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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1255647
審判番号 不服2009-21604  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-06 
確定日 2012-04-18 
事件の表示 特願2005-123586「チアゾリジンジオンおよびスルホニル尿素を用いる糖尿病の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-247865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年 7月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年 7月18日(GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願の一部を、平成17年 4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成21年 6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月 6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成21年 3月 9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)またはその医薬上許容される誘導体と、最大量以下のグリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド、トラザミド、トルブタミドまたはレパグリニドから選択されるインスリン分泌促進薬とを含む、医薬組成物。」


3.引用例に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-67271号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項15】一般式

〔式中、R’はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。ただし、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はベンゾピラニル基でない。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせてなる医薬。 」(【特許請求の範囲】)

(イ)「2)インスリン感受性増強剤が一般式
【化8】

〔式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3) -(ただしR^(3) は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1) は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1) と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩である・・・」(【0004】)

(ウ)「【0005】本発明に用いられるインスリン感受性増強剤は、障害を受けているインスリン受容体機能を元に戻し、インスリン抵抗性を解除し、その結果インスリンの感受性を増強する薬剤の総称であって、その具体例としては、例えば前記した一般式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩が挙げられる。」(【0005】)

(エ)「また、一般式(II)のR’は、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はベンゾピラニル基でないという点を除き、上記一般式(I)のRと同意義を有する。」(【0018】)

(オ)「一般式(II)で示される化合物は、・・・さらに好ましくはピオグリタゾンである。」(【0026】)

(カ)「【0028】一般式(I)または(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容し得る塩は、例えば特開昭55-22636(EP-A 8203)、特開昭60-208980(EP-A 155845)、特開昭61-286376(EP-A208420)、特開昭61-85372(EP-A 177353)、特開昭61-267580(EP-A 193256)、特開平5-86057(WO 92/18501)、特開平7-82269(EP-A 605228)、特開平7-101945(EP-A 612743)、EP-A-643050、EP-A-710659等に記載の方法あるいはそれに準ずる方法により製造することができる。」(【0028】)

(キ)「【0029】本発明に用いられるインスリン感受性増強剤としては、上記した以外に、さらに例えば・・・5-〔〔4-〔2-(メチル-2-ピリジニルアミノ)エトキシ〕フェニル〕-メチル〕-2,4-チアゾリンジオン (BRL-49653)なども挙げられる。」(【0029】)

(ク)「本発明において、一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と組み合わせて用いられる薬剤としては、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤が挙げられる。インスリン分泌促進剤は、膵B細胞からのインスリン分泌促進作用を有する薬剤である。該インスリン分泌促進剤としては、例えばスルフォニル尿素剤(SU剤)が挙げられる。該スルフォニル尿素剤(SU剤)は、細胞膜のSU剤受容体を介してインスリン分泌シグナルを伝達し、膵B細胞からのインスリン分泌を促進する薬剤である。SU剤の具体例としては、例えばトルブタミド;クロルプロパミド;トラザミド;アセトヘキサミド;4-クロロ-N-〔(1-ピロリジニルアミノ)カルボニル〕-ベンゼンスルフォンアミド (一般名:グリクロピラミド)およびそのアンモニウム塩;グリベンクラミド(グリブリド);グリクラジド;1-ブチル-3-メタニリルウレア;カルブタミド;グリボルヌリド;グリピジド;グリキドン;グリソキセピド;グリブチアゾール;グリブゾール;グリヘキサミド;グリミジン;グリピナミド;フェンブタミド;およびトルシクラミドなどが挙げられる。その他、インスリン分泌促進剤としては、例えばN-〔〔4-(1-メチルエチル)シクロヘキシル〕カルボニル〕-D-フェニルアラニン (AY-4166);(2S)-2-ベンジル-3-(シス-ヘキサヒドロ-2-イソインドリニルカルボニル)プロピオン酸カルシウム 2水和物(KAD-1229);およびグリメピリド(Hoe490)等が挙げられる。インスリン分泌促進剤は、特に好ましくはグリベンクラミドである。」(【0033】)

(ケ)「・・・一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩とインスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせなる医薬は、これらの有効成分を別々にあるいは同時に、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、医薬組成物として経口または非経口的に投与することができる。・・・」(【0035】)

(コ)「【0039】・・・本発明の医薬の投与量は、個々の薬剤の投与量に準ずればよく、投与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。例えばインスリン感受性増強剤は、成人1人当たり経口投与の場合、臨床用量である0.01?10mg/kg体重(好ましくは0.05?10mg/kg体重、さらに好ましくは0.05?5mg/kg体重)、非経口的に投与する場合は0.005?10mg/kg体重(好ましくは0.01?10mg/kg体重、さらに好ましくは0.01?1mg/kg体重)の範囲で選択でき、それらと組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することができる。・・・
【0040】本発明の医薬において、薬剤の配合比は、投与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。・・・また、例えばヒトに対し、一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容し得る塩とインスリン分泌促進剤であるグリベンクラミドとを組み合わせて用いる場合、該化合物またはその薬理学的に許容し得る塩1重量部に対し、グリベンクラミドを通常0.002?5重量部程度、好ましくは0.025?0.5重量部程度用いればよい。本発明の医薬は、各薬剤の単独投与に比べて著しい増強効果を有する。例えば、遺伝性肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおいて、2種の薬剤をそれぞれ単独投与した場合に比較し、これらを併用投与すると高血糖あるいは耐糖能低下の著明な改善がみられた。したがって、本発明の医薬は、薬剤の単独投与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ、糖尿病性合併症の予防あるいは治療に適用しうる。また、本発明の医薬は、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、少量を使用することにより十分な効果が得られることから、薬剤の有する副作用(例、下痢等の消化器障害など)を軽減することができる。」(【0039】?【0040】)

(サ)「【0044】実験例2
遺伝性肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおける塩酸ピオグリタゾンとインスリン分泌促進剤との併用効果
各群5匹からなる13?14週齢の雄性ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットを4群に分け、塩酸ピオグリタゾン(3mg/kg/日、経口投与)あるいはインスリン分泌促進剤、グリベンクラミド(3mg/kg/日、経口投与)をそれぞれ単独あるいは併用して7日間投与した後、一晩絶食し、経口ブドウ糖負荷試験(2g/kg/5mlのブドウ糖を経口投与)を行った。ブドウ糖負荷前および120,240分後にラットの尾静脈から血液を採取し、血漿グルコースを酵素法(アンコール ケミカルシステム ベーカー社)によって測定した。その結果を、各群(N=5)の平均±標準偏差で表わし、ダンネット試験(Dunnett's test)で比較検定して〔表2〕に示した。
【表2】


〔表2〕から明らかなように、ブドウ糖負荷後の血糖値の上昇は、ピオグリタゾンまたはグリベンクラミドの単独投与よりも、併用投与により著しく抑制された。
【0045】
【発明の効果】本発明の医薬は、糖尿病時の高血糖に対して優れた低下作用を発揮し、糖尿病の予防及び治療に有効である。また、該医薬は高血糖に起因する神経障害,腎症,網膜症,大血管障害,骨減少症などの糖尿病性合併症の予防及び治療にも有効である。さらに、症状に応じて各薬剤の種類、投与法、投与量などを適宜選択すれば、長期間投与しても安定した血糖低下作用が期待され、副作用の発現も極めて少ない。」(【0044】?【0045】)

(2)引用例1の記載事項(ア)、(ケ)及び(コ)によれば、引用例1には、一般式(II)で示される化合物とインスリン分泌促進剤とを組み合わせてなる医薬が記載され、引用例1の記載事項(オ)、(ク)及び(サ)によれば、一般式(II)で示される化合物の例であるピオグリタゾンと、インスリン分泌促進剤の例であるグリベンクラミドを組み合わせてなる場合の上記医薬について、その薬理効果が実施例中の薬理試験結果によって明らかにされている。また、引用例1の記載事項(イ)及び(ウ)によれば、一般式(I)で示される化合物は、引用例1に記載のインスリン感受性増強剤であるとされており、引用例1の記載事項(エ)によれば、一般式(II)で示される化合物は一般式(I)で示される化合物の一部を除いた化合物であるから、一般式(II)で示される化合物も、引用例1に記載のインスリン感受性増強剤であるといえる。そして、引用例1の記載事項(カ)によれば、一般式(I)または(II)で示される化合物は、引用例1が頒布される前に頒布された多数の文献に記載される方法により製造することができるものといえる。
そうすると、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ピオグリタゾンなどのインスリン感受性増強剤である一般式(II)で示される化合物と、グリベンクラミドなどのインスリン分泌促進剤とを含む、医薬組成物。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、本願明細書の記載、例えば、「適当なチアゾリジンジオンインスリン感作物質は化合物(I)である。」(本願明細書【0010】)によれば、本願発明にいう「5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)」は、インスリン感作物質とされているものであり、「インスリン感作物質」は、引用発明にいう「インスリン感受性増強剤」と同義の文言であると認められる。また、本願発明にいう「インスリン分泌促進薬」が引用発明にいう「インスリン分泌促進剤」と同義の文言であることは明らかである。
そうすると、両者は、
インスリン感受性増強剤と、グリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬とを含む、医薬組成物、
である点で一致し、以下の点で相違する。
・該インスリン感受性増強剤として、本願発明では、2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)を使用しているのに対し、引用発明では、ピオグリタゾンなどの一般式(II)で示される化合物を使用している点(以下「相違点1」という。)。
・グリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬の含有量が、本願発明では、「最大量以下」の範囲とされているのに対し、引用発明では、格別の範囲の設定はなされていない点(以下「相違点2」という。)。


5.当審の判断
上記相違点について検討する。
1)相違点1について
引用例1の記載事項(キ)によれば、引用発明に用いられるインスリン感受性増強剤として、「5-〔〔4-〔2-(メチル-2-ピリジニルアミノ)エトキシ〕フェニル〕-メチル〕-2,4-チアゾリンジオン (BRL-49653)」が記載されており、このものは、表記上若干異なるものの、本願発明にいう「5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)」と同義であると認められる。また、一般に、医薬組成物の技術分野において、有効成分の含有量を適切な範囲に設定することは、当業者が当然に行うことであり、引用例1の記載事項(コ)によれば、引用発明に用いられるインスリン感受性増強剤においても、その配合量は適宜選択することができるとされているから、上記BRL-49653の含有量についても、適切な範囲を検討し、その結果、その含有量を2ないし8mgと設定することは、当業者が実験的に適宜なし得ることというほかはない。
そうすると、引用例1に接した当業者が、引用発明に用いられるインスリン感受性増強剤である一般式(II)で示される化合物として、2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)を使用することに、格別の創意を要したものとはいえない。

2)相違点2について
一般に、医薬を投与する場合、その投与量は、投与できる限度より少なくて済むのであれば、その方が副作用のリスクを低減できるなどの点で好ましく、このことは、当業者の間で古くから知られていることであり、グリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬もその例外ではない。また、引用例1の記載事項(コ)によれば、引用発明に用いられるグリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬においても、その配合量は適宜選択することができるとされている。そうすると、引用発明に用いられるグリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬の含有量を、投与できる限度以下、すなわち本願発明にいう「最大量以下」の範囲とすることも、当業者が適宜なし得たことというほかはない。

また、本願明細書の記載を検討しても、本願発明が引用例1の記載から予測し得ないほど優れた効果を奏し得たものと認めることができない。

なお、本願発明の効果の点に関し、審判請求人は、平成21年 4月28日に提出された上申書において、以下の主張をする。
「しかし、本願発明は、段落番号[0006]に示されるように、十分な量のインスリン感作物質(すなわち、化合物(I))の存在下で、少量(すなわち、最大下量)のインスリン分泌促進薬を使用することで、低血糖発作の可能性、その頻度および/または重度が軽減するという効果を見いだしたものです。この臨床効果は、インスリン分泌促進薬とインスリン感作物質との作用機序に基づいて考え得る効果とは、逆の効果です。
というのも、インスリン感作物質と、体内のインスリンの量を増加させる物質とを含む組成物は低血糖発作の頻度を増加させる、と考えられます。インスリン感作物質、例えばチアゾリジンジオンとは、インスリンに対して身体を感受性とする物質であり、インスリンが血糖降下作用を有する物質であることを鑑みれば、膵臓を締め付けてインスリンの放出を亢進する物質、すなわち、インスリン分泌促進薬と組み合わせることで、低血糖発作の頻度が増大すると考えるのが自然です。
それにも拘わらず、本願発明のように、2ないし8mgの化合物I(インスリン感作物質)と、最大量下のインスリン分泌促進薬を組み合わせると、逆の作用が得られるものであり、これは全く予想できない効果です。」

しかしながら、引用例1の記載事項(コ)によれば、引用例1に記載の医薬は、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、少量を使用することにより十分な効果が得られることから、薬剤の有する副作用を軽減することができる、とされているのであるから、5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)とグリベンクラミドなどのインスリン分泌促進薬を併用した場合でも、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、少量を使用することにより十分な効果が得られ、各薬剤の有する副作用を軽減することができることが、引用例1には示唆されているということができる。そうすると、審判請求人が指摘する上記「十分な量のインスリン感作物質(すなわち、化合物(I))の存在下で、少量(すなわち、最大下量)のインスリン分泌促進薬を使用することで、低血糖発作の可能性、その頻度および/または重度が軽減する」という効果は、引用例1の記載から当業者が予測し得たものというべきであり、審判請求人の上記主張は独自の見解に基づくものであって採用できない。

さらに、審判請求人は、本願発明の効果の点に関し、上記上申書において、以下の主張もする。
「(II)なお、ご参考までに、上述した本願発明の予期せぬ効果について申し述べます。
(イ)化合物(I)とスルホニル尿素とを併用することの効果
上述した効果を示す書面を参考資料1としてここに添付します。これは、3種のスルホニル尿素の一つを最大半値で服用している対象に、認証かつ市販されている形態の化合物(I)(ロシグリタゾンまたはそのマレイン酸塩)を投与する、臨床実験に関するものです。3種のスルホニル尿素として、実験145がグリクラジドであり、実験162がグリベンクラミドであり、そして実験135がグリピリドです。
該実験は化合物(I)と最大半値の3種のスルホニル尿素との組み合わせが、スルホニル尿素単独の場合と比べて、ヘモグロビンA(1C)および空腹時血漿グルコース濃度を減少させることを示します。その効果は(スルホニル尿素との比較)および(HbA1Cが7%未満の割合)から明らかであると考えます。この資料においても、
「初期の併用療法は優れた血糖コントロールをもたらし、単独療法を高用量で維持する前に該併用療法を考慮すべきである。」
と結論付けています。
(ロ)スルホニル尿素を最大量以下とすることの効果
上述した効果を示す書面を参考資料2として添付します。これは、Kerenyiらにより、2003 American Diabetes Association Meeting in Lousiania USAにアブストラクト番号1946にて提出されたもので、化合物(I)+7.5mgのグリベンクラミド(最大量下のスルホニル尿素)あるいは十分な量のグリベンクラミドのいずれかを患者が服用する26週間の臨床実験を報告するものです。化合物(I)と最大量下のスルホニル尿素の組み合わせが、最大日用量のスルホニル尿素よりも血糖症の改善に有意に効果があったと記載されています(段落番号[0016]に記載されるように、グリベンクラミドの最大日用量は15mgです)。加えて、スルホニル尿素の作用機序(インスリン産生の増加作用)の理由から、投与量の増加に伴い、低血糖発作の危険が増加するため、患者にはスルホニル尿素の濃度を増加させないという効果もあります。すなわち、化合物(I)と少量のスルホニル尿素の組み合わせはより優れた血糖コントロールを付与するものであり、糖尿病患者の第一治療として好ましいものです。
(ハ)化合物(I)を2mgないし8mgと限定することの効果
上述した効果を示す書面を参考資料3として添付します。
図1は、0.1mg、0.5mg、2mgまたは4mgの日用量で、化合物(I)の安全性、耐容性および効能を12日間にわたって評価した結果を示すものです。1.0mg(一日に2回)および2.0mg(一日に2回)処理群はプラセボに比べて、空腹時血漿グルコースにて統計学的に有意な減少のあることが分かります。1.0mg群では、プラセボ群に比べて12週で空腹時血漿グルコースが約20%減少しており、臨床的に有意であると考えられます。これらのデータは、少なくとも2mg日用量(1mgを一日に2回)を投与することで用量関連の空腹時血漿グルコース濃度の減少があることを示すもので、抗高血糖性作用の閾値が2mgであることが分かります。
次に、3種の用量(4mg、8mgおよび12mg)の化合物(I)を投与した場合の試験結果を図2に示します。
結果を、処理の8週間後に、4mg、8mgおよび12mgの群を、ベースラインおよびプラセボと比較した場合の、空腹時血漿グルコースの変化の平均値として示します。4mg、8mgおよび12mgの群にて、空腹時血漿グルコースの臨床的かつ統計学的に有意な減少がありました(処理して8週間後で、プラセボでは7.4mg/dLの増加が確認されたのに対して、4mg、8mgおよび12mgの群では、各々、15.8mg/dL、35.7mg/dLおよび30.2mg/dLの減少がありました)。4mgおよび8mgの化合物(I)での減少は統計学的に有意な用量依存応答を示しますが、12mgでは付加的な応答はありませんでした。
よって、図1および図2の化合物(I)の用量の臨界的意義を考えた場合、2mgないし8mgにて効果的な作用を有することが分かります。
また、図3および図4に示されるように、化合物(I)を12mgの日用量にて投与すると、プラセボと比較して、ヘモグロビンおよびヘマトクリック値にて統計学的に有意な減少が観察されました。これは日用量を8mgを越えてエスカレートさせた場合に、流体関連の副作用が増加する危険のあることを示すものです。図2の効果と異なり、8mgと12mgの用量で血液希釈についてその値が平坦(すなわち、勾配がない)でないことが分かります。これは用量依存的に血液希釈についての副作用が増大することを示すものであり、12mg投与することにメリットがないことを意味するものです。
まとめとして、化合物(I)を2ないし8mgの範囲で限定して投与することで、空腹時血漿グルコースの有意な減少が得られ、血液希釈の観点から有意な副作用もないことが分かります。」

しかしながら、引用例1の記載事項(コ)及び(サ)によれば、引用例1には、ピオグリタゾンとグリベンクラミドを組み合わせてラットに投与することにより、それらを各々単独で投与する場合に比較して、ブドウ糖負荷後の血漿グルコースの上昇を著しく抑制し得たことを示す薬理試験結果が記載され、また、先に説示したように、引用例1に記載の医薬は、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、少量を使用することにより十分な効果が得られることから、薬剤の有する副作用を軽減することができる、という知見も記載されている。さらには、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるDiabetic Medicine,(1996),Volume 13, Issue 4, Pages 295-392(以下「引用例2」という。)にも、インスリン感受性増強剤であるトログリタゾンと、インスリン分泌促進薬であるスルホニル尿素(グリベンクラミド又はグリクラジド)を併用した、2型糖尿病に対する治療は、スルホニル尿素単独の治療に比較して優れていることが、臨床試験により明らかにされた旨記載されている。このような引用例1及び2で示されたインスリン感受性増強剤とインスリン分泌促進薬の併用による効果についての試験結果及び知見からみて、審判請求人が示す上記(イ)及び(ロ)の効果は、当業者が引用例1及び2の記載から容易に予測し得た範囲内のものとするのが相当である。
また、審判請求人が示す(ハ)の効果と称する内容は、つまるところ、化合物(I)の投与量として適切な範囲、すなわち、用量に依存した有意な抗高血糖作用を示す範囲、が2ないし8mgであることを見いだした、というものであると認められるところ、いかなる医薬にも適切な投与量が存在することは自明のことであり、これを見いだして投与量として設定することは、当業者が当然に行うことである。してみると、上記(ハ)の内容をもって、本願発明に格別の効果があるとするのは、適切でない。
したがって、審判請求人の上記主張も採用できない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-17 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-05 
出願番号 特願2005-123586(P2005-123586)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 田名部 拓也
内藤 伸一
発明の名称 チアゾリジンジオンおよびスルホニル尿素を用いる糖尿病の治療  
代理人 元山 忠行  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  
代理人 水原 正弘  
代理人 田中 光雄  
代理人 西野 満  

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