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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1255427
審判番号 不服2010-25093  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-08 
確定日 2012-04-12 
事件の表示 特願2004-317122号「容器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日出願公開、特開2006-122511号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年10月29日の出願であって、平成22年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年11月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

「利用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される医療用溶液のためのポリエチレンテレフタレートからなる円筒形の容器であって、
前記ポリエチレンテレフタレートは、曲げ弾性率が2354?2844MPaであり、
出入口と、胴部と、前記出入口から前記胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、外面に隆起または陥没して設けられた前記水の量を量るための液量確認目盛とを備え、
前記胴部の外径が60?70mm、前記胴部の肉厚が0.3mm以上であり、
容量が400?500mlであり、
前記液量確認目盛は、前記胴部に設けられた標準濃度用目盛と、前記テーパ部に設けられた低濃度用目盛とからなり、
前記低濃度用目盛が容器内に380?480ml入っていることを示す位置に設けられていることを特徴とする容器。」(なお、下線は補正箇所を示すものである。)

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「胴部」について、「胴部の外径が60?70mm、胴部の肉厚が0.3mm以上」との限定事項を付加し、「容器」の全体形状、容量及び低濃度用目盛が設けられる位置として、それぞれ「円筒形」、「400?500ml」及び「低濃度用目盛が容器内に380?480ml入っていることを示す位置に設けられている」との限定事項を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用刊行物の記載事項
(刊行物1)
当審において新たに引用する刊行物であり、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭57-167531号(実開昭59-71638号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「2.実用新案登録請求の範囲
薬剤用量と患者生体パラメーターに対応する希釈後液量を、その生体パラメーターとして壁面に表示してなるバイアル。
3.考案の詳細な説明
本考案はバイアル、特に薬用バイアルであって、そのバイアル内で薬剤を投与すべき患者の特有因子、すなわち、生体パラメーターに対して必要とする所定濃度の薬液を調製するのに便利なように予じめバイアル壁面に希釈後液量、すなわち、薬液濃度調整目盛を表示したものである。」(明細書1ページ4?13行)

(イ)「本考案者等はこのような状況に鑑みて、かかる薬液投与における過誤の発生を極力防止するようその方策について種々検討の結果、まず薬剤投与量を点滴速度で規制するのではなく、主としてその投与薬液の濃度で管理すれば、少なくともこれまでのような投与に際しての投与速度の計算あるいはそのための器具の操作といった複雑な作業を省略できることに気付き、その薬液濃度のより簡易な調整法を具体的に検討していくうち本考案に到達したものである。」(同3ページ11?20行)

(ウ)「すなわち、本考案はバイアル壁面に、薬剤用量と患者生体パラメーターとの関係から算出される希釈後液量を体重数値または体表面積などの生体パラメーターとして予じめ表示しておき、このパラメーター数値を指標とすることにより特定患者に対応した所定濃度の薬液をきわめて容易に、かつ、正確に調製できるようにした改良されたバイアルに関するものである。従って、本考案バイアルによれば、その壁面に表示されている特定患者の生体パラメーター値まで希釈液を加え、これを所定滴数/mlの通常の点滴セットで点滴すると、用量(μg/kg/分)と投与滴数/分が常に一定の比率になるものである。」(同4ページ1?13行)

(エ)「本考案バイアルは添付図面に例示するとおりバイアル1の胴部壁面2に、薬剤用量と患者生体パラメーターに対応する希釈後液量3を、その生体パラメーターとして表示したものである。この生体パラメーターとしては一応体重、体表面積あるいは基礎代謝量、肺活量、身長、心拍数、血圧などが考えられるが、体重で表示するのが最も実用的であり、図面の実施例も体重値として表示したものである。
この希釈後液量3をバイアル壁面2に表示するための具体的手段としては、図面に示すとおり前記希釈後液量3を生体パラメーター4として予じめ表示したレーベル5を、バイアル壁面2の所定位置に貼着するのが最も一般的であり、かつ簡易な方法であるが、もちろん本考案においてはこのような方法に限られることなく、例えばバイアル壁面の所定部に直接印刷表示を施すか、またはバイアル成形(製造)時に所定の表示を凸設形成するような他の手段も必要により適宜採用することができる。また、特に図示しないが、前記生体パラメーターの表示4に対して2倍、3倍もしくは1/2濃度となるような比例関係にあるもう1系列以上の表示を、前記表示4に加えて追加的に表示していてもよい。さらに、必要ならバイアルの容量目盛をも表示してもよい。」(同4ページ19行?6ページ3行)

(オ)「このように構成された本考案バイアルは、薬液投与に当っては、その患者の体重値まで希釈液(ブドウ糖液または生理食塩液等)を注入し、バイアル内の薬剤(ドブタミン)を溶解、希釈して、これを所定の点滴セット(60滴/ml)で点滴投与すると、常に用量と投与滴数/分が一致あるいは一定の比率になるように工夫されているので、実際の薬剤投与量はこの点滴数を読み取ることできわめて容易に確認することができ、煩雑な計算等を要することなく、薬剤投与量を手軽に管理することができるものである。」(同6ページ20行?7ページ10行)

(カ)上記記載事項(ウ)及び(オ)における、「特定患者の生体パラメーター値まで希釈液を加え」、「バイアル内の薬剤を溶解、希釈して」、「所定濃度の薬液をきわめて容易に、かつ、正確に調製できる」との記載を踏まえれば、「所定量の薬剤を所定量の希釈液に溶解することにより薬液を調製する」点は、刊行物1に記載されているといえる。

(キ)上記記載事項(オ)には「希釈液(ブドウ糖液または生理食塩液等)を注入し、バイアル内の薬剤(ドブタミン)を溶解、希釈して」と記載されているところ、希釈液に溶解されるバイアル内の薬剤を「粉末状」とすることは、広く一般に行われている技術常識であることから、薬剤が「粉末状」である点は、刊行物1に記載されているに等しい事項といえる。

(ク)上記記載事項(エ)に関連して、図面には、バイアルが、「出入口と、出入口から胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部」を備える点が示されている。

以上の記載事項及び図示内容から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「薬液投与に当って所定量の粉末状の薬剤を所定量の希釈液に溶解することにより調製される薬液のためのバイアル1であって、
出入口と、胴部と、出入口から胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、バイアル胴部壁面2に凸設形成された生体パラメーターに対して必要とする所定濃度の薬液を調製するための複数の薬液濃度調整目盛とを備えたバイアル。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、その意味、構造又は機能からみて、引用発明1の「バイアル1」は、本願補正発明の「容器」に相当し、以下同様に、「薬液投与に当って」は「利用時に」に、「粉末状の薬剤」は「粉末」に、「希釈液」は「水」に、「薬液」は「医療用溶液」に、「バイアル胴部壁面2」は「外面」に、「凸設形成された」は「隆起または陥没して設けられた」に、「薬液濃度調整目盛」は「水の量を量るための液量確認目盛」に、それぞれ相当する。
引用発明1における「バイアル胴部壁面2に凸設形成された生体パラメーターに対して必要とする所定濃度の薬液を調製するための複数の薬液濃度調整目盛」には、相対的に高濃度用の目盛から低濃度用の目盛までが含まれていることから、結果的に標準濃度用目盛も含まれていると解されるから、引用発明1は、本願補正発明の「液量確認目盛は、胴部に設けられた標準濃度用目盛と、低濃度用目盛とからな」るの発明特定事項を有するといえる。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「利用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される医療用溶液のための容器であって、
出入口と、胴部と、出入口から胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、外面に隆起または陥没して設けられた水の量を量るための液量確認目盛とを備え、
液量確認目盛は、胴部に設けられた標準濃度用目盛と、低濃度用目盛とからなる容器。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、容器が「円筒形」であり「曲げ弾性率が2354?2844MPaであるポリエチレンテレフタレートからなる」のに対し、引用発明1では、容器の全体形状及び材料について明示がない点。

(相違点2)
本願補正発明では、「胴部の外径が60?70mm、胴部の肉厚が0.3mm以上」であり、「容量が400?500ml」であるのに対して、引用発明1では、胴部の外径及び肉厚、容量について明示がない点。

(相違点3)
「低濃度用目盛」に関して、本願補正発明では、低濃度用目盛が「テーパ部」に設けられるとともに「容器内に380?480ml入っていることを示す位置に設けられている」のに対し、引用発明1では、低濃度用目盛が設けられているのが「胴部」であるとともに、「容器内に380?480ml入っていることを示す位置に設けられている」かどうかが明らかでない点。

3-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
医療用溶液のため容器を、円筒形とするとともに、ポリエチレンテレフタレートから形成することは、周知慣用技術(例えば、特開2002-145272号公報の段落【0001】、【0008】、図1?3、特開平11-170345号公報の段落【0001】、【0049】?【0050】、図1、特公平1-42213号公報の3欄14行、10欄5行、第1図を参照)であり、ポリエチレンテレフタレートの曲げ弾性率が「2400?3100MPa」(社団法人高分子学会編、「高分子辞典 第3版」、初版第1刷、朝倉書店、2005年6月30日、p.726)であることは、広く一般に知られている技術事項である。
よって、引用発明1において、医療用溶液のための容器として、周知慣用の形状である円筒形を採用するとともに、周知慣用の材料であるポリエチレンテレフタレートを採用し、その曲げ弾性率を2354?2844MPaの範囲内とすることに格別の困難性は認められない。

(相違点2について)
医療用溶液のための容器において、その容量を400?500mlとすることは、周知慣用の事項である(例えば、特開2001-231841号公報の段落【0060】、実願平5-72161号(実開平7-35307号)のCD-ROMの段落【0014】、特開平5-293159号公報の段落【0056】、特開平11-321916号公報の段落【0042】を参照)。
また、ポリエチレンテレフタレートからなる容量が400?500mlの容器において、胴部の外径を60?70mm、胴部の肉厚が0.3mm以上とすることは、広く一般に行われていることであり(例えば、特開平11-20008号公報の段落【0017】、特開2003-103609号公報の段落【0048】、【0052】、図4、を参照)、その数値範囲は特別なものではない。
よって、引用発明1において、容量を400?500mlとするとともに、胴部の外径及び肉厚として上記数値範囲の値を選択して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることに格別の困難性は認められない。

(相違点3について)
医療用溶液のための円筒形の容器において、液量確認目盛をテーパ部にも設けることは、周知慣用技術(例えば、下記刊行物2の図1?3、実願昭52-164820号(実開昭54-91189号)のマイクロフィルムの第5図、特開2001-510号公報の図1、登録実用新案第3013312号公報の図1を参照)である。
また、液量確認目盛を、容器内にいずれの量が入っていることを示す位置に設けるかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
よって、引用発明1において、上記周知慣用技術を適用し、低濃度用目盛をテーパ部に設けることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際、低濃度用目盛を容器内に380?480ml入っていることを示す位置とすることに格別の困難性は認められない。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明1及び周知慣用技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成22年3月5日付けの手続補正書により補正された、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「利用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される医療用溶液のためのポリエチレンテレフタレートからなる容器であって、
前記ポリエチレンテレフタレートは、曲げ弾性率が2354?2844MPaであり、 出入口と、胴部と、前記出入口から前記胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、外面に隆起または陥没して設けられた前記水の量を量るための液量確認目盛とを備え、
前記液量確認目盛は、前記胴部に設けられた標準濃度用目盛と、前記テーパ部に設けられた低濃度用目盛とからなることを特徴とする容器。」

IV.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-104389号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ケ)「【課題を解決するための手段】本発明者はかかる目的を達成するために、注ぎ易さ、安定性及び保形性、溶解性、及び測定目盛りの正確さに優れた自立性包装体について鋭意検討した結果、注ぎ易さ、安定性及び保形性に関しては中味の液体を注ぐ際に邪魔になっていた包装体の上端部の幅をせまくすることなどで達成できること、溶解性に関しては底部より上端部にかけて幅をせまく形成すること及び内部の液体の流れを一部阻害する部位を作ることで当該部位に液体がぶつかって渦を巻き内部の液体の混合がスムーズに行われること、目盛りの正確さに関しては当該阻害部位を包装体の側端部の中間部位に左右対称に設けることで液体を充填した際の容器の形状が一定に保たれるため、包装体の型くずれによって包装体に付けた目盛りの誤差がほとんど生じないこと等を見出し、本発明の完成に至った。」(段落【0006】)

(コ)「図1は本発明の自立性包装体の一例を平らな状態で示したものである。図1から明らかなように、本発明の自立性包装体は底面構成部1とその底面構成部1に接合され対向する一対の側面構成部2とから形成され、その一対の側面構成部2が上端部3及び側端部4において互いに接合封止されている。本発明の自立性包装体では底面構成部1と一対の側面構成部2とから形成される内部空間に内容物を充填することができ、充填されて内部空間が膨らんだ自立状態では底面構成部1から一対の側面構成部2の上方に行くに従って横方向の断面積が同じか又は漸減するような形状をとる。」(段落【0010】)

(サ)「また、本発明の自立性包装体では上端部3に再封可能なスパウト6が設けられることが必要である。自立性包装体に液体を入れたり内容物を注ぎ出す口部としてはスパウト6が適切であり、スパウトの位置については容器への注ぎ易さの点で包装体の上端部3に、特に上端部3の中央に設けることが好ましい。また、図3の自立性包装体のように上端部3を実質的に再封可能なスパウトのみから形成することもできる。・・・」(段落【0012】)

(シ)「本発明の自立性包装体は平らな状態においてその幅が底端部5の辺から上端部3の辺の高さの1/3?2/3の位置Aにおいて底端部5の辺の長さの1?1.1倍であり、前記位置Aから上端部3の辺まで左右対称に漸減していくことが好ましい。即ち、自立性包装体の側面は平らな状態では底端部5の辺から位置Aの高さまでは垂直か又は左右対称に横方向にやや幅が広がるように形成され、位置Aより上にいくと上端部に向けて幅が左右対称に徐々に狭くなる形状で形成されることが好ましい。・・・」(段落【0013】)

(ス)「本発明の自立性包装体は底面構成部と側面構成部から形成されるが、これらの構成部の素材は廃棄する際に簡単に折りたためる程度の柔軟性があることが好ましく、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、EVOHなどの単層又は積層プラスチックフィルム、上記フィルムのいずれかを内層及び外層とし中間層にアルミニウム又は二酸化チタン又は紙などを使用した積層プラスチックフィルムを使用することができる。・・・」(段落【0015】)

(セ)「また、本発明の自立性包装体には印刷を施すことができ、例えば側面構成部に内容量を確認することができる目盛りを付けることができる。内容量をある程度正確に測定する必要がある場合には包装体の側端部の接合封止の一部が左右対称に内側に及んでいることが好ましい。・・・」(段落【0016】)

(ソ)「本発明の自立性包装体に充填する内容物としては、液体、固体、粉末、ゲル、ゾルなどのいずれでもよく、特に限定はないが、本発明の特徴を生かすためには使用時に液体を入れて溶解又は希釈して使用する内容物(例えば粉末)を充填することが好ましい。具体的には濃厚流動食などの食品や腸管洗浄剤などの経口投与される医薬品を充填することができる。濃厚流動食の場合には在宅で患者が摂食するときに液体ではその重量のため持ち帰ることが困難であるが、在宅で包装体内で粉末又は固形の流動食を用時水で溶解するような使用に用いられる。また、腸管洗浄剤の場合には包装体内で2000ml程度の多量の水に用時溶解し、溶液をコップ等の容器に移し替えて経口投与されるような使用に用いられる。」(段落【0017】)

(タ)「・・・各包装体に日本製薬株式会社製の商品名「ムーベン」で使用されている腸管洗浄剤の粉末を137.155gずつ充填し、次に充填された各包装体に水(20℃)を包装体に付された目盛りに従って2l(2000ml)の目盛りに達するように加え、手で均一な強さで横方向に振り混ぜ、腸管洗浄剤の粉末が全て溶解するまでの時間(秒)を各々3回測定した。・・・」(段落【0019】)

(チ)「・・・試験例1で作成された本発明例1、本発明例2及び比較例の自立性包装体についてそれぞれ2000mlの前記腸管洗浄剤の溶解液を充填し、この溶解液を約200mlごとに目視により空のガラスコップに10個注いでもらった。・・・」(段落【0022】)

(ツ)上記記載事項(タ)における「各包装体に日本製薬株式会社製の商品名「ムーベン」で使用されている腸管洗浄剤の粉末を137.155gずつ充填し、次に充填された各包装体に水(20℃)を包装体に付された目盛りに従って2l(2000ml)の目盛りに達するように加え、手で均一な強さで横方向に振り混ぜ、腸管洗浄剤の粉末が全て溶解するまでの時間(秒)を各々3回測定した。」との記載より、「所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される」点は、刊行物2に記載されているといえる。

(テ)上記記載事項(コ)?(セ)に関連して、図1?3には、包装体が、「胴部と、スパウトから胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部」を備える点、及び「目盛りは、胴部に設けられた目盛りと、テーパ部に設けられた目盛りとからなる」点が、それぞれが示されている。

以上の記載事項及び図示内容から、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「使用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される医薬品の溶解液のためのポリエチレンテレフタレートからなる包装体であって、
スパウトと、胴部と、スパウトから胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、側面構成部に印刷により付けられた内容量を確認することができる目盛りとを備え、
目盛りは、胴部に設けられた目盛りと、テーパ部に設けられた目盛りとからなる包装体。」

V.対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、その意味、構造又は機能からみて、引用発明2の「包装体」は、本願発明の「容器」に相当し、以下同様に、「使用時に」は「利用時に」に、「医薬品の溶解液」は「医療用溶液」に、「スパウト」は「出入口」に、「側面構成部に」は「外面に」に、「付けられた」は「設けられた」に、「内容量を確認することができる目盛り」は「水の量を量るための液量確認目盛」に、それぞれ相当する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「利用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより調製される医療用溶液のためのポリエチレンテレフタレートからなる容器であって、
出入口と、胴部と、出入口から胴部に向かって円錐状に広がるテーパ部と、外面に設けられた水の量を量るための液量確認目盛とを備え、
液量確認目盛は、胴部に設けられた目盛と、テーパ部に設けられた目盛とからなること容器。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点4)
本願発明では、ポリエチレンテレフタレートの曲げ弾性率が「2354?2844MPa」であるのに対して、引用発明2では、ポリエチレンテレフタレートではあるものの、その曲げ弾性率について明示がない点。

(相違点5)
「液量確認目盛」が、本願発明では、外面に「隆起または陥没して」設けられるものであるのに対し、引用発明2では「印刷により」設けられている点。

(相違点6)
胴部及びテーパ部に設けられた「液量確認目盛」が、本願発明では、「標準濃度用目盛」及び「低濃度用目盛」であるのに対し、引用発明2ではその用途が限定されていない点。

VI.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点4について)
ポリエチレンテレフタレートの曲げ弾性率が「2400?3100MPa」(社団法人高分子学会編、「高分子辞典 第3版」、初版第1刷、朝倉書店、2005年6月30日、p.726)であることは、広く一般に知られている技術事項である。
よって、引用発明2において、ポリエチレンテレフタレートの曲げ弾性率を2354?2844MPaの範囲内とすることに、格別の困難性は認められない。

(相違点5について)
医療用溶液のための容器において、液量確認目盛を、容器の外面に隆起または陥没して設けることは、周知慣用技術(例えば、上記刊行物1の5ページ15?16行、実公昭14-6320号公報の第1?2図、特開平9-47488号公報の段落【0025】、特開2001-79064号公報の段落【0026】を参照)である。
よって、引用発明2において、液量確認目盛を設けるため、「印刷」に代えて、上記周知慣用技術を採用し、相違点5に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点6について)
引用発明2では、本願発明と同様に、液量確認目盛が、胴部に設けられた目盛とテーパ部に設けられた目盛とからなっており、利用時に所定量の粉末を所定量の水に溶解することにより所望の医療用溶液を調製するものであるところ、引用発明2において、胴部に設けられた目盛を標準濃度用の目盛として、また、テーパ部に設けられた目盛を低濃度用の目盛として用いることに、格別の困難性は認められない。

そして、本願発明による効果も、引用発明2及び周知慣用技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明2及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明2及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-13 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 特願2004-317122(P2004-317122)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61J)
P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 高田 元樹
蓮井 雅之
発明の名称 容器  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 高橋 詔男  

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