、アニオン性基を有するポリオール、ポリアミン又はアミノ酸を含むポリオールとを反応させて得られたものが、アンモニア又は有機アミンで中和された自己乳化型のウレタン樹脂であり」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「3-1-2.」に記載したとおり、引用発明及び前記周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明において、自明の課題である残留する揮発性有機化合物(VOC)の抑制のために、絵柄を形成するインキのバインダーとして、水性ウレタン樹脂を用いたものにすぎず、引用発明及び引用刊行物2、3に記載されるような前記周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3-2-4.まとめ
本願発明は、引用発明及び前記周知慣用技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2012-02-06 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-22 
出願番号 特願2006-172201(P2006-172201)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 知也  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 一ノ瀬 薫
瀬良 聡機
発明の名称 建材用化粧材および床材  
代理人 阿部 寛志  
代理人 近藤 利英子  
代理人 菅野 重慶  

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