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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1255578
審判番号 不服2009-24801  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-15 
確定日 2012-04-16 
事件の表示 特願2000- 45428「農薬組成物の散布方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 5日出願公開、特開2000-336002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年2月23日〔優先権主張 平成11年3月25日〕の出願であって、
平成21年3月27日付けの拒絶理由通知に対し、平成21年5月22日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成21年9月10日付けの拒絶査定に対し、平成21年12月15日に審判請求がなされると同時に手続補正書の提出がなされ、
平成23年8月29日付けの審尋に対し、平成23年10月28日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成21年12月15日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成21年12月15日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成21年12月15日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1に記載された
「クロルピクリンおよび/またはD-Dを農薬活性成分として、該農薬活性成分に補助剤を配合し乳剤、EW剤、水性乳剤又は固形乳剤とした農薬組成物として、土壌表面または土壌中に敷設した潅水チューブを介して土壌に散布することを特徴とする農薬散布方法。」
を、補正後の請求項1において、
「クロルピクリンを農薬活性成分として、該農薬活性成分に補助剤として界面活性剤を配合し乳剤、EW剤、水性乳剤又は固形乳剤とした農薬組成物として、土壌表面に敷設した潅水チューブと、該潅水チューブが敷設された土壌をガスバリア性フィルムで被覆した土壌に、潅水チューブを介して農薬組成物を水と共に土壌に散布することを特徴とする農薬散布方法。」
に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)はじめに
上記請求項1についての補正のうち、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「クロルピクリンおよび/またはD-Dを農薬活性成分」を、「クロルピクリンを農薬活性成分」に改める補正については、補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって、なおかつ、当該限定により補正前後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないことから、
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開昭61-219331号公報(原査定の引用文献1)
刊行物2:特開平8-238049号公報(原査定の引用文献2)
刊行物3:特開昭52-47921号公報
刊行物4:特開平10-1406号公報
刊行物5:特開平9-30912号公報

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「農薬を施用するにあたり、土壌中に敷設せられたる有孔管を通して目的個所に農薬を到達せしめることを特徴とする農薬の施用方法。」

摘記1b:第1頁左下欄第16行?右下欄第2行
「農薬製剤としては、水和剤、乳剤、粉剤、水溶剤、液剤、粒剤、濃厚懸濁剤、フローダスト剤の如きものが一般的に使用されている。
そのうち乳剤、水和剤、水溶剤、液剤、濃厚懸濁剤等は、液体として取り扱われ、使用時これらを水等の稀釈剤で調製して、或は原液のまゝで施用されている。」

摘記1c:第2頁左上欄第2行?左下欄第5行
「本発明者等は、過大な労力、時間を要することなく、容易で安全に農薬を施用する方法について長年にわたり研究した結果、農薬を土壌に敷設された有孔管を通して流出滴下せしめることで、上記の如き障害もなく、農薬施用の目的を達せしめることを見い出し、本発明を完成するに到った。…
そして土壌に敷設される有孔管としては、通常散布用として用いられている合成樹脂製、例えばポリエチレン、ポリ塩化ビニル等からなるチューブ又はホースが良好である。…
長期にわたり使用せられた上記のごとき配管は、藻類、細菌の繁殖等々により灌水などの目的遂行の効率を落し、またそれらの剥離によって目ずまり等の障害を受ける。ここで本発明の方法により殺藻、殺菌効果等を有する農薬、例えばアンバム剤等を用うれば、これらの障害をも回避することができる。
また生育中の作物に施用して有害作用を与える、特に土壌燻蒸剤等にあっては、作物の栽培、収穫の終了後、これまで用いてきたプラスチックス等のマルチフイルム及び灌水用パイプラインを用いて処理すれば、安全に土壌消毒の目的を達することが出来ると同時に、作物の生残骸を枯死せしめ、その後の整理を容易にならしめ、生植物の土壌埋込みによる次作への害作用を回避することも可能である。
本発明に用いられる農薬としては、液体、例えば、水等に稀釈して施用せられる剤型のものが望ましい。活性成分としては、所望の公知の殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤等に巾広く利用できる。」

摘記1d:第2頁左下欄第16行?右下欄最下行
「実施例1 ネコブ線虫常発ビニールハウスのビニールマルチ下に灌水用有孔管(マサル工業(株)製品)を配置し、その系の始端に液肥自動混入機を設置し、供試薬剤の所定量を供給処理した。供給圧力は、0.2気圧/cm^(2)とし、給水量1000l/10aに供試薬剤所定量が供給されるようにした。処理後そのまま10日間放置した。調査は、処理後10日目に土壌サンプリングを行ない、線虫数をベールマン法により数えた。
また供試圃場にキュウリを植付け、40日後抜き取り、根こぶの着生の有無を調査した。その結果を下表に示す。
薬剤処理 処理量(10アール当り) 100g当り線虫数 …
A 20l 0 …
C 30 3 …
1)薬剤…
C:メチルイソチオシアネイト(20%製剤)」

摘記1e:第3頁左下欄第6行?右下欄最下行
「実施例3 育苗箱で育生中のイネ苗に対し、処理効果試験を行った。本発明の処理は、灌水用有孔管(三井石油化学工業(株)製品)を地表面に設置して用い、供試薬剤の供給には液肥自動混入機(レナウン自動混入機)を用いた。…
薬剤…(5%粒剤)本発明の方法には分散剤を加え水和剤とした。」

上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:段落0002
「更に該農薬成分の中で最も多く使用されているクロルピクリンやD-Dは土壌中での拡散性からその液剤や錠剤を30cm間隔で10アールに1万ヵ所以上埋めこまなければならず、煩雑さがあったためにさらに簡便で安全な該薬剤の処理方法が求められていた。
一方、該農薬成分を土壌表面に処理し、ガスバリア性フィルムで覆う土壌消毒方法としては特開昭56-96648号、特開昭59-216534号等が開示され、クロルピクリンのような常温でガス状でない該農薬成分については土壌中に潅注した後、土壌をガスバリア性フィルムで覆うことによって該農薬成分が大気中に逃げるのを抑え、土壌中に効率的に行き渡らせることができるとしている」

摘記2b:段落0005?0007
「MITC(メチルイソチオシアネート)、クロルピクリン(トリクロロニトロメタン)…
本発明での該農薬成分はそのまま使用してもよいが、必要に応じて溶剤、水、酸化防止剤、界面活性剤および安定剤などを添加して該薬剤としてもよいし、液状の該農薬成分は吸油性樹脂やゲル化剤や鉱物質等の吸油性担体などで固定して該薬剤としてもよい。…
本発明で使用できる蒸散機は加熱部分、ノズル、送風部分、薬液タンク、加圧空気などからなり、これらを一つのユニットにまとめても、それぞれの部分を単独ユニットにして組み合わせて使用してもよい。要するに該薬剤の自己拡散力だけに頼らないで、強制的に土壌表面とガスバリア性フィルムの間に該農薬成分を拡散させる装置であればよい。」

摘記2c:段落0028
「本発明の土壌薫蒸方法は、該農薬成分の刺激などを感ずることなく衛生的にかつ簡便に薬剤を処理でき、有害生物を効率的に防除が可能となった。」

上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:第1頁右下欄第1行?下から3行
「表1 代表的揮発性燻蒸剤の性状
項 \ 燻蒸剤 … クロルピクリン …
水溶性(g/100ml) … 不溶 at20℃ …
これ等の土壌燻蒸剤のうち特にメチルブロマイド、クロルピクリン等はポリエチレンフイルム等で土壌を被覆して液体又はガス体で投薬し、土壌中に浸透拡散させて、2?5日間放置し、病害虫駆除効果をあげている。」

摘記3b:第2頁右上欄第10?13行
「即ち本発明は揮発性燻蒸剤の液体又は溶剤の溶解物をソルビタン脂肪酸エステル又はその誘導体と特定量の水を加えてゲル状化又はゾル状化した土壌燻蒸剤である。」

摘記3c:第3頁左上欄第6?8行
「本発明に係る土壌燻蒸剤は固形剤ペースト剤エアゾール剤、乳剤等として利用しうるものである。」

摘記3d:第3頁右上欄第11?16行
「実施例1 メチルブロマイド55.3部とクロルピクリン27.3部にポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート4.1部を溶解攪拌し水13.3部を攪拌しながら徐々に添加分散させるとゲル状の土壌燻蒸剤を得た。」

上記刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:段落0008
「例えば1,3-ジクロロプロペンと1,2-ジクロロプロパンの混合物(D-D)やトリクロロニトロメタン(クロルピクリン)、メチルイソチオシアネート(MITC)等は、液状の農薬活性成分または農薬組成物であり、沸点は40℃以上、蒸気圧も0.5mmHg/20℃以上である。…
しかし農薬活性成分の化学的性質や物理的性状によっては任意の量の界面活性剤、有機溶剤、鉱物質担体や分解防止剤などの安定剤やその他の補助剤を必要に応じて添加した農薬組成物を、該包装材で包装することも可能である。本発明で使用できる界面活性剤は…ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の非イオン界面活性剤」

上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:段落0003
「従来より、土壌生息性有害生物の加害防止方法として、…殺虫剤や殺菌剤の散布法が用いられてきたが、…クロルピクリン…燻蒸剤」

摘記5b:段落0011?0012
「地表へ灌水する方法は、例えば透水性のある管(散水チューブ)を土壌等の上部に敷設し、その管中にオゾン溶解水および/または過酸化水素水を流すことにより行うことが出来る。ここでいう透水性のある管とは、例えば透水性のある素焼きの管材、微細な連通細孔を有する多孔質ゴム管、塩ビ管に多数の孔をあけたもの等が挙げられる。管に多数の穴をあけたものである場合は、孔の大きさは1?3mmが好ましく、孔は5?10cm^(2)に1個以上あることが好ましい。…
灌水は土壌表面に単に流すだけでも良いが、土壌表面を実質的に非透気性のシートで被覆(マルチング)し、その中に透水性のある管を敷設して灌水することが、灌水量が少なくてすむので好ましい。ここでいう実質的に非透気性のシートとは、酸素透過速度が3×10^(-7)(cm^(3)/cm^(2),s,cmHg)以下のシートを言い、例えばポリエチレンフィルムや、塩化ビニール等のフィルムまたはシートを例示出来る。」

(3)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「農薬を施用するにあたり、土壌中に敷設せられたる有孔管を通して目的個所に農薬を到達せしめることを特徴とする農薬の施用方法。」との記載、及び摘記1dの「実施例1…ビニールマルチ下に灌水用有孔管…を配置し、その系の始端に液肥自動混入機を設置し、供試薬剤の所定量を供給処理した。…給水量1000l/10aに供試薬剤所定量が供給されるようにした。…供試圃場にキュウリ…処理量(10アール当り)…C 30…C:メチルイソチオシアネイト(20%製剤)」との記載からみて、刊行物1には、
『ビニールマルチ下に灌水用有孔管を配置し、供試薬剤Cとしてメチルイソチオシアネイト(20%製剤)を、該有孔管を通して、供試圃場10アール当たり、供試薬剤Cを30リットル、給水量を1000リットルで供給する農薬の施用方法。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(4)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

まず、引用発明の「ビニールマルチ下に灌水用有孔管を配置し、」について、摘記1cの「プラスチックス等のマルチフイルム及び灌水用パイプライン」との記載、及び摘記1cの「土壌に敷設される有孔管としては…チューブ…が良好である。」との記載をも参酌するに、
その「ビニールマルチ」が、刊行物1における「プラスチックス等のマルチフイルム」という「フィルム」に相当するものと認められるから、補正発明の「フィルム」に相当し、
その「灌水用有孔管」が、刊行物1における「灌水用パイプライン」ないし「チューブ」に相当するものと認められるから、補正発明の「潅水チューブ」に相当し、
摘記1eの「実施例3…本発明の処理は、灌水用有孔管(…)を地表面に設置して用い」との記載からみて、刊行物1における「土壌に敷設される有孔管」ないし「灌水用有孔管」は、具体的には「地表面に設置」して用いられることを意図しているものであって、摘記1aの「土壌中に敷設せられたる有孔管」との記載における「土壌中」とは、実質的に「土壌表面」をも意味しているものと認められるから、
引用発明の「灌水用有孔管」は、補正発明の「土壌表面に敷設した潅水チューブ」に相当し、
その「…下に…を配置し、」という位置関係は、補正発明の「土壌表面に敷設した潅水チューブと、該潅水チューブが敷設された土壌をガスバリア性フィルムで被覆した」に相当する。

次に、引用発明の「供試薬剤Cとしてメチルイソチオシアネイト(20%製剤)を、」について、
その「メチルイソチオシアネイト」が、補正発明の「農薬活性成分」に相当し、
その「20%製剤」である「供試薬剤C」については、当該「メチルイソチオシアネイト」を20%含んで成る組成物であると認められるから、
引用発明の「供試薬剤C」ないし「供試薬剤Cとしてメチルイソチオシアネイト(20%製剤)」は、補正発明の「農薬組成物」に相当する。

そして、引用発明の「該有孔管を通して、供試圃場10アール当たり、供試薬剤Cを30リットル、給水量を1000リットルで供給する農薬の施用方法」について、
その「該有孔管を通して、供試圃場10アール当たり、供試薬剤Cを…供給する」が、摘記1aの「土壌中に敷設せられたる有孔管を通して目的個所に農薬を到達せしめる」との記載からみて、その「供試圃場10アール当たり」、「該有孔管を通して」及び「供試薬剤C」の各々が、補正発明の「土壌」、「潅水チューブを介して」及び「農薬組成物」の各々に対応し、なおかつ、摘記1cの「有孔管としては、通常散布用として用いられている」との記載からみて、その「供給」は「散布」によりなされているものと認められることから、補正発明の「土壌に、潅水チューブを介して農薬組成物を…土壌に散布する」に相当し、
その「供試薬剤Cを30リットル、給水量を1000リットル」は、補正発明の「農薬組成物を水と共に」に相当し、
その「農薬の施用方法」は、補正発明の「農薬散布方法」に相当する。

してみると、補正発明と引用発明は、『農薬活性成分を配合した農薬組成物として、土壌表面に敷設した潅水チューブと、該潅水チューブが敷設された土壌をフィルムで被覆した土壌に、潅水チューブを介して農薬組成物を水と共に土壌に散布する農薬散布方法。』に関するものである点において一致し、
(α)農薬組成物の内容が、補正発明においては「クロルピクリンを農薬活性成分として、該農薬活性成分に補助剤として界面活性剤を配合し乳剤、EW剤、水性乳剤又は固形乳剤とした農薬組成物」であるのに対して、引用発明においては「メチルイソチオシアネイト(20%製剤)」である点、
(β)フィルムが、補正発明においては「ガスバリア性フィルム」であるのに対して、引用発明においては「ビニールマルチ」である点、
の2つの点において一応相違する。

(5)判断
ア.上記(α)の相違点について
摘記2bの「メチルイソチアシアネート…、クロルピクリン…本発明での該農薬成分は…必要に応じて…水、…界面活性剤、…などを添加して該薬剤とし…該薬剤の自己拡散力だけに頼らないで、強制的に土壌表面とガスバリア性フィルムの間に該農薬成分を拡散させる」との記載からみて、
刊行物2には、『メチルイソチアシアネート又はクロルピクリンを農薬成分として、該農薬成分に界面活性剤を添加して薬剤として、強制的に土壌表面とガスバリア性フィルムの間に該農薬成分を拡散せしめる』という技術思想が記載されているものと認められ、
ここで、摘記4aの「トリクロロニトロメタン(クロルピクリン)、メチルイソチオシアネート(MITC)等は、液状の農薬活性成分」との記載にあるように、「クロルピクリン」又は「メチルイソチオシアネート」が「液状の農薬活性成分」に該当することは普通に知られているところ、このような「液状の農薬活性成分」に「界面活性剤」を添加してなる「薬剤」が、いわゆる「乳剤」になることは、当業者にとって自明である。

また、刊行物3には、クロルピクリンをポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートと水に「分散」させてなる土壌燻蒸剤(摘記3d)、及びこれを「乳剤」として利用することができること(摘記3c)についての記載があるところ、当該「分散」のために用いられた「ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート」という分散剤が「界面活性剤」であることは、摘記4aの「界面活性剤は…ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の非イオン界面活性剤」との記載からみて明らかである。

してみれば、刊行物2又は3には、『クロルピクリンを農薬活性成分として、該農薬活性成分に補助剤として界面活性剤を配合し乳剤とした農薬組成物』についての発明が記載されているものと認められる。

また、摘記1cの「本発明に用いられる農薬としては、液体、例えば、水等に稀釈して施用せられる剤型のものが望ましい。」との記載、及び摘記1eの「実施例3…本発明の方法には分散剤を加え水和剤とした」との記載からみて、
刊行物1には、その「実施例3」の具体例として、粒剤に「分散剤」という補助剤を加えて「水和剤」という「水等に稀釈して施用せられる剤型」のものにしたものが具体的に記載されているものと認められ、摘記1cないし引用発明の「メチルイソチオシアネイト」が「液状の農薬活性成分」であることも自明であるところ、摘記1bの「乳剤、水和剤、…等は、液体として取り扱われ」との記載をも参酌すると、
刊行物1には、『液剤(又は粒剤)を農薬活性成分として、該農薬活性成分に分散剤を加えて乳剤(又は水和剤)とした農薬組成物』についての発明が記載されているものと認められる。

すなわち、『液状の農薬活性成分に補助剤として界面活性剤ないし分散剤を配合し乳剤とした農薬組成物』は、刊行物1?3の記載にあるように、当業者にとって周知慣用のものにすぎないものと認められ、
また、一般に、水難溶性ないし水不溶性の液体成分に界面活性剤ないし分散剤を配合して、当該液体成分を水に分散した乳剤の形態の液体組成物にすることは、当業者にとって通常の知識の範囲内である。

加えて、刊行物2の「農薬成分の中で最も多く使用されているクロルピクリン」との記載(摘記2a)、刊行物3の「土壌燻蒸剤のうち特に…クロルピクリン等はポリエチレンフイルム等で土壌を被覆して液体…で投薬し、土壌中に浸透拡散させて…病害虫駆除効果をあげている。」との記載(摘記3a)、刊行物4の「トリクロロニトロメタン(クロルピクリン)、メチルイソチオシアネート(MITC)等は、液状の農薬活性成分…であり、…任意の量の界面活性剤…を必要に応じて添加した農薬組成物」との記載(摘記4a)、及び刊行物5の「クロルピクリン…燻蒸剤」との記載(摘記5a)にあるように、補正発明の「クロルピクリン」は土壌燻蒸剤の有効成分として周知慣用のものと認められる。

してみると、その「水等に稀釈して施用せられる剤型」が望ましいとされている刊行物1に記載された発明である引用発明において、その「供試薬剤C」としての「メチルイソチオシアネイト(20%製剤)」という農薬組成物を、
刊行物2又は3に記載された『クロルピクリンを農薬活性成分として、該農薬活性成分に補助剤として界面活性剤を配合し乳剤とした農薬組成物』にしてみること、若しくは、
刊行物1?3に記載ないし示唆される『農薬活性成分に補助剤として界面活性剤を配合し乳剤とした農薬組成物』にすると同時に、その『農薬活性成分』の種類を刊行物2?5に記載された周知慣用の「クロルピクリン」にしてみることは、
当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。

イ.上記(β)の相違点について
刊行物2の「クロルピクリン(トリクロロニトロメタン)…本発明での該農薬成分は…界面活性剤…などを添加して該薬剤とし…該薬剤の自己拡散力だけに頼らないで、強制的に土壌表面とガスバリア性フィルムの間に該農薬成分を拡散させる」との記載(摘記2b)にあるように、刊行物2には、土壌表面とフィルムの間に農薬成分(クロルピクリン)を強制的に拡散する場合において「ガスバリア性フィルム」を用いるという技術思想が記載されているものと認められる。
また、刊行物5の「土壌表面を実質的に非透気性のシートで被覆(マルチング)し、その中に透水性のある管を敷設して灌水する」との記載(摘記5b)にあるように、土壌生息性有害生物の加害を防止するためのマルチング用シートないしフィルムの素材が「非透気性」であることは、当業者にとって一般常識にすぎないので、刊行物1に記載された「プラスチックス等のマルチフイルム」ないし「ビニールマルチ」が「非透気性」の性状にあることは、当業者にとって記載されているに等しい自明事項にすぎない。
してみると、引用発明の「ビニールマルチ」は、刊行物5の記載にあるように実質的に「ガスバリア性フィルム」であると推認されるから、この点に実質的な差異は認められず、仮に相違するとしても、これを刊行物2に記載されたとおりの「ガスバリア性フィルム」にすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。

ウ.補正発明の効果について
本願明細書の段落0052に記載された「本発明の土壌燻蒸方法は、農薬活性成分の刺激などを感ずることなく安全にかつ簡便に薬剤を処理でき、有害生物を効率的に防除することが可能となった。」という効果について、
摘記1cの「過大な労力、時間を要することなく、容易で安全に農薬を施用する方法について長年にわたり研究した結果、農薬を土壌に敷設された有孔管を通して流出滴下せしめることで、上記の如き障害もなく、農薬施用の目的を達せしめることを見い出し、本発明を完成するに到った。」との記載、及び摘記2cの「本発明の土壌薫蒸方法は、該農薬成分の刺激などを感ずることなく衛生的にかつ簡便に薬剤を処理でき、有害生物を効率的に防除が可能となった。」との記載からみて、補正発明の当該効果は、当業者にとって格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。
また、審判請求人は、平成21年12月15日付けの審判請求書の請求の理由において、『本願に係る発明は、水と共に散布する発想がなかったクロルピクリンに関し、水に分散し得るクロルピクリンの乳剤、EW剤、水性乳剤又は固形乳剤を見出したこと、及び土壌表面に散布施用する発想がなかったクロルピクリンを、被覆材で覆った土壌に潅水チューブを介し水と共に土壌表面に散布することを見出したこと、の2つの構成を組み合せてなるものであり、この2つの構成が相互に関連することにより、簡便な施用方法でありながら、十分な土壌消毒効果を示すと共に、クロルピクリンの刺激臭が無く、従来の潅注処理方法と比較して薬剤の低用量化を達成できる、という本発明に係る顕著に優れた効果を発揮するものであります。』との主張をしているが、
刊行物3には「クロルピクリン」の「乳剤」についての記載があり(摘記3c)、刊行物2には『農薬成分(クロルピクリン)に水、界面活性剤を添加した薬剤を、土壌表面とガスバリア性フィルムの間に拡散させる』ことについての記載があり(摘記2b)、
摘記2cの「本発明の土壌薫蒸方法は、該農薬成分の刺激などを感ずることなく衛生的にかつ簡便に薬剤を処理でき、有害生物を効率的に防除が可能となった。」との記載からみて、審判請求人の主張する「簡便な施用方法でありながら、十分な土壌消毒効果を示すと共に、クロルピクリンの刺激臭が無く」という効果については、当業者が容易に予測可能なことであり、
摘記2aの「クロルピクリンのような常温でガス状でない該農薬成分については土壌中に潅注した後、土壌をガスバリア性フィルムで覆うことによって該農薬成分が大気中に逃げるのを抑え、土壌中に効率的に行き渡らせることができる」との記載からみて、審判請求人の主張する「従来の潅注処理方法と比較して薬剤の低用量化を達成できる」という効果についても、当業者が容易に予測可能なことであり、
さらに、摘記1c「配管は…目ずまり等の障害を受ける。…これらの障害をも回避することができる。…本発明に用いられる農薬としては、液体、例えば、水等に稀釈して施用せられる剤型のものが望ましい。」の記載からみて、引用発明は「液体、例えば、水等に稀釈して施用せられる剤型」が望ましいとされるものであるから、刊行物1に記載された発明において認識されている『配管の目ずまり』という障害について、その「剤型」の種類に起因した『配管の目ずまり』という障害が生じ得ないことも明らかである。
してみると、補正発明に、当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

エ.小括
以上のとおりであるから、補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.まとめ
以上総括するに、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年12月15日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成21年5月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成21年3月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、当該拒絶理由通知書に記載した「理由2」は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであって、
当該「下記の刊行物」として、上記「第2 2.(2)」に示した「刊行物1」及び「刊行物2」が、それぞれ「引用文献1」及び「引用文献2」として引用されている。

3.引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2、並びにその記載事項は、上記「第2 2.(2)」に示したとおりである。

4.対比・判断
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、「クロルピクリンおよび/またはD-Dを農薬活性成分」、「補助剤を配合」及び「土壌表面または土壌中に敷設した潅水チューブを介して土壌に散布する」という事項を発明特定事項として含むものであって、「クロルピクリンを農薬活性成分」、「補助剤として界面活性剤を配合」及び「土壌表面に敷設した潅水チューブと、該潅水チューブが敷設された土壌をガスバリア性フィルムで被覆した土壌に、潅水チューブを介して農薬組成物を水と共に土壌に散布する」という事項を発明特定事項としている補正発明を包含するものである。
してみると、本願発明は、上記「第2 2.」において検討した補正発明と同様の理由により、引用文献1及び2に記載された発明並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-17 
結審通知日 2012-02-20 
審決日 2012-03-05 
出願番号 特願2000-45428(P2000-45428)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿崎 美陶櫛引 智子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
発明の名称 農薬組成物の散布方法  

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