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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
管理番号 1254992
審判番号 不服2009-25649  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2012-04-04 
事件の表示 平成10年特許願第253460号「攪拌型顔料配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年6月2日出願公開、特開平11-148024〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成10年9月8日(パリ条約による優先権主張 1997年9月23日 米国(US))の出願であって,平成17年8月29日に手続補正書が提出され,平成21年4月21日付けで拒絶理由が通知され,同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出され,同年8月19日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年12月25日に審判が請求され,平成22年3月3日に審判請求書の手続補正書が提出され,平成23年5月23日付けで当審において拒絶理由が通知され,同年9月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は,平成23年9月30日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」といい,上記明細書を「本願明細書」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】 微粒子形態の攪拌型顔料配合物であって、
顔料85?99.5重量部、及びビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを含む添加剤0.5?15重量部を含み、但し該コポリマーは、エチレン性不飽和スルホン酸及びN-ビニル-ピロリドンのコポリマーでなく、ビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーの重量平均分子量が5,000?200,000g/molであり、前記微粒子形態の攪拌型顔料配合物が水性顔料分散物を噴霧乾燥することによって得られたことを特徴とする顔料配合物。」

第3 当審における拒絶理由の概要
当審における拒絶理由の概要は,本願発明は,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が日本国内において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて,容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,との理由を含むものである。

第4 刊行物及びその記載事項
刊行物1,3は次のとおりであって,以下の事項が記載されている。
刊行物1:特開平4-226542号公報(当審拒絶理由の「刊行物1」)
刊行物3:特開昭57-49664号公報(当審拒絶理由の「刊行物3」)

1 刊行物1の記載事項
(1a)「【請求項1】ポリオレフィンをそりなく着色する方法において、その粒子表面が極性重合体の1つまたはそれ以上のフィルムでコーティングされている有機顔料を使用することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「【請求項2】極性重合体が下記のクラスの線状または分枝状単独重合体または共重合体を含む群より選択される請求項1記載の方法:・アクリル酸、メタクリル酸および/またはそれらのアルキルエステルをベースとしたアクリル系重合体、
・ポリビニルアルコール、
・ポリビニルピロリドン、
・セルロース誘導体、
・無水マレイン酸/スチレン共重合体。」(特許請求の範囲の請求項2)
(1c)「【請求項3】該重合体を顔料を基準にして0.5乃至20重量%の量で使用する請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項3)
(1d)「実施例8
1,4-ジケト-3,6-ジ(4-クロロフェニル)-ピロロピロール[3,4-c]ピロールの39.4%水性濾過ケーキ800gとポリビニルピロリドン(・・・)15.75gとを、強力攪拌(・・・)して室温において20分間水2665ml中に分散させる。この懸濁物を室温においてさらに16時間攪拌する。このあと濾過し、濾過残留物を80℃の温度において乾燥し、粉末化する。」(段落【0029】)
(1e)「実施例11
1,4-ジケト-3,6-ジ(4-クロロフェニル)-ピロロピロール[3,4-c]ピロールの37.4%水性濾過ケーキ80.2gを、ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体・・・51.5gと共に強力攪拌(・・・)によって室温で1時間水250ml中に分散させる。この懸濁物を室温においてさらに18時間攪拌する。このあと濾過し、濾液残留物を80℃において乾燥し、粉末化する。」(段落【0032】)
(1f)「【0010】・・・好ましいポリビニルピロリドンは5000乃至500000の範囲の分子量を有するものである。」
(1g)「【0003】・・・しかしながら、当業者に一般に知られているように、この方法によってもたらされる平均粒子サイズの増大は他の重要な顔料特性、特に着色濃度を犠牲にしてしまう。」

2 刊行物3の記載事項
(3a)「(1)塩基性物質によって水に可溶化できる熱可塑性樹脂で顔料を処理し、次いでスプレー乾燥することを特徴とする顔料組成物の製造方法。
(2)水に可溶化できる熱可塑性樹脂を顔料に対し、0.1?10%(重量)使用する特許請求の範囲第1項記載の方法。」(特許請求の範囲の第1項,第2項)
(3b)「本発明は印刷インキ、塗料、プラスチックなどの着色に際して容易に分散し、作業中の顔料の飛散を防止した、かつ広い用途に適応性をもつ乾燥顔料組成物の新規な製造方法に関するものである。」(1頁左欄下から2行?右欄3行)
(3c)「次に本発明の製法について詳細に説明する。まず顔料合成後の含水スラリーまたはろ過(審決注:「ろ」の字は,「さんずい」に「戸」である。)後の含水プレスケーキを攪拌機をそなえつけた容器に入れ、必要に応じて水を加え十分に攪拌する。・・・次に塩基性物質によって水に可溶化した熱可塑性樹脂をこれに加えて十分攪拌する。樹脂は・・・あらかじめ別の容器で樹脂と塩基性物質を加えて水溶性化しておく方が溶解が速いので有利である。・・・樹脂を加えることによりこの混合スラリーは・・・を示す。
次にこのスラリーをスプレー乾燥装置に導入し・・・連続的に乾燥する。」(2頁右下欄8行?3頁左上欄13行)
(3d)「本発明方法によれば、顔料に対する樹脂量が少なくてもスプレー乾燥による顔料の凝集をほとんど押えてきわめて分散容易な粉末顔料を得ることができ、しかも得られる粒子は大部分が球状であり、かさが低く、粉砕も不要であり、かつ飛散性もきわめて少ない。また顔料の含有量が高いので、広い範囲の塗料、印刷インキ、プラスチックと相溶性があり、塗膜物性、印刷適性を損うことがない。その上、スプレー乾燥は熱効率もよく、省エネルギーの点からも工業的に有利である。」(3頁左上欄下から3行?右上欄8行)
(3e)「実施例2
水1286部およびα型銅フタロシアニン500部からなるプレスケーキ1786部を高速分散機(デゾルバー)を備えた5.000容量部のステンレス製容器に入れる。これに水714部およびジメチルスチレン-マレイン酸樹脂〔・・・〕29部を加える。高速分散機を30分間運転すると、プレスケーキはスラリー状の分散液となった。このスラリー液の固型分は22.2%を示しB型粘度計で粘度を測定したところ860cps(25℃)を示した。
このスラリー液を入口温度220℃、出口温度100℃に調整したスプレードライヤーで連続乾燥を行い、496部の顔料組成物を得た。この顔料組成物は10?60ミクロンの球状であり、ノンダスト性に優れ、嵩比重2.5ml/gであった。比較のため本発明の顔料組成物と、α型銅フタロシアニンのプレスケーキを通気式箱型乾燥機で80?85℃一昼夜乾燥し、100メッシュ金網を通したものを塩化ビニールでの分散性を比較した。熱可塑性樹脂を含む本発明の顔料組成物は、機械的粉砕により微粉末状にしなくても粒状のままで、分散性が向上した。また着色力は通気乾燥機で乾燥したものにくらべ10%向上した。
なお、α型銅フタロシアニンのプレスケーキは、粗製銅フタロシアニンを公知の方法で酸ペースト法で得られるα型銅フタロシアニンのプレスケーキを使用した。」(3頁右下欄10行?4頁右上欄2行)
(3f)「一方、顔料と多量の水溶性アニオン活性剤、水溶性高分子と水の混合物をスプレー乾燥して顔料組成物を製造する方法が知られている。」(2頁右上欄9?12行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,「ポリオレフィンをそりなく着色する方法において、その粒子表面が極性重合体の1つまたはそれ以上のフィルムでコーティングされている有機顔料を使用することを特徴とする方法」について記載されるところ(摘記(1a)),「その粒子表面が極性重合体の1つまたはそれ以上のフィルムでコーティングされている有機顔料」についても記載されているといえ,摘記(1b)や実施例についての摘記(1d)、(1e)によれば,「極性重合体」には「ポリビニルピロリドン」や「ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体」が包含され,この「ポリビニルピロリドンは5000乃至500000の範囲の分子量を有するもの」(摘記(1f))であり,また,顔料と重合体との重量比は,「重合体を顔料を基準にして0.5乃至20重量%の量で使用する」場合(摘記(1c))を包含する。
そして,顔料と重合体の配合物を水に分散させ,この懸濁物を「攪拌し」,「濾過し」,「乾燥し」,「粉末化」して顔料配合物を得ることも記載され(摘記(1d)、(1e)),「水に分散させ」た「懸濁物」は水性顔料分散物といえる。
すると,刊行物1には,
「顔料と、その0.5乃至20重量%のポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体を含み、ポリビニルピロリドンは5000乃至500000の範囲の分子量を有し、顔料と重合体の水性顔料分散物から、攪拌し、濾過し、乾燥し、粉末化して得られた顔料配合物」
についての発明(以下、「引用発明I」という。)が記載されているといえる。

2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明Iとを対比する。
引用発明Iの「ポリビニルピロリドン」,「ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体」は,本願発明の「ビニルピロリドンポリマー」,「ビニルピロリドンコポリマー」にそれぞれ相当し,「酢酸ビニル」は「エチレン性不飽和スルホン酸」でないから,引用発明Iの「ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体」は,「エチレン性不飽和スルホン酸及びN-ビニル-ピロリドンのコポリマー」ではない。
そうすると,本願発明と引用発明Iとは,
「顔料配合物であって、
顔料、及びビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンを含む添加剤を含み、但し該コポリマーは、エチレン性不飽和スルホン酸及びN-ビニル-ピロリドンのコポリマーでなく、水性顔料分散物から得られた顔料配合物」
である点で一致し,次の(i)?(iii)の点で一応相違する。
(i)顔料配合物が,本願発明においては,「微粒子形態の攪拌型顔料配合物」であって,「水性顔料分散物」を「噴霧乾燥」して得ているのに対し,引用発明Iにおいては,「微粒子形態の攪拌型顔料配合物」という特定はされておらず,「水性顔料分散物を攪拌し、濾過し、乾燥し、粉末化」して得ている点
(ii)顔料及びビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを含む添加剤の重量比が,本願発明においては,「顔料配合物において」,「顔料85?99.5重量部、及びビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを含む添加剤0.5?15重量部を含」むのに対して,引用発明Iにおいては,「水性顔料分散物」において,「顔料と、その0.5乃至20重量%のポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体を含む」点
(iii)本願発明は,「ビニルピロリドンポリマー又はポリビニルピロリドンコポリマーの重量平均分子量が5,000?200,000g/mol」であるのに対して,引用発明Iでは,「ポリビニルピロリドンは5000乃至500000の範囲の分子量を有し」ている点

(2)判断
ア 相違点(i)について
本願発明の「攪拌型顔料配合物」の意味を,本願明細書の記載を参酌して解すると,「攪拌型顔料配合物類は、ペイント及びインキシステム類、特に溶媒-に基づくシステム類に適用したときに、優れた攪拌特性を示す。それらは、ビーズ粉砕機中での時間とエネルギーを消費することなく、顔料粉末をペイントシステムに混合することができる大きな利点を持っている。」(段落【0002】)もので,また,「新規な攪拌型顔料配合物類は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS又はポリアミドのような高性能プラスチック類に混合されたとき、容易に分散し得る。」(段落【0055】)ものであるから,塗料やプラスチックに配合すると優れた「撹拌特性」,「分散性」を示す「顔料配合物」を意味するものと認められる。
一方,刊行物3には,「印刷インキ、塗料、プラスチックなどの着色に際して容易に分散」し(摘記(3b)),「粉砕も不要」な顔料(摘記(3d)),すなわち,本願発明の「攪拌型顔料配合物」に相当する「顔料組成物」が記載されていると認められる。
また,本願発明の「微粒子形態」とは,本願明細書に記載されるように「好適には3?300μmの範囲での寸法を有している」ものである(段落【0044】)ところ,刊行物3の実施例2において得られた顔料組成物は「10?60ミクロンの球状」のものである(摘記(3e))から,本願発明の「微粒子形態」に相当する。
さらに,刊行物3には,この「顔料組成物」は、「スプレー乾燥」により得られ(摘記(3a)),この「顔料組成物」は「顔料に対する樹脂量が少なくてもスプレー乾燥による顔料の凝集をほとんど押えてきわめて分散容易な粉末顔料を得ることができ、しかも得られる粒子は大部分が球状であり、かさが低く、粉砕も不要であり、かつ飛散性もきわめて少ない。また顔料の含有量が高いので、広い範囲の塗料、印刷インキ、プラスチックと相溶性があり、塗膜物性、印刷適性を損うことがない。その上、スプレー乾燥は熱効率もよく、省エネルギーの点からも工業的に有利である。」(摘記(3d)),「着色力は通気乾燥機で乾燥したものにくらべ10%向上した。」(摘記(3e))という数々の利点が得られることが記載されている。
ところで,引用発明Iの「顔料配合物」も「ポリオレフィンをそりなく着色する」(摘記(1a)),すなわち,プラスチックに配合するものであって,本出願前に頒布された参考文献である「化学大辞典」(共立出版株式会社,1989年8月15日発行,第2巻,p.685-686参照)の「顔料化学」の項に「特に染料の場合より重視しなくてはならないのは顔料分散の問題で,これは顔料が分散状態で使用されるためである.」と記載されるように,「顔料配合物」においては,分散性を重視しなければならないことは当業者にとって技術常識といえ,また,刊行物1に,「平均粒子サイズの増大は他の重要な顔料特性、特に着色濃度を犠牲にしてしまう」と記載される(摘記(1g))ように,着色濃度(着色力)を高めることも「顔料配合物」の技術課題として当業者に認識されていたと認められる。

そうすると,引用発明Iの「顔料配合物」においても,配合時の顔料の分散性や着色力の向上といった技術課題が当業者にとって認識されていたと認められるところ,顔料と樹脂を含む水性顔料分散物をスプレー乾燥,すなわち,噴霧乾燥させれば微粒子形態の攪拌型顔料配合物が得られ,それによって,分散容易な粉末顔料を得ることができ,通気乾燥よりも着色力が向上することが刊行物3に記載されていること,加えて,噴霧乾燥は微粒子を得る方法として周知でもあることから,引用発明Iにおいて,上述の技術課題を解決するために,刊行物3の記載に基づいて,「水性顔料分散物を攪拌し、濾過し、乾燥し、粉末化」する手法に代えて,「水性顔料分散剤を噴霧乾燥」する手法を採用し「微粒子形態の攪拌型顔料配合物」を得ることは,当業者にとって容易に想到し得たことと認められる。

イ 相違点(ii)について
引用発明Iにおいては,「水性顔料分散物」において,「顔料と、その0.5乃至20重量%のポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(以下,「ポリマー」と略す。)を含む」(顔料83.3?99.5重量%、ポリマー0.5?16.7重量%)ものであって,刊行物1の実施例8においても,顔料とポリマーの配合量から計算して,顔料とポリマーの重量合計に対して顔料95重量%,ポリマー5重量%の重量比に相当する水性顔料分散物(摘記(1d))が記載されている。
そして,水性顔料分散物を撹拌,濾過,乾燥,粉末化して顔料配合物を得る過程で一部のポリマーが顔料配合物に含まれなくなる可能性があるものの,その大部分は顔料配合物に残ると考えられるから,「顔料配合物において」も,「顔料85?99.5重量部、及びビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを含む添加剤0.5?15重量部を含」む範囲に含まれる蓋然性が高いといえる。
よって,相違点(ii)は実質的な相違とは認められない。
仮に,相違があったとしても,顔料とポリマーとの重量比は,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎず,さらに,刊行物3には,噴霧乾燥するために樹脂を顔料に対して0.1?10%(重量)使用することも記載されている(摘記(3a))から,相違点(ii)は当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ 相違点(iii)について
引用発明Iにおいては,「ポリビニルピロリドンは5000乃至500000の範囲の分子量を有」するものであるが,この「分子量」は,本出願前に頒布された参考文献である「化学大辞典」(共立出版株式会社,1989年8月15日発行,第3巻,p.599-600参照)の「高分子化合物」の項に「高分子化合物は分子量の等しい分子の集合体ではなく,一般にいろいろな大きさの分子量(または重合度)をもった分子(または重合同族体)の混合物である.・・・したがって,これらの場合,測定される分子量は平均分子量^(*)である.」と記載されるように,「重量平均分子量」を意味すると解され,本願発明とは,「ビニルピロリドンポリマーの重量平均分子量が5,000?200,000g/mol」である範囲で重複するから,相違点(iii)も実質的な相違とは認められない。
仮に,相違があったとしても,引用発明Iのポリマーの重量平均分子量を,刊行物1の記載に基づいて,「5,000?200,000g/mol」の範囲に限定することも当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

3 本願発明の効果について
本願発明の奏する効果は,本願明細書の記載からみて,(1)ビーズ粉砕機の時間とエネルギー消費工程並びにビーズ粉砕機を清掃する費用を必要としない(段落【0045】),(2)優れた分散性のために、すべての適用媒体を通しての顔料粒子の均一分布は、容易に達成され、本発明の攪拌型顔料を含む配合物類は、優れたレオロジー挙動を示す(段落【0051】),さらに,(3)高い「色の濃さ」を示す(平成21年7月30日付けの意見書(実験例),審判請求書の手続補正書)ことといえる。
しかしながら,刊行物3には,水性顔料分散物を噴霧乾燥させることで,(1)粉砕が不要なこと(摘記(3d)),(2)分散性に優れること(摘記(3b)、(3d)、(3e)),(3)「着色力は通気乾燥機で乾燥したものにくらべ10%向上した。」と記載されるように,色が濃いこと(摘記(3e))が示されているから,本願発明の奏する効果は,顔料と樹脂を含む水性顔料分散物を噴霧乾燥することにより得られもので,刊行物3の記載から,当業者が十分予測し得る範囲内のものと認められる。

4 まとめ
したがって,本願発明は,当業者がその出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は,平成23年9月30日に提出された意見書において,以下の主張をしている。
(a)「引用発明Iにおいて、課題である「ポリオレフィンをそりなく着色」するために、顔料をコーティングするに際して、(1)あらかじめ形成された可溶性ポリマーまたはオリゴマーを顔料の上に吸着させ(第11段落)、被処理顔料は水性懸濁物中で攪拌しながら極性重合体で後処理され、濾過助剤、沈殿剤を添加して沈殿させることもできる(第12段落)ことが記載されており、これらの記載からすると、引用発明Iの「粒子表面が極性重合体の1つまたはそれ以上のフィルムでコーティングされている有機顔料」は、個々の微粒子形態を有していることまで示唆されず、凝集体であってもよいと解される。なお、刊行物1には、例えば実施例8に、顔料を粉末化することは記載されているものの(第29段落)、粉末化した顔料の個々の粒子のサイズは全く記載されていない。
さらに、刊行物1には、コーティングされた顔料を、ポリオレフィン(ポリプロピレン(商標))とともに乾燥状態においてタンブルミキサーを使用して10分間混合した後、単軸押出機で押出して顆粒とし、この顆粒を射出成形機にかけて板に加工している(第40段落)。
これらの刊行物1の記載と、引用発明Iの課題から、引用発明Iのコーティングされた顔料は、ポリオレフィンと乾燥状態において混合する際に粉末化の状態となっていればよいことが推測され、本願発明1(審決注:「本願発明」のことである。以下同じ。)で規定する(i-2)「微粒子形態」を有していることまでも示唆されない。また、引用発明Iは、ポリオレフィンと乾燥状態において混合することから、本願発明1の「水性システム類中で攪拌型顔料として用いるために理想的である」という効果を奏することは推測し得ない。したがって、引用発明Iの課題を達成するために、「微粒子形態」の有機顔料を得る必要性はなく、刊行物1の記載からは、「噴霧乾燥」を採用することは示唆されない。」
(b)「上述のとおり、引用発明Iの課題は、「ポリオレフィンをそりなく着色すること」であり、この課題を達成するために、コーティングされた顔料とポリオレフィン(ポリプロピレン)とを乾燥状態で混合しており、引用発明Iの課題と、刊行物1に具体的に記載された事項から、「噴霧乾燥」することは示唆されない。
また、刊行物3、4には、顔料を処理する樹脂として、ビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを用いた有機顔料については記載されていないため、ビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを用いた、例えば引用発明Iのような「コーティングされている有機顔料」に「噴霧乾燥」を採用することは示唆されない。
したがって、刊行物3、4の記載により「噴霧乾燥」することが本願発明1の出願前に周知になっていたとしても、引用発明Iの課題は、本願発明1の課題とは異なり、刊行物1の記載からは、引用発明Iにおいて、「ポリオレフィンをそりなく着色する」課題の解決に到達するために、刊行物3、4に記載されているような周知の「噴霧乾燥」を採用したはずであるという示唆が存在しない。」

2 検討
(1)主張(a)について
主張(a)では,引用発明Iの課題を「ポリオレフィンをそりなく着色すること」に限定しているが,上記「第5 2(2)ア」で述べたように,引用発明Iの「顔料配合物」も,プラスチックに配合されるものであるから,配合時の顔料の分散性や着色力の向上がその技術課題として当業者に認識されるものであったといえる。
そして,刊行物1に「顔料配合物」が「微粒子状形態」であることや「噴霧乾燥」を行うことが示唆されていなかったとしても,配合時の顔料の分散性や着色力の向上という技術課題の解決手段である噴霧乾燥によって顔料配合物の微粒子形態とすることが刊行物3に記載されているのであるから,刊行物3の記載に基づいて,引用発明Iにおいて,水性顔料分散物を「噴霧乾燥して」「微粒子形態の撹拌型顔料配合物」とすることは当業者にとって容易に想到し得たことと認められる。
よって,主張(a)を採用することができない。

(2)主張(b)について
刊行物3には,顔料を処理する樹脂として,ビニルピロリドンポリマー又はビニルピロリドンコポリマーを用いることについては記載されていないが,「水溶性高分子と水の混合物をスプレー乾燥して顔料組成物を製造する方法が知られている。」(摘記(3f))との記載からすれば,刊行物3に記載される顔料と樹脂を含む水性顔料分散体の噴霧乾燥を,水溶性高分子である「ビニルピロリドンポリマー」に適用することに,特段の阻害要因があったと認めることはできない。
また,刊行物3の実施例2においては,顔料を処理する樹脂として「ジメチルスチレン-マレイン酸樹脂」が記載されている(摘記(3e))ところ,刊行物1の顔料を処理する樹脂としても「ポリビニルピロリドン」と並んで「無水マレイン酸/スチレン共重合体」が記載され(摘記(1b)),「ジメチルスチレン-マレイン酸樹脂」とほぼ同じ構造を有する「無水マレイン酸/スチレン共重合体」と同等の効果を発揮する樹脂として「ポリビニルピロリドン」が示唆されているといえるから,この点からも,刊行物3に記載される顔料と樹脂を含む水性顔料分散体の噴霧乾燥を,「ビニルピロリドンポリマー」に適用することに,特段の阻害要因があったと認めることはできない。
そして,引用発明Iの課題の一つが「ポリオレフィンをそりなく着色する」としたものであったとしても,顔料配合物としては,上記(1)で述べたように,配合時の顔料の分散性や着色力の向上がその技術課題として当業者に認識されるものであったといえるから,これらの課題を解決するために,刊行物3に記載される水性顔料分散物の噴霧乾燥という手段を採用することは当業者にとって容易に想到し得たことと認められる。
よって,主張(b)も採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-02 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-21 
出願番号 特願平10-253460
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 千香子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 小石 真弓
橋本 栄和
発明の名称 攪拌型顔料配合物  
代理人 伊藤 佐保子  
代理人 安藤 雅俊  
復代理人 川田 秀美  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 津国 肇  

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