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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1255514
審判番号 不服2011-19382  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2012-04-11 
事件の表示 特願2001-209776「識別マーク」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月29日出願公開、特開2003- 25775〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年7月10日の出願であって、平成23年3月4日付けで手続補正がなされ、同年6月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年3月4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「知覚認識による真贋判定と機械認識による真贋判定の両方に対応する識別マークであって、該識別マークが安定同位体の含有比率を天然同位体比率と異なる値に制御してなる物質であるギ酸ナトリウムを含んでなる識別マークであることを特徴とする識別マーク。」

第3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-287075号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。)。

1 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 …(略)…
【請求項7】シート類又はカード類の少なくとも一部に形成された天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層中の^(13)Cの量を質量分析法、核磁気共鳴法又は赤外線吸収法により測定することによりシート類又はカード類の真贋を判定することを特徴とする偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法。…(略)…」

2 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、従来技術における上記諸問題点を解決するために多方面から研究し検討を続けたところ、特定の物質に関してその希少性、入手困難性を利用することに想い到り本発明を創作するに至ったものである。すなわち天然の炭素中、或いは炭素を含む化合物の炭素には^(12)Cと^(13)Cが含まれるが、そのうち^(13)Cは全炭素中に約1.1%しか含まれていない。…(略)…
【0013】本発明においては、それら証券等のシート類やクレジットカード等のカード類の少なくとも一部に天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層又は天然のものより多量の^(13)Cを含む物質をマイクロカプセル化した層を保持させる。上記天然のものより多量の^(13)Cを含む物質としては無機物質、有機物質を問わず何れも使用される。
【0014】それらの例としては(1)天然のものより多量の^(13)Cを含むカーボンブラック等の炭素、(2)天然のものより多量の^(13)Cを含むCO、CO_(2)、SiC 等の無機物質、(3)天然のものより多量の^(13)Cを含むCH_(4) 等の炭化水素、脂肪酸、アルコール、尿素等のアミド類、アミノ酸、グルコースや芳香属化合物の環状化合物、等の有機物質を挙げることができる。
【0015】これら物質は、例えば^(13)Cを通常の割合で含むメタンその他の出発原料からの精製や合成によって得られる。天然の炭素や炭素を含む化合物中における炭素はすべて^(13)Cが約1.1%の割合で存在しているが、本発明においては、炭素それ自体中や化合物中の^(13)C濃度を1.1%より高くして適用される。この場合、^(13)Cの濃度を天然のもの(1.1%)に比べていかほど高くするかは、主として後述測定精度、検出精度の観点から設定されるが、その真贋判定機能上からはその割合がより高い方が望ましい。」

3 「【0016】本発明においては、シート類やカード類の少なくとも一部に天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層又は天然のものより多量の^(13)Cを含む物質をマイクロカプセル化した層を保持させるが、シート類やカード類に対するその保持の態様例を述べると以下のとおりである。以下、該天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層及び天然のものより多量の^(13)Cを含む物質をマイクロカプセル化した層を適宜「^(13)C標識物質層」と指称し、またシート類やカード類中又は面上に保持させたそれら層中の物質を代表して適宜「^(13)C標識物質」と指称する。
【0017】(1)^(13)C標識物質をシート類やカード類の表面又は裏面に塗布する(この態様は^(13)C標識物質自体がバインダーとなり得る場合である)、(2)^(13)C標識物質を有機又は無機(水ガラス等)のバインダーとの混合物とし、これをシート類やカード類の表面又は裏面に塗布する、(3)^(13)C標識物質を印刷液とし、シート類やカード類の表面又は裏面に印刷法により付着させる、(4)^(13)C標識物質をイオン注入法によりシート類やカード類の表面又は裏面に付着させる。
【0018】上記(1)?(4)の態様においては、シート類やカード類の一部に予め浅い凹部を設けておき、この凹部に適用するようにしてもよい。また本発明においては、^(13)C標識物質をシート類やカード類の内部に保持するようにしてもよい。この場合にはシート類やカード類の一部に予めそれを充填するための凹部又は空間を設けておき、この凹部又は空間に^(13)C標識物質を充填する。この場合必要あればその充填後、その表面を例えばプラスチック製の薄膜等によりシールする。」

4 上記1ないし3から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シート類又はカード類の少なくとも一部に形成された天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層中の^(13)Cの量を質量分析法、核磁気共鳴法又は赤外線吸収法により測定することによりシート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いる天然のものより多量の^(13)Cを含む^(13)C標識物質の層であって、前記シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に^(13)C標識物質が充填され、上記天然のものより多量の^(13)Cを含む物質として脂肪酸を含んでなる^(13)C標識物質の層。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「^(13)C」は本願発明の「安定同位体」に相当する。

2 引用発明の「『シート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いる天然のものより多量の^(13)Cを含む^(13)C標識物質の層であって、前記シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に充填され』た『^(13)C標識物質の層』」は、シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に充填されたものであるから、形あるものであって、識別マークといえる。

3 引用発明の「『シート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いる天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層であって、前記シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に充填され』た『^(13)C標識物質の層』」は、天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層中の^(13)Cの量を質量分析法、核磁気共鳴法又は赤外線吸収法により測定することによりシート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いるものであるとともに、上記2から識別マークでもあるから、引用発明の「『シート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いる天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層であって、前記シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に充填され』た『^(13)C標識物質の層』」は、本願発明の「『機械認識による真贋判定に対応する識別マーク』であって、『安定同位体の含有比率を天然同位体比率と異なる値に制御してなる物質』を含んでなる『識別マーク』」に相当するといえる。

4 引用発明の「『天然のものより多量の^(13)Cを含む物質』としての『脂肪酸』」と本願発明の「安定同位体の含有比率を天然同位体比率と異なる値に制御してなる物質であるギ酸ナトリウム」とは、「安定同位体の含有比率を天然同位体比率と異なる値に制御してなる物質である脂肪酸系化合物」の点で一致する。

5 上記1ないし4から、本願発明と引用発明とは、
「機械認識による真贋判定に対応する識別マークであって、該識別マークが安定同位体の含有比率を天然同位体比率と異なる値に制御してなる物質である脂肪酸系化合物を含んでなる識別マーク」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明の識別マークは、「機械認識による真贋判定」だけでなく「知覚認識による真贋判定」にも対応するのに対して、
引用発明の識別マークは、そうであるか不明な点。

相違点2:
脂肪酸系化合物が、本願発明では、「ギ酸ナトリウム」であるのに対して、
引用発明では、脂肪酸である点。

第5 判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
1 相違点1について
ア 識別マークを知覚認識による真贋判定と機械認識による真贋判定の両方に用いることは、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.実願昭62-136936号(実開昭64-40682号)のマイクロフィル、特開平7-205569号公報、国際公開第00/13065号特に1頁下から16行ないし下から14行及び12頁12ないし18行、特開平11-277957号公報特に【0025】、特開平11-151877号公報特に【0020】参照。)。
イ 引用発明において、機械認識による真贋判定のみでなく人が見ても真贋判定できるように、上記ア記載の周知技術を適用し、引用発明の「『シート類又はカード類の真贋を判定する偽造防止用シート類及びカード類の真贋判定法に用いる天然のものより多量の^(13)Cを含む物質の層であって、前記シート類又はカード類の一部に予め設けられた凹部に充填され』た『^(13)C標識物質の層』」を知覚認識による真贋判定にも対応するものとし、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

2 相違点2について
ア 引用例には、「【0013】…(略)…上記天然のものより多量の^(13)Cを含む物質としては無機物質、有機物質を問わず何れも使用される。【0014】それらの例としては…(略)…(3)天然のものより多量の^(13)Cを含むCH_(4) 等の炭化水素、脂肪酸、…(略)…等の有機物質を挙げることができる。【0015】これら物質は、例えば^(13)Cを通常の割合で含むメタンその他の出発原料からの精製や合成によって得られる。天然の炭素や炭素を含む化合物中における炭素はすべて^(13)Cが約1.1%の割合で存在しているが、本発明においては、炭素それ自体中や化合物中の^(13)C濃度を1.1%より高くして適用される。この場合、^(13)Cの濃度を天然のもの(1.1%)に比べていかほど高くするかは、主として後述測定精度、検出精度の観点から設定されるが、その真贋判定機能上からはその割合がより高い方が望ましい。」(上記第3摘記2参照。)と記載されている。
イ 上記アから、引用発明の「『天然のものより多量の^(13)Cを含む物質』である『脂肪酸』」の1種であり、その炭素数が1と最も小さいギ酸が出発原料からの精製や合成の観点から比較的製造し易いものであることは当業者に自明である。しかしながら、(ア)ギ酸は皮膚に触れたりすると水泡を生じ、かなり強い酸である一方、ギ酸ナトリウム(溶解度99.6g/100g水(25℃))は蟻酸塩であること、(イ)ギ酸は工業的には加熱(120?150℃),加圧(6?8atm)下で水酸化ナトリウムに一酸化炭素を作用させてギ酸ナトリウムとし、それを硫酸で分解して遊離酸(ギ酸)をつくるものであること、(ウ)前記(イ)のギ酸の製造工程における遊離酸(ギ酸(融点8.4℃))になる前の工程で生成したギ酸ナトリウムの融点は253℃であり、常温で安定であることは、それぞれ本願の出願前に周知である(以下「周知事項」という。例.「岩波理化学辞典 第4版」1993年6月10日 第4版第8刷発行,株式会社岩波書店発行所 「ギ酸」(280頁)、「化学大辞典2 縮刷版」1977年9月20日縮刷版第36刷発行,共立出版株式会社発行所 「ぎさん 蟻酸」(704頁)及び「ぎさんえん 蟻酸塩」(706頁))。
ウ 上記イ(ア)から、ギ酸ナトリウムはギ酸の塩であって、塩は酸基と塩基との中和反応により生ずるものであるから、その液性がギ酸の液性に比べ中性に近く、安全面で取扱い易いこと、上記イ(イ)から、ギ酸ナトリウムはギ酸の製造工程における中間生成物であるから、ギ酸に比べ、簡易に製造でき、また上記イ(ウ)から、常温で固体として安定であることは、それぞれ当業者に自明である。
エ 上記イ及びウから、引用発明の「『天然のものより多量の^(13)Cを含む物質』である『脂肪酸』」の1種であるギ酸に代えて、ギ酸ナトリウムを用い、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例に記載された事項及び周知事項に基づいて当業者が容易になし得た程度のことである。

3 効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果、周知事実の奏する効果及び引用例に記載された事項から予測できた程度のものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、周知技術、周知事実及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、周知技術、周知事実及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2012-01-31 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-21 
出願番号 特願2001-209776(P2001-209776)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小島 寛史井上 博之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 東 治企
菅野 芳男
発明の名称 識別マーク  
代理人 加茂 裕邦  
代理人 加茂 裕邦  

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