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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800196 審決 特許
無効200580069 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効2009800029 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1256027
審判番号 無効2008-800285  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-15 
確定日 2009-11-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3835698号発明「経口投与用吸着剤、並びに腎疾患治療又は予防剤、及び肝疾患治療又は予防剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3835698号に係る出願は、平成15年10月31日(パリ条約による優先権主張、平成14年11月1日)を国際出願日とする出願であって、平成16年9月13日付けで補正がなされ、拒絶理由の通知に応答して平成17年2月7日付けで補正がなされ、再度の拒絶理由が通知され、平成17年9月22日付けで拒絶査定がなされたが、平成17年10月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成17年11月28日付けで補正がなされ、拒絶理由の通知に応答して平成18年5月15日付けで補正がなされ、再度の拒絶理由の通知に応答して平成18年6月16日付けで補正がなされたものであり、平成18年8月4日に特許権の設定登録がされた。
そして、請求人・マイラン製薬株式会社により平成20年12月15日に本件特許の請求項1?7に係る発明に対して無効の審判が請求され、それに対し、被請求人・株式会社クレハにより平成21年3月9日付けの答弁書が提出された。次いで前記請求人により平成21年5月25日に弁駁書が提出されたが、その第28頁6?23行に記載された事項による請求の理由の補正は特許法第131条の2第2項の規定に基づき許可しないとの補正許否の決定(平成21年8月7日付け)がなされた。その後、被請求人により平成21年8月24日付けで「審判事件第2答弁書」と題する書類が提出された。

2.本件特許発明
本件特許第3835698号の請求項1?7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。ここで、請求項1?7に係る発明を、順に「本件発明1」?「本件発明7」とも言い、また、それらをまとめて単に「本件発明」とも言うことがある。
「【請求項1】
フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0.01?1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり、そして細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが、但し、式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、
ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。
【請求項2】
全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項3】
非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる、請求項1又は2に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】
フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0.01?1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり、全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり、そして細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが、但し、式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く、
ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。
【請求項5】
非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上のフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる、請求項4に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする、腎疾患治療又は予防剤。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする、肝疾患治療又は予防剤。」

3.請求人の主張
これに対して請求人は、「特許第3835698号発明の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との審判を請求し、次の無効理由1?10を主張している。
『無効理由1: 本件特許の請求項1?3、6及び7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に基づき特許を受けることができないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由2: 本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証並びに甲第2、3及び5号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由3: 本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることが出来ないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由4: 本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第2号証並びに甲第1、3及び5号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由5: 本件特許の請求項1、2、4、6及び7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることが出来ないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由6: 本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第3号証並びに甲第1、2、5及び6号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由7: 本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることが出来ないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由8: 本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第4号証並びに甲第1?3、5及び6号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、従って、前記請求項に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由9: 本件明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1?7に係る発明における「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」及び「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないので、その記載は特許法第36条第4項第1号に違反し、よって、本件特許は、同法第123条第1項第4号の規定に基づき無効とされるべきものである。
無効理由10: 本件請求項1?7に係る発明は、「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」及び「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないので、その記載は特許法第36条第6項第1号に違反し、よって、本件特許は、同法第123条第1項第4号の規定に基づき無効とされるべきものである。』
そして、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第10号証を提出している。更に、平成21年5月25日付け弁駁書では、下記甲第11号証を追加提出している。


甲第1号証: 特開昭64-56141号公報
甲第2号証: 特開平11-49503号公報
甲第3号証: 特開2002-308785号公報
甲第4号証: 特開昭54-89010号公報
甲第5号証: 特公昭61-1366号公報
甲第6号証: 特開平8-208491号公報
甲第7号証: 「測定分析結果報告書」,株式会社島津テクノリサーチ
甲第8号証: Interceram, Vol.41,No.7/8, 461, 462, 464-467, 1992
甲第9号証: 無効2008-800042号審決、平成20年9月2日
甲第10号証: 特許第3672200号公報
甲第11号証: 特開昭56-28766号公報

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
そして、審判請求人の無効理由1?10は、いずれも全く根拠のないものである旨を主張し、証拠方法として、下記の乙第1号証?乙第5号証を提出している。


乙第1号証: 特公昭62-11611号公報
乙第2号証: 炭素材料学会カーボン用語事典編集委員会編、「カーボン
用語事典」、アグネ承風社、2000年10月5日、p63-
64
乙第3号証: 柳井弘編著、石崎信夫著、「活性炭読本-第2版-」、
日刊工業新聞社、1999年11月5日、p44-45
乙第4号証: 真田雄三、鈴木基之、藤元薫編、「新版 活性炭 基礎と
応用」、株式会社講談社、2007年8月10日、p4-7
乙第5号証: 笠岡成光、他3名「フェノール樹脂繊維を原料とする繊維
状活性炭の製造と分子ふるい特性」、日本化学会誌、1987
年、第6号、p990-1000

5.甲各号証、乙各号証の記載事項
甲第1号証?甲第11号証及び乙第1号証?乙第5号証には、それぞれ次のような記載がある。なお、下線については、原文にあるものの他は当審で付与したものである。

甲第1号証
(1-i)「(1) 活性炭にMgO-TiO_(2)複合物を添着してなる吸着剤。
(2) 活性炭は球状活性炭である特許請求の範囲第1項記載の吸着剤。
(3) MgO-TiO_(2)複合物のMgO/TiO_(2)比は換算モル比で99.99/0.01乃至80/20である特許請求の範囲第1項記載の吸着剤。
(4) MgO-TiO_(2)複合物を活性炭に1重量%乃至10重量%添着してなる特許請求の範囲第1項記載の吸着剤。
(5) 球状活性炭は平均粒径0.1乃至1mm、比表面積500乃至2000m^(2)/g、半径100乃至75,000Åの細孔容積0.1乃至1.0cm^(3)/gの特性を有する特許請求の範囲第2項記載の吸着剤。」(特許請求の範囲参照)
(1-ii)「[発明の技術分野]
本発明は、石油系又は石炭系ピッチ、有機合成高分子類等から得られる球状あるいは粒状活性炭若しくはやし殻炭、造粒炭等の活性炭に、MgO-TiO_(2)複合物を添着(担持)してなる吸着剤に係る。」(第1頁右欄3?8行参照)
(1-iii)「[発明の技術的背景]
腎臓や肝臓に機能障害をもつ患者では、代謝老廃物等の体外排泄能が不十分となり、これ等の物質が体内に蓄積され、結果として種々の生理的障害を生じている。従って、これ等の機能障害者の病態改善には、一般に代謝老廃物等を生体から取り除くことが行なわれている。」(第1頁右下欄9?15行参照)
(1-iv)「[発明の目的]
本発明者等は、前記実情に鑑み、活性炭の吸着性能を損なうことなく、しかもリンの吸着特性に優れる新規な吸着剤の提供を目的とし鋭意検討した結果、活性炭表面にMgO-TiO_(2)複合物が添着又は担持された吸着剤が極めて合目的であることを見い出し、本発明の完成に至った。
[発明の構成及び効果]
上記知見に基づく本発明は、活性炭にMgO-TiO_(2)複合物を添着又は担持してなる吸着剤(以下本発明の吸着剤と称する)に係る。
本発明者等は、MgO-TiO_(2)複合物がリンに対して選択的な吸着特性を有することから、該複合物を抗高リン血症剤として同日出願している。本発明は前記同日出願の吸着剤を更に発展せしめたものである。即ち、本発明の吸着剤は活性炭の有する有機物除去能を保持し、しかもリン除去能を有するものである。従って、本発明の吸着剤は血液潅流用として、あるいは経口的腎疾患治療剤として極めて有効である。」(第2頁左上欄13行?同頁右上欄15行参照)
(1-v)「本発明に係る活性炭は、ヤシ殻炭あるいは粉末炭をバインダーで固めた造粒炭、あるいはピッチ類及び/又は有機合成高分子類から作られる球状活性炭等を使用し得る。
球状活性炭は、例えば、特公昭50-18879号、特開昭56-69214号、特開昭54-105897号に開示されている製造法によって生成し得る。また、原料の有機合成高分子類としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂の如き熱硬化性樹脂、またはスチレン樹脂、塩化ビニリデン樹脂及びこれらの共重合樹脂の如き熱可塑性樹脂が使用し得る。
本発明に使用する活性炭は、耐久性、保形性の面から形状は球状であり、平均粒径0.1?1mm、比表面積500?2,000m^(2)/g、半径100?75,000Åの細孔容積0.1?1.0cm^(2)/gの特性を有する球状活性炭が好ましい。
本発明における活性炭に添着もしくは担持されているMgO-TiO_(2)複合物は、リン吸着性能の点で下記特性を有するものが好ましい。」(第2頁左下欄1行?同頁右下欄2行参照)
(1-vi)「本発明の吸着剤はMgO-TiO_(2)複合物が1?10重量%添着していることが好ましい。添着量が1重量%以下ではリンに対する吸着量の効果は小さく、また10重量%以上では添着量の増加に伴なうリン吸着量の大幅な向上はない。」(第3頁左上欄2?7行参照)
(1-vii)「本発明の吸着剤は、リン酸イオン等のリン成分を吸着する優れた能力を有しているとともに、活性炭の吸着特性、例えばクレアチニン等の有機物の除去能力を併せ有するものである。即ち、リン成分の吸着により高リン血症の治療に有用であるとともに、クレアチニン等の尿毒症性代謝物を吸着除去する能力を有するため、血液潅流用吸着剤としても有用なものである。」(第3頁右上欄16行?同頁左下欄6行参照)
(1-viii)「活性炭製造例
石油熱分解によって得られるピッチ(軟化点195℃、H/C元素比0.6)300gおよびナフタレン100gを攪拌機付オートクレーブに仕込み、180℃で溶解混合し、ゴーセノールGH-17 0.5%水溶液1200gを加え、次いで130℃で30分間激しく撹拌した後、撹拌下室温まで冷却した。生成した球形粒子を脱水後抽出器に入れ、ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去した後、通風乾燥した。次いで流動床を用いて、加熱空気を流通して25℃/hrで300℃まで昇温し、不融性ピッチ球状体を得た。次いで該不融性ピッチ球状体を、流動床を用いて水蒸気中で900℃まで昇温し、さらに900℃で2時間保持することによって、平均粒径0.4mm、比表面積(メタノール吸着法)1,200m^(2)/g、累積細孔容積(水銀圧入法)0.3cm^(3)/gの球状活性炭を得た。」(第4頁左上欄2行?同頁右上欄1行参照)
(1-ix)「実施例1
撹拌した水中にチタンテトライソプロポキシド[(CH_(3))_(2)CHO]_(4)Ti0.22gを加え、生成した沈澱をろ別し、十分に水洗した後、水2mlに分散し、硝酸(61重量%)0.52gを加えて溶解した。次いでこの溶液に、硝酸マグネシウムMg(NO_(3))_(2)・6H_(2)O20gを水9mlに溶かした溶液を加えて、マグネシウム/チタン混合溶液を作製した。
活性炭製造例で生成した球状活性炭10gを前記混合溶液に加え、50℃で2時間撹拌した。
球状活性炭をろ別し、80℃で4時間乾燥した後、20%アンモニア水50ml中に投入し6時間撹拌した。次いで球状活性炭をろ別し、十分水洗した後、窒素気流中200℃/hrで400℃まで昇温し、400℃で1時間保持した後、冷却し、MgO/TiO_(2)複合物を添着した吸着剤10.89g(添着量8.9%)を得た。」(第4頁右上欄2行?同頁左下欄2行参照)
(1-x)「実施例4
ヒト血清にNaH_(2)PO_(4)・2H_(2)0を加えてリン濃度10.1mg/dlに調整し、更にクレアチニンを加えてクレアチニン濃度9.8mg/dlに調整した。該血清10mlを各々共栓三角フラスコにとり、実施例1?3で得られた吸着剤及び活性炭製造例で生成した球状活性炭0.5gを加え、37℃で2時間振温した後、上澄血清を採取し、リン濃度はRaBA-MarkII(中外製薬)により、クレアチニン濃度はベックマンクレアチニン分析計(ベックマン製)により測定した。結果を第1表に示す。

」(第4頁右下欄8行?第5頁左上欄の表参照)

甲第2号証
(2-i)「【請求項1】比表面積700?1600m^(2)/g、細孔直径0.01?10μmの細孔容積が0.15cc/g以下、細孔直径10nm以下の細孔容積が0.20?1.20cc/gであり、かつ細孔直径10nm以下の細孔容積に占める細孔直径1nm以下の細孔容積の割合が78vol%以上であり、充填密度が0.55?0.80g/cc、破砕強度が40kg/cm^(2)以上である粒子直径150?2000μmの球状炭素材。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)
(2-ii)「【0001】
【発明の属する技術分野】液相系、及び気相系に於いて存在する特定の物質に対し、吸着及びまたは触媒作用を及ぼし、これら物質を除去または分解するのに適した、浄水器、超純水製造装置、空気清浄機、悪臭・有機溶剤等の分離・回収装置、特定物質の分離・精製装置、人工臓器等に於いて、また医薬品等ファインケミカル分野に於ける不純物除去、生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材、触媒、触媒担体として使用される炭素材及びその製造方法に関する。」(段落【0001】参照)
(2-iii)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしこれらヤシ殻、石炭、フェノール樹脂等を賦活して得た従来の炭素材は、ペレット状、または大きな固まりを破砕して得た不定形の破砕状であり、角が存在する形状である。これら炭素材を浄水器、超純水製造装置、空気清浄器内等に充填し低分子化合物除去用として用いると、浄水器、超純水製造装置、空気清浄器等の長期間断続使用時の圧力変化、塩素化合物、窒素酸化物、酸素等による酸化分解等の影響を受け、炭素材の機械的強度の低下が生じ、徐々に炭素材の角部分が劣化及び粉化し、これが炭素材の特性を司る微細孔を潰したり、後段にあるフィルターの目を閉塞すると言った問題があった。」(段落【0004】参照)
(2-iv)「【0010】また、従来より炭素材原料とし用いられるヤシ殻、石炭等の天然物は、その産出地によりアルカリ金属類、アルカリ土類金属類、重金属類等の含有量が大きく異る。このため、これら天然物を原料として製造した炭素材を浄水用吸着材、超純水製造用吸着材、医薬品等ファインケミカル分野に於ける不純物除去用吸着材、人工臓器用吸着材、生体内の特定物質除去用吸着剤、または特定物質の分離・精製用吸着材等として使用する際には、それらの金属類の溶出に充分注意を払わねばせねばならないため、その炭素材の洗浄に大きな労力を要するという問題があった。また石油系ピッチ、石炭系ピッチを原料とする炭素材もあるが、原料ピッチ中にはベンツピレンを始めとして数々の芳香族系発ガン物質が存在する可能性もあり、これらの溶出に対して注意を払わねばならないとの問題があった。
【0011】更に、浄水器、超純水製造用、空気清浄器用、悪臭・有機溶剤等の分離・回収装置用の吸着材として用いる際には、装置をよりコンパクトにするため、充填密度の高い炭素材が望まれていた。
【0012】本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明を完成したものであって、本発明の目的は液相系、及び気相系に於いて存在する特定成分に対し、吸着及びまたは触媒作用を及ぼし、浄水器、超純水製造装置、空気清浄機、悪臭・有機溶剤等の分離・回収装置、特定物質の分離・精製装置、人工臓器等に於いて、また医薬品等ファインケミカル分野に於ける不純物除去、生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材、触媒、触媒担体として使用される炭素材、及びその製造方法を提供することにある。特に浄水器用、超純水製造装置用、医薬品等ファインケミカル分野に於ける不純物除去用等として用いた場合に、低沸点有機塩素化合物、残留塩素等の除去性能に優れ、炭素材自体からの不純物溶出が少なく、カラム等に充填して使用する際の充填操作が容易で、かつ充填密度が高く、長期間使用しても圧力損失の上昇、粉化が生じにくい炭素材及びその製造方法を提供することにある。」(段落【0010】?【0012】参照)
(2-v)「【0015】
【課題を解決するための手段】上述の目的は、比表面積700?1600m^(2)/g、細孔直径0.01?10μmの細孔容積が0.15cc/g以下、細孔直径10nm以下の細孔容積が0.20?1.20cc/gであり、かつ細孔直径10nm以下の細孔容積に占める細孔直径1nm以下の細孔容積の割合が78vol%以上であり、充填密度が0.55?0.80g/cc、破砕強度が40Kg/cm^(2)以上であり、灰分量が0.5%以下の粒子直径150?2000μmの球状炭素材により達成される。」(段落【0015】参照)
(2-vi)「【0017】ここで球状樹脂とは、例えばアルデヒド類、フェノール類を主成分とする化学反応により製造し、球状となったフェノール樹脂等であり、微粉砕した樹脂の粉をバインダーと混合後、転動造粒法により機械的に団子状に造粒成形した球状の成形樹脂とは異なる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に記載する。本発明の球状炭素材を得るには、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を利用し得るが、例えば以下の製造方法で得たフェノール樹脂を出発原料とし得る。」(段落【0017】?【0018】参照)
(2-vii)「【0030】本発明の炭素材の細孔直径0.01?10μmの細孔容積は0.15cc/g以下、好ましくは0.12cc/g、最も好ましくは0.1cc/g以下である。細孔直径0.01?10μmの細孔容積が0.15cc/gより大きいと低沸点有機塩素化合物等以外の、より分子量の大きい物質も吸着するため、系内に極低濃度存在する低沸点有機塩素化合物等の吸着容量が低下するとともに、カラム等に充填して用いる際の充填密度及び粒子の機械的強度が小さくなり好ましくない。」(段落【0030】参照)
(2-viii)「【0032】本発明の炭素材の細孔直径10nm以下の細孔容積に占める細孔直径1nm以下の細孔容積の割合は78Vol%以上、好ましくは85vol%以上、最も好ましくは90vol%以上である。低沸点有機塩素化合物等の低分子量物質の吸着に於いて、特に有効に作用するのは細孔直径1nm以下の細孔と考えられるので、この細孔容積が細孔直径10nm以下の細孔容積の78Vol%より小さいと低沸点有機塩素化合物等の吸着容量が低下し、分子量のより大きい物質に対する吸着量が増加し、これらの吸着による炭素材の破過が進行し好ましくない。」(段落【0032】参照)
(2-ix)「【0037】本発明の炭素材の粒子直径は150?2000μm、好ましくは、水系で使用する際には200?800μm、気相系で使用する際には500?2000μmである。粒子直径が150μm以下であると、これをカラム等に充填して使用する際の充填時の操作性が低下するとともに、これを保持するために、目開きの細かい不織布、メッシュ等を使用するため水、空気等を通過させて用いる際に微粒子の詰まり等が生じ圧力損失の上昇を招きやすい。」(段落【0037】参照)
(2-x)「【0044】(1)炭素材の比表面積の測定法
被測定炭素材0.1g程度を正確に秤量した後、高精度全自動ガス吸着装置BELSORP28(日本ベル株式会社製)の専用セルに入れ、該装置を用いて窒素を吸着させB.E.T法により求めた。
【0045】(2) 細孔容積の測定法
本発明の吸着材の細孔容積の測定は、細孔直径0.01?10μm の範囲についてはポロシメ-タ-による水銀圧入法(島津製作所製、ポアサイザ-9310)により測定し、細孔直径10nm以下の細孔容積は全自動ガス吸着測定装置(日本ベル株式会社製、ベルソ-プ28)で窒素吸着測定を行った。具体的には、細孔直径2?10nmの範囲の細孔容積は77Kに於ける窒素ガスの吸着等温線をD-H解析することにより求め、細孔直径2nm以下の細孔容積は77Kに於ける窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法を用いて解析することにより求めた。」(段落【0044】?【0045】参照)
(2-xi)「【0056】内温が徐々に上昇し、ピンク色のスラリー状の生成が認められた。次いで更に撹拌を続けながら80℃まで昇温し約20分間撹拌を継続した。さらに内容物を水洗後、0.2重量%のアンモニア水溶液中、60℃の温度で60分間処理し、水洗後、200℃の温度で2時間乾燥し、0.1?150μmの球状フェノール樹脂を得た。
【0057】更にこの樹脂とフェノール及びアルデヒド等を下記の比率で混合・撹拌した。球状フェノール樹脂/フェノール/92%ホルムアルデヒド/ヘキサメチレンテトラミン/アラビアゴム/水=5/100/40/10/1/100。撹拌を継続しながら、約60分で85℃まで昇温し、そのまま60分反応を行い、希釈水を投入し、内温が下がるまで冷却後、これを濾別した後、乾燥し、含水率が2%以下になるまで乾燥を行い更に、篩により150μm以下及び2000μm以上の粒径の樹脂を除去し、粒子直径150?2000μmの真球状フェノール樹脂を得た。
【0058】更に、この樹脂を600℃で3時間、窒素気流中で炭化し、その炭化物を、850℃、900℃及び950℃で6時間、水蒸気を飽和した窒素気流中で賦活し、賦活程度を示す重量減少率がそれぞれ23%、30%、44%の真球状炭素材試料1、試料2、試料3を得た。」(段落【0056】?【0058】参照)
(2-xii)「表1

」(段落【0062】参照)

甲第3号証
(3-i)「【請求項1】 直径が0.01?1mmであり、BET法により求められる比表面積が700m^(2)/g以上であり、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり、全酸性基が0.30?1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20?0.70meq/gである多孔性球状炭素質物質からなることを特徴とする、経口投与用吸着剤。」(特許請求の範囲参照)
(3-ii)「【0002】
【従来の技術】腎機能や肝機能の欠損患者らは、それらの臓器機能障害に伴って、血液中等の体内に有害な毒性物質が蓄積したり生成したりするので、尿毒症や意識障害等の脳症をひきおこす。これらの患者数は年々増加する傾向を示しているため、これら欠損臓器に代わって毒性物質を体外へ除去する機能をもつ臓器代用機器或いは治療薬の開発が重要な課題となっている。現在、人工腎臓としては、血液透析による有毒物質の除去方式が最も普及している。しかしながら、このような血液透折型人工腎臓では、特殊な装置を用いるために、安全管理上から専門技術者を必要とし、また血液の体外取出しによる患者の肉体的、精神的及び経済的負担が高いなどの欠点を有していて、必ずしも満足すべきものではない。
【0003】近年、これらの欠点を解決する手段として、経口的な服用が可能で、腎臓や肝臓の機能障害を治療することができる経口吸着剤が注目されている。具体的には、特公昭62-11611号公報に記載の吸着剤は、特定の官能基を有する多孔性球状炭素質物質からなり、生体に対する安全性や安定性が高く、同時に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ、しかも、消化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有し、また、便秘等の副作用の少ない経口治療薬として、例えば、肝腎機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている。」(段落【0002】?【0003】参照)
(3-iii)「【0005】
【課題を解決するための手段】従って、本発明は、直径が0.01?1mmであり、BET法により求められる比表面積が700m^(2)/g以上であり、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり、全酸性基が0.30?1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20?0.70meq/gである多孔性球状炭素質物質からなることを特徴とする、経口投与用吸着剤に関する。」(段落【0005】参照)
(3-iv)「【0007】これに対し、本発明者が見出したところによると、本明細書の実施例に示すとおり、細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると、毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ、有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下する。多孔性球状炭素質吸着剤の細孔直径20?15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましい。しかしながら、一方で、細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着量も低下する。・・・(後略)。」(段落【0007】参照)
(3-v)「【0009】本発明による経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質は、BET法により求められる比表面積(以下「SSA」と省略することがある)が700m^(2)/g以上である。SSAが700m^(2)/gより小さい多孔性球状炭素質物質では、毒性物質の吸着性能が低くなるので好ましくない。SSAは、好ましくは800m^(2)/g以上である。SSAの上限は特に限定されるものではないが、嵩密度及び強度の観点から、SSAは、2500m^(2)/g以下であることが好ましい。
【0010】更に、本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質では、官能基の構成において、全酸性基が0.30?1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20?0.70meq/gである。官能基の構成において、全酸性基が0.30?1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20?0.70meq/gの条件を満足しない多孔性球状炭素質物質では、上述した有毒物質の吸着能が低くなるので好ましくない。・・・(後略)。」(段落【0009】?【0010】参照)
(3-vi)「【0011】本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質は、例えば、以下の方法によって製造することができる。最初に、石油ピッチ又は石炭ピッチ等のピッチに対し、添加剤として、沸点200℃以上の2環式又は3環式の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後、成形してピッチ成形体を得る。なお、前記の多孔性球状炭素質物質は経口投与用であるので、その原料も、安全上充分な純度を有し、且つ品質的に安定であることが必要である。」(段落【0011】参照)
(3-vii)「【0013】こうして得られた多孔性炭素質物質を、続いて、酸素含有量0.1?50vol%(好ましくは1?30vol%、特に好ましくは3?20vol%)の雰囲気下、300?800℃(好ましくは320?600℃)の温度で酸化処理し、更に800?1200℃(好ましくは800?1000℃)の温度下、非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応による還元処理をすることにより、本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質を得ることができる。」(段落【0013】参照)、
(3-viii)「【0023】本発明の経口投与用吸着剤として用いる多孔性球状炭素質物質は、・・・肝疾患(例えば、振せん、脳症、代謝異常、又は機能異常)の治療に効果があり、更に腎疾患者に対しても透析前の軽度腎不全や透析中の病態改善に用いて効果がある。・・・・」(段落【0023】参照)、
(3-ix)「【0029】(3)選択吸着率
炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のα-アミラーゼ吸着試験におけるα-アミラーゼ残存量、及び同様に、炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のDL-β-アミノイソ酪酸吸着試験におけるDL-β-アミノイソ酪酸残存量のそれぞれのデータに基づいて、以下の計算式:
A=(10-Tr)/(10-Ur)
(ここで、Aは選択吸着率であり、TrはDL-β-アミノイソ酪酸の残存量であり、Urはα-アミラーゼの残存量である)から計算した。」(段落【0029】参照)、
(3-x)「【0030】
【実施例1】石油系ピッチ(軟化点=210℃;キノリン不溶分=1重量%以下;H/C原子比=0.63)68kgと、ナフタレン32kgとを、攪拌翼のついた内容積300Lの耐圧容器に仕込み、180℃で溶融混合を行った後、80?90℃に冷却して押し出し、紐状成形体を得た。次いで、この紐状成形体を直径と長さの比が約1?2になるように破砕した。0.23重量%のポリビニルアルコール(ケン化度=88%)を溶解して93℃に加熱した水溶液中に、前記の破砕物を投入し、攪拌分散により球状化した後、前記のポリビニルアルコール水溶液を水で置換することにより冷却し、20℃で3時間冷却し、ピッチの固化及びナフタレン結晶の析出を行い、球状ピッチ成形体スラリーを得た。大部分の水をろ過により除いた後、球状ピッチ成形体の約6倍重量のn-ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、235℃まで昇温した後、235℃にて1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。続いて、多孔性球状酸化ピッチを、流動床を用い、50vol%の水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で900℃で170分間賦活処理して多孔性球状活性炭を得、更にこれを流動床にて、酸素濃度18.5vol%の窒素と酸素との混合ガス雰囲気下で470℃で3時間15分間、酸化処理し、次に流動床にて窒素ガス雰囲気下で900℃で17分間還元処理を行い、多孔性球状炭素質物質を得た。得られた炭素質材料の特性を表1及び表2に示す。」(段落【0030】参照)
(3-xi)「【0040】
【比較例6】比較のため、日本薬局方記載の「薬用炭」を使用し、同様の評価を行った。なお、前記「薬用炭」は粉末状である。得られた結果を表1及び表2に示す。
【表1】

表1中の細孔容積は、水銀圧入法により求めた細孔直径20?15000nmの範囲の細孔容積に相当する。
【0041】
【表2】

」(段落【0040】?【0041】参照)
(3-xii)「【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1?5及び比較例1?2で調製した7種類の炭素質吸着剤について、選択吸着率と炭素質吸着剤の細孔容積との関係を示すグラフである。

」(第9頁参照)

甲第4号証
(4-i)「 直径0.05?2mm、表面積500?2000m^(2)/g、細孔半径100?75,000Åの範囲での細孔容積0.05?1.0cc/gの特性を有する、便秘性副作用のない球形活性炭からなる経口解毒剤。」(特許請求の範囲参照)
(4-ii)「本発明は消化器系内の有害物質を除去することによつて解毒するために服用する活性炭に関する。」(第1頁左下欄10?12行参照)
(4-iii)「本発明の効果を示す球形活性炭としては、上述の如く粒径は直径として0.05?2mm、好ましくは0.2?1.0mmである。0.05mm以下では解毒作用はあつても便秘性副作用の除去に充分効果的でなく、2mm以上になると、服用し難いだけでなく、目的とする解毒効果も迅速に発現しない。」(第2頁左上欄11?16行参照)
(4-iv)「この様にして表面積は市販の表面積測定装置を用いて測定され、その範囲は500?2000m^(2)/g、好ましくは700?1500m^(2)/gである。細孔容積は市販の水銀圧入ポロシメーターで測定され、その範囲は細孔半径100?75000Åの領域で0.05?1.0cc/g、好ましくは0.1?0.8cc/gである。
この様な特性を有する活性炭の製造に用いる原料としては、オガ屑、石炭、ヤシ殻、ピツチ類、有機合成高分子等の公知の原料の何れでもよい。」(第2頁右上欄9?17行参照)
(4-v)「実施例-1 (活性炭の製造)
原油の高温分解により得られたピツチ(軟化点190℃、ニトロベンゼン不溶分30%、H/C元素比0.6)750部、ナフタレン250部を撹拌機付ステンレス製オートクレーブに仕込み、170℃で混合溶解し、これに「ゴーセノールGH-17」(日本合成社製ポリビニルアルコール系懸濁剤)0.5%水溶液3000部を加えて140℃で30分間激しく撹拌した後、撹拌下に室温まで冷却し、粒径0.1?2mmの真球状の球形粒子を得た。大部分の水を別した後、粒子重量の5倍量のメタノールに浸漬、振盪してナフタレンを抽出除去した後通風乾燥し、次いで、小型ロータリー・キルン中で空気を送入しながら25℃/Hrで300℃まで昇温して不融性の球形粒子を得た。次いで空気送入を停止し、代りに水蒸気を送入しながら900℃まで昇温することによつて炭化し、更にこの温度に保つことによつて賦活を進めて、粒径0.07?1.8mmの真球性の高い球形活性炭を得た。900℃での賦活時間を変え、又得られた活性炭を篩別することにより次の表に示す球形活性炭試料を得た。
尚、吸着能については肝疾患者の代識異常で体内に生成する有害物質として推定されているインドール、オクトパミン等のアミン性物質、異常蓄積するアミノ酸類についても調べた。

」(第3頁左上欄3行?同頁左下欄下から2行参照)

甲第5号証には、縮合型又は重付加型の熱硬化性樹脂プレポリマーを原料として、球型活性炭を製造する方法について記載されており、具体的には以下の事項が記載されている。
(5-i)「本発明は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の縮合型又は重付加型の熱可塑性樹脂プレポリマーを、要すれば、硬化剤、硬化触媒、充填剤、発泡剤、着色剤、安定剤と共に乳化剤を用いて攪拌下に水中に乳化させた後、要すれば加温して粘度及び粒径を増大させ、更に攪拌を続けながら反応を進めて硬化せしめてなる熱硬化性樹脂球状物を、酸素ガス不在下で500℃以上に加熱して炭化し、更に、これを水蒸気、炭酸ガス及び/又は酸素/窒素混合ガス気流中で賦活することを特徴とする熱硬化性樹脂造粒物からの球型活性炭の製法に関する。」(第1頁1欄15?26行参照)
(5-ii)「本発明で使用することのできる縮合型の熱硬化性樹脂プレポリマーとしては、ノボラック型フェノール樹脂プレポリマー、レゾール型フェノール樹脂プレポリマー、ノボラック型アルキルフェノール樹脂プレポリマー、レゾール型アルキルフェノール樹脂ポリマー、これらのキシレン/ホルムアルデヒド縮合物、トルエン/ホルムアルデヒド縮合物・・・」(第1頁第2欄第24行?第2頁第3欄第3行参照)、
(5-iii)「実施例1
エポキシ等量190のビスフェノールAジグリシジルエーテル型液状エポキシ樹脂プレポリマー・・・・・・
・・・この球状粒子の粒径分布は0.8mmφ付近にピークを有しており、0.50?1.68mmφのものが全生成物62%を占めた。
この範囲の粒径の硬化物の磁製のルツボに入れて電気炉により更に120℃及び200℃で各10時間加熱して硬化せしめた後、窒素ガスを吹き込みながら200℃/hの速度で昇温して700℃とし、この温度で30分間加熱して炭化した後、同雰囲気で放冷し、内径100mmφの回転炉に移して2l/minの水蒸気流中900℃で8時間加熱し硬質の球型活性炭を賦活率63%で得た。」(第2頁4欄19行?末行)
(5-iv)「実施例2
アンモニア触媒で合成したフェノール/クレゾール(7/3)のレゾール型フェノール樹脂の50%メタノール/水(等容)溶液・・・・反応せしめた。生成物を・・・褐色透明の球型樹脂粒子を定量的収率で得た。この球型樹脂粒は0.7mmφ付近にピークを有する正規分布に近い分布を示し、0.42?1.00mmφのものが全造粒物の59%を占めた。
この範囲の球型樹脂硬化物を実施例1と同じ条件で硬化・炭化・賦活して賦活率57%の球型活性炭を得た。」(第3頁第5欄第1?19行参照)、
(5-v)実施例2で得た球型活性炭の比表面積は1640m^(2)/gであり、ヨウ素吸着能が1230mg/g、尿酸吸着能16mg/g、総ビリルビン吸着能2.5mg/gであること(第3頁の第1表参照)、
(5-vi)「この表の結果から、本発明の方法により得られた活性炭は堅牢な熱硬化性樹脂を原料としているため微細構造が形成されており、大きな比表面積とすぐれた吸着能を示しているものであると考えられる。」(第4頁第7欄第11行?第8欄第4行参照)。

甲第6号証
(6-i)「・・・・・本発明者等は、上記の目的を達成すべく、従来の薬剤とは別異の有効成分について鋭意研究した結果、シスプラチン投与時において医療用活性炭製剤の経口投与により、腎毒性を軽減する明確な効果が現れることを見出した。・・・(後略)。」(段落【0003】参照)
(6-ii)「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳述する。本発明の白金錯体化合物類の腎毒性軽減剤の有効成分である球形活性炭としては、医療用に内服使用することが可能な球形状の活性炭であれば特に限定されない。この球形活性炭は吸着能に優れていることが好ましい。そのため、前記球形活性炭は、好ましくは直径0.05?2mm、より好ましくは0.1?1mmの球形活性炭である。また、好ましくは比表面積が500?2000m^(2)/g、より好ましくは700?1500m^(2)/gの球形活性炭である。また、好ましくは細孔半径100?75000オングストロームの空隙量が0.01?1ml/g、より好ましくは0.05?0.8ml/gの球形活性炭である。なお、上記の比表面積は、自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法により測定した値である。空隙量は、水銀圧入ポロシメータにより測定した値である。」(段落【0005】参照)
(6-iii)「【0007】球形活性炭の製造には、任意の活性炭原料、例えば、オガ屑、石炭、ヤシ殻、石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又は有機合成高分子を用いることができる。球形活性炭は、例えば、原料を炭化した後に活性化する方法によって製造することができる。活性化の方法としては、水蒸気賦活、薬品賦活、空気賦活又は炭酸ガス賦活などの種々の方法を用いることができるが、医療に許容される純度を維持することが必要である。」(段落【0007】参照)
(6-iv)「【0009】有機高分子焼成の球形活性炭は、例えば、特公昭61-1366号公報に開示されており、次のようにして製造することが可能である。縮合型又は重付加型の熱硬化性プレポリマーに、硬化剤、硬化触媒、乳化剤などを混合し、攪拌下で水中に乳化させ、室温又は加温下に攪拌を続けながら反応させる。反応系は、まず懸濁状態になり、更に攪拌することにより熱硬化性樹脂球状物が出現する。これを回収し、不活性雰囲気中で500℃以上の温度に加熱して炭化し、前記の方法により賦活して有機高分子焼成の球形活性炭を得ることができる。」(段落【0009】参照)
(6-v)「【0023】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
製造例:球形活性炭の調製
ナフサ熱分解により生成した軟化点182℃、キノリン不溶分10重量%、H/C=0.53のピッチ75kgにナフタリン25kgを、攪拌翼のついた内容積300リットルの耐圧容器に導入し、210℃に加熱溶融混合し、・・・中略・・・、棒状ピッチとなる。顕微鏡で観察すると円柱の長さと直径の比は平均1.5であった。
【0024】次にこの棒状ピッチを濾別し、90℃に加熱した0.5%ポリビニルアルコール水溶液1kg中に棒状物100gを投入し、溶融し、攪拌分散し、冷却して球形粒子を形成した。大部分の水を濾別した後、得られた球形粒子を抽出器に入れ、ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去し、通風乾燥した。次いで、流動床を用いて、加熱空気を流通して25℃/Hrで300℃まで昇温し、更に300℃に2時間保持して不融化した。続いて、水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して炭化賦活を行ない、多孔質の球形活性炭を得た。得られた球形活性炭の直径は0.05?1.0mmであり、こうして得られた球形活性炭を流動床を用いて、600℃で酸素濃度3%の雰囲気下で3時間処理した後、窒素雰囲気下で950℃まで昇温し、950℃で30分間保持して、酸化及び還元処理を施した石油系ピッチ由来の球形活性炭(以下、試料1と称す)を得た。この球形活性炭の直径は0.05?1mmであった。・・・(後略)。」(段落【0023】?【0024】参照)

甲第7号証は、株式会社島津テクノリサーチによる「測定分析結果報告書」(発行番号:KC-43772)(発行年月日:平成20年12月11日)であって、次の記載がある。
(7-i)「件名 細孔容積測定(水銀圧入法)
ご 依 頼 者 : フタムラ化学株式会社
試 料 : フェノール樹脂由来活性炭 2点
試料持込(採取)日: 平成20年11月04日
測定分析装置 : 島津細孔分布測定装置オートポア 9220形
測定分析方法 : 試料は、約105℃で約3時間予備乾燥したもの約0.3g
を標準セルに採り、初期圧5kPa(約0.7psia、細孔直径約
250μm相当)の条件で測定しました。
水銀パラメータは、ご指定の条件、水銀接触角130deg
rees、水銀表面張力484dynes/cmに設定し、測定を行いま
した。
また、指定の範囲について再計算しました。
測定分析結果 : 細孔容積測定(水銀圧入法)結果概要は、次ページに示
します。
<1>試料間比較のための重ね描きデータ
<2>測定結果レポート
<3>再計算結果(サマリーのみ)
<4>デジタルデータ 」
(7-ii)「 細孔分布測定結果概要

」(第2頁参照)

甲第8号証には、英語で次の技術事項の記載がある(翻訳文で示す。)。
(8-i)「…200℃までの温度で硬化した後、各種の樹脂系を1000℃まで加熱することによりアルゴン雰囲気下でまず評価した。…」(462頁右欄下から2行?464頁左欄1行参照)
(8-ii)「図9には、不活性条件下(inert)での加熱速度(Heating rate)が急速(rapid)、中間(moderate)及び緩慢(slow)な場合のレゾール樹脂(Resol)の炭素収率(C-yield)がグラフ化されており、それぞれ68%、69%及び70%であることが示されている。」(464頁左欄の図9参照)
(8-iii)「図10には、モル質量(molar mass)が250、モル質量が250で安定剤添加(+Stab.)、及びモル質量800?900の架橋ノボラック樹脂(cross-linked Novolak)の不活性条件下(inert)での炭素形(Carbon formation)がグラフ化されており、炭素収率がそれぞれ63%、56%及び60%であることが示されている。」(464頁右欄の図10参照)
(8-iv)「図11には、不活性雰囲気下(in inert atmosphere)での固体レゾール樹脂(solid resol)からの炭素形成(Carbon formation)がグラフ化されており、破線で示される雰囲気不活性条件下(atmosphere inert)での800℃の炭素収率(Carbon-yield)は、約75%であり、1000℃の炭素収率とほぼ同じであることが示されている。」(465頁左欄の図11参照)

甲第9号証には、無効2008-800042の審決であって、次の記載がある。
(9-i)「5.当審の判断
(a)本件特許の出願時に添付された明細書(以下、「当初明細書」とも言う。)に、
『R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕』に関する記載が無かったこと、及び、
(b)拒絶査定不服審判係属中の拒絶理由通知(平成18年3月13日付け;乙第1号証)における第4番目の理由として、『本件出願の請求項1-10に係る発明は、同日にされた特願2004-548106号の請求項に係る発明と同一であるので特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。』(前記特願2004-548106号は、特許第3672200号として登録済み)との理由が通知され、その理由を解消するために、平成18年5月15日付け手続補正によって、『但し、式(1): R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、』(以下、該記載を単に「除く記載」ともいう。)との特定がなされたものであることは、本件の出願当初明細書及び審査・審判の経緯からみて明らかである。」(第5頁21行?第6頁7行参照)
(9-ii)「ところで、両出願に記載された実施例がR値のデータの有無を除き同一であり、熱硬化性樹脂を炭素源とする場合の製造方法の説明も同じであることから、本件特許明細書に記載された実施例1?4はいずれも「除く記載」に該当するものであり、本件特許明細書には本件特許発明の実施例を記載していないといえる。
しかしながら、本件当初明細書において「除く記載」を追加する前の各請求項に係る発明は、R値とは無関係に炭素源を熱硬化性樹脂のフェノール樹脂やイオン交換樹脂に特定することによって発明されていたものであり、実施例による裏付けもされていたものであるところ、本件特許請求項1?7に係る発明は、単に「除く記載」によって特定のR値のものを除いているだけなので、それだけで発明されていたことに疑義が生じると解することができない。
しかも、除かれた残りの部分(R値が1.4未満の場合)でも発明されいることは、「除くクレーム」とれさた補正と同日付け(平成18年5月15日付け;5月16日受付日)の手続補足書に提示された実験成績証明書Aと実験成績証明書Bによって釈明されている。」(第12頁2?17行参照)
(9-iii)「本件特許発明の「除く記載」は、各請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを除いたものといえ、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるという他ない。」(第13頁3?8行参照)

甲第10号証は、本件特許の出願日(及び優先権主張日)と同日に、本件特許権者によりなされた特許出願(特願2004-548106)の特許公報(特許第3672200号公報)であるところ、次の技術事項の記載がある。
(10-i)「【請求項1】 直径が0.01?1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり、そして式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭からなることを特徴とする、経口投与用吸着剤。
【請求項2】 細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.1mL/g以下の球状活性炭からなる、請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項3】 細孔直径20?1000nmの細孔容積が0.0272mL/g以下の球状活性炭からなる、請求項2に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】 熱硬化性樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる、請求項1?3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項5】 熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、請求項4に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項6】 非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上の熱硬化性樹脂を炭素源として製造される球状活性炭からなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項7】 直径が0.01?1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり、全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり、そして式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭からなることを特徴とする、経口投与用吸着剤。
【請求項8】 細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.1mL/g以下の表面改質球状活性炭からなる、請求項7に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項9】 細孔直径20?1000nmの細孔容積が0.0185mL/g以下の表面改質球状活性炭からなる、請求項8に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項10】 熱硬化性樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる、請求項7?9のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項11】 熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、請求項10に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項12】 非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による炭素化収率が40重量%以上の熱硬化性樹脂を炭素源として製造される表面改質球状活性炭からなる、請求項7?11のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項13】 請求項1?12のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする、腎疾患治療又は予防剤。
【請求項14】 請求項1?12のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする、肝疾患治療又は予防剤。
【請求項15】 請求項1?12のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする、尿毒症性物質に関連する疾病の治療又は予防剤。」(特許請求の範囲参照)、
(10-ii)「【0013】 図1の曲線Aのような傾向のX線回折図を示す多孔質体と、図1の曲線Cのような傾向のX線回折図を示す多孔質体とでは、その細孔構造が異なることは明らかである。また、曲線Aと曲線Bの比較により表面改質球状活性炭のX線回折において低角度側で観測される散乱強度が細孔構造に起因することは明らかであり、散乱強度が強いほどより多くの細孔を有する。散乱角と細孔径の関係は、より高角度側の散乱ほどその細孔径が小さいものと推測される。細孔構造の解析には一般に吸着法により細孔分布を求める方法が知られているが、細孔の大きさ、形状、吸着物質の大きさ、及び吸着条件等の違いにより細孔構造を精確に解析することが困難な場合が多い。本発明者は、002面からの回折X線による影響が少なく、且つ、微細孔による散乱を反映すると推定される15°付近の散乱強度が、吸着法で測定することが困難な超微細孔の存在を表す指標となり、このような微細孔の存在が有害物質であるβ-アミノイソ酪酸の吸着に有効であるものと推定している。すなわち、回折角(2θ)が15°付近の散乱強度が強い球状活性炭又は表面改質球状活性炭ほど、有害物質であるβ-アミノイソ酪酸の吸着に有効であると推測している。
【0014】 また、後述する実施例で示すように、本発明者は、図1の曲線Aのような傾向のX線回折図を示す従来の球状活性炭又は表面改質球状活性炭と比較して、図1の曲線Cのような傾向のX線回折図を示す本発明による球状活性炭又は表面改質球状活性炭の方が、優れた選択吸着性能を示すことを実験的に確認した。」(段落【0013】?【0014】参照)、
(10-iii)「【0015】(前略)・・・。なお、I_(35)は回折角(2θ)が35°における回折強度であり、各測定試料間のバックグラウンドによる測定誤差を補正する目的で導入する。」(段落【0015】参照)、
(10-iv)「【0017】従来公知の代表的な経口投与用表面改質球状活性炭について、本発明者が確認したところ、それらの回折強度比(R値)はいずれも1.4未満であり、回折強度比(R値)が1.4以上の経口投与用表面改質球状活性炭は、本発明者の知る限り、見出されていない。-方、後述する実施例に示すとおり、回折強度比(R値)が1.4以上の表面改質球状活性炭は、回折強度比(R値)が1.4未満の表面改質球状活性炭と比較すると、β-アミノイソ酪酸の吸着能が向上しており、毒性物質の選択吸着性が向上した経口投与用吸着剤として有効であることが分かる。・・・」(段落【0017】参照)、
(10-v)「【0018】本発明者が見出したところによれば、回折強度比(R値)が1.4以上の球状活性炭又は表面改質球状活性炭は、例えば、従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて、炭素源として熱硬化性樹脂を用いることにより調製することができる。あるいは、従来の経口投与用吸着剤同様に、炭素源としてピッチ類を用い、不融化処理の工程で架橋構造を発達させ、炭素六角網面の配列を乱すことにより調製することができる。
【0019】 最初に、炭素源として熱硬化性樹脂を用いる場合の調製方法を説明する。
熱硬化性樹脂からなる球状体を、炭素と反応性を有する気流(例えば、スチーム又は炭酸ガス)中で、700?1000℃の温度で賦活処理すると、本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭を得ることができる。ここで、球状「活性炭」とは、球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に、賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり、球状で比表面積が100m^(2)/g以上であるものを意味する。本発明においては1000m^(2)/g以上が好ましい。
【0020】 なお、熱硬化性樹脂からなる前記球状体が、熱処理により軟化して形状が非球形に変形するか、あるいは球状体同士が融着する場合には、前記の賦活処理の前に、不融化処理として、酸素を含有する雰囲気にて、150℃?400℃で酸化処理を行うことにより軟化を抑制することができる。
また、前記の熱硬化性樹脂球状体を熱処理すると、多くの熱分解ガスなどが発生する場合には、賦活操作を行う前に適宜予備焼成を行い、予め熱分解生成物を除去してもよい。
【0021】 更に、選択吸着性を一層向上させるには、こうして得られた球状活性炭を、続いて、酸素含有量0.1?50vol%(好ましくは1?30vol%、特に好ましくは3?20vol%)の雰囲気下、300?800℃(好ましくは320?600℃)の温度で酸化処理し、更に800?1200℃(好ましくは800?1000℃)の温度下、非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応による還元処理をすることにより、本発明の経口投与用吸着剤として用いる表面改質球状活性炭を得ることができる。ここで、表面改質球状活性炭とは、前記の球状活性炭を、前記の酸化処理及び還元処理して得られる多孔質体であり、球状活性の表面に酸性点と塩基性点とをバランスよく付加することにより腸管内の有毒物質の吸着特性を向上させたものである。
【0022】 出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂球状体は、粒径が約0.02?1.5mmであることが好ましい。
出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂としては、球状体を成形することが可能な樹脂であり、500℃以下の熱処理においては溶融又は軟化せずに、形状変形も起こさないこ
とが重要である。また、酸化処理などのいわゆる不融化処理により、溶融酸化を回避することのできる熱硬化性樹脂であれば使用することができる。
【0023】 出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂としては、熱処理による炭素化収率が高いことが望ましい。炭素化収率が低いと、球状活性炭としての強度が弱くなる。また、不必要な細孔が形成されるため、球状活性炭の嵩密度が低下して、体積あたりの比表面積が低下するので、投与体積が増加し、経口投与が困難になるという問題を引き起こす。従って、熱硬化性樹脂の炭素化収率は高いほど好ましく、非酸化性ガス雰囲気中800℃での熱処理による収率の好ましい値は40重量%以上、更に好ましくは45重量%以上である。
【0024】 出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂として、具体的には、フェノール樹脂、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型アルキルフェノール樹脂、若しくはレゾール型アルキルフェノール樹脂を挙げることができ、その他にもフラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、又はエポキシ樹脂などを用いることができる。熱硬化性樹脂としては、更に、ジビニルベンゼンと、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、又はメタクリル酸との共重合体を用いることができる。
【0025】 また、前記の熱硬化性樹脂として、イオン交換樹脂を用いることもできる。イオン交換樹脂は、一般的に、ジビニルベンゼンと、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、又はメタクリル酸との共重合体(すなわち、熱硬化性樹脂)からなり、基本的には三次元網目骨格をもつ共重合体母体に、イオン交換基が結合した構造を有する。イオン交換樹脂は、イオン交換基の種類により、スルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する弱酸性イオン交換樹脂、第四級アンモニウム塩を有する強塩基性イオン交換樹脂、第一級又は第三級アミンを有する弱塩基性イオン交換樹脂に大別され、このほか特殊な樹脂として、酸及び塩基両方のイオン交換基を有するいわゆるハイブリッド型イオン交換樹脂があり、本発明においては、これらのすべてのイオン交換樹脂を原料として使用することができる。本発明においては、出発材料としてフェノール樹脂を用いるのが特に好ましい。」(段落【0018】?【0025】参照)、
(10-vi)「【0026】
次に、炭素源としてピッチ類を用い、不融化処理の工程で架橋構造を発達させ、炭素六角網面の配列を乱すことにより、経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭を調製する方法を説明する。
最初に、石油ピッチ又は石炭ピッチ等のピッチに対し、添加剤として、沸点200℃以上の2環式又は3環式の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後、成形してピッチ成形体を得る。なお、前記の球状活性炭又は表面改質球状活性炭は経口投与用であるので、その原料も、安全上充分な純度を有し、且つ品質的に安定であることが必要である。」(段落【0026】参照)、
(10-vii)「【0041】(4)回折強度比(R値)
球状活性炭試料又は表面改質球状活性炭試料を120℃で3時間減圧乾燥した後、アルミニウム試料板(35×50mm^(2)、t=1.5mmの板に20×18mm^(2)の穴をあけたもの)に充填し、グラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線(波長λ=0.15418)を線源とし、反射式デフラクトメーター法により回折角(2θ)が15°、24°、及び35°のそれぞれの角度における回折強度I_(15)、I_(24)、I_(35)を測定する。X線発生部及びスリットの条件は、印加電圧40kV、電流100mA、発散スリット=1/2°、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=1/2°である。回折図形の補正には、ローレンツ偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)回折線を用いて回折角を補正した。」(段落【0041】参照)、
(10-viii)「【0052】《実施例1》
球状のフェノール樹脂(粒子径=10?700μm:商品名「高機能真球樹脂マリリンH
F500タイプ」;群栄化学株式会社製)を目開き250μmの篩で篩分し、微粉末を除去した後、微粉除去した球状のフェノール樹脂150gを目皿付き石英製縦型反応管に入れ、窒素ガス気流下1.5時間で350℃まで昇温し、更に900℃まで6時間で昇温した後、900℃で1時間保持して、球状炭素質材料68.1gを得た。その後、窒素ガス(3NL/min)と水蒸気(2.5NL/min)との混合ガス雰囲気中、900℃で賦活処理を行った。球状活性炭の充填密度が0.5mL/gまで減少した時点で賦活処理を終了とし、球状活性炭29.9g(収率19.9wt%)を得た。
得られた球状活性炭の回折角(2θ)15°における回折強度は743cpsであり、回折角(2θ)35°における回折強度は90cpsであり、回折角(2θ)24°における回折強度は473cpsであった。従って、回折強度比(R値)は1.71であった。
得られた球状活性炭の特性を表1及び表2に示す。
・・・中略・・・
【0060】【表1】
・・・(中略)・・・
【0062】【表2】
」(段落【0052】?【0062】参照)。

甲第11号証には、次の記載がある。
(11-i)「熱硬化性樹脂を主原料とした粒状活性炭であって,活性炭の表面は無処理,或いは必要に応じ化学修飾又はコーティングされている粒径が5μm乃至5mmの血液浄化用活性炭。」(特許請求の範囲参照)
(11-ii)「本発明は血液中に含まれるタン白質代謝産物や毒物,薬物などの吸着除去能のすぐれた粒状活性炭に関するものである。」(第1頁左下欄10?12行参照)
(11-iii)「従来から血液浄化のために活性炭が使用されてはいるが,もっとも古くから使用されているヤシガラ炭は表面に突起が多いため粒状炭相互の衝突や摩擦によって炭塵が出やすく,保護するためにコーティングなどを行なっても完全にこれを防ぐことはできない。この点を改良するために新たに石油ピッチを造粒して焼成した活性炭の使用も検討されているが,この場合も炭塵の流出を完全に防ぐことはコーティングなどを施してもなお極めて困難である上,原料ピッチに含まれるベンツピレンはじめ数々の芳香族系発ガン物質の溶出の可能性が大きい等の問題点がある。…」(第1頁左下欄13行?同頁右欄5行参照)
(11-iv)「これら各種活性炭の原料,製造条件とこれらの欠陥との関係を考慮して各種有機質原料を用いて研究を重ねた結果,熱硬化性樹脂を造粒し焼成した粒状活性炭が,従来のものと比較して非常に大きな表面強度を有するものであり,コーティングを施さなくても全く炭塵の流出は見られず,使用原料がいずれも蒸留などの精製を何度も経由して合成されたものであるためにベンツピレンなどの有機化合物系の有毒物質の溶出の可能性がなく,しかも従来の活性炭と同程度の吸着能を有することを見出して,本発明を完成したものである。」(第1頁右下欄11行?第2頁左上欄1行参照)
(11-v)「本発明の活性炭による血液の浄化方式としては,従来の活性炭においては,炭塵流出が避けられなかったために実施困難であった直接血液灌流を高い安全性のもとに実施することが可能となったほかに,種々の方式の人工肝臓,人工腎臓装置に組込んで使用することができることは勿論,経口投与タイプの血液浄化剤としても使用が可能である。」(第2頁左上欄2?9行参照)
(11-vi)「本発明の活性炭は,このように老廃物,毒物,薬物に対して従来のピート炭,ヤシガラ炭,石油ピッチ炭と同等の吸着能を有する上,熱硬化性合成樹脂原料に起因する高い表面強度を有するものであるため,血液浄化用活性炭として高度の適正を有するものであると云うことができる…」(第2頁左上欄10?15行参照)
(11-vii)「本発明に使用することのできる熱硬化性樹脂としては,熱硬化せしめる前の造粒工程において溶液または融点粘度の調節が容易であり,有毒な重金属触媒を含まず,硬化がいちぢるしく遅いものでなければ,タールやピッチ系など未単離,未精製の充填材や希釈剤を使用しない限り,フェノール系樹脂,それらをメラミン,尿素,キシレン,不飽和油類で変性した樹脂,ジアリルフタレート樹脂,エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキッド樹脂またはこれらの2種以上の混合物があり,いずれも同様に使用することができるが,架橋密度が上がって表面強度を大きくしうる点で,ノボラック型フェノール樹脂,レゾール型フェノール樹脂や,その尿素変性樹脂を用いることが好ましい。」(第2頁左下欄6行?右下欄1行参照)
(11-viii)実施例には,レゾール型フェノール樹脂から粒状炭を製造する方法とその吸着能が記載されており,レゾール型フェノール樹脂からなる粒状活性炭の実施例1?3と石油ピッチ系造粒炭の比較例1の吸着能の測定結果に関し以下の記載がある。
「以上の実施例および比較例で得た粒状活性炭の血液中の老廃物成分などに対する吸着能の測定結果を第1表にまとめたが,この結果から実施例1.?3.で得た粒状活性炭はいずれもほぼ同程度の吸着能を有しており,すでに実用化されている比較例1.と比較してもコーティングの有(実施例3.比較例1),無(実施例1.2.)による若干の差はあるものの,これら4例の間に本質的な差は無い。」(第4頁左欄9?16行参照)

乙第1号証には、
(Z1-i)「特許請求の範囲
1 直径0.05?1mm、細孔半径80Å以下の空隙量0.2?1.0cc/g、細孔半径100?75000Åの空隙量0.1?1cc/gを有する多孔性の球形炭素質物質であつて、官能基の構成が全酸性基(A):0.30?1.20meq/g、全塩基性基(B):0.20?0.70meq/g、フエノール性水酸基(C):0.20?0.70meq/g、カルボキシル基(D):0.15meq/g以下の範囲にあり、且つ
(イ) A/B:0.40?2.5
(ロ) (B+C)-D:0.60以上
であることを特徴とする炭素質吸着剤。
2 直径0.05?1mm、細孔半径80Å以下の空隙量0.2?1.0cc/g、細孔半径100?75000Åの空隙量0.1?1cc/gを有する多孔性の炭素質物質を酸素濃度0.5?20vol%の雰囲気下350?700℃の温度で処理し、更に800?1000℃の温度下炭素に対して不活性な雰囲気下で加熱反応せしめることを特徴とする、官能基の構成が全酸性基(A):0.30?1.20meq/g、全塩基性基(B):0.20?0.70meq/g、フエノール性水酸基(C):0.20?0.70meq/g、カルボキシル基(D):0.15meq/g以下の範囲にあり、且つ
(イ) A/B:0.40?2.5
(ロ) (B+C)-D:0.60以上
である炭素質吸着剤の製造法。
3 直径0.05?1mm、細孔半径80Å以下の空隙量0.2?1.0cc/g、細孔半径100?75000Åの空隙量0.1?1cc/gを有する多孔性の球形炭素質物質であつて、官能基の構成が全酸性基(A):0.30?1.20meq/g、全塩基性基(B):0.20?0.70meq/g、フエノール性水酸基(C):0.20?0.70meq/g、カルボキシル基(D):0.15meq/g以下の範囲にあり、且つ
(イ) A/B:0.40?2.5
(ロ) (B+C)-D:0.60以上
である炭素質吸着剤を主成分とすることを特徴とする肝腎疾患治療薬。」(第1頁の特許請求の範囲の請求項1?3参照)
(Z1-ii)「発明の詳細な説明
本発明は、肝腎疾患者に対し経口的な服用により治療する、即ち、経口肝腎疾患治療薬として有用な吸着剤に係る。更に詳しくは、多孔性の球形炭素質物質から得られる、有害な毒性物質(Toxin)の消化器系内における吸着性能に優れ且つ消化酵素等の体内の有益成分の吸着性の少ない両性炭素質吸着剤に係る。」(第1頁右欄14?21行参照)
(Z1-iii)「本発明の炭素質吸着剤は、特に胆汁酸中で、肝性脳症原因物質であるオクトパミン、α?アミノ酪酸や腎臓病での毒性物質及びその前駆体であるジメチルアミン、β?アミノイソ酪酸、アスパラギシ酸、アルギニン等水溶性の塩基性及び両性物質の吸着性に優れている。又、有益物質である消化酵素等の除去は好ましくないが、これらに対する吸着性は少ない。更に、従来の粉末炭で問題となる便秘作用はないと云う特性を兼ねそなえている。」(第2頁右欄23?32行参照)
(Z1-iv)「該多孔性の炭素質物質は、例えば、以下の方法によつて製造できる。即ち、H/C原子比0.45?0.8、流動点100?300℃、偏光顕微鏡下の異方性領域が偏在していない重質炭化水素を原料とし、該原料にベンゼン、ナフタレン等の芳香族化合物よりなる添加剤を加え、界面活性剤を含む100?180℃の熱水中で撹拌下分散造粒して微小球体化し、必要に応じ添加剤を除去し、篩別、乾燥後、該微小球体を酸化性気流中において静置、流動或いは転動状態で酸化処理し、酸素含有量7?25wt%を含む中間体を製造する。該中間体の酸素含有量が7wt%以下では、本発明の目的に合致する性能が得られない。また、酸素含有量が25wt%以上では酸化反応が進みにくく効率的でない。次いで、該中間体を更に炭素と反応性を有する気流、例えばスチーム又は炭酸ガス中、800?1000℃の温度で処理すれば、本発明の多孔性の炭素質物質を得ることができる。
本発明の吸着剤は、上記多孔性の炭素質物質を酸素含有量0.5?20vol%好ましくは3?10vol%の雰囲気下、350?700℃好ましくは400?600℃の温度で処理し、更に800?1000℃の温度下、炭素に対して不活性な雰囲気下で加熱反応せしめることによつて得られ得る。」(第2頁右欄41行?第3頁左欄21行参照)
(Z1-v)「実施例 1
H/C=0.55、流動点220℃、偏光顕微鏡下の異方性領域が偏在しない炭化水素300gおよびナフタレン100gを撹拌機付オートクレーブに仕込み、180℃で溶解混合し、ゴーセノールGH-17 0.5%水溶液1200gを加え、次いで140℃で30分間激しく撹拌した後、撹拌下室温まで冷却して粒径0.07?1.2mmの球形粒子を得た。大部分の水をろ別した後、該球形粒子を抽出器に入れ、ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去した後、通風乾燥した。次いで、流動床を用いて、加熱空気を流通して25℃/Hrで300℃まで昇温し、更に300℃に2時間保持する事により酸素含量14%の中間体を得た。次いで、該中間体を流動床を用いて水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して多孔性の炭素質物質を得、更にこれを600℃で酸素濃度3%の雰囲気下で3時間処理した後、窒素雰囲気下で950℃まで昇温し、950℃で30分保持して本発明の炭素質吸着剤(試料1)を得た。
その特性及び官能基量を第1表に示した。
実施例 2
H/C=0.65、流動点210℃、の炭化水素300gおよびナフタレン100gを撹拌機付オートクレーブに仕込み、180℃で溶解混合し、ゴーセノールGH?17 0.5%水溶液1200gを加え、次いで130℃で30分間激しく撹拌した後、撹拌下室温まで冷却して粒径0.1?1.3mmの球形粒子を得た。大部分の水をろ別した後、該球形粒子を抽出器に入れ、ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去した後通風乾燥した。次いで、流動床を用い、加熱空気を流通して25℃/Hrで300℃まで昇温し、更に300℃で2時間保持する事により酸素含量20%の中間体を得た。該中間体を流動床を用いて水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して多孔性の炭素質物質を得、更にこれを450℃で酸素濃度10%の雰囲気下で4時間処理した後、窒素雰囲気下で800℃まで昇温し、800℃で30分保持して本発明の炭素質吸着剤(試料2)を得た。
その特性及び官能基量を第1表に示した。
実施例 3
実施例1で得られた中間体を流動床を用いて水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して多孔性の炭素質体とし、更にこれを550℃で酸素濃度3%の雰囲気下で5時間処理した後、窒素雰囲気下で900℃まで昇温し、900℃で30分保持して本発明の炭素質吸着剤(試料3)を得た。
その特性及び官能基量を第1表に示した。
比較例 1
実施例1で得られた中間体を流動床を用いて水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して多孔性の炭素質体とし、更にこれを550℃で酸素濃度3%の雰囲気下で5時間処理して比較の炭素質吸着剤(試料4)を得た。
その特性及び官能基量を第1表に示した。
実施例 4
実施例1?3及び比較例1で得られた各試料及び比較の為、市販の血液潅流用ピース活性炭(試料5)及び局方薬用炭(試料6)について、胆汁酸の存在下での各種吸着質物質の吸着量を調べた。用いた被吸着物質はβ?アミノイソ酪酸、γ?アミノ?n?酪酸、ジメチルアミン及びオクトパミンであつた。その結果を第1表に示した。なお、吸着量は試薬胆汁酸塩の0.5wt%水溶液中、各吸着質濃度5mg/dlにおける吸着量(mg/g)で表わした。
第1表の結果から、本発明の炭素質吸着剤は比較試料及び従来品に比べ、胆汁酸の存在下でも各種吸着質の吸着能にすぐれていることが判る。

」(第4頁左欄18行?第5頁第1表参照)

乙第2号証には、「ガラス状炭素」の項目において、
(Z2-i)「ガラス状炭素(・・・)-・・・
構造的上,物性上高度に等方的な性質を有する炭素材料で,その硬さは、黒鉛に比べて極めて硬く,波面はガラスの波面のように貝殻状破面様を示す成形体で,気体に対する透過性は極めて低く,炭素粒子の散逸が少ないことなどの特徴を有する.フラン樹脂,フルフリルアルール樹脂,フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂原料を型枠に流し込んだり,遠心力を利用して成形硬化し,極めて注意深く炭素化して得られる難黒鉛化性炭素である.」ことが記載されている。

乙第3号証には、活性炭の製造における薬品賦活法に関し、
(Z3-i)「活性炭の特性は,原料や賦活条件によって異なってくる.したがって,種々の方法で製造された活性炭は,吸着特性が違っていて,その多様性のために,それぞれの活性炭がある特定の用途に適することになる.このような多様性からわかるように,活性炭という術語は,1つの化学的物質をさすのでははなく,ある種の物質の1群を総称する言葉である.このことは活性炭の利用性を大きくすることになる.ある種の用途に対して悪い結果が出ても,他の種の用途に対してよい結果が出る可能性が残っていることになる.」(第44頁16?22行参照)ことが記載されている。

乙第4号証には、
(Z4-i)「活性炭を加熱処理すると,処理温度の上昇にともなって,固相で熱分解重縮合反応が進行し,結晶単位の大きさを別にすれば,最終的には黒鉛構造をとる.しかし,その過程では,ランダム配向した結晶子(多環芳香族分子集合単位)が熱エネルギーにより大きく変位して同一位相に配向して大きな黒鉛結晶に成長することは考えられず,もともとの結晶子の配向状態が加熱処理後の内部組織に反映するはずである.」(第5頁下から3行?第7頁3行参照)ことが記載されている。

乙第5号証には、フェノール樹脂繊維から繊維状活性炭を製造した場合のミクロ細孔構造の発達挙動ならびに細孔の表面積・容積・分布などの細孔特性の制御性について記載されており、具体的には図面とともに以下の事項が記載されている。
(Z5-i)「フェノール樹脂系繊維(カイノール)を出発原料として,N_(2),CO_(2)、H_(2)O、LPG燃焼ガスなどを用いて,おもに800?1000℃で熱分解炭化および炭化工程を省略した直接賦活を行なって,表面積や細孔容積などの大きく異なる繊維状活性炭の製造を試みた。」(第990頁のアブストラクト部分参照)
(Z5-ii)「N_(2)流中での定速昇温操作(5?20℃/min)により、・・・得られる炭化物の収率y_(c)は、800℃付近以上では約0.54の一定値に近づく傾向を示した。」(第991頁右欄第46?49行)
(Z5-iii)Fig.1には、フェノール繊維を純N_(2)流中で炭化した場合の炭化物の質量基準の収率が図示されている(第992頁下のFig.1参照)
なお、Fig.1によれば、800℃における収率は、約57質量%であることが理解できる。

(Z5-iv)Table1には、繊維状活性炭と粒状活性炭の細孔構造に関しての特性が記載され、Fig.10とFig.11には、Table1に示された活性炭のX線回折強度の比較図が図示されている(第992頁のTable1、第996頁のFig.10とFig.11参照)



6.当審の判断
先ず、特許法36条関係の無効理由9,10を検討し、その後、特許法29条関係の無効理由1?8を順に検討する。

(6-1)無効理由9(請求項1?7;特許法第36条第4項第1号違反)について
請求人は、本件請求項1?7に係る発明における(1)「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」及び(2)「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないので、その記載は特許法第36条第4項第1号に違反する旨を主張している。

(6-1-1)除くクレームについて
先ず、除くクレームとされた経緯を検討すると、
(a)拒絶査定不服審判係属中の拒絶理由通知(平成18年3月13日付け)における第4番目の理由として、『本件出願の請求項1-10に係る発明は、同日にされた特願2004-548106号の請求項に係る発明と同一であるので特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。』(前記特願2004-548106号は、特許第3672200号として登録済み)との理由が通知され、その理由を解消するために、平成18年5月15日付け手続補正によって、『但し、式(1): R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、』(以下、該記載を単に「除く記載」ともいう。)との特定がなされたものであること、及び、
(b)本件特許の出願時に添付された明細書(以下、「当初明細書」とも言う。)に、
『R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕』に関する記載が無かったこと
は、本件の出願当初明細書及び審査・審判の経緯からみて明らかであり、請求人並びに被請求人の両当事者にも争いはない。
なお、前記特許第3672200号の特許公報は、請求人が提示した前記甲第10号証である。

そこで、同日出願の特許明細書(甲第10号証参照)を検討すると、炭素源をフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂とする請求項(請求項1,7を引用する請求項4,5,10,11など)はあるものの、請求項1(又は請求項7)に係る発明は炭素源が熱硬化性樹脂に限定されていないし、発明の詳細な説明には、ピッチ類(石油ピッチ、石炭ピッチ)を用いた場合でも製造できることが具体的に説明されている(段落【0018】,【0026】など参照)のであるから、同日出願では、(炭素源を特定するまでもなく)回折強度比(R値)を特定することによって発明されていると認められる。
他方、本件の出願当初の明細書では回折強度比(R値)に関する記載はなく、回折強度比(R値)の値に関係なく、炭素源の樹脂を特定することによって本件「除く記載」を追加する前の各請求項に係る発明が発明されていたと解するのが相当である。
してみると、本件特許の出願時において、本件「除く記載」を追加する前の各請求項に係る発明と特許第3672200号の発明は、異なる技術思想の発明であると認められる。

しかるに、拒絶査定不服審判係属中に、両出願の発明の詳細な説明の記載を参酌すると両者が同じであるがために、本願は同日出願と同一発明なので特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないとの出願人とっては予想外の拒絶の理由が通知された。そこで、合議体により指摘されたこの拒絶の理由を解消するための止むを得ない状況で本願発明から重なりのみを除く補正をした、即ち「除く記載」を発明特定事項として追加し「除くクレーム」としたものと認められる。

以上のことを念頭において、請求人の主張について、以下検討を進める。

(6-1-2)本件発明における「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」について
この点について、請求人は、次のように主張している(審判請求書参照)。
(イ)『・・・、本件発明は、R値が1.4未満の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤又は治療若しくは予防剤である。そうすると、実施可能要件を満たすためには、物としての「吸着剤」又は「治療若しくは予防剤」が作れるように明細書に記載されていなくてはならない。しかるに、本件明細書には、本件請求項1及び4における除外規定とまったく同一の文言が段落【0007】及び【0009】に記載されているだけであり、かかる除外規定の技術的な説明については何ら記載されていない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。
ところで、除外規定は、同日出願(甲第10号証)による特許法第39条第2項の拒絶理由の解消を試みてなされたものである。甲第10号証においては《実施例1》、《実施例2》にフェノール樹脂からR値が1.4以上の球状活性炭を得る製造方法が記載され、《比較例1》、《比較例2》にピッチからR値が1.4未満の球状活性炭を得る製造方法が記載されている(・・・(当審注:甲第10号証の段落【0052】?【0055】の実施例1?4,段落【0057】?【0059】の比較例1?2))が、同日の別出願である甲第10号証の明細書を本件発明1?7の発明の詳細な説明として参酌できないことは、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号を紐解くまでもなく明らかである。』
(ロ)『除外規定によって奏される本件発明の作用効果も本件明細書の記載から全く理解することができない。即ち、本件発明の実施例1?4と甲第10号証の実施例1?4は同じものであり(・・・参照)、従って、除外規定によって特徴づけられる「R値が1.4未満である」球形吸着炭の実施例は本件発明の詳細な説明に全く記載されていない。他方、甲第10号証には、R値1.22(すなわち1.4未満)の「比較例1」、「比較例2」の「選択吸着率」が1.68乃至1.77の実施例より劣っていたことが開示されており(・・・(当審注:甲第1号証の段落【0062】の【表2】))、このことは、「R値1.4未満(例えば1.22)」の発明(本件発明)の選択的吸着性が、本件特許明細書の「熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は、酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず、生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており、しかも有益物質である消化酵素(例えば、α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有する」との記載にも関わらず劣悪であることを推認させるに十分なものである。
そして、「R値1.4未満(1.22)」の発明(本件発明)が選択吸着性に優れることは、本件特許の出願後の平成18年5月15日付けで5月16日に特許庁で受け付けられた実験成績証明書A及び同Bによって釈明されたものである(・・・(当審注:甲第9号証の12頁2?17行))。しかしながら、この点については、知財高裁特別部平成17年11月11日判決同庁平成17年(行ケ)第10042号は、「発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない」と判示している(二重下線付加(当審注:二重下線は表示できないので下線で表示した))。この判示は、サポート要件と表裏の関係にある実施可能要件(発明完成性)を担保する資料の後出しをも戒めたものである。』

そこで、該(イ)の点について検討する。
除く対象であるR値に関して本願明細書に言及がないのは、同日出願の発明との重なりを除くために「除くクレーム」として規定されたのであるから当然にあり得ること(但し、R値の規定は特許請求の範囲に式で明示されているから、その明示された式よって計算することは容易になし得ることである。)であって、そもそも当初明細書に記載がない技術事項を用いて「除くクレーム」を規定するのであるから、発明の詳細な説明において、その技術説明が必ずしも必要なわけではないし、必要に応じて、R値については、「除く記載」を追加することの原因となった同日出願(甲第10号証)の明細書の記載を勘案するのが適切といえるし、そのことだけで記載不備とされるものではない。
なるほど、甲第10号証の同一日出願の特許明細書に記載された熱硬化性樹脂を用いた場合の球状活性炭又は表面改質球状活性炭の製造方法(段落【0019】?【0025】)と実施例(と比較例)は、その実施例(と比較例)にR値が明示されている点を除き、本件特許明細書のそれと全く同一である。
しかし、「除く記載」を追加する前の発明(経口投与用吸着剤)は、本件特許明細書に記載の製造方法によって、R値の数値に関係なく製造され得たものであると認められる(フェノール樹脂又はイオン交換樹脂の直径、比表面積、細孔直径、細孔容積の条件を満たす球状活性炭を調整することについて本件当初明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおりであり、発明の詳細な説明のサポートがないとはいえない)ところ、本件特許発明で「除く記載」によって特定のR値のものを除いているだけで、製造され得た状況が否定されるとまでいうことができない。
ここに、活性炭を製造する手段は周知で、製造条件も各種知られているのであるから、それらの条件を適宜設定することによって、R値も変えられる(R値が1.4以上でも、1.4未満でも)とみるのが妥当である。
この点については、被請求人は、乙第5号証を提示し、
『フェノール樹脂系繊維、ヤシ殻、及び石炭(CAL-F40)を原料とする活性炭について測定したX線回折図形の比較図(996頁「Fig.10」及び「Fig.11」)が記載されており、その比較図から容易に本件特許の請求項1で規定する「R値」を計算することができる。計算結果を、以下の表II-1及びII-2に示す。
表II-1 乙第5号証のFig.10から算出したR値

表II-2 乙第5号証のFig.11から算出したR値

表II-1に示すように、フェノール樹脂系繊維を原料とする活性炭は、R値が「1.29」(最小値)?「2.13」(最大値)の間にある。また、表II-2に示すように、ヤシ殻を原料とする活性炭は、R値が「0.79」(最小値)?「1.70」(最大値)の間にあり、コール(石炭)を原料とする活性炭は、R値が「1.00」である。以上のように、活性炭がR値として「1.4」程度の値を有すること自体はごく一般的なことであることが分かる。従って、活性炭において、1.4付近の「R値」は、本件特許の出願時の常法に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値であり、「R値」が1.4未満の活性炭を製造するために、「R値」が1.4以上の活性炭の製造方法とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。このことは、審判段階で被請求人(本件特許権者)が提出した「実験成績証明書」において「R値」が1.4未満の活性炭を製造することができたことからも明らかである。』
と主張しているところ、この乙第5号証の換算データ(表II-1及びII-2)からみると、フェノール樹脂についてR値が1.4以上のものと1.4未満のものが、特別の技法を使い分けることなく従来技術で製造され得たことが読み取れる。
そして、拒絶査定不服審判係属中の拒絶理由に対する応答時に提出された実験成績証明書A,B[平成18年5月15日付け手続補足書参照。次の(ロ)の点についての検討で摘示を参照。イオン交換樹脂およびフェノール樹脂を原料とし、R値が1.4未満の場合でも製造され選択吸着率が優れていることが示されている。]を勘案すると、格別特異な技法を使い分けることなく、通常の条件で、「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」も適宜製造できていたものと解するのが相当といえる。

次に、該(ロ)の点について検討する。
なるほど、両出願に記載された実施例がR値のデータの有無を除き同一であり、熱硬化性樹脂を炭素源とする場合の製造方法の説明も同じであることから、本件特許明細書に記載された実施例1?4はいずれも「除く記載」に該当するものであり、本件特許明細書には本件特許発明の実施例を記載していないといえる。
しかしながら、本件当初明細書において「除く記載」を追加する前の各請求項に係る発明は、R値とは無関係に炭素源を熱硬化性樹脂のフェノール樹脂やイオン交換樹脂に特定することによって発明されていたものであり、実施例による裏付けもされていたものであるところ、本件特許請求項1?7に係る発明は、単に「除く記載」によって特定のR値のものを除いているだけなので、それだけで発明されていたことに疑義が生じると解することができない。
換言すると、同日出願との重なりを排除するために、形式的にR値が1.4以上を除くと規定し、そのために実施例がすべて除外されることになったのであるが、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本来R値とは無関係なものであるから、除かれた実施例近傍は当然として、それ以外(R値が1.4未満)の実施例が示されていない部分についても一応それなりの作用効果を奏するものと解するのが相当である。
そして、本件特許明細書では、フェノール樹脂やイオン交換樹脂などの熱硬化性樹脂を炭素源として製造される経口投与吸着剤は、(R値を特定することなく)「特異な細孔構造を有しているので、経口服用した場合に、消化酵素等の体内の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず、有毒な毒性物質(Toxin)の消化器系内における吸着性能が優れるという選択吸着特性を有し、従来の経口投与吸着剤と比較すると、前記の選択吸着特性が著しく向上する。」(本件特許明細書段落【0012】参照;熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂やイオン交換樹脂が例示される点は段落【0020】?【0021】参照)と説明されていて、更に、除かれた残りの部分(R値が1.4未満の場合)でも発明されいることは、「除くクレーム」とれさた補正と同日付け(平成18年5月15日付け;5月16日受付日;拒絶査定不服審判係属中の拒絶理由に対する応答時に提出)の手続補足書に提示された実験成績証明書Aと実験成績証明書Bによって釈明されていて、該実験成績証明書A,Bによって、イオン交換樹脂を炭素源としR値が1.4未満の場合、及びフェノール樹脂を炭素源としR値が1.4未満の場合でも選択吸着率が優れていることが釈明されている。
ここに、実験成績証明書Aには、球状のイオン交換樹脂から得た球状活性炭を表面改質した表面改質球状活性炭に関し、表1,2において、参考例1として、平均粒子径355μm、比表面積1292m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0705mL/g、R値1.14、選択吸着率3.1、参考例2として、平均粒子径342μm、比表面積1722m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0891mL/g、R値1.22、選択吸着率3.4であるものが製造されたことが示され、実験成績証明書Bには、表1,2において、フェノール樹脂を原料とした球状活性炭(参考例1,2)及び表面改質球状活性炭(参考例3?6)に関し、参考例1として、平均粒子径348μm、比表面積1426m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0204mL/g、R値1.28、選択吸着率2.4、参考例2として、平均粒子径292μm、比表面積2681m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0824mL/g、R値1.57、選択吸着率2.6、参考例3として、平均粒子径331μm、比表面積1023m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0216mL/g、R値1.26、選択吸着率3.9、参考例4として、平均粒子径275μm、比表面積1790m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0243mL/g、R値1.30、選択吸着率3.6、参考例5として、平均粒子径268μm、比表面積1876m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0280mL/g、R値1.35、選択吸着率3.6、参考例6として、平均粒子径257μm、比表面積2575m^(2)/g、7.5?15000nmの細孔容積0.0440mL/g、R値1.51、選択吸着率4.3であるものが製造されたことが示されている。

また、請求人は、甲第10号証(同日出願)には、R値が1.4未満の比較例1,2の選択吸着率が劣っているから、R値1.4未満の本件発明も劣っていることが推認される旨を主張している。
しかし、本件発明1?7は甲第10号証の発明とは異なった観点からなされたものであり(前記「(6-1-1)」参照)、甲第10号証の該比較例1,2はピッチを炭素源とするものであるから、「フェノール樹脂やイオン交換樹脂などの熱硬化性樹脂」を炭素源とする本件発明1?7と矛盾するものではないので、該請求人の主張は失当であり、採用できない。

ところで、該実験成績証明書に関し、請求人は、知財高裁の判例を引用しながら、「この判示は、サポート要件と表裏の関係にある実施可能要件(発明完成性)を担保する資料の後出しをも戒めたものである」と主張する。
しかし、本件発明では、R値に関係なく発明がなされている(前記「(6-1-1)」参照)のであるから、請求人が引用する知財高裁の判決と矛盾するものではない。そもそも当初明細書において「除く記載」を追加する前の各請求項に係る発明は発明されていたものであり、前記のとおりR値は製造条件によって異なる値をとれるとみるのが妥当であるから、当初に記載された実施例以外の場合について実験成績証明書で釈明することは許されるものであることを勘案すると、止むを得ざる状況下になされた「除くクレーム」を規定する場合(前記「(6-1-1)」参照)であっても、上記のように実験成績証明書によって釈明することは許されるとするのが妥当である。換言すると、該実験成績証明書の提出は、当初明細書から把握できる技術事項、即ち(R値に関係なく)炭素源としてフェノール樹脂またはイオン交換樹脂を用いたことにより効果が奏されることが、R値の大小にかかわらず妥当することを釈明するためになされたものと理解することができるのであって、これにより新たな技術事項が付加されたとか、その裏付けになるといえるものではない。

なお、弁駁書において、請求人は、(い)本件特許明細書には全てR値が1.4以上である実施例しか記載していないこと、(ろ)出願時の技術常識に基づき当業者がそのものを製造できる場合を除き製造方法を具体的に記載しなければならないこと、(は)被請求人が提出しR値が1.29?2.13であることが記載されていてR値が1.4未満の活性炭を製造するためにRが1.4以上の活性炭の製造方法と異なる技法を必要とするものではないと主張する乙5は、原料及び生産物が球状ではなく繊維状であるから、また、熱分解炭化及び炭化工程を省略した直接賦活を行って、表面積や細孔容積の大きく異なる繊維状活性炭の製造を試みたもの(990頁のアブストラクトの1?3行)であり、通常の方法とは異なる特殊な方法で製造されたものであるから、乙5の知見を単純に本件特許発明に適用することには、特に被請求人が活性炭の特性は原料によって異なる旨の主張をしていることを考慮すれば無理があることを主張している。
しかし、これら(い),(ろ)の点は、前記で検討したとおり何ら問題がないものである。(は)の点については、乙5が繊維状の場合ではあっても、フェノール樹脂由来の活性炭についてR値が1.4未満のものも1.4以上のものも既に製造されていることが確認できるのであるから、R値が1.4未満のものと1.4以上のものとで特別の技法を使い分けることなく従来の製造技術で製造し得ることが明らかであり、球状である場合に繊維状の場合と異なり特異な技法を使い分ける必要が生じると解すべき特別の事情は見当たらないから、前記請求人の主張は失当であり採用できない。

(6-1-3)「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」が本件発明の効果を奏しないことについて

この点について、請求人は次のように主張している(審判請求書参照)。
『本件発明1及び4は、「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」ことを発明特定事項とする(以下「本件発明特定事項」)。そして、本件明細書には、「本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては、一層優れた選択吸着性を得る観点から、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり、0.2mL/g以下であることが好ましい」との記載がある(段落【0024】)。本件発明1及び4において解決される課題について、本件明細書には「本発明者は、……従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたところ、驚くべきことに、熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は、酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず、生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており、しかも有益物質である消化酵素(例えば、α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出し、更に、その選択吸着性の程度が、前記特公昭62-11611号公報…に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した。熱硬化性樹脂を炭素源として調製した前記球状活性炭は、β-アミノイソ酪酸に対して優れた吸着性を示すので、同様の分子サイズを有する他の毒性物質、例えば、オクトパミンやα-アミノ酪酸、更に腎臓病での毒性物質及びその前躯体であるジメチルアミン、アスパラギン酸、あるいはアルギニン等の水溶性の塩基性及び両性物質に対しても優れた吸着性を示すものと考えられる」と記載されていることからして(段落【0004】)、本件発明特定事項によって、当業者において「一層優れた選択吸着性」を得ることが認識されなければならないことは明らかである。
換言すれば、本件発明の本質的効果ともいうべき一層優れた選択吸着性が得られる程度に発明の詳細な説明においてその作用効果が証明されていなければ、本件発明特定事項によって該作用効果が得られること(本件発明による課題解決)を当業者が認識することはできない。
ところが、本件発明の詳細な説明に開示された球状活性炭の特性は、以下のとおりである(段落【0047】【表1】、段落【0049】【表2】)。

上記のとおり、本件発明特定事項(細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満)によって「一層優れた選択吸着性」が得られるとの明細書の記載(段落【0024】)とは裏腹に、選択吸着率が優れるものとして開示された実施例1?4は、本件発明特定事項の上限を大きく下回る「0.04」mL/g、「0.06」mL/gという2点しか示しておらず(赤枠参照)、0.06mL/gを超えて0.25mL/gまでの領域で「一層優れた選択吸着性」が得られるか否かについては一切の証明がない。
かえって、細孔容積が「0.11」mL/g或いは「0.15」mL/gといういずれも本件発明特定事項の範囲内にある「比較例1」「比較例2」において「1.7」或いは「0.7」という選択吸着率にとどまっている事実は(青枠参照)、本件発明特定事項によって「一層優れた選択吸着性」が得られるとの本件明細書の記載と真っ向から矛盾し、本件発明特定事項が本件発明の課題解決にとって有意であるとの明細書の記載を疑わせるものである。
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の全範囲にわたって、明細書に記載された選択吸着特性という効果を奏することを開示しているとはいえない・・・』
この主張は、細孔容積についての全範囲にわたって選択吸着特性という作用効果を奏しないことが具体的な理由であると認められるので、以下この点について検討する。

なるほど、本件明細書の製造例では、フェノール樹脂を炭素源とする場合には0.04ml/gと0.06ml/gの例しか、またイオン交換樹脂を炭素源とする場合には0.42ml/g(本件特許で特定する0.25mL/gより多い)の例しか示されていない。
しかし、本件特許明細書には、「本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.1?1mL/gであることも、あるいは0.1mL/g以下であることもできる。なお、細孔直径20?1000nmの細孔容積が1mL/gを越えると消化酵素等の有用物質の吸着量が増加することがあるので、細孔直径20?1000nmの細孔容積が1mL/g以下であることが好ましい。 なお、本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては、一層優れた選択吸着性を得る観点から、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり、0.2mL/g以下であることが好ましい。」(段落【0024】参照;下線は当審が付与)と説明されている。
なお、公知刊行物である甲第3号証の段落【0007】には、「・・・本明細書の実施例に示すとおり、細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると、毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ、有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下する。多孔性球状炭素質吸着剤の細孔直径20?15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましい。しかしながら、一方で、細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着量も低下する。」と記載されている。
また、本件特許明細書に、参考例1の細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.42mL/gの場合に、選択吸着率が2.1と比較的に劣っている(段落【0047】,【0049】参照)ことが示されている。
してみると、かかる細孔容積の条件が臨界的な意義を有すると解するよりも、選択吸着率を優れたものとするために、孔径の大きな細孔を少なくすべきことを単に表現している目安にすぎないものと理解でき、一方公知技術として細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着能に支障があることが明らかである。
そうであるから、「0.06mL/gを超えて0.25mL/gまでの領域で「一層優れた選択吸着性」が得られるか否かについては一切の証明がない」との請求人の主張は採用できない。

また、請求人は、細孔容積が「0.11」mL/g或いは「0.15」mL/gといういずれも本件発明特定事項の範囲内にある「比較例1」「比較例2」において「1.7」或いは「0.7」という選択吸着率にとどまっていることを指摘するが、そもそも本件特許発明は、細孔容積のみならず球状活性炭の原料を特定するものであるところ、前記比較例1,2は、本件特許発明で特定する活性炭原料と異なる石油系ピッチを用いていることによることを勘案すると、何ら不自然さはないから、本件発明特定事項によって「一層優れた選択吸着性」が得られるとの本件明細書の記載と真っ向から矛盾するものではなく、本件発明特定事項が本件発明の課題解決にとって有意であるとの明細書の記載を疑わせるものではない。

以上のとおりであるから、「本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の全範囲にわたって、明細書に記載された選択吸着特性という効果を奏することを開示しているとはいえない」と言うことができない。

なお、弁駁書において、請求人は、本件発明において、「細孔容積が0.25mL/g未満の全域で特許発明の効果を奏するとは言えないこと」について
(に)イオン交換樹脂からの活性炭とフェノール樹脂からの活性炭とは炭素源が相違するから、実施例1?4と参考例1の特性を同列に論じることはできず、細孔容積が0.02?0.06mL/gのフェノール樹脂からの活性炭、また、イオン交換樹脂からの活性炭については実験成績証明書Aを考慮しても、その全体が本件特許発明の効果を奏するとはいえないこと、及び、
(ほ)被請求人は、本件特許明細書の比較例2の吸着剤は、表2の「DL-β-アミノイソ酪酸吸着残量」欄の数値(8.46mg/dL:0.50g及び4.3mg/dL:2.50g)に示されるようにDL-β-アミノイソ酪酸の吸着量が極めて低く、経口投与吸着剤としては実用的ではないと主張しているが、実施例2の吸着剤のDL-β-アミノイソ酪酸吸着残存量は、7.4mg/dL:0.50g及び1.3mg/dL:2.50gであり、従来技術である比較例1(5.24mg/dL:0.50g及び0.14mg/dL:2.50g)に比べ、DL-β-アミノイソ酪酸の吸着量が極めて小さいといえるから、比較例2と同様に、本件特許発明に包含される実施例2の吸着剤も実用性がなく、使用できないといえること、
(へ)そもそも、本件特許発明は、先行技術に比べ、消化酵素等の有益成分の吸着性が少ないにもかかわらず、有毒物質の吸着能が大きいという選択吸着特性を有することを特徴とするものであり(段落0012)、つまり、本件特許発明は、従来技術に比べ、有益成分の吸着を同等かより少なくし、かつ、有毒物質の吸着を同等かより大きくすることにより吸着選択性を向上させたものといえ、なぜなら、従来技術よりも、有益成分の吸着が増大するか、あるいは、有毒物質の吸着が低下したのでは、たとえ従来技術よりも選択吸着性を向上させたとしても、先行技術に対する改良とはいえないからであるところ、実施例2は、従来技術である比較例1と比べ、選択吸着率は向上しているかもしれないが、有毒物質の吸着特性が大幅に減少しており、本件特許発明の効果を奏していなことを主張している。
しかし、(に)の点については、フェノール樹脂とイオン交換樹脂は、同じ熱硬化性樹脂として扱われているものであり、両者を同列に扱い、データについても両者のものを併せて評価することは妥当であると解するべきであるから、その主張の前提が誤っているから、該(に)の主張は失当であり、採用できない。
また、(ほ)と(へ)の点については、そもそも本件発明の課題であると認められる選択吸着性の評価を無視して論ずるのは適切ではない。また、比較例1は酸化・還元処理を行っているものであるから、その処理を行っていない実施例2のもののDL-β-アミノイソ酪酸の吸着量が例え少ないものであるとしても、その対比自体が適切ではなく、選択吸着量も勘案すると、効果を奏していないというべきではない。よって、該(ほ)と(へ)の主張は、採用できない。

なお、無効理由9における請求人の主張は、「細孔容積が0.25mL/g未満」の一部において製造できるように記載していないことを具体的な理由としているものではないので、該製造に関する点は検討を要しないが、該製造に関し記載不備がないとの平成20年(行ケ)第10065号判決(平成21年3月31日言渡)の取消事由2についてを参考にできる。

(6-1-4)まとめ
以上のとおり、従来技術を勘案すると、本件特許の請求項1?7に係る発明の球状活性炭を製造し、使用することができる程度には発明の詳細な説明が記載されているものと認められる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載していないということができないから、無効理由9に関する請求人の主張は、理由がないものであり採用できない。

(6-2)無効理由10(請求項1?7;特許法第36条第6項第1号違反)について
請求人は、本件特許請求の範囲は、下記(1),(2)の2つの点で、特許法第36条第6項第1号に規定のいわゆるサポート要件を満たしていないと主張しているので、以下検討する。
『(1)本件発明における「R値が1.4以上である球状活性炭を除く球状活性炭」については、・・・(当審注:前記無効理由9の(1))で記載したように、本件発明1?7における「R値が1.4未満の球状活性炭」は、本件明細書の発明の詳細な説明に作れるように記載されていない。
したがって、本件発明1?7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
(2)本件発明における「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」球状活性炭については、・・・(当審注:前記無効理由9の(2))で記載したように、本件発明1?7における「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」ことは、本件明細書の発明の詳細な説明において効果を奏するとされる発明から拡張又は一般化することができないから、本件発明1?7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。』

しかし、前記「(6-1)」で検討したように、無効理由9の(1),(2)の主張は、失当であり採用できないと判断されるから、その無効理由9での主張を援用する請求人の主張は、失当であり採用できない。
よって、無効理由10に関する請求人の主張は、理由がないものであり採用できない。


(6-3)無効理由1(請求項1?3,6,7;特許法第29条第1項第3号違反;甲第1号証)について

(6-3-1)本件発明1について
上記「5.」に甲第1号証の記載事項を摘示している。
上記摘示によれば、甲第1号証は、MgO-TiO_(2)複合物がリンに対して選択的な吸着特性を有することに着目してなされた発明であり、球状活性炭の吸着特性も利用しているものの、活性炭は担体として使用されているものであるから「球状活性炭からなる経口投与用吸着剤」ということはできない。
また、上記摘示によれば、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を炭素源として使用し得るとの記載はあるものの、実施例はピッチを炭素源とするものである(実施例2?4も上記実施例1と同様、活性炭製造例で生成した球状活性炭を用いるものである)。加えて、細孔容積に関する規定は、本件発明では,細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満と規定しているのに対し、甲第1号証では、上記のとおり半径100?75000Åの細孔容積0.1?1.0cm^(3)/g(つまり、細孔直径20?15000nmの細孔容積0.1?1.0mL/g)と規定しており、対象となる細孔の範囲は、本件発明1の細孔直径の範囲に甲第1号証の細孔直径の範囲が含まれる形となっているものであり、甲第1号証の細孔容積条件のうち、0.25?1.0mL/gのものは本件発明1の条件は満たさず、甲1の細孔容積条件で0.1mL/g以上0.25mL/g未満であっても、本件発明1の細孔範囲について0.25mL/g未満であるとは限らないものである。また比表面積も、本件発明1では,1000m /g以上であるのに対し、甲第1号証では、500?2000m /gであって、重複する部分はあるものの一致するものではない。
以上によれば、本件発明1が甲第1号証に開示されていると認めることはできない。
(なお、本件発明1について本件甲第1号証が甲第47号証として検討されている平成20年(行ケ)第10358号判決(平成21年3月31日言渡)を参照。)

ところで、請求人は次の(A)?(H)の点も主張するが、次に示す理由で上記同一性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記同一性の判断に影響するものではない。
(A)請求人は、甲第7号証を引用し、「一般的なフェノール樹脂からの球状活性炭の細孔直径と細孔容積を示す甲第7号証に基づくものである。甲第7号証から、フェノール樹脂からの活性炭である試料1は、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.1574mL/gであるときに、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.0667mL/gであるから、(細孔直径20?15000nmの細孔容積):(細孔直径7.5?15000nmの細孔容積)=0.0667:0.1574=1:2.35となる。この比率を前提とすれば、引用発明1における細孔直径20?15000nmの細孔容積0.1cm^(3)/gは、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積0.235cm^(3)/g(0.235mL/g)、すなわち0.25mL/g未満に相当するので、本件発明1の構成と同一である。」と主張し、更に弁駁書において、「甲1の活性炭製造例には、・・ピッチから製造した球状活性炭が・・・細孔容積0.3cm^(3)/gを有することが記載されている」から、例えば甲2、甲5、甲11などの本件特許出願時の技術水準を考慮すれば、フェノール樹脂等からもピッチと同様に製造できる」と主張している。
しかし、細孔容積は、製造条件によって種々異なるものであるのであるから、前記換算比率を前提として換算できると解すべき理由はないし、甲第7号証で測定対象とされた試料のフェノール樹脂由来活性炭がどのように製造されたものか不明であって適切な試料とは言えないし、しかも、例えば甲第7号証の資料2に従えば、(細孔直径20?15000nmの細孔容積):(細孔直径7.5?15000nmの細孔容積)=0.0141:0.0421=1:2.99となり、この比率を前提とし前記請求人の主張に沿った換算をすると、引用発明1における細孔直径20?15000nmの細孔容積0.1cm^(3)/gは、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積0.299cm^(3)/g(0.299mL/g)、すなわち0.25mL/g未満を超えることになるから、前記請求人の主張は失当であり、採用できない。また、弁駁書における前記主張は、細孔容積が本件発明の特定と一致しないのであるから、そもそも前提において失当であるため採用できない。

(B)請求人は、甲第10号証を引用し、「甲第10号証(特許第367220号公報)には、フェノール樹脂等からの活性炭のBET法により求められる比表面積とラングミュアの吸着式により求められる比表面積の対応関係が記載されており(実施例の【0060】、【表1】)、これによれば、BET法により求められる比表面積を概ね1.2?1.3倍することによりラングミュアの吸着式により求められる比表面積に換算できる。したがって、BET法により求められる比表面積1200m^(2)/gは、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積1440?1560m^(2)/gに相当する。」と主張している。
しかし、仮にそうであるとしても、比表面積の特定に重複する部分があると言えるだけであり、該請求人の主張によって、上記同一性の判断を左右できない。

(C)請求人は、「甲第1号証5頁左欄の第1表には、「未添着球状活性炭」、すなわち、MgO-TiO_(2)が添着されていない活性炭も、クレアチニンについて選択的吸着性を有することが記載されているのであるから、甲第1号証の添着活性炭は本件発明1における活性炭といえるものである。」と主張し、更に弁駁書において、「甲1記載の吸着剤は、未添着活性炭が従来適用できた経口投与形態による腎不全治療用途に加え、腎不全患者が併発する高リン血症にも適用できるものである。事実、甲1の第1表には、未添着の球状活性炭が、クレアチニン(本件特許明細書段落0050)に対して、添着された吸着剤と同様な吸着性能を有することが示されている。そうすると、甲1は、未添着活性炭の用途として、高リン血症を併発しない腎不全の治療用途を記載しているといえる。しかも、甲3や乙1に記載されているように、球状活性炭を経口的腎疾患治療剤に使用することは周知である。したがって、甲1には、添着された吸着剤の用途として開示された「経口的腎疾患治療剤」のうち、高リン血症を併発した腎疾患以外の腎疾患の治療剤として、未添着の活性炭を有効に使用できることが記載されているといえる。」と主張し、「甲1において、経口的腎疾患治療剤としての作用効果を示す具体的なデータが存在していなくとも、当業者は、球状活性炭を「経口的腎疾患治療剤」として使用することができる。」とも主張している。
しかし、第1表(摘示(1-x)参照)の「未添着球状活性炭」は、活性炭製造例で生成した球状活性炭であって、ピッチ系を炭素源とする球状活性炭である点で、本件発明1の球状活性炭と相違するし、そもそも第1表のデータは、血清を用いていること(摘示(1-x)参照)からも明らかなように血液灌流用の用途を想定したものであり、経口的腎疾患治療剤としての用途を意図したものではないし、クレアチニンについての吸着率は本件発明1で作用効果とする選択吸着率とは異なるものであるから、該請求人の主張によって、上記同一性の判断を左右できない。

(D)請求人は、「・・R値が1.4以上である球状活性炭を除く」との除外規定に関し、甲第10号証の同日出願の別特許とのダブルパテントを解消するために導入されたものであり、本件明細書には、該除外規定について何の記載もなく、特段の技術的意義の説明もないから、新規性の判断に際して考慮する必要がない要件であり、甲第9号証(無効2008-800042審決)においてもこれと同旨の判断がされている旨を主張している。
しかし、該審決において、該除外規定が新規性の判断に際して考慮する必要がない要件であるとは記載していない。除くクレームとされた経緯(前記「(6-1-1)」参照)からみて、該除外規定は、同一性を回避するために導入されたものであるから、少なくとも同一性の判断においては無視できない要件であることは明らかである。しかも、この除外規定によって、上記同一性の判断をしているわけではないから、その同一性の判断が影響されるものではない。

(E)請求人は、「甲第10号証の段落【0017】には、従来公知の経口投与用活性炭のR値はいずれも1.4未満であったと記載されており、かかる記載は、引用発明1等の公知活性炭が1.4未満のR値を有することを示すものであるから」、引用発明1は本件発明1の「・・R値が1.4以上である球状活性炭を除く」との構成を記載しているといえる旨を主張している。
しかし、公知文献でない該記載のみによって判断できるものではないし、甲第1号証に記載の球状活性炭が1.4未満のR値を有することを断定できるものではない。そして、R値が1.4以上か未満かによって、上記同一性の判断をしているわけではないから、その同一性の判断が影響されるものではない。

(F)請求人は、弁駁書において、「添着された「吸着剤」も未添着球状活性炭もともに本件特許発明と同一であると主張するものであり」と主張している。
しかし、前記当審の判断ではいずれの場合も本件発明1と同一ではないと判断している。

(G)請求人は、弁駁書において、「甲1はフェノール樹脂を経口的腎疾患治療用途の活性炭の原料として明記している」旨を主張している。
しかし、フェノール樹脂は、他の原料とともに例示されていたものにすぎず、実施例もないところ、経口的腎疾患治療用途に関しても、血液灌流用の実施例があるだけで、また、活性炭はそもそも担体とされているもので、比較例として未添着活性炭が記載されているに過ぎないことを勘案すると、甲第1号証に「フェノール樹脂を経口的腎疾患治療用途の活性炭の原料として明記している」というべきではない。

(H)請求人は、弁駁書において、「本件発明1における球状活性炭は、添着処理された球状活性炭を包含するのであるから、添着された球状活性炭といえる甲1記載の吸着材は、本件発明1における球状活性炭に相当する。」と主張している。
しかし、本件発明1が、一般的になされる処理がなされたような場合はともかく、特異な処理がなされた甲第1号証発明の「活性炭にMgO-TiO_(2)複合物を添着してなる吸着剤」と同一であると解することは妥当ではない。

(6-3-2)本件発明2,3,6,7について
本件発明2,3,6,7は、本件発明1を引用するもので、且つ、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-3-1)」において本件発明1は甲第1号証に開示されていないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証に開示された発明ではない。
ところで、請求人は、本件発明3について、甲第8号証を引用し炭素化収率にいて言及しているが、また、本件発明2,6,7についも、それぞれ特定する事項について言及されているが、いずれも前記の判断に影響を与えるものではなく、更に検討を要するものではない。
なお、本件発明6,7は、本件発明4,5も引用するものであるが、本件発明4,5について無効理由1は主張されていないこと、及び、請求人の全主旨からみて本件発明4,5を引用した本件発明6,7については、無効理由1の主張はなされていないものと言える。

(6-4)無効理由2(請求項1?7;特許法第29条第2項違反;甲第1号証並びに甲第2,3,5号証)について

(6-4-1)本件発明1について
前記「(6-3-1)」で検討したように、甲第1号証に記載されたMgO-TiO_(2)複合物の発明が「球状活性炭からなる経口投与用吸着剤」ということはできないのであり、MgO-TiO_(2)を添着(担持)せずに、担体である活性炭のみを経口投与用吸着剤として用いる動機付けは無いと言える。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載されたMgO-TiO_(2)複合物の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

仮に、担体である球状活性炭を経口的腎疾患治療剤としたところで、甲第1号証に記載の担体である活性炭については、(a)フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を炭素源として使用し得るとの記載はあるものの、実施例はピッチを炭素源とするものであり(実施例2?4も上記実施例1と同様、活性炭製造例で生成した球状活性炭を用いるものである)、加えて、(b)細孔容積に関する規定は、対象となる細孔の範囲が本件発明1の細孔直径の範囲に甲第1号証の細孔直径の範囲が含まれる形となっているものであり、甲第1号証の細孔容積条件のうち、0.25?1.0mL/gのものは本件発明1の条件は満たさず、甲1の細孔容積条件で0.1mL/g以上0.25mL/g未満であっても、本件発明1の細孔範囲について0.25mL/g未満であるとは限らないものであり、また(c)比表面積も、本件発明1では,1000m /g以上であるのに対し、甲第1号証では、500?2000m /gであって重複する部分はあるものの一致するものではない(前記「(6-3-1)」参照)、との(a)?(c)の点で本件発明1の球状活性炭と相違があると言える。

そこで、上記(a)の点について検討する。
甲第1号証発明では、球状活性炭を製造するための原料として、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を使用し得るとの記載はあるものの、実際には、石油ピッチを炭素源としている点で、本件発明1と相違がある。

1)本件発明1の作用効果について検討する。
本件発明1は、「直径が0.01?1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり、そして細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」を、炭素源としてフェノール樹脂やイオン交換樹脂を使用することにより、ピッチ等の他の炭素源を使用する場合に比べて、優れた選択吸着特性を有するものとするものである。
そして、本件発明1が選択吸着特性に優れることは、本件特許明細書(段落【0012】,【0004】参照)に記載されていて、単に、経口投与に伴う、有毒な毒性物質(例えば、β-アミノイソ酪酸)の消化器系内における吸着性能が優れていることを目的とするだけではなく、消化酵素(例えば、α-アミラーゼ)等の体内の有益成分の吸着性が少ないとの選択吸着性が優れたもものであることを作用効果とするものである。
その作用効果の評価は、「(3)選択吸着率
炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のα-アミラーゼ吸着試験におけるα-アミラーゼ残存量、及び同様に、炭素質吸着剤の使用量が0.500gの場合のDL-β-アミノイソ酪酸吸着試験におけるDL-β-アミノイソ酪酸残存量のそれぞれのデータに基づいて、以下の計算式:
A=(10-Tr)/(10-Ur) (ここで、Aは選択吸着率であり、TrはDL-β-アミノイソ酪酸の残存量であり、Urはα-アミラーゼの残存量である)から計算した。」(本件特許明細書段落【0039】参照)で定義される選択吸着率を指標として行なうものであるところ、本件特許明細書の表1,2に、石油系ピッチを炭素源とする活性炭を用いた比較例1,2の選択吸着率が劣り、フェノール樹脂を炭素源とした方が選択吸着率に優れていることが示され、また、R値が1.4未満の場合でも選択吸着率が優れていることが拒絶査定不服審判継続中に提示された実験成績証明書B,A(前記「(6-1-2)」での摘示を参照)によって釈明されている。そして、フェノール樹脂と同様に熱硬化性樹脂の一つであるイオン交換樹脂についても、同様な作用効果を有するものとするのが妥当である。

ところで、弁駁書において請求人は、甲第3号証発明(先行特許発明P2)(そして乙第1号証発明(先行特許発明P1))の効果と本件発明の効果に差が無く、本件発明の選択吸着率が多少優れていても、その効果は当業者にとって予測の範囲内であることを主張しているので、その点についても検討する。
請求人は、(i)対比データについて、<1>同一のパラメータ値を有するが異なる炭素源からの活性炭を対比したデータ、及び<2>前記<1>の対比を本件発明のパラメータ値の範囲内の全域で行なったデータが必要であり、パラメータとして細孔直径7.5?15000nmの細孔容積を採用した場合に、前記<1>,<2>の対比データが本件特許明細書に記載されていないこと、及び本件特許出願後の追加データである実験成績証明書Bを考慮しても同様であることから、甲第3号証発明(先行特許発明P2)(そして乙第1号証発明(先行特許発明P1))の効果と本件発明の効果に相違がない旨を主張し、また、(ii)イオン交換樹脂を炭素源とする活性炭とフェノール樹脂を炭素源とする活性炭は、炭素源が相違するから、実施例1?4と参考例1の特性を同列に論じることはできないので、参考例1の記載を根拠として優れた選択吸着率を示すとすることはできないし、またイオン交換樹脂を炭素源とする活性炭についてはその効果が全く本件特許明細書に記載されていないことを主張し、(iii)選択吸着率2.6?4.7の発明は本件特許の一部にすぎず、先行特許P2の選択吸着率1.62?1.76も先行特許発明P2の一部にすぎず、それぞれの発明を全体として対比したものではないから、本件発明の全体が甲第3号証発明(先行特許発明P2)に対して優れた効果を奏するとはいえない旨を主張し、(iv)甲第3号証には、細孔容積に関して、細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると、毒性物質に対する高い吸着性を維持しつつ、有益物質に対する吸着特性が有意に低下すること、及び、かかる細孔容積が大きくなればなるほど有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましいことを記載しているから、本件特許発明の選択吸着率が多少優れているとしても、先行特許P2(甲3)の前記記載内容を考慮すれば、そのような本件特許発明の効果は当業者の予測の範囲内といえ、格別に顕著とはいえない旨を主張している。
しかし、前記「(6-1-3)」で検討したように、「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭」が本件発明の効果を奏しないと言うことができないものであること、及び、フェノール樹脂とイオン交換樹脂は、同じ熱硬化性樹脂として扱われているものであり、両者を同列に扱い、データについても両者のものを併せ評価することは妥当であると解されることから、前記(i),(ii)の主張は、失当であり採用できない。また、全範囲全てにわたって対比データが必要であるわけではなく、データの無い部分について作用効果を奏さないとの明らかな疑義があるわけでもないから、本件発明1全体として作用効果を奏していると解すべきであって、前記(iii)の主張は失当であり、採用できない。また、甲第3号証の選択吸着率のデータは、甲第3号証に記載された方向性を勘案した上で提示されているものと解すべきであり、データで示された甲第3号証発明のピッチを炭素源とする球状活性炭の選択吸着率に比べ、フェノール樹脂またはイオン交換樹脂を球状活性炭の炭素源とすることでより優れた選択吸着率のものが得られることは上記検討のとおり予測を超えているというべきであるから、前記(iv)の主張は失当であり、採用できない。

2)前記(a)の点に基づく相違点の検討
このような作用効果の観点からみれば、甲第1号証発明において、前記フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を炭素源とした活性炭を用いることを思い至ったところで、せいぜい実施例(比較例として示されている)のある石油系ピッチを原料とする場合と同程度の経口用活性炭としての作用効果が期待できる程度というべきであって、前記選択吸着率については甲第1号証発明において言及されていないものであるから、本件発明1で目的・作用効果としている選択吸着率が優れていることまで予測することなどできるものではない。

ところで、請求人は、甲第2号証と甲第3号証も引用しているので、更に検討する(なお、甲第5号証も引用しているが、審判請求理由における甲第5号証は本件発明3,5の特定事項に対して引用されているにすぎない。)。

甲第2号証には、球状活性炭に関するものであり、その炭素源としては、熱硬化性樹脂を用いることができ、実施例ではフェノール樹脂を用いた例が示されていて、その用途としては、「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」を含めて各種幅広く用途が示されていると言えるが、「経口投与用吸着剤」であることまでは明示されていないし、本件発明1で目的とする選択吸着率にいて言及もない(後記(6-5),(6-6)も参照)。また、甲第3号証には、球状活性炭の炭素源として、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂について言及はなく、石油ピッチ系のみが説明されているにすぎず、本件発明1と同じ吸着選択率の課題が記載されているものの、その達成された吸着選択率は、実施例で1.62?1.76程度であり(石油系ピッチを炭素源とする点で本件明細書に記載の比較例1に相当)、本件発明1に比べて劣るものと認められる(後記(6-7),(6-8)も参照)。
なお、弁駁書において請求人は、乙第1号証によっても球状活性炭が経口的腎疾患治療剤として有効であることが知られている旨を主張するが、球状活性炭の炭素源として、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂について言及はなく、重質炭化水素を炭素源とするものであり、しかも吸着選択率について言及もない。

更に、弁駁書において請求人は、(α)ピッチ以外の原料から製造した球状活性炭を経口投与用吸着剤として利用することは、甲1、甲4、甲6、甲11を挙げて、周知である旨を主張し、(β)ピッチ以外の原料、特にフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を原料とする球状活性炭の製法については、甲2、甲5、甲11等の技術水準に基づいて容易である旨を主張し、(γ)経口投与した際の効果について、甲3、甲4、乙1にはピッチからの球状活性炭が肝腎疾患治療用等の経口投与吸着剤として有効であること薬理データをもって示されているから、フェノール樹脂からの球状活性炭を経口投与用吸着剤として使用できることを主張している。
しかし、(α)の点については、甲1と甲4と甲6は、ピッチ系を炭素源とする実施例が示されているにすぎない。そして、甲11には、前記「5.」の甲第11号証の摘示の記載からみて、医薬剤としての硬化性樹脂を炭素源とした吸着除去能がすぐれた粒状活性炭に関するものであり、実施例を含め、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いる場合についての記載もあり、その使用方法に関し、直接血液灌流を実施する場合のほか、経口投与タイプのものとしても使用可能であることが開示されているものの、従来の活性炭を使用した場合に存した炭塵や発ガン物質の体内への溶出といった欠陥を防止するため、これらの溶出の可能性がない粒状活性炭を目指したものであり、その吸着能についても、従来の活性炭と同程度で十分と考えられていたものであって、特定の炭素源を用いることにより優れた選択吸着能を得ることについて示唆するところはないから、当業者が甲11に記載された発明に接したとしても、せいぜい、熱硬化性樹脂の一種としてフェノール樹脂を用いた場合に、従来の活性炭と同程度の吸着能が得られることが理解できるにとどまるというべきである。そして、(β)の点の主張のようにフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を原料とする球状活性炭の製造が容易であり、(γ)の点の主張のようにピッチを炭素源とする経口吸着剤が経口吸着剤として有効であるとしても、甲第1号証?甲第6号証、甲第11号証、乙第1号証の記載からは、フェノール樹脂等を炭素源とする経口吸着剤の選択吸着率が優れたものであることが示唆されるものではない。

以上のとおりであるから、甲第2号証と甲第3号証又は乙第1号証、更に甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第11号証の記載を勘案したところで、甲第1号証発明において、前記フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を炭素源とした球状活性炭を経口投与用吸着材とすることにより選択吸着率が優れたものが得られることは、容易に想い到ることができないものである。

3)請求人の他の主張についての検討
ところで、請求人は次の(I)?(M)の点も主張するが、次に示す理由で上記容易性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記容易性の判断に影響するものではない。

(I)請求人は、特定の細孔容積の点(前記「(b)」の点)で新規性を有することに対し、「甲第1号証に記載の通り、腎臓や肝臓に機能障害をもつ患者の病態改善のため、活性炭により代謝老廃物等を生体から取り除くことが行われているところ、これらの代謝老廃物等の除去すべき物質の除去効率を高めるために、最適な活性炭の細孔容積を検討することは、当業者にとって技術常識といえ、設計事項の範囲内である。」とし、「甲第2号証には、細孔直径10?10000nmの細孔容積が大きいと分子量の大きい有益成分も吸着すること及び細孔直径1nm以下の細孔が低分子量の有害物質の吸着に有効であることが記載され、甲第3号証には、細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04?0.10mL/gに調整すると、毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ、有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下し、細孔直径20?15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましいことが記載されている。」から、「引用発明1において、甲第2号証及び甲第3号証の記載を考慮して、活性炭の細孔容積を検討して本件発明1の構成D1(当審注:細孔容積の特定)とすることは容易である。」と主張している。
しかし、該主張は、球状活性炭の炭素源として、フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を用いることで、ピッチを炭素源とする場合に比べ優れた選択吸着率のものが得られることを示唆するものではないから、前記当審の判断を左右するものではない。

(J)請求人は、本件発明の作用効果に関し、「本件明細書の実施例には、R値が1.4以上の活性炭からなる経口投与用吸着剤は何らかの効果を示すことが記載されているかもしれないが、本件発明1のようにR値が1.4未満の活性炭からなる経口投与用吸着剤の効果は何ら記載も示唆もされていないし、これが記載されているとする根拠もない。」から、「本件発明1は、本件明細書によれば、活性炭の細孔容積を特定の範囲とすることにより格別に顕著な効果を奏するとはいえない。」旨、及び、「仮に、本件発明1の効果が、実施例記載のR値が1.4以上の活性炭の効果と同等であることが類推できるとしても」、「本件発明1における活性炭の同細孔容積は、本件請求項1によれば0.25mL/g以下の広範囲にわたるところ、本件明細書により効果が実証されているのはごく一部である0.04又は0.06mL/gの実施例1?4の4例に過ぎない(段落【0047】【表1】、同【0049】【表2】)。この実証値0.04又は0.06mL/g以外の範囲、例えば0.01?0.03mL/gの範囲或いは0.07?0.25mL/gの範囲において、実証範囲と同じ効果が奏されるか否か不明であるが、同細孔容積が0.11又は0.15mL/gである比較例1及び2の活性炭が効果を奏しないことからすれば、0.1?0.25mL/gの範囲においては、むしろ効果を奏しないと解するのが妥当である。」から、「本件発明1の効果は格別に顕著なものとはいえない。」旨、さらに、「比較例1及び2は、ピッチからの活性炭として同細孔容積が0.11又は0.15mL/gのもののデータを記載し、これらのデータからピッチからの活性炭の選択吸着特性が良好でないとしているが、ピッチからの活性炭であって、同細孔容積が実施例のように0.04又は0.06mL/gのものがどのような効果を奏するか記載されていないので不明である。しかし、フェノール樹脂からの同細孔容積が0.04又は0.06mL/gの活性炭が効果を奏することからすれば、かかるピッチからの活性炭も効果を奏するとするのが妥当である。つまり、本件発明1は、その効果が本件発明1の全範囲にわたって証明されていないし、ピッチからの活性炭に比べ格別に顕著であることも全く証明されていない。」旨を主張し、よって、本件発明1は、同細孔容積を特定の範囲とすることにより格別に顕著な効果を奏するとはいえないと主張している。
しかし、前記「(6-1-2)」,「(6-1-3)」で検討したように、該請求人の主張は失当であり、更に、前記「本件発明1の作用効果について検討する」で検討したように、本件発明1は所期の作用効果を奏するものと認められるから、該請求人の主張は採用できない。

(K)請求人は、弁駁書において、「甲1記載の吸着剤は、未添着の活性炭が適用できる腎不全治療用途に加え、腎不全患者が併発する高リン血症にも適用できるものである。そして、甲3や乙1に記載されているように、球状活性炭が経口的腎疾患治療剤として有効であることは周知である。してみると、甲1には、添着された吸着剤の用途として開示された「経口的腎疾患治療剤」のうち、高リン血症を併発した腎疾患以外の腎疾患の治療剤として、未添着の活性炭を有効に使用できることが少なくとも示唆されている。」と主張している。
しかし、第1表(摘示(1-x)参照)の「未添着球状活性炭」は、活性炭製造例で生成した球状活性炭であって、ピッチ系を炭素源とする球状活性炭である点で、本件発明1の球状活性炭と相違するし、そもそも第1表のデータは、血清を用いていること(摘示(1-x)参照)からも明らかなように血液灌流用の用途を想定したものであり、経口的腎疾患治療剤としての用途を意図したものではないし、クレアチニンについての吸着率は本件発明1で作用効果とする選択吸着率とは異なるものであるから、また、甲3や乙1に記載されている経口的腎疾患治療剤の球状活性炭は、実施例では石油ピッチ系または重質炭化水素を炭素源とするものであって、フェノール樹脂やイオン交換樹脂を炭素源とするものではなく、たとえ甲3や乙1を勘案したとしても、経口的腎疾患治療剤の球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂やイオン交換樹脂を用い優れた選択吸着率の球状活性炭が得られると思い至ることはできない。

(L)請求人は、弁駁書において、「本件発明1は格別に優れた選択吸着特性を示すものではないので、本件発明1は、甲1に記載された活性炭の炭素源の中からフェノール樹脂を選択したとはいえず、これを選択する動機付けの存在は甲1に不要である。甲1には、活性炭の炭素源としてフェノール樹脂が明示的に記載されているのであるから、これを選択するのは、想到容易性の判断基準である動機付け以前の問題の引用刊行物にまさに記載されている事項であり、少なくとも、前記周知技術に照らして当業者にとっては単なる設計事項の範囲内にすぎない。」と主張する。
しかし、上記検討してきたように本件発明1が格別に優れた選択吸着特性を示すので、選択吸着特性を示すものではないとの誤った前提を根拠とする前記請求人の主張は失当であり、採用できない。また、甲1に炭素源としてフェノール樹脂の記載はあるものの、フェノール樹脂を炭素源とすると選択的吸着特性を示す経口的吸着剤との認識が無いのであるから、フェノール樹脂の選択が単なる設計事項であるとの主張も失当であり、採用できない。

(M)請求人は、弁駁書において、「酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で優れた選択吸着性を有することは本件発明1の進歩性とは無関係であること」を主張するが、更なる処理(酸化処理及び還元処理)を施さないものの評価を無関係であると否定することは、適切な作用効果の評価であるとは認められないから、該請求人の主張は失当であり、採用できない。

4)まとめ
したがって、本件発明1の作用効果が、上記のとおり(当該発明の他の構成を伴って)炭素源としてフェノール樹脂またはイオン交換樹脂を選択したこと((a)の点での相違点)によって、格別予想外に優れているから、炭素源の選択に格別の困難性があるといえるので、他の相違点((b),(c)の点での相違点)について実質的に相違するかどうか乃至はその相違が容易に想い到るものかどうかを検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても、甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。

(6-4-2)本件発明2?7について
本件発明4は、本件発明1の球状活性炭を更に表面処理することにより、本件発明1の発明特定事項に加えて、「全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり」との発明特定事項を更に追加して、「表面改質状球状活性炭」としたものと認められるから、前記「(6-4-1)」において本件発明1が、甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第1号証発明から当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
同様に、本件発明2,3,5?7は、本件発明1または本件発明4を引用し、更に別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-4-1)」において本件発明1が甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、また、前記本件発明4が甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
ところで、請求人は、本件発明3,5について、甲第5号証を引用し炭素化収率にいて言及しているが、また、本件発明2,6,7についも、それぞれ特定する事項について容易であると言及されているが、いずれも前記の判断に影響を与えるものではなく、更に検討を要するものではない。
よって、本件発明2?7は、甲第2号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても、甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。


(6-5)無効理由3(請求項1?3;特許法第29条第1項第3号違反;甲第2号証)について

(6-5-1)本件発明1について
甲第2号証には、上記「5.」の甲第2号証の摘示(例えば、摘示(2-i)参照)によれば、そして、実施例でフェノール樹脂を炭素源としていること(摘示(2-vi),(2-xi)参照)、比表面積がBET法によって求められたものと認められること(摘示(2-x)の段落【0044】参照)に鑑み、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。
「フェノール樹脂を炭素源とし、比表面積700?1600m^(2)/g(BET法による)、細孔直径0.01?10μmの細孔容積が0.15cc/g以下、細孔直径10nm以下の細孔容積が0.20?1.20cc/gであり、かつ細孔直径10nm以下の細孔容積に占める細孔直径1nm以下の細孔容積の割合が78vol%以上であり、充填密度が0.55?0.80g/cc、破砕強度が40kg/cm^(2)以上である粒子直径150?2000μmの球状炭素材。」

そこで、本件発明1と甲第2号証発明とを対比する。
(a)甲第2号証発明の「球状炭素材」は、その具体的製造手段である真球状フェノール樹脂を「600℃で、3時間窒素気流中で炭化し、その炭化物を850℃、900℃及び950℃で6時間、水蒸気飽和した窒素気流中で賦活」処理をしていること(摘示(2-xi)参照)に鑑みて、活性炭が製造されていると認められることから、本件発明1の「球状活性炭」に相当する。
(b)甲第2号証発明の「粒子直径150?2000μm」(換言すると0.15?2mm)は、実際に粒子直径150?2000μmの真球状のフェノール樹脂を得ていること(摘示(2-xi)参照)を勘案し、本件発明1の「直径が0.01?1mmであり」に対応し、両者は、「直径が0.15?1mm」で一致する。
(c)甲第2号証発明は、特定の比表面積、特定の細孔容積を特定している点で、本件発明1と軌を一にしている。

してみると、両発明は、
「フェノール樹脂を炭素源として製造され、直径が0.15?1mmであり、特定の比表面積、特定の細孔容積である球状活性炭。」
で一致するが、次の相違点1?4で相違する。
<相違点>
1.球状活性炭の用途について、本件発明1では「経口投与用吸着剤」と特定しているのに対し、甲第2号証発明ではそのように特定していない点
2.比表面積について、本件発明1では、「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上」と特定しているのに対し、甲第2号証発明では、「700?1600m^(2)/g(BET法による)」と特定している点
3.細孔容積について、本件発明1では、「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満」と特定しているのに対し、甲第2号証発明では、「孔直径0.01?10μm(当審中:10nm?10000nm)の細孔容積が0.15cc/g以下、細孔直径10nm以下の細孔容積が0.20?1.20cc/gであり、かつ細孔直径10nm以下の細孔容積に占める細孔直径1nm以下の細孔容積の割合が78vol%以上」と特定している点
4.本件発明1では、「但し、式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く」と特定しているのに対し、甲第2号証発明ではそのように特定されていない点

そこで、先ず、相違点1について検討する。
甲第2号証には、発明の属する技術分野として「液相系、及び気相系に於いて存在する特定の物質に対し、吸着及びまたは触媒作用を及ぼし、これら物質を除去または分解するのに適した、浄水器、超純水製造装置、空気清浄機、悪臭・有機溶剤等の分離・回収装置、特定物質の分離・精製装置、人工臓器等に於いて、また医薬品等ファインケミカル分野に於ける不純物除去、生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材、触媒、触媒担体として使用される」(摘示(2-ii)参照)とされているから、甲第2号証発明の球状活性炭としては、「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」を含めて各種幅広く用途が示されていると言えるが、「経口投与用吸着剤」であることまでは明示されていない。
そして、甲第2号証発明において、細孔容積は、低沸点有機塩素化合物等の吸着を意図して規定されているものと認められこと(摘示(2-vii),(2-viii)参照)、粒子直径は、カラム等に充填して使用する際の充填時の操作性に鑑み規定されているものと認められること(摘示(2-ix)参照)、更に、実施例では「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」としての使用が具体的に記載されていないことを勘案すると、甲第2号証発明の球状活性炭が経口投与用に最適化されたものと言うことができない。
そうすると、相違点1に係る「経口投与用吸着剤」との本件発明1の発明特定事項は、甲第2号証発明との実質的な相違点といえる。

ところで、請求人は次の(A)?(C)の点も主張するが、次に示す理由で上記同一性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記同一性の判断に影響するものではない。
(A)請求人は、「同球状炭素材は、生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用されるものであり、この用途を人工臓器などの潅流吸着剤と区別して記載していることから(・・)、「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着剤」との記載は、経口投与用(服用)吸着剤を開示しているに等しい。」と主張する。
しかし、上記検討のとおりであって、経口投与用(服用)吸着剤を開示しているに等しいとすることは妥当ではないから、該請求人の(A)の主張は採用できない。

(B)弁駁書において請求人は、人工臓器は主に直接濯流用吸着剤としての使用であることは当業者にとって自明であるから、これとは明確に区別して記載されている「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」は直接濯流用以外の用途で使用されるものであり、甲2に記載された従来技術としての「生体内の特定物質除去用吸着剤」の用途は、生体内の特定物質の除去等のための球状炭素材の従来から知られている用途といえ、これが、例えば、甲1、甲3、甲11及び乙1に記載され周知となっている「経口投与用吸着剤」への使用であることは明白である旨を主張し、また
(C)生体内から除去すべき特定物質としては、第一に毒性物質が想定されるから、甲2記載の生体内の特定物質には毒性物質が黙示的に包含されているといえるところ、本件発明1は経口投与用吸着剤ではあるが、その吸着対象が毒性物質、特にβ-アミノイソ酪酸に限定されているわけではないから、たとえ、甲2に吸着対象としてβ-アミノイソ酪酸などの毒性物質について明示の記載がないとしても、このことをもって、甲2には「経口投与用吸着剤」への使用が開示されていないということは失当である旨を主張している。
しかし、該(B)の主張については、人工臓器と並んで「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」が記載されていることが直ちに「経口投与吸着材」を意味するものではないし、甲1、甲3、乙1は、ピッチ系等を炭素源とする具体例はあるものの、実際に「フェノール樹脂またはイオン交換樹脂」を炭素源とすれば選択吸着率が優れたものとなることを示唆するものではないし、甲第11号証については、フェノール樹脂の記載はあるが、その使用方法に関し、直接血液灌流を実施する場合のほか、経口投与タイプのものとしても使用可能であることの開示があるものの、そもそも従来の活性炭を使用した場合に存した炭塵や発ガン物質の体内への溶出といった欠陥を防止するため、これらの溶出の可能性がない粒状活性炭を目指したものであり、その吸着能についても、従来の活性炭で十分と考えられていたものであるから、経口投与吸着剤とする球状活性炭の炭素源として、「フェノール樹脂またはイオン交換樹脂」を用いることで選択的吸着特性が得られることは、記載も示唆もなく、容易であるとも認められない。また、該(C)の主張については、生体内から除去すべき特定物質としては、第一に毒性物質が想定されたとしても、本件発明1で目的とする選択吸着率が優れている点を示唆するものではないから、いずれの主張も失当であり採用できない。

更に、請求人は、甲第2号証における実施例における細孔容積を甲第7号証を引用して推定し、また、BET法による比表面積のラングミュア吸着法による比表面積の換算について言及し、また、相違点4に係る除外規定については新規性判断においては考慮する必要がない旨を主張するが、いずれも、前記「(6-3-1)」の(A)と(B)と(D)の主張に対する当審の判断を援用することができるし、また、前記請求人の推定と言及と主張が妥当であるか否かによって上記当審の判断は影響されない。

以上のとおりであるから、相違点2?4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であると言うことができない。

(6-5-2)本件発明2,3について
本件発明2,3については、本件発明1を引用するもので、且つ、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-5-1)」において本件発明1は甲第2号証に記載されていないとされた理由と同じ理由で、甲第2号証に記載された発明ではない。

(6-6)無効理由4(請求項1?7;特許法第29条第2項違反;甲第2号証並びに甲第1,3,5号証)について

(6-6-1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証発明との一致点、相違点(相違点1?4)は、前記「(6-5-1)」で記載したとおりである。

請求人は、甲第1号証は経口的腎疾患治療用を、甲第3号証は経口腎肝疾患治療用を記載しているから、甲第2号証発明の用途を経口投与用とすることは容易であると主張している。なお、甲第5号証は、審判請求理由において本件発明1に対し引用されたものではない。

そこで、先ず相違点1について検討する。
甲第2号証発明において、「生体内の特定物質の除去等に於いて好適に使用される吸着材」の用途は、実施例もない単に羅列列挙されている一用途にすぎないこと、及び経口投与吸着材を明示するものではないことは、前記「(6-5-1)」において既に指摘したとおりである。
ところで、甲第1号証には、MgO-TiO_(2)を添着(担持)した活性炭が記載されているが、担体である活性炭のみを経口投与用吸着剤として用いる動機付けは無いと言えるし、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を炭素源とし得るとの記載はあるものの実施例はピッチを炭素源とするものであり、仮にこの活性炭を経口投与用腎疾患治療用に用いるとしても、また甲第3号証には経口腎疾患治療用の球状活性炭が記載されているが、いずれも実際に用いられている球状活性炭はピッチ系を炭素源とするものである。
これに対し、本件発明1では、「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を炭素源として用いることにより、球状活性炭の炭素源としてピッチ系のものを用いるのに比べ、「DL-β-アミノイソ酪酸の残存量に対するα-アミラーゼの残存量から計算される選択吸着率において格別の作用効果を奏していると認められる(前記「(6-4-1)の1)」における「本件発明1の作用効果についての検討」を参照)。

ところで、請求人は次の(D)?(F)の点も主張するが、次に示す理由で上記容易性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記容易性の判断に影響するものではない。なお、弁駁書において請求人は、前記「(6-5-1)」で検討した「(B)」と「(C)」の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。

(D)請求人は、本件明細書は、実施例において、R値が1.4以上である球状活性炭の効果を記載しているかもしれないが、R値が1.4未満である球状活性炭からなる本件発明1の効果を記載も示唆もしていないし、仮に、本件明細書にR値が1.4未満である球状活性炭からなる本件発明1の効果が示唆されているとしても、その効果は、甲第2号証には、低分子量の成分(有害成分)を吸着し、より分子量の大きい成分(有益成分)を吸着しないようにするため、細孔直径10?10000nmの細孔容積及び細孔直径1?10nmの細孔容積をなるべく小さくすることが好ましいことを記載されているし、甲第3号証には、経口投与用の活性炭において、細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04?0.10mL/g未満に調整すると、毒性物質であるβ-アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ、有益物質であるα-アミラーゼに対する吸着特性を有意に低下でき、細孔直径20?15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましいことが記載されているから、甲第2及び3号証に記載の効果と同一であり、その程度も格別とはいえないから、本件発明1は、甲第2号証発明に比べ格別に顕著な効果を奏するとはいえない旨を主張している。
しかし、本件発明1の作用効果についてはR値に関係なく奏されるものと認められるものであるし、また、甲第2号証の前記指摘された記載は本件発明1の選択吸着率を示すものではないし、甲第3号証の前記指摘の吸着特性は本件発明1の選択吸着率と同じ物ではあるが、ピッチ系を炭素源とする球状活性炭を用いているため、本件発明1の選択吸着率に比べ劣っているものであるから、本件発明1の効果は、甲第2及び3号証に記載の効果と同一ではないし、その程度も優れたものであり、予想を超えるものと言うべきであるから、請求人の前記(D)の主張は、失当であり、採用できない。

(E)請求人は、甲第3号証における甲第7号証を引用して推定(前記「(6-3-1)の(A)」で引用した請求人の換算方法)し、また、BET法による比表面積のラングミュア吸着法による比表面積の換算について言及しているが、上記当審の判断は、細孔容積と比表面積の点を根拠とするものではないので、前記請求人の推定と言及が妥当であるか否かによって上記当審の判断は影響されないから、その検討を要としない。なお、前記「(6-3-1)の(A)」で引用した請求人の換算方法が不適切であることは、前記「(6-3-1)の(A)」で検討したとおりである。
また、相違点4に係る除外規定については技術的な意義がないから考慮する必要がない旨を主張するが、前記「(6-3-1)の(D)」の主張に対する当審の判断と同じであり、同様に上記当審の判断は影響されない。

(F)弁駁書において、前記「(6-4-1)の2)」で検討した、甲第1号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証を引用した(α)?(γ)の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。

そうすると、甲第1号証および甲第3号証の記載を勘案したとしても、更に甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても、甲第2号証発明のフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭を、格別の選択吸着特性を有する経口投与吸着剤として思い至ることは、当業者にとって容易であったとは言えない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点2?4について検討するまでもなく、甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。

(6-6-2)本件発明2?7について
本件発明4は、本件発明1の球状活性炭を更に表面処理することにより、本件発明1の発明特定事項に加えて、「全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり」との発明特定事項を更に追加して、「表面改質状球状活性炭」としたものと認められるから、前記「(6-6-1)」において本件発明1が、甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
同様に、本件発明2,3,5?7は、本件発明1または本件発明4を引用するもので、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-6-1)」において本件発明1が甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、また、前記本件発明4が甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
ところで、請求人は、本件発明3,5?7については、甲第5号証を更に引用し、「炭素化収率を40重量%以上と定めることは格別の困難性はなく当業者がなし得る最適数値の選択にすぎない」旨を主張しているが、この点は、上記容易性の判断に影響するものではない。

よって、本件発明2?7は、甲第1号証および甲第3号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても、甲第2号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。


(6-7)無効理由5(請求項1,2,4,6,7;特許法第29条第1項第3号違反;甲第3号証)について

(6-7-1)本件発明1について
甲第3号証には、上記「5.」の甲第3号証の摘示(特に、(3-i)参照)によれば、
「直径が0.01?1mmであり、BET法により求められる比表面積が700m^(2)/g以上であり、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり、全酸性基が0.30?1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20?0.70meq/gである多孔性球状炭素質物質からなる経口投与用吸着剤。」
の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本件発明1と甲第3号証発明とを対比する。
(a)甲第3号証発明の「多孔性球状炭素質物質」は、流動床を用いて加熱空気を通じながら235℃まで昇温し、水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で900℃で賦活処理をして得ていること(摘示(3-x)参照)に鑑み、球状の活性炭と認められることから、本件発明1の「球状活性炭」に相当する。
(b)甲第3号証発明の「平均粒径0.01乃至1mm」は、本件発明1の「直径が0.01?1mmであり」に相当し、両者は、「粒径0.01?1mm」で一致する。
(c)甲第3号証発明の「BET法により求められる比表面積が700m^(2)/g以上であり」は、本件発明1の「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり」に対応するが、測定方法が異なるため直接的な対比ができないが、特定数値以上である点で軌を一にする。
(d)甲第3号証発明の「細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり」は、本件発明1の「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」に対応するが、細孔容積を求めるために特定する細孔直径が異なっているため、直接的な対比ができないが、細孔直径の特定範囲の細孔容積が特定数値未満である点で軌を一にする。

してみると、両発明は、
「直径が0.01?1mmであり、比表面積が特定数値以上であり、そして細孔直径の特定範囲の細孔容積が特定数値未満である球状活性炭からなる経口投与用吸着剤。」
で一致するが、次の相違点1?4で相違する。
<相違点>
1.炭素源について本件発明1では「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源」と特定しているのに対し、甲第3号証発明では、そのような言及が無く、「石油系ピッチ」を炭素源としている点
2.比表面積について、本件発明1では、「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上」であると特定しているのに対し、甲第3号証発明では「BET法により求められる比表面積が700m^(2)/g以上」と特定している点
3.細孔容積について、本件発明1では、「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」であると特定しているのに対し、甲第3号証発明では「細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり」と特定している点
4.本件発明1では、「但し、式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く」と特定されているのに対し、甲第3号証発明では、そのような言及がない点

そこで、先ず相違点1について検討する。
甲第3号証発明では、多孔性球状炭素物質(即ち球状活性炭)を製造するための原料としては、「石油ピッチ又は石炭ピッチ等のピッチ」(摘示(3-vi)参照)が用いられ、実施例では石油系ピッチが使用されている(摘示(3-vii)参照)ところ、それ以外の原料については何も言及されていない。
そうすると、本件発明1で「フェノール樹脂とイオン交換樹脂を炭素源とする」ことの相違点1は実質的な相違点と言える。

ところで、請求人は次の(A)?(E)の点も主張するが、次に示す理由で上記同一性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記同一性の判断に影響するものではない。
(A)請求人は、「吸着剤を構成する活性炭がどのような炭素源から製造されようとも、得られた活性炭が物として同一であれば、本件発明1に含まれることとなる」ことから、「本件発明1の構成A1「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され」は、フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造された活性炭がそれ以外を炭素源として製造された活性炭と物として区別できない限り、活性炭の特定には役立たないことになり、本件発明1における活性炭と引用発明3における活性炭は、比表面積と細孔容積については実質同一であり、除外規定の有無で相違するものの技術的意義がないからその点も実質同一であるため、「物として区別できないのであるから、本件発明1の構成A1は本件発明1の特定に役立っていないといえ、引用発明3の相当構成「例えばピッチを炭素源として製造され」は、本件発明1の構成A1と同一である。」旨を主張し、また、
(B)「フェノール樹脂からの本件発明1がピッチからの活性炭に比べて格別に顕著な効果」は、本件発明1に限定されていないし、「顕著な効果を奏することを本件明細書は記載していない」旨を主張するとともに、本件発明1で特定されている細孔容積(0.25mL/g以下)は広範囲にわたるところ、本件明細書でその効果が実施用されているのはごく一部で、全範囲にわたって証明されていないし、ピッチからの活性炭に比べて格別に顕著であることも全く証明されていない旨を主張している。
しかし、前記「(6-4)」で検討しているように、球状活性炭の炭素源として「フェノール樹脂とイオン交換樹脂」を用いると、ピッチを炭素源とする場合に比べて優れた選択吸着性のものが得られるのであり、前記「(6-1-3)」で検討しているように本件発明1で特定する細孔容積の全範囲にわたって効果を奏することが証明されていないということができないから、物として同一であるとは言えないし、顕著な効果を奏していることも明らかであるから、被請求人の提出した乙第2?4号証を勘案するまでもなく、前記請求人の(A),(B)の主張は失当であり、採用できない。

弁駁書において請求人は、(C)乙2号証に記載された「貝殻状波面様」について反論し、(D)本件明細書に記載された対比データが不十分なため、本件発明1と甲第3号証の活性炭とは効果において区別できないことを主張し、(E)細孔直径20?15000nmの細孔容積を小さくすることは甲3においてすでに行われており、本件特許発明により初めて達成できたものではないから、「選択吸着特性を向上するために細孔直径20?15000nmの細孔容積を小さくすることは容易である」ことを主張する。
しかし、該(C)の反論については、上記当審の判断では引用していないので、検討するまでもない。そして、該(D)の主張については、炭素源として「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を選択したことにより、炭素源としてピッチのみが説明された活性炭に比べ選択吸着率が優れたものとなることは既に検討したとおりである(前記「(6-4-1)の1)」の本件発明1の作用効果についての検討を参照)。また、該(E)の主張については、新規性の判断において容易性を勘案することはできないから、該請求人の主張は失当である。更に、甲第3号証発明の細孔直径20?15000nmの細孔容積と本件発明1の細孔直径7.5?15000nmの細孔容積は、直接対比できないものであるし、選択吸着率の作用効果は、甲第3号証発明は本件発明1より劣っているのであるから、その甲第3号証の記載に基づいて更に選択吸着率を向上させることが容易であるとすることはできない。
よって、請求人の前記(C)?(E)の主張は失当であり、採用できない。

したがって、相違点2?4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証発明であるということができない。

(6-7-2)本件発明2,4,6,7について
本件発明4は、本件発明1の球状活性炭を更に表面処理することにより、本件発明1の発明特定事項に加えて、「全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり」との発明特定事項を更に追加して、「表面改質状球状活性炭」としたものと認められるから、前記「(6-7-1)」において本件発明1が甲第3号証に記載された発明ではないとされた理由と同じ理由で、甲第3号証に記載された発明ではない。
そして、本件発明2,6,7については、本件発明1または本件発明4を引用するもので、且つ、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-7-1)」において及び前記本件発明4の検討において本件発明1は甲第3号証に記載された発明ではないとされた理由と同じ理由で、甲第3号証に記載された発明ではない。

(6-8)無効理由6(請求項1?7;特許法第29条第2項違反;甲第3号証並びに甲第1,2,5,6号証)について

(6-8-1)本件発明1について
本件発明1と甲第3号証発明との一致点、相違点(相違点1?4)は、前記「(6-7-1)」で記載したとおりである。

請求人は、「経口投与用吸着剤を構成する活性炭の炭素源として、ピッチの代わりに熱硬化性樹脂又はその代表であるフェノール樹脂を使用することは、例えば・・甲第1号証及び甲第6号証(特開平8-208491)に記載のように、技術常識であった。」ことを理由に、相違点1は容易であると主張している。なお、甲第2号証と甲第5号証は、審判請求理由において本件発明3,5?7について引用されたものであり、本件発明1に対するものではない。

そこで、相違点1について検討する。
甲第1号証には、前記「(6-3-1)」で検討したように、担体としての球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を使用し得るとの記載はあるものの、実施例はピッチを炭素源とするものであり(実施例2?4も上記実施例1と同様、活性炭製造例で生成した球状活性炭を用いるものである)、そして、甲第6号証には、経口投与で用いる腎毒性軽減剤として球形活性炭を用いること(摘示(6-i),(6-ii)参照)、及び、球状活性炭の原料として「例えば、オガ屑、石炭、ヤシ殻、石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又は有機合成高分子を用いることができる」(摘示(6-iii)参照)ことが記載され、有機高分子焼成の球形活性炭として、特公昭61-1366号公報(即ち本件で引用された甲第5号証)が示され(摘示(6-iv)参照)、その甲第5号証にはフェノール樹脂が示され実施例にも用いられている(摘示(5-ii),(5-iii)参照)が、甲第6号証の実施例では石油ピッチ由来の球状活性炭が製造、使用されているだけである(摘示(6-v)参照)。

ここで、本件発明1の作用効果について検討すると、無効理由2についての前記「(6-4-1)の1)」での作用効果についての検討がそのまま適用でき、そのような作用効果の観点からみれば、甲第3号証発明において、前記フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を炭素源とした活性炭を用いることを思い至ったところで、せいぜい実施例のある石油系ピッチを原料とする場合と同程度の経口用活性炭としての作用効果が期待できる程度というべきであって、前記選択吸着率については甲第1,6号証発明において言及されていないものであるから、本件発明1で目的・作用効果としている選択吸着率が優れていることまで予測することなどできるものではない。

ところで、請求人は次の(F)?(H)の点も主張するが、次に示す理由で上記容易性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記容易性の判断に影響するものではない。なお、弁駁書において請求人は、前記「(6-7-1)」で検討した「(B)」?「(E)」の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。

弁駁書において請求人は、(F)「酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で優れた選択吸着性を有することは本件発明1の進歩性とは無関係であること」を主張し、また、(G)本件発明1は、甲第3号証発明に対して顕著な効果を奏しないことを主張する。
しかし、該(F)の主張については、更なる処理(酸化処理及び還元処理)を施さないものの評価を無関係であると否定することは、適切な作用効果の評価であるとは認められないから、該請求人の主張は失当であり、採用できない。また、該(G)の主張については、前記検討のとおり(引用した前記「(6-4-1)の1)」では甲第3号証も含めて検討している)失当であり、採用できない。

(H)弁駁書において請求人は、前記「(6-4-1)の2)」で検討した、甲第1号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証を引用した(α)?(γ)の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。

以上のとおりであるから、本件発明1の作用効果が、上記のとおり(当該発明の他の構成を伴って)炭素源としてフェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を選択したことによって、格別予想外に優れているから、炭素源の選択に格別の困難性があるといえるので、相違点2?4について実質的に相違するかどうか乃至はその相違が容易に想い到るものかどうかを検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証や甲第6号証の記載を勘案したとしても、更に、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても、甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。

(6-8-2)本件発明2?7について
本件発明4は、本件発明1の球状活性炭を更に表面処理することにより、本件発明1の発明特定事項に加えて、「全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり」との発明特定事項を更に追加して、「表面改質状球状活性炭」としたものと認められるから、前記「(6-8-1)」において本件発明1が甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
同様に、本件発明2,3,5?7は、本件発明1または本件発明4を引用するもので、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-4-1)」において本件発明1が甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、また、前記本件発明4が甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
ところで、請求人は、本件発明3,5?7については、甲第2号証と甲第5号証を更に引用し、「炭素化収率を40重量%以上と定めることは格別の困難性はなく当業者がなし得る最適数値の選択にすぎない」旨を主張しているが、この点は、上記容易性の判断に影響しない。

よって、本件発明2?7は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。


(6-9)無効理由7(請求項1?3;特許法第29条第1項第3号違反;甲第4号証)について

(6-9-1)本件発明1について
甲第4号証には、上記「5.」の甲第4号証の摘示(例えば、摘示(4-i),(4-ii)参照)によれば、
「直径0.05?2mm、表面積500?2000m^(2)/g、細孔半径100?75,000Åの範囲での細孔容積0.05?1.0cc/gの特性を有する、便秘性副作用のない、消化器系内の有害物質を除去することによつて解毒するために服用する球形活性炭からなる経口解毒剤。」
の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本件発明1と甲第4号証発明とを対比する。
(a)甲第4号証発明の「直径0.05?2mm」は、好ましくは0.2?1.0mmであるとされていること(摘示(4-iii)参照)、及び製造例として0.35?0.6mmのものが製造されていること(摘示(4-v)の第1表の試料2を参照)に鑑み、本件発明1の「直径が0.01?1mmであり」に対応し、「直径が0.2?1mm」で一致する。
(b)甲第4号証発明の「表面積500?2000m^(2)/g」は、本件発明1の「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上であり」に対応し、いずれも比表面積が特定されていることでは軌を一にしている。
(c)甲第4号証発明の「細孔半径100?75,000Åの範囲での細孔容積0.05?1.0cc/gの特性を有する」は、換言すると細孔直径20?15000nm範囲での細孔容積0.05?1.0mL/gであるから、本件発明1の「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」に対応するが、細孔容積を求めるために特定する細孔直径が異なっているため、直接的な対比ができないが、細孔直径の特定範囲の細孔容積が特定されていることで軌を一にしている。
(d)甲第4号証発明の「消化器系内の有害物質を除去することによつて解毒するために服用する球形活性炭からなる経口解毒剤」は、該解毒剤は活性炭の吸着作用によるものと認められる(摘示(4-v)の第1表で「吸着能」を測定している)ことから、本件発明1の「経口投与様吸着剤」に相当する。

してみると、両発明は、
「直径が0.2?1mmであり、比表面積が特定され、そして細孔直径の特定範囲の細孔容積が特定された球状活性炭からなる経口投与用吸着剤。」
で一致するが、次の相違点1?4で相違する。
<相違点>
1.炭素源について本件発明1では「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源」と特定しているのに対し、甲第4号証発明では、そのような言及が無く、「オガ屑、石炭、ヤシ殻、ピツチ類、有機合成高分子等の公知の原料の何れでもよい」とされ、実施例では「ピッチ」を炭素源としている点
2.比表面積について、本件発明1では、「ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m^(2)/g以上」であると特定しているのに対し、甲第4号証発明では「表面積500?2000m^(2)/g」と特定している点
3.細孔容積について、本件発明1では、「細孔直径7.5?15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である」であると特定しているのに対し、甲第4号証発明では「細孔半径100?75,000Åの範囲での細孔容積0.05?1.0c.c./gの特性を有する」と特定している点
4.本件発明1では、「但し、式(1):
R=(I_(15)-I_(35))/(I_(24)-I_(35)) (1)
〔式中、I_(15)は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I_(35)は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I_(24)は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く」と特定されているのに対し、甲第4号証発明ではそのような言及がない点

そこで、先ず相違点1について検討する。
甲第4号証発明では、球状活性炭を製造するための原料としては、「オガ屑、石炭、ヤシ殻、ピツチ類、有機合成高分子等の公知の原料の何れでもよい」とされ、それ以上具体的な言及はなく、実施例では「ピッチ」を炭素源としている例があるのみである。
そうすると、本件発明1で「フェノール樹脂とイオン交換樹脂を炭素源とする」ことの相違点1は実質的な相違点と言える。

ところで、請求人は次の(A)?(D)の点も主張するが、次に示す理由で上記同一性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記同一性の判断に影響するものではない。
(A)請求人は、「吸着剤を構成する活性炭がどのような炭素源から製造されようとも、得られた活性炭が物として同一であれば、本件発明1に含まれることとなる」ことから、「本件発明1の構成「A1:フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され」は、フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造された活性炭がそれ以外を炭素源として製造された活性炭と物として区別できない限り、活性炭の特定には役立たない。」ことになり、「本件発明1における活性炭と引用発明4における活性炭は、物として区別できないのであるから、本件発明1の構成A1は本件発明1の特定に役立っていないといえ、引用発明4の相当構成「有機合成高分子を炭素源として製造され」は、本件発明1の構成A1と同一である。」旨を主張し、
(B)「仮に、本件発明1の構成A1が物としての区別に役立っているとしても、球状活性炭の炭素源である有機合成高分子材料としてフェノール樹脂を用いることは本件優先日当時周知の事項であった。」即ち、「甲第1号証及び甲第6号証には、経口投与用の球状活性炭の炭素源である有機合成高分子として、フェノール樹脂を記載している。このように、本件優先日当時、医療用球状活性炭の分野においてフェノール樹脂を球状活性炭の炭素源とすることは周知技術であり、当業者にとって引用発明4における球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂を用いることは同号証に記載されているに等しい事項である。」と主張し、
(C)比表面積と細孔容積については実質同一であり、
(D)除外規定の有無で相違するものの技術的意義がないからその点も実質同一である旨を主張している。
しかし、前記「(6-4)」で検討しているように、球状活性炭の炭素源として「フェノール樹脂とイオン交換樹脂」を用いると、ピッチを炭素源とする場合に比べて優れた選択吸着性のものが得られるのであるから、たとえ球状活性炭の炭素源としての有機合成高分子にフェノール樹脂が使用し得るとの甲第1号証及び甲第6号証があっても(なお、いずれもその実施例においてはピッチを炭素源としている例しか示されていない)、「当業者にとって引用発明4における球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂を用いることは同号証に記載されているに等しい事項である」と言うことはできない。
よって、前記請求人の(A),(B)の主張は失当であり、採用できない。それゆえ、(C)の主張ついては検討するまでもなく、(D)の主張については前記「(6-3-1)の(D)」の主張に対する当審の判断と同じであり、いずれも上記当審の判断に影響しない。

なお、弁駁書において請求人は、甲第3号証記載の活性炭に対して述べたのと同じ理由で、フェノール樹脂等を炭素源として製造された本件発明1の活性炭は、甲第4号証記載の活性炭と、物の構造において、また、選択吸着性という効果においても区別できないから甲第4号証に対し新規性を欠如する旨を主張しているが、甲第3号証について検討したとおりの理由(前記「(6-7)」,「(6-8)」を参照)でいずれの主張も失当であり、採用できない。

(6-9-2)本件発明2,3について
本件発明2,3については、本件発明1を引用するもので、且つ、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-9-1)」において本件発明1は甲第4号証に記載されていないとされた理由と同じ理由で、甲第4号証に記載された発明ではない。

(6-10)無効理由8(請求項1?7;特許法第29条第2項違反;甲第4号証並びに甲第1?3,5,6号証)について

(6-10-1)本件発明1について
本件発明1と甲第4号証発明との一致点、相違点(相違点1?4)は、前記「(6-9-1)」で記載したとおりである。

請求人は、経口投与用吸着剤を構成する活性炭の炭素源として、ピッチの代わりに熱硬化性樹脂又はその代表であるフェノール樹脂を使用することは、例えば甲第1号証及び甲第6号証に記載のように技術常識であったとし、また、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂は周知であるとし、それを理由に、相違点1は容易であると主張している。また、甲第4号証に球形活性炭の製造には有機合成高分子と並んでピッチ類を用いることができることが記載されているところ、甲第3号証には、例えばピッチから製造した活性炭は、細孔直径20?15000nmの細孔容積が0.04?0.10mL/gであることが記載され、この活性炭が有益物質に対する有害物質の吸着量の比(選択吸着率)を向上させることも記載されているから、選択吸着率を向上するために、引用発明4において、甲第3号証の記載を考慮して、活性炭の細孔直径20?15000nmの細孔容積を0.04?0.10mL/gとすることは容易であり、また、細孔直径20?15000nmの細孔容積0.04?0.10mL/gは細孔直径7.5?15000nmの細孔容積2.5mL/g以下と同一であるから、細孔直径7.5?15000nmの細孔容積を0.25mL/g未満として本件発明1の構成D1とすることも容易であるといえるから、相違点3も容易であると主張している。
なお、甲第2号証と甲第5号証は、本件発明3,5及びそれを引用する本件発明について引用されているものであり、本件発明1について引用されたものではない。

そこで、先ず相違点1について検討する。
甲第1号証には、前記「(6-3-1)」で検討したように、担体としての球状活性炭の炭素源としてフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を使用し得るとの記載はあるものの、実施例はピッチを炭素源とするものであり(実施例2?4も上記実施例1と同様、活性炭製造例で生成した球状活性炭を用いるものである)、そして、甲第6号証には、経口投与で用いる腎毒性軽減剤として球形活性炭を用いること(摘示(6-i),(6-ii)参照)、及び、球状活性炭の原料として「例えば、オガ屑、石炭、ヤシ殻、石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又は有機合成高分子を用いることができる」(摘示(6-iii)参照)ことが記載され、有機高分子焼成の球形活性炭として、特公昭61-1366号公報(即ち本件で引用された甲第5号証)が示され(摘示(6-iv)参照)、その甲第5号証にはフェノール樹脂が示され実施例にも用いられている(摘示(5-ii),(5-iii)参照)が、甲第6号証の実施例では石油ピッチ由来の球状活性炭が製造、使用されているだけである(摘示(6-v)参照)。

ここで、本件発明1の作用効果について検討すると、無効理由2についての前記「(6-4-1)の1)」での作用効果についての検討がそのまま適用でき、そのような作用効果の観点からみれば、甲第4号証発明において、前記フェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を炭素源とした活性炭を用いることを思い至ったところで、せいぜい実施例のあるピッチを原料とする場合と同程度の経口用活性炭としての作用効果が期待できる程度というべきであって、前記選択吸着率については甲第1,6号証発明において言及されていないものであり、甲第1,6号証から、本件発明1で目的・作用効果としている選択吸着率が優れていることまで予測することなどできるものではない。
なるほど、甲第3号証発明は、本件発明1と同じ選択吸着率に着目したものであるが、単にその細孔容積を本件発明1と同じにすれば本件発明1と同じ選択吸着率が得られるのか不明であり、そもそも甲第3号証発明の実施例ではピッチが炭素源として用いられ、その選択吸着率は本件発明1と比べて劣るものであるから、炭素源としてフェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を選択したことによって甲第3号証に記載の選択吸着率より向上することを予測することなどできるものではない。

ところで、請求人は次の(E)?(G)の点も主張するが、次に示す理由で上記容易性の判断を左右できるものとは言えないし、更に、請求人のその他の主張、証拠を検討しても、いずれの主張、証拠も、上記容易性の判断に影響するものではない。なお、弁駁書において請求人は、前記「(6-9-1)」で検討した「(B)」?「(D)」の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。
(E)請求人は、本件明細書は、実施例において、R値が1.4以上である球状活性炭の効果を記載しているかもしれないが、R値が1.4未満である球状活性炭からなる本件発明1の効果を記載も示唆もしていないし、仮に、本件明細書にR値が1.4未満である球状活性炭からなる本件発明1の効果が示唆されているとしても、「本件発明1の活性炭の細孔容積は0.25mL/g以下の広範囲にわたるところ、効果が実証されているのはごく一部の0.04または0.06mL/gに過ぎず、また、本件発明1は、同細孔容積が0.04又は0.06mL/gのピッチからの活性炭と選択吸着率が比較されていないので、本件発明1の効果は格別に顕著なものとはいえない。」こと、さらに「本件発明1の効果は、有益物質に対するよりも毒性物質に対する吸着性に優れるという選択吸着性であるから、甲第3号証記載の発明の効果(・・有益物質に対するよりも毒性物質に対する吸着性に優れるという選択吸着性の効果)と同一であり、その程度も格別とはいえない。」旨を主張している。
しかし、本件発明1の作用効果についてはR値に関係なく奏されるものと認められるものであること、また、細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭の意義については前記「(6-1-3)」で検討したとおりで、本件発明1の作用効果については前記「(6-4-1)」の「本件発明1の作用効果について検討する」で検討したとおり所期の作用効果を奏するものと認められること、そして、甲第3号証の前記指摘の吸着特性は本件発明1の選択吸着率と同じ物ではあるが、ピッチ系を炭素源とする球状活性炭を用いているため、本件発明1の選択吸着率に比べ劣っているものであるので、本件発明1の効果は、甲第3号証に記載の効果と同一ではないし、その程度も優れたものであり、予想を超えるものと言うべきであることから、請求人の前記(E)の主張は、失当であり、採用できない。

(F)弁駁書において請求人は、甲第3号証記載の活性炭に対して述べたのと同じ理由で、甲第4号証記載のピッチからの活性炭において、甲1又は甲6の記載から、フェノール樹脂等を炭素源とする球状活性炭に想到するのは容易である旨、また、本件発明1は優れた選択吸着性を奏するとはいえないから、本件発明1は甲4等に対して進歩性を欠如する旨を主張しているが、甲第3号証について検討したとおりの理由(前記「(6-7)」,「(6-8)」を参照)でいずれの主張も失当であり、採用できない。

(G)弁駁書において請求人は、前記「(6-4-1)の2)」で検討した、甲第1号証乃至甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証を引用した(α)?(γ)の主張もしているが、前記検討したとおりの理由でいずれの主張も失当であり、採用できない。

以上のとおりであるから、本件発明1の作用効果が、上記のとおり(当該発明の他の構成を伴って)炭素源としてフェノール樹脂(またはイオン交換樹脂)を選択したことによって、格別予想外に優れているから、炭素源の選択に格別の困難性があるといえるので、相違点2?4について実質的に相違するかどうか乃至はその相違が容易に想い到るものかどうかを検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証と甲第6号証と甲第3号証の記載を勘案したとしても、更に、甲第2号証、甲第5号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても、甲第4号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。

(6-10-2)本件発明2?7について
本件発明4は、本件発明1の球状活性炭を更に表面処理することにより、本件発明1の発明特定事項に加えて、「全酸性基が0.40?1.00meq/gであり、全塩基性基が0.40?1.10meq/gであり」との発明特定事項を更に追加して、「表面改質状球状活性炭」としたものと認められるから、前記「(6-10-1)」において本件発明1が甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第4号証発明から当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第4号証発明から当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
同様に、本件発明2,3,5?7は、本件発明1または本件発明4を引用するもので、別途の発明特定事項を追加するものであるから、前記「(6-10-1)」において本件発明1が甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第4号証発明から当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、また、前記本件発明4が甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第4号証発明からから当業者が容易に想到し得たものであると認めることができないとされた理由と同じ理由で、甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案したとしても甲第4号証発明からから当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。
ところで、請求人は、本件発明3,5?7については、甲第2号証と甲第5号証を更に引用し、「炭素化収率を40重量%以上と定めることは格別の困難性はなく当業者がなし得る最適数値の選択にすぎない」旨を主張しているが、この点は、上記容易性の判断に影響しない。

よって、本件発明2?7は、甲第1?3号証、甲第5号証、甲第6号証、乙第1号証、甲第11号証の記載を勘案しても甲第4号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると認めることができない。


7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-09 
審決日 2009-09-25 
出願番号 特願2004-548107(P2004-548107)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 113- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治加藤 浩  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 塚中 哲雄
弘實 謙二
登録日 2006-08-04 
登録番号 特許第3835698号(P3835698)
発明の名称 経口投与用吸着剤、並びに腎疾患治療又は予防剤、及び肝疾患治療又は予防剤  
代理人 東崎 賢治  
代理人 山内 貴博  
代理人 山口 健次郎  
代理人 脇村 善一  
代理人 山内 真之  
代理人 古川 裕実  
代理人 安藤 雅俊  
代理人 城山 康文  
代理人 森田 憲一  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 山本 健策  
代理人 田中 昌利  

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