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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1256182
審判番号 不服2011-4837  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-02 
確定日 2012-05-02 
事件の表示 特願2004-139331「真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月17日出願公開、特開2005-320905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成16年5月10日の特許出願であって、平成22年12月14日付けで拒絶査定がなされ、平成23年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成23年3月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

【理 由】
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ポンプケース内で回転可能に支持されたロータの回転運動により、真空チャンバ内のガス分子を吸引して排気する真空ポンプであって、
少なくともポンプの流路を構成する部品の表面に表面処理層が設けられ、
前記表面処理層は、めっき処理を複数回に分けて成膜してなる二層以上のニッケル合金層から構成されており、
前記二層以上のニッケル合金層のうち、最上層のニッケル合金層の成分は、最下層のニッケル合金層の成分より酸化されやすい成分であり、
前記最上層のニッケル合金層の表層にニッケル酸化物が生成されており、
前記ニッケル酸化物は、前記最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより、前記最上層のニッケル合金層を構成するニッケル金属に生成されている
ことを特徴とする真空ポンプ。」と補正された(以下、「本願補正発明」という。)。

(2)補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「二層以上のニッケル合金層」に関し、「二層以上のニッケル合金層のうち、最上層のニッケル合金層の成分は、最下層のニッケル合金層の成分より酸化されやすい成分であり」と限定する補正(以下、「補正事項」という。)を含むものである。

(3)補正の目的の検討
(3-1)審査官による前置報告
上記の補正事項に関し、審査官は前置報告書において、以下の点を記載している。
『出願人は審判請求書において、「以上のように、当初明細書の段落[0055]には、最上層のニッケル合金層(上地ニッケル合金層432)では侵食(酸化)が起きる旨の記載があるので、最下層のニッケル合金層(下地ニッケル合金層431)と最上層のニッケル合金層(上地ニッケル合金層432)とではその成分が異なること、しかも、最上層のニッケル合金層(上地ニッケル合金層432)の方が酸化されやすいことは明確である。」と主張している。

確かに出願当初明細書の54段落には、下地ニッケル合金層と上地ニッケル合金層で成分が異なる構成は開示されている。
そして、出願人が主張するように、ニッケル合金層全体がプロセスガス(実施例では塩素系、フッ素系、アルゴン、クリプトン、キセノン)に対する耐食性と、酸化剤(実施例では硝酸、シュウ酸、硫酸)に対する酸化反応を兼ね備えた構成であることは認められる。
しかし、一種のニッケル合金層(例えば上地ニッケル合金層)自体の特性として当該耐食性と当該酸化反応を兼ね備えた特性であるとも解釈可能であり、ニッケル合金層全体が当該特性を有することと、下地ニッケル合金層と上地ニッケル合金層で成分が異なる構成であることだけをもって、「最上層のニッケル合金層の成分は、最下層のニッケル合金層の成分より酸化されやすい成分」であることまでが明示されていたとは認められない。

したがって、平成23年3月2日付手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。』

(3-2)請求人の主張
これに対し、請求人は、以下の主張を行っている。
平成23年10月6日付けの回答書の第3頁第9行から同書の第4頁第5行において、『下地ニッケル合金層と上地ニッケル合金層で成分が異なる構成が出願当初明細書の段落[0054]に開示されていることは原査定においても争いのないところである。
また、本願発明で用いる上地ニッケル合金層(最上層のニッケル合金層)は、表層にニッケル酸化物が生成されるので、酸化可能な成分からなることは、明らかである。
また、本願発明で用いる下地ニッケル合金層(最下層のニッケル合金層)は、段落[0003]にも示されているように、耐食性を向上させるために設けたのであるから、耐食性を有する成分からなることも明らかである。
この点に関して、原査定において、審査官は、「一種のニッケル合金層(例えば上地ニッケル合金層)自体の特性として当該耐食性と当該酸化反応を兼ね備えた特性であるとも解釈可能であり、」と述べている。
しかし、「酸化」は、本願明細書の段落[0033]にも記載されているように、例えば、ニッケルと酸化剤との反応において、ニッケルが酸素に電子を奪われる反応である。
また「腐食」は、本願明細書の段落[0003]に記載されているように、例えば、アルミニウムと塩素ガスが反応して塩化アルミニウムが生じる現象であり、この場合、アルミニウムは、塩素に電子を奪われるので「酸化」されたともいえる。このことはアルミニウムをニッケルに代えても同様であり、ニッケルが「腐食」されるとは、ニッケルが電子を奪われて「酸化」されることになる。
すなわち、耐食性を有する(腐食されにくい)とは、酸化されにくいということであり、この結果、「同一のニッケル合金層で耐食性と酸化反応を兼ね備えた特性を有するとも解釈可能である」とする審査官の主張は、同一のニッケル合金層で、酸化されにくいと、酸化されやすいとの相反する特性を有するとの主張に等しく、この主張には明らかな無理がある。 」と主張している。
さらに、平成23年11月28日付の請求人のファックスにおいて詳細に主張しているが、特に、第4頁第42行から同頁第45行において、『二層以上のニッケル合金層のうち、最上層のニッケル合金層の成分が、有効に酸化可能な成分からなり、最下層のニッケル合金層の成分が耐食性に優れた成分からなるとは、「二層以上のニッケル合金層のうち、最上層のニッケル合金層の成分は、最下層のニッケル合金層の成分より参加されやすい成分」からなることになります』と主張している。
そして、平成23年12月19日付のファックスの第2頁第6行から同頁第8行において、「この限定は、本願の出願当初の明細書(以下、当初明細書という)の段落【0033】、【0053】、【0054】、【0055】、図4の記載に基づくものであるが、当初明細書には、上記限定内容を直接示す記載はない。」と記載している。

(3-3)当審の判断
請求人が出願当初の明細書の根拠箇所であると主張する【0033】、【0053】、【0054】、【0055】、図4には、以下の点が記載されている。
「【0033】
また、ニッケル合金層43の表面には、酸化剤を反応させて表面のニッケルを強制的に酸化させたニッケル酸化物44が生成されている。すなわち、無電解めっきでニッケル合金層43の下地処理を施した部品を、硝酸やシュウ酸や硫酸などのように酸化剤の水溶液からなる薬液中に浸漬させるものとした。これにより、図3に示したように薬液とニッケル合金層43との境界面において、薬液中の酸化剤の作用で強制的に激しい侵食反応が起こり、ニッケル合金層43を構成しているニッケル結晶の表層から酸化が進み、やがてニッケル合金層43の表面のほぼ全面にわたって黒色に近いニッケル酸化物44が形成される。」

「【0053】
なお、このような耐食性と放熱性の双方に優れた表面処理層42の他の形態として、図4に示した構造を採用することもできる。同図に示した表面処理層421が図2の表面処理層42と異なる点は、ニッケル合金層43を積層構造としたことである。この表面処理層421は、アルミニウム合金製の母材41の上に、ニッケルをコーティングした下地ニッケル合金層431と、下地ニッケル合金層431の上に同じくニッケルをコーティングした上地ニッケル合金層432が設けられ、さらに上地ニッケル合金層432の表面にニッケルを酸化させたニッケル酸化物44が形成された構造になっている。
【0054】
下地ニッケル合金層431と上地ニッケル合金層432の二層のニッケル合金層を形成するために、前述した無電解ニッケルめっきの工程を二度に分けて成膜している。積層構造は二層に限らず三層以上であっても良く、同種のニッケルによる二層ニッケルや三層ニッケルめっきだけでなく、ニッケルと異種金属との合金めっきを使用でき、これらを任意に組み合わせることも可能である。ニッケルと異種金属との合金の例としてはニッケル-りん合金やニッケル-ボロン合金が挙げられる。
【0055】
このように、ニッケル合金層43を積層構造にする理由は次の二点にある。まず第一点は、最上層に位置する上地ニッケル合金層432にはその表面にニッケル酸化物44が形成されるが、この形成過程において酸化剤でニッケル結晶が侵食され、ニッケルの膜厚が減少するので、その膜厚減少に伴う耐食性の低下を防ぐためである。そして第二点は、図5に示すように、最上層にある上地ニッケル合金層432に出現したピンホールhを、それよりも下層にある下地ニッケル合金層432との境界面mで分断し、ピンホールhが上地ニッケル合金層432表面から母材41表面にまで貫通する確率を可能な限り低くするためである。このように、ニッケル合金層43を積層構造にすることでピンホールhを通じてアルミニウム合金製の母材41に侵入する腐食性ガスを確実に遮断できるため、前述した実施形態の作用効果に加え、表面処理層42に更なる高度な耐食性を持たせることができるという利点がある。」

そして、図4の説明は、【0053】ないし【0055】に記載されている。

上記の各記載中の、ニッケル合金層の成分については、以下の点が記載されている。
【0033】には、「ニッケル合金層43の表面には、酸化剤を反応させて表面のニッケルを強制的に酸化させたニッケル酸化物44が生成されている。」と記載され、

【0053】には、「ニッケル合金層43を積層構造としたことである。この表面処理層421は、アルミニウム合金製の母材41の上に、ニッケルをコーティングした下地ニッケル合金層431と、下地ニッケル合金層431の上に同じくニッケルをコーティングした上地ニッケル合金層432が設けられ、さらに上地ニッケル合金層432の表面にニッケルを酸化させたニッケル酸化物44が形成された構造になっている。」と記載され、さらに、
【0054】には、「同種のニッケルによる二層ニッケルや三層ニッケルめっきだけでなく、ニッケルと異種金属との合金めっきを使用でき、これらを任意に組み合わせることも可能である。ニッケルと異種金属との合金の例としてはニッケル-りん合金やニッケル-ボロン合金が挙げられる。」と記載されている。

特に、【0054】の、「同種のニッケルによる二層ニッケルや三層ニッケルめっきだけでなく、ニッケルと異種金属との合金めっきを使用でき、これらを任意に組み合わせることも可能である。ニッケルと異種金属との合金の例としてはニッケル-りん合金やニッケル-ボロン合金が挙げられる。」なる記載からみて、ニッケル合金層の成分として、「ニッケルめっきだけでなく、ニッケルと異種金属との合金めっきを使用でき、これらを任意に組み合わせることも可能である」と記載されているように、「任意に組み合わせる」ことからみて、ニッケル合金層の成分が上の層と下の層とで異なることは記載されていると解されるが、あくまで、「任意に組み合わせる」のであり、「酸化のされやすさ」に応じて組み合わせることを意味する記載ではない。さらに、請求人が根拠であると主張する上記の【0033】、【0053】、【0054】、【0055】、図4を精査しても、「酸化のされやすさ」に応じて組み合わせることは記載されていないし、示唆する記載もないといえる。
一方、出願当初の明細書の【0003】には、「ニッケル合金等の耐食性に優れた金属」と記載されており、同書の【0016】には、「ニッケルを強制的に酸化・・・ニッケルは酸化しにくい金属である」と記載されているように、ニッケルは耐食性に優れるが、酸化されにくいことから、強い酸で強制的に酸化することを想定していることが出願当初の明細書には記載されている。そして、強い酸で酸化する場合のピンホールによる問題、ニッケル合金メッキが浸食されてしまう問題を解消するために2層とすることが出願当初の明細書の【0019】、及び、【0030】等に記載されているといえる。してみると、少なくとも、最上層のニッケル合金層の成分が、有効に酸化可能な成分からなるとの請求人の主張する点が出願当初の明細書には記載されているとはいえない。

以上のとおりであるので、発明を特定するために必要な事項である「二層以上のニッケル合金層」に関し、「二層以上のニッケル合金層のうち、最上層のニッケル合金層の成分は、最下層のニッケル合金層の成分より酸化されやすい成分であり」と特定することが、当業者に自明であるとも、当初明細書等に記載されていたに等しい事項であるともいえず、さらに、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるともいえない。

したがって、上記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しないものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月9日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「ポンプケース内で回転可能に支持されたロータの回転運動により、真空チャンバ内のガス分子を吸引して排気する真空ポンプであって、
少なくともポンプの流路を構成する部品の表面に表面処理層が設けられ、
前記表面処理層は、めっき処理を複数回に分けて成膜してなる二層以上のニッケル合金層から構成されており、
少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異なり、
最上層のニッケル合金層の表層にニッケル酸化物が生成されており、
前記ニッケル酸化物は、前記最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより、前記最上層のニッケル合金層を構成するニッケル金属に生成されている
ことを特徴とする真空ポンプ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-205181号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体製造等の薄膜工業分野等に広く利用されている工業用真空装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体製造装置等の成膜反応室(チャンバ)内の排気を行うのに各種の分子ポンプが利用されており、分子ポンプとして、ターボ分子ポンプ、ねじ溝分子ポンプ、及びこれらが複合した複合分子ポンプ等が知られている。いずれも主要な構成は共通であり、即ち、一端部に吸気口を有し他端部に排気口を有するケーシングと、ケーシング内部に固設されるステータと、同ケーシング内部で高速回転可能に構成されるロータとからなり、該ロータの高速回転によりポンプ作用を営み、吸気口に接続される成膜反応室内の排気を行う。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年よく用いられるCVD(Chemical Vapor Deposition)やRIE(反応性イオンエッチング装置)の工程にはHF、HCl等の腐食性の強いプロセスガスが用いられ、またAlCl3等の腐食性の反応生成物が真空ポンプ内にも吸引されポンプ内を急激に腐食してしまうという深刻な問題が生じるようになってきた。特に、真空ポンプのロータは、その軽量化と加工性及び比強度の優位性の見地からアルミニウム合金がその素材として用いられることが多いため、腐食はより深刻な問題であった。
【0004】構成部品の腐食を阻止するために、従来からNiメッキ等様々な工夫もなされてきた。また、分子ポンプの別の重要課題であるところのロータ等の温度上昇を抑制するための熱放散性と耐腐食性の双方を実現するものとしてセラミックコーティングを施すものも見られた。例えば、アルミニウム合金の表面のアルマイト処理や電析処理等である。しかし、こうした処理表面には必ず細孔が形成されており、腐食性のClイオン等はこのメッキ表面の細孔から侵入し、アルミニウム素地を腐食してしまう可能性があった。また、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂でコーティングを施した場合は、処理表面からの放出ガスが多く、真空ポンプの表面処理法としては適したものとは言えなかった。
【0005】本発明は、これらの問題点を解決し、ロータ等の真空ポンプの構成部品に対し、熱放散性、耐腐食性を向上させ、且つターボ分子ポンプのロータ等の様な複雑な形状の部品にも処理が可能な被膜を施した真空ポンプを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記問題を解決するため、本発明に係る真空ポンプは、一方の端部に吸気口を有すると共に他方の端部に排気口を有するケーシングと、該ケーシング内に固設されるステータと、同ケーシング内に回転可能に構成されるロータとを備え、該ロータの回転によりポンプ作用を営む真空ポンプであって、少なくともロータには、ロータの基材表面に直接被覆される金属メッキ層と、該金属メッキ層の上に更設される、セラミックス粒子を分散含有するセラミックス分散金属メッキ層との少なくとも2層以上からなる被膜処理を施し、且つ該セラミックス分散金属メッキ層の膜厚が、分散されるセラミックス粒子の平均粒子径Xに対して約0.9?2.0Xとなるようにしたことを特徴としている。
【0007】金属メッキ層としては例えばNi-P等の耐食性の高いNi系金属メッキ層が望ましい。また、金属メッキ層に分散させるセラミックス粒子としては、例えばAl2O3などの酸化物セラミックスやAlNなどの窒化物セラミックス、SiCなどの炭化物セラミックス、或いはこれらの混合物などが使用される。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る真空ポンプの一実施例を図を用いて説明する。
【0009】図1は本発明をターボ分子ポンプに採用した一実施例である。図はターボ分子ポンプAの内部構造を示したものであり、ステータ2と、筒状のケーシング10と、このケーシング10を支持するベースフレーム11と、ケーシング10内にあってベースフレーム11に固設されたモータハウジング12と、このモータハウジング12とベースフレーム11とにそれぞれ配設され対をなす軸受13により両軸端部近傍を支承されたシャフト14と、このシャフト14に一体回転可能に固着され内周にモータハウジング12を収容してなるロータ1とを具備してなる。
【0010】ロータ1は、ロータ本体16と、このロータ本体16の外周面から突設した複数のロータ翼15とを具備するものである。また、ステータ2は複数の積層可能な円環状の分割体21とその内周面から突設した複数のステータ翼22とを具備するものである。そしてこのロータ翼15とステータ翼22とは交互に配置されており、吸気口17から吸い込んだ気体をロータ15とステータ翼22との相互作用によって図の下方向へ送り飛ばし、ベースフレーム11に設けた排気口18から強制排気し得るように構成している。
【0011】かかる構成のターボ分子ポンプAにおいて、本実施例のロータ1およびステータ2は、図2にその一部断面を模式的に示すように、アルミニウム合金製の基材3の表面を金属メッキ層4で被覆している。本実施例では、この金属メッキ層4を、アルミニウム合金よりも耐腐食性、熱放射性に優れたNi、或いはNi-Pで構成している。Cr系金属の使用も可能であるが、耐食性の面でNi系の方が優れている。また、メッキ方法としては電解メッキ、無電解メッキのいずれでも構わないが、膜の均一性面で無電解メッキが望ましい。膜厚は耐食性、熱放射性の効果を発揮できる3?20μmの任意の膜厚としている。
【0012】そして、さらにこの金属メッキ層4の表面に、金属41中にセラミックス粒子42を分散させたセラミックス分散金属メッキ層40を被覆させている。本実施例では、分散メッキ層40を構成する金属41をNi或いはNi-Pで構成している。これらの材質は前述したように耐腐食性、熱放射性に優れ、また金属メッキ層4を良好に被覆し剥離し難いという利点がある。また、分散させるセラミックス粒子42としては例えばAl2O3を用いている。Al2O3などの酸化物セラミックスの他にもAlNなどの窒化物セラミックス、SiCなどの炭化物セラミックス、或いはこれらの混合物などが利用できるが、Al2O3は耐食性が高く、CVD等に用いられるHF、HCl等の腐食ガスに侵されない上、熱放射性にも優れているので最も望ましい材質と言える。
【0013】
【実施例】次に本発明に係る真空ポンプのロータへの被膜処理について詳述する。
【0014】先ず、アルミニウム合金製のロータをアルカリで脱脂洗浄した後、フッ硝酸で酸洗浄する。この酸洗浄によりメッキ膜の密着性をより良好なものとすることができる。その後、ロータを亜鉛置換処理し、公知の手法により膜厚10μmの無電解Ni-Pメッキ処理を行った。さらにロータに活性処理を行い、Al2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキを行った。この際、メッキ液は常時攪拌し、Al2O3粒子の沈殿と不均一を防止する。Al2O3粒子には4.7μmのものを用いたため、分散メッキの膜厚を5μmとした。その後、ロータを水洗し、ブロアで乾燥させ、目的とする2層被膜を得た。ステータ等、ロータ以外の部材に処理する場合も同様の処理を行う。
【0015】このような被覆処理により得られたメッキ層は図3に示す構成となっている。アルミニウム合金製のロータ基材3の表面にNi-Pメッキ層4が形成され、さらにその表面に金属41中にセラミックス粒子42を分散させたセラミックス分散金属メッキ層40が形成されている。本願発明者らは鋭意研究の結果、このときのセラミックス粒子42の平均粒子径Xと分散メッキ層40の膜厚との最適な関係を導き出すに至った。即ち、分散金属メッキ層40の膜厚を、その中に分散させるセラミックス粒子42の平均粒子径Xに対して約0.9?2.0Xとなるように調整すれば良好な被膜性能を発揮できることを次の試験データから解明した。」

・「【0019】以上の実験結果から、セラミックス分散金属メッキ層40の膜厚Yを分散粒子の平均粒子径Xに対して約0.9?2.0Xとなる範囲が最も良好な熱放射率を得られることが判明した。膜厚Yがこの範囲以下になると、分散しているセラミックス粒子が脱離しやすく、また、排気初期の空気摩擦によるロータ、ステータ等の過熱が生じやすくなってしまう。逆に、膜厚Yがこの範囲以上になると、セラミックス粒子の高い熱放射性や耐食性を有効に活かせきれず、その被覆効果が十分発揮できない。」

・「【0024】金属メッキ層4もNi、Ni-P、或いはCr系金属等、任意の選択が可能である。また、メッキ方法も無電解メッキに限らず、電解メッキ等、他のメッキ処理方法を採用しても構わない。
【0025】分散メッキ層40中に分散させるセラミックス粒子42の種類もAl2O3に限らず、Al2O3などの酸化物セラミックスの他にもAlNなどの窒化物セラミックス、SiCなどの炭化物セラミックス、或いはこれらの混合物などが任意に選択され、利用可能である。分散メッキの母材となる金属41もNiに限定されるものではなく、金属メッキ層4同様種々の選択が可能であるが、金属メッキ層4と金属41とに同じ金属種を選択することにより、両層の密着性が良く熱膨張等でも剥離し難い重層が得られる。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る真空ポンプによれば、ポンプの基材表面を耐食性に優れた金属メッキ層及びセラミックス分散金属メッキ層との少なくとも2層以上からなる被膜処理を施すようにしたので、HF、HCl等の腐食性の強いプロセスガスの真空引きにも十分使用可能なものとすることができた。
【0027】更に、セラミックス分散金属メッキ層の膜厚を分散されるセラミックス粒子径の平均粒子径Xに対して約0.9?2.0Xとなるように構成したことにより、セラミックス粒子がNiやNi-Pメッキ表面に形成される細孔を塞ぎ、細孔から基材に向けて進行する侵食がポンプ基材にまで到達することを防止し、耐食性金属と共働して高い耐食性を発揮することができる。また、セラミックス自身の高い熱放射性を有効に発揮させると同時に該セラミックス粒子が被膜表面から欠落することなく良好に保持することができる。」

・図1には、シャフト14と一体回転するロータ翼15とステータ翼22とをケーシング10内に共に設ける点が示されている。また、図2には、アルミニウム合金製のロータ基材3の表面に下層であるNi-Pメッキ層4が形成され、さらにその表面の最上層に金属41中にセラミックス粒子(Al2O3)42を分散させた分散Ni-Pメッキ層40が形成されている態様が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「吸気口17から吸い込んだ気体を、ケーシング10内に共に設けられた、シャフト14と一体回転するロータ翼15とステータ翼22との相互作用によって送り飛ばし、ベースフレーム11に設けた排気口18から強制排気する真空ポンプであって、
ロータ翼15とステータ翼22の表面にアルミニウム合金よりも耐食性、熱放射性に優れた2層被膜が設けられ、
前記2層被膜は、Ni-Pを含むめっき処理を2回に分けて成膜してなる2層被膜から構成されており、
無電解Ni-Pメッキ層4と、耐食性と熱放射性に優れたAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40とからなり、
最上層にAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキが被膜処理されており、
前記Al2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40は、無電解Ni-Pメッキ処理を行って下層である無電解Ni-Pメッキ層4を生成し、さらにロータに活性処理を行い、Al2O3粒子を分散含有する最上層の分散Ni-Pメッキを行って被膜処理されている
真空ポンプ。」

(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

ここで、本願発明の「ニッケル酸化物は、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより、前記最上層のニッケル合金層を構成するニッケル金属に生成されている」との特定は、「真空ポンプ」という装置の発明において、ニッケル合金層の生成方法を特定しているものといえ、特に、「最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて」、「前記最上層のニッケル合金層を構成」との記載は、「最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて」、ニッケル酸化物が「最上層のニッケル合金層」の表層に構成されていることを実質的に特定しているものと解することが自然であるといえる。
以下の検討では、この点を踏まえて検討する。

(ア)後者の「吸気口17から吸い込んだ気体を、ケーシング10内に共に設けられた、シャフト14と一体回転するロータ翼15とステータ翼22との相互作用によって送り飛ばし、ベースフレーム11に設けた排気口18から強制排気する真空ポンプ」が前者の「ポンプケース内で回転可能に支持されたロータの回転運動により、真空チャンバ内のガス分子を吸引して排気する真空ポンプ」に相当する。

(イ)後者の「ロータ翼15とステータ翼22」が前者の「少なくともポンプの流路を構成する部品」に相当し、同様に、
「アルミニウム合金よりも耐食性、熱放射性に優れた2層被膜」が「表面処理層」に相当する。

(ウ)本願の出願当初の明細書の【0053】には、「このような耐食性と放熱性の双方に優れた表面処理層42の他の形態として、図4に示した構造を採用することもできる。同図に示した表面処理層421が図2の表面処理層42と異なる点は、ニッケル合金層43を積層構造としたことである。この表面処理層421は、アルミニウム合金製の母材41の上に、ニッケルをコーティングした下地ニッケル合金層431と、下地ニッケル合金層431の上に同じくニッケルをコーティングした上地ニッケル合金層432が設けられ、さらに上地ニッケル合金層432の表面にニッケルを酸化させたニッケル酸化物44が形成された構造になっている」と記載され、同書の【0054】の「下地ニッケル合金層431と上地ニッケル合金層432の二層のニッケル合金層を形成するために、前述した無電解ニッケルめっきの工程を二度に分けて成膜している。積層構造は二層に限らず三層以上であっても良く、同種のニッケルによる二層ニッケルや三層ニッケルめっきだけでなく、ニッケルと異種金属との合金めっきを使用でき、これらを任意に組み合わせることも可能である。ニッケルと異種金属との合金の例としてはニッケル-りん合金やニッケル-ボロン合金が挙げられる」からみて、後者の「Ni-Pを含むめっき処理を2回に分けて成膜してなる2層被膜」が前者の「めっき処理を複数回に分けて成膜してなる二層以上のニッケル合金層」に相当することは明らかであることから、
後者の「2層被膜は、Ni-Pを含むめっき処理を2回に分けて成膜してなる2層被膜から構成され」る態様が前者の「表面処理層は、めっき処理を複数回に分けて成膜してなる二層以上のニッケル合金層から構成され」る態様に相当する。

(エ)後者の「無電解Ni-Pメッキ層4と、耐食性と熱放射性に優れたAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40」は、層の成分に「熱放射性に優れたAl2O3粒子を分散含有する」点において、前者と同様に、「少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異な」っているといえる。
後者の「Al2O3粒子」は、酸化物セラミックス、あるいは酸化アルミニウムとも呼ばれるように、酸化物であることは明らかであり(必要があれば、特開2004-6770号公報の【請求項10】を参照されたい。)、引用例の【0012】に、「Al2O3などの酸化物セラミックスの他にもAlNなどの窒化物セラミックス、SiCなどの炭化物セラミックス、或いはこれらの混合物などが利用できるが、Al2O3は耐食性が高く、CVD等に用いられるHF、HCl等の腐食ガスに侵されない上、熱放射性にも優れているので最も望ましい材質と言える」と記載されているように、熱放射性に優れていることが技術常識であることから、
後者の「無電解Ni-Pメッキ層4と、Al2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40とからなり」が前者の「少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異なり」に相当し、後者の「無電解Ni-Pメッキ層4と、耐食性と熱放射性に優れたAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40とからなり、最上層にAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキが被膜処理されており、Al2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ層40は、無電解Ni-Pメッキ処理を行って下層である無電解Ni-Pメッキ層4を生成し、さらにロータに活性処理を行い、Al2O3粒子を分散含有する最上層の分散Ni-Pメッキを行って被膜処理されている」態様と、
前者の「少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異なり、最上層のニッケル合金層の表層にニッケル酸化物が生成されており、前記ニッケル酸化物は、前記最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより、前記最上層のニッケル合金層を構成するニッケル金属に生成されている」態様とは、
「少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異なり、最上層のニッケル合金層に耐食性と熱放射性に優れた酸化物が含まれている」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「ポンプケース内で回転可能に支持されたロータの回転運動により、真空チャンバ内のガス分子を吸引して排気する真空ポンプであって、
少なくともポンプの流路を構成する部品の表面に表面処理層が設けられ、
前記表面処理層は、めっき処理を複数回に分けて成膜してなる二層以上のニッケル合金層から構成されており、
少なくとも一つのニッケル合金層の成分が他のニッケル合金層の成分と異なり、
最上層のニッケル合金層に耐食性と熱放射性に優れた酸化物が含まれている、
真空ポンプ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
熱放射性に優れた酸化物を最上層のニッケル合金層に生成する手段に関し、本願発明では「最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより」、最上層のニッケル合金層「の表層にニッケル酸化物」が生成されるのに対し、引用発明では、最上層にAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキが被膜処理されており、「最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより」、最上層のニッケル合金層「の表層にニッケル酸化物」が生成されるものではない点。

(3)判断
上記[相違点]について以下検討する。
本願発明において、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させることにより、最上層のニッケル合金層の表層にニッケル酸化物が生成されていることによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0008】の「ここで放射率とは、ある物体における熱放射の輝度と同温度の黒体における熱放射の輝度との比率、換言すれば最も放射熱量が大きい黒体に対する物体の放射熱量の割合について黒体を1として表わしたものであり、物体が黒色に近づくほど放射率が高くなり、その表面から放射される熱量が増加する。つまり、腐食性ガスに対する耐食性を向上させるためにアルミニウム合金製のロータに例えばニッケル合金めっきを施すと、ロータ表面から放射される熱量が少なくなって固定側への輻射伝達が行われにくくなり、回転体を効率良く冷却することができなくなるという不具合が生じる。」なる記載、及び、【0016】の「ニッケル酸化物の生成方法としては、部品の表面に前述のめっき処理を施した後に、その表面に酸化剤を反応させてニッケル合金層の表面のニッケルを強制的に酸化させるものとする。すなわち、ニッケルは酸化しにくい金属であるから、熱放射性を有効に発揮させる程度に酸化させるためには、酸化剤を利用して酸化反応を促進させる必要がある。例えば、無電解ニッケルめっきを施した部品を硝酸やシュウ酸や硫酸などの薬液中に浸漬すれば良く、これによりニッケル合金層と薬液との境界面で酸化剤による侵食反応が強制的に進行し、ニッケル合金層を構成するニッケル結晶の一部が酸化して、その結果黒色に近いニッケル酸化物が析出される。」なる記載からみて、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとして、放射熱量を大きくするものと解することができる。その際、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする手段として、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させるものであるが、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする手段を最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させる手段に特定したことによる作用効果は出願当初の明細書には記載されていない。
これに対し、審査官は、平成22年5月10日付けの拒絶理由において、「真空ポンプにおいて部材表面を黒色とする技術思想は周知であり(必要であれば引用文献3(特開2001-193686号公報)参照。)、ニッケルメッキを黒色とする手段として酸化処理をする技術も、例えば引用文献4(特開平3-68785号公報)、5(特開2003-147549号公報)に示されたように周知であるので、引用文献1に示されたニッケル合金層を酸化処理することは、当業者にとって容易に想到できたものである。」と記載している。
上記の特開2001-193686号公報の【0008】には、「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、放熱性に優れた黒ニッケルメッキ(「ニッケル合金層」を「黒色に近いもの」とする点に相当)、黒クロムメッキの耐食性を向上させて、真空ポンプの基材表面に、耐食性及び放熱性(「放射熱量を大きくする」に相当)に優れたコーティング層(「最上層」の「表層」に相当)を形成した真空ポンプを提供することを目的とする。」と記載されているように、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとして、放射熱量を大きくする点は周知の技術にすぎない。
さらに、上記の特開平3-68785号公報の第3頁右上欄第1行から同頁同欄第17行には、「上記無電解めっきは、通常の条件下に行なわれる。例えば、65?80℃程度の温度下に行なわれ、15分?8時間程度で終了する。これにより、膜厚3?30μm程度のニッケル-リン合金めっき皮膜が形成される。この様にして形成されるニッケル-リン合金めっき皮膜を、第2鉄塩を含有する酸性溶液にて酸化処理する(「酸化剤を反応させて酸化させる」に相当)ことにより、本発明の黒色皮膜(「最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする」に相当)が得られる。第2鉄塩を含有する酸性溶液としては、適当な酸で酸性化した溶液に第2鉄塩を添加したものが使用できる。第2鉄塩溶液が酸性であれば、そのまま使用できる。また第2鉄塩溶液が中性又はアルカリ性の場合には、酸性にするために酸を加えればよい。核酸としてはいかなる酸でもよく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸、カルボン酸、スルホン酸などの有機酸を挙げることができる。」と記載されており、上記の特開2003-147549号公報の【0010】には、「従来技術の抱える上記問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般的に耐熱性と経時安定性に優れる金属ニッケルおよびその表面に形成されたニッケル酸化物(「最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする」に相当。なお、ニッケル酸化物が黒色である点は技術常識であるといえる。)に注目し、それらに第3の元素を導入することにより樹脂との接着性にきわめて優れる新たなニッケル系表面処理皮膜を発明するに至った。」と記載され、さらに、【0030】には、「対象素材に所定のニッケルめっき層を形成した後に、表面に柱状組織層を形成させる。それには、適当な酸化剤を含有した酸に接触させて処理する(「酸化剤を反応させて酸化させる」に相当)のが効果的である。具体的には、リン酸、硫酸、または塩酸をベースとして、これに硝酸、過マンガン酸、第二鉄イオンまたは過酸化水素などの酸化剤を必要量添加すればよい。」と記載されているように、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする手段として、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させる点は常套手段にすぎない。
そうすると、「熱放射性に優れたAl2O3粒子を分散含有する分散Ni-Pメッキ」を最上層に設けたものである引用発明において、さらに熱放射性を向上させることは当業者が当然に考える課題である。そして、その際、ニッケル合金層の素材の中から熱放射性が向上できる素材を選択することを種々試行するものであるが、上記のように、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとして、放射熱量を大きくする点は周知の技術であることから、引用発明の最上層を黒色に近いものとして、放射熱量を大きくすることが当業者にとって容易に想到するものであると認められる。
また、平成22年7月9日付けの意見書の第2頁において「ア」ないし(エ)において主張する点は、「ア」、「イ」、及び、「エ」の「耐食性」、「放熱性」、及び、「密着強度」は、引用例の【0012】に、「耐腐食性」、「熱放射性」、及び、「剥離しがたい」なる用語で記載され、「ウ」の「ピンホール」については、引用例の【0027】に記載されているようにそれぞれ引用例に引用発明も有する効果として記載されていることから、ニッケル酸化膜をどのような手段で生成するのかは、周知の手段であれば、どの手段を選択するのかは任意であるといえる。そして、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとする手段として、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させる点は常套手段にすぎないことから、最上層のニッケル合金層の表層を黒色に近いものとするための手段として、最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させた点は、設計事項にすぎないものと認められる。
現に、平成23年10月14日付けで当審より請求人に送付したファックスに示した特開2003-342752号公報の【0002】には、「プロセスの真空下、減圧下で使用する機材表面、例えば配管、ポンプインペラ・ロータ、バルブ類、プロセスチャンバなどの接液・接ガス部の表面はプロセス中のこれら腐食性物質のため、およびプロセスの中断若しくは終了時における大気開放時の空気中の水分による腐食促進効果にも助長されて、著しい腐食雰囲気下に曝される。」とあるように「ポンプの流路を構成する部品の表面に表面処理層が設けられ」る点が記載され、【0030】に「最外層にNiOxとして成膜し」とあるようにニッケル酸化物を最上層に設ける点が記載され、これにより、【0012】に記載されているように、「最外層であるニッケルあるいはニッケル酸化物層は、特に説明の必要のない周知の材質であるが、本発明の目的である耐熱耐蝕を同時に適えられる最外層成分として重要な選択である。」と記載されているように、ニッケル酸化物層が耐食性と放熱性とを兼ね備えた材料であることが周知である点が記載されている。さらに、【0025】には、「(実施例2)図2は本発明の実施例2における真空用耐熱耐蝕コーティング部材の断面図である。本例では基材1の表面に予め0.1?1000μmの凹凸を付けておき、該凹凸面にミキシング層2を実施例1と同様な方法で形成し、更にその外側に薄膜3としてアモルファスカーボン膜を成膜する。基材面の凹凸付与は、サンドブラスト、エッチング、蒸着、レーザーアブレーション、熱処理、酸化など、通常の方法で行うことができる。本例によりカーボン膜の放射率をより高めることが可能である。」と記載されているように、本願発明の構成には特定されていないが、本願の図3に示されるような浸食を酸化と同時に行う点、及び、「真空用耐熱耐蝕コーティング部材」に凹凸面を形成するために「酸化」させる点が記載されており、引用発明において、上記の常套手段を踏まえて、上記の周知の技術を適用することが困難であるとは認められない。
そうすると、引用発明において、上記の常套手段を踏まえて、上記の周知の技術を適用することにより、相違点に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

なお、審査官は、平成22年7月9日付けの手続補正書を却下していないが、平成21年11月13日付けの手続補正書に記載された請求項1と平成22年7月9日付けの手続補正書に記載された請求項1とを比較すると、後者においては「最上層のニッケル合金層の表面に酸化剤を反応させて酸化させる」点を特定している点で実質的に相違するのみであり、この点は本願発明の特徴点であることが明らかであるので、審査官が却下しなくても請求人に不利益があるとは認められない。現に、請求人が平成23年10月6日付けの回答書の第5頁以降、及び平成23年12月19日付けのファックスにより提示している補正案においても、上記の点は構成として特定していることと整合するものである。(なお、審査官の査定が維持されるかぎりにおいては、再度の拒絶理由を通知しないことは、当審からの平成23年11月14日付けのファックスの第1頁に記載したとおりです。)

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知の技術、上記技術常識、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

よって、本願発明は、引用発明、上記周知の技術、上記技術常識、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-07 
結審通知日 2012-03-08 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2004-139331(P2004-139331)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
P 1 8・ 561- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 大河原 裕
槙原 進
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 和田 成則  

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