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審決分類 審判 判定 対象物 属さない(申立て成立) F27D
管理番号 1255074
判定請求番号 判定2011-600050  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2012-05-25 
種別 判定 
判定請求日 2011-11-11 
確定日 2012-03-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3196261号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「熱処理炉」は、特許第3196261号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨・手続の経緯
本件判定の請求は、平成23年11月11日になされ、その請求の趣旨は、図1及びその説明書に示すイ号物品の「熱処理炉」は、特許第3196261号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。
これに対し、同年12月2日付け(発送日 同月6日)で被請求人に請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、同月28日付けで答弁書が提出され、平成24年1月19日付け(発送日 同月23日)で請求人に答弁書の副本を送達し、その後、イ号物件及び本件特許発明の技術的範囲に関する合議体の暫定的な見解について、同月26日付けで請求人及び被請求人に対して審尋をしたところ、同年2月29日付けで被請求人から回答書が提出され、請求人から回答書は提出されなかった。

2.本件特許発明の認定
本件特許発明は、平成21年3月9日付け訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】(A)炉側壁を含む炉本体と、炉本体の底部を閉塞する炉床とで形成される熱処理空間を有し、
(B)(B1)該熱処理空間には、(B2)略鉛直方向に挿入され、(B3)かつ前記炉側壁に沿って互いに並列配置され、(B4)鉛直方向に沿って異なる複数の部位を設定し、(B5)前記異なる複数の部位のいずれかを発熱部とした(B6)複数の炉内ヒータを備え、
(C)前記複数の炉内ヒータの前記発熱部が前記熱処理空間内の鉛直方向に沿ったそれぞれ異なる位置に設けられていることを特徴とする、熱処理炉。」
(但し、(A)?(C)、(B1)?(B6)は対比のために当審で付与した。)

3.イ号物件の認定
当審では、上記審尋において、図1に示されたイ号物品の構造を、
「a)炉側壁を含む炉本体と、炉本体の底部を閉塞する炉床とで形成される熱処理空間を有し、
b)該熱処理空間には、略鉛直方向に挿入され、かつ前記炉側壁に沿って互いに並列配置され、鉛直方向に沿って異なる複数の部位を設定し、前記異なる複数の部位の内の下端部を発熱部とした複数の炉内ヒータを備え、
c)前記複数の炉内ヒータの前記発熱部が前記熱処理空間内の鉛直方向に沿ったそれぞれ異なる位置に設けられていることを特徴とする、熱処理炉。」
と暫定的に認定するとともに、本件特許発明の構成要件に関する別の見解についても言及した。
しかし、これらの見解に対する、被請求人の上記回答書の主張を踏まえ、上記審尋において認定したイ号物品の構成において、明らかに冗長な構成を省き、かつ、明確化し、図1に示されたイ号物品の構造を、本判定では次のように認定する。(以下、「イ号物件」という。)
「a)炉側壁を含む炉本体と、炉本体の底部を閉塞する炉床とで形成される熱処理空間を有し、
b)(b1)該熱処理空間には、(b2)略鉛直方向に挿入され、(b3)かつ前記炉側壁に沿って互いに並列配置され、(b4)鉛直方向に沿って下端部を発熱部としたその全長が互いに異なる(b6)複数の炉内ヒータを備え、
c)前記複数の炉内ヒータの前記発熱部が前記熱処理空間内の鉛直方向に沿ったそれぞれ異なる位置に設けられている、熱処理炉。」

4.対比・判断
4-1.イ号物件の各構成が、本件特許発明の各構成要件を充足するか否かの判断
本件特許発明の構成要件をイ号物件の各構成と対比すると、本件特許発明の構成要件(A)、(B1)、(B2)、(B3)、(B6)及び(C)は、それぞれ、イ号物件の構成a)、(b1)、(b2)、(b3)、(b6)及びc)にそれぞれ相当するから、イ号物件の構成a)、(b1)、(b2)、(b3)、(b6)及びc)は、それぞれ、本件特許発明の構成要件(A)、(B1)、(B2)、(B3)、(B6)及び(C)を充足する。
次に、イ号物件の構成(b4)が本件特許発明の構成要件(B4)及び(B5)を充足するか否かについて、以下に検討する。

特許法第70条第1項によれば、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとされているものの、同条第2項には、前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされていることから、本件特許発明の構成要件(B4)及び(B5)の用語の意義を解釈する際に、明細書の記載及び図面を考慮することは、当然に容認されることであって、本件特許発明を実施例に限定して解釈することとは相違する。

そこで、本件特許発明の構成要件(B4)及び(B5)の用語の意義を解釈するにあたり、明細書の記載及び図面を考慮すると、本件訂正明細書【0003】、【0004】には、本件特許発明の前提となる従来技術では、ヒータ本体のほぼ全長が発熱部となっている複数の炉内ヒータを用い、その長手方向が略鉛直方向に沿うように挿入されたうえ、炉側壁に沿って互いに並列配置されているから、その長さ方向に沿う中心位置付近が最も高温になり、焼成炉内の略鉛直方向に沿う温度分布状態が不均一となる課題が生じることが記載されている。
この記載から、本件特許発明の前提となる炉内ヒータは、「その全長が互いに等しい」ために、「ほぼ全長が発熱部である」と、鉛直方向の炉内温度分布を自由に調整できないものと認められる。
また、本件特許発明に係る出願審査、訂正審判及び無効審判を含む手続において提出された文献には、炉側壁を含む炉本体と、炉本体の底部を閉塞する炉床とで形成される熱処理空間と、鉛直方向に炉側壁に沿って並列配置した複数の炉内ヒータとを有する熱処理炉において、炉内ヒータの全長が異なるものが開示されていないことから、そのような態様が、本件特許発明に係る出願時の背景技術として自明な事項とはいえないことも把握される。

したがって、本件特許発明は、これらの従来技術及び背景技術に対して、上述した鉛直方向の炉内温度分布の不均一解消という課題を解決するために、炉内ヒータの「その全長が互いに等し」いことを前提としつつ、「ほぼ全長が発熱部である」ことに変えて、(B4)、(B5)及び(C)の構成要件、すなわち、炉内ヒータが鉛直方向に沿って異なる複数の部位のいずれかを発熱部とし、前記発熱部が鉛直方向の異なる位置に設けられている複数の炉内ヒータを設置することで、発明としたものといえる。
そうすると、本件特許発明の(B4)及び(B5)の構成要件を有する複数の炉内ヒータには、炉内ヒータの下端部のみを発熱部としたその全長が互いに異なるものが含まれないことは明らかである。
よって、イ号物件の構成(b4)は、本件特許発明の少なくとも構成要件(B4)及び(B5)を充足しない。

4-2.均等の判断
(1)均等成立の要件
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、以下の五つの要件を満たす場合には、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であると判示している。
「{積極的要件}
(1)相違部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
{消極的要件}
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から容易に推考できたものでなく、かつ、
(5)対象製品等が、特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等特段の事情もない。」

(2)当審の判断
そこで、イ号物件が本件特許発明と均等なものであるか否かについて、上記(1)の要件を以下に検討する。

本件特許発明は、訂正明細書及び図面の記載並びに背景技術を勘案すると、「4-1」で述べたように、発明が解決しようとする課題が、複数の炉内ヒータの全長がほぼ同じであることを前提としたものであって、この前提は、温度分布状態に直接作用する炉内ヒータの構造に関するものであるから、本件特許発明の本質的部分というべきものである。
そうすると、イ号物件は、相違部分が本件特許発明の本質的部分であるから、均等成立の要件(1)を満たさない。
したがって、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号物件が本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるということはできない。

5.むすび
したがって、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2012-03-22 
出願番号 特願平3-304688
審決分類 P 1 2・ 04- ZA (F27D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長者 義久  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 大橋 賢一
野田 定文
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3196261号(P3196261)
発明の名称 炉内ヒータを備えた熱処理炉  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 岩坪 哲  
代理人 速見 禎祥  

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