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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1255581
審判番号 不服2010-14952  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-05 
確定日 2012-04-17 
事件の表示 特願2004-517642「生産性を向上するプラズマ反応器用溶射イットリア含有被膜」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日国際公開、WO2004/003962、平成17年10月13日国内公表、特表2005-531157〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年6月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年6月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年3月1日付けで拒絶査定がなされ、同年7月5日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、手続補正書が提出されたものである。

第2.平成22年7月5日付け手続補正についての補正却下の決定
<結論>
平成22年7月5日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
<理由>
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項2の削除に伴い、特許請求の範囲の請求項8を請求項7に繰り上げるとともに、下記のとおりに補正する事項を含むものである。

(補正前)
「【請求項8】プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、該構成要素は、
封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、
溶射皮膜とを備え、前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記封止
された陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記封止された陽極酸化表面の上に直接配置された本質的にイットリアからなるものであり、前記溶射皮膜は、前記構成要素の最も外側の面を形成することを特徴とするプラズマ・エッチング反応器。」

(補正後)
「【請求項7】プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、前記構成要素は、封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、溶射皮膜とを備え、前記構成要素は、チャンバ壁、チャンバライナー、ガス分配板、ガス・リング、基台、静電チャックおよびプラズマフォーカスリングからなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記封止された陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記封止された陽極酸化表面の上に直接配置された本質的にイットリアからなるものであり、前記溶射皮膜は、前記構成要素の最も外側の面を形成することを特徴とするプラズマ・エッチング反応器。」

2.補正の目的
上記補正は、請求項2の削除に伴い請求項を1つ繰り上げることによる、明りょうでない記載の釈明を目的とするもの、及び構成要素について、「チャンバ壁、チャンバライナー、ガス分配板、ガス・リング、基台、静電チャックおよびプラズマフォーカスリングからなる群から選択される少なくとも1つであ」ると限定する、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
上記補正後の特許請求の範囲の請求項7に係る発明(以下、「本願補正発明7」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを検討する。
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本出願の優先権主張日前に頒布された、国際公開第02/29877号(以下、「引用刊行物1」という。)、特開平7-216589号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(ア)引用刊行物1(国際公開第02/29877号)
(1a)「半導体デバイス等の処理工程においては,エッチング,成膜処理,アッシング,およびスパッタリングなど種々の処理があり,これらに対応する各処理装置が用いられている。……
処理室と予備真空室は壁面に形成された搬送口で接続され、この搬送口を通じて被処理体を搬送する。……
……搬送口やゲートバルブはエッチング処理中にプラズマが集中しやすい箇所である。搬送口は処理室と一体に製作されているため、その材質はアルミニウムを用い、その表面にアルマイト加工を施したものが一般的である。……アルマイト加工面は直接プラズマに曝されると、加工面がエッチングされてしまい、下地のアルミニウム面が露出する。また、半導体および液晶デバイス等の製造プロセスでは、ハロゲン化合物からなる処理ガスを使用することが多いが、これらのハロゲンイオンは非常に腐食性が強い。露出面がこのようなハロゲンイオンにさらされると、表面が腐食される。また、反応生成分の堆積が生じ、これが剥がれてパーティクルが発生する。」(第1頁第14行-第2頁第8行)

(1b)「上記課題を解決するために,本発明の第1の観点にかかる発明は,真空処理装置において,真空処理室の壁面に形成された被処理体の搬送口の内壁に着脱自在に構成されたライナー部材を設けたことを特徴としている。
……
さらに,詳細に本発明の特徴を言えば,前記ライナー部材は複数部材から構成されるようにしてもよい。また,前記ライナー部材の表面に絶縁被膜を施してもよい。さらに,前記絶縁被膜は希土類酸化物溶射被膜であってもよく,例えばY_(2)O_(3)を用いてもよい。……」(第2頁第26行-第3頁第16行)

(1c)「また,上記特徴的な構成を採用した場合には,ライナー部材が損傷を受けた場合,損傷を受けた部分の部材のみ交換すればよく,ライナー部材全体を交換する必要がないため,コストを低く抑えられる。さらに,絶縁被膜を施すことにより,プラズマによって表面がエッチングされるのを抑制することができる。さらにまた、融点が高く、酸素との化学的結合力が強い希土類酸化物を用いることにより、プラズマに曝されても安定した状態を維持することができる。すなわち,希土類酸化物溶射被膜を用いることにより,耐プラズマエロージョン性が高くなり,損傷が生じ難くなり,金属汚染や発塵を低減できる。したがって,装置のメンテナンス頻度を減少させることができ,スループットを向上できる。」(第4頁第6行-第16行)

(1d)「図2に搬送口20近傍の拡大断面図を示す。図に示すように,搬送口20の内壁には,ゲートライナー100が設置されている。ゲートライナー100は,着脱自在であり,メンテナンス時には処理室2側に離脱させて,洗浄等の作業を行うことができる。本実施の形態においては,ゲートライナー100の材質はアルミニウムからなり,その表面には絶縁被膜200が施されている。絶縁被膜200は,希土類酸化物溶射被膜からなり,……本実施例ではY_(2)O_(3)が50μm形成されている。…」(第6頁第22行-第7頁第4行)

(1e)「上記実施の形態においては,ゲートライナーの材質をアルミニウムとし,希土類酸化被膜をY_(2)O_(3)とした例について説明したが,これに限定するものではない。ゲートライナーの材質は,アルミニウム以外にもアルミニウム合金またはこれらの表面に陽極酸化膜(アルマイト)を形成したもの,…などが好適である。」(第9頁第14行-第20行)

(1f)図2には,ゲートライナー100の表面に,他の中間層が存在することなく,直接,絶縁被膜200が配置された様子が示されている。

(イ)引用刊行物2(特開平7-216589号公報)
(2a)「【請求項4】プロセスガスとして腐食性ガスを含む雰囲気を設定されるチャンバーと、チャンバー内に配置された載置電極およびこれと対向する対向電極とを備えたプラズマ装置において、
上記チャンバー、載置電極および対向電極のいずれかがアルミニウム製である時、その表面に陽極酸化膜およびシリコン系被膜が順次積層されていることを特徴とするプラズマ処理装置。」(第2頁第1欄第17行-第24行)

(2b)「【従来の技術】周知のように、半導体製造工程のひとつであるエッチング工程では、例えば、被処理体を載置する載置電極とこれに対向する対向電極とを備えた平行平板型のプラズマ処理装置があり、……
……
【0005】そこで、従来ではアルミニウムの表面に酸化膜、所謂、酸化アルミニウムの被膜(アルマイト被膜)を形成する表面処理が施されることで、耐腐食性および硬度をもたせるようになっている。…
……
【発明が解決しようとする課題】しかし、アルマイト被膜を表面に形成したアルミニウムをプラズマ電極として用いた場合には、プラズマ生成時、アルマイト被膜が削られて、被膜中の不純物が析出することがあった。このため、不純物がパーティクルとして処理室内に飛散すると、半導体ウエハ等の被処理体の薄膜中に混入等の重金属汚染を招くことがあった。」(第2頁第1欄第37行-第2欄第12行)

(2c)「【0034】乾燥工程を終了したアルミニウム基板は、表面に形成された陽極酸化被膜の細孔を封止する封孔処理が実行される(ステップ12)。……
【0035】封孔処理が終了すると、アルミニウム基板は自然放置されることで乾燥処理され(ステップ13)、次に、温水で濡らした布で拭く等して封孔染み取り処理が実行される(ステップ14)。
【0036】一方、上述した各工程を実行することで表面に陽極酸化被膜を形成されたアルミニウム基板は、その陽極酸化被膜上にシリコン系の被膜を形成する成膜処理が実行される(ステップ15)。(第3頁第4欄第38行-第50行)

(2d)「【0039】以上のような各工程を経ることにより、アルミニウム基板の表面には、陽極酸化被膜および保護膜としてのシリコン系被膜が順次積層されることになる。
【0040】したがって、アルミニウム基板の最外面に位置するシリコン系被膜はその下層に位置する陽極酸化被膜の保護膜となる。このため、陽極酸化被膜を透して外部に析出しようとする不純物を閉じ込めておくことができる。」(第4頁第5欄第20行-第27行)

(2)対比・判断
(2-1)引用刊行物1を主引用例として
(ア)引用刊行物1記載の発明
引用刊行物1には、上記摘記事項(1a)によれば、
半導体デバイスのエッチング処理装置において、搬送口やゲートバルブはエッチング処理中にプラズマが集中しやすく、これらは、アルミニウム表面にアルマイト加工を施したものを材質として作製されていることから、直接プラズマに曝されると加工面がエッチングされ、下地アルミニウム面が露出し、ハロゲン化合物からなる処理ガスにより腐食され、パーティクルを発生させること (以下、「記載事項1」という。)が記載され、
また、上記摘記事項(1b)-(1d)によれば、搬送口のライナー部材の表面に、耐プラズマエロージョン性の高い希土類酸化物、例えばY_(2)O_(3)の溶射被膜を形成することにより、これらの表面がプラズマに曝されても損傷が生じ難く、金属汚染や発塵を低減でき、メンテナンス頻度を減少できること(以下、「記載事項2」という。)が記載され、
さらに、上記摘記事項(1e)-(1f)によれば、上記ライナー部材の材質として、アルミニウムの表面に陽極酸化膜(アルマイト)を形成したもとし、また、希土類酸化物の溶射被膜は、他の材料の中間層が存在することなく、該陽極酸化膜表面に直接配置されること(以下、「記載事項3」という。)が記載されている。

よって、上記記載事項1-記載事項3をまとめると、引用刊行物1には、
「プラズマエッチング装置であって、
搬送口のライナー部材を備え、前記搬送口のライナー部材は、陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、溶射被膜を備え、
前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記陽極酸化表面の上に直接配置されたY_(2)O_(3)からなるものであり、前記溶射被膜は、前記搬送口のライナー部材の最も外側の面を形成するプラズマエッチング装置。」の発明(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されている。

(イ)本願補正発明7と引用刊行物1発明との対比・判断
本願補正発明7と引用刊行物1発明とを対比すると、引用刊行物1発明における「プラズマエッチング装置」、「Y_(2)O_(3)からなる」は、本願補正発明7における「プラズマ・エッチング反応器」、「本質的にイットリアからなる」に相当する。
また、引用刊行物1発明の「搬送口のライナー部材」は、プラズマエッチング反応器の「構成要素」であることは明らかである。

よって、両者は、
「プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、前記構成要素は、陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、溶射被膜とを備え、
前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記陽極酸化表面の上に直接配置された本質的にイットリアからなるものであり、前記溶射被膜は、前記構成要素の最も外側の面を形成することを特徴とするプラズマ・エッチング反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
前記構成要素が、本願補正発明7では、「封止されたチャンバ壁、チャンバライナー、ガス分配板、ガス・リング、基台、静電チャックおよびプラズマフォーカスリングからなる群から選択される少なくとも1つ」であるのに対し、引用刊行物1発明では、「搬送口のライナー部材」である点。

上記相違点について検討する。
プラズマエッチング装置の構成要素として、封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム材からなるチャンバー壁は、例えば、引用刊行物2にもあるように周知のものであり、また、引用刊行物2には、封止された陽極酸化表面がプラズマにより削られたり、プラズマ生成用ガスによる腐食によって、パーティクル汚染の原因となること、そのために、該表面上に保護膜を形成し、封止された陽極酸化表面をプラズマから保護することも記載されている。
とすれば、引用刊行物1発明における、構成要素としての「搬送口のライナー部材」は、他の中間層が存在することなく陽極酸化表面上に直接イットリアからなる溶射被膜が配置されることにより、陽極酸化表面がプラズマによりエッチングされ、パーティクル汚染等を生じることを防止するものであるから((2)(2-1)(ア)の「記載事項1-3」)、その構成要素を「陽極酸化表面が封止されたチャンバ壁」とすることは当業者が容易になしえたことである。
そして、本願補正発明7が、引用刊行物1、2の記載及び周知事項からは予測しえない格別の効果を奏するとも認められない。

よって、本願補正発明7は、引用刊行物1、2に記載された発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)引用刊行物2を主引用例として
(ア)引用刊行物2記載の発明
引用刊行物2には、上記摘記事項(2a)、(2c)、(2d)によれば、
「プラズマエッチング装置であって、
チャンバを備え、前記チャンバは、封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム部材からなるアルミニウム下地と、シリコン系の保護膜を備え

前記保護膜は、前記保護膜と前記下地の前記陽極酸化表面との間に他の中間層が存在することなく前記陽極酸化表面の上に直接配置されたものであり、前記チャンバの最も外側の面を形成するプラズマエッチング装置。」(以下、「引用刊行物2発明」という。)が記載されている。

(イ)本願補正発明7と引用刊行物2発明との対比・判断
本願補正発明7と引用刊行物2発明を対比すると、引用刊行物2発明における「シリコン系の保護膜」は、上記摘記事項(2b)-(2d)のとおり、封止された陽極酸化表面がプラズマにより削られたり、プラズマ生成用ガスによる腐食によって、パーティクル汚染が発生することを防止するためのものである。一方、本願補正発明7における、「溶射被膜」であって「本質的にイットリアからなる」ものも、「プラズマ反応チャンバ内のイオンにより引き起こされる浸食およびそれに伴うレベルのパーティクル汚染を低減することができる」(本願明細書【0024】)ものであることから、両者は、「保護膜」である点で一致する。
また、引用刊行物2発明における「プラズマエッチング装置」、「チャンバー」は、本願補正発明7における「プラズマ・エッチング反応器」、「構成要素」及び「チャンバ壁」に相当する。

よって、両者は、
「プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、前記構成要素は、封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム材料からなるアルミニウム下地と、保護膜とを備え、前記構成要素はチャンバ壁であり、
前記保護膜は、前記保護膜と前記下地の前記陽極酸化表面との間に他の中間層が存在することなく前記陽極酸化表面の上に直接配置されたものであり、前記チャンバ壁の最も外側の面を形成するプラズマ・エッチング反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
前記保護膜が、本願補正発明7では、「溶射被膜」であって「本質的にイットリアからなる」ものであるのに対し、引用刊行物2発明では、「シリコン系」の保護膜である点。

上記相違点について検討する。
引用刊行物1には、上記3.(2)(2-1)(ア)のとおり、陽極酸化表面を有するアルミニウム材料からなり、プラズマにさらされるエッチング装置の構成部材において、陽極酸化表面上にY_(2)O_(3)からなる溶射被膜を配置することにより、耐プラズマエロージョン性を付与し、パーティクル汚染を防止することが記載されている。

とすれば、引用刊行物2発明に係るプラズマエッチング装置のチャンバー壁において、陽極酸化表面をプラズマから保護するための保護膜として、引用刊行物1に記載される「Y_(2)O_(3)、すなわちイットリアからなる溶射被膜」を適用し、相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことである。
そして、本願補正発明7が、引用刊行物1、2の記載からは予測しえない格別の効果を奏するものとも認められない。

よって、本願補正発明7は、引用刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、平成22年7月5日付け手続補正は却下されたので、本願の請求項8に係る発明は、平成21年10月16日付け手続補正書により補正された請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項8に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項8】プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、該構成要素は、
封止された陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、
溶射皮膜とを備え、前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記封止
された陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記封止された陽極酸化表面の上に直接配置された本質的にイットリアからなるものであり、前記溶射皮膜は、前記構成要素の最も外側の面を形成することを特徴とするプラズマ・エッチング反応器。」(以下、「本願発明8」という。)

第4.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本出願の優先権主張日前に頒布された刊行物1(国際公開第02/29877号:以下、「引用刊行物1」という。)、刊行物2(特開平7-216589号公報:以下、「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、上記第2.3(1)(ア)、(イ)のとおりの事項が記載されている。
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本出願の優先権主張日前に頒布された刊行物3(特開2002-33309号公報:以下、「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【請求項3】上述したガス導入系部品、処理室内面、アース電極の製作工程が、前記各部品をアルミ合金を機械加工して製作する工程、該アルミ合金加工表面に対して陽極酸化法を用いてアルマイト皮膜を形成する工程、該アルマイト皮膜に対して封孔処理、洗浄処理、及び乾燥処理からなる後処理を施す工程……を含むことを特徴とする…プラズマ処理装置用部品の製作方法。」(第2頁第1欄第21行-第30行)

(3b)「【発明の属する技術分野】本発明はプラズマ処理装置に係わり、特に半導体デバイス或いは液晶デバイスの製造工程において、腐食性ガスを用いたプラズマエッチング処理を施すプラズマ処理装置及び該プラズマ装置に用いる部品の製作方法に関する。」(第2頁第1欄第49行-第2欄第3行)

第5.本願発明8と引用刊行物1記載の発明との対比・判断
引用刊行物1発明は、上記「第2.3.(2)(2-1)(ア)」に記載のとおりである。
そして、本願発明8と引用刊行物1発明とを対比すると、引用刊行物1発明における「プラズマエッチング装置」、「Y_(2)O_(3)からなる」は、本願発明8における「プラズマ・エッチング反応器」、「本質的にイットリアからなる」に相当する。
また、引用刊行物1発明の「搬送口のライナー部材」は、プラズマエッチング反応器の「構成要素」であることは明らかである。

よって、両者は、
「プラズマ・エッチング反応器であって、
少なくとも1つの構成要素を備え、前記構成要素は、陽極酸化表面を有するアルミニウム材料のアルミニウム下地と、溶射被膜とを備え、
前記溶射被膜は、前記溶射被膜と前記下地の前記陽極酸化表面との間に他の材料の中間層が存在することなく前記陽極酸化表面の上に直接配置された本質的にイットリアからなるものであり、前記溶射被膜は、前記構成要素の最も外側の面を形成することを特徴とするプラズマ・エッチング反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
陽極酸化表面が、本願発明8では、封止されているのに対し、引用刊行物1発明では、封止されているかどうか明らかでない点。

上記相違点について検討する。
陽極酸化被膜の封止とは、陽極酸化被膜の細孔表面を塞ぐ慣用の後処理方法であり、引用刊行物2、3にもあるように、プラズマエッチング装置のチャンバー壁等の構成要素においても行われるものである(上記「第2.3.(1)(イ)」、「第4」)。
よって、引用刊行物1発明において、陽極酸化表面の封止を行うことは、所望に応じ当業者が適宜なしえた事項にすぎない。

そして、本願発明8が、引用刊行物1乃至3に記載された事項からは予測し得ない格別な効果を奏するものとも認められない。

したがって、本願発明8は、引用刊行物1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願請求項8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-21 
結審通知日 2011-11-25 
審決日 2011-12-07 
出願番号 特願2004-517642(P2004-517642)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 川村 健一
川端 修
発明の名称 生産性を向上するプラズマ反応器用溶射イットリア含有被膜  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  

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