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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1255931
審判番号 不服2010-15402  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-09 
確定日 2012-04-26 
事件の表示 特願2001-250477「ビデオカメラ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月28日出願公開、特開2003- 60957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
(1)手続の経緯
本件出願の手続の経緯は概要次のとおりである。

特許出願 :平成13年 8月21日
拒絶理由通知 :平成22年 1月22日(起案日)
意見書 :平成22年 3月23日
手続補正(明細書の補正) :平成22年 3月23日
拒絶査定 :平成22年 4月 5日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成22年 7月 9日
手続補正(明細書の補正) :平成22年 7月 9日
前置審査報告 :平成23年 1月12日(起案日)

(2)査定
原審での査定の理由は、概略、以下のとおりである。
本願の各請求項に係る発明(平成22年3月23日付け手続補正書による)は、下記刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開平11-098388号公報
刊行物2:麻倉怜二.XLの衝撃 キヤノンXL1.ビデオサロン,
1997-12-01,vol.34,no.6, p.40-50.
刊行物3:松岡則和.キヤノンXV1の全貌.ビデオサロン,
1999-09-01,vol.38, no.3, p.29-39.
刊行物4:富士写真光機営業部国内映像機器課.フジノンENGレンズア クセサリー.ビデオα.1993-09-01, Vol.9, No.9, p.59-65.
刊行物5:キヤノン販売映像機器営業部.キヤノンENGレンズアクセサ リー.ビデオα.1993-09-01, Vol.9, No.9, p.66-71.

2.平成22年7月9日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年7月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正
平成22年7月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含み、当該補正は、下記〈補正前の請求項1〉を下記〈補正後の請求項1〉(補正部分をアンダーラインで示す)に補正するものである。

〈補正前の請求項1〉
「被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部と、
前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部と
を有するビデオカメラにおいて、
前記ビデオカメラを持ち運ぶときユーザにより保持される取っ手と、
前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段と、
前記取っ手の前記レンズ部に近い位置にズーム状態をテレ状態にするテレスイッチが設けられるとともに、前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置にズーム状態をワイド状態にするワイドスイッチが設けられ、ズーム操作を行うとき前記テレスイッチと前記ワイドスイッチのいずれかが操作される第1の操作手段と
を備えるビデオカメラ。」

〈補正後の請求項1〉
「被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部と、
前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部と
を有するビデオカメラにおいて、
前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される取っ手と、
前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段と、
前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする第1の操作手段と、
前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に前記第1の操作手段とは別に設けられ、ズーム状態をワイド状態にする第2の操作手段と
を備え、
ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作される
ビデオカメラ。」

(2)補正の適法性
ア.補正の目的
上記請求項1についての補正は、その補正内容からみて、
a)補正前の請求項1でいう「取っ手」に関する補正と、
b)同じく補正前の請求項1でいう、「ズーム状態をテレ状態にするテレスイッチ」と「ズーム状態をワイド状態にするワイドスイッチ」(これらから成る第1の操作手段)に関する補正(以下「ズーム用スイッチに関する補正」ともいう)とに分けられるので、以下これらの各補正ごとに、その目的の適法性について検討する。

(ア)ズーム用スイッチに関する補正について
まず、上記ズーム用スイッチに関する補正についてみると、当該補正は、補正後の記載事項の文脈の違いを別にすれば、
i)上記テレスイッチ、ワイドスイッチをそれぞれ「第1の操作手段」,「第2の操作手段」とし、
ii)かつ「第2の操作手段」が「第1の操作手段とは別に設けられ」ている
とする補正を行うものである。
然るに、上記ii)の補正については、補正前の上記テレスイッチ、ワイドスイッチも、上記取っ手上の異なる位置(「レンズ部に近い位置」と「レンズ部から遠い位置」)に設けられ、「ズーム操作を行うとき」「いずれかが操作される」スイッチであるというのでから、両者は別個の操作手段であること、言い換えれば、上記ワイドスイッチはテレスイッチとは別に設けられた操作手段であることが明らかであり、このような別個の操作手段である点では補正後の上記第1,第2操作手段と同じである。
そうすると、結局、上記ズーム用スイッチに関する補正は、補正前の上記テレスイッチ、ワイドスイッチをそれぞれ第1の操作手段、第2の操作手段に補正したというに他ならないものであり、かかる補正は、補正前は「テレスイッチ」,「ワイドスイッチ」に特定されていたズーム用の操作手段を、これには限られない上位概念としての第1,第2操作手段とするものであるから、少なくとも特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるとはいえない。また、当該補正が明瞭でない記載の釈明や誤記の訂正を目的とする補正でもないことは明らかであり、むろん請求項の削除を目的とする補正でもない。
したがって、上記ズーム用スイッチに関する補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

なお、上記ズーム用スイッチに関する補正が、仮に特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であったとしても、補正後の上記請求項1に係る発明は、後述するように、独立して特許を受けることができないものである。

(イ)取っ手に関する補正について
上記取っ手に関する補正は、補正前の請求項1に記載された「前記ビデオカメラを持ち運ぶときユーザにより保持される取っ手」に、更にユーザにより「前記ビデオカメラを吊り下げるようにして」保持されるとの限定を加えるものであり、補正の前後において、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、同補正は、特許法第17条の2第4項第2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

イ.独立特許要件
そこで、上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項で規定する独立特許要件を満たすか否かについて検討する。

(ア)補正後発明
平成22年7月9日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「補正後発明」という)は、次のとおりのものである。

【請求項1】
被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部と、
前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部と
を有するビデオカメラにおいて、
前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される取っ手と、
前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段と、
前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする第1の操作手段と、
前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に前記第1の操作手段とは別に設けられ、ズーム状態をワイド状態にする第2の操作手段と
を備え、
ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作される
ビデオカメラ。

(イ)引用刊行物の記載
原査定の拒絶理由に引用された刊行物2(以下「引用刊行物」という)である「ビデオSALON」第34巻第6号(平成9年12月1日発行)の40頁?50頁には、「XLの衝撃」と題し、キャノン製のDVカメラXL1を紹介する記事が記載され、当該記事中には次の記載がある。

A)3CDDに強力なレンズを奢りDVの能力を最大限に引き出すマニア喝采のDVカメラ(第42頁左欄)

B)そんな期待に応えられるのが、まさに今回のXLレンズである。開発目標は「高解像度、色再現性、そして階調性・・・中間階調の微妙な領域も表現すること。」標準として付属するのが16×ズームXL5.5-88mmIS。35ミリ銀塩カメラ換算で39?624ミリの16倍ズームレンズだ。(第44頁3?9行)

C)XL1のデザインコンセプトは、「デュアル・グリップ」。肩の高さまで持ち上げ、肩当て式で扱う方法と、上部の堅牢なグリップハンドルを持ってローアングルで撮影する手法の二つが提案されている。(第46頁15?19行目)

D)ハンドルもローアングルで撮影しやすいように、録画ボタンはもちろん、テレ・ワイドのボタンも親指で操作できるように配置。(第47頁1?3行目)

E)ローアングルもやりやすい
グリップハンドルにREC、ズームレバー、フォトボタンが用意されている(必要ない時はボタンをロックできる)。ローアングル撮影の操作感もよい。ただしズームスピードは一種類のみ。(第50頁中段の囲み枠内の写真の説明)

F)また、46頁中段右の囲み枠内の「超高性能交換レンズシステム」と題された模式図には、中央に縦線があり、当該縦線より左に「レンズ」、右に「XL1本体」の標記があり、「レンズ」側には、ズームレンズ、アイリス、フォーカスレンズ、レンズマイコンが設けられていて、「XL1本体」側には、CCD、(CCDからの信号を処理する)カメラ信号処理(部)等が設けられていることが見て取れる。
そして、当該模式図の説明として「レンズ側にもマイコンやモーターを持ち、カメラ側と評価データをやりとりする。」との記載がある。

G)まとめ
上記の記載から、引用刊行物には、
「ズームレンズを含むレンズ部と、
CCDからの信号を処理するカメラ信号処理部を有するXL1本体と、
を有するDVカメラにおいて、
上部の堅牢なグリップハンドルを持ってローアングルで撮影するためのグリップハンドルと、
レンズ部に設けられたズームレンズと
グリップハンドルに設けられたズームレバーを備えた
DVカメラ。」
が記載されていると認めることができ、上記構成を有する「DVカメラ」を引用発明として認定できる。

(ウ)対比
以下、補正後発明を上記引用発明と対比する。
a)「被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部」について
引用発明における「DVカメラ」が、「デジタルビデオカメラ」の略称であることは、当業者であれば当たり前に理解できることである。
そして、引用発明の「ズームレンズを含むレンズ部」は、上記「DVカメラ」の(レンズ部を除いた部分である)「XL1本体」と一体となって、被写体を撮影していることは、当業者には明らかであるから、上記引用発明のレンズ部は「被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部」といいうることは当業者であれば普通に理解し得たことである。

b)「前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部」について
引用発明の「XL1本体」は、CCDからの信号を処理するカメラ信号処理部を有しているが、CCDからの信号は、被写体を撮像した電気信号であって、当該信号を処理するカメラ信号処理部は、「被写体の画像を処理する処理部」ということができ、「XL1本体」が当該処理部を有するということは、上記処理部を内蔵していることに他ならないから、引用発明は「前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部」を有しているということができる。

c)「ビデオカメラ」について
引用発明のDVカメラが「デジタルビデオカメラ」の略称であることは、上記a)にて検討したとおりであるから、補正後発明と引用発明とはビデオカメラである点で一致する。

d)「前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される取っ手」について
引用発明のグリップハンドルは、引用刊行物第50頁中段の囲み枠内の写真(下段)を参酌すると、当該写真は、ローアングルで撮影するときの実際にDVカメラを持って撮影している様子を表しているものと認めることができ、当該写真を見ると、ローアングルを撮影するため、グリップハンドルをを手で把持し、ビデオカメラは、上記グリップハンドルが把持されることにより、該グリップハンドルから下方につり下げられるよう保持されていることが見て取れる。そして、撮影者は、ローアングルの撮影を、上記DVカメラを持ち運びながら行うことは普通のことであるから、ローアングルの撮影時に、DVカメラを持ち運びながら撮影するためのグリップハンドルということができる。
してみると、上記グリップハンドルは、「DVカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記DVカメラを吊り下げるように保持する取っ手」ということができるから、「前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される取っ手」を有しているということができる。

e)「前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段」について
引用発明のレンズ部には、ズームレンズが設けられている。
ズーム機能を有するレンズは、通常、ズームレンズを移動させることにより、ズームのワイド側からテレ側の範囲で所望の拡大倍率が得られるようにするものであるから、引用発明が、ズームレンズを設けたレンズ部であるということは、当該ズームレンズを所望の拡大倍率が得られるように移動させる手段がレンズ部にあることは当たり前のことである。
そして、所望の拡大倍率を得るためには、撮影者が、ズーム操作を行い、その操作に基づき、ズームレンズを移動させることも極めて普通のことである。
以上のことから、引用発明は「前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段」を有しているということができる。

f)「前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする第1の操作手段と、
前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に前記第1の操作手段とは別に設けられ、ズーム状態をワイド状態にする第2の操作手段と
を備え、
ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作されるビデオカメラ」について
引用発明のDVカメラは、補正後発明の「取っ手」に相当するグリップハンドルに、「ズームレバー」が設けられている。「ズームレバー」とは、通常、操作者が撮影を行う際、ズーム操作を行うときに操作する操作手段であって、ズーム状態をテレ状態あるいはワイド状態のいずれかにするための操作手段であるから、引用発明の「グリップハンドルに設けられたズームレバーを備えたカメラ」は、「前記取っ手に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする、あるいは、ズーム状態をワイド状態にする操作手段を備え、ズーム操作を行うとき前記操作手段が操作されるビデオカメラ」ということができる点で、補正後発明と一致する。
もっとも、補正後発明は、「操作手段」の具体的な構成が、「前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする第1の操作手段と、
前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に前記第1の操作手段とは別に設けられ、ズーム状態をワイド状態にする第2の操作手段」であって、「ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作されるビデオカメラ」であるのに対し、
引用発明は、ズーム操作を行うときに操作する操作手段を有するものの、その操作手段がどのようなものであるか明らかでない点で相違する。

(エ)一致点、相違点
上記(ウ)での対比結果によれば、補正後発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

[一致点]
「被写体を撮像する撮影レンズであって、ズームレンズを含む撮影レンズを内蔵するレンズ部と、
前記被写体の画像を処理する処理部を内蔵する本体部と
を有するビデオカメラにおいて、
前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される取っ手と、
前記レンズ部に設けられ、ズーム操作時に、前記ズームレンズを移動する移動手段と、
前記取っ手に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする、あるいは、ズーム状態をワイド状態にする操作手段を備え、
ズーム操作を行うとき前記操作手段が操作されるビデオカメラ。

[相違点]
補正後発明は、「操作手段」の具体的な構成が、「前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ、ズーム状態をテレ状態にする第1の操作手段と、
前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に前記第1の操作手段とは別に設けられ、ズーム状態をワイド状態にする第2の操作手段」であって、「ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作されるビデオカメラ」であるのに対し、
引用発明は、ズーム操作を行うとき操作される、ズーム状態をテレ状態にする、あるいは、ズーム状態をワイド状態にする操作手段を有するものの、その操作手段がどのようなものであるか明らかでない点。

(オ)判断
上記相違点について検討するにあたり、その構成について詳細に検討すると、操作手段について
i)「(テレ状態にする)第1の操作手段」、「(ワイド状態にする)第2の操作手段」のように、二つの操作手段を別に設ける構成を採用したこと、
ii)「テレ状態にする(第1の)操作手段は、前記取っ手の前記レンズ部に近い位置に設けられ」、「ワイド状態にする(第2の)操作手段は、前記取っ手の前記レンズ部から遠い位置に設けられ」る構成を採用したこと、
の二つの構成により限定されていると捉えることができる。
そこで以下では、上記i)の構成を採用したことに係る相違点(相違点i)という))と、上記ii)の構成を採用したことに係る相違点(相違点ii)という)に分けて検討する。

a.相違点i)について
上記相違点i)は、要は、上記取っ手に設けるズーム操作手段を、補正後発明のように、テレ操作とワイド操作とをそれぞれ独立の操作手段(第1の操作手段と第2の操作手段)で行うタイプ(以下「独立操作形」ともいう)のものとするか、引用発明のように、テレ操作とワイド操作とをそれらの各操作部を有する共通のズームレバーによって選択的に行うタイプ(以下「共通操作形」ともいう)のものとするかの違いといえるが、これら各タイプの操作手段は、いずれも、ビデオカメラのハンドグリップに設けるズーム操作手段として普通に用いられているものであるから〔必要があれば、例えば実願昭58-68938号(実開昭59-176021号)のマイクロフィルムの第1頁下から3行目?第2頁13行目の記載(ビデオカメラのハンドグリップに設けられる一般的なズーム用押釦についての記載)等参照〕、いずれを用いるかは当業者が設計上適宜選択し得たというべき事項である。
また、上記相違点i)において補正後発明のズーム操作手段が「ズーム操作を行うとき前記第1の操作手段と前記第2の操作手段のいずれかが操作される」ものである点は、上記独立操作形のズーム操作手段の採用に伴った当然の事項にすぎない。
よって、上記相違点i)は当業者が容易に想到し得たというべき事項である。
なお、上記相違点i)につき、本件審判の請求理由では、引用発明に対する補正後発明の利点について、第1,第2の操作手段が一体となった引用刊行物記載のズームレバーでは、ユーザがビデオカメラ(その取っ手)を保持しながらズーム操作する場合、第1,第2の操作手段が一体であるため、誤ったズーム操作をしてしまう場合があるが、補正後発明では、第1,第2の操作手段がそれぞれ別の位置に設けられているので、ローアングルで(上記取っ手を保持しながら)撮影するときに、ビデオカメラの使用に慣れていないユーザでも操作を間違えることなく、より簡単かつ確実にズーム操作を実行することができる旨主張しているが、そのような利点は、上記ハンドグリップに設けられる周知の独立操作形のズーム操作手段が本来有している利点、すなわちテレ/ワイド操作用の各操作手段が分離独立しているので、ハンドグリップを握りながらズーム操作する際、操作する指の感触で各操作手段を区別し易いという利点であって、補正後発明独自の格別の利点とは認められない。

b.相違点ii)について
上記相違点ii)に係る補正後発明の特定事項は、基本的に、上記第1,第2の各操作手段をそれぞれ上記取っ手上の「レンズ部に近い位置」と「レンズ部から遠い位置」に設けるというものであるが、この点は、明細書及び図面の記載に照らすと、上記取っ手が図2に示されるような取っ手、すなわち、前方にレンズ部を有するビデオカメラ(その本体部上面)の前後方向に渡って取り付けられた前後方向に長い取っ手であることを前提とするものであり、そうすると、補正後発明での上記第1,第2の各操作手段の配置位置は、これら各操作手段を取っ手上でビデオカメラの前後方向、すなわち上記取っ手の長手方向に並べて配置したというものである。
然るに、引用発明のビデオカメラにおける上記ズーム操作手段(共通操作形)が設けられるハンドグリップも、補正後発明が前提とする上記取っ手と同様、“ビデオカメラの前後方向に渡って取り付けられた前後方向に長い取っ手”といえるものであることは、引用刊行物に掲載される上記ビデオカメラの全体写真(第43頁等)から明らかである。
そこで、そのような取っ手(ハンドグリップ)に、ズーム操作手段として上記第1,第2の各操作手段(独立操作形の操作手段)を設ける場合の配置について考えると、これら各操作手段を、補正後発明のように、ビデオカメラの前後方向に長い取っ手の長手方向に並べて配置する(レンズ部に近い位置とレンズ部から遠い位置に配置する)ことは、取っ手上の配置スペース等を考慮すると最も普通に考えられる配置態様というべきものであり、そのような配置態様が当業者に想到容易ではない格別のものであるとは認められない。
次に、上記相違点ii)に係る補正後発明の特定事項では、上記第1,第2の各操作手段を取っ手上で上記のように並べて配置する上で、レンズ部に近い位置には第1の操作手段(テレ操作用の操作手段)を、レンズ部から遠い位置には第2の操作手段(ワイド操作用の操作手段)を設ける点を特定しているので、この点について検討すると、一般に、ビデオカメラのテレ/ワイド操作用の各操作部の配置態様として、テレ操作用の操作部をレンズ部に近い位置に、ワイド操作用の操作部をレンズ部から遠い位置に配置することは、例えば原査定の理由で引用する「ビデオSALON」3月増刊号、1996.3.30(42頁、49頁のビデオカメラの写真)、「放送技術」vol.43,no.8、1990.8.1(719頁の図4とその説明)等にも示されるように通常の配置態様であって、上記取っ手上にテレ/ワイド操作用の各操作手段を設ける場合にも、適宜そのような配置態様を採り得ることは明らかで、特にそのようにすることで補正後発明が格別の技術的効果を得ているとも認められない。(そのような技術的効果については、明細書に何等記載がなく、請求理由でも主張がない。)
なお、上記第1の操作手段の配置位置として補正後発明でいう上記「レンズ部に近い位置」とは、明細書(段落【0029】)の記載に照らすと、ユーザが取っ手を手に持った状態で、親指だけで操作できるような位置を意味するようにも解されるが、たとえそうであるとしても、そのような配置位置とすることは、引用刊行物における上記グリップハンドルについての「テレ・ワイドのボタンも親指で操作できるように配置。」との記載〔前記2.(2)イ.(イ)D)〕により示されている事項にすぎない。
よって、上記相違点ii)は当業者が容易に想到し得たというべき事項である。

(カ)まとめ
以上のように、上記相違点i),ii)は、いずれも当業者が容易に想到し得たというべきものであり、また、補正後発明をその技術的効果を含め全体としてみても、発明として格別のものがあるとは認められない。
したがって、補正後発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、前記補正後の請求項1の記載事項により特定される発明は独立特許要件を満たさないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

(3)むすび (補正却下の決定)
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定および同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成22年7月9日付けの手続補正は上記のとおり却下したので、本件出願に係る発明は、平成22年3月23日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1から請求項12までの各請求項に係る発明であるところ、請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明」ともいう)は、前記2.(1)で示した〈補正前の請求項1〉の記載事項により特定されるものである。

(2)引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された「ビデオSALON」第34巻第6号、平成9年12月1日発行〔前記2.(2)イ.(イ)での引用刊行物に同じ。以下「引用刊行物」という。〕には、前記2.(2)イ.(イ)に示したとおりの記載があり、上記2.(2)イ.(イ)G)の「引用発明」を認定することができる。

(3)対比・判断
本願発明は、前記補正後の発明〔前記記2.(1)に示した〈補正後の請求項1〉に係る発明〕との対応でみると、前記2.(2)ア.での認定から明らかなように、
a)補正後発明における、第1の操作手段,第2の操作手段(ズーム状態をテレ状態/ワイド状態にする各操作手段)をそれぞれ「テレスイッチ」、「ワイドスイッチ」とし、
b)上記補正後発明における取っ手について、当該取っ手が「前記ビデオカメラを持ち運ぶとき、ユーザにより前記ビデオカメラを吊り下げるようにして保持される」ものであるとの特定事項から「前記ビデオカメラを吊り下げるようにして」との限定を省いた
ものであって、その余の点では上記補正後発明と同じである。
然るに、上記a)の点は、上記引用刊行物には記載がないから、当該引用刊行物から認定できる引用発明との相違点となるものであるが、上記b)の点については、上記限定を省いたことによって上記刊行物の記載との相違が生ずるものではない。
そうすると、本願発明は、上記引用発明との対比において、上記補正後発明と引用発明との相違点として先に認定した相違点i),ii)〔前記2.(2)イ.(エ)参照〕に加え、上記第1,第2の各操作手段がそれぞれ「テレスイッチ」,「ワイドスイッチ」である点で相違する(以下この点を「相違点iii)」という)だけで、その他の点では格別の相違はないものと認められる。
ここで、上記相違点i),ii)に係る事項が当業者に想到容易というべき事項であることは先に認定したとおりであり〔前記2.(2)イ.(オ)参照〕、また、上記相違点iii)について、一般にテレ/ワイドの各操作手段として本願発明でいうような「テレスイッチ」,「ワイドスイッチ」(テレ/ワイド方向へのズームモータ駆動用のオン、オフスイッチ)は周知のもので〔例えば先に引用した実願昭58-68938号(実開昭59-176021号)のマイクロフィルムの第2頁3?13行目等参照旨〕、その使用は当業者が適宜なし得たというべきことであるから、上記相違点iii)において本願発明が当業者に想到容易ではない格別のものであるとは認められない。
よって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願の他の請求項2から12に係る各発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-29 
結審通知日 2012-03-01 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2001-250477(P2001-250477)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 572- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 健一  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 乾 雅浩
梅本 達雄
発明の名称 ビデオカメラ  
代理人 稲本 義雄  

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