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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1255465
審判番号 不服2009-1515  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-19 
確定日 2012-04-10 
事件の表示 特願2000-520393「アルミナセメントの製造方法およびプラントならびにアルミナセメント」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月20日国際公開、WO99/24376、平成13年11月20日国内公表、特表2001-522778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1997年11月6日を国際出願日とする出願であって、平成19年8月14日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月21日)、平成20年2月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月10日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年同月21日)、これに対し、平成21年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年2月17日付けで手続補正書が提出され、平成23年5月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が起案され(発送日は同年同月31日)、回答書が提出されなかったものである。

第2 平成21年2月17日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月17日付け手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)平成21年2月17日付け手続補正は、平成20年2月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲
「 【請求項1】 ボーキサイトと石灰石とから実質的になる出発混合物からバッチ組成物を得、該組成物を炉で焼成して、酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-と石灰CaO、-C-を、部分的にはその一部がC_(12)A_(7)の形、他の部分がCAの形で含有するクリンカーを形成し、該クリンカーを他の可能な二次的成分と共に粉砕してセメントを製造するアルミナセメントの製造方法であって、
前記出発混合物における酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4を、d3/d4の値として1.15から1.40の間の範囲に設定し、粉砕によって、ロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持つセメントを生成することを特徴とする、
アルミナセメントの製造方法。
【請求項2】 セメントのブレイン粉末度が2,000から5,000cm^(2)/gであることを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】 セメントのブレイン粉末度が約3,500cm^(2)/gであることを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項4】 該炉が反射炉であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載された方法。
【請求項5】 該炉が電気炉であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載された方法。
【請求項6】 酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-および石灰CaO、-C-を含有するアルミナセメントであって、出発混合物におけるアルミナAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4がd3/d4の値として1.15から1.40の間の範囲にあり、粉砕によってロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持つ、アルミナセメント。」を
「 【請求項1】 ボーキサイトと石灰石とから実質的になる出発混合物からバッチ組成物を得、該組成物を炉で焼成して、酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-と石灰CaO、-C-を、部分的にはその一部がC_(12)A_(7)の形、他の部分がCAの形で含有するクリンカーを形成し、該クリンカーを他の可能な二次的成分と共に粉砕してセメントを製造するアルミナセメントの製造方法であって、
前記出発混合物における酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4を、d3/d4の値として1.15から1.40の間の範囲に設定し、粉砕によって、ロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持ち、かつブレイン粉末度が2,000から5,000cm^(2)/gであるセメントを生成することを特徴とする、
アルミナセメントの製造方法。
【請求項2】 セメントのブレイン粉末度が約3,500cm^(2)/gであることを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】 該炉が反射炉であることを特徴とする、請求項1または2に記載された方法。
【請求項4】 該炉が電気炉であることを特徴とする、請求項1または2に記載された方法。
【請求項5】 酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-および石灰CaO、-C-を含有するアルミナセメントであって、出発混合物におけるアルミナAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4がd3/d4の値として1.15から1.40の間の範囲にあり、粉砕によってロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持ち、かつブレイン粉末度が2,000から5,000cm^(2)/gであるアルミナセメント。」と補正するものである。

そして、本件補正は、本件補正前の請求項2を削除し、同項の「セメントのブレイン粉末度が2,000から5,000cm^(2)/gであること」を用いて、本件補正後の請求項1及び請求項5のアルミナセメントを限定し、「ブレイン粉末度が2,000から5,000cm^(2)/gであるセメント」と補正するもので、発明を特定するために必要な事項を限定する、いわゆる限定的減縮を目的とする補正を行ったものであることは明らかである。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び同第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、補正の要件を満たしているといえる。

(2)本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。
(i) 原査定の拒絶の理由において文献2として引用された特開平9-194242号公報)(以下、「引用文献2」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「アルミナセメントとは、CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・2Al_(2)O_(3)、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)等と示される鉱物組成の水硬性カルシウムアルミネートが主体となるように各種原料を配合し、溶融及び/又は焼成して製造したクリンカーを単独粉砕した水硬性セメント、又はそのクリンカーにアルミナや各種添加剤を配合し粉砕した水硬性セメントをいう」(【段落【0002】)
(イ)「本発明で使用するアルミナセメントは、石灰石や生石灰などのCaO原料と、ボーキサイトや赤ボーキサイトなどの天然のAl_(2)O_(3)原料、これら天然のAl_(2)O_(3)原料をバイヤープロセス等の精製法で精製して得られた高純度アルミナ、及びアルミ残灰等のAl_(2)O_(3)原料とを、熱処理生成物中の鉱物組成が所定の割合になるように配合し、電気炉、反射炉、縦型炉、高炉、平炉、キュポラ、ロータリーキルン、シャフトキルン、及びシャトル窯等の設備で、溶融及び/又は焼成して得られるクリンカーを粉砕したり、このクリンカーにα-Al_(2)O_(3)や各種添加剤を配合して混合粉砕して製造されるものである。」(段落【0010】)
(ウ)「本発明では、アルミナセメント中の45μm上の粗粉が1.0重量%以下になるように粗粉を除去することが重要であり、0.8重量%以下になるようにすることがより好ましい。45μm上が1.0重量%を越えると高温使用時の焼結性、耐摩耗性、及び耐食性が低下する場合がある。
また、本発明のアルミナセメントは、45μm上の粗粉の量だけでなく、粒度分布も重要であって、アルミナセメントを使用した時の充填性から63μm上を含まないことが好ましい。粒度分布としては、1μm下5?10重量%、1?2μm3?5重量%、2?4μm10?20重量%、4?8μm20?30重量%、8?16μm20?30重量%、16?45μm20?25重量%、及び45μm上1.0重量%以下が好ましい。1μm下の微粉が多いと不定形耐火物等に使用した際の可使時間が確保できない場合があり、2?16μmの粒度が不足すると充填性が悪化する場合がある。」(段落【0012】?【0013】)
(エ)「さらに、本発明では、アルミナセメントの化学成分のCaOが15?30重量%、Al_(2)O_(3)が70?85重量%になるように調整したものが、不定形耐火物に使用した際、施工時の流動性と高温での焼結性に優れるため好ましく、CaOが18?25重量%、Al_(2)O_(3)が72?75重量%になるように調整したものがより好ましい。CaOが少ないと養生後の強度発現性が不充分となる場合があり、CaOが多すぎると高温での耐食性が低下する場合がある。」(段落【0014】)
(オ)「本発明のアルミナセメントのブレーンの比表面積(ブレーン値)は、JIS R 2521記載の方法によって測定できるもので、流動性、硬化性、及び強度発現性に関与するため重要な管理ポントであって、粉砕したクリンカーの粒度は、ブレーン値4,000?12,000cm^(2)/gが好ましく、5,000?10,000cm^(2)/gがより好ましく、6,000?8,000cm^(2)/gが最も好ましい。ブレーン値がこの範囲外では流動性と強度発現性が低下する場合がある。」(段落【0018】)

(ii)対比・判断
引用文献2の記載事項(イ)には、「本発明で使用するアルミナセメントは、石灰石や生石灰などのCaO原料と、ボーキサイトや赤ボーキサイトなどの天然のAl_(2)O_(3)原料、これら天然のAl_(2)O_(3)原料をバイヤープロセス等の精製法で精製して得られた高純度アルミナ、及びアルミ残灰等のAl_(2)O_(3)原料とを、熱処理生成物中の鉱物組成が所定の割合になるように配合し、・・・溶融及び/又は焼成して得られるクリンカーを粉砕したり、・・・して製造される」ことが記載され、記載事項(ア)には、「アルミナセメントとは、CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・2Al_(2)O_(3)、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)等と示される鉱物組成の水硬性カルシウムアルミネートが主体となるように各種原料を配合し、溶融及び/又は焼成して製造したクリンカーを単独粉砕した水硬性セメント、又はそのクリンカーにアルミナや各種添加剤を配合し粉砕した水硬性セメントをいう」ことが記載され、記載事項(ウ)には、「アルミナセメント中の45μm上の粗粉が1.0重量%以下になるように粗粉を除去する」ること、及び「粒度分布としては、1μm下5?10重量%、1?2μm3?5重量%、2?4μm10?20重量%、4?8μm20?30重量%、8?16μm20?30重量%、16?45μm20?25重量%、及び45μm上1.0重量%以下が好ましい」ことが記載され、記載事項(エ)には、「本発明では、アルミナセメントの化学成分のCaOが15?30重量%、Al_(2)O_(3)が70?85重量%になるように調整したものが、不定形耐火物に使用した際、施工時の流動性と高温での焼結性に優れるため好まし」いこと、記載事項(オ)には、「本発明のアルミナセメントのブレーンの比表面積(ブレーン値)は、JIS R 2521記載の方法によって測定できるもので、流動性、硬化性、及び強度発現性に関与するため重要な管理ポントであって、粉砕したクリンカーの粒度は、ブレーン値4,000?12,000cm^(2)/gが好まし」いことが記載されている。これらを本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「石灰石や生石灰などのCaO原料と、ボーキサイトや赤ボーキサイトなどのAl_(2)O_(3)原料とを、熱処理生成物中のCaO・Al_(2)O_(3)及び12CaO・7Al_(2)O_(3)等と示される鉱物組成が所定の割合になるように配合し、焼成したクリンカーにアルミナや各種添加剤を配合して粉砕し、アルミナセメントの化学成分のCaOが15?30重量%、Al_(2)O_(3)が70?85重量%になるように調整し、粒度分布としては、1μm下5?10重量%、1?2μm3?5重量%、2?4μm10?20重量%、4?8μm20?30重量%、8?16μm20?30重量%、16?45μm20?25重量%、及び45μm上1.0重量%以下が好ましく、粉砕したクリンカーの粒度は、ブレーン値4,000?12,000cm^(2)/gであるアルミナセメントを製造すること」(以下、「引用発明」という。)が引用文献2には記載されていると認められる。
そこで、本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「アルミナセメントを製造すること」は、本願補正発明の「アルミナセメントの製造方法」がこれに相当することは明らかであり、本願補正発明の「バッチ」が「生産の一度分」のことであるから、引用発明の「鉱物組成が所定の割合になるように配合し」は、本願補正発明の「出発混合物からバッチ組成物を得」ることに相当し、引用発明の「アルミナや各種添加剤」は、本願補正発明の「他の可能な二次的成分」に相当するから、引用発明の「石灰石や生石灰などのCaO原料と、ボーキサイトや赤ボーキサイトなどのAl2O3原料とを、熱処理生成物中のCaO・Al_(2)O_(3)及び12CaO・7Al_(2)O_(3)等と示される鉱物組成が所定の割合になるように配合し、焼成したクリンカーにアルミナや各種添加剤を配合して粉砕し」は、本願補正発明の「ボーキサイトと石灰石とから実質的になる出発混合物からバッチ組成物を得、該組成物を炉で焼成して、酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-と石灰CaO、-C-を、部分的にはその一部がC_(12)A_(7)の形、他の部分がCAの形で含有するクリンカーを形成し、該クリンカーを他の可能な二次的成分と共に粉砕し」に相当することも明らかである。そして、引用発明の「アルミナセメントの化学成分のCaOが15?30重量%、Al_(2)O_(3)が70?85重量%になるように調整」することは、Al_(2)O_(3)/CaOモル比が1.28?3.12の範囲に換算されるから、本願補正発明の「出発混合物における酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4を、d3/d4の値として1.28から1.40の間の範囲に設定」することと共通する。さらに引用発明の「粉砕したクリンカーの粒度は、ブレーン値4,000?12,000cm^(2)/gである」ことは、本願補正発明の「ブレイン粉末度が4,000から5,000cm^(2)/gであるセメントを生成すること」と「ブレイン粉末度が4,000から5,000cm^(2)/gであるセメントを生成するこ」とで共通するということができる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「ボーキサイトと石灰石とから実質的になる出発混合物からバッチ組成物を得、該組成物を炉で焼成して、酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-と石灰CaO、-C-を、部分的にはその一部がC_(12)A_(7)の形、他の部分がCAの形で含有するクリンカーを形成し、該クリンカーを他の可能な二次的成分と共に粉砕してセメントを製造するアルミナセメントの製造方法であって、
前記出発混合物における酸化アルミニウムAl_(2)O_(3)、-A-の濃度d3と石灰CaO、-C-の濃度d4を、d3/d4の値として1.28から1.40の間の範囲に設定し、ブレイン粉末度が4,000から5,000cm^(2)/gであるセメントを生成するアルミナセメントの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
本願補正発明においては、「粉砕によって、ロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持つセメントを生成する」るのに対して、引用発明は、「粒度分布としては、1μm下5?10重量%、1?2μm3?5重量%、2?4μm10?20重量%、4?8μm20?30重量%、8?16μm20?30重量%、16?45μm20?25重量%、及び45μm上1.0重量%以下が好まし」い点(以下、「相違点」という。)。
そこで、上記相違点について以下検討する。
まず、本願発明の「ロジン・ラムラー線図における勾配」の技術的意義について検討してみると、本願明細書の段落【0034】?【0037】に「セメントの粒度分布はしばしば、ロジン・ラムラー線図で表され、これは規格X 11-635に規定されており、両対数座標で表現されている。
粒度分布は、理論から、指数法則に従っていることが判っている。
ある直径xに対するリジェクション(rejection)R(x)は、R(x)= 1- P(x)であり、ここで、
P(x)= 1- exp[-(x/x_(0))^(n)]
であり、ここでx_(0)はP=1の時のxの値に対応する次元パラメータである。
この式の両辺の対数、すなわち対数の対数、をとれば、粒度分布から一次式が得られる。次式が得られる。
log(-log(1-P_(d)) = n(log x-log x_(0))+log(log e)
したがって、粒度分布はこの直線の勾配の数値で代表される。
本発明によるものは、この勾配が0.75から0.90の間のものである。」とあるので、粒度分布をこの直線の勾配の数値で代表するものと解され、その勾配の数値範囲の臨界的意義については、単に段落【0041】に「粒度分布を調節・最大限に活用することによって高品質アルミナセメントを製造する」とあるだけで、どのように高品質化するかについては、具体的な記載がない。
一方、引用発明における「粒度分布としては、1μm下5?10重量%、1?2μm3?5重量%、2?4μm10?20重量%、4?8μm20?30重量%、8?16μm20?30重量%、16?45μm20?25重量%、及び45μm上1.0重量%以下が好まし」い点は、充填性や可使時間を確保するものと認められ、特に「アルミナセメント中の45μm上の粗粉が1.0重量%以下になるように粗粉を除去することが重要であ」ることは明らかである(記載事項(ウ)参照)。
そして、原査定の拒絶の理由において文献3として引用された特開平7-97243号公報(以下、「引用文献3」という。)には、
(オ)「水硬性成分として、CaO・Al_(2)O_(3)を主成分とし、下記式のロジン-ラムラー式から求めたN値が1.0以上であることを特徴とするアルミナセメント組成物。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(カ)「本発明の水硬性成分の鉱物組成は、CaO・Al_(2)O_(3)を主成分とするもので、具体的には、CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・Al_(2)O_(3)とCaO・2Al_(2)O_(3)、CaO・Al_(2)O_(3)と12CaO・7Al_(2)O_(3)、並びに、CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・2Al_(2)O_(3)、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)を含有したものである。」(段落【0009】)
(キ)「また、本発明の水硬性成分は、作業性や強度発現性などが優れている面から、ロジン-ラムラー式から求めたN値が1.0以上になるように、クリンカーを粉砕したものである。そして、ロジン-ラムラー式から求めたN値は、1.4以上が好ましく、1.8以上がより好ましい。N値が1.0未満であると、作業性や強度発現性が悪くなる傾向がある。
ここで、ロジン-ラムラー式から求めたN値とは、粒度分布の状態を示すものであり、式で示すように、積算サイズ20%の粒径(Dp20)と積算サイズ80%の粒径(Dp80)から、N値={log(log100/20)-log(log100/80) }/(logDp80-logDp20)の式から求められ、N値が大きければ大きいほど粒度分布がシャープであることを現している。ロジン-ラムラー式から求めたN値が1の場合と0.5の場合の粒度分布を図1に示す。図1から明らかなように、N値が1の場合の粒度分布はシャープになり、N値が0.5の場合の粒度分布はブロードになる。」(段落【0010】?【0011】)
が記載され、アルミナセメント組成物において「作業性や強度発現性などが優れている面から、ロジン-ラムラー式から求めたN値が1.0以上になるように、クリンカーを粉砕したものである。そして、ロジン-ラムラー式から求めたN値は、1.4以上が好ましく、1.8以上がより好ましい。N値が1.0未満であると、作業性や強度発現性が悪くなる傾向がある。」ことが記載されていることから、引用文献3には、「ロジン-ラムラー式から求めたN値」を選択することにより「作業性や強度発現性」を良好にする発明が記載されていると認められ、粒度分布を経済性と得られる性能の観点からバランスを取り、作業性や強度発現性が悪くなる傾向を甘受して1以下のN値を選択し、前記相違点にかかる「粉砕によって、ロジン・ラムラー線図における勾配が0.75から0.90の間となるような粒度分布を持つセメントを生成する」ことは、当業者であれば容易に想到し得る数値限定の採用にすぎないものといえる。
また、相違点に係る本願補正発明の特定事項を採用することにより得られる効果についても、格別顕著であるとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(iii)
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。そうすると、平成21年2月17日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。
(3)むすび
したがって、平成21年2月17日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成21年2月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年2月18日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

第4 引用文献2及び引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平9-194242号公報)及び引用文献3(特開平7-97243号公報)並びにそれらの記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、本願補正発明に関して、前記限定事項を省くものである。
してみると、本願発明の構成を含み、さらに前記の限定事項を付加したものである本願補正発明が、前記2.(2)(ii)に記載したとおり、上記引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、上記引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
なお、請求人は、審判請求書の請求の理由を補正する平成21年2月17日付け手続補正書において
「d.引用文献3は、1より大きいN値が流動性を向上させることを可能にすることを開示している。しかし、ロジンラムラー線図における勾配は粒度分布の均質性を示している。よって、1より大きいN値を確保するために、粒度分布は、粉砕工程のための高いコストを含んだ集中的なレベルに統一されなければならない。
引用文献3に開示された発明は、1より高い、望ましくは1.4より高く、さらに好ましくは1.8より高いロジンラムラー線図に示された勾配を選ぶことにある。これらの値は、請求の範囲からかなり離れている。
発明の解決は、流動性を向上させるためにN値を増加させるという簡単な事実とは異なる。実際に、特定の比率d3/d4と0.75より高いロジンラムラー線図における勾配の選択は、集中的なレベルにおける粒度分布を均一化を要求することなく、そして、1より高い勾配を要求することなく、よいディスパージョン値を有するセメントを得ることを可能にする。よって、本発明は、技術的課題を解決している。
原審の見解に反して、引用文献3は、当業者に0.75と0.90の範囲にわたる勾配によるロジンラムラー線図で示された粒度分布を選ぶことを促すことはないだろいう。当業者は少なくとも1より高い勾配を選ぶだろう。」と主張しているが、引用文献3に記載された発明は、1より低いロジンラムラー線図に示された勾配を選ぶことを妨げるものとまでは認められず、当業者であれば、粒度分布をアルミナセメントの充填性、可使時間や強度と経済性の観点から選択し、N値を1以下と選択することを想起し得ないとすることはできない。
したがって、係る主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-02 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-21 
出願番号 特願2000-520393(P2000-520393)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
吉川 潤
発明の名称 アルミナセメントの製造方法およびプラントならびにアルミナセメント  
代理人 中里 浩一  
代理人 川崎 仁  

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